We are born, so to speak, twice over; born into existence, and born into life.   作:Towelie

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「蛍ちゃん、もうそこのお肉食べられると思うよ」

 催促するみたいにカチカチと、金属製のトングを鳴らしながら燐が指示を出す。
 
 蛍は慌ててその肉を取り皿へと移した。

「ちょっと、ペース早くないかな? それに燐、さっきからお肉焼いてばっかりで自分で全然食べてないよ」

 実際蛍は結構食べていると自分では思っていたし、燐は焼くことに夢中なようで、一向に食べている様子をみせてはいないから。

「わたしは、どっちかって言うとお肉よりも”野菜”を食べる方だからね」

 そう言って燐は網の上で焼かれている半月上の玉ねぎをくるりとひっくり返す。

 少し焦げ付いているが、これぐらいが食べごろの様で、燐は箸に持ち替えて自分の取り皿と、蛍の皿にもよそった。

 燐のその様子に”せっかくの焼肉屋さんなのに”と、蛍は困り顔で苦笑いした。

「そういえば燐はそうだったよね。運動部なのにお肉よりもお野菜の方が好きってちょっと珍しい気がするけど」

 マンションで同居するようになって蛍が驚いたことは、普段から活発な燐が意外にも小食であり、さらに野菜や果物を好んで食べることだった。

「お肉だってちゃんと食べるよ。でも、意外って言うのは蛍ちゃんの方だよ。わたしは、ほら……あっ! このカルビももういいと思うよ。これ以上焼くと炭になっちゃうし」

 燐はトングで焼き上がった肉を掴むと向かい合わせで座る蛍の皿へと乗せた。

「今度は燐も食べて。野菜ばっかりでも何か良くない気がするし」

 栄養的にも。
 お店的にも。

「これでも結構食べてるつもりなんだけどなぁ……じゃあ一緒に食べるからちょっとだけ待ててね」

「うん」

 本当に気にしていないようで、燐はにこにこしながら網の上の食材が食べごろになるのを見守っている。

 本人が楽しんやっているとはいえ、気を使われっぱなしで燐に悪い気がした。
 世話好きなのはいいことなんだろうけど。

「はい、これは牛タンだよ、って流石に見れば分かるか。味がついてるからそのままでも大丈夫だから」

「分かった」

 蛍は厚めの牛タン肉をお箸で掬って、燐の言う通りにそのまま口の中へと放り込んだ。

 さっきからどのお肉でも美味しいが、これは噛み応えと言うか少し強めの弾力が歯に心地よかった。

 蛍の満足そうな顔を見て安心したのか、燐も程よく焼いた牛タンを緑の葉野菜でくるりと巻いて、手掴みでぱくりと頬張る。

 燐はこの肉と野菜のコンストラクトが好きだった。

「ん~っ、美味しいっ!!」

「本当にね。このお店に来て正解だったね」

 ──蛍と燐は地下鉄を利用して、都内でも有名な焼肉屋……ではなく、リーズナブルな焼肉店へと来ていた。

 蛍が奢るからと、せっかくだから高級(よさそう) な焼肉専門店に入ろうと提案されたのだったが。
 流石に燐はやんわりと拒否した。

 それで結局この店に入ることになったわけなのだが……。

「東京って焼肉食べるのにも行列ができるとか聞いたことがあるけど、ここはそうでもなかったね」

 やや偏見の入った言い方だが、人の多い繁華街の飲食店ならあながち間違いでもなかった。

 その点で言えばこのお店は穴場であり、時間帯を考えればすぐに席に座れたのはラッキーでもあった。

 だからと言って店に入りづらいとかそう言ったものはなく、行列こそはなかったものの店内には割と客が入っていた。

「まだ新しいお店だからかもね。東京で焼肉食べるなら絶対にここがいい! って決めてたの」

「そうなんだね。わたしこれぐらい落ち着いたお店の方が良かったから。ありがと燐」

 余り客がいないのも考え物だし、このぐらいが丁度いいのかも。
 そう蛍は思っていたから燐に感謝した。

 きっと自分に気を使ってこのお店にしたのだと。

「わたしは特に何もしてないけど。でも、お肉も美味しいし料金もそこそこ手ごろだし、言うこと無いよね」

「だね」

 そう言って少し顔を赤らめる燐に蛍はくすっと笑った。

 焼肉を食べると言うだけで迷路みたいな街中をうろうろと徘徊するのかなと蛍は危惧していたのだが、ネットで調べたのか燐がこの店のことを知っていたのでとりあえずと入ってみたのだった。

 よく知らない店に入るのはちょっと抵抗があったし、何より燐の紹介だったから断る理由はなかった。

「ほらほら、蛍ちゃん、もっとガンガン食べてもいいんだよ。わたしがジャンジャン焼いてあげるから」

「そんなにいっぺんには無理だよ~。っていうか燐。ちょっとお肉焼きすぎじゃない? いくら食べ放題だからって」

「折角だから色んなお肉に挑戦してみたくなっちゃって」

 その言葉に悪意の様なものは微塵も感じないから何も言い返せないけれど。

(わたし、今日一日で結構体重増えそうかも……?)

