We are born, so to speak, twice over; born into existence, and born into life.   作:Towelie

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「ねぇ、燐はお母さんのことって好き、かな」

「ど、どうしたの、突然」

 助かったと思った矢先に蛍に妙な事を聞かれて、燐は燐は小首をかしげて大きな目を丸くさせた。

 意図を考えるとかよりも先に、少し眉をひそめてしまう。

 だが、嫌というわけではない。

 戸惑った表情を浮かべてはいたが、それはちょっとびっくりしたというだけの事で。

 蛍はあっ、と口を小さく開くとすぐに燐に謝罪をした。

「あっ、ごめんね。何ていうか、なんか、聞いてみたくなったって言うか……燐はもう知ってると思うけど、わたし、自分のお父さんとお母さんのことって全然しらないから」

「それは、知ってるけど。でも、それって今聞いちゃうことぉ?」

 そう言って燐はちょっと悪戯っぽい笑みを浮かべて、ちょんと指をさした。

「あはは、ごめんね。ただの思い付きだから」

 ごめんね、と蛍はもう一度燐に謝罪をする。

 自分でも何でこんなことを聞いたのかよく分かっていない。

 ただ、燐の声が聞きたかっただけなのかもしれない。

 そのせいで少し困らせてしまったみたいだったが。

「そこまで謝らなくても大丈夫だよ。そうだなぁ、えっと、うーん」

 燐は笑って返すと、唐突に投げられた蛍の問いかけに対してしばし口を閉じた。

 理由を聞くつもりはない。

 ただ、落ち着くだけの時間が欲しかったのだろうと思う。
 そう燐は解釈をした。

(わたしだって、まだちょっと信じられないぐらいだしね……)

 あんなことが起きるとは流石に思ってはいない。

 想定外すぎるっていうか。

 燐は、ちらりと自分のお尻のつけ根の辺りに生えている()()()()()を見やった。

「うーん、お母さんのことねぇ……まあ好きって言われたら好きなんだろうけどぉ」

「それだけ?」

 意外そうに言う蛍。

 もう少し何か言うだろうと思っていたみたいで。

「なんか、改めて聞かれるとちょっと恥ずかしい感じかも」

 燐は恥ずかしそうにぽりぽりと頭を掻いて言った。

 その頬はほのかに赤くなっている。

 ふわふわとした燐の尾も忙しなく左右に揺れていた。

 なのでそれは本当のことなんだろう。

「何か、これ以上話したら好きっていうよりも悪口になっちゃいそう。それでも蛍ちゃん聞きたい?」

「うん。燐が嫌じゃなければ、だけど」

「嫌ってわけじゃないけど」

 燐はそう短く答えた後で。

「そんなに聞きたいこと? つまらない話だと思うんだけどなぁー」

 茶化す口調で言う燐に、蛍は困った顔で笑う。

 これまで、燐が誰かのことを悪くいうのを蛍は一度も聞いたことがない。

 それが友達や身内のことであっても。

 なので蛍は静かに耳を傾ける。

 そこまでの心配はいらない。
 今はとりあえず安心できるところにいるみたいだから。

 まだそこまで楽観視できる状況ではないのかもしれないけれど、燐も蛍も、互いに落ち着きたい気持ちは確かにあったから。

 そう、今は。

 ……
 ……
 
 少女達が開いた扉の先には、淡い光と空間が広がっていた──。

 だけど、それだけだった。

 やはり視界は悪く、とても薄暗い。

 箱の中に閉じ込められているようにも感じるし、どこか知らない国の監獄に無理やり入れられたみたいな、閉塞感と静けさが辺りに漂っていた。

 なので、全部が全部助かったという感じは二人ともにない。

 安堵するにはまだ早いというか、余計に袋小路に追い詰められてしまった感じすらもする。

 どん詰まりのような空間に蛍と燐はいた。

「何だか、宇宙船の中にいるみたいな感じがするね」

 あまりにも何もないからだろう。

 周囲を見渡した蛍がそう呟く。

 燐は同意するようにうんうんと頷く。

「ちょっと迷宮(ダンジョン)っぽくも思えるよね。昔のゲームみたいな単純なグラフィックスのやつの」

 燐の暢気な感想に蛍は少し噴き出してしまう。

「確かにね。案外簡単に壊れちゃうとか」

 二人は顔を見合わせると、それぞれ左右の壁に手を付いて押してみることにした。

 ぐっ。
 両手で強く押してみたが、ビクともしない。

 壁の色も相まって、黒い鉄の塊を押しているみたい。

 燐と蛍は同時に息を吐く。

「簡単なものでもなかったね」

「うん」

 二人は早々に諦めると、黒い壁に挟まれた道の先を眺める。

 左右の壁だけでなく床も天井も真っ暗だったのだから、何かのトンネルみたいに思えるけれど。

 今の所出口のようなものは見えてない。

「ちょっとだけ、蛍ちゃん()みたいな感じもするかも。こーれぐらい広い廊下だったしね」

 ふと燐は、蛍の家の構造を思い浮かべていた。

 もう蛍の家ではなく、あの町の郷土資料館となってしまったけれど、家の構造自体は特に変わりはない。

 何かしらの手を加えるかと思ったが、ほとんどそのままの形で使われていた。

 増築しすぎたせいで、迷路みたいになってしまったあの長い廊下もそのまま残っていた。

 町の郷土資料館となり、一般に開放されるようになってもそこは変わらないようで。廊下の壁という壁には進むべき順路とトイレの場所を示す標識がそこかしこに貼られているほどだった。

 燐の言葉に、そうかなぁと首を傾げる蛍。

「さすがにそこまではなかったと思うけどね」

 そう言って蛍は軽く苦笑いする。

「あの家よりも、わたしがさっきまで居た所とちょっと似てるかも」

「蛍ちゃん、そうなの?」

 燐は意外そうに目を見開く。

「うん。こんな変な壁なんかで区切られてなかったけど、薄暗い部屋みたいなちょっと不思議な空間だったの。どこまでも続いてきそうな高い天井もあったんだ」

 そこでは奇妙な連なるテルテル坊主も浮かんでいたが。

 あれはあの後どうなったのだろう。

「へぇ、そうなんだ」

 蛍の言うような空間は燐にはいまいちピンとは来なかったが、目の前のこの廊下はどこまでも続いているように見える。

 例えるのなら、誰も居ない夜の学校の校舎に忍び込んでしまった時のような不気味さがあった。

 それは、意外とあっさりと終わりそうな気もするし、永遠に続いていきそうな気配すらもあった。

 けれど、先が何一つ見通せないというわけではない。

 蒼く微かな光が、月明かりのように少女の足元だけをぼんやりと照らしていた。

 蛍の言うところによると、これも前にいた空間にあった現象と似ているらしい。

 それは実はサトくんだったらしいが。

(サトくんって光ったりするものなんだ……)

 信じれない話ばかりだったが、蛍が言うことなので間違いはないだろう。
 そう燐は思っていた。

 ただ、この光は蛍火(ほたるび)より小さく、燐火(りんか)よりも儚い光を出している。

 いつ消えてしまってもおかしくはない、とても弱弱しい光源。

 それが少女達の目印となっていた。

「どっかの施設の中に入っちゃったというわけじゃないとは思うけど」

 軽く周囲を見渡してみたが、壁にも天井にもここが何かを示すようなもの付いてはいない。

 さっきまでいた風車の中というわけでもない。

 むしろ深夜の病院のように殺風景でしんと静まり返っている。

 生き物の気配どころか、何の匂いもしない。

 静謐で無味無臭な所は”青いドアの家”と似ているようだけれど。

「やけに固い感じだったよね」

 そういって蛍はまた手で黒い壁に触れてみた。

 やはり石とは違った重い感触が掌を押し返してくる。

 多分天井も同じ材質なんだろうと思う。
 触れていないからまだ分からないが。

 そういう感じがした。

 そんな黒い壁が、二人の前方にだけない。

 ──ここにしか道はないから。

 そう、言っているみたいに。

 前方の空間だけがぽっかりと空いていた。

 更なる深淵へと誘うように。

「ねぇ、これも罠なのかな?」

「いかにもって感じはするけど……」

 燐と蛍は心配そうに顔を見合わせる。

 その二人の手にはもう何も握られてはいない。

 そういったものは、向こうの世界で捨ててきてしまった。

 ただ、二人を追う者も今はなく、そう言う意味ではようやく身軽となったともいえるが。

 こういった未知の空間では少し弱気になってしまう。

 頼れるものはお互いの細い身体しかなくて。

(まあ、もともと大したものじゃないんだけどさ)

