We are born, so to speak, twice over; born into existence, and born into life.   作:Towelie

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「はっ、はっ、はっ、はっ」

 午後の込み合う時間。
 人の波をかき分けながら、少女は駅構内を走って移動していた。

 別に急いで帰る用事はない、ただ身体が勝手に動いていた、と。
 言い訳をするだろう。

 いつもこうしているから、急にゆっくりと帰ると何か落ち着かない。
 そんな気がするだけで。

 最寄りの駅から家までは本当に大した距離ではないから。

 ここまで帰ってきた距離と比較したら、一歩足を踏み出すのと殆ど変わらないぐらい。

 だからエスカレーターも使わずにわざわざ回り道してまで階段を使っているんだ。

 決して運動不足解消の為のものではない、はず。

 別で運動はしているし。

 言い訳めいた思いを胸に地上に這い出る。

 瞬間ぽつりと頭に当たるものがあった。

 プラットフォームも地下道もびちゃびちゃに濡れていたからもう分かってはいたけど。

 この時期特有の雨がしとしとと降りしきっていた。

 その冷たさよりもじめじめとした湿気の方が強くてうんざりとしてしまう。

 けれど、目的地であるマンションは目と鼻の先に立っている。

 少女はレインコートのフードをぽすっと被り直すと、ばしゃばしゃと雨粒を弾かせながら二つ目の信号の先にある目的地までラストスパートを切った。

 ……
 ……
 
 最寄りの駅まで()()()()

 その最寄りの駅だってローカル線のひなびた無人駅なんかじゃなく、県下でも最大クラスの都市の新幹線だって停まる巨大なターミナルだったから。

 申し分のない物件ではあった。

 好立地(駅チカ)で、好条件(新築かつサービスも充実)で、高層階だったから結構なお値段だったのだと。

 支払った後で聞かされた。
 しかも一括払いの後で。

 感謝よりも心配の方が先に来てしまう。

 いざと言う時の思い切りの良さもそうだし、一般的とは少し違う金銭感覚にも。

 それでも純粋な笑顔を向けてくれていたから、何も言えなかった。

 ちょっとづつは返してはいるけども……わたしの分を返すにはずいぶんと時間がかかるだろう。

 固定資産税だって払わないといけないし、月々の光熱費やら水道代、日々の食費にもなるべく気を使わないとすぐにお金なんてなくなってしまう。

 だから朝は早起きしてお弁当を作っているし、夜は外食などしないで家に戻って自炊することにしていた。

 それでも大きな不満もなく生活できているのはやっぱり同居人の……親友のおかげだと思っている。

 そんな親友のお世話になっているマンションの前まで戻ってきた。

 首が痛くなるほどの高層のタワーマンションだったけど、それももう大分、見慣れてしまった。

 小一時間ほど開いていなかった傘を軽く払ってから、オートロックのドアを開ける。

 人気のない大理石風のエントランスに入ると、上の階に上がったままのエレベーターのスイッチを押した。

 何かを引っ張るようなモーターの低い音が鳴り、エレベーターが降りてくる。

 全室とも完売したらしいが、それにしても他の人と会うことがあまりない。
 
 マンション内での集まりもそれほどなく、管理的なものも全て外部に委託しているから余計に顔を合わす機会がなかった。

 案の定、エレベーターの中は空っぽであった。
 白い箱の中にひとり乗り込むと、いつもの動作で所定の階のボタンを押した。

 ──浮いているのか、それとも立っているのか。

 どちらともつかない曖昧で心地良い空間に身を委ねていると、不意にある小説のことを思いだした。
 
 そこには何でも願いを一つ叶えてくれるという箱があり、弟を亡くしたばかりの兄がその箱を開けた時に中に何が入ってるのかという話で、それを友達に言ったことがあったのだ。

 箱の中には亡くなった弟……ではなく、兄が本当に欲しかったものが入っていたということだったんだけど。

 もし今それが目の前にあったのならわたしは何を望むのだろうと。
 
 ()()()()()()()()はちゃんと中に入っているのだろうか、と。

 あり得ない妄想をエレベーターという閉鎖した箱の中で考えるのはとても奇妙な気もするけど。

 程なくして、金属製のドアがするりと開く。

 照明こそ煌々とついているが、エレベーターの外にも人気はなく、がらんとしてとても静かだった。

 降りてすぐの部屋の前まで行くと、鍵を使ってドアを開ける。

 玄関までこぼれる暖色系の温かな明かりに急に視界が開けたような、そんな彩りを感じた。

「ただいま~」

 鍵は掛かっていたけどきっと帰ってはきているだろうとの思いで声を出した。
 最近はずっとそうだったから。

「あっ、お帰りー」

 キッチンの方からだろうか、ちょっと慌てたような声が返ってきくると、続いてパタパタとスリッパを鳴らす音が近づいてくる。

 明らかに急いでいる風に聞こえるので、転びはしないだろうかと少し心配になってしまう。
 けれど、ここはじっと待つことにした。

 声だけでも十分嬉しいのにわざわざお出迎えまでしてくれる。
 その気遣いが嬉しかったんだ、とっても。

 食事の準備をしていたのだろうか、芳しい匂いが鼻腔をくすぐる。

 家族の団らんとは違う温かみ。
 それを確かに感じた。

 このマンションで一緒に暮らすようになってもう3年になるけど、不思議なぐらいに仲が良く、飽きるとか倦怠感とかのそう言った思いとは無縁だった。

 お互いを初めて認識し合えた時のように、いつだって新鮮であり続けられる。

 一方的な思いかもしれないが、それでもわたしは……。

「燐、おかえり。今日も帰ってくるのちょっと早いね」

 いつもの落ち着いた声で蛍はそう出迎えた。

 お気に入りのネコのキャラクターのエプロンを見に付けて、長い黒髪を後ろに縛っているところを見ると、どうやら料理の真っ最中のようだった。

 燐は邪魔をしたみたいで少し悪い気はしたが。

(でも、何か新婚さんみたいかも……)

 実際に体験したことがないので違うのかもしれないけれど。

 そう意識したら胸の内が少しこそばゆかった。

「ただいま、蛍ちゃん」

 燐は改めてそう言った。

「雨に濡れなかった? 今日は朝からずっと雨だったよね」

「うん、平気。向こうの方はそんなに雨降ってなかったよ、こっちの方が強いほうかも」 

 そう言って燐は片手に持っていた傘をパッと玄関で広げた。

 燐が持っていったのは見た目こそシンプルだが傘の部分に雨が当たると模様が浮き出るようになっている変わり種の傘であった。

 ピンク色の傘の表面には濡れたことを示している桜色の花が咲いていた。

「でも、ちょっと濡れてない? ほら髪のところとか」

 蛍は少し心配そうな目を向ける。

 燐は何故か誇らしそうに満面の笑みを向けて言った。

「目いっぱい飛ばしてきたからねっ」

 自慢げに少し胸を張る燐。
 それを見て蛍はぽかんと口をあける。

(飛ばす? 燐は一体何を言ってるんだろ……)

