We are born, so to speak, twice over; born into existence, and born into life.   作:Towelie

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 ここまで結構な道のりを歩いてきて汗をかいてしまったからか、恥じらいなどはどこかへいってしまったようだ。

「はぁ~、気持ちいいねっ! 山登りのあとの温泉は本当に最高だねっ」

 燐は、つい安堵の声が漏れていた。

「本当、あったかいね」

 蛍は燐の後ろにこそこそと隠れながらそろそろと温泉に浸かった。

 クリームのような乳白色の湯舟に肩を沈めると、ようやく落ち着いたのか深い息をもらした。

 山の奥だからか、もの静かで──自分達以外誰もいない。

 その代わり脱衣所ような必要なものもなかった。

「ねぇ、クマちゃん。本当にこんな所にオオモト様がいるの? オオモト様って温泉好きなイメージがないんだけど」

 ここまで案内してくれたガイドに燐はその真意を訊ねてみることにした。

 天然の露天風呂としては最高のロケーションだけど、目的はそれじゃなかったから。

 それに、そこまでオオモト様の人となりを知っているという訳ではないが、あの人にはそういった秘境の温泉にわざわざくる、こだわりのようなものは無いような気がする。

 もっとも何でもいいというわけではなさそうではあるが。

 その小さなガイドは燐の横で唇を尖らせた。

「くまだってまだ良くわからないんだクマ。ただ、思い当たる場所がもうここしかないから……ぶくぶくぶくぶく……」

 湯に顔の半分ほどまで埋めたくまはぶくぶくと泡で誤魔化していた。

「つまり、行き当たりばったりってことかぁ……はぁーあ、期待して来て損しちゃったかなぁ~」

 溜息をついて両手を頭に回す燐を見て、蛍はくすりと小さく微笑んだ。

「でも、燐。ここってサトくんが見つけてくれた温泉なんでしょ? 人気も無くて静かだし、何か風情があってわたしは好きだな」

「あ。それはわたしも。オオモト様はともかくとして、秘境の湯としては最高の場所かもしれないね」

「うん。だったら苦労して来た甲斐は一応あったね」

 白い湯に浮かぶ紅く色づいた葉を指でつまみ上げながら蛍がにっこりと微笑む。

 そのまま旅行用のポスターにでも使えそうな画になるぐらいに、美しい光景だった。

「わぉん!」

「サトくんも楽しそうにしてるね。自分で見つけたからかなぁ」

 蛍たちが浸かっている温泉の横にある、小さな湯舟の中をサトくんがばしゃばしゃと駆けまわっていた。

 よほどこの場所が気に入ったのだろうか、蛍と燐が見たことのないぐらいにぐるぐると湯舟の中ではしゃぎまわっていた。

 それを見て燐は何か思いついたのか、パンと手を叩く。

「あ、だったらさ、ここを”サトくんの湯”にしようよ。特に名前もついてないみたいだし」

「それ、いいね。サトくんもきっと喜ぶと思うよ。良かったねサトくん」

 蛍にそう言われたサトくんはわんと吠えて答えた。

 それを見た二人は湯につかりながらくすりと微笑んでいた。

「何を勝手に決めているクマか。ここは”くまの湯”に決定してるクマっ」

 沈んでいたくまが腕を組んで仁王立ちをしていた。

「いつ決まったのそれ?」

 呆れかえった顔で燐は尋ねる。

「ついさっきクマ」

「それじゃあ、わたしと同じじゃない」

 燐はやれやれと肩をすくめる。

「それに、”くまの湯”ってどこかで聞いた事あるかも」

 確かスキー場か何かの近くの温泉だったような。

 そう蛍からも言われてしまう。

「うー、くまに黙ってみんな勝手なことしてー。こうなったら著作権侵害で訴えてやるクマっ!!」

「絶対に通らないと思うよ、それ」

「だよねぇ」

 燐に同意するように蛍もうんうんとうなずく。

 くまはまた頬を風船のように膨らませていた。

 ……
 ……

「でもさ、それにしたってこんなところに温泉が湧いているとは思わなかったよ。実際に行かないと分からない事って結構あるもんだね」

 感心したように蛍はつぶやく。

 くまは何も言ってくれなかったから初めはどうなることか思ったけど。

 こんな素敵な温泉との出会いが待っているなんて。
 テントで待っててなくて良かったと蛍は本心から思った。

 もっとも燐が行くのなら蛍がついていかない理由はないのだが。

「確かにね。地図にも乗ってなかったから、本当の秘湯なのかも。けど、つい最近できたような古い感じもそんなにないし。地元の人ぐらいしか知らない穴場なのかもね」

「確かにそんな感じはするね。脱衣所とかもなかったから」

 そのせいで蛍は恥ずかしがって入るのを拒否していたが、燐の再三のお願いもあってようやく湯船につかることになったのだ。

「でもさ」

 蛍はちらりとくまの方を見る。

「こういう温泉があるなら、ひとこと言って欲しかったかも。一応水着があったんだけど、持ってこなかったから意味なくなっちゃった」

 困ったように苦笑いする蛍。
 隣で燐もうんうんと同意を示した。

 何故かこういう裸になるようなことが妙に多いから、念には念を入れて水着持ってきていたのだけれど。

(結局、車に置いてきちゃったんだよね。まあ仕方のないことだけど)

 まあ、水着は水着で着るのがちょっと面倒くさいけど。

「だからって今から取りに戻るのも、ねぇ」

「絶対に湯冷めするし面倒だと思う」

 蛍はきっぱりとそう言った。

「あーあ、せっかくさ、可愛い水着を用意してたのにねぇ。蛍ちゃんなんかそれこそもうすっごく大胆なものを」

「もう、燐ってば。わたしのだって別にフツーのものだし、それに燐と同じものにしたはずでしょ?」

 カラーこそ違うが、燐と蛍は脱ぎぎしやすいアウトドアの用の女性水着をいざという時の為に買っておいていたのだ。

 それだって、持ってこなければまったく意味の無いものなのだが。

「でも、蛍ちゃんはさ、サイズが合うのがなくって、結局メーカー取り寄せになっちゃったんだよね。やっぱり、蛍ちゃんクラスのサイズものって中々ないんだよねぇ」

 燐はからかうように小さく笑う。

 蛍は温泉とは別で顔を真っ赤にしていた。

「それだったら、ふんどしが良かったんじゃないかクマ? あれは機能的だしサイズも選ばないクマよ」

「……上はどーするのよぉ」

 全く着るつもりは無いが一応聞いてみた。

「それはサラシか、まぁ、何も着ける必要ないんじゃない? お風呂なんだし。上ぐらいは問題ないクマよ」

「そうでしょうねぇ、はいはい」

 それでは結局無意味ということになる。

 燐は湯舟のなかで呆れたため息をついた。

「んもー、そんなにくまを責めないで欲しいクマっ。大自然のサプライズを感じて欲しかったんよっ」

(それに……”アイツ”がいる可能性もあったし……)

