We are born, so to speak, twice over; born into existence, and born into life.   作:Towelie

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 ここには、大きな水溜まりと白い線路。
 それと、誰もいないプラットフォームがあった。

 その横には”青いドアの家。

 それ以外には何もない。

 空は青くどこまでも澄み渡っていたが、ここには温度も風もなく、まっさらな静謐な空間。

 そのはずだったのだが。

 一軒しかない家の中では、賑やかな声で溢れていた。

 声というか咀嚼音だろうか。

 むしゃむしゃ。ぱくぱく。

「よほど、お腹が空いていたようね。全部食べるつもりなのかしら」

 くまの食べっぷりにさすがのオオモト様も驚いた顔となっていた。

「まぁね」

 食べることに必死だった()()は、返事を返すことすらもどかしいのか素っ気なく言うと、口いっぱいにドーナツを頬張った。

 オオモト様は両手にドーナツを持っているくまを見ながら、緑茶が入った湯飲みに小さな唇を付けた。

 白い犬の姿はここにはなく、”青いドアの家”の玄関の前で座り込んでいた。

 珍しいことなのよ、とオオモト様は言っていたが。

 サトくんがそこにいる理由は二人にも分からないものだった。

「あんまりにもさ、お腹が空きすぎちゃって、つい耳を食べちゃいそうになってぐらいクマ」

 食べながら奇妙なことを言い放つ”くま”。

「耳……?」
 
 オオモト様は首を傾げながら、短く切り揃えた黒髪の下の耳朶に手で触れていた。

「それでさ、こんなでボクの事を見ていたっていうのかい? ”ざっきぃ”は」

 がうがうがう。
 ごくん。

 数十個目かのドーナツをすっかり胃の中に収めたくまが不思議そうに尋ねた。

「ええ、そうよ」

 オオモト様はくまのカップにおかわりのお茶を注ぎながらそう答える。

 花柄の白いティーカップからは紅茶ではなく、爽やかな緑茶の香りが漂っていた。

「ふぅん、こんなものでねぇ」

(ボクには、古ぼけた鏡にしか見えないんだけど)

 オオモト様が熊耳の少女に手渡したのは、その手の中にでもすっぽりと収まる程度の小さな丸い手鏡だった。

 これで見ていたというのはどういう意味なんだろうか。

 くまが鏡を見ながらそう疑問に思っていると。

「それは”浄玻璃(じょうはり)の鏡”と言うものらしいわ。何でも、この鏡に映し出された者の善悪なんかが分かるみたいね」

「それが、これクマか? そんなご大層なものにはボクには見えないんだけど……」

 普通に店とかでありそうな感じ。

 くまは訝しげに眉を寄せた。

「それにさ、浄玻璃の鏡って言ったら地獄の閻魔様が持っているっていうものなんだろう? どーしてそんなものがここにあるのさ」

「そうね。それはわたしにも分からないことだわ」

「……」

 まさか、座敷童(ざっきぃ)が閻魔というわけはないだろうし。

 そういえば、あのホラ吹き河童のやつからも、こういうものがあることをくまは聞いたことがあった。

 アイツは色々な情報を集めるのを趣味にしているから、無駄に知識だけはあるけれど。

 内容の精査をしないもんだから、周りからはホラ吹きと呼ばれていた。
 本人もそれを否定しないところを見ると、面白がっているんだろう。

 ホントもウソも河童連中には同じもんなんだろうが。

(さて、これは本物なんだろうか)

 浄玻璃の鏡──この鏡の前ではなに一つ隠し通すことができないということ。

 良いも悪いも全てが”つまびらか”となってしまう。

(よーするに、何でも視ることができるということか)

 それを願ってさえいれば。

 話には聞いていても実際に見るのは初めてだから、くまはもの珍しい目で浄玻璃の鏡をしげしげと眺めた。

 だがすぐに難しい顔となる。

「見たところ普通の鏡にしかみえないんだけど……?」

「そうかしら」

「露店でいくらだったクマか? 千円じゃさすがにちょっとねぇ」

 くまはわざとそう惚けた風に言って、丸い鏡面の中を覗き込む。

 そこにはもちろん、覗いている少女と熊耳と背景しか写っていない。

 ”鏡”なのだからそれは当然なのだけど。

 ちょっとだけ期待していたから拍子抜けした。

(まあまあ、綺麗な鏡だとは思うけどさ、それだけって感じ)

 ただ、鏡の裏面に描かれている、月と水が交わるような模様は何なのだろう。

 そんな素朴な疑問が残るが、他は何というか普通の鏡だった。

「やれやれ妖怪って奴は、嘘を吐くか何か騒ぎでも起こさないと駄目な生きものなのかねぇ」

 そう言って溜息をついた。

 いい加減、鏡越しに自分の顔を眺めてることにも飽きたのか、くまはテーブルに鏡を置くと、手を頭の後ろに回して細長い足を折り曲げてソファーの上で胡坐をかいていた。

 こんなもので隠されていたものが見えるというのなら、楽なもんなんだろうが。

「それにね。鏡は魔除けにもなるのよ」

「魔除けねぇ……」

(意味を分かって言っているんだろうか?)

 くまは軽く肩をすくめると、訝しげに手の中の小さな鏡をしげしげと見つめた。

 滑稽すぎて、つい変な笑いが出てしまう。

 自分たちのような化け物みたいなものがと。

 しかし何か変な感じというか、こうして鏡を見ていることに既視感みたいなものを覚えるのは、多分。

(そういえばあの時、蛍が鏡を探していたようだけど……)

 もしかしてこれこそが、その探していたものだったのだろうか。

 必死に探してたようだったから、少し気の毒な事だとは思う。

「でも、確かにこれであなた達のことを見ていたのよ。けれど()()は今ここにいるわ」

「だから見えないってこと? だったらあの二人の方は?」

 その理屈なら、ここには居ない”燐”と”蛍”のことが鏡に映るはずだが。

 そう心に願って覗き込んでみても、鏡面にうつるのは目の前の対象物だけ。

 やはり特別な感じなんて見あたらない。

 変なボタンとかは鏡にはなかったし、鏡面の隅にも異質なものが映っているとかもなかった。

「そうね、あの子たちはね」

 オオモト様は息を一つ吐いてゆっくりとしゃべりだす。

「さらに奥の方へと行ってしまった。この鏡を持ってでも追えないようなところに」

 そう言って悲しそうに目を伏せるオオモト様。

 それを見てくまははっとなる。

 何でも見えるものなのに、見えないってことは……?

