We are born, so to speak, twice over; born into existence, and born into life. 作:Towelie
(ん……)
蛍の意識は途絶えたかと思われたが、普通に微睡みの中から目を覚ました。
まだ寝起きの怪訝な表情のまま、薄ぼんやりとした視界の中で瞼を少し上げる。
(まだ、朝じゃないんだ……)
暢気な感想をそっと呟く、蛍が覚醒するにはまだまだ時間が必要だった。
辺りはすべての明かりが消えたように真っ暗で、異様なほど静まり返っていたので、状況を把握できないでいた。
五月蠅いぐらいに羽虫が騒いでいたはずなのに、今はその騒ぎの痕跡すらなかった。
空と思しき天井は、満点の星空が静かに瞬きを繰り返していた。
それにしてもあまりにもはっきり見えるものだから、銀河の中に放りこまれたみたいになって、少し胸が竦んだ。
視界の奥には白く細長い風車が天にまで伸び、空を貫くほど真っ直ぐで、どこまでも伸びているような錯覚を思わせた。
ベッド代わりに寝ていたのは、くすんだ灰色のコンクリートの床だった。
弾力性など皆無に等しいコンクリート製の硬いベッドは、蛍の背中や腰に多大な負担と疲労感を強張りと共に与えていた。
蛍は風車の下の狭いスペースで、バックパックを枕にしたまま、熟睡してたようだった。
(寝てた、んだよね? まだ夜みたいだけど今、何時かな)
傍らに置いていたスマホに手を伸ばそうとするが、何故か手が動かなかった。
指先だけは微かに動かすことができるところをみると、どうやら寝違えたみたいだ。
この程度のことで不自由をきたす自分の体を恨めしそうに思いながら、蛍は体全体に力を込めて、何とか起き上がろうとするが、手どころか足さえも動いてくれない。
仰向けから腰を捻って横向きの態勢になろうするが、それも出来ない。
首から下が石像になったみたいに重くなり、その四肢の感覚すらなくなっていた。
(何、これ!?)
心地よい微睡みの世界から、急に冷たい現実的な荒野の中に晒されたように、蛍の理解の範疇を超えた現象が突如して襲い掛かってきた。
不安と焦燥が胸の奥からこんこんと湧き出してくるようで、蛍は軽いパニック状態となっていた。
(怖い……もしかしてこれが死んじゃうってことなの!?)
それを意識するほどに恐怖が束となって心のバケツをこんこんと溢れさせようとする。
止めようとすればするほどどんどんと湧きあがってくる。
今の状況を確認したくても、肝心の身体が動かないのではどうにもならない。
蛍は可能な限りの手段を試みてみる。
とりあえず目は普通に動かすことが出来る。
これは不幸中の幸いだったが、なまじ見える分、恐怖を感じやすくなったのかもしれない。
眼球だけを必死に動かしてこの状況を確認しようと蛍は必死になった。
明かりのない鬱蒼な夜の森では隠れる場所が多すぎて、何がいてもおかしくはない。
もしかしたら、こうさせた何かがすぐそばにいるかもしれないのだから。
精々今わかるのは、風車の下で仰向けに寝ていて、体が思うように動かせない、それだけだった。
蛍は無理だと思いながらも、もう一度スマホに手を伸ばそうとする。
やはり手は動きそうにない、ただ指だけは何かに怯えたようにぶるぶると震わすことが出来る。
それ以上は一ミリも動いてはくれなかった。
足も同様に、曲げることも捻ることも出来ない、足指をぎゅっとつかむことすらできなかった。
足も手も動かし方を忘れたように、ただだらんとさせていることしかできない。
ここまでくると寝違えただけの問題ではないのだろう。
(これって金縛り? みたいだよね……あ、これが金縛りなんだ……初めて掛かったよ)
今まで金縛りのようなことにあったことはなかった。
思春期の頃には稀に見られるようだが、蛍には全くの疎遠な出来事だった。
(確か、金縛りは悪霊とか妖怪の仕業とか言われてたこともあるんだっけ? わたしは……
蛍はあれから数か月立っても自分が座敷童の血を引いているとは完全には信じていなかった。
病院に行ったとき少し気にしていたが、
鬱の傾向アリとは診断されてしまったが。
外見も内面も人間であると診断されたのは、思ったよりも嬉しいものだった。
人間と座敷童の違い、それは結局何なのだろうか?
蛍が難しい顔で試案していると、左の腰辺りがぼんやりと光っていることに今気付いた。
体は動かないので、視線を頑張ってその方向に向けると、小さな筒状の物を視界の隅に捉えることが出来た。
多分ペンライトの明かりだろう、確か、寝る直前まで点けておいたままだったはず。
光量をさらに抑えた省エネモードにしていたので、まだ電池が持ったのだろう。
ほんのりとした明かりに少し安堵した。
しばらくの間じっとしていたが、それでもまだ身体は動きそうにない。
さっきまでちょっとだけ動かせていた指先も今は蝋を落とされたように固まってしまった。
これでは埒が明きそうにないので、試しに蛍は口を動かそうと試みる。
……口は半開きのまま、これ以上開けることも閉めることも出来なかった。
ポカンと口を開けたまま、声を出そうとお腹に力を入れてみた。
お腹はちゃんと動いてくれるが、声帯が震えてはくれない。
”あ”も”い”も出てはくれなかった。
舌先が細かに震えるものの、そこから言葉をだすことができない。
声帯が麻痺したのか、それとも声帯がなくなってしまったのか。
どちらにせよ本格的に深刻な状況だった。
単純な言葉を順番に試してみるが、なしのつぶての有様だった。
半開きの口は接着剤でも流し込まれたかのように微妙な形で固まってしまった。
鼻筋から下が自分のものじゃなくなってしまった。
それはショーウィンドウのマネキンのように、人の真似を懸命にしてる哀れな人形のようであった。
それでも息ができるだけマシなのだろうけども。
ちなみに鼻で呼吸はできた。
ただ生きる分には今のところ大丈夫だが、この先どうなるかはわからない。
やがて全て金縛りにあってしまうこともありうるのだから。
(全部麻痺したらやっぱりしんじゃうのかな? まあそれも悪くないのかもね……)
蛍は妙に落ち着き払った顔で頭上の景色を眺めていた。
首が動かない以上、これしかやることがなかった。
とりあえず月の形を再確認したり、有名な星座を目でなぞったりと、気の紛らわす行為に没頭していた。
全くの無意味な行為だった。
それでも蛍は穏やかな眼差しで黒い空を見ていた。
こうなったとことに心当たりがあるのだから、仕方なかったのだ。
(薬の副作用だよね、きっと。ちゃんと用法を守らないからこうなったのかも……? お医者さんが言ってた通り結構、強い薬だったんだね)
薬で金縛りに合うのは少しおかしかった。
蛍の飲んだのは睡眠薬であって、筋弛緩剤の類ではないのだから。
それでも蛍はこのことに何の疑問も抱かなかった、他の要因は考えにくい、そう決めつけていたのだ。
それに……
すべてを薬のせいにすれば、ちょっとだけ気が楽だったからだ。
ただ身体が拒絶反応を示さなかったのが意外だった。
もしこの動かない身体で胃の中のものが逆流なんてことになったら……想像しただけでも恐ろしいことになる。
嘔吐の海で溺れて死ぬなんて笑いごとにもならないだろう。
でも、寝返りの打てない身体で嘔吐が詰まって死ぬケースは割と多いらしい、何かの本で読んだ気がする。
そういう意味では恵まれている気がする、まだ身体は綺麗なままだったから。
……それにしても、動けないことがこんなに辛くて怖いものだとは思わなかった。
健常な時は気づかないが、普通に身体が動くことはそれだけで幸せなことだったんだ。
今は夜空を見上げることしか出来ない。
星の瞬きと月の暖かさを感じることだけ。
それでもこの綺麗な空を見ながらしねるのならそれも幸せなことのように思える。
ただ、もし今、悪意をもった者が現れでもしたら、どうすることもできないだろう。
好き放題されて身も心もボロボロになると思う、それはとても怖いこと。
死んだ方がましと思えるかもしれない。
この状態だと穢された絶望から舌を噛むことも出来ない。
死ぬことすら自らの手で行えないのだから、いわゆる”詰み”だろう。
相手の気が済むまで蹂躙され続けるだけ。
始めも終わりも相手次第、飽きるまでずっと穢され続けるだろう。
身体を穢されても心さえ綺麗ならばと思うのだが、多分自分には無理だろう。
もし燐に汚されたことを知れたら恥ずかしくて生きていけないし、第一燐に知られたくはない。
もし燐に知られたらその時点で命を絶つだろうと思う。
燐は……自分の心に誠実であったから、わたしの前からいなくなったんだんだね……。
深い悲しみの後の、罪滅ぼし。
それは肉体を離れて、綺麗な心のままでいること。
(でもね、燐。心だけじゃダメなんだよ、身体があってこその心なんだから。それに燐はわたしと違って運動神経だって良かったし、病気のない健康な体をしてたのに、そんな邪険にしちゃダメだよ。身体だって燐を形作る一部なんだから……)
燐に言えなかったこと伝えられなかったことが、今更のように頭に浮かんでくる。
そしてこんな時に限って声が出せない。
その無力さが悲しかった。
蛍はふと、自分の体を気にしてみる。
首も動かせないので目だけで下を見てみると、自分の無駄に大きく邪魔な部分が視界の大部分をしめていた。
(燐と比べて、わたしの体って嫌だなぁ。胸なんて無駄に大きいし、そのせいで恥ずかしいし、重いし、汗ばむし、で全然いいことなんてないよ。燐のように無駄のない可愛い身体のほうがよかったなぁ)
蛍は誇張ぬきで自分の体を好きではなかった。
理由は蛍が思っていた通りで、メリットを感じたことなど殆どない。
ただ、あのプールでのとき蛍の体を綺麗と燐が褒めてくれたのはとても嬉しかった。
もし何かしらの良いことがあったとしたらそれだけだった。
好きな人に自分の体を褒めてもらえるのは素直に嬉しい。
一部の同性からは羨望と嫉妬の目で見られることもあった。
男性からはもっと酷く、好奇と欲望の目でたえず見られていることもあった。
それでも燐が綺麗と言ってくれたから、”綺麗な蛍”と言ってくれたことが何よりも嬉しい、それはわたしが生きる自信につながったのだから。
