We are born, so to speak, twice over; born into existence, and born into life.   作:Towelie

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 がたん、ごとん。

 予定通りなのかどうかは知らないが、焦った感じの無いちょうど良いスピードで列車は運行していた。

 線路の繋ぎ目を渡る音に合わせてがたりと車体が揺れる。
 二人のか細い身体もその振動に合わせて揺れていた。

 奇妙な世界を渡る列車は青いドアの家を通り過ぎて、白いプラットフォームのその先。
 もう見知らぬ場所まで走行していた。

 湖のような水溜まりが両脇に広がってその上を列車が走っている。

 それぐらい車窓からの世界は青一色で染まっていた。

 実際は、線路に水がかからないぐらいぎりぎりのところを走っていたようだった。

 まるで水のほうから避けてくれている。
 そんな風に思えるほどに。

 ただ、水溜まりというにはあまりにも大きすぎて、全てを視界に収めることが出来ない。

 列車の窓からは大海原が広がっている。
 そう言われてもそんなに大げさではないだろう。

 窓の外のどこに視線を向けても水溜まりがパノラマのように映り込んでいたから。

 あまりにも神秘的で幻想的な景色なのだけれど、ずっと同じ景色が続くから、ひょっとするとこの列車が動いていないのではないかと錯覚を覚えるほどだった。

 でももし、この車両でひとりきりだったらきっと景色は見えていないだろうと思う。

 変わらないことを望んでいるわけではなかったし、そんなことをしてももう無意味だと思ってたから。

(でも、今は……)

 蛍はちらりと首を向けて横を見た。

「どうしたの、蛍ちゃん。まるで幽霊でも見たような顔してるよ」

 ちょっと茶化すように笑う燐に、蛍もくすりと微笑んだ。

「燐がそれ言っちゃう? わたしの方がよっぽど幽霊に見えるんじゃない。クラス変わっても相変わらず存在感ないから」

 全部分かっているのかそうではないのか、その顔からは何も読み取れないが。

「わたしとクラス別れて寂しいんでしょ? 理数系は授業が多いし真面目な人が多いから」

「もう、寂しいのは燐の方でしょ。休憩時間の度にしょっちゅう来るからもうみんなに覚えられちゃってるし」

「にゃはは、いやぁ、蛍ちゃん寂しくて泣いてないかなってつい」

「もう、そんな四六時中一緒にいるわけでもないし。それにわたし、そこまで……」

 と、話の途中で蛍が口をつぐんでしまった。

「蛍ちゃん、どうかした?」

「えっと」

 口ごもる蛍に燐は小首をかしげた。

「その、毎回来られると流石にアレだから」

「はいはい、でもスマホでやり取りするぐらいならいいでしょ」

「まあ、それぐらいなら」

 それだって燐とは毎日のようにやってるけど。

 ため息をつく蛍。

(でも、燐がいないと寂しそうにみえるのかな……わたし)

 自覚はないけど。

 正直、まだ引きずってる部分はあると思う、とてもショックな事だったし。
 
 教室であろうとこの夢のような世界だろうと。
 長くとも短くともきっと同じなんだと思う。

 寂しいのはきっとそういう事。

 ぴったりじゃない、多分完全に重なることはないだろうけど、それでもちょっとだけ同じ想いがあったから。

 多分それだけで。

 今がふたり一緒なら。
 これが全て夢でも。

 よかったんだ。

「ねぇ、燐。ずっとずっと、このままだったら、どうする」

 どこか遠くを見るように目を細めた蛍がそう聞いてきたので、燐は一瞬迷った後、それでもいいね、と当たり前みたいに答えた。

「そうだよね。燐ならどこだっていいよね」

 燐がそう答えるのが分かっていたみたいに、蛍もさも当然のように答えた。

 わざわざ尋ねる必要もなんてなく、二人の本心からなんだろうけど。
 それでもそう聞いてもらえることが嬉しかった。

 燐も蛍も。

 いつもと変わらない友達だったから。

 多分何かもっと深い思いがあったんだろうけど

 例え行き先が一方通行だったとしても。
 変わらない、ずっと友達のままだったから。

 だから蛍も燐もずっと笑顔のままだった。

 きっと何があっても最後はそうだと思った、それはふたりとも。


 この時までは。

 ……
 ……
 ……

 かんかんかんかん。

 不意に、静謐な車内におおよそ似つかわしくない警報音が鳴り響き、耳元から脳髄まで電流が走ったみたいに蛍はびくっと身を震わせていた。

 線路の周りは一面の水溜まりのはずなのに、何故踏切の警報音がするのか。

 疑問に思った蛍は窓へとかじりつく。

「あ……」

 それは余りにも一瞬に過ぎていってしまったけど、確かに踏切が、よく知る黄色と黒の遮断機と共に赤い目を点滅をぱかぱかさせながら景色の外へと流れていくのが見えた。

 当然、辺りには道らしきものはなく、波紋を湛えた水たまりが漠然と広がってるだけ。
 
 蛍が見たところ、踏切の前には人影はなく、ただ無意味に遮断機が下りているだけのようだった。

 そもそも道が無いのだから、踏切を待つ人がいないのは当然なんだろうけど。

 瞬間的に逆方向の窓も見てみたが、鏡合わせみたいに全くそっくり同じように無人の遮断機と殺風景な単一の景色が広がっているだけ。

 やはり蛍と燐、ふたり以外の人影はいなかった。

「何のための踏切だったんだろうね。そこを船が通過するわけでもないし」

 燐も見ていたのだろう、蛍の直ぐ隣で不思議そうに眺めていた。

「さすがに船はないよ~。むしろこっちが止まることになっちゃうから意味なんて最初からないと思う」

 蛍の言うように確かに意味などない。

 でも、その世界から切り払われたみたいにぽつんと忘れ去れた情景に既視感のような感覚を覚えたのは確かだった。

 その証拠に蛍は心の奥底に棘が刺さったような、胸のつまる思いをした。

(あの踏切どこかで見たことがあるみたい……でも、どこで?) 

 それはいつのものなのか、まだ正体ははっきりとしなかったが、そんな雲を掴むような想いに今、囚われる必要はないだろうと、蛍はそれ以上自身の胸の内を追求することはしなかった。

 その代わりと言ってはなんだが、蛍は軽く深呼吸をしてそっと胸に手を当ててみた。

 急なことが立て続けにあり過ぎてしまったせいなのか、一定以上に高鳴り続けていた動機がちょっとだけ落ち着いたような気がした。

「何かさ、蛍ちゃんと一緒に電車に乗っていると普通に学校行って時みたいだよね。こうして制服も着てるしさ」

 燐はそう言ってスカートの端をひらっと持ち上げていた。

 大分はしたない行為だと思うが、この車両には蛍の他に誰も乗っていないから特に問題はないと思うが。

「燐は、ちょっと無防備な気がする。危機管理が足りないっていうか、燐はいつもしっかりしてるのに……」

 蛍は前に燐がした行為を思い出していた。

(クリスマスの時だって、燐は自分でパンツ見せてたよね。まあ、酔っぱらってたせいだとは思うけど)

 本人はもう忘れてしまったのかもしれないが、蛍はその事を未だはっきりと覚えているから、余計とは思ってもつい口を出してしまった。

 元はと言えば蛍が買ってきた少量とはいえブランデー入りのケーキのせいだったし。

「え、そぉかなぁ? わたし、自分では結構気を遣ってるって、思ってるんだけどぉ。匂いとか髪型とか」

 やはり自覚は無いようだった。
 蛍は大きくため息をつく。

 その燐もわけが分からない顔をしているが、そのにはさっきからずっとスカートをひらひらとさせている。

 別に誘惑しているとかそういう事ではないと思うが。

「でもさ、蛍ちゃんの方がよっぽど危ういんじゃないかな。わたしなんかよりも全然プロポーションいいのに、割と無自覚なんだよねぇ」

「そうかなぁ、だって燐とスカートの長さ同じだよ。でもわたしはストッキングしてるから大分マシだと思うけど」

 燐の言葉に触発されたのか、蛍も座ったままおずおずとスカートの端を両手で持ち上げていた。

 黒いストッキングに包まれた肉感の良い蛍の太ももが艶めかしい光沢を纏っている。

「あのね、蛍ちゃん。ストッキング履いてたほうが、何かエロく見えるんだって。男の人ってそういうものらしいんだよぉ」

 誰も聞いているものなど居ないのに、燐は蛍の耳元でこそっと話しかけた。

「本当? もしかして燐もわたしの事そんな目で見てる?」

 蛍は上目づかいで尋ねる。
 耳は、とても赤くなっていた。

「いやいや、わたしは女だし流石に……あ、でも制服姿の蛍ちゃんには黒が似合うなーって思ってるよ。私服も可愛いなぁって思ってるけどね」

「もう、燐は何でもいいんじゃない」

 やや呆れたような目線を送る。
 けれど蛍はほっとしていた。

 男性目線などではない、燐の客観的な意見が聞けたことに。

「でもさ、こうして二人で電車に乗ってるのってなんか不思議な感じね。わたしは乗れなかったし、蛍ちゃんだって結局ああなったわけでしょ。それなのに一緒に乗ってるなんて……なんかちょっとだけ運命っぽいの感じるかも」