「それって、ふたりはもう天国にいるとかじゃないよねぇ!?」

 焦り顔のくまがオオモト様に問いただす。

 黒髪の少女はゆっくりと首を横に振った。

「それは大丈夫よ。彼女たちに限ってあなたが心配するような事にはなってはいないから」

「ああ、そう……それならいいクマだけどね」

 どこまでのものの発言なのかは分からないが、それでもくまは安堵したようにほっと胸を撫でおろしていた。

「あの子たちのことがそんなに気になるの?」

 柔らかい声色でオオモト様が問いかける。

 くまは大きく開きかけた口を一旦閉じると。

「気になるっていうかさ……やっぱりどうなったか気になるじゃないか。それなりに知っている間なわけだし……クマ」

 そう言ってくまは恥ずかしそうにぽりぽりと鼻をかいた。

 その頬が少し赤味を帯びていた。

 あからさまな様子のくまを見て、オオモト様は小さく微笑んでいた。

 ……
 ……

「それにね、あなた達を追っていたものは、この鏡をもつものと等しい存在なのよ」

「……等しい??」

 座敷童が言っていることが一瞬、くまにはわからなかったが。

(鏡を持っているものと同じってことは……それはつまり)

 見る見るうちにくまの顔が真っ赤になる。

「あんな化け物が”神”だって言うのかい!? そんなの嘘クマじゃん!」

 そう言うくまの言葉には語気がにじみ出ていた。

「神とまでは言っていないわ。ただ、強い存在ほど近しい存在になると言っているだけで」

「そんなの同じ意味じゃないかっ! ボクは絶対に認めない……あんなものが神なんて……そんなもの存在するはずがないんだ!」

 がたん!
 興奮したくまがテーブルを叩く。

 あんなのが神なはずはない。
 むしろ悪魔の方に近い。

 その勢いでテーブルが壊れるようなことは無かったが、サトくんがぱちりと目を覚ますほどの衝撃が外にまであった。

 慟哭のようなくまの叫びにオオモト様は静かに口を開く。

「そうではないのよ。神に近いといっても全能というわではないの。けれど世界を終わらせるということは必然的にそういう事になってしまうのよ」

「すべてはオカルトだと言ったら、それまでなのかも知れないけれど」

 そう言ったあとでオオモト様は少し複雑な表情をしていた。

「ボクには、オカルトだとか概念はどうでもいいよ。ただムカつくやつをぶちのめしたいってだけさ」

 ばらばらにしてもいいぐらいに。

 くまはクラゲにしてやられたことを思い出したのか、食べかけのオールドファッションを口内に乱暴に放り投げた。

 同じ形のドーナツしかないことに最初くまは不満をあげていたのだが、背に腹は代えられないのか、もう気にする様子もなくドーナツを食べまくっていた。

 オオモト様は小さくため息をつくと、シンプルな柄の湯飲みを見つめた。

 オールドファッションとグリーンティーとの相性は意外にも良かった。

 それでもオオモト様が食べたのは精々一つぐらいで。
 後のすべてはくまが一人で食べていた。

「全く忌々しいったらないよ。あの化け物クラゲが神で、それが世界を終わらせるだなんてさぁ……!」

 ほんとうに世も末だ。

 吐き捨てるようにそう呟くと、くまは新たなドーナツを手に取っていた。

 同じ味のドーナツしかないのに中々空きが来ないのは、単純に美味しいからだ。

(終わりになったらもう食べられない……そんな事も分からないのか、あのクラゲ)

 生きるっていうことを軽視しているから、そんなことを考えてしまうんだろう。

 このドーナツだってそうだ。

 美味しいから食べる。
 まずかったらもう食べない。

 それだけのこと。

(世界をおわらせるってことは、何でも喰らうってことじゃないのか)

 それだけアイツは空腹に飢えているってこと?

 それとも、その概念すらもないのか。

(満たされるまで喰らい尽くすって……それこそ餓鬼じゃないか)

 ぜんぶ丸ごと食べて、そのあとは?
 
 一度終わらせたものは、もう元には戻らない。
 どんなに願っていても。

 悲しいことだとは思うけれど。

 くまはそんなことを考えながら、カップの中身をがぶっと飲み干した。

「相変わらず豪快なのね」

「それって”熊”っぽいっていう意味クマか?」

「ええ」

 小さく頷くオオモト様とは対照的に、いつの間にか家の中へと戻ってきたサトくんがソファの端っこで呆れ返った表情をしていた。

「結局さぁ、ボクたちはどうしていればいいわけ? クラゲをやっつけに行くわけじゃないんだとしたらさ……」

「待っていることしかないわ。燐と蛍が戻ってくるのを、ここで」

「うーん、それだけクマか」

 煮え切らない表情でくまはリビングの中を見渡す。

 お腹も膨れたことだし、そうなるといよいよ眠気がやってくるわけなのだが。

「ふわっ」

 早速浮かんできた欠伸を噛みころす。

 このまま寝てしまえばとても気持ちがいいだろうと思う。

 でも。

(ボクはまだ何もしていないんだよね。こっちに来てからなにも)

 このまんまじゃ、ボクの野生の面目が丸つぶれになる。
 
 何の為にこんなところにまで来たのか。

 河童の奴に唆されたんじゃなくて。

 くまは初心を思い出すべく、ソファの上で胡坐をかき、軽く目を閉じて考えることにした。
 そのつもりなのだが。

「ぐぅ」

 秒でいびきをかいてしまい、くまは心底恥ずかしそうにごしごしと口を手で拭った。

「傷が治ってないのでしょ。もう少し休んでたほうがいいわ」

「えっと、うん……」

 オオモト様に心配されていることに、余計に恥ずかしくなった。

 この変な世界では自分は役に立たない。

 せめて世界の構造でも解かればと、くまはそう嘆息する。

 構造ねぇ……そう言えば。

 不意に頭に思い付いた事柄をオオモト様にくまは投げた。

「ねぇ、キミって二人いるってわけでもないんでしょ?」

 その質問にオオモト様はぱちっと目を瞬かせた。

「おとなの姿のキミと、子供のキミが存在しているってことでいいクマか」

 今は子供の姿のようだが。

 蛍と燐から聞いた話だと、何かのタイミングで切り替わるものだと思われているらしいが。

 まさかの”どっぺるげんがー”とか?

 オオモト様は白い指を唇に乗せると、少し悲し気に言葉をつくる。

「わたしにだって、良く分かってないのよ。自分が何者であり、何処から来たなんて事は」

 それは本当であるらしく、細い眉を寄せてでまっすぐにこちらを見ている。

 動揺というか、困惑した様子で。

「そういうのって自分じゃ認識できないっていうクマね。他者がいて初めて自分が分かるっていうか。同じだと思ってたことが、実は全然違うことだっていうのはよくある事だよ」 

「それは、そうかもしれないわね」

 小さくそう言うと、オオモト様はくすりと微笑む。

「どっちかが偽物ってわけでもないんだろう?」

「それはそうだと思うわ。どちらも()()()よ。もう終わってしまったけれどね」

「ふむ」

 くまはそれに意見することなく静かに頷いた。

 曖昧な言葉だとは思うけれど、そこまで気になることでもない。

 現時点ではそれで何か問題が起きているとかではないし。

「あ。ねぇ、もう一つだけ聞きたいことがあるんだけど」

「何かしら」

 まだ聞き足りないのか、くまは背もたれに背中を預けたまま手を頭の後ろに回す。

「蛍がさあ言ってたんだけど、この青いドアの家というか、こっちの世界に留まるには何か条件があるんだって言われたんだけど」

「それって、ボクはどうなのかなって?」

 少し気になっていたことだった。
 
 条件というのは具体的に何を指すのかは知らないが、それがないと勝手に元の世界に戻されるらしい。

 それは良いことのように思えるけれど。

「そうね。あなたは」

 オオモト様は軽くテーブルに手を乗せると、くまの瞳を覗き込むように顔を寄せた。

 くまの目の前に白い人形のような綺麗な顔があった。

 そしてしばらく見つめると、小さく口をあけた。

「くまは大丈夫よ。あなたも居たいだけこちらにいられると思うわ」

「そう、クマか」

 何故だかくまの声のトーンがいつもよりも下がっていた。

 腑に落ちないみたいに、顎に手を乗せている。

「あのさ、その”条件”って何なのクマ。良かったら教えてくれない?」

「それを聞いてどうするつもり」

「どうとはしないけどさ、ちょっとモヤっとするから」

 曖昧な顔でくまはそう言った。

 実際、そうなのだから仕方がない。

(カッパの悪い癖がうつったんだろうか、この世界のことなら何でも知りたくなっちゃう)

