東方幻奇譚 ~the Eighth Fantasy.   作:TripMoon

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新年あけましておめでとうございます。

前話までご閲覧頂きありがとうございます。


前述した通り本話からは霧雨魔理沙編の物語になります。

時系列は少し遡り、第9話「蠢くモノ」の後の物語を魔理沙視点で書いていきます。


是非、お楽しみくださいませ。


東方幻奇譚 焔ノ章 流星編
第1話 黒炎


 

 

 

 

 

 

 

 

――この場所に居たのが魔理沙(まりさ)だったから、助けたんだと思うよ。

背中を向けたまま、闇夜(やみよ)へと歩いていく大きな人影。

なんだよそれ、意味分かんないって……。

たとえ私じゃなかったとしても、お前は助けていただろう……?

突如として現れた見慣れない妖怪(ようかい)

私の弾幕(だんまく)やスペルカードを持ってしても、その硬い甲殻(こうかく)には傷一つさえ付かなかった。

この世界でも、桁外れに高い火力を有していると自負(じふ)しているくらいだ。

私だって自分の力を認めているし、誰にも負けないと思っていた。

だが……一筋の炎撃(えんげき)によって、その意思は砕けようとしていた。

あれは、弾幕じゃない。

あんなのデタラメだ。

それでも……猛々(もうもう)しくも美しい、鮮やかさの中に強靭(きょうじん)さを(まと)った焔色(ほむらいろ)の光は、私の目をたちまち奪っていく。

妖怪の尻尾に拘束され、どうしようもなかった私を……その光が助けてくれた。

――あんなにも見惚(みと)れた光は、何年振りだろう。

こんな光を放つ星も、宇宙にはあるのかな?

っと、いつまでもここには居られないか。

既に私だけとなった漆黒の空間に背を向け、ゆっくりと歩き出す。

(大丈夫かな……あいつ……)

慢心しきっていた私を、自らの身を犠牲にして(かば)ってくれた。

その時の傷は、並大抵のものじゃなかった。

死の淵に追いやられようとしているのに、あいつはこう言ったんだ。

お前だけでも逃げろ、って。

そんなこと出来る訳ないだろ?

私は魔法使(まほうつか)いなんだ、私は戦える。

そんなボロボロなお前より、ずっと強いんだ。

見捨てる真似なんて……出来ない……。

それでもあいつは、私のことを必死に逃がそうとしていた。

あんな状況で、自分も私も助かる手段があったっていうのか……?

いや実際には助かったんだが、どうも納得が行かない。

何故なら、急に人が変わった様に虫の妖怪を翻弄(ほんろう)していたんだ。

逃げ回っていたのに、その身の全てを燃やし尽くさんとしていた。

元から強い奴は何人も知っているが、あんな例は見たことがない。

風の噂では聞いていたが、あぁいうのを特異(とくい)な人間、っていうのかな。

――うーん、私らしくないな、こんなに考え込むなんて。

いかんいかん、一度頭の中を空っぽにしないと。

夜空は綺麗だし、空中散歩に(いそ)しむとするか。

(ほうき)(またが)り、地を蹴り空を目指す。

何故だろう、いつもよりも速く飛んでいる気がする。

何処までも執着(しゅうちゃく)してくるな、あいつは。

……いや、それは私か。

あれ、何で私はあいつのことを気にかけるんだ?

あいつの弟から、少しだけ話を聞いただけだぞ?

難癖(なんくせ)付けて戦いを挑み、鴉天狗(からすてんぐ)に追われ。

再会したと思ったら、見慣れない妖怪相手に共闘。

たったそれだけだ。

(こだわ)る理由なんてないはずなんだ。

なのに……あいつが頭から離れない。

心地良いものじゃないのは確かなんだ。

過去に一度抱いたことのある、この暗い感情。

私と歳も変わらない癖に、魔法を習得し高い魔力を持つ私よりも、ずっと強い一人の少女。

いつもだらけていて、その場所に(まつ)られている神様さえ知らない。

何かに真剣に取り組む姿なんて見たことがないのに、平然と私の前を歩き続けている。

私が走ったとしても、追い抜く所か、追い付くことさえ出来ない。

必死に努力しても、顔色一つ変えずに持ち前の才能だけで、強くあり続けている。

――出会った頃からしばらくは、ずっと悔しかった。

最初は自分が制定したルールだから、自分が有利になる様に仕掛けているのだと思っていた。

けれど、それは単なる私の思い込みに過ぎなかった。

吸血鬼(きゅうけつき)亡霊(ぼうれい)も月の賢者や月から逃げてきた姫、閻魔(えんま)に神様であっても、あいつが負けることはなく、異変解決の名の元に勝利を手にしていた。