わたしはわたしのことを好きでいられたのだから。
(でも、綺麗な身体も動かないんじゃどうしようもないよね。やっぱりだなあ……)
どう力を込めても岩のようにびくともしない。
身体全体に鉄の重しが乗っているかのような、そんな不自然さ。
もしかしたら、もうわたしの体はなくなったのかもしれない。
わたしの身体は誰かのところに行って、今は首だけなのかもしれない。
それでもいいか、と蛍は本心で思っていた。
それでも、視界にはまだ役に立たない身体が横たわっていた。
震わせることしか出来ない指と、無駄に大きく丸みを帯びた自分の胸部は否が応でも目に入ってしまう。
それが蛍を落胆させていた。
生きているのか死んでいるのか曖昧な身体が情けなかった。
複雑な顔で蛍はため息をついた。
(このまま、わたしの身体が全部動かなくなるのも時間の問題かもね……ねえ、燐。もしわたしが身体を手放したら貰って、くれる、かな? もし燐が戻ってきてくれるならこの身体でもなんでもあげるんだけどね。もっとも、わたしの弱くて重い身体じゃ燐は嬉しくないかもね)
軽く微笑むことすら出来なかったので、代わりに蛍は瞳を物憂げに細めた。
(でも、本当にどうしたらいいのかな? まあ、でもどっちみちしんじゃうならもう一度身体動かないかな? 一度だけでいいんだけど……)
蛍は最後の力を振り絞るつもりで、今一度、身体全体に力を込めてみる。
起き上がれ──なかった。
ぴくりとも身体は動かせず、むしろ力を入れすぎたせいか、呼吸が苦しくなった。
はあ、はあ、首から上だけを動かして酸素を貪る。
これ以上はもはや無駄だと悟った。
だから蛍は再び瞼を閉じた。
(もういいや。夜空も月も堪能したし、もう見るものもない。あとはこうやってしぬのを待ってみよう)
蛍は瞼の裏側に星と月、そして風車の光景を焼き付けてそれを頭の中でイメージとしてつくりあげる。
その中でわたしと、燐が手を繋いで歩いているんだ、どこまでも、一緒に……。
きっとこれが”完璧な世界”なんだね。
わたしは燐と同じところに行くんだ。
それはどこまでも、燐と一緒に、どこまでも。
それはとても楽しいこと、そしてそれは時間を忘れられる。
そうすればそのうち終わるだろう、心臓か脳かどちらが麻痺するに違いない。
もう苦しいも悲しいのも十分判った。
ねぇ、──燐、あなたと楽しいことをしてる夢で終わりたいな。
二人だけの楽しい世界のままで。
それは最後のわがまま。
最後のイメージが少しまとまりきらなかったのでもう一度だけ瞼を開けてみる。
誰かいた。
その黒いシルエットには見覚えがあった。
よく知っている顔だったから。
(あ、なんだそういうことか……最初からそう言えばいいのに)
それは月の煌めきを反射して銀の刀身にその醜い顔を浮かび上がらせていた。
我ながら酷い顔……蛍は本気でそう思っていた。
そして
それは正確に急所をとらえていた。
(そんなに憎いんだ……いいよ別に。でも、そのかわり……)
びゅん。
風切る音が耳朶を打つ。
(早く楽にしてほしい)
鈍い音がして。
世界は再び真っ暗になった。
……嫌な音。
とても嫌な音がする。
なんていうんだっけこれ? 確か……モスキート音とか何かで言ってた気がする。
”蚊の鳴くような声”だっけ? なんか聴力のバロメータ的なやつ。
そういう類の音がする……それもすぐ近くから、耳元で何度も。
周りを飛び回っているみたいに……。
すごく不快、誰か止めてほしい……。
誰でもいいから……。
今すぐとめて。
パシッ!
無意識に手が動いた。
叩いた手も叩かれた手も両方とも痛い。
けれども何かを潰したような手ごたえがあった。
まだ覚醒してない意識で手ごたえあった手をぼんやりと眺める。
右の掌に一本の線が見えた、良く見るとそれは細長くなった虫の死がいだった。
その虫が蓄えていたのだろう、赤い血がインクを零したように掌を赤く染めていた。
スカートの裾で汚れた手を無造作に拭うと、それ以上は気にすることなく、眠りの中へもう一度落ちることに決めた。
むにゃむにゃと無邪気に微睡んで、身体を横向きに捻る。
床は石そのものみたいな硬さがあったが、少女には極上のベッドで寝てるのとそれほど区別のない幸せな吐息を漏らしていた。
「ひゃふぅ……」
言葉ともつかない声をだして、まだ起きる気をみせない少女。
眠りから覚まそうとするものも、耳元で騒ぎ立てる時計もないのだから、このままずっと寝ていられそうだった。
だが、耳元の奥にへばりつくような、ノイズ音がぷつぷつと細切れに入ってくる。
変調を繰り返す、雑多なホワイトノイズ。
じーじー、とかぎーぎー、とか電気信号とさほど変わりないあの単調な音。
風情など特に感じないあの音がいつまでも鳴っている、その単調な不快さは徐々に覚醒へと導いていく。
四方八方から聞こえる虫の音は否応なしに少女を現実へと呼び戻した。
(あ、れ……?)
おかれた状況を確認するだけの身体の準備がまだ整っていない。
少女は瞼を擦りながら、周囲を見渡してみる。
月はまだ真上にいて、暗い夜の森にいた。
風車の下で勝手に寝ていただけ、それだけだった。
それはある種の安堵感とほんの少しの落胆を少女に感じさせていた。
何か夢を見た気がするが、まったく覚えてはいない。
ぼんやりとしたビジョンの断片も何も思い出せなかった。
──ただ。
後、もうちょっとだった気がした。
何がかはわからないが。
それでも蛍はこの場所で目を覚ましたのだ。
虫の戦慄く真夏の夜の森の中で。
蛍は緩慢な動きで上体を起こすと、なんとなく首を左右に動かしてみたり、両手をぶらぶらとさせてみた。
不思議と身体に異常はない。
少し痛む箇所はあるが、普通に動く、筋肉痛のような怠さもなさそうだった。
両手を組んで上に伸ばす……すると左手の甲に微妙な違和感を感じた。
長袖のアンダーシャツがカバー出来ていない唯一の箇所、そこが痛みにも似た別の自己主張をしてくる。
先ほど虫がいた個所だった。
その手の甲の真ん中辺りが腫れぼったくなって、チリチリとした異常を訴えてくる。
蛍は傍らに置いていたペンライトを手に取りそこに光を当てる。
手の甲の中心が少し赤みを帯びていて、ぷっくりと大きく腫れていた。
恐らくさっきの虫のせいだろう、よく見るとその腫れの中に針のような小さな
「さっきのって”蚊”、だったのかな?」
患部に手を伸ばす、指で触ってみると、少し盛り上がっているのがわかった。
そこを指で引っ搔いてみる。
痒い。
ちょっと掻いたら余計に痒くなってきた。
痒みを止めようと、少し強く掻いてみる。
ぽりぽり。
それでも痒みが収まらないので、蛍はもっと掻いてみることにした。
かりかり。
いくら掻いても痒みが止まらない。
それどころか痒みはどんどんと強くなっていくようだ。
いっそのこと皮膚ごと掻き毟りたくなってきた。
(……あ、そういえばこういう時はバッテンを付ければいいって吉村さんが言ってた気がする……)
爪でこうバツの字をつけるようにすれば痒みが和らぐと前に家政婦が言ってたことを思い出した。
そういえば……と、蛍は長年の疑問の解決を急に得た。
「わたし、蚊に刺されたのって、もしかしたら初めてかもしれない。なんで今まで刺されたっことがなかったのかはわからないけど。多分初めてのことだこれ……」
蛍は無意識に手を掻きながら感嘆した。
そのことが蛍に決定的なものを知るきっかけとなるはずなのだが、当の本人は痒みを止めることだけに集中していたので、それが分かるのは少し後の話だった。
とりあえず蛍は、家政婦の教えの通り、人差し指の爪を使って毒素を注がれて膨れ上がった痒みを原因となった皮膚のドームに駐車禁止のバッテンをつける。
所謂おまじないのような行為で、痒みは完全に収まったわけでもないが、不思議と楽になった気がした。
「はぁ……」
思わずため息をこぼす。
これまで経験のない痒みは蛍の目を覚まし、そして疲れさせた。
ぐわっぐわっ。
不意に近くの木が大きく揺れて、何かが飛び立つ音が聞こえてきた。
明らかに大きさの違う鳴き声が周囲に反響して、虫の声をかき消しながら、黒い闇の空へと消えていった。
蛍は一瞬呆気にとられたが、ややあって、びくっと身を震わせた。
カラスだろうか? 目で見えない対象の恐怖は、蛍になお一層の現実感を思い起こさせた。
「あれ? わたし、何してたんだっけ?」
蛍は寝ぼけた頭をおこすべく、頬に指をあてて考え込んだ。
蚊に刺された箇所はまだ痒みを伴っているが、それ以外に目立った傷や汚れもない。
「ここ、風車の下、だよね。普通に起きちゃったんだ……」
辺りはまだ暗い夜の森の中であって、頭上にそびえる風車は音もなくただ佇んでいた。
蛍は切ってあったスマホの電源を入れる。
すでに日付は変わってしまった後だが、夜明けまではまだまだ時間があった。
そのことから蛍が寝ていたのはせいぜい一、二時間程度のことだったことがわかった。
まだ夜が明けてないことに少しほっとした。
(ちゃんと薬飲んだはずのに……効かなかったみたいだね)
傍に置いてある、処方箋の紙袋を拾い上げる。
睡眠導入剤のシートは綺麗になくなっていた。
抗うつ剤はキチンと並べられていたが、当然飲む気はしなかった。
蛍は複雑そうな顔で白い小さな紙袋を見つめていた。
(このまま目が覚めなくても良かったのにね)
しかし目が覚めてしまったのだから仕方がない。
いろいろあったせいか、すでに眠気は消えてしまった。
蛍はこの状況を受けいれるべく、とりあえず固くなった首と背中をぐっと伸ばしてみる。
身体が整ったような気持ちよさを感じるが、同時に脳の奥から鋭い痛みが湧きあがり、思わず頭を抱えた。
ずきずきとした痛みは内側から無限に湧いて出てくるようで、蛍はその場で蹲っていた。
「………っ!」
堪らず両手で頭を押さえつける。
かぶりを振ることも出来ず、彫像のように目を閉じて痛みをやりすごした。
掌から熱と痛みの鼓動が伝わってきて、脈拍がびくびくとのたうつように高ぶっていた。
熱と苦痛が蛍の思考を黒く焼き尽くしていく。
(あうっ、頭、痛い……頭が割れちゃいそうに痛い、よ……何これ? もしかして……薬の、副作用、なの……!?)