 眩しく笑う燐に蛍はなぜか直視ができず、俯いたまま言葉をつくった。

「確かに、そうだよね。あの時のわたしは目の前が真っ暗になった気がしたもん。燐を置いて行ってしまったって……」

 ほんの数か月前のことなのに、もうすごく昔のことのように感じる。
 生まれ住んだ町で異変が起きたことも、自分が座敷童であったことも。

 多分それは、色々と理解を越えた事ばかりが目まぐる起きたことが原因だろうとおもう。

 それは蛍だけでなく燐も同じで。

 町の異変とは何の関係もないと燐は思われていたのに、何の偶然からか渦中の中心人物になってしまった。

 その結果、燐の大切な人だけではなく、燐自身も……。

 けれどそれは、何か得体のしれない焦燥感に駆られていただけではないとは思う。

 異変の後の事もそうだし、何かにつけて時間には追われていたから。

「まあでも、今はふたり一緒に学校近くのマンションに住んでるんだから、先がどうなるかなんて本当に分からないもんだよね」

「それはそうだよね。わたしだってこうなるなんて思ってもなかったし」

「でも、学校まで近すぎるから歩いて行っても直ぐ着いちゃうよねぇ。何だか呆気なさすぎるぐらいに」

 その分燐は、誰よりも早く来てホッケー部の朝練をしたり、予定の無い日はジョギングしたりと空き時間を利用した所謂、朝活を取り入れていた。

 対する蛍は。

「わたし、いつもぎりぎりなんだけど」

 蛍はその分を睡眠に割り当てていた。

 なぜか他人事のように話す蛍に燐は肩をすくめて苦笑いする。

「それは蛍ちゃんがいっつも時間ぎりぎりまで寝てるからっ。考えてみたら、まともに一緒に登校したことって殆どないよね」

 数える程度だった気がする。

「それはまあ、仕方がないよ。わたしの場合寝るのが義務みたいなものだから」

「まったくぅ」

 蛍の言葉に燐はぷぅと頬を膨らませた。

「でも、おかげで燐とマンションで同居してることがバレないからいいんじゃない?」

 今度は何やら言い訳じみたことを蛍は言いだした。

 燐はちょっと意外そうに、でも、ため息交じりな口を開けた。

「あれ? もうみんなには言ってなかったっけ? わたしのクラスの殆どは知ってたと思うけど」

 燐の記憶だとマンションに引っ越す前からクラスメイトやホッケー部の部員に言ってた気がする。

 色々とあらぬ噂も立ったが概ねその通りだったので特に気にしてはいない。

 むしろ新築のマンションだったので羨ましがられたほどだった。

「そうだったっけ……? わたしは、バレてないと思う。まぁ、今更だしもうどうでもいいか」

 バレたって別に悪い気はしないし。

「うんうん、問題ないない。結婚式はいつとかー、未だにからかわれたりもするけどねぇ」

 その事を言ってくるのは燐の母の咲良だったり、蛍の元家政婦の吉村さん等のもっぱら高齢の女性(こういうと母に怒られてしまう)なんだけど。

 その割には燐は怒ったような素振りは見せていない。
 むしろちょっと嬉しそうに見えた。

 蛍も何とも言葉を返せずもじもじと膝を擦り合わせるだけ。

 ふたりのその仕草だけで、周囲の人は大体の事を察することができていた。
 
 それにしても、こうして二人で他愛もないことを話していると本当に通学していた時と変わらないような気になってくる。

 ただ他の乗客や運転手などがいないというだけで。

「ねぇ、燐。この電車の行き先ってどこだと思う」

 踏切が消えた方に目を向けながら、独り言のように蛍がつぶやいた。

 何となく物悲しいような、切なそうに見せる蛍の仕草は、少女の体を普段よりも小さく華奢に見せていた。

「死者の国、とか……? ”銀河鉄道の夜”だとそんな感じだったよね」

「乗客の中にタイタニック号に乗ってた人がいたんだったよね、確か」

 童話中には明確に書いてはいなかったが、解説本などにはそう書かれていることが多かった。

 二人ともその事を知っているせいか、前に切符の事を話した時も出てくるのはこの童話がらみの事だったから。

「でもそれなら、願ったり叶ったりって感じかな。こうしている事自体なんて言うか奇跡みたいな感じだし」

 そう言った燐の顔を覗き込みながら、蛍はきょとんとしていた。

 ややあって蛍は燐の手をにぎる。

 燐の温もりを直に感じる。

 もしこんなこと程度が奇跡だとするのならば、それこそどこにでも転がっていることなんだろうと思う。

 それほど軽いというか、現実はもっと重いものなんだろうけど。

 身近すぎて、愛おしかった。

「そうでもないんじゃないかな」

 蛍はちょっと困った笑みを作る。

 けれど無理をしている感じはない、むしろどういう顔を燐に見せたらいいか迷っているような、迷いのある笑みだった。

「あ。別に燐が幽霊だからとかそういう事じゃなくて、その方がしっくりくるって言うか……むしろわたしの方が幽霊だよね、存在感、全然ないし」

「もう、蛍ちゃんは幽霊じゃないでしょ。ちゃんとこうして触れることができるんだし」

 燐がぎゅうっと手を握りかえしてくる。
 痛くない程度の柔らかい強さで。

 それだけで胸があたたかくなる。
 奇跡なんて信じる必要もないぐらいに。

「……それは、燐もでしょ。もしほんとうの幽霊だったらこういう時すり抜けちゃうでしょ」

 少し顔を赤くしながら蛍は燐を抱きしめる。

 たったこれだけの事で安心できるのなら、互いに幽霊だとしてもきっと問題はないだろう。
 他の人から認知されなくとも互いがこうして分かるのならば。

 そう思う、本当に。

「ねぇ、燐。幽霊でも触れたり、食べたりすることなんてできるのかな。っていうかそれはもう幽霊じゃないよね?」

「どうだろうねぇ。幽霊だって日々進化してるかもしれないし」

「そういうものなのかな……」

 互いの身体を掻き抱き合いながら、燐と蛍は妙な事を口にしあっていた。

「けど、それだったらそれはもう幽霊なんかじゃなくて」

「ただの人間、だよね」

「うん……」

 誰とは言わなかったが、きっとふたりとも同じ人を思い浮かべていた。
 とても綺麗で思慮深い瞳をした人なのに、どこか子供っぽく無邪気な、あの人のことを。

 ()()()()()はいつだって変わらなかったし、いつだって優しく見守ってくれていたから。

 人間よりも人間らしいなんて、そんな辛辣なことを言うつもりはなく。

 誰よりも人でありたかったんだと思う。

 だからかちょっと悲しかった。
 あの人の想いはいつ報われるのだろうかと思ったから。

「もう思いは成就されたんじゃない?」

 青と白の境界線をみながらそっと風に乗せるように燐がつぶやく。
 
「それだったら、いいんだけど」

 蛍はそれに少し歯切れの悪い言葉で返した。

 想いがかなえられたのなら何故またあの家にあの人は居たんだろう。
 そこが蛍としては腑に落ちないところだったから。

 がたんごとん。

 二人でこうしている間にも列車の窓から映る景色はいつまでも同じで、空の色と少しも違わない白い雲を映した水面がどこまでも広がっていた。

 どこからか流れてくる風が光の粉を撒き、きらきらとその鏡面を柔らかく撫でる。

 風を生み出しているのはきっとこの列車なんだろう。

 この列車が通ったときだけ止まった世界に風が吹くのだ、きっと。

 窓を開けていられないほどの強い風を巻き起こしながら列車はどこかを目指して進んで行くんだ。

 きっと終わりのない、完璧な世界へ。

 そこが何なのかは分からないが、そこまで不安を感じないのは一人じゃないからだと思う。

 あの童話でもそうであったから。

「そういえばさぁ、蛍ちゃんはあの時二人で飛ばした紙飛行機のことまだ、覚えてるかな」

 身体を離した燐が、唐突に質問してきたので蛍は一瞬面食らってしまった。

 燐が言っているのは、”居なくなった後に”蛍の頬をかすめるようにして落ちてきた、あの紙飛行機のことだろう。

 ノートの切れ端で作り、二人で飛ばした何の変哲もない紙飛行機。

 青い空にどこまでも飛んで行きそうな紙飛行機は、とても優雅で自由そのもののように見えた。

 反射的に拾い上げて持ち帰ってしまったけど、その後は……。

「うん。覚えてるけど……」

 思ってもみないことを燐に聞かれて蛍は顔色をさっと変えた。

 確かに覚えている、けどその後の事は燐に申し訳なく思ったから。

「ごめん。前にも言った気がするけど、あの紙飛行機、なくなっちゃったみたいなんだ。大事なものなのは分かってたんだけど……」

 蛍は申し訳なく燐にぺこりと頭を下げた。

 なんであんなことをしてしまったんだろうと今でも思う。

 やるせない思いがあったとはいえ、よりにもよって大事なものを自分の手で握りつぶしてしまうなんて。

 その事を後悔してももう元には戻らない。

 紙飛行機は丸い塊になって、そして何故か”毬”になってしまった。

(その毬も燐の家にあったはずなのに、結局オオモト様が持っていたみたいだし)

 やはり何かの前触れか何かなんだろうか。

 蛍は思考の環を頭の中でぐるぐると回していた。

「それはわたしも知ってるよ。蛍ちゃんが前にそう話してくれてたし」

 くすくすと笑いながら燐は言葉を続ける。

 蛍は耳だけ燐のほうに傾けながら、答えの出ない考えを続けていた。

「わたしが言いたいのはね、蛍ちゃん」

「うん」

「あの紙飛行機は、”わたしが転生した姿”って言ったら信じてくれるかなってこと」

 一瞬の沈黙の後。

「えっ!?」

 蛍は目を大きく見開いて燐の顔をまざまざと見つめる。

 いつものからかっているような燐の顔ではない、真面目なでも少し照れたように頬をかいて蛍を見つめ返していた。

 ──転生?