「ん? くまちゃん何か言った?」

「ううん、別にクマ」

「まあ、わたしはそこまで気にしないけどさ。蛍ちゃんがちょっと嫌がっていたから言ってみたってだけで」

 燐は横目で蛍の顔をうかがう。

 見つめられた蛍はぽっと顔を赤くしていた。

「そ、そうだね。水着なんか着てたらもったいない感じの天然温泉だから、多分持っててもわたしも着ないと思うよ。うん」

 二人は顔を見合わせてあははと苦笑いした。

「じゃあ……問題ないってことじゃん……クマー」

 結局、何の議論だったのか。

 くまはまた温泉の中にぶくぶくと小さな顔をうずめた。

 ……
 ……
 ……

「それにしてもさ、結構脚にきちゃってたよね……流石に」

 ふくらはぎを湯舟の中でマッサージしながら燐が愚痴を零す。

「本当だよね。すぐそこだって言ってたから軽い気持ちでついてきちゃったけど。燐、ごめんね。わたし足手まといだったでしょ」

 そう言って蛍は申し訳なさそうな顔をした。

 燐はそれを手を振って否定した。

「そんなことはないよ。わたしだって大分疲れちゃってたしぃ」

「燐でもそうなの?」

 蛍は小首をかしげた。

「まぁね。でも蛍ちゃんだって、前よりもずっと体力ついてきたと思うよ。さっきだって結構速いペースだったのにちゃんとついてこれていたわけだし」

 大学のアウトドア系のサークルに入ってからの蛍は以前と比べてもとてもしっかりしてきたと燐は感じていた。

 そういった知識もそうだけど、ちゃんとペース配分も考えられるようになっている。

 トレッキングでの時計の見方を心得たのだろう。

 だから一人で山に行ったりする蛍をそこまで心配しなくなっていた。

「それは……燐が途中で何度も待っててくれたおかげだよ。わたし一人だったらもっと遅れてたとおもうよ」

 誇張なしにそうだと思う。

 こんな知らない森の中でひとり取り残されたりしたら、動けなくなるだろう。

 燐が一緒だったから頑張れたのだと。

 そう、燐さえいてくれたら。

「おかげで先に着いたボクたちはだいぶ待ちくたびれちゃったよねぇ~。サトくんっ」

「わんわんわんっ!!」

 下の湯舟でサトくんとじゃれ合っていたくまが蛍と燐の会話に割り込んでくる。

 どうやらはしゃぎ過ぎたようで、サトくんはまた全身がずぶ濡れになっていた。

 ふわふわとした白い毛並みを取り戻すにはまたタオルが数枚ほど必要になるだろう。
 
 白い毛を体じゅうに張りつかせたまま、まだまだ元気いっぱいといった様子のサトくんに、燐は困ったように苦笑した。

「サトくん。また毛並みがぐちゃぐちゃになってるよ~。でも、本当に楽しかったみたいだね。後はこれでオオモト様が来てくれたらなあ」

 サトくんの小さな鼻に指でちょんと触れると、燐はもう一度辺りを見渡す。

 風すらも届かない場所なのか、本当に静かなところだった。

 静謐と言う言葉に色をつけるのなら、きっとこんな彩りのある景色なのだろう。

 紅葉した、赤と黄の落ち葉。
 
 飾り気のない天然の露天風呂。

 そして、ミルクのようなきめ細やかな乳白色の温泉。

 老舗の高級旅館なんかよりも贅沢な時間と景色が、小さなせせらぎが流れと一緒にさらさらと流れていた。

「冬に来てもよさそうだよね。雪景色の露天風呂ってロマンあっていいよね」

「夏でも良さそうじゃない? あ、春も桜の花びらが舞い落ちて良さそうかも」

「じゃあ、いつでもいいってことだね」

 二人は妄想をしながら秘湯の風呂を楽しむ。

「そういえばさ、この辺りに源泉とかあるのかな? 何かさっきよりもちょっとお湯が熱くなってきたような気がする」

 そう言って蛍はぽこぽことした泡が湧き出ている川底に掌をかざす。

 その瞬間強い熱気を感じて慌てて手を引っ込めた。

「あっ、そういえばそうだね。地熱とかが影響してるのかな」

 蛍の言葉に意識を戻した燐は、同じように川底に手を伸ばした。

 確かに熱いお湯が沸きだしている。
 もし、この上にお尻なんか乗せていたらきっと火傷してしまうだろう。

「確か、こういう川のそばの温泉ってスコップなんか使ってで温度調節するみたいだけど」

「持ってきてないから自分たちで石を動かすしかないよね。湯舟を作ったときみたいに」

 そう言った道具は大きい荷物と共に置き去りのままだったから。

 周りの石を動かすしかないのだ。
 
 ふたりの素手だけで。

「じゃあもうちょっと湯舟の方を外に調節しようか」

「うん……けどさ、こういうのもわりと面白いよね。自然と共同で温泉を作ってるって感じがして」

「まあ、ちょっと面倒だけど、自分好みの温泉がつくれるって言うのはいいよね。形なんかも自由自在だし。ブッシュクラフト感あるかもね」

 くすくすと笑いながら、二人は協力して石の湯舟を川岸のほうへと少しずらす。

 隙間から冷たい川の水が流れ込み、さっきよりもちょっとだけお湯が温くなったような感じがした。

「あ、そうだ、燐。ちょっと待ってて」

 蛍は妙案とばかりに手を叩くと、湯舟に体を入れたまま自分の着替えがある方に手を伸ばす。
 
 オレンジ色のポーチから取り出したものとは。

「折角だからさ、写真に撮っておこうよ。この場所ってあまり知られてなさそうだし、SNSにあげたら反響がありそうだよ」

 蛍は呆然とこちらを見つめる燐に向かってカメラを構える素振りを見せる。

 燐はやっぱりと言った顔でため息をついた。

 蛍は、スマホとは別のカメラをここまで持ってきていた。

 防水防塵処理の施された、無骨なデザインの赤色の小さなカメラ。

 性能の割に軽くてコンパクトだから、蛍が出かけの際にはいつも持ち歩いていた。

 部屋の中でも使うほど気に入っているようでもあり、その場合、被写体は専ら燐になるのだが。

「蛍ちゃん~。こんなところで写真なんか撮ってネットにあげたらそれこそ炎上しちゃうよぉ」

 温泉の写真だけならともかく、裸の燐もファインダーに入れてしまったら、炎上どころかアカウント停止にすらなるだろう。

 そんな事は分かっているとばかりに蛍は小さく首を振る。

「大丈夫、個人的に使うだけだから」

 そう言って蛍はぱちりとシャッターを切った。

 いくら蛍と言ってもこれは明らかに盗撮行為になるのだが。

「個人的って何よー。ねぇ、蛍ちゃん、後でちゃんとデータ消してよねぇ」

「うんうん。分かってるよ。じゃあもう一枚だけね」

 本当に分かっているのか、蛍はまたカメラのシャッターを一枚切った。
 それどころか。

「あ、燐。もうちょっと右に……あ、それぐらいで……カメラは意識しないでいいから。燐は何もしなくても可愛いからね」

「いやいや、可愛くなくて全然いいから。それより本当に消してね? じゃないとわたし、蛍ちゃんのこと幻滅しちゃうかも」

 カメラから手を放さない蛍は普段よりも少し饒舌だった。

 そんな蛍に燐は冷静なツッコミを入れる。 

 二人だけの撮影会をしていると、下の方から声がした。

「ボクならいつでもオーケーだよー! ほらほら、ポーズだってバッチリ決めちゃうクマっ!」

 こちらの会話が聞こえていたのか、横の湯船からくまが手を振っている。

 素知らぬふりをしているサトくんをよそに、変なポーズをひとりでとっていた。

 これには蛍も閉口してしまう。

「さすがに、くまちゃんはねぇ」

「だよねぇ、それこそ蛍ちゃんが警察に捕まっちゃうよ」

 苦笑いしてため息をつく二人。

 そんな中、くまはばちゃばちゃとお湯を飛ばしながらポーズの練習をしていた。

 ──
 ──
 ──




== blackout ==

 

「すごくいいお湯だったよね。お肌がつるつるになった感じがするよ」

 