 予想もつかない事ばかりが起きているせいかもしれない。

 あの山に居たら分からなかった事が目の前で次々と起きているのだから。

「この世界にいられる条件。それは一つだけなのよ」

 オオモト様はリビングの窓から青い空を眺める。

 変わらない景色が変わらずに流れていく。

 もう幾度となく見ている景色のはずなのに、いつだって綺麗と感じることができている。

「もう、終わったはずの景色なのにね。それもあの子達のおかげなのかしら」

「?」

 民子は何を言っているのだろう。
 くまは不思議そうに小首をかしげていた。

「えっと」

 彼女が自分の世界に入っている気がして声を掛けそびれてしまったくまだったが。

 遠慮がちに口を開く。

 妖怪と呼ばれるものは、浮世離れしているからだと言っていたが。それは間違いないだろう。

 自分も民子も人の常識には到底当てはまらない。
 
 だからこその人外扱いなのだろうが。

「でも、あなただってもう知っているのよ? この世界の条件を」

 突拍子のない事を言われてくまは慌てて自分のことをゆびさした。

「ボクが? ボクは知らないからキミに聞いたんだけど」

「いいえ、くまはもう知っているはずよ。だってあなたはわたし達とそう変わらないのだから」

「変わらないって」

 それは同じ妖怪という概念だからだろうか。
 それとも何か別の。


 見つめ返す少女の緋色の瞳が、小刻みに揺れていた。

 ……
 ……
 ……
 


Liminal Space

 

 燐は蛍の手をそっと握る。

 

 この先何があってもこの手が離れていかないよう、しっかりと握ろうとしたのだったが。

 

(あれ……蛍ちゃん……?)

 

 蛍のその指の動きに少しの違和感というか、遅れのようなものを感じていた。

 

 拒絶されているとかではないのだろうが。

 

「燐。どうかしたの?」

 

 軽く目を見開いてこちらを見る燐に蛍は不思議そうに尋ねる。

 

「あ、うん。何でもない、かな」

 

 なぜか燐は難しい顔となっていたが、即座に苦笑いした。

 

「そう……?」

 

「それにしても、ここの廊下って本当に長いよね。こんなに進んでるのに果てが全然見えない」

 

「確かにね。廊下って言うかこれただの道だよね。どこまで続いているのか

分からないけど」

 

 真っ暗な廊下を燐と蛍はひたすら歩いていた。

 

 廊下には窓もドアもなく、非常灯のようなかすかな明かりが照らしているだけ。

 

 真っ黒い天井と、リノリウムのような硬い床からは、ここが何処かという情報が何一つとして見て取れなかった。

 

 何かしらの建物の中にいることは確かなのだが。

 

「何かさ、ここって」

 

「うん」

 

 小さく尋ねる燐に蛍は静かに頷く。

 

「工場とか、病院っぽい感じしない? 蛍ちゃんはどう思う」

 

「そうだねぇ」

 

 蛍は、薄い顎に指を乗せると、周囲を見ながら考え込む素振りを見せる。

 

 いろいろあって今は身長差のある二人だったが、それでも手を取り合ったまま何処とも分からぬ廊下をひたすらに歩いていた。

 

 カツカツと、蛍の履いている高いヒールの靴音だけが甲高く響き渡る。

 

 燐も固いトレッキングシューズを履いてはいるものの、体重が軽すぎてその小さな足音はかき消されていた。

 

 でも、それにももう慣れてしまった。

 

 いくら進んでも景色は変わらず、何とも出会うこともなかったのだから。

 

 時間ですらも止まっているように感じられた。

 

 動いているのは互いの鼓動と細い足取りだけ。

 

 それと二人のとりとめのない会話だけが、平坦な世界で留まることを忘れていた。

 

「わたしは、何か大きな船の中にいるみたいに思ってるの。でも大型船ってまだ一度も乗ったことはないんだけどね」

 

 そう言って苦笑した。

 

「それってもしかして、あの映画の船みたいなもの?」

 

「そんな感じかも」

 

「じゃあ、沈没しちゃうかもしれないね」

 

 燐は悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

「燐ならそう言うと思った」

 

 燐と考えが同じだったことが嬉しくて、蛍は頬を赤くさせて笑う。

 

 場所を示すようなものがないのだから、いくらでも想像することは出来るだろう。

 

 もっとも、正解などないものなのかもしれないが。

 

「もしかしたら変化してるのかもね。わたし達が気付いていないだけで。さっきからずっとおんなじ所をぐるぐる回ってるような気もするけど、これだって錯覚なのかも」

 

「まっすぐ歩いているはずなのになんか少し曲がってることってあるよね?」

 

「それ、わかるー。自分では普通に歩いたり走ったりしてるはずなのに、どっちかにちょっと傾くんだよね」

 

「教習所でそうだったよ。まっすぐ車を走らせてるつもりなのにいつの間にかずれて行っちゃう」

 

 ほんの数ミリ程度のずれであったとしても、自動車のようなもの運転する場合、思っていた以上のものとなってしまう。

 

 蛍が車の免許を取る際、その些細な()()にひやりとすることが度々あった。

 

「まあ、進んで行けば分かることだよね」

 

 進むべき道は一つしかないのだから。

 

 仮に曲がっていたとしてもそれには変わりはない。

 

(もしかしたら、なんだけど)

 

 蛍は燐に言おうかどうか迷いをみせたが、逡巡したのちゆっくりと口を開く。

 

「ねぇ、燐。これはその、仮定なんだけど」

 

「うん?」

 

 燐は蛍の方に振り向く。

 

 改まった蛍の言いぶりに燐は少し緊張感を覚えた。

 

「この世界って、燐が思い描いた世界なんじゃないかなって、ちょっと思ったの」

 

 言いづらそうにしながらも蛍は話を続ける。

 

「あ、でも、燐に押し付けているってわけじゃないから。何となくそう思ったってだけで」

 

「うん、分かってるよ」

 

 そう言って燐は苦笑いする。

 

 それはいつもとは違い、とても力のないものに見えた。

 

「ご、ごめんね、いきなり変なこと言っちゃって」

 

 燐の視線に耐えかねたのか、蛍はすぐに謝罪をした。

 

「もう。分かってるっていったでしょ」

 

「でも、燐に悪いこと言っちゃった……」

 

 今にも泣きだしそうに唇を震わせる蛍に、燐は軽く息を吐く。

 

「こっちこそごめんね蛍ちゃん。気を遣わせちゃったね」

 

 今度は燐が困った顔で、蛍に謝り返していた。

 

 それでも蛍は俯いたままこっちを向いてはくれない。

 

 燐は蛍の顔を覗き込むように、首を傾けて蛍の手をとった。

 

「あのね。ちょっと前に同じことを言われたことがあったから、驚いちゃっただけなの」

 

「そうなの? でも誰に」

 

 小声で尋ねる蛍に燐は頷いてみせる。

 

「まあ、くまちゃんにさ、ここはキミの世界なんだから何とかなるだろう、って」

 

「そっか、そんな事があったんだ」

 

 蛍は少し胸を撫でおろす。

 

「でも、わたしの世界って言われてもねぇ」

 

 視線を上にあげた燐が首を傾げる。

 

 その割にはそんな上手くいっているような感じはない。

 

 自分の世界だったのなら、何でも願いが叶いそうな気はするのだが。

 

 むしろ事態がどんどんと悪化しているような気がしてしまうのはなぜなのだろう?