 皆目見当も付かず、蛍は思わず呆れた息が出た。

「あー、もう、蛍ちゃん! またそうやってため息をつくぅ! 蛍ちゃんに会いたい~っていう一心で頑張って帰ってきたのにぃぃ」

 必死になって弁解する燐を見て蛍は罪悪感と言うよりも、愛おしさを感じて困った顔で小さくはにかんだ。

「だって、燐が変なこと言うから」

 さらっと言われて燐はむむむと歯噛みをした。

「うー、変じゃないよぉ、乗り換えの時に頑張って走ったって意味で言ったのぉ」

「あ、そういう事。でも、乗り返って」

 長距離区間は新幹線を使っているわけだし、東京はダイヤが過密してるから、すぐに次の電車が来るって燐自身が言っていたと思ったけど。

 実際にアプリで幾つかのルートを試してみたけど、歴然とした時間の差は殆どなかった。

「あのね、燐。そんなに急いで帰ってこなくても大丈夫だよ。わたしは燐が帰ってくるまで待ってるから、ずっと」

「それは……分かってるけどぉ、でもでも、蛍ちゃんにすぐに会いたかったのっ。寂しい想いをさせてるんじゃないかなって」

「もう燐ってば……さっきまでわたしと話してたでしょ?」

 蛍が言っているのは直接的なやり取りのことではなく、所謂SNS上のことだ。

 燐は長い通学時間の合間を利用して、勉強や課題に割り当てるつもりだったが、結局の所、その半分は蛍とのスマホでのやり取りに置き換わっていた。

 大したことは言っていないが、短い言葉でのやりとりがなんだか楽しかった。

 普段では言えないようなことも言い合えるし、何よりその会えない時間が何故だか不思議と恋しかったのだ。

「でもさ、何かあるか分からないじゃない。もしかしたら”カラスが、掠め取る”のかもしれないし」

 全く知らない人が聞いたら何のことかと首をひねるだろうが、蛍には燐が何を言っているかすぐに分かっていたので声を出して笑った。

「それって、オオモト様の受け売りでしょ。でも、その使い方ってちょっと間違ってない?」

「えっ、そうかなぁ、オオモト様の例えって何かむずかしいんだよね。構文っていうか」

「不思議な言い回しをしてたよね、オオモト様って。まあ、そこがあの人らしいと言えばそうなんだろうけど」

 首を捻る燐に蛍もうんうんと頷く。

 青と白の世界でのオオモト様の言葉の端々は今でも二人の脳裏に刻み込まれていた。

 たった三日間のことなのにそれでも今だ鮮明に覚えているのはそれだけあの出来事が強烈な印象を残していたということなんだろう。

 ここ最近のことなんてそれこそ倍速で進んでいるのか思うほど慌ただしいのに。

 通っていた高校を無事卒業して大学に入学をしたと思ったらもう次の進路の話になっている。

 就職か、それとも別の道に進むか。

 人生の選択肢なんてあってないようなものだった。

「それよりも燐。何か前よりも寂しがり屋になってない? 大学生になったから自立した”大人の女”になるんじゃなかったの」

 卒業する際、将来のことを話し合った時にそう燐は宣言していたのだが。

「うーん、わたしは自立してるつもりなんだけどなぁ。大学じゃ、しっかりしてるって言われる方だしっ」

「はいはい、それは良く知ってるよ」

 蛍は呆れたようにまた小さく息をこぼす。
 その仕草に燐は不満そうに顔を赤くして頬を膨らませていた。

 それぞれが別の大学へ通うようになってから、毎日がこんな感じだった。

 蛍と燐。
 二人の関係は何も変わっていない。

 ただちょっとお互いに細々とした面倒ごとが増えただけで。

 燐は自らの宣言通り、浜松から東京までわざわざ新幹線を使ってまで遠距離通学を実践している。

 向こうでアパートでも借りて住めばいいのにと説得したのだが結局聞き入れてはもらえず、ちゃんとこちらのマンションまで毎日帰ってきていた。

 普通に戻ってくるだけでもかなりの時間が掛かるのに、どんなに遅い時間になっても燐は必ず戻ってきているものだから、新しく出来た大学の友達からは割と奇妙な目で見られることもあった。

 けれど本人はまったく気にしていないようで。

「今日のデザートも買ってきたから後で一緒に食べようね」

 そう言って燐は嬉しそうに背負っていたカバンから取り出す。
 その顔は純粋そのものであり、あの頃とちっとも変ってはいない。

 遠く離れた都会の空気に触れることで、燐が変わっていってしまうのではと蛍は危惧したことがあったのだが。

「ね?」

 やっぱり何も変わってない。

 燐はいつだって真っすぐに自分を見つめてくれる。

 何か隠し事があったってそれをおくびにも出さずに自分で解決するところも変わっていない。

 それで良いんだと思う。

 全部を話す必要なんかないし、本当に困った時は燐の方から話してくれるだろうから。

 燐を信じている。

 誰よりも強く、ずっと。

「……あの時も、こうやってすぐに戻ってくれれば何も問題なかったのに……」

「ん? 蛍ちゃん、何か言った」

「ううん、別に」

 蛍は軽く笑うと、いつまでも玄関で立ち話しているのもおかしいので燐をリビングへと促した。

「一度、車で行ってみようかなぁ~、折角免許も取ったんだしさ」

 軽くうがいと手洗いをした燐はすぐに着替えるわけでもなく上着だけを脱いで、リビングの中央に置かれているビーズのクッションにぽすっと腰をうずめた。

「去年は名古屋まで行ったけど、今年はまだどこにも行けてないしね。大学生って結構忙しいよねぇ」

 そう言って、燐はカードケースから自分の運転免許を取り出した。

 まだ取り立ての免許証には、面接の時よりもぎこちない表情をした燐の顔が映っていた。

「本当だよね、休みが多いから最初はすごく楽だと思ったんだけど」

 その分、課題の量が半端ではなく多くて、更に就活の為の資格の習得やフィールドワーク等、やるべきことが次から次に現れててんやわんやになりそうになる。

 夢に描いていた大学生活は高校以上に勉強しなければならない場所だった。

「最近疲れも溜まってる感じがするし、やっぱり温泉に行きたいかなー。今は”わたし達の車”もあることだし。どこかで癒しでもないとやってらんないよねぇ~」

 燐は間延びした声で愚痴をこぼす。
 蛍は困った顔で苦笑いするしかなかった。

「そう言えば、蛍ちゃんは今どのぐらいまで講習いったんだっけ? もう路上には出たんだよね」

 がばっと上体を起こした燐に唐突に話を振られて、蛍は少し戸惑った表情で小さく頷いた。

「うん。その路上で少しつまづいてるところ」

 蛍は最近になって自動車教習所に通う様になっていた。

 燐と同じ教習所を選んだのだったが、あまり上手く行っていないようで本来の予定よりも大分遅れていた。

 教習所内での運転にはようやく慣れたが、路上での教習がどうにもしっくりいかない。

 イレギュラーな事柄が多いからなのか、蛍は仮免許取得からなかなか先へと進めなかった。

「燐は何気に凄いよね。わたしにはAT限定でも難しいのに、燐は普通の免許なのに補習もなくて一回で合格したんだもんね」

 感心する蛍に燐は照れたように頬をかく。

「それは……わたしはほら、あんまり大きな声で言いたくはないけど良くないこと(むめんきょうんてん)してたから……」

 手持ち無沙汰をごまかすように、燐はクッションを両手で掴んでむにゅむにゅとさせた。

「それは知ってるけど、それでもだよ。燐の隣に乗った事があるから自分でも割と簡単かもって思ったところがあったけど、見るとやるとじゃ全然違うんだなってことを痛感しちゃったよ」