天才、という言葉があいつ……霊夢(れいむ)には良く似合う。

何度も涙を(こら)え、必死に追い付こうとしていた。

誰にも頼らず、誰にもその姿を見せようとせず。

ただひたすらに努力を積み重ね、私自身の力として誇示(こじ)し続けてきた。

今でも懐かしいよ。

けれど今、その感情がまた出てこようとしている。

……恭哉(きょうや)が、霊夢に似ていると感じた理由が、今分かったかもしれない。

誰が相手だとしても(へだ)たりなく親しまれる雰囲気と、際限のない実力。

付き合いの長い霊夢であっても、まだ本気の力は見たことがない。

恭哉なんて……まだまだ実力を隠しているに決まっている。

あの炎も……あいつにとっては、小さな花火程度にしか思っていないのだろう。

「なんなんだよ……くそっ……!!」

自然と、唇を噛み締めていた。

こんな悔しさ……久し振りだよ。

そういえば、異変の首謀者として疑いを掛けられるって言ってたな。

何となく分かるかもしれないが、私の中では信じられない気持ちの方が(まさ)っている。

……信じたくない、という方が正しいのかもしれないが。

(ギクシャクする……まだ起きてるかな?)

空中散歩を中断し、ある場所を目指すことにした。

 

 

 

 

 

先程とは違う草木が生い茂る場所。

魔法(まほう)(もり)、この場所はそう呼ばれている。

どの時間帯であっても、日光や月光が届くことは殆どなく、常に薄暗く湿った土地感ということもありジメジメしている。

環境が適しているのか、この場所は様々な(きのこ)が多数生息しており、その茸による胞子(ほうし)も舞っている。

その為一般的な人間や、妖怪にとっては居心地が悪い場所であり、この場所で暮らしているのは変わり者が多いという。

私もその一人なんだがな。

この場所に生息する、食用の茸を除いた物を総称して「化物茸(ばけものたけ)」といい、幻覚作用や魔力(まりょく)を高める効能を持つ。

魔法使いになる者や、自らの魔力を高めたい者にとっては、最適な場所とも言われている。

そんな奴、最近はあまり見ないがな。

比較的見通しがいい場所に降り立ち、ある場所を目指す。

魔法の森の中心部に向かって進むと、この場所には似合わない一つの建物がある。

純白色(じゅんぱくいろ)の壁と紺色(こんいろ)の屋根で、西洋風の造りが特徴的な場所である、マーガトロイド(てい)

アリス・マーガトロイドという人物が住んでいる場所で、今私が向かっている場所だ。

七色(なないろ)人形使(にんぎょうつか)い、(ひと)(かたち)(つか)魔法使(まほうつか)いと称され、その名の通り私と同じ魔法使いだ。

アリスとは何度か共に異変解決を行った仲だが、その程度。

常に一緒に居るような仲良しこよしではない。

皮肉めいたことが言える程には、関係はあるのかもしれないが。

向こうが私をどう思っているかは知らんがな。

アリスの家を訪れる目的は、アリス本人ではない。

恭哉と時を同じくして、この世界に流れ着いた人間の一人である少女、木ノ内(きのうち) 玲香(れいか)