 

(わたしが頑固で、融通が利かないからなのかな……)

 

 それだけみれば、今のこの世界の在り様にだってある程度は理解できてしまう。

 

 道がたった一つしかないのも、そういうことなんだと納得できるし。

 

 しかし、それ以外は正直よく分からない。

 

 つまり大多数が意味不明なのだから、やっぱり自分の世界ではないと思う。

 

(だったら何で、あんなことをわたしに言ったんだろう、くまちゃん……)

 

「そうだね」

 

「……蛍ちゃん?」

 

「くまちゃんが、そう言うのならきっと何とかなるんじゃないかな。わたしもそう思うことにするよ」

 

 ……

 ……

 ……

 

「ねぇ、蛍ちゃん……あれ分かる?」

 

「うん、何かあるみたいだけど……」

 

 二人は、顔を見合わせると声を潜めた。

 

 果てしない廊下がまだずっと続くのだろうと思っていた矢先のできごとだった。

 

 途中で道が途切れてしまったというわけではないのに、少女達はそこで立ち止まっている。

 

 呆然としたように口を大きく開けながら凍りついていた。

 

 実際に、信じられないものを目にしたのだから。

 

 こんな所にあるはずのないものを。

 

「これって、どうみても自販機だよね? 電気はついていないみたいだけどぉ」

 

 そう言って燐は四角い自販機の裏側へと回ろうとした。

 

 しかし、壁際にくっつくようにして置いてあったので、その裏がどうなっているのかを確認することができなかった。

 

 だが、こんな壁にコンセントのようなものがあるはずもないだろう。

 

 だからただ本当に置いてあるだけのようだが。

 

「やっぱり、買うことはできないみたいだね」

 

 ものは試しにと、蛍は自販機のボタンを適当に押してみたのだったが、当然なんの反応も示さなかった。

 

「まあ、お金だって持ってないしね」

 

 燐はスカートのポケットを広げるような仕草をみせる。

 

 蛍も困った顔で頷く。

 

「だったら、”自販機のオブジェ”って感じなのかなぁ? アート的な感じで置いてみたとか」

 

 燐もぽちぽちと、購入のボタンやお釣り用のレバーも引いてみるが、やはり何の手ごたえもない。

 

 既に壊れてしまっているのかもしれない。

 

「ねぇ、燐、こっちにも何かあるみたいだよ」

 

 そう言って蛍が手招きをしてきた。

 

「あっ、本当だ」

 

 それは自販機よりも少し離れた所にあった。

 

 ちょうど向かい合わせのような位置に置いてあったのだが。

 

「ねぇ、燐。これってさ、バス停だよね?」

 

「みたいだけど……」

 

「何か、このバス停に見覚えがあるような」

 

 蛍は不思議そうに首を傾げる。

 

 どこの田舎にでもありそうな、ベンチが一つ置いてあるだけの簡素なバス停が何故かこんな所にあった。

 

 どう見てもバスが来るような場所もないのに、当たり前のように置いてある。

 

 少しくたびれたバス停の標識を見た瞬間、蛍が困惑した声を出していた。

 

「これって、もしかして……!?」

 

「どうしたの蛍ちゃん?」

 

「ほら、燐見て……このバス停の名前」

 

 そう蛍に促されて、燐もそれを見ようとしたのだが。

 

「燐? 何か難しい顔してるみたいだけど……?」

 

「ちょ、ちょっとね」

 

(あぁ、もう……! いい加減、元に戻っても良くないかなぁ!?)

 

 燐は深いため息を吐くと、精一杯背伸びをしてそのバスの標識をようやく確認することができた。

 

「あっ!」

 

 それでようやく燐にも分かった。

 このバス停とは何なのかを。

 

「これって、あの小平口町にあったもの……」

 

 今の町の名前は大平口町だが、バス停の名前はそのままだったから。

 

「燐、それだけじゃないよ」

 

「ふえっ」

 

「あっちの自販機とこのバス停って、町での異変の時にわたし達が訪れた場所だったよね?」

 

「あ……」

 

 鳩が豆鉄砲を食ったような、呆気に取られた顔に燐はなっていた。

 

 思えば、確かにそうだった。

 

 どこにでもありそうな自販機はともかく、このバス停はあの町にあったものだ。

 

 ……レプリカ(にせもの)かもしれないけど。

 

 ふむぅ。

 腕を組んだ燐が呟く。

 

 何でそんなのがここにあるのかという疑問と、理由が結びつかないでいた。

 

「まさかここって、美術館(ミュージアム)とかじゃないよね? それとなくものが置いてあるけどさ」

 

「どうだろう。でもこんなのを展示しても、それこそ何の意味もないと思うんだけど」

 

「確かに」

 

 蛍と言う通りだと思うが、意味もなく置いてあるにしては整然としすぎているような気がする。

 

 ゴミ捨て場だったら、ただ放り投げてだろうし。

 

 捨てているいうよりも、見せるために置いている感じがした。

 

 誰に対してのものかは分からないが。

 

 そしてよく見ると、どちらの対象物も淡い明かりで照らされているのが分かる。

 

 スポットライトというよりも、間接照明のような淡い明かりで上から照らされていた。

 

 しかし天井には何もない。

 

 何がこれらに光を当てているのだろうか。

 

「もしかしてだけど、わたし達にこれを見てもらいたかったとか? 考えすぎなのかなぁ」

 

「うん……どうなんだろうね」

 

 こんなモノがある理由なんて。

 考えるだけ無駄のような気はするけれど。

 

 自分達だって、何の為にこの変な世界にいるのかが分からないというのに。

 

「せめてさ、普通に飲み物でも買えれば良いんだけどね」

 

 燐は眉を寄せて苦笑する。

 

「それは本当にだね」

 

 二人は同時にため息をついた。

 

 来るはずのないバス停と、あるだけの自販機。

 

 どちらも同等に無意味なものだったから。

 

 ……

 ……

 

「ねぇ、どうしようか、一応ベンチはあるみたいだけど」

 

「せっかくだから休ませてもらおうよ。これぐらいしか役に立つものはなさそうだし」

 

「そうだね」

 

 不満を含んだ燐の言葉に蛍は苦笑いした。

 

 少し痛んだバス停のベンチに二人は並んで腰かける。

 

 こんな所にバスなんか来るはずもないのだから、ベンチだって要らないもののはずだろう。

 

 けれど置いてある。

 誰かが座るのを待っていたみたいに。

 

(やっぱり、わたし達を待ってたのかな? ずっとここで)

 

「ねぇ、あの時もこうして燐と一緒に座ってたよね」

 

「うんうん。そう言われるとさ、何かちょっと懐かしい感じがするかもー。この手触りとか」

 

 そう言って燐はベンチの木の板を手のひらで軽く擦る。

 

「燐がベンチで休ませてくれたんだよね。わたしが疲れているからって」

 

 県境まで行くと蛍は自分から言ったけれど、その道のりは蛍が思い描いていた以上につらいものだった。

 

(もしもあの時、燐がそう言ってくれなかったら、どうなってただろう?)