「まあ、お湯の性質は分からなかったけど、美肌とかの効能とかあるのかもね。しばらく手を洗うのが勿体なくなるかも」

 

「うふふ、だね」

 

 温泉から上がり、着替え終えた燐と蛍は、余韻がまだ残っているのか、頬を紅潮させながら帰りの道をゆっくりと歩いていた。

 

 ふたりの手には登りにも使った、折り畳み式のトレッキングポールが握られている。

 

 その少し前方にはサトくんが、そしてちょっと離れた後方に”くま”がいた。

 

 サトくんも帰りの道を知っているからと、見た目幼いくまが殿をかってでたのだった。

 

 くまはしきりに辺りを気にしているようで、時折立ち止まると、何かを警戒するように周囲を見渡していた。

 

「ねぇ、くまちゃん。さっきからどうかしたの? 何か気になるものでもあった?」

 

 気になった燐が傍に寄って尋ねる。

 

 怖いものなど毛頭なさそうに見える少女が、一体何を気にしているのだろう。

 

「べべべべべ、別にぃ。な、何も気にしてないよっ、クマっ!」

 

「あ、そう」

 

 急に大声を出されてしまったので、聞いた燐の方が驚いてしまった。

 

(っていうか、明らかに動揺しているよね、くまちゃん……)

 

 少し訝し気な目で見つめる。

 

 だが、もし自分たちに何か変なことをするつもりならもっと早くにするだろうし。

 

 疑うだけ意味ない気がした。

 

(流石に、怖いなんて言えないクマ……これでもくまは百獣の王なのだし……)

 

 もちろん自称ではあるが。

 

 それでも誰にも負けたくはない気持ちはあった。

 

 例え相手が化け猿や妖怪の類であっても。

 

 自分自身にもそういった”他とは違うナニカ”があると知っているから。

 

 そんな想いを巡らせている時、ふいに頭に手が乗せられた。

 

「にゃあっ!」

 

「ええっ、熊じゃなかったの?」

 

 燐は何気なくくまの頭にポンと手を乗せたが、まさかの鳴き声にまたも驚いてしまった。

 

「んもぅ、ボクはくまなんだクマ……急に変な事しないで欲しい。びっくりだから」

 

 くまは囁くような声色で呟く。

 

 それは恥ずかしがっているようにも見えた。

 

「あ、ごめんね、つい触りたくなっちゃって」

 

 燐としてはサトくんの頭を撫でるような気持ちで触れたのだが。

 

 そう素直に燐は謝ると、少し柔らかい声でくまに話した。

 

「あのさ、テントの時も言ったけど、もし何かあったら遠慮なく言って欲しいな。これでもくまちゃんのこと友達だと思ってるし」

 

「くまと……ともだち?」

 

「うんうん。わたしもそう思ってたよ。くまちゃんとは友達になれそうな気がするって燐と言っていたんだ」

 

 いつの間にか蛍もサトくんと一緒に傍に来ていた。

 

「わんわんわん」

 

「ほら、サトくんもきみとは友達だって言ってるよ?」

 

「それは本当クマかぁ? サトくんはある意味でくまのライバルだからねぇ」

 

 そんなくまのからかうような台詞にサトくんはわんと答える。

 

 実際の熊と犬の関係は分からないが、このふたりは良いコンビなのではないかと蛍と燐は思っていた。

 

 温泉での様子もそうだったし。

 

「あ、そういえば! ボク、ふたりに聞きたいことがあったんだクマ!」

 

「それって、どんなこと?」

 

「答えられる範囲ならなんでも答えるけど……」

 

 突然のくまの問いかけに燐と蛍は戸惑いつつも頷いた。

 

 改まって何を聞かれるのだろう。

 

(もしかして、燐とのこと……かな? その場合なんて答えたらいいんだろう)

 

 仲の良いともだち?

 それだけなのだろうか。

 

 何を期待しているのか、蛍は目を大きく開いて胸をドキドキとさせていた。

 

 だが、その期待とは裏腹にくまの問いは全く違うものだった。

 

「あ、あのさ……キミ達って、ボクのハダカ見た……クマ?」

 

 燐はえっ、とした顔になった。

 

 蛍は蛍で期待と違ったものだったので、何と言ったからいいかわからず、まだ湿り気のある長い髪を撫でていた。

 

「どどど、どーなのかクマ? クマ?」

 

 くまにとって余程重要なことなのか、目をぐるぐると回しながら同じ言葉を繰り返していた。

 

 二人は目を見合わせると苦笑いを浮かべた。

 

「そりゃあ、温泉に入ってたんだもん。誰かの裸ぐらいはちょっとはみちゃうよねぇ」

 

 ひとりごとみたいな燐の呟きに、蛍は曖昧な笑みで同意する。

 

「う、うん。ごめんね。もしかして……見ちゃいけないものだった?」

 

 あんなに自分から積極的にポーズを取っていたのにと思ったが。

 それを蛍は口にはださなかった。

 

 二人の言葉にくまはガーンと言った表情を見せたが。

 

「も、もしかして大事なところも見えちゃったクマか?」

 

 恐る恐る尋ねられる。

 

「えっと、大事なところって?」

 

 蛍は確認の意味で聞いてきたのだが、それは余計な一言だったらしく、くまの顔は真っ赤になっていた。

 

「だ、だだだ大事なところは……大事なところクマっ。その……女の子の大事なところ……」

 

 自分からそう言うとくまは両手を振ってその場で飛び跳ねる。

 

 くまの頭の上のふわふわの耳が動きに合わせてぴょこぴょこと動いていた。

 

 温泉に入っている最中も外さなかったようだから、それは本当に大事なものなのだろう。

 

 くまのアイゼンティティがどうこうとか言っていたようだったし。

 

「えっとねぇ、確か……見えなかったとは思うけど……?」

 

「うん、わたしもみなかったと思う」

 

 二人にそう言われてようやく納得ができたのか、くまは溜まっていた息をはぁと全部はきだした。

 

「でも、そんなに見られたら困るものなの? 女の子同士なのに」

 

 その割には結構無防備な動きをしていたように思う。

 

「そりゃあ気にするクマっ」

 

 そう言い切るくま。

 

「だって、見られちゃったら……その相手とけ、け、けっこんするしかなくなるからクマっ!!!」

 

 そう告白をするくまに燐は今度こそ開いた口が塞がらなくなった。

 

 それは蛍も同じらしく困ったような顔で立ち尽くしている。

 

 この時代にそんな事を言う子がいるなんて、と。

 

 しばらく黙っていた二人だったが、燐は耐えきれずとうとう噴き出してしまった。

 

「もう、それっていつの時代のことよ。わたしそんなの聞いたことがないんだけど」

 

 蛍も申し訳なさそうに苦笑する。

 

「ごめん。わたしも。流石にそんな”しきたり”みたいなのは聞いた事ないなぁ。でもね」

 

 蛍は俯くくまの手を取った。

 

 顔を上げたくまは蛍を見つめる。

 

 小さな掌からその思いが伝わってくるようだった。

 

「しきたりっていうか変な儀式みたいなのはわたしの住んでいた町にもあったの。だからそんなに気にしなくてもいいんじゃないかな。結婚って、女の子にはとても大事なことだと思うし」

 

 そう言って蛍はちいさく微笑んだ。

 

(蛍ちゃん……やっぱり、まだ……)

 

 もう忘れそうになっていたことだが、それは確かに本当に少し前まであったことだから。

 

 幸運という概念を実存として結び付けるための儀式。

 

 今だって想像しただけでおぞましくなる。

 

 本当に身勝手で乱暴なことをずっと密かにおこなっていたのだから。

 