恭哉とは親しい仲らしく、恭哉の弟である海藤(かいどう) 京一(きょういち)も、玲香のことをよく話していた。

血の繋がった家族ではなく、友人からの観点で見たあいつのことを、少し聞いてみたいと思ったのだ。

先程感じた悔しさの感情ではなく、単に友人として聞きたい。

……本当、あいつに対する感情は、どれが正解なんだろうな。

考え事をしながら歩いていくと、前方にマーガトロイド邸が見え始めた。

まさかこうも時間が経つことが気にならないとは……。

用事を終えたら、すぐに寝た方がいいなこれは。

魔法使いには本来、睡眠や食事といった人間が生きていく上で必要不可欠な動作は必要ないのだが……。

それぞれ捨食(しゃしょく)の魔法、捨虫(しゃちゅう)の魔法を会得し自らに掛けることで、完全な魔法使いになることが出来る。

人の姿をしながら、中身は全くの別物。

これは魔法使いになったらのことであって、残念ながら私はまだそこの領域に達してはいない。

だから「普通(ふつう)魔法使(まほうつか)い」なんだよ。

……そういや、あいつも似たようなこと言ってたっけ。

一応人間、とだけ言っておくよ、って……。

……っていかんいかん、何かあったらすぐあいつのことが頭に過ぎる。

全く、私らしくない。

気付けば、木製の扉の前まで来ていた。

明かりはまだ()いているし、起きていそうだな。

扉を軽く叩き、中の反応を待つ。

すぐに扉が開かれ、見慣れた人物が現れる。

ふんわりとしたセミロングの金髪に、赤いリボン。

青く透き通った瞳と、少し深めな青の長いワンピース。

その容姿はまるで人形の様。

「こんな時間に珍しいじゃない、しかも玄関からなんて」

「どこもかしこも窓から入ると思ったら大間違いだぜ。 私はこそ泥じゃないぞ」

「どの口が言うんだか。 で、どうしたの?」

「玲香ってまだ起きてるか? ちょっと用があって来たんだけど」

「えぇ、起きているわよ? 奥の部屋でちょっと手伝い事をね。 すぐに終わるでしょうし、中で待ってて?」

アリスの家であるマーガトロイド邸は、魔法の森で迷い偶然にもここに辿り着いた人間なども、快く受け入れ泊めている場所でもある。

しかし、綺麗な外装とは裏腹に、部屋の中の至る所に人形が置かれている。

そして、アリス本人も自ら話したがるタイプではない。

これらの理由から不気味でたまらない為、たちまち逃げ出したくなるそうな。

まぁ、私には関係ないがな。

「何手伝わせてるんだ? お前には人形たちが居るだろ?」

「あの子、あぁ見えて裁縫が上手でね。 上海(シャンハイ)たちの服を新調したくて、衣服作りを手伝ってもらってるの」

アリスの言う上海たちというのは、人形の名前だ。

上海に蓬莱(ホーライ)和蘭(オランダ)仏蘭西(フランス)……まぁ堅苦しい名前が多いんだ。

私にはどれがどれだか分からないが、アリスは全て把握している。

そのどれもが自分で作成したものであり、弾幕ごっこ以外の日常生活でも使っているようだ。

「できたー!!」

突然聞こえてきた大きな声。

思わずビクッと身体が反応してしまうが、その声には聞き覚えがある。

「アリス見て見て!! 出来た!!」

「はいはい分かったから走らないの。 見せて?」

「了解しましたー!! あれっ、魔理沙だやっほー」

「お、おぅ。 人形の服作ってたんだろ?」

「うん! じゃじゃーん、どうこの出来!?」

先程の声の主、木ノ内 玲香が手にしている小さな衣服。

普段の人形たちの服装はアリスと少し似ているのだが、今手にしている服装は私も見慣れないものだ。

……というか、玲香の服装に少し似ているような?

薄いベージュ色の(そで)のない服と、白のシャツ。

チェック柄の濃い灰色のスカート。

「……うん、糸の(ほつ)れもないし縫い目も隠れてる、いい出来ね。 早速着せてみるわ」

「アリスも着てみる? 私の貸したげるよ?」

「結構よ。 そういうの似合わないと思うし」

「そんなことないよ!! アリスはすっごくすっごく可愛いんだから、絶対似合う!!」

「……もう、今度ね」

「本当!? やったー!!」

「事ある事に抱きついて来ないで!!」

……あのアリスが、ここまでたじろぐとは。

玲香の独特のペースというか、乗せられない気がしないな。

「魔理沙も着てみる?」

「私もそういうのはいいかな。 そうだ、今日はお前に用があって来たんだよ」

「私に? ……もしかして告白……!?」

「するか!! 聞きたいことがあるから来たんだよ!」

……本当に掴み所がないなこいつは。

まぁ、そんな奴は(るい)を見ないし、見てる分には面白いがな。

「聞きたいことって? ここだと話し辛い?」

「うーん……そうだな。 あくまでも私個人の問題だし」

「魔理沙の問題? よく分からないけど、外の方がいいってことだよね。 アリスー、ちょっと出掛けてくるねー」

「えっ? えぇ、気を付けてね」

アリスの家を後にし、一度外へと出る。

どこか腰を掛けられる場所もないし……空中散歩と並行しようか。

「なぁ、玲香って空は飛べるのか?」

「もちろん! あーでも魔理沙は箒に乗るんだよね?」

「そうだな。 後ろ乗せてやろうか?」

「ううん、それは今度でいいや。 私だけ飛ぶのも寂しいし、これをこうしてっと……」

何やらブツブツと呟き始める玲香。

何も無い場所に青色の光が宿り、円を描いていく。

いくつもの線が交わり、一つの方陣が現れる。

魔法……なのか?