大量の睡眠導入剤を飲んだのだから、体に何らかの影響が出てもおかしくはない。
本来二錠でも多い薬をいっぺんに八錠も飲めば身体に悪影響を及ぼす可能性は高くなる。
むしろ異常がない方がおかしいぐらいだ。
それに、あれだけの量の睡眠薬を一度に飲んだのにこの程度しか寝れないとは思わなかった。
白い床に投げ捨てられた、青白いスマホの画面は午前一時をさしていた。
苦しまないで済むように睡眠薬を使用したのに、こんなことになるとは思わなかった。
様々な感情が蛍の中に生まれていたが、痛みでなにもまとまらない。
どのぐらいそうしていただろうか、しばらくすると痛みの波が潮を引くようにすっとどこかへ消えてしまっていた。
蛍はとても深い息を長々と吐くと、バックバックの紐を掴んで、ペットボトルの水で喉を潤わせた。
温めの水が一時の安らぎと気遣いを喉と胃にあたえてくれた。
蛍はその場で座り込んだまま、呆然と虚空を眺めていた。
痛みに敏感になっているのか、すぐに動き出すようなことはせず、一時の平穏に身を置いていた。
痛みがぶり返さなかったので、蛍は傍にあった手すりに体重をかけてゆっくりと立ち上がってみる。
立ち眩みのようなふらつきを一瞬見せるが、へたりこむようなこともなく、普通に立ち上がった。
自分の身体の安定を確認した蛍は、しゃがみ込んでバッグパックを拾うと中身を確認する。
その中から色とりどりのノートの束を取り出すと、胸元で大切に抱きかかえながらアスファルトの小さな階段をゆっくりと下りる、
少し湿った地面に驚きながらも、風車の傍に回り込んで、決めて置いた場所につくと、草を足で踏みつけてスペースを作り、先ほどのノートの束をそっと静かに置いた。
風車の傍に置かれたノートはあの雨の時と同じように、わけもなくぽつんとしていた。
蛍は俯きながら、ここにはいない親友に呼びかける。
「届くかどうか分からないけど、ノートここに置いておくね。本当はわたしが直接燐に渡したかったんだけどなんか上手くいかなかったみたいだから。燐の都合のいい時でいいから良かったら読んでほしいな」
少し困った顔で微笑んだ。
そのノートは全部で三冊分あり、蛍の日々の生活とその時の気持ちや疑問を赤裸々に書いたものだった。
それは聡が残したノートと同じように燐の為だけに書いた特別なものだった。
女の子らしい可愛らしいデザインのノートは蛍の好みで選んだもので、少し丸みを帯びた字体と、写真を交えた蛍にしては凝った作りの日記帳となっていた。
それこそ夏休みの宿題よりもはるかに気持ちとやる気を込めた力作であった。
燐がいなくなったことへの葛藤や新しい友達、夏休みの生活など多岐に渡り様々な言葉を用いて出来るだけ丁寧に作った。
時には感情に任せて書きなぐったこともあったが、それでも次の日には反省の弁も書いた。
燐に近しい友人や燐が所属していた部活のこと、そして小平口町の今現在や町民のことも書いた。
……高森聡のことももちろん書いた。
ただし燐が悲しまないように、できる限りの気を使って書いた。
一番気を使った項目だった。
あれから早いもので二か月とちょっとが経ち夏休みも最後となっていたが、それまでのことをできる限り詳細にそして燐が楽しめるようにまとめたつもりだ。
中には言葉にすらなっていないページも何枚かはあったが、訂正することも破り捨てることもせずありのままの形で残した。
あの大学ノートも同じであったのだろう。蛍は一度も見ることが出来なかったが、彼の見聞きしたことや、秘めた思い等、彼のすべてが書いてあったに違いない。
彼の経験や道徳、そして、欲望まで一切合切が包み隠さず書き記してあったと思う。
もうそれしか自分の気持ちを伝える術がなかったのだろう。
だからこそ燐は戸惑ったのだ。
燐が愛して、一つになってもいいと思った男の本性が赤裸々になったのだから。
なんで聡はそんな恥ずかしいと思えるものを燐に残し、そして敢えて教えてしまったのか、それがわかっていなかった。
誰だって自分の嫌な部分や、恥部を曝け出すのには抵抗あったはずだから。
たとえ愛し合ったとしても、ほんとうのところは最後まで出さなかった人もいる。
聡は本当の意味で燐を愛していたんだと思う、でもそれは燐の想いの範疇を超えていた。
好きすぎて憎んでしまうことは割と良く聞く話だが、彼は燐が好きすぎてすべてを食らいつくすつもりだったのだ。
それは燐の想いや気持ちを完全に無視する形となっても、それが止めきれなかったのだろう。
男と女、お互いの気持ちが合うことなどまずありえないのだ。
だからこそどちらかがある種の妥協をせねばならない。
だが、それを強要した時点で対等でなくなってしまう。
もし、本当の対等な関係になりたいのだとしたら、それは……。
「あうっ、また……いたっ!」
蛍は目の前がぐらっとして、直後に強い痛みに襲われた。
こめかみのあたりがずきずきと痺れるような痛みを何度も訴えかけてくる。
思わずその場でしゃがみこんで痛みをが通り過ぎるのを待った。
頭の中で大蛇がのたうち回るかように容赦のない痛みが蛍の頭を何度も打ち付ける。
さらに副作用は別の部位にも影響を及ぼしていた。
蛍は急に嘔吐感を感じて、何度もえずくように咳き込んだ。
やはり薬は合わなかったのか、蛍の身体は明らかな拒否反応を出していた。
「はぁ、はぁ」
蛍は急に具合が悪くなったように感じた。
薬の影響とは言え、ここまで自分が弱いとは思わなかった。
向こうの世界に行くことも、この世界で生きていくことも出来ない弱い自分が嫌だった。
(なんでわたしだけ一人でこんなところで苦しんでるんだろう……燐、オオモト様。わたし辛いよ、二人のいるところへ行きたい。完璧な世界、”青いドアの世界”に……)
蛍はしゃがんだ姿勢のまま、顔を上に向ける。
白い十字架は何を
それはどうでもいいことだった、だが気を紛らわす材料が不足していたので、それしかなかったのだ。
「向こうにいるんだよ、ね? 燐もオオモト様も。わたしも連れて行ってほしいのに、もう苦しいことは嫌なのに……もう、どうしたらいいのか……っ」
頭の痛みが更に増してきて、本当に頭が割れそうになってくる。
蛍はそうなればいいと思うようになってきた。
そうすれば二人のいるところへ行けると。
──この世界とは違う世界。
青と白で構成された、静謐な世界だった。
湖のような水溜まりがところどころに点在していて、そこに一本のどこまでも続く長い線路があった。
そして不思議な駅舎と、その駅に隣接している家、燐が名付けた”青いドアの家”だった。
だが、その鮮やかな色のドアは消えてしまった。
長い黒髪の柔和な女性、オオモト様がいなくなってからその家はがらんどうのようになってしまった。
それは燐の居たマンションと同じように”すべて終わったあと”だった。
誰もいない無人の駅舎も同じだった。
行先の書いていない電車が来たとき、二人が手を離したときに、すべてが消えてしまったと思っていた。
割れた結晶のように儚く、季節外れの雪のようにすべてが解けて消えてしまった。
そう蛍の目には見えていた。
それはホームに残った親友の姿も同様だった。
でも、まだ二人はそこにいる。
そう思うことが蛍の唯一の生きがいだった。
その想いなくしては生きていけない、ここまで一人でこれたのも、二人への会いたい気持ちがそうさせたのだから。
でも、睡眠薬を飲んだのにどうして……どうしてわたしはまだここにいるんだろう。
まだ、苦しまなくちゃならないの?