 お肉はそんなに太らないっていうけど、限度があると思うし。
 だからって残しても悪いし。

 箸を咥えたまま首を傾げている蛍。

 一方の燐は焼くことに忙しいのか、蛍の顔を一瞬ちらりと見ただけで、すぐに肉と野菜の焼け具合を注意深く見守る作業へ戻った。

「燐が早く食べてくれないとお肉固くなっちゃうよ」

 焼き待ちのお肉を眺めながら息を一つこぼした。

「え~、蛍ちゃんだってまだまだ食べられるでしょ。今日はいつもよりも食べてない気がするし」

「もう、わたしがそんな大食いじゃないのは燐も知ってるでしょ。いつもこれぐらいだよ」

 むしろちょっと多めに食べているとは思う。
 このままだと……。

「そうかなぁ……? あ、もしかして」

「な、何?」

 燐が、にひひと口角を上げて顔を覗き込んできたので、蛍は上擦った声で聞き返した。

「デザートの為に我慢してるんでしょ? スイーツは別腹、って言っても流石に食べ過ぎたらお腹に入らないもんね」

 燐の指摘に蛍はかぁっと顔を耳まで赤くする。

 どうやら図星だったらしかった。

「まあ、やっぱりメインはそっちかなって。このお店のデザート、種類も豊富みたいだし何か美味しそうだから」

 蛍は素直に白状をすると、開き直ったのか注文用のタブレットを操作して、季節のデザートの項目を指でさした。

「これのこと?」

 蛍がきらきらした瞳で見ているのは、恐らく季節限定のデザート、”メロンとスイカと桃のよくばりパフェ”のことだろう。
 
 ”おすすめ”でも一番最初に表示してあるし。
 使われている画像も大きく派手で、見ただけでも美味しそうだった。
 
 それをまだ頼んでもいないのに、蛍はにこにこしている。
 想像だけで十分楽しんでいるようで、何というか微笑ましかった。

 けど、一つ気になることがある。

「確かに美味しそうだけど、このパフェ上に生クリームが乗ってるよ。これ蛍ちゃん食べられるの?」

 燐の指摘するようにそのパフェにはこんもりと生クリームが盛られていた。

 その事に異議を唱える人は少ないとは思う。

 だが蛍はきっとそうではないだろう。
 蛍は何故か甘党なのに生クリームが苦手なのだから。

 そう思っていたのだが、蛍の口から意外な言葉が飛び出した。

「上の生クリームは燐が食べていいから」

「えっ、そこはわたしが食べるのっ?」

 何となく嫌な予感がしていたが、それを押し付けてくるだなんて。

 燐は開いた口が塞がらないようで、ポカンとした顔になっていた。

「あ、それだけじゃなくて半分は燐にあげるよ、桃とかも。燐は桃好きだったよね」
 
 確かそうだったはず。
 そう思って蛍は問いかけたのだが。

 肝心の燐はそうではないみたいで、あからさまに苦い顔をしていた。

 蛍が気まずそうな目でこちらを見ていたので、燐は頑張って笑みを返した。

「あっ、えっとねぇ、嫌いっていうわけじゃないけど、何ていうか少しトラウマになってる感じなの」

「桃のことが?」

「うん……ちょっとね……って、蛍ちゃん! お肉焦げちゃうっ」

 蛍の前の肉が黒檀みたいになりそうだったので、燐は慌てて叫ぶと急いで反対にひっくり返した。

 炭にはならなかったみたいだが、これを蛍に食べさせるのは流石に悪いので、燐は自分のお皿にそっと置いた。
 
 安堵の息を一つ吐くと、少し疲れた声で燐は続きを話した。

「だからね、最近は食べてないんだ、桃。もう一年ぐらい食べてないのかも」

「そうなんだ。燐は好き嫌いしないと思ってたんだけど」

「そんな……()()人を食いしん坊みたいに言ってぇ~」

「だったら、こっちの苺のパフェにしようか? こっちもおいしそうだよ」

 メニューの隣にあったもう一つのパフェの方に蛍は目を向ける。

 気を使われている事がありありと分かったが、燐もそれに乗った。

「確かにイチゴの方も美味しそうだね。でもね、わたしの事はいいから蛍ちゃんが食べたいのを選んでいいんだからね」

 燐は笑顔を作って蛍にそう促した。

(もう、燐ってば……)

 こんな他愛もないことで燐と言い合いなんてしたくはない。
 せっかくの楽しい時間が台無しになるなんてことは絶対にしたくはなかった。

 蛍は小さくため息をつくと、こくりと頷いた。

 そのまま備え付けのタブレットから注文をする。
 それはもちろんストロベリーのパフェの方を。

「だからもう~、そんなに気を使わなくていいんだってばぁ」

 燐は肩をすくめると複雑そうな顔をつくった。
 蛍は微笑んで返す。

「別に、燐に気を遣ったってわけじゃないよ、ただわたしが食べたい方を選んだってだけ」

「そうー、かなぁ……」

「わたしが自分で言うんだから、そうだよ」

 蛍は何の衒いもなくはっきりとした言葉で答える。

 燐は少し首を捻ったが、蛍の意志が固いことを知っているので、諦めたように深い息をついた。

「やれやれ、もうわかったよぉ。でも、だったら……わたしもちょっと貰ってもいいかなぁ? あっ、蛍ちゃんが全部食べたいなら別にいいんだけど」

「当然だよ。わたしが全部食べれるわけないじゃない。一緒に食べよう」

 蛍は自分の下腹部を両手で軽く押さえた後で、そう燐に言った。

 俯いている蛍を見て、何か察したのか燐はくすりと小さく笑う。

「確かに、今日はデザートばっかり食べてたしね。ほどほどにしておいた方がいいかもね……お互いに」

「何だか……ちょっと語弊がありそうな言い方だね」

 だが別に蛍は怒っているとかそういう訳ではなく。

 口に手を当てて、くすくすと含み笑いをした。

 ──ややあって、注文したパフェが二人のテーブルへと運ばれてくる。

 少女たちは目を輝かせてそのパフェを向かい入れた。

 だが。

「あれ? こっちにも生クリーム乗ってるね?」

「本当だ。画像ではそんなこと無かったのにね」

 二人は顔を見合わせる。

「わたしが全部食べればいいんでしょ、もう」

 蛍に言われるまでもなく、燐は先だってスプーンをパフェの白い山の上へと入れた。

 ……
 ………
 …………

「ふぅ……流石にもうお腹いっぱい」

「うん、わたしも……ご馳走様でした」

 十分に満足できる量を食べたようで、二人はほぼ同時に箸をテーブルの上の皿に置いた。

 食べたのはお肉や野菜だけじゃなく、スイーツも結局パフェだけでなくケーキも追加で注文していたのだから、少女たちのお腹がぱんぱんになってしまうのも必然だった。

 ご飯のおかわりまでついしてしまったし、明日の体重計に乗るのが怖いほどだった。

「さて、と、蛍ちゃん。このままホテルに直行って事はないでしょ?」

「うん、そうかも。今日は何だか色々合ったからすぐには寝付けそうにないもんね」

 燐も蛍もそう言っていたが二人とも寝つきは割といい方なので、強がりとも言える発言であった。

 ちょっとでも体重を落としておきたい乙女心がそうさせたのか、或いは。

 アルコールを飲んだわけでもないのにちょっと興奮しているのも理由ではあった。

 ちなみに、燐の母親である咲良にはこの件を了承してくれたから、こっちで寝泊まりする分には問題はない。

 だが、それ以外のことは自分たちの判断に任せると言ったのだから。
 
 それはつまり何をしても自由ということだった。

 ちゃんと無事に戻ってこれればの話だが。 

「ねぇ、燐、どこかこの辺りで遊べそうなところってあるの?」

 蛍はそう燐に聞いた。
 土地勘の薄い蛍なんかよりも燐の方が断然詳しいと思ったから。

(けど、何で燐はこっちの方に詳しいんだろう……出身ってわけじゃなさそうなのに)

 そこまで燐の過去に興味があるわけじゃないけれど。
 ちょっとした疑問が蛍の脳裏に浮かんだ。

「遊ぶ場所ねぇ……う~ん」

 以外にも燐はそんなに乗り気ではないのか、単純な蛍の問いかけに頭を悩ませているようだった。

「何か問題でもあるの」

 燐が困っているなら力になりたい。
 気持ちとか予算のこと何かでも。

 燐になら何でもしてあげたいから。

「そういうわけじゃないけどぉ……」

 だが、その顔は明らかに何らかの問題を抱えているときの表情だった。

「本当?」

 蛍が心配そうに問いかける。
 
「何て言うかさ」

 燐は若干言いづらそうにしながら言葉を続けた。

「やっぱり東京は面白いんだけど、ちょぉっと危ないんだよね。こういう都心部の繁華街だと特にさ」

「あ、何となくだけどそれ分かるよ。どこ行くにも人が多いから色んな人がいるし、ちょっと怖い感じの人も見かけることあるしね」

 見た目だけで判断しちゃいけないとは思ってはいるけど、やっぱり気にはしてしまう。

 特に人が多すぎるこっちでは特に。

「……うん、そうだね」

 燐はちょっと曖昧に答える。

(やっぱり視線とかちょっと、ね)

 燐は敢えて口に出さなかったが、田舎から上京してきた少女というのは都会では格好の獲物だった。

 特に蛍と燐は人目を惹くほどの容姿を持っていたから。
 地下鉄の時だけでなく、どこに行っても痛いほどの視線を感じていた。

(特に蛍ちゃんはアレだしね……)

 胸部とか臀部とか。

 幼い顔立ちとのギャップが大きかったから余計に衆目を集めてしまっていた。

 本人は全く気付いていないのが良いのか悪いのかは分からないけれど。

「燐が乗り気じゃないならやめようか。ちょっと遊びたい気持ちはあるけど危ない目にはあいたくないしね」

「うん、そうだね……じゃあもうホテルに行く? 何かさっきから眠気が来てるんだよね」

 食い気を満たしたら今度は眠気が襲ってくる。

 人は欲求には逆らえないと言うことなのか、燐は口を開けてあくびをかみ殺していた。

「ふぁ……わたしもかも」

 燐のものが感染ったのか蛍も軽くあくびをした。

 このままだと二人ともこの場で眠ってしまいそうなので、軽く伸びをする。

「ねぇ、燐。ここからだとホテルってどのぐらいなの」

「そうだねぇ、歩いて五分程度かな」

「そっか……あのね、燐」

「ん、なぁに、蛍ちゃん」

 テーブルに頬杖をつきながら蛍が微笑んでいた。

 曇りのない瞳。
 それに見つめられて燐はちょっと恥ずかしくなりぎこちない笑顔で返した。

「……ありがとう」

「えっ?」

「それが言いたかっただけなの」

 悪戯っぽく、くすくすと笑う蛍に燐は一瞬ぽかんとなった。

「何、それぇ。ここのお店のお肉が美味しかったからってこと? それなら店員さんに言えばぁ」

 そう言って燐は軽く笑う。

 確かに美味しかったし、それに比較的リーズナブルだから正直助かった。

 この後のホテル代や帰りの電車賃の等を考えると割とぎりぎりだったし。

(もうなるべく蛍ちゃんの手を煩わせたくはないから)