「出来た! これに乗っていくね」

 

 

 

 

 

「あ、泡か……?」

「うん。 私の水を操る能力『行雲流水(アクアライトスフェノス)』のお陰だよ。 最初はこんな泡でも苦労したんだけどねー……じゃあ行こっか」

軽く柔らかい音を立てながら、泡に寝そべる玲香。

そのままゆっくりと浮上していき、風の抵抗を受けることなく上昇していく。

なーんか気の抜ける飛び方だな……。

私も箒に跨り、玲香の後を追う。

今まで色んな奴を見てきたが、こんな風に飛ぶ奴は初めて見た。

「魔理沙も乗ってみる?」

「遠慮しとく、私にはこいつの方が合ってるからな」

「そういえば、聞きたいことって?」

「ちょっと、恭哉のことでさ。 さっきたまたま会ったんだけど……」

あの妖怪との戦闘のことは話してもいいよな?

確か、異変の首謀者として疑われていることは、玲香たちには話さないで欲しいって言ってたし、そこは伏せておこう。

「この世界に見慣れない妖怪が現れてるっていうのは知ってるか?」

「遭遇したことはないけど、慧音(けいね)さんから少しだけ聞いてるよ?」

「その見慣れない妖怪っぽい奴に襲われてさ、その時に初めて見ることが出来たんだよ。 恭哉の(あか)()を」

「えっ……!? 待って、恭哉は今能力が使えないんじゃ……」

「私もどんな手を使ったのかは分からない。 けど、いきなり人が変わったように思えたんだ。 離れていても息苦しくなる程の炎、今でも覚えてるよ」

炎の魔法や、炎の妖術(ようじゅつ)を扱う奴は知っているし、弾幕ごっこの経験もある。

私だって研究を重ねれば、炎の魔法など容易く扱えるはず。

しかし恭哉の炎の能力は、その比にならない程に、絶大なものだった。

もしあれが、まだ本気じゃなかったとしたら……?

想像しただけで、顔が(けわ)しくなるのが自分でも分かる。

「私さ、油断してて妖怪に攻撃されそうになったんだ。 でも、あいつが身を張って助けてくれた。 教えて欲しいんだ、何故あいつは……あそこまで、他の誰かが傷付くのを嫌がるのか。 出会ったばかりの奴にも、その身を犠牲(ぎせい)にしようとしてまで、助けようとするのか」

「……私でいいなら、話すよ。 恭哉も、魔理沙に自分の過去が知られて、嫌がる事はないと思うからね」

恭哉の過去、か……。

話すのには勇気がいる、とあいつは言っていた。

一体どんな理由が……?

「飛びながらでもいいの?」

「私は構わんが、お前はどうなんだ? どこかに降りるなら、それでもいいぞ?」

「ううん、私もこのままでいいよ。 少し長くなるけど、大丈夫?」

玲香の言葉に、首を縦に振る。

その様子を見て、玲香が前を向きながら、口を開き始めた。

「私が恭哉にその話を聞くことが出来たのは、つい最近のことなんだ。 半年前ぐらいだったと思う」

「本当に最近なんだな。 あいつが話したがらなかったのか?」

「うん……恭哉にとって、今の自分と昔の自分は全く違う者って認識みたい。 昔の恭哉は友情とか仲間とか、何かを守るとかは全部ただの綺麗事で大嫌いな言葉だって言ってたの」

自分さえ強ければ、どの場所でも生きていける。

(あらが)ってくるものも、(すが)り付いてくるものも、その全てを蹴落とし自らの道を進み続ける。

その進路に、自分以外の人間が居ると邪魔だ。

周りなんて、勝手にしていればいい。

自分は自分、というのが昔の恭哉の生き方だったらしい。

しかし、あることをきっかけにその考えは綺麗さっぱり無くなったようだ。

「恭哉はまだ小学校に上がる前にお母さんが亡くなって、その数年後にお父さんが何者かによって、殺されているの。 その犯人を探す為に、一人で遠い場所に行ってずっと一人で生きてきた」

「追い出されたとかじゃなくて、亡くなったのか……私ももう親と縁がある身じゃないし、自分から出てったもんだからな。 正しい感情かは分からんが、辛かったと思うよ」

「東京の他に大阪っていう場所があってね、そこに一人で行っていたの。 でも、ある事件が起きて恭哉は東京に戻って、私や結衣(ゆい)と出会ったんだ」

「その事件ってのは?」

中学校と呼ばれる施設に通っていた頃に、それは起こった。

その施設内に居た人間を無差別に惨殺(ざんさつ)する悲惨な事件。

恭哉自身も怪我を負ったが、唯一生存した人物であり、それ以外は全員死亡。

本当の孤独、不幸にもそれを手にしてしまったのだと玲香は言う。

まだ十歳にもならない頃に、兄弟とは別の生き方をしたことで、残された家族の中でも立場がなかったらしい。

中でも弟である海藤 京一との仲は最悪だったようで、京一は恭哉のことを兄とは認められずに居た。

自分を置いて遠い場所に言ったのではなく、離れていた間の恭哉の行動に問題があったようだ。

「中学の頃の恭哉は、毎日誰かの喧嘩を買ってばかりだったんだよね。 自分より弱い人には手を出さなかったみたいだけど、一対多数の喧嘩も引き受けたりして、ずっと自分以外の誰かを傷付けるだけの生き方をしてたんだ」