 そんな事に縛られてしまうのは無意味だとこの子に説いてあげたかった。

 

 強制されてまですることなど何の意味もなく、ただ歪みを引き起こすだけのものなのだから。

 

「ま、まぁ、見ていないのなら、問題ないクマね」

 

 蛍の目を見ながらくまはそう言うと目をぱちっとさせた。

 

「確かに、そんなに気にする事でもないことなのかもね。それに見られたのだって、ざっきぃが初めてだったし」

 

「”ざっきぃ”ってオオモト様のこと?」

 

 横から燐がたずねる。

 

「そうクマよ。まあ、あれは不可抗力みたいなものだったから仕方なかったんだけど。とりあえずは胸の内に留めておくだけにするクマ」

 

「くまちゃんがそう言うのなら、いいんだけど……」

 

 何となくだが、変な空気になってしまった気がする。

 

 少女達から少し離れたところに居た、サトくんが暢気にあくびを噛み殺していた。

 

 それでようやく動き出すきっかけができた。

 

「ま、まあ後方はくまが守るから、”燐”と”蛍”は気にせずに行くクマ。ほら、さっきからサトくんが待ちくたびれてるよ」

 

 くまが指さすサトくんの首にはいつものバンダナではなく、小さなLED式のランタンが括りつけられていた。

 

 サトくんは嫌がりそうだと燐は最初は思ったが、以外にもちゃんと身に付けてくれたようだ。

 

 何とも複雑そうな表情を浮かべているが、気持ちとは裏腹にぴかぴかと辺りを照らしてくれている。

 

 その様子を蛍はパレードみたいと早速写真に収めていた。

 

「うん。これならネットに上げても大丈夫そうだね。今はちょっと無理みたいだけど」

 

 温泉の辺りまで登って来てからというもの、携帯の電波は全く入らなくなってしまった。

 

 今でも田舎や高い山の頂上など電波が届かない地域も一部まだあるようだが。

 

 燐と蛍はそれぞれ別のキャリアなのにそれでも電波が届かないのだから、ここもそうなのだろう。

 

「まぁ、そういうのはテントに戻ってからでいいよね。あの辺りまで降りれば普通に携帯を使う事ができるだろうし」

 

「多分そうだけど、でも、今日中に投稿したいっていうわけじゃないから」

 

 そういう蛍だったが、自身のSNSへの更新は割と頻繁なほうだった。

 

 もともとそういうのは得意じゃなかったはずだったが、趣味で撮った写真を試しにSNSに投稿してみたら、本人の予想に反してその写真の投稿は反響が大きかったので、それ以来蛍はSNSでの投稿にすっかりはまってしまったようだった。

 

 変な事に巻き込まれなきゃいいけど、と燐は少し気を揉んでいたのだが。

 

 本人が楽しそうにネット上でやりとりをしているので、気にはしつつもこの件は水を差さないでおくことにした。

 

 もう分別のある大人なんだし。

 

 まだ、ぎりぎり十代で大学生だけれど。

 

「けど、ああやって光ってるサトくんを見てると、やっぱり光る首輪が欲しくなるなぁ。ねぇサトくん、買ったら首に付けてくれる?」

 

 燐はくすくすと笑いながら、前に動画で見た七色(レインボー)に光る犬用首輪の事を思い出し、サトくんに聞いた。

 

 ポメラニアンほどじゃないけどサトくんもふわふわで真っ白だったから、夜はぺかぺかと光ってさぞかし似合うだろうと。

 

 それこそ動画にとってもいいぐらいに。

 

 だが。

 

「きゅうん、きゅうん」

 

 サトくんはいやいやと首を左右に振ると、ぷいと燐にそっぽ向いた。

 

 やっぱりねと苦笑いする燐。

 

 そんな他愛の無いやり取りも蛍はカメラの中に収めていた。

 

 

 お昼頃に出発したはずだったのに、少女たちが温泉に浸かっている間にすっかり夜となり、辺りは薄暗くなっていた。

 

 月は空に浮かんでいるが、その白い月明かりだけでは夜の森では心もとない。

 

 燐と蛍はヘッドライトを頭につけ、夜の山道をゆっくりと下る。

 

 ペンライトの方は手ぶらのくまに渡した。

 

 くまは物珍しそうにライトを点けたり消したりしながら後ろをついてくる。

 そこまで珍しいものではないと思うのだが。

 

 新しい玩具を与えられた子供の様にはしゃぐくまを見て燐は笑みをこぼす。

 

 確かに蛍の言うように自分にもこういった時があったのだろうと。

 

 もう随分遠くなってしまった無垢で無邪気だったころが。

 

 ……

 ……

 ……

 

(降りだから楽なはずなのに……)

 

 ──帰りの道がとても遠い。

 

 周りが真っ暗なせいもあるのだろうが、本当にこの道で合っているのかと、そんな疑問ですら浮かんでしまう。

 

 湯冷めしないように限界まで服を着込んできたせいか、やけに体が重く感じる。

 

 外は寒くなっているはずなのに、体の内側は熱いから妙なギャップがあった。

 

「大丈夫、蛍ちゃん」

 

 蛍の足取りが少し重くなってきていることで察したのか、燐が声をかけた。

 

「うん。大丈夫。けどさ、こんな道って通ったっけ? なんだか知らない道をあるかされているような気になるよ」

 

 蛍は正直にそう言った。

 

 土地勘がないことがこんなに不安になるなんて。

 

 それは燐も同じだったようで。

 

「確かにね。わたしもさっき、こんな岩の股の間をくぐって来ちゃったっけって思っちゃったぐらい」

 

「燐でもそういう風に思うの? わたしなんかよりも登山の経験ずっと豊富なのに」

 

「ちょっとは経験あるけど、それでも怖いものは怖いから、だから気を付けないとね。油断して滑落や遭難なんてそれこそよくある事だし」

 

 燐は軽く笑みをつくる。

 

 暗がりでも分かる燐の横顔に蛍は何故か既視感を覚えた。

 

「慎重に越したことはないからね。ゆっくり行こっ」

 

「うん」

 

(あれ、でも今の燐って……)

 

 ちょっとだけ”(さとし) ”みたいだった。

 

 多分、意識しているわけじゃないとは思うけど。

 

 そんな感じがした。雰囲気だろうか。

 ほんの一瞬だけど。

 

 わざわざ燐に言う必要はないと思うが、少し胸がチクリといたくなった。

 

 何故だかは分からないが。

 

 ……

 ……

 

「あれ、燐、どうかしたの」

 

 蛍は前を行く燐に話しかける。

 

 急に立ち止まった燐が妙な声を上げたのが気になり、傍に寄って燐の顔を覗き込んだのだが。

 

「あっ……と、ごめん」

 

 折に触れたように燐が口を開く。

 

 だが、そう言ったきり、燐は深い闇の方を見つめて動かなくなった。

 

「何か見える? さっきからそっちの方ばかり見てるようだけど」

 

 ヘッドライトの明かりからでは特に何も見当たらない。

 

 燐と見ている方向が違うのだろうか。

 蛍はちょっともどかしげに頭を動かす。

 

 頭につけた明かりは狙いが上手く定まらない。

 

 何となくイラっとした蛍は燐と体を密着させて強引にその方向へと視点を合わせようとした。

 

「ど、どうしたの蛍ちゃん、急に体を密着してきて」

 

「あ、えっと……」

 

 燐はそう問われて蛍は一瞬きょとんした顔になったのだが、すぐに顔を赤くした。

 

 自分だけ見てて欲しいとはとても言えず、蛍は燐の服を指で引っ張りあげた。

 