 蛍はハンドルを握るときの動作を燐にしてみせた。

「なるべくハンドルを切らない方がいいのは知ってるんだけど……」

 そう言いながら蛍は両手をぐいっと90度の方向に傾ける。
 しかも何故か首も一緒に曲がっていた。

 何とも危なげな蛍のハンドルさばきに燐は困ったように苦笑いした。

「でもまあ、そのせいで指導員の人にちょっと変な目で見られたこともあったけどね」

 その際は愛想笑いで誤魔化したが多分バレているとは思う。

 まあ向こうにしてみれば、素直に言う事を聞いて事故も起こさなければ問題ないんだろうけど。

「確かにそう言ってたね。習う前から上手くできるのも考えものなんだね」

 蛍はくすっと微笑むと、大事なことに気が付いて小さくあっ、と声を出した。

「あっ、そうだった。ねぇ燐」

「ん、なぁに、蛍ちゃん」

 蛍が急に悪戯っぽい笑みを浮かべたので、燐は困ったように眉を寄せて聞き返した。

 蛍はふわっとした表情を作ると、きょとんとしている燐の鼻先をちょんと触れた。

 ちょっとワザとらしく見えたのだが、蛍の髪先から流れる柔らかい香りに燐は自分でも意外なほど胸がどきっとなった。

「あのね、燐。先に、ご飯にする? それともお風呂がいい? それかもしくは……」

 どこかで聞いたことのある口上に燐は乾いた笑みを浮かべてしまう。
 呆れるよりも微笑ましく感じたのだった。

「何か、蛍ちゃん毎回わたしにそんなこと聞いてこない? そういうやり取り(シチュエーション)が好きなの?」

 からかうような言葉を受けて蛍は意外そうに首を傾げた。

「あれ、燐が好きなんじゃないの、こういうのって。そう聞いていたんだけど……?」

 今度は燐が意外な顔になる。
 まざまざと蛍を見ながら問いかけた。

「……誰からよ、それぇ」

「えっと、咲良さんから」

 母親の名を出されて燐は一瞬凍り付いてしまったが、即座に首をぶんぶんと振った。

「それって完全に、ガセネタだから!」

 燐は冷静なツッコミを入れる。

 あの母は余計な事を言い過ぎだと思う。
 本当に。

(全く、自分が上手くいかなかったからって変な事を蛍ちゃんに吹き込んだりしてぇ! それにわたしは言われたい方じゃなくて……)

 蛍の顔をちらりと見る。

 その黒い瞳は何も変わっていない。
 一切の陰りもなく、純粋なまま透き通っていた。

 綺麗だった。
 あの時よりもずっと。

 一緒の時間が長くなることで余計な負担をかけてしまうのではと思ったのだが、むしろ蛍は大事なところは変わらないまま綺麗な大人になっていく、今はそんな気がしていた。

 だからこうして蛍に出迎えてもらえることが嬉しかった。

 顔だけじゃなく、心も綺麗な人に受け入れてもらえることに。

 それだけで今抱えている悩みがとてもちっぽけなものに感じられるほどだから。

「それで、燐。どうする?」

 蛍はまだ続ける気のようで、何とも微笑ましい提案を懲りずにしてくる。

 燐はやれやれと小さく肩をすくめながらぴょこんとソファーから立ち上がると。

「とりあえずお風呂は大丈夫だよ。ほら」

 そういって燐は蛍にそっと顔を近づけた。

「うわっ」

 急なことに蛍の頬が赤く染まる。
 けど燐の目的はそうではなく。

(あれ、これって……?)

 蛍は目をぱちぱちとさせる。

 柑橘系の甘い匂いが燐の髪からふわっと香り。
 蛍の鼻先を掠めていた。

「シャワーは浴びてきたから」

 少し頬を上気させてにこっと微笑む燐。

 それで蛍は大体のことが呑み込めたのか、合点が言ったようにぱんと手を叩く。

「あ、そっか、燐のサークルって、”ラクロス部”だったよね、ホッケー部じゃなくて。最近はちゃんと活動してるんだ」

「まぁ、そうだね。一応これでも練習みたいなのはしてるんだよ。今日は雨だから室内トレーニングだけだったけどね」

 燐は大学では特にサークルとかに所属する気はなかったのだが、いろいろあって今のラクロス部に参加していた。

 部と言っても殆ど同好会的なゆるいもので、大会に出て優勝するとかそこまで本格的なサークルではない。

 遊びというわけではないけど必死になるわけでもない。
 一言でいうなら微妙なサークル。

 けれどそれが燐には都合がよかったのだ。
 
 ちょっとは身体は動かしたいけど、その時間に囚われるだけなのは何かもう嫌だったから。

「まあ、軽く汗を流す程度だけどね。それでも全然人は来ないんだよねぇ、大丈夫なのかなぁうちのサークル」

 燐はため息ともつかない言葉を投げた。

 必死にやりたいわけじゃないけど、もうちょっと活気あるサークルになればいいのにとの思いがあったから。

「でも、燐、やっぱり体動かすの好きなんだね。今の所、辞めずにいるし」

「あ、うん……まぁね」

 ちょっと恥ずかしそうにする燐に蛍はふふっと微笑んだ。

「蛍ちゃんはどう、バイトの方は?」

「うん、いつも通り順調だよ。接客もそうだし、パンだって一人で焼けるようになったんだ」

「へぇ~、じゃあ今は蛍ちゃん一人に店をまかせても大丈夫なんだあ」

 燐は感心したように頷きながら聞き返す。

「流石にそれはまだ無理かも。でも目標はそれぐらいにならなくちゃって思ってはいるよ」

「最近は蛍ちゃんも料理出来るようになったし成長したよねぇ。うんうん」

 そう言って蛍の頭を軽く撫でる。
 蛍は照れくさそうに頬を少し染めて俯いた。

「それなら燐だって一人で料理出来るようになったでしょ。時間だってないはずなのに運転免許だって持ってるし。燐だって十分成長出来てるよ」

 蛍は頭を撫でられながら、燐の頭に手を伸ばしてその綺麗な栗色の髪をぽんぽんと撫でてあげた。

「それならいいんだけどね。それにしても……何かわたし達すっごく変なことしてない? お互いの頭を撫で合っちゃってさ」

「確かに、それはそうかもね」

 けれど二人とも頭から手を離すのを止めなかった。

 先に止めたらなんだか負けたみたいな気がしてるのか。
 それとも別の意味合いがあるのか。

 燐と蛍はしばらくの間互いの頭を撫で続けていた。

「じゃあさ、先にご飯にしよう。わたしお腹ぺこぺこだし」

「うん。わたしも帰ってから何も食べてない……」

 蛍は今思い出したみたいに自分のお腹の辺りを手で押さえた。

 実際に先に帰ってきた蛍はちょうどご飯の用意をしている途中だったわけだし。

「燐、ちょっとだけ待っててね。すぐにご飯の用意するから」

「あ、わたしも手伝う」

 蛍は視線を戻してキッチンへと向かう。
 燐も一緒にキッチンに向かった。

「うん。じゃあ燐は玉ねぎの下ごしらえお願いね」

「オッケー。じゃあもしかして今日はハンバーグ?」

「当たり。でも、今度は失敗しないから」

「本当に? じゃあ期待しちゃうからね。蛍ちゃんの特製ハンバーグ!」

「存分に期待してて良いよ。さっき焦げない作り方をネットで調べたばかりだから」

 自信満々の蛍。
 燐は予感と言うかデジャブみたいなものを覚えた。

 前にも蛍は同じようなことを言ったのだが、出来上がったものは黒焦げのハンバーグだったのだから。

 その時のことを思いだした燐は苦笑いしながら蛍に提案をした。

「あのさ、やっぱりわたしも手伝おうか? 二人でやった方がきっと美味しいのが出来ると思うんだ」

 相当気を使った言い方をしたが、蛍は頑として譲らないようで苦笑いしながら燐の提案に小さく首を振った。

「レシピ通りに作ればいいだけだから大丈夫だよ。下ごしらえだけしてもらえば燐は座って待ってくれていいから」

「あ、うん」

 蛍がやる気になっているから良いんだろうけど、やっぱりちょっと不安ではあった。
 
 だけど。

「分かった、ハンバーグは蛍ちゃんにお任せするっ。その代わり、他の事はわたしがするからね」

「もう、待ってていいのに」

 意を決した燐の言葉に蛍は困り顔でつぶやいた。

 いつも遠くから帰ってきてくれる燐に、少しでも美味しいものを食べさせてあげたいと言う蛍のほのかな気づかいがあったからだった。

 今日は雨も降っていたわけだし。
 温かいものを食べさせてあげたい。

(だから今日こそは何としても失敗しないようにしないと!)