 蛍のお金ばかりを当てにしていたら、それこそ本当に友達の関係じゃなくなってしまうだろうし。

 それだけは絶対に避けたかったから。

「それだけじゃなくて、全部だよ。今日は本当に楽しかったって、だから燐にちゃんとお礼を言いたかったの」

「別にわたしは何もしてないけど。むしろ振り回しちゃった方かもね」

 蛍は静かに首を横に振る。

「燐と一緒にいるだけでいいんだよ、それだけで楽しくなれちゃうから。わたしってすごく単純なんだと思う」

 蛍は小さな舌をぺろっと出した。
 まるで自虐しているみたいに。

「蛍ちゃん……」

 確かに今の蛍は幸福(しあわせ)そうな顔をしていた。

 蛍の純粋で透明な言葉に共感するように、燐は蛍を真っ直ぐに見つめて言葉を返す。

「わたしの方こそ、蛍ちゃん、本当にありがとう。サプライズ多めでビックリしっぱなしだったけどすっごく楽しめたよ」

「わたしも、今日はずっと胸がどきどきしてた。今夜は良く眠れそうだよ」

 よく知らない場所での一泊だけど、この分なら多分朝までぐっすりだろう。
 何より燐と一緒の部屋なわけだし。

「ふふっ、それはわたしも。多分部屋についたら着替えもしないでベッドに倒れ込んじゃうかも」

 燐の旅行バッグには、二人分の部屋着と下着が入れてあった。

 元々こちらに泊る気はあったし、その為のホテルも前もって幾つか調べていたからそんなに混乱することはなかった。

 ただ、来る目的は燐の想定していたものとは少し違っただけで。

 蛍と一緒に東京に来れたことは、サプライズというか結果オーライと言ったところだった。

 ……
 ……

「やっぱり夜でも人が一杯だね」

「まあ、繁華街だからね、蛍ちゃん、変な人について行ったらダメだからね」

 都会の夜は二人が今現在住んでいるマンション周辺とは違った空気が流れていた。

 本当の都会というか、人も店も昼間以上の熱気に包まれている。

 ここだけ見ると違った国にいるみたいで、何となく場違いな感じを嗅ぎ取っていた。

 ──異邦人(よそもの)の二人みたいに。

 確かに燐の言う様に色とりどりの光に照らされた人々はあの時襲ってきた、顔の見えない人影みたいに見える。

 けど、普通に顔はあるし身体のいたるところに裂け目が出来ていたりなんてことは無い。

 ただ、顔を火照らせて、時折意味の分からない言葉を発している人は居るけど。

 概ね普通の人達。

 口からアルコール臭を漂わせているだけの普通の人が肩を組んだりして、ふらふらと歩いているだけのこと。

 自分がどう見えているのかを気にしない所は同じかもしれないが。

(やっぱり、こういう人達ってどこにでもいるんだ……)

 蛍は無意識に燐の手を取った。

「蛍ちゃん?」

「その……もうちょっと静かな所に行かない? 何ならもうホテルへ行ってもいいかも」

 蛍は寒気を覚えたみたいに小さな唇を震わせて、か細くそう言った。

「あー、そういうことね。確かに、ちょっと酔っぱらいっぽいのが出て来てるみたいだしね。まだそんな時間でもないんだけどなぁ」

 眉を寄せて手を握る蛍を見て、燐は察したように軽い言葉をこぼした。

「うん……わたしそういうのちょっと苦手」

「わたしもだよ、それは。じゃあ、食後の運動も兼ねて夜の散歩でもしようか?」

「そうだね」

 燐の提案に蛍は大きく頷くと、自分から燐を引っ張って行こうとする。

 けれど。

「蛍ちゃん何処行く気なの?」

 きょとんとした声の燐。

 何処と尋ねられて、蛍は困った顔をした。

「その、公園とか緑のある静かな所の方がいいのかなって」

 別にそういった自然と戯れたいわけではないが、今のこの場所よりかはちょっとは落ち着く気がしたのだ。

 都会の公園だから変な動物とかいるはずもないし。
 変な人は居るかもしれないけど……。

「なるほどね」

 苦し紛れな感じの言葉だったが、燐は意外にも納得したようで関心したように頷いている。

「だったら、あそこに行ってみない? 今ならだいぶ静かになってるとは思うよ」

「燐、あそこって?」

「行けばきっと分かるよ。ここからそんなに遠くないからついてきて」

 ぐいっと手を引っ張られる。

 そんなに強い力ではないが、ちょっと強引に燐に誘われるのは全然嫌いじゃない、むしろ好きな方だったから。

「うんっ」

 蛍は何の疑いもなく返事をし、燐の後へとついて行く。

 見知らぬ土地のどこに連れていかれるのやらと少し不安な気持ちと、ワクワク感が交差していた。
 
 昼間ならまだいいけど、都会でも夜はちょっとまだ苦手だった。

 あの日を境に夜だけでなく、暗闇にも怖く感じるようになったから。

 燐が一緒だから多分大丈夫だとは思うけど。

 蛍は燐の背中を追いながら、ふと考える。
 
(燐はわたしの為に走り回ってくれるよね、いつも)

 そのまま追いついてその小さな身体を後ろから抱きしめたい衝動に駆られたが、それを頭から打ち消すと、二人の手が離れないように懸命に足を動かした。

(やっぱり、ちょっと食べ過ぎだったかも)

 少し足が重い事に違和感を覚えながら、燐と蛍は赤ら顔の人の群れを躱して夜の街を駆け抜けていった。

 ……
 ……
 ……




If only I could be a constellation.

 

 近くで一目見た時、蛍にはそれが夜空に浮かぶビーズの様にも見えた。

 もしくは、定規を貼り合わせた鉄の幹のようにも。

 

 もちろん実際には、ただ大きな鉄塔が赤と白に発光しているだけだった。

 

 鉄塔と言っても一般的なものとは比較にならないほどの高さがあり、ここからだとその先端が見えない程だった。

 

「……」

 

 二人はしばらく呆然とその巨大な鉄塔を真下から振り仰いでいた。

 

 ──燐に手を引かれてやってきたのは、ビルとビルの狭間に立つ建造物の前だった。

 

 空の隙間からちらちらと見え隠れしていたから、もしかしてと思ったけれど。

 

 近くまで来るとそれがよく分かるようになり、その全体がLEDの光で覆われていた。

 

 光の集合体の有り様は、あの息の出来る水中で遭遇した色とりどりの光の粒の大群とどこか酷似していた。

 

 これよりも高いビルが立ち並ぶようになっても、それでもこの街のシンボルとして相応しい存在感を確かに放っていた。

 

「蛍ちゃん、見るのって初めて?」

 

「うん、テレビとかでは見たことあるけど」

 

「だよね、有名だもんね」

 

 恐らく日本で一番有名な建造物だろう。

 もう60年以上前の物なのにその存在感は今でも十分健在だった。

 

「それにしても、こんなに近くにあったんだね」

 

 ホテルに行く前に燐が寄ろうと言ったのはこれか。

 

 蛍はぼんやりと光を放つそれを凝視した。

 

 少し不思議な感情が一瞬頭をよぎった。

 

「おっきいね。”東京タワー”」

 

 蛍は嘆息したように呟く。

 