「でもその事件をきっかけに改心したってことか?」

「ううん、すぐにはそんなことなかったよ? 能力を手にしてからしばらくの間も、私も今みたいに仲良くなかったから」

「その能力ってのは、どうやって手に入れたんだ?」

「私は恭哉と同じ場所で契約(けいやく)を結んだの。 どんな状況だったかなー……うーん……」

契約?

玲香や恭哉に、能力のことを教えた人物が居るってことなのかな?

その事を聞いてみると、どうやら「精霊(せいれい)」というものが関わっているそうだ。

精霊って、確かパチュリーが詳しかったはずだな。

今度聞いてみるか。

「あ、分かってるかもしれないけど、私たちの中で一番強いのは間違いなく恭哉だよ? 私じゃどう頑張っても追い付けないって思うもん」

「何でだ? そこは努力とかでどうにかなるんじゃないのか?」

「ううん、たとえ追い付いたとしても、すぐに追い抜かれると思う」

すぐに追い抜かれるか……。

私にはそんな経験ないな。

あいつには、まだ追い付くことが出来ていないからな……。

 

 

 

 

 

「えーっと、魔理沙……? 大丈夫?」

「……んにゃ、すまんすまん。 ちょっと考え事」

いかんいかん、まただ。

昨日までは何ともなかったんだがな……。

「話が()れちゃったよね。 恭哉の強さは置いといて、次は何を話せばいいのかな?」

「能力について聞いてたんだ。 単に炎を操るだけなのか、気になってな」

「そっか、魔理沙はそこに気付いたんだね」

意味深な発言をする玲香。

どういうことだ?

「私たちは決められた属性を操る能力を持っていて、恭哉もそこは同じだよ。 でも、恭哉だけは、それには当てはまらない」

「まだ能力を隠して持ってるのか……?」

「恭哉の本当の能力は、体内の魔力を無限に増幅させることなんだ。 これを見て?」

胸元から一つの青いペンダントを取り出し、私に見せてくる。

水天一色ノ核(スペルオブウンディーネ)、玲香の水を操る能力の正式な名前らしい。

形は違えど、恭哉たちの仲間は皆同様のものを所持しているようで、恭哉もその例には当てはまる。

「中にはブレスレットだったり携帯と同化していたり、剣に宿っていたり……形は色々あるんだけど、恭哉はその実体がないんだ」

「失くした……って訳ではなさそうだな」

「うん、恭哉は一度能力戦で命を落としかけているの。 死の一歩手前に至る前に、核を身体と同化すること、そして失った人間の血液を魔族(まぞく)の血液で補うこと。 その二つを行うことで、恭哉は一命を取り留めたんだ」

魔族の血(ギルティブラッド)、それが人間と魔族と呼ばれる血が合わさった状態だ。

核というものは、常に魔力を少しずつ形成する力を持ち、それが玲香たちの能力の源となっている。

しかし身体と同化させた恭哉の場合、人間が元々持つ新陳代謝(しんちんたいしゃ)自然治癒力(しぜんちゆりょく)、それらと核の魔力を生む力が合わさり、無限に魔力を生み出すことを可能にしている。

なら何故、恭哉は自由に能力を扱えないんだ?

「魔力を無限に作り出せるんなら、恭哉が能力を使えないって言うことと矛盾してないか?」

「そうなんだよね……一応、能力を用いて魔術を使う際には原素(げんそ)っていうものも必要になるんだけど、恭哉は基本的には魔術(まじゅつ)を使えないから、魔力さえあれば戦えるはずなんだよね」

魔力を生み出す機能が失われている訳ではないが、能力は使えない。

……その生み出された魔力が、何処かに流れている……?

そんなことをして、一体何の得があるんだ……?