 包丁を手にひとり意気込みを見せる蛍に燐は不思議そうに首を横にした。

 ふたりは一緒にキッチンに立ち、少し早めの夕食の準備をした。

 何てことの無い日のいつもの光景。

 特別なことなんて何もない。

 ただ、この変わらない時間がずっと続けばいいのにと。

 思っているだけで──。

 そう、例えばハンバーグが失敗したとしてもそれはそれで面白く思える。
 
 だって、普段の日常の何気ない出来事なのだから。

 炭素の取り過ぎはからだに良くないことは知っているけれど。

 ……
 ……

 今日の夕食は、そんなに黒くなっていない普通のハンバーグだった。

 ──
 ───
 ────




point d’orgue

 

 それは突然のことだった。

 

「あー、もう蛍ちゃんっ」

 

 ぱしゃり、と音がしたと思ったらもう遅かった。

 燐はそちらの方を振り向きながら声をあげた。

 

「どうかしたの?」

 

「どうかしたの、じゃなくてさぁ。急に撮られちゃうとビックリしちゃうよ、やっぱし」

 

「あ、そうか。ごめんね、燐……撮っちゃったから」

 

 食後の最近の楽しみでもある甘い珈琲(アフォガート)を嗜んでいるときだった。

 

 面倒な課題に頭を悩ましていた時だったからつい油断をしてしまった。

 

 息抜きにカフェオレをかけたバニラアイスを口に入れた瞬間シャッターを切られ、燐は顔を赤くしながらその張本人である蛍に抗議の意を示した。

 

 完全に不意打ちだったし。

 よりにもよって口に入れる瞬間の間抜けな顔だったと思うから。

 

「撮っちゃったって、もう……ねぇ、変な顔になってなくない? 蛍ちゃんすぐに消してね」

 

 一方の蛍は写真の出来栄えを確認するのに夢中であり。

 燐の必死の頼みも上の空だった。

 

 それどころかむしろ。

 

「大丈夫、いつも通りの可愛い燐だよ」

 

 ほら、と小さな液晶から先ほど取ったばかりの画像を見せられてしまう。

 

 出来栄えは上々のようで、蛍の表情からそれが見て取れた。

 

「全く……別に撮られるのは嫌いじゃないけど、それなら一声かけてくれればいいだけなのに」

 

「だって、燐の自然な表情が見たいから」

 

 もっともらしく言う蛍に燐ははぁっと深いため息をついた。

 

 実際、蛍に撮られるのはまんざらでもない。

 

 むしろ、蛍が自分を被写体に写真を撮ってくれたことはちょっと嬉しかったりもする。

 それだけ興味の対象であると言う事だし。

 

 不意にと言うか、隠し撮りみたいなことをされなければ、だけど。

 

「それにしても蛍ちゃん、ちゃんとしたカメラでまた写真を撮るようになったよね。もう止めちゃったって思ってたけど。大学でも写真部っていうか、クラブ活動なんだっけ?」

 

「うん、そう。でも撮るのはもっぱら風景だけどね」

 

 蛍は当初バイトがあるから大学でのサークル活動はしないつもりだった。

 

 でも燐がラクロスを新しく始めたのをきっかけに蛍も触発された形で入部を決めたのだった。

 

 ”野外活動(ついでに写真も)サークル”、通称”野写(のしゃ)クル”に。

 

 燐と同じくそこまでサークルでの活動は頻繁でもなく、部員も蛍を入れて5人程度しかいない極々少数の集まりであった。

 

 けれどその分、和気あいあいとしたゆるめのサークルだったので、マイペースな蛍にはちょうど良かった。

 

「確か、この前山にも登ったりしてたんでしょ。山岳部みたいなハードな活動もしてるんだね」

 

 野外活動と謳っているわけだし、そういうのは合ってもいいとは思う。

 

 だが事実とは少し異なるのか蛍は苦笑いをしながら燐にこの前の事を説明をした。

 

「実際はそんなに激しいことしてないの。この間だって低い山にちょっと登っただけで後はだらだらキャンプしてるだけだったし。それにそんなにしょっちゅうでもないしね」

 

 三か月に一回程度の集まりがあるだけで、後は特に何もしていない。

 実質、開店休業状態みたいなものだった。

 

「じゃあ、今、蛍ちゃんがやってるのって自主練みたいなもん? しょっちゅうカメラ持ってるし」

 

 それに風景じゃなくて人物を撮っている事が多いから。

 

(でも、その被写体って()()()が多いんだよね。さっきもそうだし……)

 

 燐は先ほど蛍に撮られたことを気にしているのか、自身の前髪を軽くなでた。

 

 それにしても、肌身離さずというほどでもないが、蛍はスマホではなく、普通のカメラで撮っているので燐はちょっと気になるところもあるのだが。

 

 これまで何もなかったと言っていた蛍にちゃんとした趣味が見つかったのならいいことなんだろうけど。

 

「まあ、それに近いものかな。でもこれは個人的というか……趣味と言うか、うん」

 

 蛍は曖昧な言葉を並べながらファインダー越しに燐と見つめ合う。

 

 きょとんした顔してこちらを見つめているが、その顔立ちにはまだどこか大人になりきれないあどけなさが残っていた。

 

 燐の今の髪型も大きいのだろうと思う。

 

 一時期、切らずに長くしていた時もあったが、勉強の時に気が散るからと燐は受験前にバッサリと切ってしまった。

 

 おかげで今はショートカット……よりも少し長めの栗色の髪を、燐の未だお気に入りであるカチューシャで留めている。

 

 つまりは元の燐の髪型に戻ってしまったと言えた。

 

 ただ、前とは違ってちょっと大人びているところもある……とは思う。

 表面上では目立たないだけで。

 

 ただ前よりも子供っぽいと思えるところもあるけど。

 

 例えば笑顔とか。

 新しい生活が楽しいのか燐はずっとキラキラとしていた。

 

 アクセサリーとかピアスとかを見に付けていないのに、誰よりも輝いている。

 

 蛍は燐に向かってまた一枚シャッターを切ると、くすりと小さく笑った。

 

「そうだね。これは”記念”みたいなもの、かな。個人的に撮っておきたいものがあるんだ」

 

「記念、なの?」

 

 そう言われて燐は一瞬分からないような顔をみせたが、思い出したようにポンと両手を合わせた。

 

「あ、そうだったね、今や蛍ちゃんも立派な写真家だもんね。受賞記念みたいなものを撮っておきたいんだね」

 

 燐はにっこり微笑む。

 

 蛍は困った顔で小さく息をついた。

 

「写真家とは全然違うから。たまたま選ばれただけだけで」

 

「でも、凄いことだよ、フォトコンテストに蛍ちゃんの写真が選ばれたんだし」

 

「前にも言ったけどあれは偶然だから。わたしなんかよりもずっといい写真ばっかりだったし」

 

 熱のこもった燐の口調に蛍はさらっと返した。

 

 ちょうど一年ほど前、小平口町のイベントの一つでフォトコンテストが開かれていた。

 