「間近で見ると随分迫力あるよね。周りのビルの方が高くなっちゃったけどそれでも大きいよねー。あ、もしかして”スカイツリー”の方が見てみたかった? 確か、ここからでも見えなくは無いはずなんだけど……」

 

 そう言った燐はちょこんと爪先立ちをして、見回すように手を眉毛の上へとかざす。

 

 そちらの方向に見えるのだろうが、周りはビルに囲まれている上に今は夜だから到底みえるはずもない。

 

 向こうもライトアップされているはずだが、周りのビルも煌びやかあったためどの光がそうなのか判別がつかなかった。

 

「別にこっちでも大丈夫だよ。それに東京タワーってわたし結構好きだよ。ちょっと可愛いし」

 

 蛍がにこりとした笑顔を向けてくれたので、燐は安堵した笑みを返した。

 

「う~ん、可愛いと言えば可愛い……のかな、色合いとか? まあライトアップされてるから綺麗なのは確かだけどね」

 

(でも、これってライトアップだけのせいなのかな)

 

 こっちでは全然星が見つからないからちょっと不思議に思ってたけど、その理由がようやく分かった。

 

 都会の真ん中に山のようにそびえ立つ、眩い光のモニュメントがそびえ立っているのだから。

 

 夜空の光が届かないのも無理ないこと、なんだろう。

 

 星も陰るほどの赤々とした粒子の集まり。

 

 それが二人の眼前にそそり立っていたのだから。

 

「ほら、わたし達って”地下鉄”使ってきたでしょ? だから、蛍ちゃんに見せたかったんだ」

 

「確かに、景色とか全然見えなかったもんね、ずっとトンネルの中にいるのと殆ど変わらなかった」

 

 蛍は素直な意見を口にする。

 

 穴倉みたいなホームで電車を待つ間は確かにドキドキしていたけど、列車の中はそこまで変わってはいないし、外の景色は真っ暗で実際長いトンネルに入っているのと同じ感覚だった。

 

「だって地下鉄なんだしそんなもんだよ。直ぐの所で駅があるから移動には便利なんだけどね」

 

 バス並みにね、と燐は補足をつけ足して言った。

 

「駅に着いたと思ったらもう次の駅とかになるんだもんね。燐の言うみたいにバス代わりに使われているんだね」

 

 場所によっては500メートルも離れていないかもしれない。

 そんな短い区間に駅があるなんて。

 

「うんうん、モノレールなんかもそうだもんね。こういうのってわたし達の使うローカル線なんかじゃ考えられないことだよねぇ」

 

「駅と駅の間隔が凄く長いもんね」

 

 そう言って苦笑いする蛍に、燐も同意するように頷いた。

 

 

「……なんかさ」

 

「うん?」

 

「東京タワーって、ちょっとだけあの風車に似てる気がする。あ、もちろん形とか高さとかは全然違うんだけど」

 

 蛍は風船のようなふわっとした声色で空に言葉を浮かべる。

 

 明らかに全く違うものだが、きっと伝わるだろう。

 そう願いをかけて、そっと宙につぶやいた。

 

「蛍ちゃんの言いたい事、何となくだけど分かるよ。雰囲気っていうか……どっちともシンボルだもんね」

 

 燐は懐かしむような瞳で巨大な鉄塔を上から下まで眺めた。

 

 建造物的な類似ではなく、抽象的な相違と言ったらよいのか。

 

 小平口町では、電力の為の風車ぐらいしか目を引く建造物がなかったから。

 ある意味、必然的にこの大きな電波塔と同じように見えるのだろう。

 

 とは言ってもこちらは日本で唯一のものに対して、あの風車は比較的そこまで珍しいものではないし、それに。

 

(東京タワーは観光施設になってるけど、あの風車は別に)

 

 ただの発電用の装置でしかない。

 

 高さとか規模は関係なしにまったく比較にならないのだ。

 小平口町のあの風車とは。

 

 ひとりぼっちで立っているという点だけで見れば同じかもしれないが。

 

(それにしても、白い風車……ね)

 

 あれからどれぐらいの時間が流れたんだろう。

 

 日々が早すぎてあの日の記憶すら薄れそうになってしまう。

 

 それはいいことなんだと思う。

 嫌だった出来事をいつまでも覚えていたって、きっと何も生まないから。

 

(そうだよね……お兄ちゃん……ごめんね、また会いに行かなくて)

 

 燐は衝動的駆られたように蛍の手を握る。

 

 蛍は一瞬こちらを振り向いたが、すぐにぎゅっと握り返した。

 

 二人は手を手を取り合ったまま、電飾で彩られた鉄塔を言葉なく眺めた。まあ、カップルだらけかもしれないけど」

 

 茶化すように燐が問いかける。

 それを受けて蛍はちょっと考えたが。

 

「ううん、ここでいいよ。カップルだらけなら尚更だし」

 

 小さく首を横に振った。

 

「まあ、そうだよねぇ」

 

 そう言うのが分かっていたみたいに燐は小さく笑うと、また視線を上へと向けた。

 

「実はね、わたしもそう思ってたんだ。別に上まで行かなくてもいいかなって……あ、でも、お金が勿体ないとかそういうんじゃないんだよっ」

 

 そう言った燐の横顔を見ながら蛍は口元を緩める。

 

 燐と同じ考えだったことがちょっと嬉しかった。

 

「分かってるよ、燐の気持ち」

 

 ライトアップされているとか、見上げたときの迫力とかそういうのではなく。

 

 今のこの景色がとてもうつくしく感じるのは多分あの時と同じ、だから。

 

 風車は風車でも、あの時見た、青と白の世界で風車が立ち並ぶ不思議な空間。

 

 その時と想いが一緒だったから。

 

(そう……こんなにも綺麗に感じるのは、きっと燐と一緒だから)

 

 好きな人と綺麗な景色を見られることが何よりも嬉しい。

 

 だから目に映るもの全てが儚くて、綺麗なんだ。

 

「あのね、蛍ちゃん」

 

「うん」

 

「わたしもね、蛍ちゃんに”ブラック&ホワイト”しなくちゃならないことがあるんだけど……いいかな?」

 

「あ、うん、別にいいけど……」

 

(燐、まだその言葉使うんだ……)

 

 ちょっと呆れそうになったがそれは胸の内にしまい、蛍はにこっと微笑んで燐に話を促した。

 

「ありがとう蛍ちゃん」

 

 燐は小さい声でお礼の言葉を述べると、少し緊張した声で話し始める。

 

 気持ちが伝播したのか、蛍も無意識に表情を硬くしていた。

 

「わたしさ、初めて言うけど、東京の大学を受けてみようかなって思ってるの。まだ受かるかなんて全然分からないけど。でも、そのつもりで頑張ってるんだ」

 

 赤と白の鉄塔を見上げながら、燐は少し早口に自分の思いを吐露した。

 

 その事を初めて聞いた蛍は、流石に固まっていた。

 

 最近の燐がよく勉強してることは知っていたけど、まさかそんな目標があったなんて。

 

 今の今まで知らなかったことだったから。

 

 燐は蛍の表情を心配そうに窺いながらも、あえて話を続けた。

 

「ごめんね、急な話しちゃって。でも今の段階だと受験する学校のボーダーぎりぎりって感じなんだ。だからまあ無理かもって思ってるところはあるんだけどね……でも」

 

 燐のその言葉に蛍にはある事を思い出した。

 

「でも、燐は受けてみたいんでしょ? 可能性は薄いかもしれないのに」

 

 ちょっとキツイ文言になっていたが、今の蛍は感情のコントロールが出来ないでいた。

 それだけ動揺してるということだった。

 

「うん」

 

 けれど燐は素直に頷いた。

 

 意思の入った言葉に蛍ははっと我に返ったのか、目を大きく見開くと耳を赤くしながら恥ずかしそうにゆっくりと口を開いた。

 