 感触を確かめるように、燐は手のひらを握ったり閉じたりさせていた。

 その頭の耳としっぽは未だついたままだった。
 子どもの体つきの方も元に戻ってはいない。

「先があるというだけまだマシなのかもね。お膳立てが過ぎるとは思うけどもぉ」

 からかうような口調で燐はそう言う。

 わざと明るく振舞っているようにもみえるが。

「確かにね。ちょっとムードが足りない感じするよね」

 唇に指を当てた蛍がくすりと小さく笑う。

 恥ずかしがっていたバニーの格好に慣れてしまったのか、蛍もいつもと変わらない様子で接している。

 二人とも、いつもとは変わった見かけのままだったが。

 それでも良かった。

 蛍も燐も、互いのことをちゃんと認識しているのだから。

 姿や形などさして問題ではなかった。

()()()ってもう追ってきてないよね」

 ふと燐は後ろを振り返る。

 そこには硬質な黒一色の壁があるだけ。

(あの時の、できごとみたい)

 異変のあった夜の中学校の図書室のときと同じように、向こうから通り抜けてきたはずの痕跡がなくなっていた。

 ちゃんとドアを開けて入ってきたはずなのに、そのドアも消えてなくなってしまっている。

 当然、燐が探していたスイッチがすぐにあるはずもなく、空間はまだ先へ続いている。
 
 どうやら、そんな簡単にはたどり着けないものらしい。

 何か得るためには何かを犠牲にする必要があるわけではないとは思うが。

(なんか、無理やりにでも先に行かせようとしているみたい……)

 ゾンビに汚染された世界から逃れるために、ひたすら歩き続けるというドラマがあったが。

 それと同じなんだろうか今のこの状況は。

 でも。

(あのドラマって最後はどうなったんだっけ……?)

 長く続いているシリーズではあったが最後の方をなぜか蛍は覚えていなかった。

 一応全部見たはずなのに。


「とりあえず行ってしかないよね。なんかフラグっぽく聞こえちゃうけど」

 そう言った自分の言葉に呆れてしまう。

 燐はそれを表情には出さずにすっと立ち上がった。

 思い描いていた動作とは少し違った感じに、燐は内心で首を傾げた。

(わたし、この身体に慣れてきてるの?)

 尻尾とケモ耳を付けた姿に違和感を感じなくなってきているのは、あまり良くない事だとは思うが。

 でもそれがすぐに絶望とは思わない。
 
 人の概念の消失とも違う気がする。

 退化とも進化とも違うし、やっぱり……これは夢?

 夢にしては長すぎることだし、あまりにもリアルすぎるのだけど。

「ほらっ、蛍ちゃん!」

 燐はわざと明るく声を出すと、座り込んでいる蛍に向かって手を差し伸べた。

 おかしなことは前だって、今にだって起きているのだから。

「うん」

 そう返事をするものの、蛍はまだすぐには立ち上がろうとはせず、燐の手をまざまざと見つめている。

(燐の手……やっぱり小さいよね?)

 改めてそう実感してしまう。

 燐の方は何気なく手を差し出したつもりだろうが、それが余計に意識させてしまう。

 ただそれは同情とかのものではなく、現実のものとして蛍は受け止めていた。

 これが今の燐、なのだと。

「蛍ちゃんどうかしたの? もしかして、足くじいちゃったとか」

 燐は少し心配そうな顔になる。
 同時に頭の耳もぺたんと垂れていた。

「それは大丈夫。ありがとう燐、心配してくれて」

 自分のことよりも先にそうやって気遣ってくれている。
 
 どんな姿になっても燐は燐のままなんだ。

「うふふ」

「?」

 急に笑い出した蛍を見て燐は不思議そうに首をかしげた。

 蛍は燐の折れそうに細い手をしっかりと握るとよいしょと言ってゆっくりと立ち上がる。

 相変わらずハイヒールのままだったが、それほどの違和感は衣装と同じようになくなっていた。

「ねぇ蛍ちゃんって」

「うん?」

 蛍が立ち上がると、燐は何故か呆気に取られたように膠着していた。

 何かこう、圧倒されているみたいに見える。

「やっぱり、その靴のせいなのかなぁ。なんか蛍ちゃんがすっごくおっきく見えちゃって。わたしの方が縮んじゃっただけなんだろうけど」

「ああ」

 そういうことか。
 納得した蛍はぽんと手を打った。

「ごめん、こんな変な靴、もう脱いじゃってもいいんだけど」

 代わりになるものがあれば今すぐにでも脱いでしまうのだけれど。

 ここにもそんなものはありそうにない。
 
 何故かサイズがぴったりだったから、走りづらいこと以外はそんなに気にしてはいなかったけど。
 
 そんな弊害もあったのだと気づく。

 ヒールが高くなっているのはスタイルを良く見せるためなんだろうけど、今はそんなのなんの意味もないことだから。

(普段だってそう思うよ。外反母趾の原因になるんじゃなかったっけ、これ)

 そこまでして履きたいものとは思わない。

 ちょうどいい機会だと思い、蛍はいい加減この靴を捨てようと決めたのだったが。

「あっ、ダメだよ蛍ちゃん」

 燐が何故か制止させていた。

 蛍は手を途中で止めて首を傾げる。

「え、何で」

 当然の疑問だった。

「だって、その靴も込みでの”バニーのコスプレ”なんだから。全部着ていないと」

「そ、そういうものなの?」

 そうじゃないとダメな決まりでもあるのだろうか。

「でも、その方が燐も良いんじゃないの」

 だが燐は、そこは譲らないようで。

「そんな事ないよ! むしろいまの蛍ちゃんすっごくスタイル良く見えて可愛いし。あ、セクシーって言った方がいいのかな」

 燐はうんうんと嬉しそうに頷いている。

 蛍は恥ずかしくなったのか顔を赤くしていた。

(お世辞じゃないみたいだけど)

 蛍は呆れたため息を内心でついていたが。

「まあ、燐が喜んでくれるのならいいけど」

 結局蛍は、このままの格好でいることにした。

 ……
 ……
 ……

 カツン、カツン。

 灰色の廊下には蛍の高いヒールの音だけが響き渡っている。

 その事を気にしていた蛍だったが、燐がずっと話しかけてくれるのでそんなに気にならなくなっていた。

「あ。ねぇ、燐。さっきの話だけど」

 話の途中で蛍は最初の方に言ったことを思い出していた。

 燐はうっかりしていたとばかりに自身の額を手でぱしっと叩く。

「あ、ごめん~。でもわざと忘れていたってわけじゃないからね」

「それは分かってるよ。燐だってまだちょっと困惑しているんでしょ?」

「んー、まぁね」

 それはそうだと思う。

 なくなったとばかり思っていた”ドア”が急に見つかって、覚悟を決めて飛び込んだらこんな所に来てしまったのだから。

 まだ頭が混乱していてもそれは無理のないことだった。

 しかもその扉はあの風車にあったのではなくて。

「でも何であんなところにドアがあったんだろうね」

「うん……本当に不思議だ」

 燐と蛍は前を向いて歩きながら、同時にその時のことを思い浮かべていた。

 ……
 ……
 ……




restless heart

 

 それを認知した瞬間、燐は素早く身構えた。

 

(あれって、きっと”アイツ”だ……!! でも、何でこっちに!?)

