長き旅路にて臨むもの 作:【風車之愚者】
□【詩聖】サラ
作戦前。
わたしは【亜竜群猿】のお家に呼ばれた。
「ツリーハウスだ!」
「樹上に棲家を建てているのね……猿は手先が器用で知能が高いというけれど」
高い木の上に作った小屋。
木登りするか、縄はしごがないと登れない。
枝と葉っぱがカモフラージュになっていて、これを外から見つけるのはむずかしいだろう。
しれっと偽装系のスキルまで発動している。
「秘密基地みたいでワクワクするね!」
『
『『『ウキッキキ(よせやい照れるぜ)』』』
案内してくれた子と、ついでにお家にいた群れのメンバーかな? みんな揃ってクネクネしてる。
気のせいじゃなかったら、この子たちはわたしのお菓子を奪ったドロボウさんの群れだ。
そのことについて聞きたい気持ちはあるんだけど、他にもっと優先する話題がある……そんな感じが伝わってくるから、ここはとりあえず後回し。
でもでも、あとで絶対にお話するよ?
ぜーったいだからね!?
「それで要件は? 内容次第では狩るわよ」
『ウキッ!?』
お猿さんは慌ててわたしを盾にした。
このあたりのモンスターを狩り尽くした実績は、彼らにとって、相当怖いものに映るみたいだ。
なんだろう。不思議なことに今わたしはアリアリアちゃんの姿が猛獣に見えているよ……!
群れが怖がるなかで、よぼよぼのおばあちゃん猿が、わたしたちの前にゆっくり進み出る。
『よくおいでなさった。ヒトの方』
「こんにちは! わたしはサラっていいます!」
『
……あれ? 今、普通にしゃべった?
「人間の言葉を話せるの?」
『年寄りの知恵ですじゃ。ほほ』
「……マダム。私達は急いでいますの」
『おやまあ、マダムだなんて。どうかオババと呼んでくだされ。金毛のお嬢さん』
「では私のことはアリアリアと。こちらは相棒のルゥと申しますわ」
『Wof!』
お互いちょっと気分が落ち着いたかな?
わたしたちは葉っぱの座布団に座って、オババの話に耳を傾ける。
『何から話そうか……えーと、なんじゃったかな?』
「ミセス・オババ!? ボケてらっしゃるの!?」
『年寄りジョークじゃよ。ジョーク』
わぁ、アリアリアちゃん静かに怒ってる……。
『お前さんら。法皇さまと戦うつもりじゃな』
「ほーおーさま?」
「【ハイエレファントン】のことでしょう。察するに、あなたがたはアレを信仰しているのかしら」
『まあ、遠からずじゃの。食べ物を差し上げれば守ってくださる。ありがたーい守り神……じゃった』
ということは、今はそうじゃないのかな。
「それは、私が他のモンスターを討伐して生態系が変化したから?」
『いんや。むしろ、お陰でわしらの天下じゃわ。特に隣の狼ども嫌いじゃったのよ。やつらの断末魔、群れの皆で楽しませてもらったぞ』
「スポーツ気分で虐殺を観戦しないでいただける?」
『野生の世界なんて生きるか死ぬかじゃよ』
ちょっとブラックな気持ちをわたしが感じたところで、オババは『ほほほ』と笑った。
『脇道に逸れたの。話というのは他でもない。ひとつ、昔語りをしてやろうと思ったんじゃ』
むかしむかし。それから始まる物語は、わたしが知っているお話とよく似ていた。
詩人ソーマと仲間の物語。竜と、獣と、鳥。
彼らの旅と活躍のお話だ。でもオババが伝えてくれようとしたのはその続き。御伽話の後日談。
『獣の皇は、傷ついた身を癒すためにこの地を訪れた。わしらの先祖は食べ物を用意する代わりに、法皇さまの持つお力で縄張りを外敵から守ってもらうという契約を結んだんじゃ』
「一種の共生関係ということ? それって<UBM>相手に成立するものなのかしら」
『現に成立しとるじゃろがい。……いや、成立していると思っておっただけじゃなあ』
わたしが見た光景は、【ハイエレファントン】が彼らを攻撃した……ようにも見えた。
これまではそうじゃなかったんだろう。
でも事情が変わった。被害が出た。
『穏やかな方なんじゃよ。本当はな。じゃが、いつしか心を閉ざしてしまわれた』
「……」
『お前さん、【詩人】じゃろうて。法皇さまを助けてやってはくれんかのう?』
◇◇◇
歌口にフーッと息を吹き込む。
運指はいっぱい練習した。譜面は覚えてる。
だからへいき。絶対にだいじょうぶ。
わたしは【萌芽の横笛】を演奏する。
選曲はソーマから教わった曲のひとつ。
厳かに祈りを捧げる《
法皇さまが――獣の皇が一番大好きだった曲!