…………
………
……
……少し痛みが治まった気がする。
まだずきずきとする頭を押さえながら、蛍はことさらゆっくりと立ち上がった。
ふらふらと揺れながら立つ少女の瞳は苦痛からか”いびつな色”になっていた。
瞳の外と内の色は完全に剥離しており、曖昧な瞳の色を印象付けていた。
それでもなお蛍は前を見据えていた。
進むべき道がまだあると言わんばかりに瞳を見開いて。
「……んっと」
身体の不調をごまかすように蛍は腕をぐっと天高く伸ばしてみる。
夜空に浮かぶ星も、月も、あまりにも高い位置ありすぎて、いくら指先伸ばしても触れることもかなわない。
ここからではもう二人の場所は遠すぎるのだ。
(そうだよね、遠すぎて眩暈がしちゃうよ……でも、どうしようかな? もっと高いところへ行けばいいのかな)
鈍い痛みを出すこめかみを意識で無理矢理押さえつけながら、蛍は必死に頭を巡らせた。
痛みと波長を合わせるようにして、思考の深い海からその答えを引き出そうとする。
「そうだ! あの山の頂上、峠を越えた先の県境に通じる道。あそこにはまだ行ってないよね」
蛍は、以前、燐の運転で行った山の頂上付近のことを思い出した。
この町を抜けるため、燐と二人で軽自動車で山を越えようとしたときは、緑で出来た壁が邪魔をして隣県まで進むことが出来なかったのだ。
あれはきっと歪みが作り出した不条理の壁なんだろう。
それがわかったところで何もできなかっただろうけど。
ただ、今はどうなっているのかはわからない。
それが蛍の唯一の心残り、最後の疑問だった。
おそらくは普通に通れる筈だろう、だって建物は全て元に戻っていたのだから。
ただ緑の壁はどちらかと言うと生きている気がした。
完全な無機物という感じではなかった。
むしろ何らかの意図でもって邪魔している感じだった。
辺鄙な山の頂上に突如として現れた、葉と緑で出来た見上げるほど高い壁。
多分、緑のトンネルのように、意識をもっていたんだろう。
悪意とか善意とか関係なく。
(でも、道が通れるってことも聞いてないんだよね)
道が通じていることは普通だったから誰も報告はしないだろうけども。
それでもここで待っているよりかはましな気がする。
行く意味があるのかないのかはこの際関係ないのかもしれない。
”わたし”はまだ時間があるのだ。
もしかしたらまだ薬の効き目が残っているかもしれないが、それを待つだけの理由も特になかった。
”後で”なんて言葉はなんの意味を持たない。
今、どうするかが問題なんだ。
蛍は自身の両頬を確かめるようにぺちぺちと叩いてみた。
頭は痛いし、少し気分も悪い、おまけに膝への痛みもまだ残っていた。
それでもまだ動ける……多分。
まだ気だるい体を動かして、唯一の手荷物であるバックパックを引っ掴む。
スマホを手にして夜明けまでの時間を確認する……まだ時間は残されている。
蛍はバックパックを背負って手短に準備を整えると、ここから立ち去る前に、もう一度白い風車を見上げた。
月明りが風車をより幻想的にさせていた。
白と白が重なり合って、細く伸びた柱に淡いグラデーションを作っていた。
いつまでも動かない風車に意味があるのかはわからないが。
燐も聡もこの風車が好きであったのだろう、そんな気がした。
(わたしはここであまりいい思い出がないから、そんなでもないけどね)
ぺろっと舌を出す、そんな余裕が出てきた。
蛍は目線を地面に置かれた日記帳に向ける。
あの人と同じことしてる、と蛍は思っていた。
でも不思議と嫌悪感はなく、同情にも似た連帯感があった。
「じゃあね、燐。また
それは普段のように自然な会話だった。
蛍は軽く手を振ってこの場所を後にする。
白い風車は動く気がないのか、それとも動き方を忘れてしまったのか、何も返すことなく、じっとそのままの姿だった。
この風車に役目など最初からなかったのだ。
それでも綺麗なままだった。
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峠の道のりは歩きやすい舗装道であったが、それが逆に良くなかった。
舗装道の方が歩きやすいのは当然だが、夜間の森では景色に変化の色が見られないので退屈だった。
どこを見ても真っ暗闇だから仕方がないのだが。
それに道はどこまでも単調で、蛇の背のような曲がりくねった道を幾度超えても同じような暗い道が際限なく続いているように感じられて、終わりの見える兆しがない。
上を見ても下を見ても同じような道の連続でループしているのではないかと思ってしまう。
でも、そのことはすでにわかっていたことだった、だからこそより辛かった。
知らなければどこまで続くかの不安はあるが、その分期待をもって歩くことが出来る。
だが、知っていればもう期待はない。
期待はないのに不安はあるというのはあまりにも酷なことだった。
余計なことを考えずに、ただ歩くことだけに集中する。
歩いていれば痛みも身体の不調も気にすることがなくなるから。
それでもなおきつい勾配は、蛍の足と体力を容赦なく痛めつけてくる。
僅かな街燈すらない山の峠道、それはとても心細く、かつ絶対的な孤独感があった。
……どれだけ歩いたのだろう。
進めど進めど、頂上は見える兆候すらなかった。
なによりこの道は看板の類がやけに少なく、先ほどみた数十キロ先の隣県のホテルの看板が一つあるだけだった。
蛍はここを歩いていることを徐々にだが後悔し始めていた。
そして、少し前、ここに車で来たときの自身の言葉を思い出していた。
「車じゃなきゃ、絶対、無理って……自分で言ってた、のに、ね……」
息を切らせながら自嘲気味に笑うと、蛍は顔の表情を変えることなく足だけを動かした。
頂上が近くなればなるほど勾配がきつくなっていく。
車だと大したことない斜面が歩くだけでここまできついとは思わなかった。
トレッキングシューズがなんの役にも立っていないと疑うほど、足取りはどんどん重くなっていく。
背中のバックバックが鉄の甲羅にでもなったかのように物凄い重さで両肩と背筋を痛めつけてくる。
手にしたペンライトがどうにも邪魔くさくて、バックバックの中に放り投げた。
履き慣らしたはずのトレッキングシューズはいまや石のように重くなり、それが何かの罰のように足元をがんじがらめにしていく。
なにか軽快なメロディーでもを口ずさんで気を紛らわしたいのだが、その気力も当になく。
騒がしい虫の声だけが常闇のステージ上で夜明け前まで続くアンコールを延々と
蛍はもう自分でもわかっていた。
睡眠薬の効き目が段々と身体を蝕んでいることに。
瞼は小石を張り付けたように重くなっていて、生あくびはいくら嚙み殺しても収まる気配をみせない。
それどころか欠伸をすればするほど眠気が増してくるような気さえしてくるのだ。
肩も背中も絶え間ない痛みをずっと訴え続けている。
頭痛はもう持病になったかのように、ずっと頭を締め付けていた。
そのせいで口を聞くことも、思考すらもままならない。
身体すべての不調が蛍の限界を何度も超えていた。
もうこれ以上は歩けないだろう。
だってもう、歩くだけの気力も理由も足りないのだから。
「はあ、はあ、はあっ……」
崖に沿うように続いていたガードレールが少し途切れたところで蛍はぱたっと歩みを止めた。
薬がだいぶ身体に回ってきたのだろう、その視線はあらぬ方向を向いていた。
蛍は今、自分がどこへ向かっていて、何をしに行くのかもわかってはいないようだった。
呆然自失のまま、立ち尽くす蛍。
傍目にも痛々しく映る姿は、少女が望んだ姿でもあった。
「足、痛いな……」
なんともなしに呟くと、俯いたまま靴の爪先を黙って見つめていた。
夜も更けて少し温度は落ち着いたはずなのだが、蛍はそれと反比例するように滝のような汗で全身を濡らしていた。
冷たく、体の内から湧いてくる汗に不快感と寒気を感じるが、それを拭おうともせず、ただ立ち尽くすだけとなっていた。
眠気と疲労が頭のなかでせめぎ合う。
目を閉じてその場でじっとしていても、汗も眠気もどんどんと身体の内側から湧きあがってくるようだ。
崖下から吹き抜ける風が蛍の長い髪をなびかせようとするが、汗で重くなり、肌に張り付いた髪はべったりとしてそれ以上動かなかった。
はあ……、蛍は煩わしそうに髪をかき上げる。
羽虫の声も大分遠くになった今、自分のため息だけが、とても大きく聞こえた。
黒い山の向こう側でなにかの鳥の鳴き声が聞こえるが、それを確かめるだけの気力がない。
「……」
言葉を忘れたのか、何も言わず、最後のペットボトルの水を飲む。
体が拒否しているのか、半分ほど飲んで後はアスファルトの上に転がした。
「もう、ダメ……つかれた……」
蛍は倒れるようにガードレールに身を寄せて、ため息交じりの吐息を吐いた。
体力の限界だけでなく、眠気もあってはどうすることもできない。
軽く瞼を閉じただけでそのまま眠ってしまいそうだった……睡魔が蛍を眠りの園へ誘っていた。
このまま寝たらきっともう目を覚ますことはないかもしれない。
そんな予感がしていたが、それでも別によかった。
このまま立ってでも眠りそうなほど瞼は重く、意識は暗闇に落ちていきそうだった。
「ごめん……もう無理……」
蛍は誰ともなく謝ると、そのまま眠りの中に落ちようとする。
もう何も考えられなかった。
ただ寝ることだけに意識を向けようとしたとき──。
視界の外側から強い光の束がこちらに向かって走ってきていた。
眩しい光に照らされて、蛍は無意識に手をかざして対象をすがめる。
強烈な光は黒と青の世界を切り取るようにして猛然と突進してくる。
このままぶつかってしまうのではないかと思われたが、光を放つ物体はぎりぎりのところを避けて、猛スピードで蛍の目の前を駆けていった。
生き物の目のように丸い二つの光は、呆然と佇む少女を気に留めることもなく、そのまま峠の道を下りていく。
蛍は目を丸くしながらその後姿を呆然と見送った。
はっきりとはわからなかったが、赤いテールランプで先ほどのものが車であることはわかった。
多分、軽自動車だろう。