 

 あの雪山とは違う所に来たんだと思っていたんだけど、そうではなかったという事なのだろうか。

 

 登ってきた風車とこの風車はやはり同じものだった?

 

(だとしたら、何も変わってなんかなくて、この風車の下には雪が降っているってこと?)

 

 いや、もう雪は止んでしまったんだっけ?

 

 頭がこんがらがってきたのか、燐は眉をぎゅっと寄せて逡巡する。

 

 だったら何故、風車の上にあがってきた扉が消えてしまったんだろう。

 

 結局、そこに問題が戻ってきてしまう。

 

 そうでないと、”アレ”がここにいる理由が見当たらなくなる。

 

 アイツが何か変なことでもしない限りは。

 

(もしかして、ここで戦えっていってる!?)

 

 あんな化け物と?

 

 誰が。

 何のために。

 

 いくら考えても無駄なことなんだろうけど。

 

 あんな馬鹿でかいクラゲと正面切って戦うなどいう行為は正気の沙汰とは思えない。

 

 そもそも戦うべき相手なんだろうか。

 攻撃みたいな事はしてくるようだけれど。

 

 それだってアレの防衛本能みたいなものかもしれない。

 

(獲物を捕る為の行動とかだったらやっぱり……嫌かもだけど)

 

 飛行船みたいにふらふらと空に浮いている様子だけ見ると、白い雲みたいで穏やかそうにみえるけれど。

 

 そんな無害にすら思えるのが突然、牙を剥いてくるのだから。

 

 牙っていうか雷を落としてくるみたいだけど。

 

 こちらに対する敵意みたいなものはあるような気がする。

 理由とか目的はいまいちよく分からないけれど。

 

(そもそもクラゲの気持ちなんて分かるはずもないよね。でも、わたし達って餌じゃないんだけど?)

 

 クラゲから人がどう見えるかなんて考えたこともない。

 

 でもあれは規格外のものっていうか、()()()()()()()()みたいだから。

 

「あれ……」

 

 燐はゴシゴシと目を擦って瞬きを繰り返す。

 

 まだ遠目だからはっきりとは見えないのだけど。

 

(アイツって、あんな形だったっけ?)

 

 思い描いていたものと少し形が変わっているような?

 気のせいなんだろうか。

 

 離れたところにいるから上手く認識ができていないというだけだろうと思うけれど。

 

「どうしたの燐? 何か見えるの」

 

「あっ、えっとぉ」

 

 呆然となっているところに不意に蛍に手を握られて、燐は電気が走ったようにびくりとなった。

 

「さっきから、遠くの方ばかり見てるみたいだけど」

 

 蛍も燐と同じ方向に目を眇める。

 

 澄みきった青い空には、白い雲が湧き立つように浮かんでいる夏の情景のような景色にしか見えない。

 

 ずっと見ていられるほど綺麗な光景だとは思うけど。

 

 この風車以外他に何もないから、少し寂しく思えるが。

 

(でも燐は、全体の景色じゃなくて、どこか一点を見ていたような感じがしたんだけど)

 

 何処を見ていたんだろう。

 

 大きな青と白しかないジグソーパズルの抜け落ちた1ピースを探すみたいときみたいな。

 

(もしかしたら、わたしには見えないものなのかも……)

 

 前の、青いドアの家での風車みたいに。

 

 自分の瞳には映らなかったようだけど、燐には視えていたようだった。

 

 少し不安になりかけた蛍は、隣にいる燐に何をみていたのかそれとなく聞いてみようとしたのだったが。

 

 どうやら、その必要はないみたいで。

 

「あ」

 

 蛍の瞳にも”それ”は視えていた。

 

 偶然かもしれない。

 

 一応は安堵できたが、別の不安というか疑問が頭をよぎる。

 

 ”アレ”はいったい何なのだろうと。

 

 その一点にじっと目を凝らす蛍。

 

(なんだろう、あれって。蠢いているようにみえるけれど……)

 

 そういう形の雲なのかと最初は思ったが、雲にしてはなんだか様子が変な気がした。

 

 動きというか、存在の違和感みたいなものを遠目からでも肌で感じとってしまう。

 

 はっきりとこの目で正体を確かめてみたい感じはあるけど。

 

(見ちゃいけないようなもののような気もする)

 

 それは何故なんだろう。

 

 蛍は心の奥底に浮かんだ疑問に対して、モヤモヤしたものを感じ取っていた。

 

「燐、あれって何なの──」

 

 直視することは避けつつも、蛍はそこに指をさして燐に声を掛けようとした時だった。

 

「蛍ちゃん! 逃げよう!」

 

「ええっ!?」

 

 燐は、蛍の手を強く握るとそのまま走りだしてしまった。

 

 突然のことに蛍は困惑した顔になってしまうが。

 

「ねぇ、逃げるって?」

 

 何事かと思った蛍だったが、燐に引っ張られるままわけもわからずに後について駆けだす。

 

 逃げるというのは、さっきのあの妙なものに対してなのだろうか。

 

 そんな怖がるようなものなんだろうか。あれは。

 

(もしかしたら、異変の時に見たものと同じとか)

 

 その時と似たような存在だというのなら、燐が逃げるというのにもある程度納得がいく。

 

 あの町での異変の時では様々な”何か”と出会ったけれど。

 

 どれがどうだったものかなんていちいち覚えていない。

 

 逃げることに必死だったから。

 

 燐は自分と離れている間、”白い人影”のようなものにずっと追いかけられていたみたいだし。

 

 多分、危険な存在なのだろう。

 

(もし、燐に危害を加えるようなものだったら……)

 

 蛍はぎゅっと唇を噛みしめた。

 

「どこに逃げよう……!」

 

 思わず走り出してしまったものの、どうしていいのか燐にも分からないでいた。

 

 逃げると言っても、この風車の上には隠れられるような場所なんてものはどこにもない。

 

 風車の中に入る為の扉もなければ、非常用のハシゴすらもなかったのだから。

 

 なのですぐに行き詰ってしまう。

 

「燐、こっちは行き止まりだよ!」

 

「でも、あっちだって同じようなものだし」

 

 燐と蛍は手を取り合いながらも、風車の上を右往左往とする。

 

 だが、逃げ道などどこにもないのだ。

 

 遮るようなものは何もない場所なのに、追い詰められてしまった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 二人は風車の先端の所で動きを止めていた。

 

 当然そこには何もなく、同じように動かなくなった風車の大きな羽が静かに佇んでいるだけ。

 

 まるでそこが世界の果てであるかのように、燐も蛍も呆然としながら息を吐いている。

 

 意味もなく走り回っただけで何も進展などなく、無駄に体力を消耗したというだけだった。

 

「ご、ごめんね、蛍ちゃん」

 

 ただ蛍を振り回してしまったことに、燐は謝罪の言葉を口にする。

 

 蛍ははぁはぁと荒い息をつきながら首を横に振った。

 

「大丈夫、わたしにも、分かること、だから」

 

 膝に手を付いて微笑む蛍。

 

 燐は薄っすらと浮かんだ額の汗を手で拭った。

 

 決断をするしかない──。

 

 覚悟を決めてあれと対峙をするか、それとも。

 

(もし、飛び降りるって、こんな高さからじゃ……)

 

 二人とも無事に済むはずもない。

 

 しかしあの怪物と戦ったって勝算があるわけでもないし。

 

(アイツが来たってことは、くまちゃんだって、もう)

 

 つい最悪の事態を頭に浮かべてしまった。

 

 燐は急いで頭から消すと、どうしたら良いものかと考えだした。

 

 もし、飛び降りたとして、この風車はどのぐらいの高さがあるものだっただろうと。

 

 そしてその下は。

 

(きっと、無理だよね)

 

 靄のようなものが広がっていて、地上の様子は分からないが、なんとかなりそうなものではない。

 

 それは流石に分かる。

 

 考えれば考えるほどに、ずぶずぶと底なし沼のように黒い考えが広がっていくように感じられるが。

 

 でも。

 

(それでも決めなくちゃ……じゃないと蛍ちゃんが……!)