「だったら……わたしから言う事は何もないかな。燐が決めた事なんだし……あ、じゃあちょっと前に咲良さんと一緒に出かけてたのって……?」

 

 珍しく、母娘(おやこ)だけで旅行へみたいだから、流石に蛍は同行しなかったけど、今思えばそういう事だったんだ。

 

「うん……そうなの。一度受ける大学まで行ったんだ。わたしはひとりで行くって言ったのにお母さんが一緒について行くって聞かなくてさぁ」

 

 やれやれと首を振って肩をすくめる燐。

 

 母親が自分にべったりになったことに呆れというか、少し戸惑っているようにも見えるけれど……。

 

(そっか、だからなんだ)

 

 燐がやけにこっちの事に詳しいのと、その行動に一切の迷いがないこと理由は。

 

 前に知っていたからなんだ、と。

 

 それが分かった。

 

「ごめんね、蛍ちゃんに黙ってて。やっぱり……怒っちゃった、よね?」

 

 燐は気遣(きづか)わしげに蛍を見る。

 

 蛍は燐が思っているほど落ち着いているようで、燐がじっと見つめていることにきょとんとした顔をしていた。

 

 やっぱり無理しているのかもしれないと思ったのだが。

 

「ううん、ちょっとショックはあるけど……けど大丈夫だよ。それに何となくだけどこうなるじゃないかって思ってたんだ」

 

「えっ、そうなの? わたし結構顔に出やすいからなぁ……あ、もしかしてお母さんから何か聞いてたとか」

 

 ふるふると蛍は首を振る。

 

「それはないよ。ただ燐とは違う道を行くのかなって、漠然とだけどそんな予感がしていただけ。本当にそうなるとは思わなかったけど」

 

 蛍は泣き笑いのような表情になる。

 

 燐はそんな蛍の両手をとって、真っ直ぐに見つめた。

 

「そっか、じゃあわたしと同じだね。蛍ちゃんとはずっと仲良しだと思うけど、将来は別の方向に行く気がしてたの。あ、でもね、蛍ちゃん、これだけは言っておくね。とっても大事なことだから」

 

「?」

 

 まだ他にも何かあるのだろうか?

 呼び止めるような燐の言葉に蛍は小さく首を傾げてその続きを待った。

 

「もし、仮に東京の大学に通うことになっても、わたし……今のマンションから通うつもりだから!」

 

「えっ、燐、それって!?」

 

 蛍はたまらず丸く開けた口元を手で押さえた。

 

 それぐらい衝撃的なことだった。

 燐の言っていることは。

 

 理解が追い付かないというか、まだ話がよく呑み込めなかった。

 

 蛍の動揺を察したのか、燐は小さく笑うと、ちょっと訂正して話す。

 

「ごめんね、また急な話しちゃって。んとね、新幹線なら東京へ通うにしてもそんなに時間掛からないでしょ? だから定期券を使って通学するつもりなんだ」

 

「でも、それだと結構お金掛かるんじゃ」

 

「あ、それは一応大丈夫。上手くいけば奨学金も出るみたいだし、それにお母さんからも許可もらってるから。まあ……入学祝いみたいなもんだろうけどね」

 

 もちろんまだ受験すらしていないから、合格後の”ご褒美”的なものだろう。

 我儘を聞いてあげるからその代わり頑張りなさい的なものの。

 

「それにさ、東京で一人暮らしするのって結構お金かかるんだよ。家具とかも揃えないといけないし。ざっと計算してみたらむしろ定期代の方が安くあがるぐらいだし」

 

「そ、そうなんだ。わたしそういうのよくわからないから……」

 

 金銭感覚の疎い蛍には分からないことだったが、蛍と違って几帳面な燐がそう言うのだからきっと間違いないのだろう。

 

 それにしても、知らないことだったとはいえ地方との物価の差? に蛍は軽くショックを受けていた。

 

「それにさ、やっぱり女の子の一人暮らしは危ないとか今更言ってるんだよ。だからもう子供じゃないって散々言ってるのにさぁ」

 

 燐はため息と一緒に愚痴をこぼす。

 

 来年の春にはもう大学生になるんだし。

 もちろん上手くいけばの話だけど。

 

「それは仕方ないよ、やっぱり心配なんだよ燐のことが」

 

「えー、自分は散々好き勝手してるのにぃ!?」

 

 燐は口をつんと尖らせる。

 蛍はそんな燐の仕草に苦笑いした。

 

 燐の言う”好き勝手”とは離婚する時の母親の一連の行動の事だろう。

 

 一人娘をほったらかしにして、ひとりで奔走していたのだから、燐が未だに怒るのも無理ない事だった。

 

 それでもやっぱり母親は何だかんだ言って娘のことが心配なんだろうと。

 

 父や母のことを良く知らない蛍にもそれは分かった。

 

 笑う蛍を見て、燐はむーとむくれていたが。

 

「あ、ごめん、わたしの事ばっかり話しちゃって。えっと、確か蛍ちゃんって……」

 

「うん。燐はもう知ってるよね、わたしが地元の大学を選んだってことは」

 

「確か、もうAO入試(総合型選抜)したんだよね? 秋ごろには合否が分かるっていうあの」

 

 こくんと蛍は小さく頷く。

 

 AO入試は学校の成績や面接、論文などで入学できる、割と比較的新しい試験制度のことだった。

 

 本番が苦手な蛍にはうってつけと思い、試しに申し込みをしてみたのだが。

 

「結局テストは普通にあったし、わたしもそんな手ごたえみたいなのは全然感じなかったけど」

 

「そっかー、でも蛍ちゃんなら大丈夫だと思うよ」

 

「どうして?」

 

「だって綺麗で可愛いから」

 

「またそうやって」

 

 容姿は関係ないでしょ。

 

 蛍は呆れた息をついた。

 

 けど、ちょっとだけ気持ちが楽になった。

 

 だから蛍は素直にお礼を言った。

 

「ありがと、燐」

 

「でも、燐も推薦で入れてくれる学校があるんでしょ。わざわざ東京の、それも難しい試験なんか受けなくてもいいのに」

 

「あー、アレね」

 

 燐はまるで今初めて聞いたようなやや間の抜けた声を上げた。

 

「スポーツ推薦とか、わたしはそこまでのものじゃないから。ホッケー部だってそんな大した成績残せなかったしね」

 

 最後の夏の大会もそこそこの所までしかいけなかった。

 

 悔いは特にないけど、やっぱりちょっと残念ではあった。

 これでも三年間続けてきたわけだったし。

 

「でも、ちょっと勿体ない気がする。だって燐、あんなに頑張ってたのに」

 

「そう? でも大学行ってまで続けたいとは思わないなぁ。それよりも今は他の事に興味あるから」

 

「他の事って?」

 

「それはね……自分のこと」

 

「自分の……こと?」

 

 さっきから燐の言葉を反芻しているだけだとは分かっていたが、それでも蛍は聞き返した。

 

 ()()()()()()()()を持っているのは自分だけではないと。

 

 彼女にもその権利、理由がある。

 

 だから。

 

 燐の言う、”自分の事”とはやっぱり、あの事だろうと。

 

(燐だって気にしてるんだ……自分の……多分、座敷童のこと……)

 

 自分は座敷童としての一生を終えてしまうだろうが、その場合燐が入れ替わる形で座敷童になる。

 

 そう蛍は仮定をしていた。

 

 ただ、これまでの座敷童とは違う形になるだろうから、異変みたいなようなことはそうそう起きないとは思っているけど。

 

「わたしね、もっと視野を広く持ちたいの。誰にも頼らないように」

 

 燐はそこで一呼吸置くと、少し眉根を下げて小さく微笑んだ。

 

「蛍ちゃんみたいに、優しい人になりたいなって。わたし結構欲張りみたいだから」

 

「燐……」

 

 寂しそうに笑う燐に蛍はなにも言えず、ただ意味もなく口を開いた。

 