 二つの町が合併する事もあってそれぞれの町の良い所を写真で紹介し合うという企画であり、優秀作品は新しい町のPRポスターに選ばれるというものだった。

 

 これと言って基準は設けられてはいなく、町の風景を撮った写真なら何でもいいという割とざっくりしたもので。

 

 蛍の生家でもある三間坂家の明け渡しに遅れが出ていたので、休みを利用しては度々小平口町に足を運んでいた時に、たまたまこのイベントのポスターを見た蛍がなんとなく応募してみただけのことであった。

 

「別に写真の腕がいいとかそういうんじゃないから」

 

 そう燐に弁明をしたのだが、それでも目的があるせいなのか以外にも蛍は熱心に町のあちこちで写真撮影をしていたのだ。

 

 その中で蛍がコンテスト用に選んだのは。

 

「そういえば、燐が映ってる写真にしたんだったよね。だから半分は燐のおかげかな」

 

「またもうその話をする~。あれ、すっごく恥ずかしかったんだからね」

 

 燐が恥ずかしいと言った写真は、実家であるパン屋”青いドアの家のパン屋さん”で燐が笑顔を振りまいている一瞬を切り取った写真だった。

 

 蛍としてもこれが受賞するとは思っていなかったようで、受賞された通知を受け取った時に何度も首を傾げていた。

 

 結局、大賞ではなく、”特別賞”と言う形での受賞だったのだが。

 

「でも燐、満更でもなかったじゃない。わたしなんかよりも燐の方がずっと喜んでいたし」

 

 蛍の含みのある笑みに燐は一瞬たじろいでしまう。

 

 確かに応募された作品の中に自分の写真があった時はついはしゃいでしまった。

 撮った蛍がきょとんとしてしまうぐらいに。

 

「あれは……そう! 蛍ちゃんが頑張ったってだけで、あんなのは二度とごめんだからっ」

 

 一時とは言えアイドル活動っぽいこともしていたのに、こういうのを燐が恥ずかしがるのはちょっと意外だなと蛍は思った。

 

 それがおかしくて蛍はまたくすくすと笑った。

 

「もう、それはいいからっ。それよりも蛍ちゃん、もしかして……”明日”のこと気にしてるの?」

 

 燐はちょっと声を潜めて蛍に問いかける。

 

 蛍は複雑そうな顔で燐を見つめていたが。

 

「うん……やっぱり、ね。燐の言う通りだと思うよ」

 

 と、曖昧な言葉を告げて小さく微笑んだ。

 

「緊張……とかしてる?」

 

「どうだろ、自覚とかはそんなに無いけど……燐、顔に出てた?」

 

 まるで他人事のような素振りで蛍はつぶやくと、ベッドサイドに備えられた鏡台に自分の顔を写してまざまざと見た。

 

 ……確かに暗い顔をしている。

 自分でも少し心配になってしまうほど酷い顔をしていた。

 

「大丈夫だよ蛍ちゃん。わたし達の出番なんかすぐに終わっちゃうから。そんなに気に病まない方がいいよ」

 

「そうだね、ありがと」

 

 思いもかけず燐に励まされて蛍はにこっと小さく微笑む。

 

 その声に少しの違和感を感じた燐は、つと天井を見ながらぽつりと呟いた。

 

「やっぱり気にしているのは”そっち”なんだね」

 

 最初から分かっていたことだった。

 

 二つの大きな町が合併し、新しい別の名前の町が出来る。

 普通なら良くあることなんだろうが。

 

(小平口町の場合は……)

 

 多分だけどあの町は一度、消滅した(なくなった)んだろうと思う。

 

 地図上とかいう抽象的ものじゃなく、概念的な意味で。

 

 今の小平口町の姿は恐らく。仮初(かりそめ)の姿ではないかと、燐は思っていた。

 

 蛍も多分同じ考えていると思う。

 お互いに口に出さないだけで。

 

「明日、上手くできるといいな……」

 

「何度もリハーサルもしたし大丈夫でしょ」

 

「それはそうだけど……」

 

「それにさ、わたし達の出番なんてそんなにあるわけでもないし、ちょっとぐらい失敗したって問題ないよ。合併するのは決定事項なわけなんだし」

 

 軽口をたたく燐に蛍は苦笑いする。

 

「確かにね。わたしたちがどうこう出来る問題でもないしね」

 

 少し緊張が和らいだのか優しい笑みを燐に向けた。

 

「蛍ちゃんだって学校の先生を目指しているんでしょ。大勢の人の前に立つのを慣れておいた方がいいよ」

 

 大学の志望の際、教員が目標と面接で答えたから間違いではないけど。

 

「実はまだちょっと迷っているんだ、小学校の教師になるの」

 

「そうなの!? じゃあ、もしかしてパン屋と?」

 

「パン屋さんも結構面白いから。両方ともってわけには行かないよね、やっぱり」

 

「うん。でも副業(ダブルワーク)を認めてるところもあるみたいだよ」

 

「そうなんだ……でも、赴任する学校がそうなのかは分からないよね。きっと独自のものだろうし」

 

 諦めたように俯く蛍。

 燐はその手をそっと握った。

 

「かもね。でも、迷うことは良いことだとわたしは思うよ。それだけ可能性があるってことだし」

 

 そう言って燐は真っすぐに見つめる。

 

 希望を湛えた瞳。

 数年前とは違った煌めきを燐の瞳の奥に蛍は垣間見た。

 

 とっても嬉しかった。

 燐が自分を見ていてくれることに。

 

「何かそういうの燐らしいね。でも……そうかもね」

 

 燐の言葉に蛍は曖昧な表情で頷く。

 

 けれど、何かの気付きを得たようなさっぱりとした表情になっていた。

 

 燐もそれが分かっているのか、何も言わずただ蛍を見つめ返した。

 

 ……

 ……

 ……

 

「ねぇ、蛍ちゃん」

 

「……うん」

 

 隣で寝ていた燐が目線だけバルコニーの方に向けながら小さく口を開く。

 その先では遠ざかる列車の物音が小さく窓を揺らしていた。

 

 蛍はちょっとうとうとしていたようで、眠そうな声で返事を返す。

 

 明日のことでまだ少し気掛かりな所があったと思ったのだが、睡魔にはやはり抗えないようで、つやっとした瞼を半分ほど閉じながら微睡んだ瞳で燐の横顔をぼーっと眺めていた。

 

「どうして、いつも待っていてくれるの……? わたしと違って蛍ちゃんは強いからひとりでも大丈夫なのに……」

 

 ぼそぼそとした声で燐がそう耳元で囁いてくる。

 

 自分でも何を言っているのかよく分かっていないようで、眠そうに何度も瞬きを繰り返しながら口を開けていた。

 

 燐だって実際相当疲れていた。

 

 大学生活は慣れない事の連続だったし、何より見知らぬ土地の学校でひとりだったから。

 

 今みたいに友達が出来るまでは毎日不安で押しつぶされそうだったし。

 

 それでもいつも変わらない笑顔で待っていてくれていた人がいたから何とかなっていたと思う。

 

 もし大学でも家でもひとりきりだったらきっとこうはなっていなかった。

 

 それどころか進学すらしなかったと思う。

 必要性を感じないと思うし。

 

 だから、聞いてみたかった。

 

 新しい生活もあっという間に2年がたってしまったわけだし。

 

 その、本当の──理由を。

 

「それはね。燐のことが好きだから」

 

「たったそれだけ?」

 

「うん、それだけだよ」

 

 純粋な瞳でこちらを見つめる蛍に燐は返す言葉も見つからなく。

 代わりに薄く笑みを返した。

 

 それはおんなじ気持ちだったから。

 

 好きであるからこそ帰ってくることができる。

 