 

 せめてあの時、開けてきたはずの扉があればと今更に思うけれど。

 

 血走った目で燐が風車の周囲を見ても、ドアのようなものは見つからない。

 

 ずっと探しているような気がするけど、本当になくなってしまったんだろうか。

 

 やはり別の世界の風車の上に。

 

 それとも他に風車があって、たまたまそっちに出てしまったとか。

 

「……」

 

 いくら憶測を並べたところで現状に変わりはない。

 

 分かっていることは。

 

 自分たちと、あの空に浮く化け物しかここにはいないということだけだった。

 

(サトくんも、オオモト様もいない……くまちゃんだって)

 

 他の誰かが来れるはずなんかないんだ。

 

 この世界の法則というか、繋がり方が分かっていないのだから。

 

(でも、アイツはこっちにいる……!)

 

 それはどうしてなんだろう。

 

 それが分かった所で、どうなるものでもないんだろうけど。

 

 この世界はそれぞれが違う空間、異なる惑星のようだと、あの人は言っていたのだから。

 

(燐……)

 

 ようやく蛍の息は落ち着いたが、燐はむしろ走り回ったときよりも汗ばんでいるようにみえた。

 

 今にでも泣き出してしまいそうなほど眉を寄せている。

 

 それは蛍にも伝わっていたことだった。

 

 焦燥感というか、ひどく混乱している様子が燐の顔にありありと浮かんでいたのだから。

 

 そしてその原因が、あの空に浮かんでいるものであるということにも。

 

 輪郭は白くて、開いた傘みたいにみえるけれど、蜃気楼みたいにゆらゆらとしている。

 

(まるで、ぼやけたレンズ越しに見ているみたい……)

 

 これを何と形容していいものなのか、蛍には上手く説明がつかなかった。

 

 かなりの大きさのもののような気はする。だけど、それがどのぐらいのものなのかはまだ想像がつかない。

 

 ただ、何となくだけど見覚えがあるもののような、そんな気がするというだけで。

 

 はっきりとこれが何かというのは分からないでいた。

 

(燐なら、知ってるんだろうけど……)

 

 蛍は、燐の小さな背中を見つめる。

 

 誰よりも良く知っている人が、子どもみたいな姿となってしまった。

 

 更には、獣みたいな耳と尻尾まで付いている。

 

 これも何だろうと思う。

 

 どうしてそんなものが付いてしまっているのだろう。

 

 呪いとか祟りではないと、燐は言っていたけど。

 

(もしかしたら、わたしに関係のあることかも……?)

 

 蛍はそう思っていが、まだ口にはできなかった。

 

(どうしよう……どうしたら……!?)

 

 燐は落ち着かない様子で体を揺すりながら、周囲に視線を走らせていた。

 

 その間にも、アレは徐々に近づいている。

 そう感じてしまう。

 

 白い雲と同化しているように見えるからか視認性は良くないけれど。

 

(でも、これ以上待っていたら……!)

 

 多分、取り返しのつかないことになってしまう。

 

 そんな予感がする。

 

 ここから飛び降りるのは最後の手段だとして。

 

 話し合いが通じる相手ではないのだろう。

 

 人ではなく、クラゲになったのは多分そういうことなのではないのだろうかと思う。

 

 話す必要などない、と。

 

(でも、戦うにしたって……あんな化け物相手にどうしろと……)

 

 どうみても勝ち目なんかはない。

 

 燐だってそれは分かっていた。

 

(けど、ただ黙ってやられるのを待つのも癪に障ることだよね?)

 

 ひとりじゃないんだし。

 

 足掻くことぐらいはするつもりだ。

 

(くまちゃんの、敵討ちをしなくちゃならないし……!)

 

 覚悟を決めたように、燐がごくりと唾を飲み込んだときだった。

 

 あるものが燐の視界に入り、大きく目を見開いた。

 

(そうか! ()()なら何とかなるかも!? でも……それには)

 

 燐はそれを確認をすると、手で顔をぱたぱたと扇いでいる蛍の肩に手を乗せた。

 

「蛍ちゃん。ちょっといいかな」

 

「うん? なぁに」

 

 燐が不意に声をかけてきたので、蛍は少しびっくりして降りかえる。

 

 いつもとは少し違った感じがしたから。

 

 作り笑いを浮かべながら燐は囁き声のような小さな声色で言葉を続ける。

 

「あのね。よかったら、なんだけど……その”刀”をちょっとわたしに貸してもらえるかなぁって」

 

「えっ、これを?」

 

「う、うん」

 

 蛍は手元に置いていた日本刀を指差して聞き返す。

 

 オオモト様から手渡されたものではあったが、貰った意味は正直よく分かっていない。

 

 蛍としてはもう意味のないものだと思ってはいたが、もしかしたら何かの役に立つのではないかと思って持ってきたのだが。

 

 鞘に収められたままの刀を蛍は手で手繰り寄せると。

 

「燐、これを使って何かをするつもりなの?」

 

「何かっていうか」

 

 蛍の問いに、燐は口ごもってしまう。

 

 蛍は真っすぐに燐の目をみつめる。

 

 燐は目を逸らすことなく見つめ返してくる。

 

 暫くの沈黙ののち、先に口を開いたのは燐のほうだった。

 

「ごめんね。でも、そうしなくっちゃ駄目みたいなの」

 

「だめって……どうして?」

 

 怪訝そうに眉を寄せた蛍に燐は、目的の刀の方ではなく蛍の手を握った。

 

 柔らかく、指先の感触を確かめるように。

 

 そして、自身の胸元に持っていきながら困った顔で微笑んでいた。

 

「もうすぐ、敵みたいなのが来るかもしれないから」

 

 透明な、力のない笑顔で。

 

(”敵”って、そんな……! そんなのって)

 

 蛍は何か言おうとしてみるも、言葉が出てこない。

 

 燐に何と声を掛けたらいいのか分からずにいた。

 

「ごめんね、後でちゃんと返すつもりだから」

 

 そう言って燐はにこりと微笑んだ。

 

 なんて哀しい笑顔なんだろう。

 そう蛍は思った。

 

「でも、こんなの何の役にも立たないよ、きっと」

 

 切羽詰まったような表情を燐に向けられても、蛍はまだ良く事態が飲み込めないのか淡々とした口調で話す。

 

「でも、もうこれしかないの。わたしのなんて、ほらっ、こんなんなんだよ」

 

 そういって燐は折れ曲がった鉄パイプを手に苦笑いする。

 

 こんなガラクタなんかよりも、それはちゃんとした”武器”なのだから。

 

「それは、わかるけど」

 

 釈然としないのか蛍は表情を硬くさせた。

 

「蛍ちゃんだって聞いたでしょ? ”ダイダラボッチ”って。あの空に浮かんでいるクラゲみたいなのがどうやらそうみたいなの」

 

「あれが……だいだらぼっち!?」

 

 信じられないとばかりに蛍は口を開けた。

 

 敵だと燐に言われて何事かと思ったら、それがダイダラボッチだったなんて。

 

(それが白くて丸い……クラゲ??)