 

 途中で動けなくなって、燐に負担をかけることになっていたことだろうと思う。

 

 燐の判断は、蛍にとっていつだって正しいものだったのだから。

 

「わたしだってあの時は結構足にきてたんだよ」

 

 それだってもう、ずいぶんと前の遠い出来事のように思える。

 

 そう思えるほど時間はそれほど経っていないはずなのに、それに対する疑問をそれほど感じないのは多分、整理がまだできていないからだと思う。

 

 物事に対してというか、気持ちの問題なのかもしれない。

 

「あの日ってずっと雨じゃなかった?」

 

「そうだったっけ。あんまり覚えてないかも」

 

 いつから雨だったかは忘れてしまったが、ともかく今は、前と一緒でとても静かだった。

 

 この世界に二人しかいないみたいに。

 

 実際にそうなのだろうけど。

 

「あ、そういえば蛍ちゃん。ちょっと、手を出してもらってもいいかなぁ?」

 

「いいけど……? どうかしたの」

 

 蛍はとくに何の疑問も持たずに、燐の前に両手を差しだした。

 

 すると燐はおもむろに蛍の掌に顔を近づけると、可愛らしい舌でぺろりと一舐めした。

 

「ちょ、ちょっと、燐!?」

 

 思ってもみなかったことをいきなり燐にされて、蛍はたまらず声をあげた。

 

 だが、燐はひっこめようとした蛍の手を掴むと。

 

「蛍ちゃん、動かないで」

 

 燐は囁くような声でそう言う。

 

「え、でもっ」

 

 耳まで赤くなった蛍は、恥ずかしそうに身をよじって燐の行為を拒否しようとする。

 

「手、痛いんでしょ? ごめんね、全然気付かなくって」

 

 燐は申し訳なさそうに、そう謝罪の言葉を口にすると、再び蛍の掌をぺろぺろと舐めた。

 

「ううっ」

 

 細かな引っ掻き傷のついた掌の上で、ちろちろと燐の細い舌が蠢くたびに、蛍はくぐもった声をあげる。

 

「蛍ちゃん……すごく頑張ってくれたから……ぺろっ、わたしが治してあげるね……ちゅうっ」

 

「だからって、そんなこと燐がしなくても……はううっ」

 

 蛍の手の傷に添わせるように、舌をうごかしていく。

 

 ときおり唇で吸い上げるようにして啄んだりもした。

 

 一見楽しんでいるようにも見えるのだが。

 

「これは変なことじゃなくて、ちゃんとした治療だよ。前の時みたいに、わたしが……ちゅっ、蛍ちゃんをちゃんと治してあげるからっ」

 

「はううっ……り、燐……っ」

 

(くすぐったいっていうか……なんか変な感じが……)

 

 悪い意味なんかではなくて。

 

(蛍ちゃん……受け止めてくれてる……だったら、頑張らないと)

 

 くまには拒否されたことだったが、蛍は受けいれてくれていた。

 

 あの浮いていた扉を掴んでいたとき、蛍は手を痛めていた。

 

 幸い、肩の方は何ともなかったようだが、ドアノブを掴んでいた方の手の痛みはずっと残ったままだった。

 

 燐に、余計な心配をかけないようにと、隠していた事だったのだが。

 

「……やっぱり、バレていた、の?」

 

「バレてたっていうか、蛍ちゃんの様子がちょっと変かなって思ったんだ」

 

「そう……」

 

 燐にまじまじと顔を見られているのが恥ずかしいのか、蛍は薄く片目を閉じている。

 

 ぺろぺろぺろ。

 

 燐は懺悔するように丹念に傷を舐め上げる。

 

 蛍の細い指を口に含んで、口内でもごもごと舌を蠢かす。

 

「やっ、燐、そこは、大丈夫だからっ……!」

 

「こっちにも傷は……ちゅっ……あるよ。ちゃんと全部治してあげないとね……うんっ」

 

(なんか頭が、ふわふわとする……燐は治すためにしてくれているのに……なんで……?)

 

 舌が這いまわるたびに、なぜか蛍は快楽とにたようなものを覚えていた。

 

 燐は蛍の指の一本一本を口に含み、指の間にも舌を入れて丁寧に嘗め回す。

 

「はぁ……」

 

 蛍の全部の指を舐めきった燐は、やりきったように自身の唇を一舐めした。

 

 そして、今度は蛍の手首に向けて、鼻先をそこに寄せた。

 

 手首にはカフスがついていたが、それを少し上へとずらす。

 

 蛍の白い手首にみみず腫れのような、赤い線がついていた。

 

(やっぱり蛍ちゃん、ここも痛めたんだね。こんなに赤くなってる……)

 

 高校のときにやっていたホッケーの部活の試合の後なんかも、みんな手首の痛みを訴えていた。

 

 スマホの動作なんかでも手首を痛める人もいるぐらいだし。

 

 とても痛めやすい所なのだろうと思う。

 

 いたわるようにゆっくりと燐は舌を這わそうとするも。

 

「……っ!」

 

 舌先が少し触れただけでも痛みを覚えるのか、蛍はびくんと身体を揺らせた。

 

「り、燐、もういいよ、さっきよりだいぶ楽になった気がするし」

 

 やんわりと燐を止めさせようとした蛍だったのだが。

 

「心配しないで、わたしが全部治してあげるから。蛍ちゃんについた傷はひとつ残らず無くしてあげる」

 

 燐はそう宣言をすると、舌先を丸めて慎重に動かす。

 

 まだ蛍が痛がるようなので、ゆっくりと唇を押しあてたりもした。

 

 蛍の手首は掌と同じように燐の唾液でべとべととなってはいたが、蛍はそれを不快には思わずに、むしろ心地よさすら覚えていた。

 

(でも本当に、燐にこうしてもらえると傷が治っていくのかな……? 確かにあの時はそうなってしまったようだけど……)

 

 仮に、何ともなってなくても燐を責めるようなことをするつもりはない。

 

 むしろこんなに一生懸命なのだから。

 

 例え治らなくても、燐の思いやりというか、癒しのようなもの受け取った気持ちになってくる。

 

 胸の奥がぼぉっとあったかくなるような。

 

(わたしも、燐に、何かしてあげたい……)

 

 大したことは出来ないけれど。

 お返しのようなことをしてあげたい。

 

「えっ?」

 

 ぺろぺろと舌を動かしている燐の頭に、不意に手が乗せられた。

 

「蛍ちゃん……?」

 

 燐が顔をあげると、顔を真っ赤にした蛍が燐の方を見つめていた。

 

「燐が、こんなに頑張ってくれてるんだから……わたしも」

 

 なでなでなで。

 

 そう言って蛍は空いた手で燐の頭を撫でていた。

 

 ふわりとした柔らかい栗色の髪の感触は、燐のもので間違いないのだが。

 

 頭についているふさふさとした獣の耳がぴょこんと立っているのがやはり気になってしまう。

 

 蛍は何を思ったのか、指先で燐の狐の耳をつまむと。

 

 こちょこちょこちょ。

 

「んにゃあっ!!??」

 

 いきなりでびっくりしたのか燐が奇妙な叫び声をあげていた。

 

「あっ、ごめん」

 

 一生懸命な燐が可愛すぎるからだろうか、つい好奇心に駆られた行動をしまった。

 

 ちょっとした悪戯心が動いてしまったというか。

 

(それにしても今の感触……サトくんとは少し違ってるみたいだけど……)

 

 ()()()()()は、サトくんのものよりも柔らかいような気がする。

 

「もう、わたしが蛍ちゃんを癒してるんだからねっ」

 