 結局、辛いだけだったのだろうか。

 

 あの夜のことも。

 おわった後のことも。

 

 不幸の後だから良いことが起きるなんて都合の良い話はやっぱりないんだ。

 

 こころは壊れなかったけど、受けた傷や()()はもう元には戻らないのだと。

 

「燐は、わたしのこと、買いかぶりすぎだよ」

 

 蛍はぼそっと一言呟いた。

 

 頬が少し赤らんでいるのは、赤のLEDに照らされているせい、だけじゃない。

 黒い瞳の奥を微かに揺らしていたから。

 

「そうかなぁ。蛍ちゃん凄いと思うよ。頭良いし、いつも優しいし」

 

「そんなことはないよ。わたし何てこれと言ってなにも持ってないんだし。燐の方がずっとずっと凄いよ。何でも出来るもん」

 

 このままだと不毛なやり取りを延々と続けそう。

 そう思った燐はちょっと強引に話の行き先を変えた。

 

「……まあ、そう言うのって自分じゃよくわからないって言うからね。わたしは蛍ちゃんの良い所いっぱい知ってるから」

 

 燐が何の衒いもなく言うので、蛍は余計に顔を赤くした。

 

「すぐそうやって、燐はわたしのことをからかうし……」

 

「別にからかってなんかないよ。あ、でもね」

 

 燐は不意に大きな目をくりっとさせた。

 

 たったそれだけで蛍の鼓動がドキッと大きく鳴った。

 

「別にそういう……何ていうか、思い詰めたようなことじゃないの。ただ、周りじゃなくて自分がどう思うかで考えたいなって……それだけなの」

 

 言っていることの意味は分かる。

 燐の思いも。

 

 でも、肝心のところ。

 もっとも大切なことがどうしても分からなかった。

 

「でもそれだと……わざわざ遠くの大学に行く理由にはならなくないかな」

 

「確かにね」 

 

 蛍がそう問いただすと、燐は少し困った顔で小さく呟いた。

 

 一息ついて燐の次の言葉を待つ。

 

 大丈夫。

 ちゃんと返してくれる。

 

 わたしの好きな人はそういう人だから。

 

「もっとさ、ちゃんと勉強しないとダメな気がしちゃって、だから自分でもちょっと無理かもってとこに挑戦してみたかったの」

 

 何かを指し示すように先のとがった電波塔を見上げながら、静かな声色で燐はそう言った。

 

「燐はあれでもまだ、勉強し足りないの? いつも頑張ってるのに。燐みたいに勉強もしながら部活も頑張るのってそうそう出来る事じゃないよ。あ、パン屋さんのバイトもそうだね」

 

 そう考えると燐は一人で何役もこなしている。

 

 蛍は燐の頑張りにいつも感心しているが、良く体が持つなぁと少し心配もしていた。

 

(心配なのは身体だけじゃないんだけどね)

 

 ホッケー部だって結局部長にまでなったわけだし、燐はなんにでも一生懸命に取り組んでいる。

 

 本当に自分とは大違いだし、そういう意味では燐はまったく変わっていない。

 

 それが良いか悪いのかは、周りが決める事じゃないとしても。

 

「そう? そんなに特別な事とは思ってないけどね。まあパン屋の方は最近はそんなにやれてないけど」

 

 燐はそう言ったが、あの”ナナシ山”での一件以来、特に予定のない休みの時は”青いドアのパン屋さん”で店を手伝っていた。

 

 それに蛍も普通について行っていたので、二人の休日はパン屋の手伝いか受験勉強のほぼ二択となっていた。

 

 だからこうして二人で一緒に出かける事自体、割と久しぶりだったのだけれど。

 

「でも、蛍ちゃんありがとう。いっつも応援してくれてたり、わたしのこと手伝ってくれたりして。蛍ちゃんがちゃんと見てくれてるからわたしはいつだって頑張れるんだよ」

 

 一緒にいなくとも視線を感じることがある。

 

 やっぱりあの時からかもしれない。

 

 悪夢のような夜の出来事が。

 燐と蛍、まだちょっとぎこちなかった少女達の気持ちをちょっとだけ近づけたのだと。

 

 ……いっしょに暮らすようになったぐらいだから、だいぶ近づいたのかもしれないが。

 

「燐が頑張れるなら良かった」

 

 蛍はそっとうなずく。

 

 それと同時に不意に目頭が熱くなった。

 

 頬が火照っていることに気付いて蛍は恥ずかしそうに俯く……のではなく、燐に視線を見られないようにと上を向いた。

 

「あ、そういえば……」

 

 その時視界に入った赤と白のツートンカラーの光を見た時、蛍の脳裏にあることが急に思い浮かび思わず声が出ていた。

 

「どうかした?」

 

「ちょっと思い出したことがあるの。前にクイズ番組か何かで見たんだと思うんだけど」

 

「うん」

 

 蛍は思い出すように一つ一つ言葉を重ねた。

 

「東京タワーって12月23日に開業したみたいなの。でも、クリスマスに近いからって赤と白にしたわけじゃないみたいなの。偶然そうなったみたいなんだって」

 

「まあ、そうだよね。いくらイブの前日に近いからってそれは流石にないよねぇ」

 

「うん。航空法に基づいて赤と白にしたんだって。黄色と黒、緑とかの組み合わせとかもあったみたいだよ」

 

「へぇ~、なら今の色合いで良かった気がするね。今でも十分目立つし」

 

 周りが灰色の建物だらけだから、余計に映えるのかもしれない。

 

 今でも景色に埋もれないのは、そういったデザイン性の高さからくるものだと。

 

 燐はそう思った。

 

「うん、それにちょっと可愛いもんね」

 

「あ、それ何か分かるー。無骨過ぎない所がいいよね、曲線的な感じとか」

 

「怪獣映画とかに出てくるとすぐに壊されちゃうイメージあるけどね」

 

「ねー」

 

 二人はくすくすと声を潜めて笑い合った。

 

「あ、でも、燐の考えでもいいと思うよ。ちょっとロマンチックな感じがして、わたし好きだなぁ」

 

 同じ景色でも考え方ひとつで違ったものに見えるみたいに。

 

 近いとか遠いとかの表面的な事象ではなく。

 

 内と外、物事の両面を認識できるかどうかの些細な違い。

 

 その、ちょっとした認識のズレが、歪みを生んでしまうんだろうと。

 

「わたしは、燐と見た景色をずっと忘れないよ。今の夏も、あの時の……不思議な夜のことだって」

 

「それはわたしも同じ。まあ、忘れようとしても忘れられない出来事だったからね。普通じゃ到底体験できないよ、あんな事は」

 

「……うん、そうだね。忘れる事なんかとてもできないよね」

 

 もうずっと遠く、ずっと長い夜の出来事。

 

 とびきりの悪意と狂気をどろどろに溶かし込んだ不条理そのものの世界の中で、意味も理由も分からないまま逃げ回っていた。

 

 夢と現実の境が壊れていた夜があったのだと。

 

 たった三日間のことがそれまで積み重ねてきた価値観や何かもをバラバラにしてしまった。

 

 他意も無為もなくあっけなく。

 

 ただその先を見守ることしか出来なかった。

 

 季節は過ぎ、新たな年が始まっても、かわらない。

 

 思いはあの夜にずっと置き去りのまま。

 ずっと夢に囚われているみたいに。

 

 現実感が未だに追いついていなかった。

 

「変わらないよね、わたし達。()()()()()()に遭ったのにさ」

 

「うん……でも、だからじゃないかな。燐と今でも一緒にいられるのは。女の子同士の同居って結構喧嘩が多いみたいだから」

 

「それは蛍ちゃんがいつも優しいから」

 

「それは燐の方だよ」

 

 悪戯っぽい目で燐が笑う。

 蛍はちょっと困り顔で笑みを返す。

 