 燐は一体何を言っているのだろう。

 それこそ漫画や小説のような事あるはずないのに。

 それにもし”あれ”が燐の転生した姿なら、目の前にいる燐は一体なんだというの?

「あれっ、蛍ちゃん……聞いてる? もしも~し」

 燐が発した言葉を真に受けたのか、燐が目の前で確認するように何度も手を振っても蛍は口をあんぐりと開けたままになっていた。

 がたんごとん。

 列車は二人の少女を乗せたままどこかへと走り続けている。

 少女たちは見つめ合ったまま、それぞれ別の想いに囚われていた。

「ねぇ、蛍ちゃん~」
 
 ────
 ───
 ──
  


A real lost house.

「大丈夫? 蛍ちゃん」

 

(え……?)

 

 目を覚ました蛍は、一瞬声が出なかった。

 

 何が起きたのか状況はハッキリしないが、蛍の目の前で心配そうな燐の顔が浮かび上がっていたのを見て大体のことを察することが出来た。

 

(わたし、きっと倒れちゃったんだ……なんかすごく恥ずかしい)

 

 貧血とかそういうのはもう治ったもんだと思ってたけど。

 それは単なる思い込みにすぎないようだった。

 

 がたがたと揺れる音が耳朶に少しうるさく届いているところをみると、どうやらまだ列車の車内にいるようだった。

 

「ごめんね蛍ちゃん。わたしが変なこと言っちゃったから」

 

 燐は蛍の事をずっと見ていてくれていたようだった。

 固く繋がれた燐の手が少し汗ばんでいたから。

 

 後頭部に柔らかい感触があるのは、燐が膝枕してくれていたからだろう。

 燐がいつもつけているオーデコロンの香りが鼻をくすぐった。

 

(そういえば、前にもこんな事があったっけ)

 

 去年のクリスマスの帰りの電車でも燐に膝枕してもらったんだった。

 

「わたしの方こそごめん。こんなことで倒れちゃうなんて」

 

 燐以外誰もいないからいいけど、この年にもなって失神してしまうなんて……。

 

「まだ横になってたほうがいいよ。すぐに動くとあたま痛くなっちゃうよ」

 

「うん……」

 

 燐にそう促されてしまっては、再び横になるしかなかった。

 

 腕の力を抜いて、体を楽にする。

 実際のとこは自分でもまだ動きたくはなかったから蛍は素直に従った。

 

 燐の温もりをもう少し感じていたいと言う思いもあったから。

 

 甘えてるな、って燐には思われているかもしれないだろうけど。

 まあ、実際に甘えているわけだし。

 

「ねえ、燐」

 

 顔を覗き込む燐の瞳をみながら蛍は呟く。

 

「なぁに、蛍ちゃん」

 

 蛍が少し元気になったことを感じ取った燐は安堵からの微笑みを見せた。

 

「わたし、どんな姿でも燐だって直ぐにわかるよ。でも、燐の言う事が嘘だなんて全然思ってないから」

 

 仮に燐によく似た子がいたとしても燐じゃないって分かると思う。

 完全に瓜二つだったとしても多分、分かる気がする。

 

 それぐらい特徴があるというわけではなく、燐はわたしにとってとても大切な人だから。

 

 最初は戸惑うかもしれないけど、きっとすぐに受け入れるだろう。

 

「あ、やっぱりちょっと言い方が悪かったみたいだね。ごめんね変な言い方して。えっとぉ、なんていうか……多分転生したと思ったんだけど、拒絶されちゃったっていうのかなぁ……自分でもよく分からないんだけどね」

 

 あはは、と困ったように笑う燐に蛍はびっくりした表情をみせたが、すぐに顔をほころばせた。

 

 話はまだよく分からないが、燐が自分で笑い話に出来ることならそれでいいと思っていたから。

 

「でも、燐。拒絶って……その、紙飛行機に?」

 

「えっと、多分……」

 

 燐は、耳まで真っ赤にしながら複雑な表情で俯いてしまった。

 

 無理もないことだと思う。

 

 それこそ荒唐無稽な事だし、燐も言ってて恥ずかしいのか、終わりの方の声は消えかかっていた。

 

「そっか、転生するのって大変なんだね。紙飛行機にだって人を選ぶ権利があるみたいだし」

 

 燐の告白はどっちにしろ蛍を困惑させるものだったけど。

 蛍はあえてちょっと意地悪な言い方で返した。

 

「もー、変な言い方しないでよ~。蛍ちゃんはわたしが戻ってきて嬉しくないのぉ!?」

 

 よほど恥ずかしいのか、燐はあからさまに話を変えてきた。

 

 蛍はくすりと笑って、口を開く。

 その顔はいつもの愛らしい蛍の顔だった。

 

「それは嬉しいけど、よくある漫画みたいに転生って簡単にできないもんなんだね」

 

 うんうんと感心するように頷く蛍に燐はますます顔を赤くした。

 

「もー、それはもういいからっ。蛍ちゃんもいつまでも寝てないで起きてっ。足が痺れちゃう」

 

 燐はすっかり混乱してしまったようで、少し声を荒げて蛍にそう言った。

 

 蛍はくすっと笑って上体をゆっくり起こす。

 少し燐をからかいすぎたことをちょっぴり反省した。

 

 …………

 ………

 ……

 

「ねぇ燐。あれって……見える?」

 

 列車はいつまでも走っていて、停車する駅はまだその影すら見えてはこなかった。

 

 そんな時、蛍は可憐な唇を細かに震わせながら、おずおずと指をさした。

 

「ふぇっ!? どれの事、蛍ちゃん?」

 

 燐も慌てて蛍が指さすその方角に視線を合わせた。

 

 二人の少女の視線が重なる方向。

 そこにそれはあった。

 

 空の青と水の青に囲まれた線路の先。

 

 そのどこまでも永遠と続いていそうな白いレールの上へ被さるようにして何かが建っているのが確かに見えた。

 

 けど、ここからではまだ全然遠いのか、さながら小さい陽炎のように揺らめいている。

 実際に揺れているわけではない、と思うが。

 

「えっと……あの黒っぽい建物の事、だよね?」

 

 そこに視線を向けたまま、燐はそう蛍に尋ねた。

 

「うん。やっぱり燐にも見えるんだね。あの背の高そうな建物のこと」

 

 燐が自分と同じものを見たことにホッとした蛍だったが、それが何なのかまではまだ判断がつかない。

 

 いくら目を眇めてみても、まだはっきりとした形を視界に捉えることができなかった。

 

「うーん……なんかの塔っぽく見えるけど、また風車じゃないよねぇ」

 

 あの時、蛍には見えなかったものが燐には見えていた。

 

 揺らめく景色の中で立っていた白い風車。

 それは複数見えたのか、今となっては良く思い出せないけれど。

 

 何となく、同じような感じで見えた。

 

 その声を聞いた蛍は視線を外して燐の方を見た。

 

「──わたしはあの時、風車の影すら見えなかったけど、こんな感じだったの? わたしにはお城みたいに見えるなあ」

 

 蛍はちょっとほっとした様子で微笑む。

 何が見えたかよりも燐と同じな事に安堵しているようだった。

 

「うん。けど、どうやらこの世界にはまだ別の、青いドアの家以外の建物があるみたいだね。まあ風車の件の事もあるし、まだ断定はできないけど」

 

 風車が立木のように立っていた奇妙な場所は結局この世界とは繋がってなかったのだろうか。

 

 線路の先の世界がそうかと思っていたのだが。

 よく考えたらあの世界には駅舎も線路もなかったわけだし。

 

(むしろどうやって風車の上まで登ったんだろう? あ兄ちゃんの話だと整備する人の為に登れるようにはなっているみたいだけど)

 

 とても綺麗で落ち着ける場所だったから、もう一度訪れてみたいと密かに思っていた燐は顔には出さず胸中でちょっと残念がった。

 

「誰かが住んでるわけでもないのかな……」

 

 この世界では割かし建造物はあるけれど、人の気配は殆どない。

 動物や植物さえもなく、せいぜい”殻”が落ちているだけ。

 

 生命と呼べるものは多分ない。

 それはあの人だってきっと……。

 

「でもちょっとホテルっぽくも見えない? ほら駅前にもあるやつ」

 

「それってアレな方の?」

 

「そうそうラヴっぽい方のに」

 

 ふたりとも少し顔を赤くして見合わせると、それ以上何とも言えずに貝のように口を閉じてしまった。

 

 この手の中世の城を模したようなホテルは学校からほど近い駅前の裏路地にも数軒あったからつい思いついただけで。

 

 これは別に蛍も燐もそういった事に大変興味があるというわけではなく、いや、少しは興味があるのかもしれないが……年頃の少女なのだし。

 

 それに、そこへ行こうしない限りは人目には付きづらい場所にはあるのだが、それでも駅前にソレがあることは二人の通う学園でも周知の事実となっていた。

 

 しかし、燐も蛍もまだ行ったことはなく、まともに建物を見たためしすらない。

 

 それでも知識の上では知っていた。

 利用したという話が流れてくることも割と普通にあるし。

 

 縁のない所だとまだ思っていたから。

 燐はともかく蛍には大分ハードルの高い場所、だったし。

 

「あれっ!?」

 

 何の前触れもなく、比較的安定していた列車の走行が急にガタガタと大きく揺れ出した。

 

 それと同時に、何か金属を削った時のような少し嫌な感じの音が列車の床下部分から聞こえ出した。

 

 特にアナウンスなどは無いが、明らかに速度を落とし始めているようだった。

 

「もしかして……!」

 

「うん!」

 

 蛍と燐は無言で手を握り合いながら、列車の動きに身をまかせた。

 

 ここまで来た以上慌てたって意味などないし、無理矢理出ようとすれば怪我なんかをしてしまいそうだから。

 

 運に天を任すじゃないけど、じたばたすることは得策ではない。

 そうふたりとも感じていた。

 

 確かに運転手がいないのだからちゃんと停車出来る保証などどこにもないわけだし、楽観的すぎるのかもしれないけど。

 

 それでもこうして手を握り合っていれば、少なくとも寂しい思いだけはする事はないと思っていたから。

 

 ぎいいいいいぃぃぃ!!!!