 

 燐の言っていることがよく分からない。

 

 何でクラゲがわたし達の敵になるんだろう。

 

「ねぇ、ダイダラボッチって巨人じゃなかったっけ? クラゲなんかじゃなかったような……」

 

 形もそうだけど、あんな”色”だっただろうか。

 

 蛍は山で出会った怪物のことを思い出す。

 

(影みたいに真っ黒で、人の姿だったような……)

 

「わたしも、良く分からないんだよ。でも、くまちゃんはあれはダイダラボッチが変化した挙句の姿だって言ってたんだよ」

 

「くまちゃんが?」

 

 あの子が何でそんなことまで知っているのだろう。

 

 少し変わった子だとは思っていたけど。

 

(でも、ダイダラボッチということは……)

 

 つまり。

 

 あのクラゲこそが、もう一人の自分ということになる?

 

 無意識の内に生み出してしまったものがあんな変なのだろうか。

 

 何一つ実感が湧いてこない。

 

 姿が変化したことも、敵となって追ってくることにも。

 

 オオモト様から事実を聞かされてもまだ判然としないのと同じで、燐から言われたことにも、どこか遠くの物語みたいにぼんやりとしか耳に入ってきないと。

 

 自分の、もんだいのはずなのに。

 

 違和感を覚えた蛍は無意識に刀を強く握りしめる。

 

「本当は逃げたいんだけど、ここじゃどうにもならないみたいで……」

 

 終わりの方は小さな言葉になっていた。

 

 繋がれた燐の手が震えているのが分かる。

 

 やはり燐だって怖いのだと思う。

 

 怖くて怖くてたまらない。

 だけど、蹲っていたって何にもならない。

 

 そう言う事なんだろう。

 

 納得がいった蛍はゆっくりと口を開いた。

 

「そっか、そういう事だったんだね」

 

 蛍はそう呟くと、すまなそうに眉根を下げていた。

 

「これで、アレを倒せるのかな」

 

 蛍は燐の前に刀を差し出す。

 

「分からない。でも、やってみないと」

 

 燐は静かにそう言うと、刀をまざまざと見つめる。

 

(こうして間近で見ると迫力があるっていうか……わたしに出来るのかな)

 

 フィールドホッケーのスティックや、ラクロスのラケットなんかは振り回したことはあるけど。

 

 刀を持ったことなんかは一度もない。

 

 しかもそれは偽物ではなく本物みたいだから。

 

 燐が緊張してしまうのも当然ではあった。

 

「あ!」

 

 燐が刀を手に取った瞬間、頭の耳としっぽがぴんと立ち上がる。

 

 その辺かに蛍も口をあけて驚く。

 

「燐、大丈夫なの?」

 

「う、うん……ちょっとびっくりしちゃっただけかも」

 

 そう言って少しよろめく。

 

 蛍は慌てて燐に手をかした。小さな体を腕で支える。

 

「大丈夫? ちょっと重かったとか」

 

「それはわかんないけど。なんかびりってきた感じ」

 

「びりって」

 

 二人は、燐の持つ刀をまざまざと見つめた。

 

 手入れの行き届いた綺麗な刀だと思う。

 

 確かにちょっと重いとは思うが、全く持てないというほどではない。

 振り回すことぐらいも出来るとは思う。

 

 それは全く根拠のない自信ではあったが、こんな子供の姿になってもそう思うということは、きっと。

 

(この、獣みたいな変な恰好のせいだと思う)

 

 妙に熱くなっているのもそのせいだろう。

 

 体中が沸騰したように、脈打つ感じになっているのが分かる。

 

 ──本能なのだろうか。

 

 獣の。

 

(街中であの白い影に襲われたときみたいに、高く飛ぶことができたら……)

 

 アイツの頭上からこの刀を振り下ろすことができる。

 

 上手くできるかの自信は全くないけど。

 

「とにかく、やってみるしかない……蛍ちゃんはここでじっとしててっ!」

 

 燐は改めて刀を手にすると、蛍をかばうようにしてアレがこちらに来るのを待ち構えた。

 

 逃げることができないのならば、立ち向かっていくしかない。

 

 例えどんな結果になったとしても。

 

 何の教えも、それこそ初めて得物を手にしたはずなのに、燐のその立ち姿は妙に様になっていた。

 

「燐……」

 

 これで、本当に良かったんだろうか。

 

 後悔が蛍の中で渦を巻いていた。

 

(わたしがしなくてならないことなのに……)

 

 燐に役目を押し付けている。

 そんなのは。

 

 そんな時だった。

 

 沈みかけた蛍の目にあるものが飛び込んだのは。

 

 これは──気のせいなんかじゃない!

 

 確かにある。

 

「り、燐っ! あれを見てっ!!」

 

 蛍が興奮したように燐の服の端を引っ張りながら指をさす。

 

「ええっ?」

 

 急に強い力で引っ張られて、燐は慌てて振り返る。

 

 まさかと思い、頭上の空を見上げてみたのだが。

 

 そこには何もいない。

 

 薄い雲が流れているだけで。

 

 まだあのクラゲはこっちに来ていないようだ。

 

 燐は胸を撫でおろす。

 

「な、何のことを言ってるの蛍ちゃん」

 

 眉をひそめた燐が聞き返すと。

 

「ほら、あれ……ねぇ、燐にも見える?」

 

 蛍が声を潜めて指差す方向。

 それは風車の真下だった。

 

 しゃがみ込んだ蛍がそう言うので、燐も隣でしゃがんでその方向を見つめた。

 

「あれって!?」

 

 ようやく燐も気付いたのか、つい声を上げていた。

 

 そこにはドアがあった。

 

 綺麗な青色のドアが。

 

 もう消えてしまったとばかりに思っていた扉が、そんな所に現れていたのだ。

 

 でも、いつからそこにあったのだろう。

 

(ドアなのは分かるんだけど……あんなんだったっけ)

 

 燐がずっと探し求めていたドアとは少し違った形をしていた。

 

 だが問題はそこではなくて。

 

「何で、こんなところに?」

 

「わたしも最初見つけた時はびっくりしたよ」

 

「だよね」

 

 蛍も燐も複雑な顔になっていた。

 

 何故ならドアは、風車の壁や柱にあったわけではなかったのだから。

 

 もちろん羽になんかドアがついているはずもなく。

 

 もっと奇怪な、異質ともいえる場所にあった。

 

 常識では、そんな所にドアがつくはずはない。

 

 そんなの今までに燐も蛍も見たことがなかった。

 

「ドア……浮いてるようにみえるよね」

 

「うん。空中にドアがあるなんてとても信じられないよ」

 

 何かのグリッチのように、ドアだけが空にへばりついていたのだ。

 

 少女達が立っている風車のちょうど真下。

 

 届きそうで届かないところに。

 

 それを発見できた喜びよりも、疑う気持ちのほうが強く、二人とも眉をひそめて考え込んでいた。

 

 本当に、何なのだろうか。

 

 あまりにも異常すぎる。

 分かりやすいぐらいに。

 

 この”青いドア”は。

 

「蛍ちゃん、これって」

 

「うん。何でこんなところにあるのかは分からないけど」

 

 どうやら二人とも同じ考えのようで、2人は顔を見合わせてこくんと頷く。

 

 ”青いドア”ということは多分そういうことなんだろう。

 

「窓は無数にあるってオオモト様は言ってたし、これもきっとそうなのかも」

 

「もしかしたらこれで、戻れるんじゃないかな」

 

「わたしも、そう思ってるんだけど、ね」

 

 二人とも同じ考えだったが、それには問題もあった。

 

「どうやって、あそこまで行ったらいいと思う」

 

「うん……ハシゴなんかがあるわけないし、ここから降りていくしかないんだろうけど」

 

「でも、降りるっていったって……」

 

 そもそも風車から離れた場所にドアはあるわけだから。

 