特に車に詳しいわけではないが、どこかで
それは少しむっくりとしたデザインで、カラーバリエーション豊富な
燐が運転していた車と同じ軽自動車だった……気がする。
かなりのスピードが出ていたのだろうエンジンの高く唸っていた。
それほど慌ててはいないのか、それとも運転に自信があったのか、、蛍が近くにいてもクラクションの一つも鳴らなかった。
蛍はなんとなく見覚えがあったその車を、通り過ぎる刹那に垣間見ていた。
ウィンドウの向こうのドライバーはこちらからでは良く見えず、口元が確認できただけだった。
ルージュをひいた口元で、燐ではないことだけはわかった。
そんなわけあるはずがないのだけれど、いちおう気になったのだ。
車はガラスを切ったようなスキール音を山肌に響かせながら、夜の峠道を猛然と駆け下りていく。
瞬く間に小さくなるテールランプ、その小さな赤い光を呆然と見ていた。
蛍は二つの赤い光を見ながら、頭の中に生まれた漠然としたもやもやを腕を組んで整理していた。
あれだけあった眠気は再びどこかへ行ってしまった。
「……車が来たってことは……」
蛍は思案気に呟いた。
そして車が来た方角に指を差す。
すっかり暗さが戻った車道を見て、蛍はあることを理解しようとしていた。
(この道はもう峠まで一本道……ということは、峠の道はそのまま県境まで通じているってことだよね)
はあ……、蛍は肺の奥の空気を一滴残らず外へ吐き出した。
深いため息の後、白いガードレールに寄りかかって、遠くの山々を眺める。
山の稜線が空と同じ色に染まって、作り物のように理路整然とした絵肌を暗闇の遠くまで描き出していた。
蛍は純粋に心が満ち足りていた。
峠の頂上までは行けなかったが、その必要がなくなったのだから、ある意味得をした。
反対側から車が来たということは、峠の道は隣の県まで続いているのだ。
蛍はその理論に満足していた。
薄々わかっていはいたことだけと、実際に何らかの答えが欲しかったのだから。
それがわかっただけでも、もう十分やり遂げた。
それに……ここでの景色は今までみたどの景色よりも最高に良かったから。
気温差と標高が生む、白い靄が山と森を幻想的に染め上げている光景が、とても心地よかった。
ここからでは点のようにしか見えない町並みに、遠くまできたことを存分に味合わせてくれる、得も言われぬ達成感。
これ以上のものがどこにあるのだろう。
もっといい景色があるのかもしれないが、今の蛍にはこれだけで十分満足できた。
ただ一つ残念なのは……今、一人ぼっちだってことだけ。
大好きな人が、燐が、隣にいてさえくればこれまでの人生で最高レベルの出来事なのに。
それだけが本当に……。
「わたしね」
白いガードレールに両手を添えながら、蛍はここからではその陰すらも見えない、はるか先の景色を思い描いていた。
「わたし、あのDJの人が言ってたことって比喩だと思ってるんだ。ほら、古いものも新しいものも流れたってあの人言ってたでしょ。結局、あれって価値観とか楽観的なものとかそう言った土地に染み付いた慣習的なものが削進されたったいうのかな。とにかく元の小平口町の形に戻ったってこと、だよね?」
「だからね」
蛍は二つに結わいた髪を解いて、止めていた髪飾りを一つづつ、丁寧に外していく。
音を立てたかのように、蛍の長く艶やかな黒髪が夜風よりも青くリボンのように舞い上がった。
髪を下した蛍はそれまでの疲弊した姿から嘘のように凛としていた。
蛍は手の中の二つの髪飾りを悲しそうな目で見つめる。
蛍の清楚さを引き立たせていたキンセンカの花を模した髪飾り、それは家政婦がくれた髪飾りで、蛍が幼少期から付けていた大切なものだった。
それを外すことは髪を洗ったりすること以外には滅多なことがない限りしなかった。
それを今、ここで外すことは過去からの別れを意味していた。
手の中の二輪のキンセンカはこの離別をわかっていたかのように、淡々と静かに咲き誇っていた。
ぎゅっと手を握りしめて、手の中の髪飾りを優しく包み込む。
そして蛍はその手を後ろに振りかぶって、そのまま、手の中のものを放り投げた。
キラキラと光を反射しながら、キンセンカの髪飾りがなすすべもなく崖下へと落ちていく、そう思われたが……。
「……っ!」
振り上げた手を頭上に掲げたまま、蛍は小刻みに全身を震わせていた。
何かの葛藤が、迷いがあったのか、無言のまま静かに手を下すと、俯いたまましばらく動かなかった。
握りしめられた拳には髪飾りが二つとも残っていた。
はあっ、と安堵からのため息をつくと、蛍は髪飾りをスカートのポケットにしまった。
長い髪を風に揺らしながら、途方に暮れた表情で崖下の町並みを見つめていた。
──もうこの場所にいる理由すらなくなっていた。
あの不条理の象徴とも言える壁がないことがわかった今、冒険というには短すぎる家出はここで幕を下ろすこととなった。
終わりを意識すると、それまでの疲労が一気にのしかかってくるようで。
蛍は全身の気怠さでちょっとでも動くことすら億劫になっていた。
やることはもうすべて終わった。
「……じゃあ、もういいよね」
間近でないと聞き取れない小さな声でつぶやくと、痛む足を半ば引きずりながら、一歩づつ、ゆっくりと前に進んでいく。
今いる場所はガードレールのない、崖の上に迫り出した休憩所のような場所だった。
といってもベンチが置いてあるわけでもなく、ただ木でできた柵で覆われているだけの簡素な展望スペースのような所だった。
とりわけ意味のない、工事の際の資材置き場のような、道から取り残された場所だった。
だが、蛍にとっては都合の良い、言ってみればおあつらえ向きの場所だった。
柵の傍まで寄って、そこから崖下を見下ろしてみる。
ちょうど下には道路はなく、ただ黒い大きな井戸のような暗闇が底知れぬ様相で広がっているだけ。
土留めをした斜面すらも視界になく、緑を湛えた木々も、この高さでは黒い台地と見分けがつかなかった。
蛍はしばらくその幻想的で死を誘うような、異世界の入り口のような黒の景色をじっと見ていた。
崖下から吹き上げる、温めの風が蛍の前髪を何度も持ち上げる。
風はときおり鼻をむずがゆくさせるが、くしゃみが出るほどではなかった。
(別にこのままでもいいんだけど……なにか言っておいたほうがいいのかな?)
蛍は難しい顔をして思案する。
うむむ、と小さく唸りながら、蛍は頭の中で辞世の句に相当する言葉を捻りだす。
こういう気の利いた言葉を作るのが結局最後まで苦手なままだった。
あっ、と小さく息を跳ねると、蛍はパンと手を叩いた。
本当は指を鳴らしたがったが、一度としてそれは成功したことはなかった。
ちなみに燐はこういうのも得意で、指を鳴らすことも口笛を吹くことも
「燐……あなたが好きです。わたしはあなたが大好きです。どうかあなたのもとに、燐のいる世界へわたしを連れて行ってください……」
恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、燐への愛の告白を口にする。
両手を胸元で握り合わせた仕草はまさしく美少女のそれであったが、セリフは低学年向けの少女漫画でも採用は難しそうなセリフであったが。
「もうちょっとこう……哲学的なほうが燐に心証がいいかもしれない」
蛍は再び腕を組んだ。
だが、別に怖気づいているわけではなく、本人は至って真剣だった。
蛍は計画的ではあったが、ここまで来ることは衝動的であった。
だからこそ最後は計画的であったほうがいい。
ここまで衝動的に行ってしまっては、きっといい顔をされないだろうし、変な誤解を周囲に与えてしまうことになる。
なにより燐にちゃんと気持ちを伝えて置きたい。
だってもうすぐこの肉体と捨てることなるだろうし。
気持ちは後からでも伝わるかもしれないけど、言葉は声は今でないと伝えらないないだろうから。
だからこそ真剣に考えたい。
きっとこれが、わたしの最後の言葉になるはずだから。
「わたしね、夏休みの間、色んな本を読んだよ。ほら、カミュのこと覚えてる? 燐はなんだか見る気しないって言ってたけど、わたしは読んだよ。代表作の”異邦人”も”ペスト”も、”幸福な死”も読んだよ。あ、”最初の人間”も読んだ。でもこの作品って途中までなんだよね、もし完成したら結構な長編になったと思うんだ」
「あ、えと……つまり、ね」
「燐。燐は生きてるだけ、生きることが楽しいって思ってたんだよね。だから色んな人が燐と一緒にいることで幸せになっていたんだね。わたしだってそうだよ、もし燐が声をかけてくれなかったらもうとっくの昔に死んじゃってたって思うんだ、わたしも相当弱いんだよ」
蛍は一旦言葉を区切って深呼吸する。
鼻から森の香りと、夜の涼しい香りが、二つの肺にたっぷりと満たされる。
それを十分に堪能して、一気に口から吐き出した。
あれほど苦しかった頭の痛みがすっと消えてなくなり、普段のコンディションに戻った気がする。
蠟燭の最後の輝きかもしれない、と蛍は思ったが口にせずに、さらに言葉を続けようと唇を震わせる。
「ねぇ、燐。わたし燐は向日葵みたいだって思ってるんだよ。みんなを明るくさせて、さらに燐はもっと明るくなる、太陽にだって負けないぐらいに眩しくてキラキラで……だからさ、わたしと……代わろうよ。わたしがそっちに行くから、燐は戻ってくればいいよ。わたしはもう十分生きたよ。今までで一番頑張って生きたと思う。だから夏休みの間は色んなこといっぱいしたつもりだよ」
「それに、わたしはきっと”そっち側”だと思うんだ。オオモト様もわかってたんだと思う。だってわたしのお母さんも、その前のお母さんも、さらにその前だってきっと……同じことをしたんだと思う。だから気を使わなくていいんだよ。わたしは元からだから」
そう、最初からそうなんだ、きっと。
「でも、燐は優しいからね、そう簡単に代わってくれないかもね。だから、わたしから会いにいくよ。ちょっと予定が狂っちゃったけど。今からそっちに行くね。もしかしたら燐は怒っちゃうかもしれないね。でも……わたしも怒ってるんだよこれでも。だからおあいこ」