 

 何かで線を引いたような激しい金属音が列車内に鳴り響く。

 ふたりは身を寄せ合ってその衝撃に備えた。

 

 耳をつんざくようなけたたましい轟音にふたりは思わず顔をしかめた。

 

 これが延々続くのかと思ったが、大きな振動が車内をぐらりと揺らしたかと思うと急に音が止んだ。

 

 燐と蛍は恐る恐る顔を上げて、辺りの様子を窺う。

 

 列車の四角い窓から見えるのは……白い、プラットフォーム。

 

 それは余りにも似ていたのでまたあの駅に戻ってきてしまったと勘違いするほどだった。

 

 ややあって、ぷしゅうと空気が抜けた音がして、それまで固く閉ざされていたドアが開く。

 

「……!!」

 

 突然の事に蛍も燐も声が出なかった。

 

 その一連の流れは普通の電車ならば当たり前の事なのだろうけど。

 

 他に誰も乗っていないだけで全てが不自然に見える。

 

 それは人気の全くないこの駅で降りることを強要されているように思えて、二人とも顔を見合わせたまま、開かれたドアの前で立ち尽くしていた。

 

 またいつ閉まるとも分からないドアだったから、抜け出すとしたら今なんだろうけど。

 

 少女たちは、眉をひそめながら辺りの様子を窺っていた。

 

 運転席側の景色を見ると線路はその先へと続いているようだった。

 ということは、ここが終点ではないようだ。

 

 しかし、燐も蛍も明らかに困惑していて、やっと列車が停車したからとりあえず立ち上がってはみたものの、二人の指は金属製のポールから離れてはおらず、その意思を示すかのようにポールをぎゅっと握っていた。

 

 今すぐにここから出たいわけでもないけれど、ずっとこの電車に残りたいわけでもない。

 

 二人してどうするか決めあぐねているようだった。

 

 ドアは開け放たれているのに空気が妙に重い。

 

 ほんの一歩が怖かった。 

 

「どうしよっか?」

 

 先に口を開いたのは蛍だった。

 

 ずっとこのまま黙りこくっているのかと思われたのだが、蛍がそう聞いてくる以上燐も何かを言わなくてはいけない。

 

 判断を求められていると思った燐は。

 

「ちょっと出て、みる?」

 

 そう蛍に提案することにした。

 

 まだここからでは良く見えないが、多分ここにはさっき見かけたあの変なものが近くにあるんだろうと思っていたから。

 

 ふたりとも”見えた”ということはきっとそうなんだろうと。

 

 蛍は無言のまま頷く。

 やはり同じ考えのようだった。

 

「ちょっと、ドキドキするね」

 

 それは二重の意味でもあった。

 未知の場所に行くこともそうだし、急にドアが閉まるとも分からないから。

 

 燐は不安を隠すことなくそう言葉を投げると、蛍の手を引きながらまず最初に列車から外に足を出そうとする。

 

 前触れが全くないからやっぱり抵抗はある。

 でも出ると決めた以上は出るつもりだった。

 

 とりあえず、一歩ずつ足を進めることにする。

 

 瞬きよりも早い列車のドアの開閉にどう備えればいいのか。

 燐はぎくしゃくした動きでゆっくりと歩を進めた。

 

 そんな燐の後に蛍も続いてくれるだろうと思っていたが。

 

(あれっ?)

 

 燐の足が急に動かなくなってしまった。

 その理由は単純で蛍がまだその場から全く動いていなかったから。

 

「どうかしたの蛍ちゃん。何か忘れ物」

 

 振り返り小首を傾げる燐に蛍は困ったように笑ってみせた。

 

「なんか、ちょっと足が重たかっただけだよ。やっぱりまだ疲れが残ってるみたい」

 

「ああ、山の時の」

 

 そういえば二人して登山を終えたばかりなのだった。

 

 どうしてこの世界へとまた来てしまったかは未だ不明だが、昨日まで山に居たんだし、疲れが残っても仕方がないと思う。

 

「ちょっと待ってね」

 

 蛍はその場で膝の曲げ伸ばしをしてみた。

 折れそうな程、細く長い足で屈伸をするものだから、傍目には危うく見えてしまう。

 

 感触を確かめるように二、三度やってみる蛍。

 

「うん、そこまででもないみたい」

 

「本当に大丈夫? もう少し休んでからでもいいよ」

 

 蛍につられたのか燐もをいつの間にかストレッチをやっていた。

 

 周りが青と白で統一されているからなのか、一刻の猶予もないほどの緊張感はなぜか感じられなかった。

 

「ちょっとピリッとしただけだから平気だよ」

 

 心配そうに顔を寄せる燐に蛍はさっきよりもちょっとだけ大げさに笑ってみせた。

 

 蛍の顔色をじっと覗き込んでいた燐だったが、ふぅ、とため息を一つ出した。

 

「もしかして、ストッキングが伝線した、とか?」

 

「そんな感じ、かもね。いつも制服姿だから体が違和感を覚えているのかも」

 

「やっぱりフェチなんじゃない? もしくは勉強しろって事なのかもね」

 

「確かにそれはそうだね。来年受験だし。なんか色々早いよね」

 

 誰に向けての言葉なのか燐はからかうような口調でそう言った。

 

 蛍が呆れたような顔でみていると燐が急に真面目な顔で見つめているのに気付いた。

 

「でも……それならよかった。あ、痛みが強くなったらすぐに言ってね。例え、()()()、だって痛いものは痛いんだからね」

 

「うん、そうだね。心配してくれてありがと、燐」

 

「別に心配とかぁ……まあ、ちょっとはしてるんだけどね」

 

「燐はいつもの事でしょ。わたしの事よく見ててくれるし」

 

「やっぱり気になるからね。蛍ちゃんのことは」

 

 少女たちは改めて顔を見合わせるといつものように笑ってみせた。

 

「行こっ」

 

「うん」

 

 燐は普段よりもやわらかく蛍の手を引いた。

 

 燐と蛍は何者にも邪魔されること無く、当たり前のようにドアを抜けプラットフォーム上に降りることが出来た。

 

 二人が降り立った後もドアは開いたままだった。

 

「よく似てるね」

 

 蛍はきょろきょろと周りを見回す。

 

 白い屋根とベンチ。

 誰もいないホームに小さな駅舎。

 

「全然区別つかないよね。標識もなにもないし」

 

 燐の言うように駅名を記す看板も標識もない、時刻表すらもなかった。

 

 その辺りも全く同じ。

 

 何一つ情報がない。

 駅として必要なものが何もなかった。

 

 駅舎は、見た目通りこじんまりとして静まり返っている。

 券売機もなく、何もかも無人で空っぽの状態になっていた。

 

 それでも、この世界に初めて来た人なら、そのまま改札を抜けることに少しのためらいがあるのかもしれないけど。

 

「まあ、いつものように出ちゃおうか」

 

 もう二人は何度もこの世界に来ているから、この世界の改札を黙って抜けてしまうことなんて、別段なんてことない事になっていた。

 

 わざわざ口にする必要すらないぐらいに当たり前になっていた。

 

 でも、一応知らない駅だから燐は言ってみることにしたのだ。

 

「そうだね」

 

 蛍は軽く首を振って同意する。

 

 もう慣れきってしまったというよりも、蛍には気にかかることがあった。

 

 けれど、そんな落ち着きのない素振りは微塵も見せずに燐と改札をくぐる。

 

 そんなふたりを咎めるものは当然ない。

 

 列車も低い音を立てたままホームで停車するつもりのようだった。

 

 待っている、とは考えにくい。

 誰も見ていないわけだし。

 

「ん、じゃあ、行ってきますー」

 

 燐はくるっと振り返ると、空っぽの電車に向けて手を振った。

 

 もう何も、運転手すらも乗ってなかった丸い形の車両は、ただ無意味にぽっかりと口を開けているだけで、無邪気に手を振る燐に対して何の反応を示すことはなかった。

 

「照れてるのかなぁ?」

 

(照れるって……)

 

 暢気な燐のつぶやきに蛍はちょっと訝しく思ったが、すぐにくすっと微笑んだ。

 

 燐は不安がらないようにワザと明るく振舞ってくれている。

 そんな燐の気遣いが分かっていたから。

 

「なんか燐、楽しそうだよね」

 

「え、そう? わたし、はしゃいでるかなぁ」

 

「うん。ちょっとだけね」

 