 ただ飛び降りても届かないだろう。

 

「跳ぶしかないかもね」

 

「それって、ジャンプをしろってこと? 燐ならともかくわたしになんか出来るのかな」

 

 二人はドアのある空間を見下ろす。

 

 青い空に溶け込むようにして、扉だけがぽつんと空に浮いている。

 

 開けるためのドアノブもついているようだが。

 

 まるで空への出入り口みたいにとても幻想的に見えるけれど、実際にどこにつながっているものかは分からない。

 

 扉を開けてみるまでは。

 何も分からない。

 

(だからって、()()()()()()()じゃないよね? いくら何でも……)

 

 燐は、とある漫画に出てくる”どこにでも行ける便利なドア”の事をつい頭に思い浮かべていた。

 

 それとは形が違うから流石にそんなことはないと思うが。

 

「でもさ、どうして今まで気づかなかったんだろうね」

 

 不安そうに細い眉をぎゅっとよせながら、蛍もそのドアを食い入るように見つめている。

 

(なんだろう? ちょっと怖い感じがする……)

 

 そこから何かが出てくるとかではないとは思うが。

 

 蛍は反射的に燐の手を少し強く握りしめていた。

 

「ねぇ、蛍ちゃん。あれがこの世界の出口なんだと思う?」

 

 燐がそう尋ねてくる。

 

 蛍は軽く首を横にふった。

 

「分からない……でも、あそこに行くしかないんだと思う」

 

「わたしもそう思うよ。変なのと戦うよりかはずっと良いと思うよ」

 

「そうだよね」

 

 二人は顔を見合わせて苦笑いした。

 

 不安は確かにある。

 恐怖だってもちろん。

 

 あのドアに行くためにはここからジャンプをして飛び降りるしかないし、それに何とか扉を開けて中に入らないといけない。

 

 そもそもあのドアの先に何かがあるという保証が一切ないのだから。

 

 全ては仮定であり。そして賭けでもあった。

 

「……鍵穴みたいなのはないみたいだね」

 

「燐、分かるの?」

 

 蛍は意外そうに目を見開く。

 

「まあ、一応ね。でもだからと鍵が一切掛かっていないってわけでもないんだろうけど」

 

「そう、だよね。ただ扉があるだけってこともあるのかも」

 

 それこそ謎な気もするが。

 

 そうであったとしても何もおかしくはない。

 

 この世界では二人の常識など一切通用しないのだから。

 

 蛍は、ここからあのドアへの距離を目測で計算してみた。

 

 頑張って飛べば扉には何とか届きそうな気はする。

 

 ただそれには地面というか、風車の壁をちゃんと蹴って飛ばないといけない。

 

 それは紐なしでバンジージャンプをするようなものだったのだから。

 

(ほとんど自殺行為なんだよね)

 

 想像するだけで足のすくむ思いがする。

 

 もちろんこんな事は燐だって未経験だったし、それにチャンスは一度きりしかないだろうから、否応なしに慎重にならざるを得なかった。

 

「とりあえずさ、わたしが先にいってみるよ」

 

 燐は軽く深呼吸したあと、蛍の方をまっすぐに見つめる。

 

「ちょっと待って、燐」

 

 そういうだろうと思ったのか、蛍は燐の目を見ながら首を横に振った。

 

「燐が行くっていうなら、わたしも一緒に行くよ」

 

「で、でもっ」

 

「大丈夫。とは、とても言えないけど」

 

 燐が言い終わる前に、蛍が言葉を続ける。

 

 落ち着いた声色であったが、蛍の心臓はばくばくと早鐘を打っていた。

 

「でも、燐と一緒だったら……! それに一人でこんな所に取り残されるほうがよっぽど怖いもん」

 

 そう言って蛍は人差し指を燐の小さな唇にちょんと当てた。

 

 燐は呆れた顔でため息をつく。

 

「分かったよ、でも」

 

「何?」

 

「わたし、この手は絶対に離さないからっ」

 

 そう言って燐は蛍の手をぎゅっと握った。

 

「燐、わたしもだよ」

 

 蛍も痛いぐらいに手を握り返す。

 

 二人は手を固く握り合わせたまま、風車の端に立つ。

 

 どこからか流れてきた風が柔らかく二人の頬を撫でていた。

 

 ……

 ……

 

「ごめんね」

 

 蛍は長い黒髪を手でさらりと梳かすと、燐から戻してもらった刀を風車の下へと投げる。

 

 何か想いとかがあったわけではないのだが、ひとこと言っておきたかったのだ。

 

 それなりに役に立ったわけだし。

 

 けれどもう、こんなのに頼る必要はもうないと思ったからあっさりと投げ捨てたのだ。

 

 刀を落とした瞬間、ちりんと鈴の音のような音が小さく鳴った。

 

 でもそれは少女の耳には届かなかった。

 

「やっぱり、ドアの下に透明な床とかがあるわけじゃないんだね」

 

 軽く落胆した様子の蛍。

 

「何も先に投げなくてもいいのに。勿体ないよぉ」

 

 そう言って苦笑いする燐だったが、燐も折れた鉄パイプを下へと投げ捨てていた。

 

 期待していたというわけではないけれど、一縷の望みとばかりに投げてみたのだったが。

 

 ある意味予想通りに、二つともそのまますとんと落下していってしまった。

 

「映画みたいな展開は流石になかったみたいだね」

 

 その映画では、その辺の砂をかけて隠れた道を見つけ出していたようだけど。

 

 そもそも道が無いのだから見つけようがなかった。

 

「じゃあ、行こう蛍ちゃん!」

 

「うん」

 

 二人はしっかりと手を握り合う。

 

 このまま溶けてくっついてしまえばいいのにと思うほど強く握り合った。

 

 きっとどんなことになっても後悔なんてない。

 

 蛍と燐は同じ方向を見ながら駆けだしていた。

 

 その背後ではあの化け物がゆっくりと迫る。

 

 少女たちは振り返ることなく走り続けると、風車の端から目的の場所目掛けて飛び出した。

 

「じゃあ、いっせーのっ!」

 

 蛍の掛け声で、躊躇いもなく空中へと身を躍らせる。

 

 体が外へと出た瞬間、ぶわっと全身が風に包まれた。

 

 浮遊感を感じたと思った瞬間、一気に加速していく。

 

 瞬きするよりもずっと落下の速度に声すらもでない。

 

「……っ!!」

 

 燐は懸命に手を伸ばす。

 

 飛び降りる瞬間、燐がイメージしたのはビーチフラッグの競技だった。

 

 あの要領でドアを掴めば何とかなる。

 そう思って指を飛び出さんばかりに伸ばした。

 

 いっそのこと、体ごとドアにぶつかるつもりであったが、憶測が誤ったのか、それは精々指先がドアノブに掠める程度で。

 

 燐の細い指がドアの金属部分に一瞬触れただけで、ドアノブを掴み損ねてしまった。

 

(あっ……)

 

 失敗してしまった。

 燐はかっと両目を見開く。

 

 その目は真っ赤になっていた。

 

 意見を押し切ってでも、ひとりで行けばよかった。

 

 そうすれば落ちるのは自分一人ですんだはずなのにと。

 

 蛍ちゃんごめん。

 

 本当に、ごめんなさい。

 

 後悔はないと言ったばかりだったのに、それは嘘となってしまった。

 

 ぽろりと雫が上へと流れおちていく。

 

 何故かその様子を燐ははっきりと見て取ることができていた。

 

 後はもう落ちるだけ。

 それだけだったのに。

 

(あれ……)

 

 何故だかその時が訪れない。

 

 落ちていくはずの体が止まっている。

 

 どこに引っ掛かってくれた?