「あ、ごめん。全然哲学的じゃなかったね。わたしにはちょっと難しいのかもね」
う~ん、と蛍は三度首をひねる。
適切な言葉を考えるのは苦手だが、まだ喋り足りないのも事実だった。
もうちょっと燐の気持ちに訴えかけたいなあ、そう蛍は考えていた。
そこには悲しい目の少女はなく、きらきらしたした瞳の、一人の乙女がいるだけだった。
「あ、告白……してみようかな。どうせ最後だし、誰も聞いてないからいいよね? あ、燐には聞いてもらわないとだけど……」
蛍は逸る気持ちを抑えつつも、友達の親友に対する気持ちを心のなかで紡ぎだす。
それは蛍の本当の気持ち。
燐と知り合ってから、ううん、それよりももっと前。
込谷燐を一目見た時から感じていた、心のときめきを言葉にする。
どきどき。
迂闊にも心臓の鼓動が早くなる。
目の前に本人はいないのに、聞いてくれるかもわからないのにすごく緊張してしまう。
緊張で手に汗が浮かんできて、それを袖で拭った。
今頃になって蚊に刺された手の甲が痒みを訴えてくるが、気にすることもない。
こっちはそれどころではないから。
告白を前に虫刺されなどロマンの欠片にもならないから。
小刻みに震える唇を引きつらせるように動かして、軽く口を開いて舌先を歯茎の上に乗せる。
そして蛍は最初の言葉を出した。
「わたし前にも言ったけどもう一度言うね。わたし燐の事が好きだよ、だいすき。だから……わたしと……」
ここまではわりと良かった、言葉を出すたびにどんどん気持ちが高ぶっていって、胸がほんのりと暖かくなっていったから。
恋のときめきを感じることができたから良かった。
しかし、この後の言葉はあまり適切じゃなかったかもしれない。
いやむしろ、これはダメなやつかもしれない……。
でも、なぜか止められなかった。
気持ちに勢いがつきすぎたのか、言葉が、想いが、止められなかった。
「わたし、燐と
普段は口下手の蛍がこの時だけ、やたらと饒舌だった。
だからまだ言葉は続いていた。
「わたしだって知ってるよ、セックスは男の人とするものだってことは。でもわたしは燐がいい。むしろ燐じゃなきゃダメなの。だって一人でしてる時だって燐のこと考えながらしてるんだもん。男の人に触られたり色々されたりなんて耐えられない。でも、燐が相手ならきっと大丈夫。何されても平気だよ、だって燐は優しいもん、わたしが嫌がることなんてしないってわかってるから。だから……ね、一緒にしよ?」
蛍は汗を撒きながら息継ぎもせずに捲くし立てた。
そして言いたいだけ言うと、急に口を噤んでその場に立ち尽くした。
急にのどの渇きを感じて、足元に置いていたペットボトルを手掴みすると、一気にのどの奥まで流し込んだ。
満足したように空のペットボトルのキャップを閉めたときに。
事の事態を理解して、火が出そうなほど真っ赤になった顔を手で覆いながら、一人懊悩していた。
しばらくそのまま顔を覆っていたが、その小さな肩が震えていた。
肩だけではなく、蛍の体全体が小刻みに震えていた。
蛍は顔から手を離すと、赤い顔のまま何かに耐えるように口元を押さえていた。
その瞳は波の様に揺れていた。
でも、それは悲しみからではなく、むしろ恥ずかしさからくる笑いの目だった。
「ぷっ……」
とうとう堪えきれなくなったのか、蛍の口元がどんどんと緩んでいく。
それはこれまで見たことのない本当の笑い顔だった。
「あははははっ!!」
丸い月に向かって蛍は笑い声をあげた。
青黒い夜の中、少女は一人で笑い転げていた。
括れを伴った柔らかな腹に手を当てて、大声で笑っていた。
もし他の人が居たら、何事かと思うほどだろうが、幸いにもここには蛍一人だけ。
後は、何も理解できない羽虫か小動物しかいなかったから。
何をするにも自由だった、だから波が収まるまでずっと笑っていた。
「あははっ、ごめんごめん。あまりにも可笑しすぎて笑っちゃってたよ。だってあんな告白っておかしいよね? でも、頭に浮かんじゃったんだ、変だよねっ、あははっ!」
目に涙を浮かべながら、まだ自分の言葉が面白いのか蛍は微笑んだまま燐に謝った。
言葉は風に吹かれただけで霧散してしまったが、それでも気にすることはなかった。
どうせこの世界の言葉は燐には届かないのだから。
「ふぅ……」
ひとしきり笑った蛍の顔は、驚くほど綺麗になっていた。
恐らく今が一番少女を美しくみせているのだが、その対象はどこにもいなかった。
けれでもそれは悲しいことではなかった。
もうすぐあえるから。
あと数歩、足を前に出すだけで燐に会うことが出来る。
蛍の瞳は確信めいた輝きを持っていた。
迷いはないようだった。
「きっとね……」
蛍はさらに一歩足を進める。
その先はもう崖しかなかった。
「きっとわたし、まだ夢を見ているんだね。ううん、きっとずっと覚めない夢を見せられてるんだよね。そう、燐に会った時からずっと夢の中だった。だからいい加減覚めなくちゃね。気持ちのいい、本当に気持ちのいい夢だった。ずっとこのままでいいと思ってたけど、それはこの町が幸運を求めるのと一緒で、わたしには大それたことだったんだね」
「だって、燐と友達になってから、ずっとわたし幸せだったから。あなたの隣にいるだけで幸せだった。でも、それは重しになっていたんだね。わたしと燐、同じだと思ってたけど、それはただの勘違い、良くある思い込みだったんだね」
「でも燐。もし、もしももう一度あなたに会えたら……今度はちゃんとした友達になりたいな」
「色んな話したり、ショッピングに行ったり、クレープ食べたり……あ、これだと今までと同じだね。そうだ、わたし燐と喧嘩してみたいな。燐はすごく優しいし気を使ってくれるからこれまで一度も喧嘩にならなかったけど、やっぱり喧嘩したほうがいいと思うんだ。あ、でも叩いたりとかそういうのは無しで、ね。でも、やっぱり燐は優しいから喧嘩しないかもね。わたしも燐と喧嘩なんてやっぱり考えられないなあ……」
遠くの山の頂が薄っすらと白く滲んできていた。
まだ月は消えてもおらず、夜も星を湛えていたが、それほど長くは持たないだろう。
夜明けの鐘が鳴り響く準備が徐々に整え始めていた。
「ごめんね。話長くなっちゃって。あ、まだ言いたりない事があるから後はノートを見てね。結構色々書いておいたから」
実際、ノートには日記形式のエッセイだけでなく、様々な事柄のレジュメも記されていた。
それは小平口町のこと、町民が求めた幸福、そして歪み、さらには座敷童についてのことと多岐にわたっていた。
その中で座敷童に関しては独自の研究というか見解を記していた。
それは座敷童本人だからこそわかるようなことだったとも言えた。
蛍は座敷童による幸運の継承をある種のクローニングのようなものと考えていた。
座敷童の親が望む望まないを別にして子を産む、そしてその子供が力を受け継いでいく。
一見すると普通の人間の営みのように思えるのだが、その子供がすべて女の子だったとすると話が違うと蛍は思っていた。
さらには母体に関することは一切残されていない。
小平口町にも墓地はあるのだが、座敷童のお墓も、供養の塚すらもないのだ。
当然そういったことを記した資料もないことから、発覚を恐れた住民が代々秘密裏にしていたとそう思い込んでいた。
燐と一緒に図書室を調べた時に結論を出していた。
そう、座敷童の概念は
これまで外部には伝わらなかったのだから、よほど強固なパスワードだったのだろうと推測する。
それは多分、生死をもって定められたのだろう。
原始的かもしれないが、それだけ昔からの習慣だったとも言える。
きっと彼らは恐れていたのだ、幸福を失うこと、それが他の町や村に知れることを。
そういう意味では彼らは賢かったのかもしれない。
同時にとても臆病すぎたのだ。
だから墓も記録もない、それがもっともな結論だと思っていた。
だが、あの不思議な夜が終わり、一部を除いて町が元に戻ったときに、蛍はやっとわかった。
幸運は継承でなく、書き換えで行われていたこと。
だから毎回新しい幸運が土地に舞い降りていたのだと。
代わりに力を失った幸運は、その肉体も名前さえも記憶から失われてしまうのだと言うことに。
あたかも生贄のように、消えてしまう。
古い肉体には幸運は宿せない、代わりに新しい肉体を創造することが出来る。
幸運を詰め込んだ新しい器を。
それは人間の女性と何ら変わりないのかもしれない。
(わたしは24番目の座敷童とか、そういった感じなのかもね)
新しい肉体が生まれれば古い肉体は自動的に廃棄される。
無駄のない合理的なシステムだと、蛍は他人事のように感心した。
幸運とは肉体があってこそ力を発揮する、それは目には見えないけど、確実に影響を与え続けるのだ。
歪みが起きようと構うことなく、人が求める限りずっと。
それがあの、異常な世界を生み出してしまったことになったのだけど。
それすらも忘れた町の人間はこの先、どうするのだろう。
色々やっているようだが、蛍には何の興味も湧かなかった。
──だから何もわからなかった。
…………
………
……
「なんか、空にいるみたいだね……ごめんね。本当は山の頂上まで行きたかったんだけどね。それでも、燐をこれまでで一番近くに感じる、そんな気がするんだ」
蛍はこれから自分がいく世界を見下ろしてみた。
崖から下の世界は深い闇の底、地底への入り口のように黒く目のくらむような高さがあった。
正常な人間ならばこの時点で足が竦むだろう。
蛍にはそうは感じなかった。
彼女にとってはそこは望むべく世界であって、終わりの始まりの場所だったから。
その為にわざわざここまで来たのだから、怖さはなかった。
「燐、わたし今、幸せだよ。うん、本当だよ。だってここからの景色すごく綺麗だし、それにもうすぐ願いが叶うから。ねぇ、燐。好きな人の傍にいることが一番幸せなことなんだよ?」
ほとんど黒で占められている世界、それは一つの素粒子から出来ていた。
それは宇宙の始まりと同じ、新しい景色。
蛍が世界で最後に見る、最高の光景だった。
(せっかくだし何か歌ったほうがいいのかな?)