 きっと待っていてくれると思っているから。

 

「もし明日さ……色々とトチっちゃったら……燐、フォローしてね」

 

 同じ布団の中で蛍が手を握る。

 不安なのか感触を確かめるように優しく擦る。

 

 燐も軽く握り返した。

 

「わたし達、前に歌だって披露したこともあったじゃない。それに比べたらなんてことはないよ、こんなの」

 

 確かにそんなこともあった。

 無我夢中だったから終わった時、放心状態だったよと燐に言われたけど。

 

「あの時は……火が出るぐらい恥ずかしかった。文化祭で燐がやった漫才よりもずっと」

 

「やっぱり、そう思ってたんだ。あの……優香との漫才のこと」

 

 漫才とは何年か前の高校の文化祭で燐と同級生の鏑木優香が二人で披露したものだった。

 

 その時、蛍はすごく面白かったと言ってはいたが、実際の所は。

 

「今だから行っちゃうけど、漫才の内容じゃなくて、燐と優香ちゃんが二人でわちゃわちゃしてたのが面白かっただけなの」

 

 仲間内ならともかく、他人に見せるレベルの漫才では無いのは確かだったが、素人ゆえの支離滅裂感が蛍を含めたクラスのみんなに大うけだっただけだった。

 

 優香はその事に気を良くして、将来は東京で漫才師(コメディアン)になると言っていたのだが。

 

「結局、名古屋の大学に行ったんだよね、優香は。まあ、何だかんだ言って根は真面目なやつだからね」

 

 その中でも相当難しい法学部に進んだみたいだし。

 

 法律家にでもなるのだろうか、あのお調子者だった優香が。

 

「トモちゃんは確かスポーツの推薦だったよね。結構な強豪校に入ったって言ってたけど」

 

 蛍の言葉に燐はあぁ、とちょっと憂鬱そうな声を出した。

 

「トモの奴、キツイ練習ばっかりで死にそうだって、いつもSNSでぼやいてるよ。見てるこっちが気の毒になるぐらい」

 

 良く一緒につるんでいた、田辺、藤井の二人も同じ大学のフィールドホッケー部に入部したのだが、やはりトモと同じく愚痴ばかりこぼしている。

 

 愚痴しか流さないグループだったので、燐はブロックしようかどうか毎回迷ってしまうほどだったが、流石に可哀そうなのでまだ付き合ってはいた。

 

 スポーツに強い大学ということはそれだけ練習もキツイだろうことは分かってただろうに。

 

 元チームメイトの不遇な環境に、燐は哀れむような深い息を吐いた。

 

「頑張ってるんだね、みんな。大変だけど自分のやりたいことをやってるって感じするよ」

 

「蛍ちゃんだってそうでしょ。町の合併の件だってずいぶんと積極的だったじゃない」

 

「あれは成り行きっていうか……それに燐だって手伝ってくれてたでしょ? だからわたしも何かしなくちゃって思っただけ」

 

「何か学園祭みたいでちょっと楽しいよね。あ、でもさ、蛍ちゃん本当にこれで良かったの?」

 

「燐、何のこと?」

 

「だって蛍ちゃん、小平口町のこと本当は好きじゃなかったんでしょ? だから行事に積極的なのがちょっと意外だなって思って」

 

「確かにね。でもこんな町でもわたしが育った町だったから」

 

「蛍ちゃん」

 

 今では三間坂の家は、”旧三間坂邸”として町の文化財となっている。

 

 増築を繰り返した挙句、つぎはぎだらけの家となっていたが、建築物としての価値はあるらしく、外観は補修され家の中には蔵の中で眠っていた、骨董品の数々がショーケース等で展示されていた。

 

 一応入場料をとるようになってはいるが、これにはもう蛍は関与していない。

 

 その代金の殆どが町の管理組合の方に行くようになっている。

 

 実際町が管理しているのだから、もう蛍がとやかくいう事は無かった。

 

 家財道具なんかも展示できるものはそのまま残してある。

 ごく一部を除いて。

 

 ”あの人によく似た”日本人形はマンションの一室にガラスケースに入れて置いてあった。

 

 オオモト様の幼い頃の面影を残した人形に、蛍だけでなく燐も何とも言えない愛着を持っていたのだ。

 

 そしてそれは未だにベッドサイドに置いてあるクマのぬいぐるみと同等に。

 

 蛍は思い出したようにクマの縫いぐるみを手を引いて引き寄せると、ぎゅっと胸元で抱きしめた。

 

 何度かクリーニングに出してはいるが、懐かしい手触りと香りはずっと残っている。

 あの時の思い出と一緒に。

 

 燐はそんな蛍の子供っぽい一面を茶化すこともなく、愛おしそうにその姿を見守っていた。

 

 

「あのさ、今更な事を言っても、燐、笑わない?」

 

「今さらなことって……あの夜のこととか?」

 

「うん、当たり」

 

 クマのぬいぐるみを抱きしめながら蛍は何故か嬉しそうに微笑む。

 燐もつられて柔らかい笑顔を作った。

 

「実はさ、わたしもちょうどあの夜のことを蛍ちゃんと話そうかなって思ってたんだ」

 

 そう燐が言ってきたので、蛍は目を丸くしながらふふっと笑った。

 

「そっか、燐もそうだったんだね」

 

「うん。”そうなることで”何かが変わることはないって分かってるんだけどさ」

 

「それでも、やっぱり気にしちゃうんだよね」

 

「そうだね」

 

 お互いに同じ気持ちであったことが嬉しかった。

 

 そこには怖さなど微塵も感じないぐらいに普通で。

 

 普段のふたりと変わらないいつもの表情で話し合っていた。

 

 そこは諦めと少し違った感覚が少女たちの間にあったからだった。

 

「じゃあさ、燐から話して」

 

 先に蛍が燐に促す。

 

「えー、蛍ちゃんからでいいよ。先に言ったのは蛍ちゃんの方からなんだし」

 

 思いのままに燐は蛍に返した。

 

「確かにそうだけど、燐の方を先に聞きたいな」

 

 そう蛍にはっきりと言われると、燐の方からはもう断るすべがない。

 

「ね?」

 

 ダメ押しのように呟く蛍。

 そう言った後、真っ直ぐに燐を見つめた。

 

 圧を掛けられているとか、そう言った感じはしないけど、曇りのない瞳でじっと見つめられると、燐はもう先に話すほか選択肢はなかった。

 

 諦めたように燐は小さく肩をすくめると、秘密の言葉を言うようなひそひそ声で話し始めたのだった。

 

「何て言うか、そんな面白い話ではないから。あの日の夜に関係する話だし」

 

「分かってる」

 

 蛍は落ち着いた声でそう答えたが、その瞳には期待の色がまざまざと見えていた。

 

(もう、全く……)

 

 今、言ったばかりなのに……。

 燐は小さくぼやくとそっと息を落とした。

 

 もっとも、話す内容はあの歪んだ夜の話なんだし、期待と言うか、そう言ったものではないことは分かっているとは思うが。

 

 蛍は怖い話でも聞くみたいに強くぬいぐるみを抱きしめながら、これから話すであろう燐の言葉に耳を傾ける。

 

 蛍が無意識に頑なな表情になっていることに気付いた燐は安心させるように軽く苦笑しながら話始めた。

 

「あのさ、蛍ちゃん、あの、”変てこなDJ”のことってまだ覚えてる?」

 

 唐突にそう聞かれて蛍は一瞬困惑した表情をとったが。

 

 誰のことを聞いているのかすぐに分かったので小さな声で答えた。

 

「ラジオから聞こえてきたあの”声”のことでしょ? それがどうかしたの」

 

 ──確か、DJゴドーとか自分から言ってた気がする。

 

 結局素性の知れない男の人、だった。

 

 全てを知っているような口ぶりでラジオから雑談やときおり歌なんかも電波に乗せて流していた。

 

 正直、余計な話ばかりをしていたような記憶が残っている。

 でも、重苦しい空気を破るには都合のいい存在でもあったから憎めなかったけど。

 

 軽い口調と喋り出したら止まらない所がちょっと難点ではあったが。

 

「うん、その……アイツさ、もしかしたら何だけど、あれも”お兄ちゃん”の一部だったんじゃないかって思ってるの」

 

「聡さんの?」

 

 蛍はちょっと怪訝そうに眉を寄せて燐に問いかける。

 

 聡はあの夜、二つの存在に別れてたと言っていた。

 

 一つは白い犬。

 もう一つはあの狂暴な猿に。

 

 燐の話だとそれ以外にもう一つ別れていたものがあったということなのだろうか?