 蛍がそう言うと、燐はちょっと照れたように口を緩める。

 

 この世界にひとりで来た時はもうどうなる事かと思って、覚悟を決めてきた。

 

 でも、蓋を開けてみれば全てが望み通りというわけではないが、半ば思い描いていた通りになった気がする。

 

 オオモト様は変わらず柔和なままだったし、燐も来てくれた。

 二人で一緒の列車に乗り、まだよくわからないが、駅へと降りることもできた。

 

 この列車自体に何の答えがあるのかは結局分からなかったが、こうして無事に燐と一緒に来れたことにはとても感謝している。

 

 手が離れ、そして別れたふたり。

 

 その手を再び結び付ける。

 そんな些細な願いの為だけにあの列車は来てくれたのかもしれない。

 

 互いの夢と夢を結び付けるためだけに。

 

 手を取り合って改札を抜ける。

 いつものみたいに。

 

 燐の足は本当に軽やかで、この先の不安なんて微塵も感じていないようだった。

 

 蛍は、またちょっと足が遅れていた。

 

 その事は顔にも口にも出さず、燐の足を引っ張らないよう頑張って足を動かす。

 

 その度にずきずきと右の足首が痛みを訴えかけてきた。

 

(もう完全に治ったとばかり思ってたのに、何で今頃になって)

 

 自分で言ってた通りトレッキングで無茶をしすぎたせいだろう。

 

 そのせいで痛みがぶり返してしまったと考えるのが妥当だとは思う。

 

 けれどその事を燐に告げなかったのには別の理由もあった。

 

 それは──そこまで悪くない痛みだったから。

 

 我慢できるぐらいの甘い痛み──。

 

 少しむずがゆく懐かしい痛みが時折来るぐらいだったから。

 

(きっと大丈夫だよね)

 

 蛍はその事を楽しんでいるかのようで。

 

 その痛みこそがこの世界で生きている証のようでもあった。

 

 ──

 ───

 ────

 

 青と白の駅舎から抜け出したその先、そこには何というか”町”としか形容できない情景が霧のように白く広がっていた。

 

 まるで蜃気楼のように儚げな町の様相に、燐は思わず立ち止まってしまった。

 

 完全に人気(ひとけ)が無いせいからかもしれない。

 静まり返った町並みは、ただ一軒の家があるよりもより怖いものに感じられた。

 

 それと同様に驚いたことは。

 

「あっ、雨だ……」

 

 額に当たったそれを燐は手で掬って確かめた。

 

 ぽつりと小さな雨粒が燐の手や栗色の髪にぽつぽつと落ちてきていた。

 

「本当、雨だね」

 

 蛍も同じように手を差し伸べて確かめる。

 

 確かに雨の当たる感触があった。

 

 水晶のように透明な──雨粒。

 

 現実の世界と同じようにこの世界でも雨が降る。

 

 それは不思議でも何でもみたいに思えた。

 

 空が青いままなことを除けば。

 

「これって、天気雨だね」

 

「うん。綺麗だよね」

 

 二人はしばらくその光景を見て楽しんでいたが、流石に濡れそぼってしまうので、慌てて駅舎の中に頭を引っ込めた。

 

 燐は濡れた手や顔を黒のアンダーシャツの袖の部分で拭った。

 

(なんか……猫みたい)

 

 顔を洗う猫のような仕草をする燐に蛍はくすくすと微笑んだ。

 

「でもさ、雨にしては冷たくなくない? ほらっ」

 

 そう言って燐はまだ雫がついている手を振るった。

 その内の一つが蛍の頬に向けて飛んで行った。

 

 蛍はきゃっ、と小さく跳ねたが、燐の言うように確かに冷たさは感じなかった。

 

「あ、ごめん」

 

 燐は蛍に駆け寄ると、もう片方の袖で蛍の顔を拭った。

 

「タオルもハンカチもないから汚くてゴメンね」

 

 燐はちょっと言い訳じみた言葉を並べて再度謝った。

 

「ん、気にしなくていいよ、だって燐のだし」

 

「そう?」

 

 怒ってるかもと思った燐は蛍の意外な言葉にきょとんとして首を傾げた。

 

「あ、そういえばあの水溜まりの中で沈んでた時もそうだったよね。別に冷たくもなかったし息苦しさも感じなかった」

 

「この世界はそういうもので出来ているのかもしれないね。見た目は同じなんだけど大事なところが抜けてるっていうか」

 

「成分とかそういうところ?」

 

「うん。見た目は普通なんだけどね。それ以外は普通じゃないっていうか」

 

 言われてみれば、あの列車やホームもどこか違っていた。

 

 見た目以外は普通じゃないと言うか、この世界では別の常識があるんだろうけど。

 

(手や身体は濡れるんだ……水溜まりの中では濡れなかった気がしたけど)

 

 冷たくないとはいえ、雨でびしょびしょになってしまうのはやはり嫌な感じはした。

 

 むしろ不快感はこちらの方が強いまである。

 湿度とかそういう概念はないにしても。

 

 そこまで土砂降りでもないから、短時間なら外に出ても問題はないとは思うが。

 

 蛍が外からの景色を眺めていると視界の隅に何か赤いものが目に入った。

 

(なんだろ?)

 

 きょろきょろ見回してみる。

 

 そこには、元は銀色に輝いていたのだろう。

 黒ずんだ色の傘立てがあり、そこに一本の赤い傘が立てかけてあった。

 

 誰かの忘れ物……というには流石に不自然な気がする。

 

 けれども蛍は何の気なしにそれを手に取ってしまっていた。

 

 ──紅い色(アカイイロ)の和傘。

 

 青と白い世界によく映える、差し色のような紅い傘。

 

 二人にはちょっと大き目の、けれどそこまで重くはない傘だった。

 

「ねぇ、燐。ここに傘が置いてあったよ」

 

 蛍は早速、燐にそれを見せた。

 それを一目見た燐は目を大きくした。

 

「蛍ちゃんっ。それ、どこにあったの?」

 

 びっくりしたような燐の声色に、蛍は焦って傘立ての方を指さした。

 

「え、えっと、そこに立てかけてあったの。燐は、この傘に何か見覚えでもあるの?」

 

「見覚えと言うか……」

 

 蛍からその傘を受け取ると、ちょっと離れたところで燐はぱっと傘を開いて見せた。

 

 鮮やかな紅色の花が広がって、殺風景な駅舎の中に彩りを与える。

 

 それは艶やかさというより、安心というか落ち着いた色合いを醸し出していた。

 

 内側も紅く、シンプルな紅い蛇の目傘。

 

 ただ、中央の轆轤(ろくろ)と言われている部分に飾り糸が施してあり、そこには色とりどりの絹糸がかがられてあった。

 

 それはオオモト様が手にしていた毬を彷彿とさせる様な幾何学模様であり、その色彩であったから。

 

 燐が特に何も言わなくともそれがどういうものなのか、何となくだけど蛍にも理解することは出来た。

 

 燐はしばらく傘を見つめたまま、うーんと考え込んでいたが。

 

「じゃあ傘も手に入ったことだし、行こっか、蛍ちゃん」

 

 そう言って燐が傘を手にしたまま、手を差し伸べてくる。

 

「う、うん」

 

 蛍は少し戸惑ったが、ややあって燐に手を差し出した。

 蛍が頷いたことを確認すると、燐は手を引いて傘の中に蛍を引き入れる。

 

 少女達は一本の傘の中で肩を寄せ合いながら、廃墟のように沈んだ町並みを探索することにした。

 

 ここに行く理由もなかったが、戻るだけの理由もまた無かった。

 

 ぱしゃ、ぱしゃ、と。

 

 青空と雨が交差する中をそぞろ歩くふたり。

 

 どこから雨が降っているのかは分からない。

 けれども、不快にならない程度の薄い水溜まりが白い大地に透明の染みを作っていた。

 

 下は多分、コンクリートで間違いないだろう。

 それは踏みしめる感触もそうだが、周りの風景、雨煙る街並みがそうさせていた。

 

 更にそれには確かとも言える覚えが周囲の建物にあったからだった。

 

「ねぇ、燐、もう気付いてるよね……この”街”のこと」

 

 蛍にはどうしてもそれが分かってしまう。

 生まれた頃から住んでいたから仕方のないことなのだけれど。

 

 それでもそう燐に聞くしかなかった。

 にわかには信じがたいことだったから。

 

「まあ、わたしも引っ越してきちゃったからね”この町”に。まあ、そうでなくても流石に分かっちゃうのかもね」

 

 燐は蛍の方は向かずに視線をあちこちに彷徨わせながら答えた。

 

 向こうにある商店のような廃墟の建物。

 

 ひび割れて寸断された道路や標識。

 

 ぼろぼろに錆びて、どう見ても使い物にならないガードレール等々……。

 

 田舎町では多分よくある風景なんだろうけど、町の至る所がボロボロになっているのは流石におかしいことだった。

 

 まるで嵐が起こった後、みたいに。 

 

 そしてそれはあの、駅前の特徴的なものにも表れていた。

 

「蛍ちゃん。あれって……どう見てもあの、駅前の時計だよね。なんか壊れてるみたいだけど」

 

 傘越しに燐が目で訴えたものとは、駅前の、ロータリーにあるちょっと変わった柱の時計のことだった。

 

 前に蛍から聞いたところによると、このちょっと変わった形の時計は、”この駅”が出来た当時からある、割と歴史のあるものらしかったから。

 