蛍はこの想いを歌に乗せて伝えてみようとする。
でも、なんの歌がこの場にふさわしいのだろう? 蛍は小首をかしげて考えた。
(わたしが”蛍の光”を歌うのはなんか嫌だなあ。もうちょっと叙事っぽいのがいいな……)
蛍は再び考え込むが、急にある結論に至った。
「わたし、歌苦手だったんだ……あの時は燐と一緒だったから歌えたけど、結構音痴なんだよね」
長い髪をなんとなく手で梳かしながら蛍は恥ずかしそうに微笑んだ。
(そういえば、あの時燐と一緒に歌った曲ってなんだったっけ?)
車の中でラジオから流れてきた、あの懐かしい感じの歌。
叙情的なメロディーも、大切な人との別れを思わせる、寂寥感のある歌詞も頭に思い描くことが出来なかった。
タイトルすら思い出せないのは明らかな異常だった。
だが、思い当たる節がないわけでもない、多分これは
(多分、あの時の記憶が今でも残っていたのは、わたしがまだ”座敷童”としての力が残っていたから。そして、その力が本当になくなろうとしてるんだ……)
それに関しては恐怖感はない、こんな力は最初から気にもしてないし、当てにだってしてはいなかったから。
でも、記憶が失われていくのは単純に怖かった。
悪い記憶ならなくなってくれればそれに越したことはないが、良い記憶、ましてや燐やオオモト様との楽しくも心地よい記憶が失われていくのは到底耐え難いものであった。
日記やネット上に残しておけばいいというものではない気がする。
それを立証するものがいなければ、それはただの虚言であり、伝承にもならないのだ。
そう蛍は考えていた。
だが、それに抗う術を蛍は持っていない、ただ流されるだけ。
水が低いところに流れるように、座敷童のこともオオモト様のことも、そして燐のことすらも徐々に忘れていくのだろう。
幸運も不幸も水に流して、ただ流れるままに……。
……結局歌うことは止めて、蛍は改めてこの世界から去る準備をする。
と言っても特別な事は何もない、これと言ったルールさえない、だから各々が好きなように飛べばいい、あとは大体同じ結果なんだし。
助かるかどうかを気にする人はまずこんなことすら考えないのだから。
黒い刺繍糸で縫い付けられたパッチワークの空に子午線のような紫がかった地平線がが山肌を駆けあがって徐々にせり上がってきていた。
夜と朝の混ざった風が蛍の長い黒髪をうねりをもって煽ってくる。
それはなにかの生をもった触手のような不規則な形を作って、伝説上の生き物のシルエットを山肌に描き出していた。
谷から吹き上げてくる風で綺麗な髪に小さな軋みが見えてきているが、蛍はもう髪を束ねる気などなかった。
蛍は軽く姿勢を正すと、影絵のような山の向こうのその奥の青紫ヴェールを透かすように見つめた。
目を閉じるかどうか迷ったが、蛍はこの美しくも儚い世界を目に焼き付けたかったのでそのままの姿で落ちることにきめた。
恐怖は増すが、その分ジェットコースターのような最高のスリルを人生の最後に楽しむことが出来る。
蛍はおとなしい見た目に反してそういったアトラクションが結構好きだった。
とは言ってもこれはアトラクションではなく、リアルなのだが、それほど大差はないだろうと。
──ただ、二度目がないだけだった。
せっかくだから記念の写真を撮ろうかと思ったが止めた。
余計な通知が来ないように携帯の電源はずいぶん前から切っていたし、持ってきたインスタントカメラはただの重しとばかりにノートと共に風車の傍らに置き去りにしてきたのだ。
もういいや、と面倒くさそうにそっと呟くと、蛍もう半歩ほど両足を前に出す。
ほとんど空と変わらない場所に蛍は立っていた。
崖下から吹く風は生と死のはざまを流れる、橋渡しのような温い温度で全身を撫で上げる。
蛍はこの光景にある既視感があった。
青いドアの家、そしてその世界、風車の連なる静寂の世界、どれもこれもがこの景色と酷似していた。
蛍はわかっていた、あの世界は一種の煉獄なのだと。
これから旅経つものが一時的に身を寄せる場所、やがて帰る場所なのだと、それが当たり前のようにわかったのだ。
だから
オオモト様と燐の待つあの世界に。
因果地平の彼方だとか、event horizonとかどうでもいい。
ただ、あなたの元へ、わたしがほんとうに欲しかったもとへと行きたいだけ。
(だから、ちょっとだけ、待ってて……すぐ行くから、ね)
崖下をつぶさに覗き込むと、そのまま普段の道のように何もない空間を歩きだそうと脳に指令を送ろうとしたその少し前、蛍にある単純な疑問が沸き起こった。
「靴って、脱いだ方がいいのかな……?」
取るに足らない問題だが、それがやたらと気になってしまう。
そして一度気になりだすと、どうにも気になって仕方がなくなる。
わずかな風の悪戯がおきただけでも落ちそうな不安定な足場で、蛍は町内会議に参加したときのような気難しい顔をして心中で自問自答していた。
恐怖という感覚はとうに何処かへいったかのような暢気さは他人が見たら呆れるほど清々しくみえるだろう。
(ドラマとか小説だと大体脱ぐよね? でも何の意味があるのかな……? 足が汚れるし特にいいことなんて……あ! そういうこと)
蛍は疑問を解消した感動に打ちのめされた。
それは単純なことであって特筆すべきことではない、ただ人の本質があった。
「優しさなんだね、きっと。靴を脱いでおけばわかるから、ここから飛び降りたって。靴を置いておけば警察の人とかが発見しやすくなって掛かる迷惑が少なくてすむから……だから最後の優しさなんだね」
蛍はその自論に嘆息した。
もしこれが優しさを伴うものなら、人はその優しさを最後に見せるのだ。
だったら、この世界も別段悲しいものじゃない。
そう思うからこそ蛍はその優しさを模倣するのが当然だと思い、一歩、二歩と後ろ向きで崖上から後ずさる。
蛍はすこし広い場所まで戻ると、手ごろな場所で身を屈めて、トレッキングシューズの靴紐をまざまざと見つめる。
ディープグリーンのトレッキングシューズにレモン色の綺麗な靴紐が少し変わった結び方で歪に結われていた。
自分がやったことながら、相変わらずの不器用さにため息が漏れる。
気を取り直して、結んだときと同じような手順で靴紐を解いていった。
……それは蛍が考えていたよりも容易なことではなかったみたいで、きつく結び込まれた靴紐は蛍の細い指をそう易々とは通してくれなかった。
思い通りにいかない靴紐に蛍はムキになったのか、本来の目的も忘れて靴紐を外すことのみに神経を集中していた、周りも気にせず目の前の行為に没頭していた。
「えいっ、このっ!」
どんなに力を込めて指を掛けようとしても、固く結ばれた靴紐は鋼の鎖のようにびくともしなかった。
トレッキングシューズシューズと一緒に別売りの靴紐も買ったのだがこれが良くなかったらしい。
ただでさえ外れにくい形状の靴紐に、出鱈目の結び目を施したものだから、それが二重にも三重にもなってしまって、蛍の手に余るものとなってしまった。
(どうしよう。燐が待ってるのに、こんな靴すら脱げないなんて……!)