「届いて……!」
遠くからだと反応まではわからない。
それなら意識を共有したらいい。
閉じた心とわたしの心を繋ぐ、《
……そうだよね。
いやだよね【ハイエレファントン】。
つらいことからは目をそらして逃げちゃいたい。あなたの気持ちはすごくわかるよ。
だから先に言うね。ごめんなさい。
「でも、あなたの心は叫んでる」
見ないフリで楽になれないなら。
本当は逃げることに苦しんでいるなら。
……思い出して。あなたの気持ちを。
「お願い。アリアリアちゃん!」
合図で黒いドレスが走り出す。
肌どころか全身を隙間なく影に包まれたアリアリアちゃんは、ものすごい速さで【ハイエレファントン】までの距離を走り抜ける。
ミシミシときしむ地面や草木も。
まるで他人事みたいに、アリアリアちゃんはフワリと空中に飛び上がった。
重量から解放された、身軽なジャンプだ。
周りの《
周囲の空間を影で侵食する《
それで自分の体を包むように限界まで縮める……TYPE:テリトリーの<エンブリオ>ができる、“テリトリーの圧縮”という応用技術で工夫した技だ。
「《天喰らう牙》――《
マーナガルムの影に取り込んだものは、<エンブリオ>と同じような扱いになる。
影ごと紋章にしまえて、出し入れ自由。
それと……TYPE:アームズによくある特性で、使用者はその重さを感じないというのがあって。
マーナガルムに取り込まれたアリアリアちゃんは、
これが彼女の考えた【ハイエレファントン】攻略の切り札だ。
「目覚めの一発、喰らいなさい」
影の大剣が法皇さまのほっぺを叩く。
正確にはもっと力を込めた感じ。
フルスイングでビンタする、みたいな勢いだ。
内と外のダブルパンチとダメージを受けて。
『Zoooooo――』
ようやく彼は目を覚ました。
「やった! これで」
起きてくれたらお話できる。
まず謝って、それから事情を説明する。
ここからの流れをそんなふうに考えていた。
「――拙い」
【ハイエレファントン】の前に人がいた。
和服とおじいさんのお面は見覚えがある。
「実に拙い」
目を覚ました【ハイエレファントン】。
その大きな体は身動きだけで、足元の男の人を押し潰してしまえる重さとパワーがある。
「よもや私を出し抜こうとするとは」
その人は扇を手にゆらりとポーズを取った。
次の瞬間。攻撃されていないはずのアリアリアちゃんが、ダメージを受けて吹き飛んでいた。
「割り込みはマナー違反と習いませんでしたか? 許容範囲を超えていますよ猿真似娘」
「“未踏鏡面”……アタラクシア・カームっ……!」
「然り。補足しますと【
「うっさいわね邪魔よ!」
アリアリアちゃんは復帰して飛びかかる。
対するアタラクシアさんはそのまま。
結果はさっきとおんなじだ。攻撃したアリアリアちゃんが倒れて、アタラクシアさんは無傷のままだ。
「チィッ……!?」
「どれだけ特典武具が欲しいのですか。言ったでしょう無駄ですと。<UBM>は諦めなさい」
「空気読めってんのよ! 今そういう話してないでしょうに!」
もしかして【ハイエレファントン】をわたしたちが倒すと勘違いしてる? それを邪魔するためにアリアリアちゃんにちょっかいを……まずいかも。
<超級>に本気でかかってこられたら、それこそ大変だ。仲間になってもらうどころじゃないよ!