 だからここが何処なのかすぐにでも分かってしまう。

 引っ越してきて日の浅い燐でもだ。

 

 けれどその鉄製の柱は酷く折れ曲がっており、文字盤のガラスも粉々に割れていた。

 

 それは文字通り、時を止めたままのように。

 

 まるでもう幾千も月日が経っているかのように殆ど原型を留めていない。

 

 唯一残っていた時計の針は9の数字で止まっている。

 しかしそんな事に何の意味もなかった。

 

「ねぇ、蛍ちゃん。もしかしてなんだけど」

 

 燐は蛍の瞳をまっすぐに見つめる。

 

 赤い傘の中で見る燐の顔は色彩のせいだろうか、なんだかいつもよりも綺麗に見えた。

 

 もともと赤い傘にはそう言った、女性が綺麗に見える要素があるらしいのだが。

 

 この状況がそうさせるのだろうか。

 今の燐は特別きらきらと光ってみえた。

 

 蛍が黙ったままこちらを見つめているだけだったので、燐は困ったように微笑んで話を続けた。

 

「やっぱりここって”小平口町”だよねぇ。こっちが本物の方なのかな」

 

 アスファルトには亀裂が入り、水が逆流して噴き出しているとこもあるけど。

 

 今、二人がいるところは小平口駅前のロータリーで間違いなかった。

 

 めちゃくちゃに壊れてしまったあの柱時計もあるし、やはり壊れている電話ボックスも辛うじてその原型を留めていたから。

 

 ロータリーを囲むようにして並んでいる駅前の商店街は、その殆どが瓦礫と化していた。

 

 住人は、恐らくいないだろう。

 居ないからこそこの世界にあるとも言えた。

 

 もう既に、しんでしまった町だからこそ。

 

 そんなもう人の住まない町並みを、燐はちょっと哀れんで眺めていた。

 

 何となくだが、このしんだように静まり返った町に共感するところがあったからだ。

 

 けれど蛍はそうは思わなかった。

 

「それはまだ、分からないかもよ」

 

「それってどういう事なの? 蛍ちゃん」

 

 意味ありげな事を呟く蛍に燐は身を乗り出して聞き返さずにはいられなかった。

 

 だってこれはあのDJの言った通りの”歪みの後の結末”そのものだったから。

 

 ”ダムが決壊して、全てが洗い流されてしまった町”としての。

 

 何も知らない人だってこれを見たらそう納得するしかないと思う。

 

 それほどに町は崩壊していて、辺り一面の家や建物だけでなく、ここから見える木々や畑も殆ど壊滅状態だったから。

 

 だから多分こっちが本当の姿。

 小平口町がこうなるだけの状況も一応あったわけだし。

 

 ただ、町が完全にダム湖に沈んでいないののだけにはちょっと違和感が残るが。

 

 それだって些末な問題なんだろう。

 

 この町は完全にしんでしまった。

 何の形跡も残さずに。

 

 だから蛍の言っていることの意味が燐には理解できなかった。

 同情か慰めだったとしても。

 

「だってほら、燐。あそこの看板を見て」

 

 蛍が指をさした先には何かの商店が軒を連ねていたのだろう、自動ドアがめちゃめちゃに割れている、ほぼ全壊となった店舗のような建物の残骸が転がっていた。

 

 恐らくその店のものだろう、壊れかけた看板が斜めにボロボロの状態で横たわっている。

 

 ひび割れた看板からかろうじて読み取れた文字は。

 

「”HardBank(ハードバンク)”!!??」

 

 燐はその社名を知っていた。

 それは使っている携帯がこのキャリアのものだったから。

 

 けれど驚いたのはそこではない。

 さっきから燐が口を開けて膠着しているのには別の理由があった。

 

「全部……文字がさかさまになってる……」

 

「うん」

 

 震える燐の言葉に蛍はそっと頷いた。

 

「でもそれって、ここだけじゃないの!?」

 

 看板を後ろからみたら逆になっていることなんて結構よくある事だし。

 

「どうも違うみたいだよ」

 

 ほら、と蛍は町の至る所に指をさした。

 

 駅前のお土産屋さんで売られていたぼろぼろの饅頭のお品書きや、同じく駅前にある崩れた交番の表示、折れ曲がったバス停の時刻表など。

 

 それらの全ての文字が何かのトリックのように反転して燐の目に写し出されていた。

 

 極め付きは道路表示で、これもさかさまになっているのは同じだが、書いてある文字の方向から、右側通行の道路になっているようだった。

 

 つまりは。

 

「この町の全てがさかさまになっている。そういうことだよね」

 

「それって……」

 

 ここがおかしな世界だということはもう十分わかっていたけれど、その中でもとびきりおかしなことだったから。

 

 燐は言葉の途中で思考が停止してしまっていた。

 

「まだよく分からないけど、虚構(フェイク)って言いたいのかな……」

 

「虚構……?」

 

 言っていることを頭で整理するように燐も同じことを口にした。

 

 確かに嘘の世界だと思う、でもある意味では真実なのかもと思っている。

 

(もしあのラジオからのニュースが本物だったら?)

 

 それを確かめる術はあの時の燐にはなかったが、蛍ならどうだっただろう。

 逡巡した燐は思わず蛍の目をじっと見つめていた。

 

 燐の考えを察した蛍はもっと困った顔になって苦笑した。

 

「わたしでも分からないよ燐。でもね、一つだけ分かってることはあるの」

 

「それは?」

 

()()()、小平口町によく似てるけど、さっきから電柱が一本もないんだよね。もしほんものの小平口町だったら、それっておかしい事でしょ」

 

「あ……」

 

 確かに蛍の言うように商店や家屋は壊れたまま残されているのに一本も電柱が立ってはいないのはよく考えてみればおかしいことだった。

 

 確か、小平口駅前はまだ無電柱化していなかったとは思う。

 山間の田舎町だし。

 

 色々とおかしな町なことは分かったけど、だったら何でこんな町がこんな所に出来ているのか。

 

 その存在理由が知りたかった。

 

「なんか、鏡の世界にいるみたいだね。あのアリスの世界みたい」

 

「燐もそう思った? わたしもだよ」

 

 不思議の国から戻ってきた少女が、今度は鏡の国へと行くお話。

 何もかもがあべこべの世界で、でもそこが面白くてついつい何度も読み返してしまう。

 

 今だって世界中にファンの多い作品だし。

 年頃の少女ならほとんどの子が読んでいてもおかしくはないほどの知名度を誇っていた。

 

「でももし、ここが鏡の中の世界だったとしたら、こっちが裏なのかな? それとも表??」

 

 あの異変の時はこの世界──つまり、小平口町周辺が圧縮して世界の仕組みが変わるとオオモト様は言っていたけど。

 

 これがそう、何だろうか。

 

 だとしたらあまりにも物語的というが、寓話(アイロニー)を煮詰めた結果というか。

 

 オオモト様が言っていた変化のかたちの一つなのか。

 複数ある選択肢の一つがこの壊れた町の姿だとしたら。

 

(そういえば電柱がないのってもしかしてわたしたちが通りやすくするための処置? あの時の緑のトンネルの時みたいに)

 

 未だに卵の殻に閉じ込まれたままか。

 

 それとも、今までとは違うかたちの卵の殻の中に閉じ込まれているのか。

 

 燐にはああ言ったが、蛍も内心では頭がどうにかなりそうであった。

 

「じゃあ、もしかしたらこの世界にも”別の鏡”があるんじゃない? そこを抜ければ元の世界に戻れるのかも」

 

 妙案とばかりに燐はパン、と手を叩く。

 急な音にびっくりした蛍だったが。

 

「でもそれって安直すぎない? 思いっきりマンガ的っていうか。それこそ童話そのものだよ」

 

「まあ、それは分かってるんだけどね」

 

 鏡の世界から戻るには元から入った鏡か、別の鏡から戻る。

 話の結末のよくある手法だった。

 

「でも、どうなんだろうね。とりあえず探してみようか、他にやることがあるわけでもないし」

 

 ”青いドアの家”もそうだが、この世界で明確な目的というものを見つけたことがない。

 

 水溜まりの中を歩いたときだって、特に何も見出すことは無かった。

 

 ただ、ひどく疲れただけで。

 

 だから燐と一緒に何かを探すことはいいことだと思った。

 

 それが、本当にあるものじゃなかったとしても。

 

 燐と一緒の口実があればそれだけで。

 

 ……

 ……

 ……

 

 二人はぱしゃぱしゃと水を跳ねながら、当てもなく崩れた町並みを探し回った。

 

 全てが反転しているとはいえ、小平口町に変わりはないのだからそこまで迷うことはないけど。

 

 それでも手掛かりが全くないわけだから骨の折れることには変わりはない。

 

「はぁ……」

 

 蛍の足元は相変わらずローファーで、こうした雨道を歩くには適していない。

 

 そんなのはもう去年の時点で分かっていた。

 あの三日間はローファーで歩き通しだったんだし。

 

 せめて長靴とは言わなくとも、燐のようなトレッキングシューズでもあれば十分マシなんだろうけど。

 

 蛍の考えを嘲笑うかのように、廃墟の中からは目ぼしい日用品などは見つからなかった。

 

 流されたのはヒトもモノも一緒と言うことなのか。

 

(もうローファーなんて最近履いていないのに)

 

 蛍は自身の足元を忌まわしく見つめた。

 

 今では燐の影響か、蛍もトレッキングシューズを主に履くようになっている。

 