 もう掴み損ねたはずなのに。

 

 不思議に思った燐が首を傾げようとした時だった。

 

「り、燐っ……大丈夫……っ」

 

「ほ、蛍ちゃん!!??」

 

 俯いていた燐がぱっと天を振り仰ぐ。

 

 ぴんと手を伸ばした蛍が扉のドアノブに掴まっていた。

 

「蛍ちゃん!!!」

 

 燐はもう一度呼びかける。

 

 蛍からの返事はない。

 

 それだけ困難な状況なんだろう。

 

 それは当然だと思う。

 

 片手でドアノブにぶら下がり、もう片方の手は燐の手を握っているのだから。

 

(蛍ちゃん……)

 

 ずきずきと胸が痛くなる。

 

 燐は泣き笑いのような表情で、懸命に耐えている蛍の顔を見つめていた。

 

(手を伸ばしてみたら、なんとか掴むことができたみたいだけど……)

 

 そこからどうすることも出来ない。

 

 蛍は、指一本動かすことすら困難になっていた。

 

 だが。

 

(お願い……! ドア開いてっ……!!)

 

 蛍は扉を何とか開けようと足をばたつかせる。

 

 足が燐にあたってしまわないだろうかと思ったが、それを気にする余裕すらなくなっていた。

 

 必死の願いも空しく、ドアはびくともしない。

 

「はぁ、はぁ、そんな……!」

 

 今の行為だけでかなりの体力を消耗してしまった。

 

 こうして、片手で掴まっていることですら奇跡に近いことなのに、余計なことをしてしまった。

 

 汗で指が滑ってしまわないだろうかとヒヤヒヤしてしまう。

 

 それよりももう体のほうがもちそうにない。

 

「蛍ちゃん! もういいから手を離してっ!!」

 

 燐が悲痛な叫びを下からあげるも、それすらも蛍の耳には届いていない。

 

(どうしよう、もう……)

 

 体がバラバラになってしまいそう。

 

 痛くて、くるしくて。

 

 でも。

 

 どちらの手も離すわけにはいかない。

 

 ドアはともかく、自分の身体なんかよりも、ずっとずっと大事な人の手を握っているのだから。

 

 何と言わようとも、自分から手を離すなんてことは絶対にするつもりはなかった。

 

 頭では、そう理解しているのに。

 

「痛っ……!」

 

(腕が……千切れていっちゃう……!?)

 

 痛みで気を失いかけそうになった。

 

 限界がもう近いのだろう。視界がちかちかと光り、ぼやけていくようになっていく。

 

「ご、ごめん、燐……わたし、もう無理かも……」

 

 最後の力を振り絞るように、蛍は謝罪の言葉を口にした。

 

 もうこれぐらいしかできない。

 

 ドアに辿り着ければなんとかなると思っていた。

 

 この、青いドアさえ開けられれば。

 

(力が……絶対的な力があれば……!!)

 

 燐だけでも守れることができるのに。

 

 わたしは相変わらず何も持っていない。

 

 何一つ持てていなかったんだ。

 

「大丈夫だよっ、蛍ちゃん! わたしは、自分で何とかできるから」

 

「えっ、燐!?」

 

 何が起こったのだろう。

 燐の顔がいきなり目の前にあったのだ。

 

 指先の重みが少し消えている。

 

 それは燐が繋いだままの手を持ち上げてくれていたからだった。

 

「燐、どうやって? まさか……!?」

 

 本当に”天使”になったってわけじゃ。

 

 困惑顔の蛍がちらちらと自分の後ろの方をみていたようなので、燐は困った表情で苦笑いした。

 

「あぁ、何かね。何とかしなきゃって思ってたら、突然この尻尾がぐるぐるって回って……ほら、それで飛ぶことができたみたいなの」

 

「ほ、本当だ」

 

 どういう原理でそうなっているのかは全く分からないが、まるでプロペラのようにくるくると、燐のしっぽが回っていた。

 

 燐は自分のお尻で回り続ける尾をみながら、呆れたような顔つきとなっていた。

 

 この尻尾にそんな能力? みたいなのがあるとは思わなかった。

 

「本当に凄いね……」

 

 感心した様子の蛍ではあったが、その口はあんぐりと開けたままになっていた。

 

「ゲームのキャラでいたよね、こういうの」

 

 しかもそれも狐のキャラだったような気がする。

 

 前かがみの態勢でヘリコプターのように浮いているぶるぶる燐を見るとますますそう思ってしまった。

 

「全くふざけてるよ。こんなの悪趣味っていうかさ、バカみたいじゃん」

 

 空を飛んでいるという、誰もが羨む事をしているのに、燐は眉を寄せてため息をついていた。

 

 それが滑稽であったのか。

 

 蛍は苦痛もも忘れて噴き出していた。

 

「でも、そのおかげで助かったわけじゃない、だったら感謝しないとね」

 

「こんな姿になったってことに? 神様だってしないでしょこんなの」

 

 そう言って肩を竦める燐を見て、蛍はようやく笑顔となった。

 

 ……

 ……

 

「じゃあ、開けてみるね」

 

「うん」

 

 蛍と燐は再び顔を見合わせると、それぞれがドアノブを握る。

 

 青いドアには金属製のドアノブが二つ付いていて、両開きの扉となっていた。

 

 少女達は同時にドアノブを回す。

 

 がちゃりと音がして、呆気なく扉は開いた。

 

 そして、中の様子を確認することもなく、二人は開けたドアの中へとそのまま飛び込んでいく。

 

 二人の少女を飲み込んだ扉は音もなく閉じると、空からふっと消えてなくなっていた。

 

 

「……」

 

 消えていった扉のさらに上の空で、白い何かが留まっていた。

 

 そいつは何もすることもなく、ただ黙って見ているだけ。

 

 ただ前のものとは少し姿が変わっているようだった。

 

 二人がそれに気づくことは無かったようだが。

 

 ……

 ……

 ……

 

「あんな風に空が飛べるんだったら、燐が下まで下ろしてくれても良かったのにね」

 

「もうー、蛍ちゃん。またそのことを言うのっ。わたしだってしたくてしたわけじゃないのにさ」

 

 燐と蛍はドアの先に続いていた道を歩きながら、とりとめのない話をしていた。

 

 実際、ここはこれまで見てきたどの世界よりも平坦で単調すぎる。

 

 床や壁はあっても他にはなにもない。

 

 無機質な廊下がだらだらと続いているだけ。

 

 他に目に付くものがないから、余計にそう感じてしまう。

 

 なので、二人のおしゃべりが弾んでしまうのも必然だといえた。

 

「ねぇ、燐のその尻尾ってそんな自由に動かせるものなの?」

 

 やはり蛍は気になるようで、しきりに燐のしっぽだけを見ている。

 

 あんなのを見せられたら気にしないほうがおかしいのだろう。

 

「うー、さっきみたいなのはもうできないとは思う」

 

「そうなんだ、そういうのって分かるものなの?」

 

 試しにと、ふいに立ち止まった燐が両手をぎゅっと握って力を込める仕草をみせた。

 

 蛍は少しどきどきとしながら様子を見守る。

 

 しばらくすると、燐の狐のしっぽがゆらゆらと左右に揺れていたが、さっきみたいにぐるぐると回るようなことはなく、燐も普通に床に脚をついて立っていた。

 

 燐の言うように、もうしっぽで飛ぶようなことは出来ないらしい。

 

「もしかしたら、他にも何か能力があるのかも」

 

 ふむふむと関心するようにつぶやく蛍。

 

 燐は呆れたように小さく肩をすくめた。

 

「こんなの早くなくなってほしいよぉ。もう夢なら早く覚めてーっ!!」

 

「夢って」

 

 この期に及んで燐はまだそんなことを言っていた。

 蛍は少し気の毒に思いながらもくすっと笑ってしまう。

 

 だが燐は本気らしく両手を挙げて懇願していた。

 