「えっと、蛍ちゃん? さっきからどうしたの。もしかして疲れちゃった?」

 

 そう燐に心配される。

 

「あれっ、やっぱり何か」

 

 燐がまた声をあげたので、蛍ももう一度そちらの方を振り向く。

 

 だが、そこには大きな木が一本生えているだけで他にはなにもなかった。

 

 何かの動物が潜んでいそうな感じはするが。

 

「今さ、何か……小さな人影みたいなのが見えた気がしたの。もしかしたら誰か登ってくるのかなーって思って」

 

「それ、本当?」

 

 燐の横に立ち蛍は目をかざしてみる。

 

 蛍の目にはなにも見えない。ただ闇が蟠っているだけで。

 

 ひんやりとした空気のせいか、何もない空間がなんとも不気味に感じる。

 

 ヘッドライトの明かりだけがを頼りなのだが。

 

「多分、わたしの見間違えだと思うよ。こんな時間から山登りする人なんて滅多にいないだろうし。山頂で日の出を迎えるにしても早すぎると思うしね」

 

 ただ、燐にもどこがこの山の山頂なのかは分からないし、日の出が見えそうな場所なんてとても知らないけれども。

 

「そうだよね」

 

 言い聞かせるように蛍は呟く。

 

「でも燐、大丈夫? 燐だって疲れているのなら適度に休んでいいってさっきくまちゃんが言ってたけど」

 

 行くときは結構スパルタな感じで鼓舞していたくまだったが、帰りは一転して燐と蛍を気遣うようになっていた。

 

 彼女の中で何か変わったのだろうか、それとも別の何かがあるとか。

 

「もう、蛍ちゃん。そんなに気を使わなくてもいいからね。これでもわたし、結構タフなんだから」

 

「それは良く知ってる。でも燐って見た目よりもずっと繊細だから」

 

「それは蛍ちゃんの方でしょ? ひとりでいろいろ決めるし、どっちかって言うと決断早い方だから、わたしちょっと心配になっちゃう」

 

「そうかな? けど、燐だって結構大胆にしてるでしょ。無理してないか、わたしだっていつも心配だよ」

 

 これだけ長く一緒にいてもどうしたって気遣ってしまう。

 

 そういうのが”重い”というのは二人ともよく分かっていることなのに。

 

「そっか、でもわたしは、大丈夫だよ」

 

(そう、わたしは残ることに決めたのだから……かんぺきな世界には行かずに)

 

 そう言ってガッツポーズをつくる燐だったが、蛍は小さく笑って首を横に振った。

 

「燐は、小さなガラスの小瓶みたいだから、ずっと大切にしてあげないとね」

 

「そんな、”割れ物注意”みたいにしなくても大丈夫なのにぃ~」

 

 燐は蛍の気づかいを軽く否定するも、それほど悪い気はしていないのか、怪訝と言うよりも喜びの方で顔を歪めていた。

 

 蛍も燐に好意が分かってもらえて小さく微笑む。

 

 だって、自分の中の優先順位というのは燐がいちばん上なのだから。

 

 ずっとずっと──。

 たいせつにしてあげたい。

 

 もう二度と、あんなことが起きてしまわないように。

 

(そう、わたしが守るんだ。きっと他の人には、ううん。わたししかできない事なんだから)

 

 ……

 ……

 

(結局、ここにもいなかった……ざっきぃも……アイツも)

 

 燐と蛍が歩く後ろで、くまは考え込むように腕を組んでいた。

 

 さっきから見てはいるのだが、どちらも一向にその姿を現さない。

 

 彼女はあんな事ぐらいで行方をくらますような感じではない。

 

 そしてアイツは……。

 

(”アレ”は本当によくわからない。そもそも存在していたんだろうか?)

 

 実体が無かったせいか、その印象すら薄く思える。

 

 けれど、絶対的な存在感はあった。

 

 生き物の定義すら曖昧な存在。

 

 多分、アレは。

 

「……やっぱりさ、さっきからちょっとおかしいよね、くまちゃん」

 

「うん……何か、探してるっていうか」

 

 実際、オオモト様を探しに山に行くときから少し様子が変だった。

 

 一人張り切って山を登って行ったと思ったら、急に立ち止まって周囲を見渡したりをしていた。

 

 その挙動は二人からみてもとても落ち着きのないものだった。

 

 それでも元気いっぱいだった少女が、帰りの道すがらで急に息を潜めたようになっている。

 

 警戒しているというか、少し怯えている風にも見受けられる。

 

 それは一体何なのだろう。

 

 さっき、ちょろっとこぼしてたことと言い、やはり何かを知っているのだろうか。

 

 燐と蛍がまだ知らない。

 とても重要なことを。

 

「もしかして……ヒヒがいる……とか?」

 

 オオモト様とサトくんがあの町を離れる際に燐がこそっと聞いてしまったこと。

 

 ”ヒヒが呼んでいる”と。

 

 蛍にもその事は話してあるから、燐に腕を絡めながら不安げな表情を浮かべている。

 

「ねぇ、燐。やっぱり聞いた方がいいよね。なんか一人で悩んでいるようだし」

 

「うん。わたしもそう思っていた」

 

 オオモト様がいなくなった件もあるし、既に何かが起こっているような気配は肌で感じている。

 

 歪みというには小さく、でも絶対に見過ごせない出来事が。

 

 大平口町ではなく、こんな見知らぬ土地でおこっているのだ。

 

 それに、このままテントまで戻ったとしてもきっと何も起こりそうにないだろうし。

 

 燐と蛍は意を決して、くまに真相を訊ねてみること決めた、そのときだった。

 

「…………」

 

 不意にふたりの目の前に人影が現れたのは。

 

 音もなく()()()現れたのだから、さしもの二人も口をぱくぱくとさせて固まっていた。

 

 急に声がでなくなった燐は、小さな口の代わりに両目を大きく見開く。

 

 やはりさっき一瞬見かけたのは見間違いではなかったことを脳に証明させるように。

 

「あれっ?」

 

「あの、もしかして、オオモト……様、ですか?」

 

 たどたどしく声を出す二人。

 

 突然、こんな所に現れたオオモト様にどう対応したらいいか分からず、たた呆然と見つめ合う。

 

 二つの強いライトの明かりを受けてもその人はたおやかに微笑んでいた。

 

「あぁ、良かったぁ!」

 

 燐は肺から空気を送り出すと、ようやくほっと胸を撫で下ろした。

 

 ずっと探していたものが見つかった時のような充足感。

 

 それが感情を刺激して、燐はつい泣き出しそうになっていた。

 

「良かった……オオモト様……」

 

 蛍は薄っすらと目尻に涙を浮かべている。

 

 これまでどこにいたのかは分からないが、とにかく出会えてよかった。

 

 ここに来たのは間違いではなかったとくまとサトくんに感謝した。

 

「それで、今まで何処にいたんですか。わたし達ずっとオオモト様のことを探していたんですよ」

 

 息を弾ませて燐がそう尋ねる。

 だが。

 

「……」

 

 何故かオオモト様は何も答えない。

 

 それどころか燐と目を合わせなかった。

 

 余程、言えないような大変なことがあったのだろうか。

 

「わたし達、さっきまで、山の上の温泉にいたんです。オオモト様もここに来たって言ってたから」

 

「……オンセン?」

 

 やっと一言だけ口を開くオオモト様。

 

「ええ、そうなんです。くまっていう子とサトくんが案内をしてくれて」

 

「オオモト様はこれから温泉に行くつもりだったんですか? 今からだと真っ暗だと思いますけど」

 

 月と星は出ているけれども。

 

「もし、オオモト様が行くならわたし達もついて行こうか? 蛍ちゃんどう?」

 