 やっぱり動きやすいし、靴ヒモも今では上手く結べるようになっていたから。

 

 それなのになぜ、今またこの学校指定のローファーなのか。

 

「はぁぁ」

 

 蛍はまたため息をついた。

 

 二人とも制服姿な事といい。

 まだあの時の異変に囚われたままなんだろうか、自分たちは。

 

 まるで、二度と抜け出せない迷宮に迷い込んだみたいに。

 

 ──雨がしとしとと降り続いている。

 

 上が青空だからまだいいけど、これが曇りか夜だったらきっと最悪な状況だっただろう。

 

 街灯も何も点かないわけだし。

 

 もっとも夜どころか、雲がどんよりとすることのない世界だからそれはないんだろうけど。

 

「あれ、なんか、行き止まりみたいだね」

 

 雨の音に混じって燐の声が聞こえたので、蛍は顔を上げた。

 隣で燐が口をぽかんと開けて立ちくしていた。

 

 見ると大通りの先の道が崩れた家屋で塞がれていた。

 

 それはとても回り道など出来るものではなく、民家と思わしき瓦礫の山が何層にも積み重なっていた。

 

 それらは今にも崩れ出しそうなほど不安定で、こんなちょっとした雨でも崩れてきそうなど脆く見えた。

 

「燐、こっち」

 

 危険を察知した蛍は咄嗟に燐の腕を引いて横道へと逸らせた。

 

 それは燐の家や風車がある方とは反対方向の山の方へ続く道。

 

 けれども今は全てが逆になっているから、それすらも真逆の方向だった。

 

「こっちって確か、蛍ちゃんちの方向、だよね」

 

 上り坂までは流石に変わっていないから多分、蛍の家である三間坂家のある方向だろう。

 

「……うん」

 

 蛍はある意味で強い核心を持った返事を燐に返した。

 その瞬間、二人の背後でガラガラと大きな音が響き渡る。

 

 慌てて振り向くとそこでは先ほどの密集した瓦礫が崩れていて、さっきまで二人が立っていた場所にまで降り注いでいた。

 

 燐と蛍は顔を見合わせると、ほぼ同時に深いため息を吐いた。

 

「こっちに行けって、ことなんだろうね」

 

 こちらの道はそれほど被害がないのか、そこまで道も崩れてもなく、瓦礫となった家屋も少なかった。

 

 まるでこっちの道こそが正解だと思わせるように道を塞ぐ障害物のようなものは見当たらない。

 

 水捌けも悪くなく、とても歩きやすかった。

 

 殆ど普通の田舎の住宅地と言ってもおかしくはない。

 

 けれど、ある程度道を登っていくと次第におかしい所に気付く。

 

 やはり人気がない。

 田舎だとしてもその生活感すらも皆無なのはやはり異常だった。

 

 周りの住宅は最初から無人であったかのように、生活音も明かりもなくひっそりとしている。

 

 あの世話役から町長にもなった大川の家の前を通った時も同じだった。

 

 無意味に盆栽だけが外の庭の花壇に並べて置いてあり、それを見た燐はあの夜の事を思い出して、ひっと声を漏らした。

 

「あれ……じゃない? もしかしてあれが見えていたのかな。あんなのこんな場所になかったよね確か」

 

「え……」

 

 振り仰いだ燐の視線が捉えるその先。

 蛍もその方向を目で追った。

 

 雲みたいな雨煙で遮られた視界の先。

 

 本来ならばここからだと燐と蛍が登ったばかりのあの山が良く見えて、それを背景に蛍の家が浮かび上がって見えるはずなのだが。

 

「あれって……なんなの」

 

 蛍は自分で見たものが信じられず、何度も目を擦った。

 

「お城か塔かと思ったんだけど……」

 

 燐も目を瞬かせる。

 それぐらい信じられない光景だった。

 

 そこにはあるはずの三間坂の家はなく、代わりに別の建造物──燐の言うような塔のような建物がそびえ立っていた。

 

 かなりの高さがあることは確かなようで、あの山の上の風車よりも巨大に見える。

 

 燐と蛍もその高さに圧倒されたのか、しばらく声も出さずに眺めていた。

 

 けど、衝撃的なのはその高さだけではなく、その塔の元、構成しているものにもあった。

 

「あれって! 全部、家で出来てる!?」

 

 燐の目にはそう映った。

 

 辺りが雨と霧状のものに覆われていて全貌はまだ掴めないが。

 てっぺんのほうに見えるのは家の屋根のそれであったから。

 

(あれ? なんか見覚え、ある??)

 

 蛍も概ね燐と同じ感想だったが、家を積み重ねて出来たような塔の一部に何か良く知っているものがある、そんな気がしていた。

 

 誰かの家と言うよりも、その色や形に見覚えがあると言う方が正しい。

 

 少なくとも燐の家ではない。

 だとしたら。

 

(何でだろう。これを見てると何かムズムズする)

 

 燐は今の感情が上手く言葉に表せなかったので、胸中でそう言葉を作ったのだが、蛍はまだ呆然とそれを見ながらなにやら考え込んでいるようだった。

 

 まるでパズルや謎解きをしているような難解な顔をしながら。

 

 そうして逡巡していた蛍だったが、何か思い立ったようにあっ、と声を漏らすと、眉をひそめてつぶやいた。

 

「燐、行こう」

 

「え……」

 

 困惑の顔で燐は蛍の方を向いた。

 

 けれど蛍は燐の方に目を向けずに塔を見つめながら話をつづけた。

 

「どうせここに行くしかないと思う。理由はよくわからないけど多分燐の言う、その”鏡”があるんじゃないかなって……」

 

「蛍ちゃん……」

 

 燐はもう一度その塔の様な、空までそびえる建物をみた。

 

 確かにこんな仰々しいものが建っている理由があるとするならば恐らくそういうことなんだろう。

 

 けれど、それだけの理由でこんなものをわざわざ建てるんだろうか。

 

 自然に出来たような感じは全くしないし。

 

 まだ何かが足りない。

 燐はそんな気がしていた。

 

「もし燐が嫌なら、わたし一人でも行くんだけど」

 

 蛍が真面目な顔でそう言ったので、燐は焦燥感に駆れた。

 

「蛍ちゃんが行くならわたしも行くよ。蛍ちゃんをひとりで行かせるわけなんてこと絶対にないからっ」

 

 蛍は口元に指をあてて、くすっと笑った。

 

「でも、燐はひとりで行っちゃったよねぇ」

 

 不意打ちとも言える蛍の言葉に燐はずきっと胸の痛む思いがした。

 

「あれは……本当にごめん……わたしやっぱり勝手だったよね。蛍ちゃんを置いていくだなんて」

 

 蛍が気にしているのは仕方ないことだと思う。

 

 あれは期待を裏切るとかそういうのではなく、拒絶ともとれる行為を燐は蛍にしてしまったのだから。

 

 許されるとは思っていない。

 でもどうやって蛍に償ったらいいのか。

 

「もういいの。だって今は燐と一緒なんだし。それに──」

 

 目を細めた蛍が見つめる。

 燐も正面から蛍を見つめた。

 

「この先も燐とはずっと一緒なんだから」

 

 ──

 ──

 ──

 

「ふぇ~、近くで見るとホント凄いことになってるねぇ。なんだか今にも崩れ落ちてきそうだよぉ」

 

「ほんとにね、一体誰がこんなものを作ったんだろうね」

 

 少女たちは驚きと関心の面持ちでその塔を下から眺めていた。

 

 現実とは違う世界で、蛍と燐はさまざまなものを見てきたが、ここまで現実から剥離したものを見るのは初めてのことだった。

 

 これまではちょっと変わっていたけど常識の範疇からちょっと抜けだすぐらいのものだったのに、これはその枠どころか完全に二人の想定外のものだった。

 

 家が積み重なって出来た塔は誰が作ったにせよあまり趣味の良いものではなく。

 悪趣味で残酷なオブジェは異世界の監獄のようなものに見えた。

 

 どちらにせよ青と白で統一されたこの世界には相応しくはないものだった。

 

 その色も形も歪でねじ曲がっている。

 

(なんだか、失敗したチュロスみたい……)

 

 場にそぐわない、あまりにも暢気な考えを燐はつい浮かべてしまった。

 

 それにしたって、パン作りで余った材料でたまに燐がチュロス等のドーナツを作ったりすることもあるのだが、それだってここまで酷い出来になったことはない。

 

 それこそあの巨人の様な”何か”が遊びで作ったとしか思えない。

 

 積み木がわりに家を積み重ねて。

 悪趣味で歪んだ塔を。

 

 もしここに鏡のような”窓”があるにしても。

 その目的も意味すらも。

 

 何一つ理解できそうになかった。

 

 あまりにも非現実、不条理さが大きすぎて。

 

「もしかして、あそこから中に入れる、のかな……」

 

 燐が指さした場所には玄関らしきものがついてあった。

 

 けれど家自体が横倒しになっており、窓も玄関も横向きになっていた。

 引き戸のようだから開ける事自体は出来そうだが。

 

(あの家の玄関って、まさかだよね……)

 

 よく見るとその家の玄関のドアは既に壊れているようだった。

 外側から破壊されたような、そんな形跡がある。

 

 周りが廃墟のような建物しかないからそんなには気にならないけど。

 

(やっぱり、これ以上近寄るのは危ないよね。さっきみたいにいつ崩れるともわからないし)

 

 それにさっきから雨に混じってぱらぱらと家の破片のようなものが上から落ちてきていた。

 

 こうなると、入るどころかこの場にいることすら危うい。

 

(けど、蛍ちゃんは行きたがってみたいだし……うーん、どうしよう?)