 眉を寄せて不満気味に燐はそう言うと、蛍の手首の傷の癒しを再開した。

 

 ちゅっちゅっ。ぺろぺろ。

 

「うううっ……そんなとこ……駄目っ……!」

 

「どこが、駄目なの……? ねぇ、蛍ちゃん、ちゃんと答えて……そうしたら……ちゅうっ!」

 

 跡が残るぐらいに吸いつく。

 

 そして舌を目いっぱい伸ばして、べろべろと嘗め回してあげた。

 

 燐の行為に蛍はびくびくと体を震わせて耐えている。

 

 それがとても愛おしくて、燐はぢゅうぢゅうと吸い上げていた。

 

(ううっ、燐……いじわるしてるっ……だったらわたしも……っ)

 

 蛍は燐の頭に顔を寄せると、その頭の上で揺れているケモ耳をぺろりと舐めた。

 

「ちょっ、ほ、蛍ちゃんっ……そこっ、くうっ!」

 

 耳は敏感であるのか、奇妙な感覚を覚えた燐が唇を噛んでいた。

 

「燐だってここが気持ちいいんでしょ? いっぱい舐めてあげる」

 

 ぺろぺろぺろ。

 

 暖かい蛍の舌の感触に、燐は身もだえする。

 

「そんな所、きもちよくなんかないっ、もん……! くまちゃんにだって、いっぱい舐められたしぃ……ふうっ」

 

 意外だった燐の告白に蛍は少し頬を膨らませると、悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 

「じゃあ、わたしはもっともっとしてあげないと。それこそべちょんべちょんになるまで燐の耳を舐めてあげる」

 

 蛍は燐の耳元でそう囁くと、ふうっと息を吹きかける。

 

 それだけで、燐は頭のてっぺんから足先まで一瞬でぞくっとなる。

 

「わ、わたしだってぇ……!」

 

 燐も負けじと蛍の腕にかぶりつく。

 

 そうは言っても歯は立てずに舌と唇だけで、あむあむと甘噛みをした。

 

(燐、すごく一生懸命になってる……あんなに必死になって、治そうとしてくれているんだ)

 

 蛍は胸の奥がきゅっと熱くなるのを感じた。

 

 とても愛おしく感じてしまうのは、普段見ている姿と違っているからだけなのだろうか。

 

(もう、燐ってば……)

 

 蛍は息を少し荒くしながらも、苦笑していた。

 

 燐はぺろぺろと一心不乱に蛍の手首を舐めながら、ぴこぴこと筆みたいな丸いしっぽを嬉しそうに振っている。

 

 本人が気づいているのかどうかは分からないけれど。

 

 素直に可愛いと思った。

 

 蛍はまた燐の頭を撫でてあげようとしたのだったが。

 

(えっ……!?)

 

 不意に視線のようなものを感じた蛍は、びくっと身を震わせた。

 

 それはもちろん燐のものではない。

 

 だったら一体誰の……?

 

 焦燥感を覚えた蛍は慌てて周囲を見渡す。

 

(やっぱり、わたしの気のせいなの? でも……)

 

 そう蛍が気をもんだ時だった。

 

 ぼんやりとした白いものが目に入ったのは。

 

 はじめ、何かの光なのかと思ったのだが。

 

「いやああああぁ!!!!」

 

 長い黒髪を振り乱した蛍が鋭い叫び声をあげた。

 

「ええっ??」

 

 間近で聞いた燐は、舌を止めて何事が起きたのかとすぐに顔を上げて、確認しようとしたのだったが。

 

「り、燐っ!!!」

 

「わあっ、なっ、何っ? ほ、蛍ちゃん!?」

 

 蛍が急に体ごと覆いかぶさってきて、燐は大きな目を白黒とさせた。

 

 思ってもみなかった事態に、燐もパニックとなっていた。

 

 ぎゅううっ。

 

 蛍の大きな胸にさらに上から押しつぶされて、燐は身動きどころか呼吸することすらままならなくなる。

 

「なんで、何で……いるのよぉ!!」

 

 そう叫びながら蛍は燐を強く抱きしめていた。

 

「な、何が起こってるのか、全然分からないんだけどぉ!!」

 

 蛍の胸と胸の間にちょうど顔を挟まれてしまって、燐は全く状況が掴みとれないでいる。

 

 頭部が柔らかいものに包まれて気持ちよかったが、それどころではない。

 

(何かが起こって、蛍ちゃんがパニックになっているんだ……!)

 

 だが、今の燐では蛍の身体は大人のように大きくて、例え跳ねのけるにしたって体勢が良くない。

 

 もっともそんな乱暴なことをするつもりなどなかったが。

 

「ほ、蛍ちゃん、落ち着いてっ! 大丈夫、大丈夫だからっ」

 

 そう、なだめすかすことしか今はできない。

 

 蛍が、落ち着いてくれれば良いのだが。

 

 さっきまでのとろけるような甘い火照りが、二人ともその一瞬で覚めてしまっていた。

 

「だって……!!」

 

 蛍はうろたえたような声を返すだけで、燐から離れようとはしない。

 

 むしろさっきよりも燐の身体を強く抱いていた。

 

「うっく、蛍、ちゃん……このままじゃ、い、息が……」

 

 燐が苦しそうな声をあげる。

 

 蛍は胸部だけでなく、燐の首元にも無意識に腕を回して抱きしめていたのだ。

 

 さすがにこうされると何もできないのか、燐が観念したように蛍の腕を軽くたたいたことで、蛍はようやく我に返った。

 

「あっ、燐。ご、ごめん……!」

 

 蛍は慌てて上体を起こす。

 

 その下では燐が息も絶え絶えに、冷たい汗をかいてぐったりとしていた。

 

「ぷはぁ~!」

 

 やっと解放された燐が、大きく息を吐きだす。

 

 その顔は少し青ざめていたが、今はそんなことよりも。

 

「それで、どうしたの蛍ちゃんっ」

 

 燐は顔を正して問いかける。

 

「あ、あれっ……」

 

「あれって?」

 

 顔を真っ青にした蛍が、ぶるぶると細い指先を振るわせてそこを差していた。

 

 不審に思った燐が勢いをつけてそちらを振りかえると。

 

「嘘っ!!??」

 

 暗闇に真っ白い顔が指差した先に浮かんでいた。

 

「蛍ちゃん!!」

 

 燐は勢いよくベンチから立ち上がると、身を固くしていて震えている蛍の前に立った。

 

 そして両方の手で握りこぶしをつくって、脅威を迎え撃つ格好をとった。

 

 間違いない──。

 

 あの”白い人影”がここにもいたのだ。

 

 何でこんな所にもと、その疑問はあったが、こうして遭遇してしまったのだからもう考える余地などない。

 

 選択肢は逃げるか、戦うかしかない。

 

 武器になりそうなものを全部捨ててしまったことを、燐は少し後悔してしまうが。

 

(でも、逃げるにしたってそのままだと……)

 

 多分、すぐに追いつかれてしまうだろう。

 

 ここは一本道みたいだし。

 この”ナニカ”は、体力と力だけは無駄にあるのだから。

 

 それと欲望だろうか。

 

 代わりに知能は低くなっているみたいだけど。

 

 だが。

 

「……」

 

 燐が出方を窺うように待っていても、人影の方は何もしてこない。

 

(あれっ、何で……!?)