「うん。燐が行くのなら」

 

 久しぶりにオオモト様と親し気に話す蛍と燐。

 

 よく知った仲だからこそできる他愛のないやり取り。

 そう思っていたのだ。

 

 この時までは。

 

「──ソイツから離れるクマッ!!」

 

 突然大声を上げられて、二人ははっと我に返ったようにそちらを振り向く。

 

 その声を出したのは、やはり”くま”だった。

 

 何か興奮しているのか、小さな肩を上下させ今にも飛び掛からん勢いでまくしたてる。

 

「それは、”ざっきぃ”なんかじゃない……只の化け物なんだ!! だから早く下がって!」

 

 不意にそう言われ燐は不思議そうな顔をする。

 

 蛍はぎゅっと手を握った。

 

 それまでの陽気で年相応な振る舞いをしていたくまが急にはっきりとした口調に変わっていた。

 

 まるでこれこそが少女の本来の姿であるかのように。

 

 サトくんもくまと同意見であるのか、オオモト様の背後から威嚇の為の低い吠え声をあげている。

 

 あのヒヒと対峙したように、まさかのオオモト様を睨みつけていた。

 

 くまとサトくんのあまりの変わりように、燐と蛍は戸惑った表情でたちつくす。

 

 それまでの空気が急に変わってしまった。

 

 その人が来たことによって。

 

 本当は喜ぶべきはずのことなのに。

 

 何故、あんな事を言ったのか。

 

 くまとサトくん、そして()()()()()

 

 それぞれは再会を喜ぶことなく、互いに距離を取っている。

 

 ただ離れているというより、出方を窺っているような。

 

 それは目に見えない緊張感を張らんだものだった。

 

 少なくともくまの達の方からはそんな気配をひしひしと感じさせる。

 

 一方のオオモト様は黙って静観しているようだ。

 

 まるで事態を把握しているかのように正面だけを見ている。

 

 全く事情が呑み込めない燐と蛍だけは、どうしたものかと互いに目を合わせた。

 

「な、何を言っているの。だってこの人は……」

 

 やっと口を開いた燐は途中でちらりとオオモト様の方を見る。

 

 何かちょっと雰囲気的なものが違うなぁとは思うけど、この人だったらそんなに不思議なことではないことだ。

 

 初対面からどうにもつかみどころのなかった人だったし。

 

 何か、あったのだろうとは思っているが。

 

(そう……あの時の蛍ちゃんみたいに。きっと、すぐには話せない事情があるんだ……)

 

 蛍もやはりオオモト様の弁護の方についた。

 

「この人は、オオモト様だよ、くまちゃんだって、それは知っているんじゃなかったの」

 

 蛍はぽつぽつと言葉を区切りながらくまに向かってそう言うと。

 

「だから大丈夫だよ、ね?」

 

 諭すように軽く笑みをくまに投げた。

 

「……ふぅん。ボクの言うことが信じられない、そういうことクマか……」

 

 くまはぷくっと頬を膨らませたが、自らを落ち着けるようにちいさく肩をすくめた。

 

 この時はこれで分かってくれたと思ったのだが。

 その後のくまの行動はあまりに突飛的だった。

 

 何か、おかしくなったと思うほど。

 

 くまは一瞬、サトくんの方をみたと思うと。

 

「だったら、その目を覚まさせてやるクマぁ!!!」

 

 自身の服のポケットにおもむろに手を突っ込んだくまは、こちらに向かって何かを投げつけてきた──。

 

 ──

 ──

 ──

 

「──蛍ちゃん、オオモト様っ! 危ないっ!!!」

 

 咄嗟に燐は蛍の事を正面から抱きしめた。

 

 すぐ来るであろう衝撃を背中で受けとめようと思ったのだが。

 

 何故かそれは一向に訪れない。

 

 蛍は燐に抱きしめられたまま目を大きく見開いていた。

 

 その少女の──”くま”の方を一点に見つめながら。

 

 くまには罪悪感とかそういうのはまるでなく、むしろ疑問が確信に変わったかのように唇を舌でぺろりと舐めている。

 

 どういうつもりなのだろう。

 蛍は不意に眉を寄せた。

 

 一方の燐は。

 

(あれ? どこも痛くない?? もしかして外れちゃったとか……?)

 

 身体の何処にも痛みや衝撃がこなかったことに燐は内心首をかしげていた。

 

 さっきからばくばく言ってるのは自分と蛍の心臓の鼓動だ。

 

 小石のようなものをいきなり投げつけられたから、やっぱり動揺をしてしまう。

 その為の庇う行動だったのだが。

 

 単純に見間違えたのだろうか。

 

 だが、それはそうではなかったようで。

 

「燐……あれ……」

 

 蛍が燐の耳元で囁いて、そこに指を差す。

 

 本当に一瞬だったが、蛍には弾道が見えていた。

 何を飛ばしてきたのまでは分からなかったが。

 

 落下点を見つけることはできた。

 

 だがその指先は震えていて、方向は燐や蛍よりも後ろの方をさしている。

 

 もっと正確にいえば”ちょうどオオモト様とのサトくんの間の地面”に蛍の指は向けられていた。

 

「あれって……」

 

 燐は石か何かと思い込んでいたから、ライトで照らさないときっと分からないだろうと思った。

 

 だが、それは意外にもはっきりとわかった。

 

 差し込んでいた月明りがその対象を綺麗に照らしだしていたから。

 

 燐は蛍からそっと体を放しそれを拾い上げようとしたのだが、その前にサトくんがぱくっと口で咥えてしまった。

 

 そのままサトくんはとことことこちらに近寄ると、呆然としている燐の手のひらにそれを器用に乗せた。

 

 燐の掌には綺麗な包装紙に包まれたキャンディーがひとつだけあった。

 

「もしかして投げたのってコレ……なの?」

 

 まざまざと小さな飴玉を見つめる。

 

 駄菓子屋なんかでよくありそうな赤と白のストライプの包装紙に飴はくるまれていた。

 

 恐らく、コーラ味だろうか。

 

 無論、そんなことは問題ではなくて。

 

「な、なぁんだぁ、わたしてっきり……」

 

 燐はほっと息をつく。

 

 かなりの速さで投げてきたみたいだったから、石じゃなくとも何かボールみたいなものかと思っていた。

 

 だがそれがただの飴玉だったなんて。

 

 すっかり勘違いをしてしまったことに、燐は顔を赤くする。

 

「もう、危ないじゃない! 当たらなかったからいいものの、そういうことしちゃダメって教わらなかったぁ?」

 

 眉を寄せた燐はくまにそう抗議をした。

 

 ちょっと危なっかしくみえる子だとは思ったけれど、まさかこんなこともするなんて。

 

 流石にちょっとカチンときてしまった。

 小さな飴だまとはいえ、食べ物を無下に扱っているわけだし。

 

 だが当の本人は反省するようなこともなく、むしろ指をさして叫んでいる。

 

 何かの証明が今なされたみたいに。

 

「ボクの狙いは正確なんだクマっ! だからソイツが異常なんだ! いい加減気付くクマっ!」

 

 歯がゆさともどかしさがないまぜとなった表情でくまは声を荒げながら、ポケットから取り出した飴玉を何個も投げつける。

 

 それらは全て”オオモト様”を目がけて投げているのだが、その一個すらも当たらない。

 

 ぽとぽとと地面に落ちていくだけで。

 

 オオモト様の周りにだけ、キャンディーが散らばっている。

 

 確かに身体をすり抜けているように見えるのだが。

 

「もう止めってってばぁ!」

 

「きゃあっ!」

 