外の世界からの人間に、そこまでのことをする理由なんてないだろう。

「なぁ、思ったんだが玲香たちの言う『魔力』と私たちの世界で言う『魔力』は違うものなのか?」

「うーんどうだろう……考えたこともないから、分かんないや」

「もし同じなら、恭哉を魔法の森に連れてこいよ。 化物茸の幻覚作用は、魔力を高める効果があるんだ。 もし恭哉の体内に少しでも魔力が残っていれば、それである程度の能力は扱えるようになるはずだぜ」

他にも方法はあるだろうが、魔法の森に連れてくることが一番安全だろう。

現に、魔法使いを目指す者もこの場所で魔力を高めることがあるからだ。

「……試してみるしかないよね。 明日連れてきてみる。 魔理沙は明日時間あるの?」

「私か? まぁ特に用事がある訳じゃないしな、恭哉を連れてくるなら案内してやるよ」

「その時は宜しくね! 私アリスの家しか行ったことがないから、よく分かんなくて……そうだ、恭哉が普段何処にいるか知ってる?」

「昨日は紅魔館(こうまかん)に居るって言ってた気がするな……今は分からんが。 明日探してみようぜ、あては幾つかあるからな」

「じゃあそうしよっか。 ちょっとしたデートだね」

「そ、そんなことするか!!」

無邪気に笑ってみせる玲香。

本当、こいつはよく分からん。

明るすぎるというか、イマイチ緊張感がないというか。

いい意味でも悪い意味でも自然体なんだよな。

「冗談だってばー。 魔理沙は可愛いなぁ」

「急になんだよにやにやして、ちょっと気味悪いぞ」

「そんなことないよ! ほら、魔理沙もアリスも可愛いじゃん? 慧音先生は綺麗だし妹紅(もこう)さんはかっこ可愛いし、阿求(あきゅう)ちゃんは撫でてあげたいし……そう! この世界の子は可愛いの!!」

……何の話をしてるんだこいつは。

おまけに何か気持ち悪いし。

アリスたちが可愛いのは何となく分かるが、そこに私が入るのはおかしくないか?

うーん、やっぱりこいつは今までの奴とは違うな。

「ごめんごめん、私可愛いものに目がなくて。 あ、魔理沙が可愛いのは本当のことだよ?」

「知らんそんなの。 それより話を戻してもいいか?」

「うん、何の話だっけ?」

「魔力のことは明日試すからいいとして、お前たちの能力についてもう少し知りたいんだ」

「能力についてかぁ……何を話せばいいの?」

 

 

 

 

恭哉たちの持つ類を見ない珍しい能力。

玲香は水を、恭哉はおそらく炎を操る。

恭哉の弟である京一は、確か雷を操ることが出来るって言っていたかな。

その中でも気になることは、単に操るだけなのか、ということだ。

水や炎を扱うぐらいなら、魔法でも可能だ。

――恭哉たちの能力には、まだ隠された本質があるに違いない。

私の勘がそう告げているのだ。

なんか霊夢みたいだけど。

「まだ、能力について隠していることがあると思うんだ。 別にお前を疑っている訳じゃないんだが、魔法使いとして人間としての本性で知りたい」

「……隠す程のことでもないんだけどなぁ。 でも、私はアリスも魔理沙のことも信頼しているし、教えてあげる」

玲香に、下に降りるよう促される。

その意のまま、地上へと降下し薄暗い山道へと降り立った。

飛びながら会話をしていた為気が付かなかったが、ここは妖怪の山周辺の山道か。

夜ということもあり、景色の全貌こそ分からないものの、草木特有の匂いや流れる川や滝の音で、その場所のことは分かる。

玲香たち異世界の住人が思う程、この世界は広い訳じゃない。

「さっきも話した通り、私たちはそれぞれ対応した属性を扱える能力を持っているの。 ――行雲流水!」

玲香の声と共に、身体中を霊気を帯びた水の柱が包み込んでいく。

素人が扱う魔法とは、訳が違う。

でも、これは予想の範囲内だ。

この先に……隠された何かが、必ず……。

――あいつに追い付く為のヒントが、あるのかもしれない。

第一の鎖(ファーストチェイン)、解放。 水神の聖域(セイクリッドアトランティス)!!」

……なんだ、この感覚……!?

初夏の気候の、ひんやりとした冷たい空気とはまた違う。

正体不明の温かさと、力強く純粋な魔力を感じる。

身体強化、とでも言うのか……?

「行雲流水や京一たちの持つ能力には、それぞれ意図的に魔力を封印している鎖がいくつか存在しているんだ。 その鎖を断つことで、体内の魔力を爆発的に増加させ、今の状態にあるの」

「これが、まだみんなが知らない真の力……なのか……?」

「私のものはまだまだ弱いよ。 鎖もあと一つしか見つけていないもん。 でも、恭哉はもっと凄いよ?」

「あいつは、一体どれだけの力を隠してるんだ? それは努力で手に入れたものなのか……!?」

「……分からない。 私たちと恭哉の能力の間には、絶対的に違う箇所が存在するの。 その差を埋めることは、たとえ何十年何百年……どれだけの時間を掛けたとしても、追い付くことは出来ないんだ」

絶対的に違う箇所、か……。

確か恭哉の身体には、能力の源になる核が同化しているって言っていたが、それが違う箇所ってことか?