 

 何故こちらにすぐに向かってこないのだろう。

 

 町の住民が変化してしまったときだって、よく分からない夜の町で襲われたときだって同じだった。

 

 コイツ等は問答無用で襲い掛かってくる。

 

 それなのに、顔を出しているだけで一向に動いていない。

 

(そういえば……)

 

 少し冷静になったのか、蛍はあの夜での転車台での事柄を、不意に思い出していた。

 

 あの時は、あの”ヒヒ”と、この”何か”の動きが連動しているように思えたのだのった。

 

 ヒヒが優勢ならこいつ等も動き、その逆なら止まってしまう。

 

 どういう理屈でそうなるのかは、今だって分からないことなのだけど。

 

 この白い何かも、あの時のように膠着しているようだ。

 

 顔がないのにこちらをじっと見てはいるが、ただそれだけ。

 

 特に何もしてくる様子はなかった。

 

 ここはチャンスとばかりに燐は素早く後ろを振り返ると蛍の手を取る。

 

「蛍ちゃん……今の内に」

 

 耳元でそう囁くと、手を引いて蛍を立たせようとする。

 

 こくり。

 蛍は小さく頷くと、音を出さないようにゆっくりと立ち上がる。

 

 それでも何もしてこない人影を、蛍は怪訝そうな顔で見つめていたが。

 

(もしかしたらこれって、最初から動いていないとか!?)

 

 つい目が合ってしまったようだから驚いてしまったけど。

 

「このまま、コイツが動かないんだったら……!」

 

 今がチャンスなのだろう。

 

 コイツの顔面でも蹴り飛ばしてから逃げようと燐は考えていたのだったが。

 

「だったら、確かめてみないと、って……!?」

 

 燐がそう逡巡している間に横からすっと手が伸びていた。

 

 それまで唇を震わせていた蛍が、大胆にも人影に触れようと手を伸ばしていたのだった。

 

「蛍ちゃん、危ないよっ!!」

 

 たまらず燐がその手をとって静止させた。

 

「でも……」

 

「いいからっ、とにかく逃げよう!!」

 

「う、うん!」

 

 何をしようとしていたかは何となく分かるけど、それは今優先すべき事ではないことも分かっていた。

 

 今はただ逃げるだけ。

 

 探しているのはこんなものではないのだから。

 

 ただ、あの顔のない人影は確かにここいるのに、それなのに何もしてこないのは確かにおかしい。

 

 ぴくりとも動かない白い顔に背を向けて、燐は踵を返そうとしたのだったが。

 

「ねぇ、燐、これって……人形かも」

 

「えっ、人形??」

 

 駆け出そうとした足を不意に止められて、慌てた燐は大きな目を丸くさせる。

 

 慌てた反動で転びそうになるが、何とか堪えることができた。

 

「だってさ、こんなのやっぱり変だよ。それに見て……コレの口の中」

 

「口のなか?」

 

 さっきから燐は蛍の言葉を反芻させているだけ。

 

 一体、何に気付いたのだろうか。

 

「ねぇ、ほら見てみて」

 

「う、うん」

 

 やけに積極的な蛍に対し、すっかり気をそがれてしまった燐は渋々と頷く。

 

 手をつないだままの蛍がソレに一歩近づいた。

 燐は無意識の内に少し腰を引いていた。

 

「近づいてきたら、急に襲ってくるとか……」

 

 燐はそう冗談めかした口ぶりでつぶやく。

 

 散々油断させておいて、いきなりがぶっと襲い掛かってくるなんていうのは、ホラー映画では定番中の定番だったのだから。

 

 燐は露骨に嫌な顔をする。

 

 蛍はそんな燐の仕草に口に手をあててクスっと微笑んでいた。

 

「ほら、燐。大丈夫だから」

 

「ほんとう?」

 

 そこまで言うからにはと、燐は口内を覗き込む。

 

 やはり今度もぴんと背伸びをしてのことだったが。

 

「ああっ!」

 

「ねっ」

 

 燐と蛍は同時に顔を見合わせた。

 

 その、何かの口はぱっくりと開いたままになってはいたが、口の奥までは塞がれていた。

 

 これはつまり。

 

「精巧な人形だったってこと?」

 

 安堵した燐は息を吐きだす。

 

「でも、こんなのを誰が作ったっていうんだろうね」

 

「それは、分からないけどぉ」

 

 蛍の疑問に燐は首を振るしかない。

 

 こんな人形を作った理由なんて、多分誰にも分からないことだろう。

 

「燐の言うようにここって本当に美術館なのかもね。こんな等身大の人形も置いてあるみたいだし」

 

「確かに」

 

 人影だけでなく、自販機やバス停のオブジェまで置いてある。

 

 ただ、もし美術館なら、あの夜の三日間のことをモチーフにした展示をしていることになるのだけれど。

 

「その目的がなあ……う~ん」

 

 燐は納得のいかない顔で、白い顔の人形を正面から見つめていた。

 

 裂けた顔には真っ赤な口しかなく、それが大きく開けられた状態の人形となっていた。

 

 ちょうど笑みを浮かべたような表情となっているのだが。

 

 それはどう見ても下卑たいやらしい笑みを浮かべた瞬間であって、この大きく裂けた赤い口からは欲望が丸見えとなっていた。

 

(でも、触りたいとかは思わないんだよね、流石に)

 

 それは蛍の方も同じようで、自分からはそれに決して触れようとはしなかった。

 

「そういえばさ、服を着てたはずだよね」

 

 本当に素朴な蛍の疑問なのだが、その言葉に燐は少し眉を寄せた。

 

「わたしもそれは気になっていた。もとは町の人みたいだったから、普通の格好だった気がしたんだけど」

 

 これは服を着ていない。

 人形だからその必要がないということか。

 

 不意に蛍がぽつんと呟く。

 

「ふつーにさ、全裸だよね、これ」

 

「うん」

 

「でもさ……ついてないよね? 裸なのに」

 

「そ、そうだね。何でだろうね」

 

 二人は、動かない人影の股間を凝視しながら、神妙そうな顔つきで首を傾げていた。

 

 人形は表情こそリアルだったが、体の造形の方は甘めというか。

 

 製作者が手を抜いたとかではないとは思う。

 

「そういえば、燐、ごめん。必要以上に驚いちゃって」

 

 俯いてしゅんとなる蛍に燐は軽く苦笑いを浮かべる。

 

「仕方ないよ。こーんな不気味な顔が暗がりから現れたら、例え人形だって驚いちゃうよ」

 

「それにさ、今にも動き出しそうなほど精巧なんだから」

 

「精巧……確かに、そうだよね」

 

 燐の言うように動かないほうが不思議に思えるほど。

 

(本当にリアルだとは思う……だけど)

 

 蛍は唇をきゅっと引き結ぶ。

 

 これを、精巧なものと言っていいのだろうか。

 

 確かに良くできているとは思うけれど。

 

 あれは現実のものではないと今だって思っている。

 

 例えるのなら。河童や天狗といった想像上のものと同一視しているというか。

 

(そう……町の異変だって、本当に現実のものだったのか)

 

「ほ、蛍ちゃん……!」

 

 そういって燐が急に手を繋いでくる。

 

 さっきみたいに何かが動いたような感じはないが。

 

「燐、何かあったの?」

 

 蛍は小声で尋ねる。

 

 すると燐は指を差しながら、ぴょこぴょことジャンプを繰り返していた。

 

「あっちにも、ほらっ」

 

「あっち?」

 

 燐と目線を合わせるようにして、少し腰をかがめた蛍がそこに視線を送る。

 