「あの誤解です! わたしたちは討伐するつもりないですから! 敵じゃないです!」
「だとしてもです。私の修行に支障がでる類の用向きなのでしょう。事実、あなたのせいで時間を無為に費やしている。困らせないでもらいたい」
アタラクシアさんは続ける。
「せっかく攻撃的だというのに、それを鎮めて何がしたいのですか。あなたがたは」
「……どういう意味?」
「はあ、意味もなにも。私は<UBM>で修行がしたいのですよ。暴れてくれた方が捗ります。最近は比較的、攻撃性が強まっていたというのに……」
ちょっと待って。つまり。
「今のままでいいってこと? それで【ハイエレファントン】が苦しんでいるとしても?」
「別に構わないでしょう。たかが遊戯の書き割りに、何をそこまで心を砕きますかね。……そもそも、あなたもコレを利用するために来たのでは? 私を非難する資格ありませんよね?」
……言いたいことはわかる。
たぶんアタラクシアさんは遊戯派だ。
モンスターは倒すための存在。プレイヤーが強くなる方法として作られたものだってことだよね。
倒すためじゃなく修行?する目的というのが少し違うところだけど。考えは間違っていないだろう。
それに、わたしがおんなじというのも。
自分の力が足りないから【ハイエレファントン】の力を借りにきた。見方を変えたら、これだって利用すると言えなくもない。
わたしからするとぜんぜん違うよって言いたい気持ち。ただ他の人にとってはどうだろう。
アタラクシアさんには彼のルールがある。
なんとなくだけど、わかった気がする。
わたしと違うタイプの人。なかよくするのはむずかしそうだけど、どうしたら説得できる?
「悩む必要ないわサラさん」
「アリアリアちゃん?」
「こいつ、結局のところ引く気ゼロだもの。
「ほう。大言を吐きましたね猿真似」
「いつまでも自分が上と思わないことね天才。あなたが思うより簡単に、喉笛を噛み千切られるわよ」
「口ではどうとでも捲し立てられますが。しかし実力が伴わないのでは……とてもとても」
「あら。そんなにこきおろして大丈夫? 負けた時の逃げ道が塞がれていくけれど」
あと少し、ちょっとしたきっかけで一気に爆発しそうな緊張感が二人の間に流れる。
いつ崩れてもおかしくないバランスを壊したのは、まだ寝起きでぼうっとしている、【ハイエレファントン】の巨体を使った攻撃だった。
『Zoooooooooooo』
頭の上からくる攻撃に、二人はというと。
「《行雲流水》」
アタラクシアさんは扇を右手に構えた。
手首をくるっと返してアリアリアちゃんに。
この流れに沿って巨体の踏み下ろしは九十度、直角へ向きを変えたように見える。
「
アリアリアちゃんはどうにか回避。
自己判断でルゥが【ジェム】を取り出す魔法攻撃を実行した。隙をカバーするナイスアシストだ。
火属性の魔法がアタラクシアさんに迫る。
「《鏡花水月》」
今度は別のスキル、別の構えだ。
アタラクシアさんの手前で火球の勢いは止まり、反転してまたアリアリアちゃんを狙った。
「避けましたか。無様に倒れればよいものを」
「…………」
「いつまで保つでしょうね。あなたの体力は有限です。精神力だってお世辞にも強いとは言えない」
「……あなたのソレも無限じゃない」
「そうですね。これらのスキルは適切な型とタイミングでなければ失敗して不発となります。まあ私は見た事がありませんが」
「自慢?」
「ええ。しかし事実です。私の守りは崩れない」
ごく当たり前のように攻撃をいなして。
「誰一人――鏡の奥には踏み込めない」
――前人未到を宣言した。
「それでも吠えますか? 己が技量は、私のそれを超えられると本気で思っているのですか?」
「もう飽きたわ。いいから死んどきなさい」
アリアリアちゃんは武器をしまって素手になる。
全部カウンターされるなら、装備で攻撃力を上乗せしても意味がないってことだね。
じゃあどうするのって話になるけれど。想定外の状況だから、わたしもよくわからない。
でもアリアリアちゃんは自信たっぷりだ。
きっと作戦を考えているんだろう。
「――さあ、喰らい裂く時間よ」
To be continued
余談というか今回の蛇足。
【扇神】
(U・ω・U)<扇スキル特化超級職
(Є・◇・)<扇スキルとは何ぞや
(U・ω・U)<……何だろうね?いやマジで
(U・ω・U)<コンセプトはジャストガードカウンター
(U・ω・U)<【鏡王】との違いは
(U・ω・U)<反射角度を気にしなくていいです
(U・ω・U)<逆に攻撃の種類は判断しないとミスって死ぬ
(U・ω・U)<タイミングが重要なのは共通している
(U・ω・U)<で、アタラクシアはこの三つ目でズルができる
(U・ω・U)<あと本人の性格がカスです