焦れば焦るほど靴紐がきつく、長くなっていくような妄想に囚われる。
蛍はただ裸足になりたかった。
重い靴を脱いで自由な姿に、黒いタイツも脱いで素足のままで大地を踏みしめてみたかった。
なんなら制服を脱ぎ捨てて、下着も脱ぎ、全裸になったっていい、もう何も気にするべきものなどないのだから。
むしろその方が上手く飛べるかもしれない。
あの空の彼方まで高く、燐のところに届くように。
それぐらい、今の蛍は熱を帯びていた。
だいぶ涼しくなってきたと思われた夏の終わりは、蛍の中でだけ再びの猛暑となっていた。
汗を掻き、息を切らせるほど力を入れても、靴紐は何かの意思をもったように強固な鍵をかけ、元通りになるのを止めてしまったのだ。
結局、左も右も蛍の言うことを素直には聞いてくれず、指の爪が剝がれそうになるほど痛い思いまでしてやっと、この行為が無駄なことに蛍は気付いた。
「……もうこのままでもいいかな……どうせ同じだし」
蛍は降参したように両腕を投げ出すと、脱ぎかけ靴のままで立ち上がろうとする。
そのとき不意に背中が妙に重いことに気づいた。
いまだに蛍はバックパックを律義に背負っていたようだ、そんな自分の間の抜けっぷりに思わず肩をすくめて苦笑した。
「そうだ。靴の代わりにバッグを置いておけばいいよね、むしろこっちの方が目印になりやすいし……」
余計なものを投げ捨てるような無造作でバックパックを地面に放り投げると、体重が一気に軽くなったような気持ちになり蛍は驚いた、それだけ重い荷物だったようだ。
それと同時に、何かに弾かれたような硬い金属音がバッグの内からこぼれだして、その方向に首を向ける。
音は蛍にあることの所在を思い出させた。
「あ! そういえば、ナイフみたいなのを入れてた気がする」
蛍は一度捨てたバックパックをもう一度片手で拾い直すと、そのふて腐れたような口を少し乱暴に開いて中を引っ掻き回す。
(確かあったよね? 一度も使うことはないと思ってたけど……)
それはバッグの内ポケットに専用のポーチと共に仕舞われていた。
赤いエナメル塗装を施した金属製のジャケットに北欧の国旗をあしらったロゴが押されている、それはお洒落な靴ベラのようにも見える。
中には主にアウトドアで使用する為の道具が、
マルチギアとも呼ばれていて、用途に応じて中のツールに些細な変化があり、USBメモリが付いているものもあった。
小ぶりだが肌触りよく、手に馴染むデザインをしている、日本では主に十徳ナイフの名称で親しまれていた。
蛍の持っているものはジャケットの先端に小さなLEDランプが付いていて、暗闇でも使い勝手のいいモデルだった。
どういう構造が良くわからないので、とりあえず全てのツールを親指と人差し指で摘まんで取り出してみることにする蛍。
ナイフだけでなく、ハサミや、缶切り、ヤスリにスケール、それから用途不明な金属のつまようじ的なものと、赤い胴体に金属の枝が生えているようで少し不気味だった。
その鉄で出来たカミキリムシのような滑稽さに少し笑みをこぼした。
悪くない笑いだった。
ナイフかハサミ、どちらを試そうか少し迷ったが、一番使い勝手が良さそうなハサミで靴紐を切ることにした。
”紐を切る”と言う行為になんとなく罪悪感を覚えるが、靴紐が解けない以上、切るしかほかない。
ペンライトのLED明かりと、ナイフのLEDの小さな明かりを交差させながら、靴紐にハサミの刃をあてがう。
一瞬の躊躇の後、蛍がハサミの柄の力を込めようと指先を動きを脳が伝えようとしたその時、何かを引っ掛けてしまったのか、スカートの左のポケットから、何かが音も立てずすっと落ちていった。
「……?」
それは軽かったので落ちたことにすら気付かないかと思われたが、蛍は何故かすぐにわかった。
スローモーションのようなコマ送りで黒いアスファルトの下に転がるそれを、蛍は落ちきるまでずっと目で追っていた。
丸い紙の球、大事な贈り物が無残にも姿を変えたもの。
蛍が大切にしていたもの。
そして壊したものだった。
それが無造作に地面に落ちる。
そのままの地面に制止しすると蛍はてっきり思っていたので、その後の動きで、驚愕することになった。
「えっ!?」
紐を切ることを中断してそれを拾おうと手を伸ばすが、その手を
ただの紙を丸めたそれが、奇妙な音を奏でたのだ。
そしてそれは弾んでいた。
ゴム毬のような弾力性と音で、二度、三度と弾んでいたのだ。
ぽん、ぽん、ころころ。
球は蛍がいる崖の方ではなく反対方向へと進んでいった。
その動きは意思を持ったかのように、緩やかにそして目的があるような動きで転がっていく。
ころころと無邪気に転がる紙の球、それはどこか懐かしさを覚えるものだった。
何が起こったのかにわかに信じられなくて、蛍は口をあんぐりと開けたままだった。
そのまま暗闇の中をどこまでも転がって行きそうな気がして、蛍は拾おうともせず、ただ行先を黙って見守っていた。
「あら?」
声がした。
人間の、おんなの声だった。
珍しいものでも見つけたような驚きの混ざった声。
どことなく落ち着いた声が印象的だった。
他人の声。
この世界には自分以外誰もいないと思っていたのに。
蛍は急に疎外感を覚えた。
暗がりの中でかさかさと物音がする。
蛍は口を閉めるのも忘れて、自然と息をひそめていた。
多分、あれを拾い上げたのだろう、不思議そうな疑問の声が闇の中で小さな吐息とともに漏れるのを聞いた。
当然、こちらにも気づいたようで、軽い足取り音がこちらへと近づいてくる。
蛍はしゃがみこんだ態勢のまま動くことも敵わず、何かに怯えるように身を固くしてその時を待っていた。
敵意があるとは思っていないが、今の姿を見られるのはマズイ気がする。
このままどこかへ行ってくれないかと思っていたが、その願いは叶えられそうになかった。
「どうしたの? 大丈夫?」
知的な声、だが冷たい感じではない。
どちらかと言えば慰撫するような声色にほっと安堵の息をついた。
声をかけた女性はこちらの反応がないことに、少し戸惑っているような感じを示しているようで、観察するようにこちらを見下ろしていた。
蛍はしゃがみこみながらその人影を横目で見やる。
ペンライトの外側の淡い光が黒いパンプスを照らし出す。
大人の女性の足だった。
蛍はおずおずとその人物に顔を見上げる。
月明りが二人を照らしていた。
時間が、呼吸が止まったような感覚があった。
黒いアスファルトに二つの人影が青い輪郭をつくっていた。
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去年ぐらいから続いている鬼滅の刃ブームが今年も続いていますね~。
今年は映画公開もあってか最大級の盛り上がりを見せてますね。こういうのには全く興味がなさそうな身内も映画を見に行きたいようで、ミーハーながらも気になっているようです。
さてさて、ブームとは縁遠い私でしたが、ある時、右脳と左脳の違いを調べていたときに、偶然にも発見してしまったわけですよー。
──”鬼滅の刃キャラ診断”なるものを~。
っていうか割と有名な診断かもしれないですね、今、もっとも旬のコンテンツですし。
原作もアニメも見ていない私が、興味本位で診断してみた結果……。
うむ~、私はヒロイン属性なのか~? 何か納得がいかないかも? けど診断テストってこんなものかなぁ? まあ回答は5問しかないし、8キャラ分の結果しかないみたいですしねぇ。
別の診断テストで遊んだ後、気になってもう一度診断してみると……。
やはり竈門禰豆子! ……好きな食べ物は関係ないみたい?
むきになってもう一回やってみる。今度は性格のところを変えてみると、やっと違うキャラに……。
後日もう一回やるも、やはり禰豆子! ……もう禰豆子でもいいよ……。
竹筒は持ってないので代わりに海苔巻き咥えて寝ることにします……おやすみなさい……。
さてさて、人気作品と言えば恒例? のものがありますね。
──そう、AV化です!!
この鬼滅の刃も例外ではなく、実写化を前にAV化されておりました。
タイトルは、”鬼詰のオメコ 無限発射編”!!! とかいうどこから突っ込んだらいいのかわからない強烈なタイトルでした……。
しかし、タイトルだけ見ると公開中の映画がもうAV化で凄いなーと勘違いしそうになりますが、実際はそんなことはなく古民家風の建物だけで撮影されたエコな低予算AVでした。
それだけコロナ渦のAV撮影がどれだけぎりぎりの切迫した状況だったのかを物語っているということですね──多分。
しかし、問題はタイトルではなく、中身の方ですけども……原作アニメとも未視聴の私でどこまで原作再現出来てるかがわからないのです……。
とりあえず、コスプレには力が入っている気がします。似合う似合わないは別として。私のような原作知らない組にも分かりやすく解説を交えたセリフを入れてくれるですが……何故か会話が頭に入ってこないのです……。演技的な問題でしょうか? それともカラコンがあまりにも痛々しすぎるからでしょうか?
それでも竹筒を咥えた妹が鬼化しそうなのを止めるために兄が奔走していることだけはわかりました。多分この辺りの設定は原作通りでしょう。
さて、肝心の? プレイ内容ですが……黒子っぽい人に男装っぽい女性と、ピンク髪の女性が幻術っぽいのをかけられて妄想エッチ的な展開になる内容みたいですねー。
とりあえず最初は百合というかレズシーンから入るのはお約束なんでしょうか? 男装の人が蝶の髪飾りをつけた人と致してますねえ……恐らく最初のシーンが一番の見どころだった的なやつですね──少なくとも私には。
ピンク髪の人は首にぬいぐるみの蛇を巻いた中二病の人とエッチしてましたねー。なんかこの人ブリーチで見たような気があるようなないような……そんなオサレな人でもやることはやるということですね。
そして、いまだにレズってる二人を何故か覗いている猪頭の男が加わって、仲良く? 3Pすることになります。多分原作を知っている人ならば、”ああ、二刀流ってそういうことね”と感心するかもしれないです、多分。そしてこの猪男が一番再現率が高いと思われます。まあ、ガタイのいい男優に猪の頭をつけただけみたいなものですからねー。その後に出てくる市松模様の彼も猪頭を乗せればいいと思ったのは私だけでしょうか?
そして妹の相手はもちろん市松模様の学ランを来た兄とのエッチ。定番中の定番でしょう。ただ、男優が……残念ながらおっさんですね。これは仕方ないのです、いわゆるギャップ萌えを狙ったのでしょう。それにこういうコスプレAVにはもれなくおっさんがついてくることがお約束になっているのです。そしてそれを求めている層が一定レベルでいるようなのです。多分ですが……。
さて、三人のコスプレ女子が幻術をかけられて黒子の男に犯されているだけだったという、良くある展開から、本物の兄がやってきて、何の”呼吸”も使わずに一刀両断して終わるという、極力無駄を排した戦闘シーンは清々しさすらあります。
ですが、紅蓮なんちゃらさえ流れればそれなりに格好良くみえたのではないかと思ったりなかったり。ただコスプレしたおっさんが半笑いで残心するのはどうかと思ってしまうのですよー。最後までキャラに成りきりましょう(謎の上から目線)
AVである以上、ヌけるかどうか最大の焦点であるはずですが、どうかと問われれば……ゆるキャン△ のAVと評価は大して変わらないですね。頑張ればいけないことはない……気がします。
ただ、私は無限列車編のパロディだと思い込んでいたので、コスプレ痴漢ものかと少しワクワクしながら見ていたので、古民家AVではなんの感情も沸いてきませんでした。俗に言う、心のちんちんすら立たなかったのです……。
無駄にAV解説が長すぎて少し心配な気がしますが、今回はこれで──。
ではでは──。