 二人は久しぶりに顔を合わせたみたいに真っ直ぐに向かい合い、少しの驚きと感動を瞳に湛えて微笑んだ。

 

 まだ良く知らない町の暗い空でふたりっきり。

 

 周りは殺風景な駐車場だけど、それでもとても特別な場所に思えた。

 

 そう、登る必要なんてない。

 

 二人が一緒にいる。

 

 それだけでもう十分理由になってるのだから。

 

「あのね、蛍ちゃん」

 

「なに、燐」

 

「もう一度ここに来ない? 冬の時期にはちょっと変わったライトアップになるみたいだし。それに……」

 

「……燐」

 

「それにさ、その頃になればお互いの行き先もきっとはっきりしてるんじゃないかな。それぞれの進むべき方向っていうのがさ」

 

「そうかもしれないね。12月になればもう色々分かっちゃうよね」

 

 確かにそうだ。

 

 きっとその頃には答えが出ているだろう。

 

 燐もわたしも

 

「でもね、燐。もしも、その前に……”いなくなっていた”ら?」

 

 肝心な事は呑み込んで蛍がひとり言みたいに問いかける。

 

「蛍ちゃんそれって──」

 

「………」

 

 ”何”とは言えなかった、とても。

 

 それを口にしたら、きっと何かが壊れていってしまう。

 

 あの日見た青い空のように。

 

 思いとか関係なしに、言葉はヒトを慰めることも傷つけることもできるもの。

 

 あの歪んだ時間で唯一分かったことはただ、それだけだったから。

 

「その時は……きっと」

 

 燐はそこで言い淀む。

 

 軽々しい、気休めなんかとても言えなかった。

 

 

 蛍は燐を見つめた。

 

 燐も蛍をじっと見つめていた。

 

 それぞれの視線の先に互いの姿が映り込む。

 

 それは光り続ける鉄塔よりも鮮明にその姿を捉えていた。

 

 ただそれだけの事が、二人の特別な時間だった。

 

 ……

 ……

 ……

 

「どうしたの燐、なんで急に……?」

 

 蛍が目をぱちくりさせる。

 

 信じられないというか。

 本当に急なことだったから、つい訝し気な声で燐に訊ねた。

 

「あ、うん。何かさ急に歌いたくなってきちゃって。周りが静かだからかも」

 

 そう言って燐はまた口ずさむ。

 

 鼻歌交じりの声で燐が歌うのはもちろん、”例えば月の階段で”だった。

 

 あの夜のことで残っている事と言えば少女たちの想いと記憶、そして、不思議なラジオから聞こえてきた、この歌ぐらいだった。

 

 蛍と燐は、車の中で歌ったこの曲を耳だけを頼りにメロディを作り、楽譜を引いたのだった。

 

 それは、小平口町で起こった歪んだ夜の手掛かりを知るためだけに。

 

 結局何の手掛かりも得られずに終わってしまったのだったけど。

 

(こうして曲として残っているのなら意味ないわけじゃなかったんだね)

 

 蛍はそう感嘆する。

 そして蛍もそっと歌い出した。

 

 燐が何かの合図を送ったわけじゃない、自然と口から歌が流れていた。

 

「──もしも全てを忘れても」

 

「……覚えていても」

 

 それすらも同じ、だから。

 

 二人はこの歌詞で一番好きなフレーズに声を合わせて歌う。

 

 蛍と燐。

 互いの手だけでなく、気持ちも合わせて奏であう。

 

(けど……本当は分かってる)

 

 この歌は別れを示唆した歌詞になっていることを。

 

 それは、きっと。

 

 燐はそれが分かっていても尚、自分から歌い出していた。

 

 やっぱり好きな曲だったし、それに。

 

 二人っきりの夜だったから──。

 

 実際は周りにちらほら人がいるが、お咎めとかそう言った抗議を受けないのは、多分この夜のせい。

 

 月すらも隠すほどのキラキラとした夜だったから。

 

 季節の境目だったから。

 

 だから良かったんだろうと思う。

 

 それに東京と言う巨大な町が。

 こういうことを受け入れてくれたんだと思う。

 

(それは、失ったわけではないから……そうだね)

 

 自分達以外の誰かの歌声が耳に届く。

 

 こんな、名も知れないような歌を誰が一緒に歌っているんだろう?

 

 そっと目で見渡してみたが、それらしい人影は見当たらない。

 

 蛍が首を傾げると、ぼんやりとした星がいつの間にか夜空に浮かんでいた。

 

(あ、そうか、わたしは)

 

 もし、消えてしまうのなら星になりたいと。

 

 そう──思っているんだ。

 

 星座なんてそんな大それたものじゃない、ただ小さく光る星でいい。

 

 冷たい石の下なんかじゃなく。

 

 寂しさを感じた時に見える星でいい。

 

 あなただけが見える星。

 

 それが自分にとって本当の幸いなのだと、今ハッキリと気付いた。

 

「どうかしたの?」

 

 歌い終えた後、蛍が上を向いたまま一点を見つめていることに気付いた燐が声を掛ける。

 

 夜空の星か飛行機の明かりか、そんなのを見つけたのだろうと言った感じで軽く微笑みながら。

 

「近すぎて気付かなかったけど、ようやく見つけたの」

 

「見つけたって? 夏の星座とか?」

 

「うん、そういうもんかも」

 

 ちょっと困ったように微笑みながら蛍が答える。

 

 何となく艶のある、憂いの表情をしているように見えたが、きっとライトアップのせいだろうと思い燐はそれほど気にはしなかった。

 

「ここはちょっとだけ開けてる場所だから、都会でも星座が見えるのかもね。今だと何が見えるんだったっけ?」

 

「それは”燐”、だよ」

 

「ふえっ?」

 

 その瞬間──耳がキーンとなった。

 

 その原因は不意打ちと、多分……歓喜。

 うれしいんだと思う。

 

 でも疑問もあった。

 

 どうして、と。

 

 そう聞きたかったけれど、口が巾着のようにもごもごと動くだけだから。

 

 代わりに手をぎゅっと繋いだ。

 

 その気持ちを確かめたくて。

 

 どくんどくんと。

 お互いの鼓動が高くなっているのが分かる。

 

 その音がもっと聞きたくて折れそうになるほど指を絡めてぎゅっとした。

 

 同じような強さでぎゅっと握りしめられる。

 

 それだけでちょっと安心した。

 

 身体の力が全部抜けるぐらいに。

 

「……あのさ、蛍ちゃん」

 

「なぁに、燐」

 

「何で……急にくっついてきたの? わたし、”前みたいに”蛍ちゃんが倒れちゃった! って、ちょっと焦っちゃったよぉ」

 

「あはは、ごめん。でも、本当にまた倒れそうになったら、燐はこうやって支えてくれる?」

 

 蛍は明るい声でそう質問をする。

 燐はため息を一つ落とすと。

 

「それはもちろんだよ。でも出来れば倒れる前に言ってね。いつでもわたしが一緒にいるとは限らないから」

 

「うん……分かった」

 

(それが出来るのなら苦労はないんだろうけどね)

 

 蛍は少し唇を震わせた。

 

「そろそろ行ってみる? 夏だからって油断してると身体冷えちゃうし」

 

 周りを取り囲むコンクリートから流れてくる湿り気を伴った風が、夏なのに少し肌寒く感じさせた。

 

「まだいいよ。もう少しこのままでも」

 

「そう? まあ蛍ちゃんがそう言うのならいいけどね」

 

 少し呆れたように言葉を投げると、蛍の肩を片方の手でそっと抱き寄せた。

 

 小さな肩と肩がぴたっとくっつく。

 

 ちょっとだけ驚いた顔を見せた蛍だったが、嫌がる素振りはみせずに、むしろ自分から燐の手に自身の細い腕を絡めた。

 

 暑苦しくなんかない。

 むしろ心地よい。

 

 心から安心できる。

 

 上質なフランネル生地なんかよりもずっと暖かく柔らかい。

 