 暗い廊下の先を燐は指しているようだが。

 

「あっ! あっちにも?」

 

 そこにも人影らしきものがあった。

 

 二人は手をぎゅっとにぎり合いながらも、恐る恐るその人影の方に近づいく。

 

「これも人形かな?」

 

「多分……」

 

 あの異形の人影の人形がここにも置いてあった。

 

 少し表情が違うような気はするけれど、さっきと同じ白い顔をしている。

 

「あ、あっちにもあるみたい」

 

 また燐が指を差す。

 

「ねえ燐、こっちにもある!」

 

 そこからが圧巻だった。

 

 廊下の壁際に、何体もの人影が立っていたのだから。

 

 その数は……よく分からない。

 

 あまりにも数が多すぎて、途中で数えるのをやめてしまうほどあったのだから。

 

 ざっとみて、百体以上はあるように思える。

 

 この狭い廊下の左右の壁際に。数百体以上の白い人影の像が並んで立っていた。

 

「何なのこれ……こんなにもあったなんて」

 

 辺りが暗かったから気付かなかっただけ、なんだろうか。

 

「とにかく、いざとなったら逃げられるようにしておこう」

 

 そう警戒しながらも、少女達は白い人影で囲まれた通路を進んで行く。

 

 観葉植物や柱のかわりに顔のない人形が立っているだけと、思えればいいのだろうが。

 

「本当に人形だけなのかな……襲ってきたりは……」

 

「ねえ、燐……なんか見られてるような感じがしない?」

 

「わたしも、不気味すぎるよこんなの」

 

 どの人影もこちらの方に顔を向けているからだろう。

 

 唯一の器官である、裂けた口をにたりと歪ませて、纏わりつくような視線を投げかけている。

 

 瞳などは一切ないのに。

 

 人形だけが置いてあるギャラリーもあるらしいが、ここはあまりにも不気味としか言いようがない。

 

 それにしても、コンセプトも展示物が不気味すぎる。

 

 それに。

 

(やっぱりこれって、わたし達に向けて……? でもこんなのに意味なんて)

 

 その事は考えないようにして、人形の間を歩く。

 

 やはりどの人形も衣服をつけていない。

 

 そのせいか、どれも同じもののように見える。

 

「でも、これだけあったら、一体ぐらいほんもののが混じってても分からないかも」

 

 蛍のその言葉に、燐はぶるりと尻尾を震わせる。

 

「もー、蛍ちゃんはまた、そういうフラグっぽいことを言う。蛍ちゃんって案外意地悪なところがあるよね」

 

 そう苦笑する燐に、蛍はきょとんとした顔になる。

 

「あれっ、言わなかったっけ?」

 

「何のこと?」

 

 蛍はつっと指先を桜色の唇にあてる。

 

「わたし、燐をからかったり、困らせたりするの、結構好きなんだけど……燐、今更そんなこと言っちゃうんだ?」

 

 そういって蛍はくすくすと笑っていた。

 

 燐は呆れた息をつく。

 

「そんなの、真顔でいうことじゃないんだよ、蛍ちゃん~」

 

 二人はそう軽口を言い合っていたが、互いを繋ぎ合う手はじっとりと汗ばんでいた。

 

 それに表情も、言葉とは裏腹に固く強張っている。

 

 こうして話していれば、少しは気を紛らわすことができるかと思っていたが。

 

 むしろ逆に意識をしてしまう。

 

 異常な空間にいるという現実に。

 

(やっぱり、走り抜けたほうがいいような気がする……だけど……!)

 

(走ったら追いかけてくるような感じが……どっちが正しいんだろう)

 

 おかしすぎて気が変になりそうになる。

 

 燐と蛍はそれぞれ疑念を抱きながらも、なるべく人影を視界にいれないようにして道を進む。

 

 半ば駆け足となってしまいそうな足を必死になだめながら。

 

 呼吸することすらままならないような緊張感の中、蛍の高いヒールの音だけが規則的な音を刻んでいた。

 

 いつ、あの甘ったるい匂いと、奇妙な呻き声が聞こえてくるのか。

 

 そこに神経を尖らせながら、白い顔の間を進んで行く。

 

 やけに長い廊下だとは思っていたが、こんなに長く続くものとは流石に思わなかった。

 

 しかもこんな生殺しのような状況で。

 

「……!」

 

 少女たちは折に触れたように同時に後ろを振り返る。

 

 しかし、廊下には二人と白い顔の人形しかない。

 

 等身大の白い顔の人形達がふたりに何もすることはなかった。

 

 ただ──そこにあるというだけで。

 

 こんな不可解な現象をどう理解をしたらいいというのだろう。

 

 廊下の内側に顔を向けているだけの存在としてマネキン人形のように突っ立っているだけ。

 

 実際のマネキン人形には、旬の衣服や小物等を見せる目的があるが、これにはそんなものはなく、意味も理由もなく並べられていた。

 

 それを少し哀れに蛍は思ったが。

 

 彼らに対して何もしようとは思わなかった。

 

 先におわりになっただけなんだと。

 

 そう。

 いつかは必ず終わる。

 

 互いに求め合って、ぴったりとくっついてたとしても、さいごには分かれてしまう。

 

 それが獣、いや人というものだろう。

 

 顔も人格さえも失った人影は、ヒトのかたちをした獣といっても差し支えないものだった。

 

 彼らはそこまでして何を求めていたのだろう。

 

 幸運か、幸福か。

 

 おなじようで、おなじじゃないもの。

 

 それを得るために何かを失って。

 

 さいごは人ですらもなくなる。

 

 

 だったら、わたしはそのどちらもいらない。

 

 幸運も幸福も。

 

 ヒトもケモノも。

 

 今はただ、自由に。それでいられたら。

 

 きっと安らかに眠れることができるはず。

 

 

 いつかおわりのくる。

 

 そのときまでは。

 

 

 ──

 ───

 ────

 

 





mono。

先日アニメが最終話を迎えたわけなのですが、思っていたよりもゆるキャン△のキャラが出てましたねー。そしてクロクマ先生の出番が……結構多めというかなんか目立ちすぎていたような……? 途中からほぼ淳レギュラーみたいな扱いでしたしねー。
概ね、ほぼ原作通りでしたねー。アニメの最終話も原作よりもちょっとエモい感じになっていて良かったと思います。
そして、アニメの2期の方は、なさそうで……ありそう!? この辺りは展開しだいですかねえ。ゆるキャン△の4期もありますですしー。



Two Point Hospital

ドラえもんのゲームが楽しかったのでこれもいけるかなと思ったのですが……なんだか全然難しいです。病院を経営して様々な症状の患者を治していくというシンプルなルールなんですが、何かあまり上手くいかないというか、ミッションがちょっと難しいのかも。
序盤が割ときついのと、途中で何をやっているのか分からなくなる時があるのが少し問題なのかも。

まあ焦らずに、ちびちびとやるタイプのゲームですし。気長にやっていきますー。



もうずっと暑い日ばかりなのですが、体調には十分気を付けたい所ですねぇーー。


追記:今年の8月12日までのサマーセールで、青い空のカミュDL版が1500円でセール中みたいです~~~~!!
夏といえば”青い空のカミュ”!! ってぐらい情感も情景もぴったりなので、是非是非この時期にプレイしてもらいたいです。

パッケージ版が高騰しているようですが、プレイだけならDL版がオススメです。年に数回セールをやっているようですし、おまけの壁紙もありますしねぇ。


それではではーーーー。

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