「可愛くて便利な耳としっぽじゃない。いいなぁ」

 

 蛍は自分も欲しいみたいに燐のしっぽを羨望の眼差しで見つめていた。

 

「蛍ちゃんにだってあるじゃない」

 

 燐が蛍のお尻の辺りを指差す。

 

 確かにそこにはウサギのしっぽを模したような、白い綿毛が付いてはいるが。

 

「これ? こんなのは作り物だから。わたしも燐みたいな()()が良かったなぁ」

 

「いやいやいや、これだって本物じゃないから」

 

 燐は両手を振って否定した。

 

「でも、動いてたよね?」

 

「それでも違うもん!」

 

 あれだけのことをしても燐は頑なに否定し続ける。

 

 アイゼンティティとかそういった尊厳みたいなものを大切に思っているのかもしれない。

 

 色とか柄が気に入らないのかもしれないけど。

 

「そうなの? それでもいいじゃない、可愛んだから」

 

「蛍ちゃんは可愛ければ何でいいわけぇ? だったらその衣装だって可愛いと思うんだけど」

 

 燐がそう言っても蛍はバニーの衣装が気に入っていないらしく、困った顔になっていた。

 

「そういえば、蛍ちゃん。わたしのお母さんの話が聞きたいんだったっけ?」

 

 今の蛍には何を言っても無駄だろうと思ったのか、燐は少し強引に話をもとに戻した。

 

「あ、うん。”咲良さん”のどこを燐が好きかって話」

 

 咲良とは燐の母親の名前で、蛍とも仲が良い。

 それはいいのだが。

 

 元々そんな話だったっけ。

 

 燐は眉をよせてぼそっとつぶやく。

 

 蛍はうんうんと首を上下させて頷いていた。

 

「まあ、どっちでもいいけどね。えーと、そうだなぁ」

 

 燐は腕を軽く組んでぽつぽつと話しだした。

 

「そうだね。お母さんは、割と器用なんだよね。一人でなんでも出来ちゃうって言うか、なんにでも首をつっこみたくなるタイプ?」

 

「そういう頼れるところが燐は好きなの?」

 

「好きっていうか……行動力があって決断に迷いがない。それはまあ、参考にはなるけどさ、尊敬してるかっていわれたら、うーん」

 

 燐は自分で言った言葉にうんうんと唸っている。

 

 どこか認めたくない気持ちがあるらしい。

 

 それは親子としてのものなのかは蛍にはよく分からなかったが。

 

「燐も、割と素直な方じゃないよね。やっぱり母親だから照れてるのかなぁ」

 

「そんなこと……これでも褒めてるつもりなんだよ、結構」

 

 不満そうに燐は頬を少し赤くさせる。

 

 蛍は声を出して笑っていた。

 

「じゃあ、お父さんの方は? ()()お父さんのことはまだ好き?」

 

 蛍はまだ続けるつもりのようで、質問を変えて問いかけてくる。

 

 この質問に何の意図があるのかと燐は思ってしまうが。

 

 あまり深く考えずに蛍の質問に答えることにした。

 

「お父さんは……う~ん、やっぱり嫌いにはなれないかなぁ。これは多分ずっとそうだと思うよ。まあ、最低ヤローかもしれないけど」

 

 離婚までして家族を捨てた人だけど、それでも完全には嫌いにはなれそうにない。

 

 幼いときの楽しかった記憶があるせいなのかもしれないけど、それだけじゃないというか。

 

 数か月に一度、会う機会があるけど、向こうはもうこっちの家庭のことなんかそれほど気にしていないみたい。

 

(普通に、今の奥さんと一緒に会いに来るぐらいだしね)

 

 後数年もしたら、もうお互いに会わなくなるのだろうと思う。

 

 それだけ自分の生活の方が大事というか、そんなもんだと思うし。

 

 いつまでもみんな同じであるはずなんかないだろうから。

 

「っていうか、これってアンケートか何かなの? さっきからわたしばっかり質問されてるけどさぁ」

 

 やや拗ねた口調で燐がそう抗議をしてくる。

 

 蛍は慌てて首を横に振ると。

 

「そんなつもりないよ。最初に言ったようにただちょっと聞いてみたかったってだけで」

 

「それ本当のことなの~? 蛍ちゃん~、ちゃんと白状してよぉ」

 

 顔を寄せて詰めよる燐に、困り顔の蛍がたじたじになっていた。

 

「えっと、じゃあ、今度は燐がわたしに何か質問してみてよ。お詫びに何でも答えてあげるから」

 

「何でも? そうだなぁ……蛍ちゃんが答えられなさそうなことっていったら」

 

「ふふふっ」

 

 

 自分たちは今どこに居るのだろう。

 

 そんなのが気にならないほど楽しいのはきっと。

 

 あなたが傍にいるから。

 

 心からそう思う。

 

 ずっとずっと。

 

 このままでいいのに。

 

 

 ──

 ──

 ──

 





バトルランナー。

スティーブンキングの小説をもとにしたアクション映画……で合っているはずです。アクション多めだと思いますし。
この映画を初めてみたのは、小さいときに家族で行った保養所に置いてあったレーザーディスクなんですよねー。片面しか読み取れないものだったので、映画の途中であのデカいディスクを手動でひっくり返すのに手間取った覚えがありますねー。

映画の設定は2017年のディストピアな世界観になっております。無実の罪を被せられた主人公が殺人テレビショーに参加させられて、凶悪で個性的な相手と戦っていくという、対戦ゲーム的な内容が今でも気に入っています。まあ、主演がシュワルツェネッガーなので負けるはずがないんですけどねー。
今で言うフェイク動画みたいなのを、この時代の映画でやっているので、先のテクノロジーを予言していたとも言えますねー。

シュワルツェネッガーって言うと、ターミネーターシリーズやトータルリコール、コマンドーなどをあげる人が多いと思いますが、私はこのバトルランナーをお勧めしますねー。ちょっとマイナーかもしれないですが。





どうやら、”青い空のカミュのパッケージ版”がプレミア化しているみたいですねぇ。

中古が定価よりも高値で売られているケースもあるようですし、店舗によっては1万円を超える価格で売られているみたいですねー。
というのも美少女ゲーム界隈自体がそんな感じになってきていると言いますか、DL販売が多くなってきている影響や美少女ゲーム市場の縮小が影響しているみたい? 全部が高騰しているわけではないみたいですが。
自分のPCもそうなんですが、パッケージ版を買っても肝心のディスクを入れるドライブがついてないんですよねぇ。だから需要という面で言えば少ないとは思うのですが。やはりコレクター向けなんでしょうか。それかよほどの美少女ゲーム好き向けと言いますか。レトロゲームなんかもそうですけど、箱を並べて飾るのが好きなひともいますからねえ。

美少女ゲームでプレミア化しているソフトはシリーズ的に人気のものや、カルト的な人気のあるものなんかが多いように見受けられますねぇ。

青い空のカミュもカルト的な人気があるということでしょうかねぇ。まあ、確かに自分のような熱狂的な信者もいるので間違いではないんでしょうけれどもー。

それとシナリオ的に優れている作品が多い感じもします。
エロゲなのにエロではなくてシナリオの方なのは何ともいえない感じですが。

昔タイトルに釣られて買ってしまった某美少女ゲームが、今、超プレミアゲームになってるみたいで買取価格を見て驚愕しちゃったんですががが!? もう手元にはないのですが、そこまでのゲームではなかったはずなんですけどね~。中古ゲームの相場は本当に謎です。

最近、青い空のカミュの良さに気付いた人が、DL版だけでなくパッケージ版を買い求めた結果でプレミア化してしまった……のだと思っています!

都合の良い考えだと自分でも思っていますが、”青い空のカミュが好きな人に悪い人はいません!!”ということで。


ではではでは~~。




 
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