 

 戻るべきかそれとも……?

 燐がそう手をこまねいていると。

 

「って! 蛍ちゃん!?」

 

 蛍が小雨降る中一人ですたすたとその玄関に向かって歩いて行ってしまった。

 

 燐は慌てて駆け寄ると、蛍の頭に傘を差しだして尋ねる。

 

「危なくない? やっぱりやめようよ」

 

 燐がそう声を掛けるも蛍は聞く耳持たないみたいに玄関へと近づく。

 

「大丈夫、だって知ってるから」

 

 蛍は小さく口を開くと玄関のドアを上へずらすと言うよりも隙間に体を通して無理やりに入るつもりのようだった。

 

「蛍ちゃん、待ってっ」

 

 燐の制止も聞かずにこの奇妙な塔の中に入る蛍に違和感を覚えずにはいられなかった。

 

 けれども腕ずくで止めるようなことはせず、燐も蛍の後を追ってのそのそと中へと入り込んだ。

 

 ……予想通り、中は真っ暗だったが。

 

「スイッチは……あ、電気が通ってるわけないよね」

 

 蛍は自問自答すると、真っ暗な玄関の棚を開けて何かを探し始めた。

 

 蛍のそれは家の構造を良く知っている動きであったが、燐はその事にまだ気づかずにいた。

 

 それどころか。

 

「うわぁ、凄いことになっちゃってるよ。本当に大丈夫かなぁ……」

 

 と、ひとり戦々恐々としていた。

 

「あ、燐、懐中電灯あったよ。やっぱり玄関にあったみたい」

 

 蛍は喜んで燐に見せるも暗くて良く分からない。

 

 蛍は懐中電灯のスイッチを入れた。

 

 カチッ、と小さい音がして真っ暗な玄関にLEDの黄色い明かりが灯る。

 

 蛍が手にしているそれは懐中電灯というよりも手に持つランタンのようだった。

 

 恐らくは緊急用のだと思う。

 

 こんな直ぐの場所にあったのに、あの時気付かなかった自分が情けなく思った。

 

「燐。大丈夫?」

 

 蛍はランタンの明かりを燐に向ける。

 

 燐は何やら喋ろうとしているのか、意味もなく傘をぶんぶん振って気持ちを落ち着かせた。

 

「もしかしてここって蛍ちゃんちなのぉ!?」

 

「え、うん。そうだよ」

 

 勢い込んで喋る燐に蛍は落ち着いた口調で答える。

 

 その声だけで家がどうにかなりそうだったので、燐はなるべく声を潜めて蛍に問いかけた。

 

「だって、蛍ちゃんの家、縦になっちゃってるよ。こんなのおかしいよ」

 

「うん。確かにね」

 

「それに家の中はめちゃめちゃみたいだし……どうしてこうなったのかな?」

 

「それは燐も知ってるじゃない? わたしの家がこうなったことを」

 

「え……それってまさか……」

 

 確かに燐には覚えがあった。

 

 終わらない夜の時、蛍の家に逃げ込んだ際、あの何かが数体やってきたのだ。

 

 二人は隠れていたから無事だったんだけど、玄関は壊され、家のなかはめちゃめちゃに荒らされていたんだった。

 

「じゃ、じゃあやっぱりこっちの方が本当ってこと!?」

 

「しぃー」

 

 たまらず燐が声を上げたので、蛍はその唇を指で押さえた。

 

「それを今から探してみるんでしょ、燐」

 

「探すって……どこに」

 

 もしこの塔のような建物が蛍の家だけで構成されているのなら、それは確かに高い建物になるだろう。

 

 それぐらい部屋数は多く、広さも旅館並みにあるのだから。

 

「多分、一番上の部屋」

 

 蛍はランタンの光を天井に向ける。

 

 そこには……どうやって作ったのだろう。

 

 捻じれた螺旋階段のようなものが遥か上の天井までつながっているようだった。

 

「こんなのっ、登れるわけない……」

 

 体力がないという意味ではなく、構造的にありえないことだから。

 それも木造で出来ているようだったし。

 

 降りることなんて考えていない作りだったから。

 

 見上げた燐は絶句した。

 

「燐がいればきっと大丈夫だよ」

 

「ど、どうして……?」

 

「多分ここが、迷い家(マヨヒガ)だと思うから」

 

「マヨヒガって……それって蛍ちゃんちの近くにある古い旅館のことじゃなかったっけ?」

 

「あれは多分、後から作られたものだと思う。きっとこれが最初なんだ」

 

 そのマヨヒガが呼ばれていた古びた旅館は最近、全面改装して、主に観光客用の旅館として生まれ変わっていた。

 

 名前も、”眠りの家(ネムノキ)”と変えて。 

 

「最初って、蛍ちゃんちってちょっと大きいけど確か普通の家じゃなかった?」

 

 ”普通の家”にしては大きすぎる蛍の家だが、この普通は建築上の意味合いでのことを指していた。

 

「多分だけど、座敷童を囲っておくために三間坂家は高い家を作ったんじゃないかな。座敷童が逃げたり、奪われたりしないように」

 

「じゃあ、崖みたいなところに家が建っているのもそういうことなんだ」

 

「きっとね」

 

 辻褄はあっている……のかは分からないが、何となくだが蛍の言いたいことは大体呑み込めた。

 

 もしかしたら、あの転車台の時のように切り替えるなにかが、この塔の一番上にあるのかもしれない。

 

 根拠はなくともそれしか道はなさそうだった。

 

「燐、行けそう?」

 

「え、う、うん。正直すっごく怖いけどね」

 

「それはわたしもだよ」

 

 そう言って蛍が手を握ってくる。

 蛍の手が小刻みに震えていることはすぐに分かった。

 

 燐もぎゅっと手を握り返す。

 

 怖いのは同じだと思ったから。

 

(それにしたって何だってこんなところに階段なんてつくったのっ)

 

 つい心の中で悪態をついてしまう。

 

 それでも行くしかないんだきっと。

 

「蛍ちゃん行こ。わたしが絶対に蛍ちゃんのこと上まで連れて行くからっ」

 

「うん。どこまでもふたり一緒に行こうね」

 

 本当に不条理で意味のない建物。

 

 でもこの上にきっと何かがあるんだと思う。

 それは本当に鏡か、それともやっぱり何もないのか。

 

 どっちにしろ確かめる必要はあった。

 

 燐と蛍は手を取り合って蛍の家の階段へと足を進める。

 

 先行する燐がランタンを手にする。

 蛍は紅い傘を片手に持っていた。

 

 そこは本来なら家の二階へと続く階段なのだけれど、家自体が横に傾いているから、その階段も黒い蛇のとぐろのようにうねっていた。

 

 人工的にしてはあまりにも歪な階段の有り様に、燐は思わず喉をならした。

 

 蛍も自宅の異様な光景を呆然と眺めていた。

 

「じゃあ……行くよ」

 

「……うん、燐。気を付けてね」

 

 蛍の返事を合図にして、燐は慎重に右足を階段へと乗せた。

 

 ぎぃっ、と板が軋む音がして、燐は手の甲で額を拭った。

 

 

 

 ────

 ───

 ──

 

 






先日、横田基地の周辺まで行ってきましたー。いやぁ、中には入らなかったのですけどねぇ。特に行く予定もなかったし、その日は朝から雨が降ってたましたからね。でも、人手は多いだろうなーって思ってました。

っていうか、本当に人多かったしー。結構、朝早くに行ってみたんですけど、入場待ちでしょうか本当にヤバいぐらいに人が歩道に溢れていましたねー、ですが、感心してしまったのは皆さんちゃんと順路を守って歩道を歩いていたことですねー。最寄りの駅からかなり遠回りさせられて入場させてたみたいですけど、歩道の片側だけ使って左側通行をさせてたのは流石だなーって思いました。
まあ、周辺はかなり物々しい雰囲気でしたし、途中まで来て車で下ろしてもらうなんてとてもできない感じでしたしねー。車いすの方も普通に列に並んでましたし、規制というか統率はばっちり取れてる感じでした。
にしても無料だったとはいえあそこまで人が来るとはー、日曜はもっと来てみたいですねー、ジョー・バイデンの訪日もありましたし。

そういえば本当に半年近くやってしまったトゥームレイダーシリーズ、一応クリアしましたー。
ですが衝撃の事実が……どうやら間違って最新作からやってしまい最後に終わったのが最も古いやつだったという──。どうりでストーリーが良く分からないと思ったわぁ。クリアして次のやるたびにボリュームが減ってるなーとか、操作がシンプルだなーとか思ったら、全部逆に進めてしまったせいだったとは──! でも結構楽しめましたねー。まさか日本の卑弥呼やロシアが舞台になるのはーー。個人的に色々とタイムリーで楽しかったです。

次はボーダーランズ3……は、取り逃したので、Kohada先生もインスピレーションを受けたっぽいBioShockシリーズ3作品──! ってまたやる順番を間違えそうだったのでプレイ前に調べてみますともぉ……ふむふむ、1→2→Infiniteの順でやればいいっぽいですね。危うくInfiniteからやってしまうところでした……ナンバリングタイトルはリマスター版みたいでしたし、Infiniteのリリース年は3つの中で一番古かったんですけどねー。

さてさて今回もまったり半年攻略かなーーー。


ではではー。

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