「教えてくれ、身体に(コア)を埋め込むことによって、あいつはどれぐらい強くなったんだ!?」

「それは――」

突如鳴り響く、聞き慣れない爆音。

この硝煙(しょうえん)の匂い……火事か!?

こんな時間に焚き火なんてするとは思えないが、そんな(やわ)なものじゃないな。

能力を解除した玲香と共に、音の鳴る方へ走っていく。

そう遠くないはずだ。

歩を進める度に、全身を感じたことのない熱気が包み込んでいく。

照り付ける夏の日差しとは程遠い暑さだ。

灼熱(しゃくねつ)の炎の近くにいるような……そんな熱さ。

いくつか、炎を扱う者には心当たりがある。

その中の誰も、この時間にこの場所に居ることは考えにくい。

一体誰だ……まさか、また妖怪なのか……!?

「玲香、気を付けろ。 なんかヤバい感じがする……!」

「私もそんな感じがするよ。 でもなんだろう、この感じ何か知っている気がする……」

「熱気ぐらい、私も知っているぞ?」

「ううん、そういうのじゃないの。 もっと、私に身近なものな気がする……」

……どういうことだ?

玲香の言う真意が分からないでいる。

熱気が弱まることはなく、一層激しさを増していく。

身体中が汗ばみ、喉が()れてしまいそうだ。

帽子の中からミニ八卦炉(はっけろ)を取り出し、いつでも戦闘に入れるよう準備をしておく。

玲香も同じらしく、手には銀色と水色が交わった二丁の拳銃が握られていた。

震水禍(メイルシュトローム)、私の武器の名前だよ。 まだ言ってなかったよね?」

「今更すぎるだろ……おっと、私のこいつはミニ八卦炉って言うんだ。 よろしくな」

「よく分かんないけど、後で詳しく教えてね! そろそろ着くよ!!」

私たちが辿り着いた場所は、先程の山道とは違い黒く焼け焦げ、荒れ果てた場所になっていた。

この景色が目に入ったと同時に辺りから光が消え、前方がよく見えない。

しかし瞬時に赤黒い炎の柱が聳え立ち、その中心を見据えることが出来た。

――嘘だろ……!?

なんで……なんでお前が……!!

「恭哉、なのか……!? おい、返事しろよ!!」

「そんな……なんで……!? 恭哉!!」

一瞬だけ見ることが出来たその姿は、紛れもなく恭哉のものだった。

炎の柱と共に、すぐにその場を去ってしまう。

「おい待て!!」

追いかけようとするも、玲香が私の腕を掴み、それを阻止する。

「もうダメ、魔力を感知出来ない……」

弱々しくそう呟いた。

私たちが追い掛けることの出来ない場所まで、姿を消している可能性があるという。

魔力には、そういう使い方もあるのか……。

「玲香から見て、あの炎は間違いなく恭哉のものなのか?」

「うん……間違いないと思う。 でも、何もない状態で能力を使うとは思えないけど……」

「何かあるんじゃないか? 探してみようぜ」

既に荒れ果てた山道を、調べることにした。

 

 

 

 

 

「そっちは何かあったかー?」

「こっちは何もないよー」

まだ硝煙の匂いの残る山道を、目に捉えられる範囲で捜索していく。

焦げ付いた灰や塵、赤黒く変色した斑点以外には何も見られない。

周囲を歩いていると、足に何か変わった感触があった。

程よく硬いその感触は、あまり感じたことがないものだ。

「なんだこれ? ――うわっ!?」

足元に転がっていた物体を拾い上げる。

それは……腕のようなものだった。

咄嗟に手から離し、その場で立ち竦んでしまう。

私の声を聞き付けたのか、玲香が駆け寄ってくる。

「何かあったの!?」

「……腕が転がってた」

「腕? ――まさか!?」

双銃を構えたまま、辺りを隈無く探し始める玲香。

何者かの腕が落ちていることによって、何かあるのだろうか……?