 燐と蛍がばたばたと手を振り回すだけで、肝心の相手は微動だにしていない。

 

 そっちは全く狙っていないというのに。

 

「くっ、そぉ……! やっぱり当たらないのかぁ」

 

 くまはぎりぎりと歯ぎしりをした。

 

 二つの瞳は燐と蛍ではなく、背後のオオモト様だけをガンと睨みつけている。

 

 何かの仇のように。

 

(狙ったって……? 一体、何を言っているの、くまちゃん……)

 

 飴玉による投擲がようやく止んだ後で、蛍は頭を抱え込んでいた手を恐る恐る下げた。

 

 そのまま口に当て、くまの言葉の意味を考える。

 

(わたし達じゃなくて、オオモト様に向かって飴を投げたって言っていたけど……)

 

 でも、それこそ何のために。

 普通に手渡しすればいいだけの気がするけど。

 

 それにしたって投げるのは乱暴だし、結局、受け取ってもらえなかったようだけれど。

 

 ちょっと落ち着くことが出来た蛍は首を傾げながら、くまとオオモト様を交互に見やった。

 

 だが燐はまだよく分からず話を続けていた。

 

「さっきから何の話をしているの? もう少しで当たる所だったんだから加減ってものをさ──」

 

 燐が途中までそう言いかけたその時だった。

 

 それまで黙っていたオオモト様がまた口を開いたのは。

 

「ドウシテ……」

 

(……えっ!?)

 

 傍で聞いていた燐はぎょっとなった。

 

 驚きと衝撃が足元から脳髄まで一気に駆け上がった。

 

 それは今まで聞いたことのないオオモト様の声──いや、忘れたくとも忘れられないあの、人とは違った”ナニカ”の声だったから。

 

 正確にはあれらよりもう少し高い声なのだが、そんな事は全く問題ではなく。

 

 今、目の前にいる人が獣のような声を発していたことが問題だったのだ。

 

 ──信じたくはなかった。

 

 だが、”この人”が喋り続ける度に疑問が確信に変わっていってしまう。

 

 これは一体、誰なのだろうと。

 

「何故、ソンナニ野蛮ナノカシラ……コノ獣人間ハ……ヤハリ……デキソコナイダカラ……?」

 

「…………!!」

 

 蛍は思わず両手で顔を押さえた。

 

 その細い足はがくがくと小刻みに震えている。

 

 確かに聞いたのだ。

 あの人の唇から出た言葉を。

 

 綺麗だった人の口から零れだしているのは、聞いただけで耳の奥底が粘つくような、おおよそ人が出せるような声ではなかった。

 

 ヒトと獣の中間──すなわち、人でないもの。

 

 人かどうかの定義など意味がないと言っていた人が、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 頭では固くなに拒否しても、事実としてそれを理解させられてしまう。

 

 耳から流れてくる現実の音として。

 

 これは燐や蛍じゃなくとも、とても信じがたい光景であった。

 

「あ、あなたは、オオモト様……なんですよね? そのままの」

 

 気丈にも蛍はそう尋ねていた。

 

 良く知っている人だし、それに自分とは肉親関係に近い存在だと思っているから、そんな事をわざわざ聞くのは失礼だとは思ったが、そう思うよりも先に口が動いていたのだ。

 

 きっと何か、聞き間違いであると、その小さな望みにかけて。

 

 だけど。

 

「……ソウ、ナリタイト思ッテルワ。ドンナコトヲシテデモ……」

 

 ニタリとそいつが嗤った。

 

 端正に見える顔を歪ませて下卑た笑みを浮かべてこちらを見たのだ。

 

「ひっ!」

 

 蛍は、一歩、二歩と後ろに下がる。

 

 何故だろう。

 

 確かにその時は、よく知っているはずの人に見えたのに。

 

 なぜ今、違ったものに見えているのは。

 

 ”おとなの姿のオオモト様”だったものが、別の、知らない女性に変わっている。

 

 顔立ちどころか雰囲気ですら全く違う、人の概念から外れたものに。

 

「あれは、何?」

 

 燐は自分の目をごしごしと擦る。

 

 燐はそれの顔ではなく、来ている黒い衣服のその下をみて驚愕する。

 

(えっ、嘘っ!? 足が宙に浮いてる!!??)

 

 月明りが照らす石の地面にはそれの影があり、その少し上で()()の白い素足が重力に逆らうようにして浮いていたのだ。

 

 何度まざまざと見つめ返しても、そうにしか見えない。

 

 人でない”何かが浮いている”としか。

 

(オオモト様じゃないんだ……じゃあ、これがもしかして……くまちゃんが言っていた……”アイツ”なの?)

 

 くまがたびたび口にしていたのはこれの事だったのだ。

 

 それは、長い長い黒髪をもち、複雑な模様の黒い着物から見えるのは生気を失ったように真っ白い肌。

 

 そして。

 

(空虚な……光のない黒い瞳……)

 

 蛍にもようやくはっきりと分かった。

 

 オオモト様ではないという事実……いや真実をやっと理解することができた。

 

 そして、あの子が何のためにそんな事をしたということにも。

 

「燐っ!」

 

「蛍ちゃん?」

 

 蛍はすぐさま踵を返すと、まだ立ち尽くしている燐の腕をとった。

 

 そして一気に丘の上にまで駆けだす。

 

 まだ理解が追い付かない燐も反射的に後について走り出す。

 

 向かう先には、くまとサトくんが待っていた。

 

「早くこっちにくるクマっ!!」

 

 蛍は燐の手をぎゅっと握ったまま、いつの間にか来ていたサトくんとくまの方へと走る。

 

 二人がこっちに来たことを確認したくまはサトくんと一緒に走り出した。

 

 急な逃走劇に、燐は走りながらくまに問いかける。

 

 まだよく状況は上手くのみこめないが、最初から知っていたようだったし、今はとにかくあれから逃げる事と情報が欲しかった。

 

「な、何なのあれっ! てっきりオオモト様かと思ったら、まるっきり別人なんだけどぉ!?」

 

「あれは、きっと物の怪(もののけ)クマ。ボクも最初見た時は何かと思ったけど……多分間違いないがないよっ!」

 

 その言葉で燐は合点がいった。

 

 くまが言っていたのはこれのことだったんだと。

 

「でも、もののけって……妖怪ってことでしょ? そんなのが現代にいるなんてこと……」

 

 あるはずがないのだが。

 

 蛍はつい後ろを振り返っていた。

 

 こうして離れてみるとそれが良く分かる。

 

 オオモト様と見間違えたことがおかしいと思えるほど、異質な存在がすぐ近くに居たのだと。

 そのことに身震いすら覚えてしまう。

 

 ただ、あの歪んだ夜のときも町の人達は所謂”のっぺらぼう”状態だったから妖怪的なものはもうすでに目にしていたとは思うが。

 

 それにしたって”アレ”はそれとも違う。

 

 纏っている空気のようなものがこれまで目にしてきたどれとも違う。

 

 ヒヒや白い人影のような分かりやすい”意思”が感じられなかった。

 

 だからもののけと形容したのだろう。

 

 言い得て妙だと蛍は走りながら思った。

 

「じゃあ、さっき飴を投げつけたのも、その為?」

 

「そう。だけど、出来れば当たって欲しかったんだよね、ふつーに」

 

 くまは呆れたような顔を見せる。

 

「でも、アメなんか投げて何になったの? そういうのが苦手ってわけでもないだろうし。それに”妖怪”って……」

 

 妖怪というか、見た感じでは、ただゆらゆらと揺れているだけのようだった。

 

 ちょっと宙に浮いているせいなのかもしれないけれど。

 