 

 そもそも二つに分かれるということ自体、未だに信じられない事なのだけれど。

 

 そう言う意味では彼があの歪んだ夜の中で一番の変化をしていたと思う。

 

 いくら心が二つあったって、実際にそれが分かれてそれぞれ別のものになるなんてことはあまりにも現実離れしたものだったから。

 

 燐の言うように”三つ目”があってもそこまで驚かないというか。

 

 何故、今になってという疑念の想いのほうが強かった。

 

「やっぱり困惑しちゃうよね。急にそんなこと言われても」

 

 燐はしまったとばかりに髪をかきながら、困り顔で笑みを見せる。

 

 寝転がっているからなのか、その笑みはとても儚く見えた。

 

「そんなことないよ。でも、どうして?」

 

 作りものの熊の後頭部に顔を埋めながら、蛍はそう燐に訊ねた。

 

 理由は何となく分かるが、燐の口から本当のことを聞いておきたかったから。

 

「第一、声が違うのは分かってるの」

 

 燐は一旦そう前置きをしてから続きを話す。

 

 だよね、と蛍が小さく相槌を打った。

 

「けど、口調っていうか、今にして思えばあんな理屈っぽく話すのってお兄ちゃんぐらいしか見当たらなかったなって、そう思っただけなんだ」

 

「何か、確信とかあるの?」

 

「無いけど、でも、多分、そうじゃないかなっていう予感だけ……」

 

 語尾の方は小さく消えてしまったところを見ると、燐だって憶測の粋は脱しないのだとは思う。

 

 本人にそうとは聞いてないわけだし。

 きっと聞くこともないと思うから。

 

 ただ、燐はこうも続けた。

 

「お兄ちゃん……()()()だってあの世界でわたし達と普通に話しがしたいだけだったのかなって……謎かけみたいなことを言ってたのもそういう意味合いを持ってたのかなって、今更思っちゃたんだ」

 

「なるほどね。確かにそう、だったのかもしれないね」

 

 今思うと、あの別れた獣は二匹共、まともな言葉を持ってはいなかった。

 

 ヒヒが苦し紛れに最期に発した言葉だって、何というか()()()()()()()()()()()()に聞こえたし。

 

 他の人……変化してしまった町の人達もそう。

 

 顔の中で残っているパーツは口だけなのに、その口から出てくる言葉は意味不明なものばかりだった。

 

 どうでもいい事ばかり喋っていたと思う。

 肝心な事は一言だって喋らないのに。

 

「でも、まぁ、今さらこんなこと言ってもどうしようもないんだけどね。もうずっと前に終わったことなんだし」

 

 燐は眉毛を下げて少し寂しそうに笑みを作った。

 

「終わったんだよね、本当に」

 

 燐の目を見ながらそう呟く蛍。

 

 あれからもう三年の月日が経つのに、確信めいたものは未だに見つかっていない。

 

 座敷童の力が完全になくなったのかさえ分かってはいないのだ。

 

 分かっていることは燐と蛍が今でも一緒にいることぐらいで。

 

 あとは精々──。

 

「それで、蛍ちゃんはどんなことを話したいの? やっぱり座敷童のこと?」

 

 やっぱり燐には分かってしまうようだ。

 まあ、それしか話すことはないとも言えるけど。

 

 蛍は小さく微笑むと、ぬいぐるみを腕から解放して二人の枕の間にそっと乗せた。

 

「座敷童っていうか、オオモト様のこと……」

 

 それは同じ意味合いなのだが、実際はちょっと違っている。

 

 前者が概念で、後者は……いちおう人物名だ。

 

 ほんとうの名前が未だに分からないからそう呼んでいるだけで。

 

 きっと本当の名はあると思う。

 ただ、訊ねなかっただけで。

 

「そういえばオオモト様、最近ずっと見ないね」

 

「うん。それでどうしたのかなって思って」

 

「どう、って?」

 

「やっぱりさ、もう会うことはないのかな、わたし達と」

 

 結局オオモト様とはそれっきりだった。

 蛍は夜の公園で出会った時以来、もう二度と姿を見てはいない。

 

 燐に至っては懐かしいぐらいだった。

 

 幼い頃の姿の彼女に似た少女と実家のパン屋で談笑しただけで、それがオオモト様だったのかすら、今となっては判然もつかないほどだった。

 

 おとぎ話みたいにキツネに化かされた、とすら思ってしまうほどに。

 

 進学してからもふたりはそれぞれ座敷童やそれにまつわる事柄をちょくちょく大学で調べてみたのだが、コレと言ったものは今でも見つかってはいなかった。

 

 もっともこの国で一番大きな図書館に行ったところできっと何も見つからないとは思うが。

 

 実際に燐は興味本位でそこに脚を運んでみたのだが、結局ただの徒労に終わっていた。

 

「そういやさ、オオモト様ってやっぱり”大元”って言葉から来てるんだよね?」

 

 燐は分かりやすいようにシーツの上で指をなぞる。

 それで蛍にも話の意味が分かった。

 

「多分、そうだと思うよ。そういう意味で名付けられたんだと思う」

 

 ”大元(おおもと)”……物事の始まりや起こり、物事を生じさせるところ。

 

 つまるところ、あの人から全てが始まったのだと言うことになる。

 

 町にもたらされた幸運も、そのせいで起きた歪みも、全てはオオモト様から起こったものだと。

 

 だからって恨むとかそう言った感情はないのだけれど。

 

「だよね。じゃあ幸運ってそもそも何なんだろうね。幸福と幸運は違うことは知ってるけどさ」

 

「うん。結局そこに行きつくよね。幸運があったからこそ町は発展できたんだしね」

 

「じゃあさ、もし最初から幸運なんてものがなかったら?」

 

「それは……多分、町そのものが無くなると思う。幸運がなければ人もいなくなるだろうと思うから」

 

「………」

 

 明日に備えて早く眠るつもりだったのに、だいぶおしゃべりが長引いてしまった。

 

 会話の途切れた部屋で静かに雨音が窓を叩く。

 

 明日の降水確率は50%だと予想されている。

 

 できれば雨は降ってほしくはない。

 式典自体は雨天でも決行するらしいが、せっかくの衣装が濡れてしまうわけだし。

 

「今日はさ、もう寝よう。明日は、()()()()出るの早いし」

 

 ふわぁあ、とあくびをかみ殺しながら、燐はスマホのアラームをいつもよりも少し早めにセットしなおした。

 

「うん、そうだね……」

 

 蛍は微睡んだ目を擦りながら話半分と言ったところだった。

 

「何か、まだ心配ごとってある?」

 

 何となく蛍に目で訴えかけられた気がして、燐はそうっと蛍に問いかけた。

 