 二人の鼓動と鼓動が重なり合う瞬間、息が止まるほどの多幸感が二人を包んだ。

 

(もう、ずっとこのままで)

 

 二人一緒に固まり合ってもいいぐらいに。

 

 この時間が少しでも長く続くようにと強く願いながら。

 

 二人は肩を寄せ合ったまま空を見上げた。

 

 ちらちらと薄い煙の様な光が三角形の頂点。

 その白い線の上で瞬いていた。

 

 

「ねぇ、蛍ちゃん。ちょっと相談っていうか提案があるんだけど……」

 

 すぐ隣でちょっと複雑な表情で宙を見上げている蛍を燐は横目でちらっと見やると、誰に聞かせる風でもなく、まるで詩を詠んでいるみたいに上を向いてそっと呟いた。

 

「何、燐? 何でも言って」

 

 燐の方に頭をもたせながら、蛍は微睡んだ声を出した。

 

「じゃあ、ちょおっと耳を貸してね」

 

「耳を?」

 

「うん、あんまり、人に聞かれたくはない話だから」

 

 こんなに密着しているのだから、普通に話してもよさそうなのに。

 

「まさか、エッチな話とかじゃないよね?」

 

「もう、そんなことないよっ」

 

 燐が膨らんだ頬を押し付けてくる。

 

 もちもちとした柔らかさが頬や耳に当たってちょっとこそばゆい。

 

「それなら、話してもいいよ」

 

「うん、ありがと」

 

 燐はくすっと微笑むと、蛍の長い髪をそっと後ろに流してその小さな耳元に唇を寄せた。

 

 作り物の光よりもずっと綺麗。

 それを間近で受け止められる喜び。

 

 燐が自分だけを見て誰にも聞かせない内緒の話をしてくれることが嬉しいんだ。

 

 胸の内に抱えているもの全て。

 裏も表も丸ごと全部見せて欲しい。

 

 あなたの全てが欲しいと願う。

 

 わたしは燐よりもずっと我がままなんだ。

 きっと。

 

「あのね、蛍ちゃん……ね、け………をして、……っていうのどう?」

 

 揺蕩うように瞳を揺らしながら、燐の話に耳を傾けていた蛍だったが。

 

 それは耳を疑うような話だったので、蛍は急に目が覚めたように首を長く伸ばして燐のほうを振り返った。

 

「けっ……って、燐!?」

 

 蛍は驚きのあまり、ばっと顔を離すと耳まで赤くして小さく叫び声をあげた。

 

 これまで見たことのない表情(かお)に、むしろ燐の方がびっくりしてしまった。

 

 大きな両目を限界まで開いて、にわかに信じられないといった顔つきで燐の事を呆然と見つめている。

 

 その焦点は合っているのかどうかは分からないが、ただ燐だけを見ていた。

 

 やっぱり驚かさせてしまったか、と燐は胸中で反省をする。

 

 けれど、蛍の瞳を真っ直ぐに見て頷いた。

 

 想いが真剣であることを蛍に伝えたかったから。

 

 ()()()なんかじゃない、本当の自分の気持ちを。

 

「ごめんね。でも、わたし、これでも本気だから。蛍ちゃんを幸せにする為なら何でもするつもりだよ」

 

 決意のある燐の声色を受けて蛍は……。

 

「…………」

 

 彫像のように固まってしまった。

 

 瞬きどころか息をするのを忘れてしまったみたいに。

 

(わたし、結構大胆なこと言っちゃったよね。蛍ちゃん相手に……でも、どう、思ったのかな……?)

 

 自分で言っておきながらやはり恥ずかしくなったのか、燐は今更のように顔を赤くしていた。

 

「あはは、言っちゃった」

 

 取り繕うようにぎこちない笑みを作る燐。

 

 だがさらに恥ずかしさが増すばかりだったので、照れ隠しの為のあからさまな言葉を並べたのだったが。

 

「まあ、まだお互いの進路が固まっていないし、今すぐ返事は無くてもいいけどね……ってぇ! 蛍ちゃん!?」

 

 蛍はもう本当に倒れ込みそうだった。

 

 夜の匂いが鼻をくすぐり、愛する人の吐息が頬や髪を撫で上げていても。

 

 蛍はしばらくの間、混乱と羞恥の海にぶくぶくと溺れたままだった。

 

 

 ────

 ───

 ──

 

 

 






◆ヤマノススメNEXTSummit
割と無難なつくりで良かった──のですけど、まさか一期のスタッカートデイズでエンディングとは──ある意味再放送も布石だったのかなー? でも富士登山リベンジしてしまったから五期目は無いのかなぁやっぱり。原作のストックはかなりあるんですけどね。アニメ一作目が2013年ですから、もう結構経ちますけど、実際面白かったですし、評判も良かったみたいなのでアニメ5期も期待してます! まさかの実写もあり……かも??

◆ぼっち・ざ・ろっく!
あんまり音楽系のアニメが好きじゃない私でも最後まで楽しく見れました。ただ、声優さんの力なのかアニメスタッフの頑張りなのか、全体的なロック度が上がってましたねー。それとやっぱり主人公の後藤ひとりさん……何でしょうとても親近感というか共感する部分が多いといいますか、割とそう思っている人は多いのかなって思いますねー。もちろん私もその内の一人なんですけれどもーー。
ほぼ毎回入る謎の実写パートがちょっと気になりましたが、作画は安定しておりましたし、何より曲が良かったですねー。結構有名なアーティストから提供されているからでしょうか、エンディングも何度か変わりましたし、作中に流れる曲が少ない分エンディングで流しているようでしたねえ。
人気はあるから二期目は十分ありそうですねぇ。原作の方も全然余裕ありますしっていうか、アニメ化されたところ単行本で言うと2巻の途中までですしね。4コマ漫画は情報量が多くて読むのに時間が掛かるって言ってましたけど、アニメの方もそうなんですかねえ。何にせよまだまだ楽しみな作品でしたねえ。

◆PREY
放置していたPREYというゲームをPLAYしておりますよー。ジャンルは近未来SFFPSと言った感じでしょうか。巨大な宇宙船の中を行ったり来たりするゲームですねー。で、この手のゲームには敵がつきものでして、ティフォンと呼ばれるクリーチャーがまあ、何て言いますか、嫌悪感をぎゅんぎゅん刺激するもので、G的な感じと言えばいいんでしょうか、外宇宙からきたエイリアン的な存在みたいでなんですが、一番のザコ敵のミミックを初めて見た時はねぇ……真っ黒い外見で軟体動物みたいな挙動をするものだからもう……鳥肌立ちまくりでしたよー不覚にも。
難易度は割と高めだし、どっちかって言うとホラーなテイストですけど、割と続きが気になるゲームなのでちょくちょくプレイしております。

◆青い空のカミュ
今ですと来年の1月10日までDL版、3000円ポッキリセールー! で、お買い得になっております!
これ一本で長いお正月を楽しく過ごせる……はず! きっと! でも、やっぱりプレイしてちょっと切ない思いをしてしまうことはあると思いますけど、後悔はないと思いますー。
何より燐と蛍のやり取りだけでも楽しいですからねー。

私は今でもばりばりプレイしているぐらいですしー。この機会に是非是非ー。


さてさて、今年も色々ありましたが、来年も良い年でありますといいですねぇ。

ではでは良いお年をー。

あ、そういえば来年は兎年ということですが、私の場合ですと”CUNE(キューン)”とかいうブランドを思い浮かべてしまいますねぇ。まあ家族に集めているものがいるせいなんですけれど……。今もそのCUNEのリストバントを手にはめております。”手首”とわざわざ書いてあるのが若干馬鹿馬鹿しい感じがしますけど。これは可愛い……のかな? まあ身に付けると割と暖かいからこの時期は意外と重宝しそうな気もする……? 片方しかないのがちょっとアレですけれども。


ではー。

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