「あ、そういえば」

 

 そう言って燐はスカートのポケットをごそごそと漁ると。

 

「これ、返すね。もうあんな事しちゃダメだよ」

 

 燐は拾い集めた飴玉の一つをくまにひょいと投げて返す。

 

「んっ。さんきゅー、クマ!」

 

 くまは燐に一応お礼を言うと、元気よくそれを受け取った。

 包み紙を素早く解き、口の中に飴玉を放り込むつもりだったのだが。

 

(あ、割れちゃってるクマ……まあ、ボクが投げつけちゃったから、それは当然か)

 

 苦笑いを軽く浮かべると、砕けてしまった飴玉を丸ごと口の中へと放り込み、小さな歯で一気にばりばりと噛み砕いた。

 

 これはこれで美味しかったのだからいいのだけれど。

 

 それにしても、アイツは──。

 

「アイツは……多分、”だいだらぼっち”クマ。それを見せる為にポケットにあった適当なものを投げつけたんだけど、やっぱりそれは事実だったクマね」

 

「だ、ダイダラボッチぃ!?」

 

 突拍子のない単語に燐と蛍の声が重なり合う。

 

「見たのは初めてだったけど、多分、間違いないクマ」

 

「わんわんっ」

 

 くまの言葉にサトくんが同意する。

 

 だけど。

 

「で、でもダイダラボッチって確か巨人……なんでしょ? どうみてもあれはわたし達と同じぐらいだよ?」

 

 妖怪にはそこまで詳しくはない燐だったが、その名前ぐらいは知っていた。

 

「ダイダラボッチは、姿形を自在に変えることが出来るクマ。だから、実体がない。それは知っていたはずだったのに……」

 

 くまの終わりの方の言葉は小さく、とてもか細いものになっていた。

 

 くまにしてみれば昨晩のことはまさに悪夢でしか言いようがなかったから、できれば違う風な結果になってもらいたかったのだが。

 

 誤算ではないにしろ、その結果はある意味予想通りなものだった。

 

(それどころか、アイツ……ざっきぃにまで化けられるなんて)

 

 まだ狐やタヌキような輩の方がマシだ。

 

 もし聞いていたことが本当なら、殆ど死なないようなものみたいだし。

 

 サトくんもそれを本能で知っているのか、だいだらぼっちに攻撃をすることもなく、自分達といっしょに逃げている。

 

 何か弱みを握られているわけでもないのに手も足も出ないのは、それまで敵なしだったくまやサトくんにとってはかなりのショックであり、そして二度目の逃走でもあった。

 

 特に対策などは立ててなかったわけだし。

 

 できれば出会いたくない相手であった。

 

(じゃあもしかして、わたしと燐が()()()で出会ったヤツも、それ、だったの……?)

 

 蛍は懸命に足を動かしながら、その時のことを思い返す。

 

 石碑の近くで燐と一緒に見たのが多分そうなのだろう。

 

 じゃあ、青いドアの家で自分が遭ったのものは?

 

「……」

 

 あれの正体は、今でも掴めていない。

 

(けど、もしそれも”だいだらぼっち”の仕業だったのなら……?)

 

「わんわんわんっ!」

 

「ど、どうしたのサトくんっ」

 

 急に後ろで走っていたサトくんが吠えたてたので、蛍はそちらを見る。

 

 あれから結構走ったのだから、もうアイツは視界からはいなくなったものだと蛍は思い込んでいた。

 

 だがそれは甘い考えだったようだ。

 

「──ね、ねぇ、燐! なんかこっちに近づいてきてない!?」

 

 蛍は燐の手を強く手を握ってそう言った。

 

「それって本当なの、蛍ちゃん!」

 

 蛍の真意を確かめるまでもなく燐も振り返る。

 

 そこには。

 

(あっ!)

 

 確かにアイツがこっちへ来ている。

 

「サア、コッチヘオイデ……」

 

 何かぶつぶつと口にしながらこっちに向かってきているようだった。

 

 結構、全力で走っているというのに何故追いついてこれるのか。

 

「あんなに走ることができるなんて聞いてないクマっ!! ()()()()()()そんな様子まったく見せなかったはずのにぃ!!」

 

 くまはヒッと唸るとそう叫んだ。

 

(じゃあやっぱりアイツは浮いているの? ダイダラボッチってそんな事ができる妖怪だったっけ? でも、それでなくっちゃまるっきり説明がつかないよっ!)

 

 半狂乱になりそうな心を押しとどめて、燐は懸命に前だけを向いて走った。

 

「ねぇ、燐、どうしよう!?」

 

 隣で蛍が叫ぶ。

 

「う、うん」

 

 燐は曖昧な返事を返すことしかできない。

 

 くまは首を捻りながらぶつぶつと何かを言っているが、その間もアイツが真っ直ぐにこちらに向かって近づいてきている。

 

 黒と闇しかない世界で、少女たちは追い詰められた獲物のように暗い深淵の中へと追い立てられようとしていた。

 

 

 ──

 ───

 ────

 

 






☆明けましておめでとうございますー! 今年もよろしくお願いします。

と、すでにもう1月……いや2月なのですが、今年も高畑不動尊にてお参りをしてまいりました。

お堂の前に、高尾山のひっぱり蛸のように撫でると良さそうな像が(慈覚大師?)置いてあったので、とりあえず喉の辺りをぐりぐりと撫でておきました。相変わらず喉の調子が悪いみたいなので。



■つなキャン△

まさか長期メンテに入ってしまうことになるとは思わなかった──ですよー。
私は一応サービス開始直後からほぼ毎日ログインしていた勢だったのですが、コロナに罹ってからというもの、そのログインすらやる気力もなくなって、結局今になっても復帰しなくなってしまっいまいした。
まあ、これは、つなキャン△がどうこうという話ではなくて、単純に体調悪い時ってそれまでしていたゲームすらしたくなってしまうといいますか、むしろもっと単純なレトロゲームの方をやりたくなっちゃうんですよねー。個人的な性癖? だとは思いますが。

ただ、つなキャン△がこういうことになってしまったのはシステム的な問題と言いますか、思ってた”ゆるキャン△のゲーム”と違う、と感じた人が結構いたのかなーって思いましたね。
ずっとやっていた人達は、私も含めてみんなゆるキャン△が好きでやっているんだと思います。だからキャラ的な要素として見てる人は多いとは思いますねぇ。その辺りニーズを満たせてなかったのかなって感じがいたしますねぇ。結局、使えるキャラはいつもの5人だけで、あとは衣装違いだけでしたし。まあオリキャラが出てくるよりはいいとは思いますが。
でも、キャラゲーっていうのは本当に難しいとは思います。上記にあげたレトロゲームだって昔のキャラゲーは結構酷いゲームばかりでしたからねー。イメージすら全く合ってないものもあったりしますし。

実際、つなキャン△は他のソーシャルゲームと比べてもかなり緩めの難易度設定になっているとは思いますが、その分作業感が強めに感じてしまった感はありますねぇ。
後、キャンプをしているという感じが伝わりきれなかったのも……実際、ゲーム内のキャンプはほぼ放置で成立してましたからねぇ。ストーリーが終わったら、後はイベントを淡々とこなすだけになっておりましたし。


さて、これから約二ヵ月間長期のメンテに入るようですが、どう変化するのでしょうか。ちょうどアニメ三期が始まる時期に再開するようですし、良い感じでリニューアルスタートを切れることを期待してまったりお待ちしております。

それにしても……不調な時は何をしてもダメだという事ですねー。やっぱり病は気からという事で。


それではではではーー! 今年もよろしくお願いします。



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