「そうじゃないけど……そういえばいつの間にかしなくなったねって思って」

 

 意味あり気に蛍が呟いた言葉に燐は心当たりが見当たらず不思議そうに首を傾げた。

 

「”しない”って? それって寝る前のことでしょ? 何かしてたかな」

 

 枕に頭を乗せながら首を傾げる燐に、蛍は何故か顔を赤くして答えた。

 

「ほら、前はよく、裸で寝てたじゃない。寒い日なんかはお互いの身体を抱き合ったりなんかして……」

 

 蛍は途切れ途切れに言葉を作った。

 燐も思い出したのか思わず顔を赤くした。

 

「あはは……そういえば、そんなこともしてたねぇ。エアコンの調子が悪かったわけじゃないのにね」

 

「何か、懐かしいなって思って」

 

 お互いの裸姿を想像してしまったのか、蛍と燐は一瞬顔を見合わせるも、すぐに目を逸らした。

 

 確かにあの時は寝る時にそういう事をしていた。

 

 やましい気持ちがあるとかではなく、ただ寂しかったのかもしれない。

 直に感じられるぬくもりが欲しかったとしか、今は言えなかった。

 

「じゃ、じゃあ、すごく久しぶりだけど、やって……みる? 蛍ちゃんが嫌じゃなければだけど」

 

 そう話を切り出してきたのは燐の方だった。

 

 蛍はえっ、と驚いた顔を見せたが。

 

「りんが……燐がしたいのなら、別にいいよ……」

 

「え、いや、えっとぉ……」

 

 蛍のたどたどしい言い方が妙に艶っぽく聞こえたのか、燐は言葉に詰まってしまい、歯切れの悪い言葉を連ねるばかり。

 

 駅前の高層マンションに二人が引っ越してきてもう三年が経つ。

 

 それでもどこか初々しさが残るのはきっと。

 

 どくどくと鼓動が早くなっているのが分かる。

 聞こえてしまうぐらい早い心臓の音は期待の表れから来るものだろうか、それとも?

 

「やっぱり、恥ずかしいから止めようか。それに今日はそんなに暑くないし」

 

 六月の半ば。

 夏とも春ともつかない、中間の時期。

 

 木々に止まる蝉ではなく、田畑で蛙が鳴き始める季節だった。

 

 あの時と同じ──時期。

 

 何も変わっていないと思っているのは自分達だけで、周りの人や時節は確実に先へと進んでいた。

 

 ではなく蛙が騒がしい外へ出る際も夏服を着るかどうか迷うぐらいだった。

 

 けれど、それが理由なんかではない。

 燐もそれは分かっていたから。

 

「そ、そうだね。それにむしろ裸の方が落ち着かないよね普通は」

 

 言い訳をするような燐の口調に蛍は軽く微笑みながらこくんと頷いた。

 

「じゃあ燐、おやすみなさい」

 

「うん、おやすみ、蛍ちゃん」

 

 静かに照明が落ちる。

 

 黒いカーテンの隙間から街の白い明かりが短く差し込んでいた。

 

 暗がりの中、蛍は急にある事を思いついて、まだ寝入っていないであろう隣にいる燐にそっと話しかけた。

 

「ねぇ、上だけでも脱いで、みる?」

 

「う……そっちの方が余計に恥ずかしいと思う」

 

 すぐ真横から聞こえる呆れた口調に、蛍はそっかと小さく漏らすと静かに瞼を閉じた。

 

 蛍が静かになったのを見計らったように燐も目を閉じる。

 

 それからすぐに燐の寝息が聞こえ始める。

 

 それを見て蛍は小さく笑みを作ると隣で無防備な寝姿をしている燐の頬に手を当てた。

 

 暖かく柔らかい頬にそっと唇をあてる。

 

 バレているは思うがそれでも良かった。

 だってこの気持ちは本物だったのだから。

 

 もう一度小さくお休みを言って蛍は瞼を閉じる。

 

 暗い窓の向こうではざあざあと雨が降っていたが、部屋の中では二つの穏やかな寝息が静かに流れていた。

 

 ……

 ……

 ……

 

 夢、なんだろうか。

 

 何もない真っ暗闇のなかで、テルテル坊主が一体吊るされていた。

 

 その下には小さな手毬。

 

 色とりどり糸で括られた毬が一つ、床に転がっていた。

 

 ただ、それは無残にも真っ二つに割れていて、中の鈴が小さな光を放っていた。

 

 まるで、泣いているように。

 

 

 …………

 ………

 ……

 

 




★PREY(ゲーム)
初見だったから結構時間掛かってしまったけど何とか終わった──。
で、クリアした感想ですが……賛否ありそうなエンディングだったですねー。っていうか複数のエンディングがあるタイプなのですが、最後はどれも一緒なんでしょうか。ちょっと会話の内容が変わるだけで。エンディング条件の一つに”あるスキル”を取り過ぎると一番いいエンディングに辿り着けないらしいのですけど……そんなの初見じゃ分からないぃぃぃ! しかもスキルの取り消しが出来ない仕様となっているので複数回のプレイが推奨みたいですねー。二回目は……うーん今のところないですかなぁ。結構長丁場なゲームでしたし。それに難易度も高いんですよねー。敵が強いっていうのもあると思いますし、何かクリーチャーに対する嫌悪感が先行しているせいなのか早く倒したくて雑なプレイになってしまうんですよねー。途中から難易度も落としたうえでクリアしましたしー。
実際、臨場感があって面白かったです。SFだからなのか常に視界が悪い事も相まって緊張感が半端なかったですしー。
しかし、宇宙に対して恐怖心を感じる人も出てくるかもです……船外作業なんてライトの灯りぐらいしか光がない世界だったですしね。
もう結構古いゲームなのですけど、十分楽しめましたよー。

★ヤマノススメ×黒アヒージョ!?
というコラボをやっているみたいなのです。それも埼玉の飯能ではなく、なぜか地元の千葉で……。
これは県の職員にヤマノススメのファンがいたに違いないですねー。だって原作はともかくアニメ版では千葉なんて殆ど紹介されてなかったですし。唯一出ているのは何話だかのエンディングで鋸山と思しき場所に登ったのが使われたぐらいでしたしねー。
まあ、千葉県はアニメの聖地になりきれないジレンマがあるみたいですからねー。千葉をロケ地にしたアニメも色々やっているはずなんですけどねー。何かいまいち活性化していない感じですしね。
じゃあこれで”黒アヒージョ”とやらが活性化するのかと言われたら……何ともかんとも。私も今回のことで初めて知りましたし。わざわざ声優さんを使ったCMまで作ってるところをみると結構本気なのかな? これからの展開に乞うご期待ですねー。


そういえば、昨年は虎の土鈴があった埼玉の寺院まで行ってきましたけど、ことしは関東三大不動である? ”高畑不動尊”までお参りに行ってまいりましたよー!
でも行ったのは夕方っていうかもう日は落ちてましたし、雨も降って真っ暗でしたけどねー。
おかげで全然人は居なかったですし、五重塔みたいなのはライトアップされて綺麗でしたけどよー。割と近くの方まで行ったことはあったんですが、訪れたのは今回が初めてです。賽銭箱がそこかしこにあってどれに入れたらいいのか迷いましたけどねー。

とりあえず今年も健康且つ平穏無事で過ごしたいものです。

さてさて、近頃はめっきり寒くなってきたので、いつもの珈琲に余っていたウィスキーをほんの少し混ぜています。酔うほどじゃないから大したことはないのでしょうけど、そこはかとない罪悪感を感じるのは何故なんでしょうか……?

あ、そういえば、激遅ですけど。
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

それではでは~。



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