「……やっぱりだ。 ひどいよこんなの……!」

「何かあったのか?」

「魔理沙はあまり見ない方がいいかも」

「なんだよそれ、私は臆病者じゃない。 見せてみろって」

玲香の言葉を遮り、玲香の視線の先へと目をやる。

そこにあったものは……。

人型……いや、かつては人型に近い容姿をしていた者の死体だった。

腕は千切れ、全身の皮膚が焼け焦げ爛れ落ちている。

そのおぞましい姿に、吐き気すら覚えてしまう程だ。

こんな姿……この世界じゃ見たことがない。

弾幕ごっこで死に至る場合もあるものの、あれはゲームの一種。

あれ程無駄な遊びは他にないがな。

「この場所に居た妖怪なのかな? 人間っぽくもあるけど……どうしてこんな……」

「……あいつがやったのか……?」

「恭哉はそんなことしない!!」

今までに聞いた事のない怒声が響き渡る。

全身を震わせながら、必死にこちらを睨み付ける玲香。

その表情からして、恭哉のことを心から信頼しているのだろう。

私だって、あいつのことを疑いたくはない。

でも……あの姿は間違いなく恭哉のものだったんだ。

燃え盛る火柱だって、森で見た恭哉の炎撃によく似ていた。

「玲香は、本当に恭哉じゃないって思うんだな?」

「当たり前だよ、仲間だもん。 誰が何て言ったとしても、私は最後まで恭哉のことを信じるよ。 たとえ、この世界のみんなを敵に回してでもね」

「……なら、私もそれに乗っかるよ。 あいつには貸しがあるからな、私も疑ったりはしない」

――無意識に、そんなことを口走っていた。

はぁ……よく分からん。

少し前は怪しんだり、その後は悔しがったり。

あいつへの感情って、本当に難しいもんだな。

「……ありがとう、そう言ってくれて。 同じ世界に生まれていたら、いい友達になれる気がしたよ」

「違う世界でも、お前は私たちの友達だ。 もちろん恭哉や京一も、他の奴らもな」

「うぅ……ありがと魔理沙ー!!」

「うわっおいっ!! 抱きついてくんな!!」

本当にこいつは……。

被っていた帽子が落ちてしまう程、強く抱き締められる。

アリスにも同じことをしていたのだが、これは玲香なりの感情表現なのかもしれない。

変わり者が流れ着いたもんだよ……まぁ、面白いけどな。

「いいから離れろって……ひゃっ!?」

「うん、いい柔らかさ……」

「お、お前!! どこ触ってんだよ!!」

「あぁごめんごめん。 つい魔理沙の可愛いお尻が――」

「吹っ飛べ!!」

即座にミニ八卦炉を取りだし、照準も合わせぬまま玲香に魔法を放つ。

避けることも出来ず、大きく吹き飛び地面に落下した。

「いたたた……急に何するのさー!!」

「お前が変な所触るからだろ!? 何考えてんだ!!」

「いーじゃない!! そういう赤面してる所も可愛いし!!」

「良い訳あるか!! もう一発撃ってやろうか!?」

「そ、それはご勘弁をー!!」

……前言撤回。

こいつだけは要注意人物に入れて置いた方が良さそうだ。

よりによって……お、お尻を揉まれるなんて思ってもいなかった。

次やられたらすぐに弾幕を撃ってやる……!!

ま、まさかとは思うがアリスも同じようなことを……!?

いかんいかん、そんなこと考えるなんて!!

落ち着け……落ち着け私……!!

「どうしたの? 顔真っ赤だよ?」

「丁度試したい新魔法があるんだが、受けてみるか!?」

「いえ、結構です!!」

「分かればよろしい。 もう絶対触らせないからな!!」

敬礼の姿勢を取る玲香。

普段こんなのとつるんでいる恭哉たちの精神力は凄いものだ。

……って、流石にそれは失礼か。

まぁ、少なからずこの世界も変な奴が多いしな。

その方向性が違うってだけで。

「さてっと、ここにはもう何も無いし帰ろうぜ」

「他には調べないの?」

「焼け焦げている場所ばかりで、調べても何もないだろ? 明日、恭哉の無実を証明出来るものを探せばいいんだよ」

「それもそうだよね……帰ろっか」

「こんな時にはさ、この夜空の空気を楽しみながら帰るのが通のやり方なんだぜ」

返事の有無も問わぬまま、玲香を箒の後ろへと乗せる。

すぐに上空へと飛び上がり、幻想郷の夜空の旅を始めた。

「あの星もこの星も、手が届きそうなくらい綺麗だろ? 空を飛べる奴にしか、この楽しさは分からないんだ」

「すごーい……私たちの世界よりも、ずっと綺麗な空だね」

「だろ? 狭くて退屈かもしれないけど、私はそんな場所が大好きなんだ。 この世界を……恭哉には壊して欲しくない」

「必ず、真実を解き明かさないとね!!」

「だな。 よしっ、今日は魔理沙さんが幻想郷、星の夜空ツアーを披露してやるぜ!」

「よろしくお願いします!! 素敵な素敵な魔法使いさん♪」

帽子を整え、箒をぐっと握り締める。

明日、どうなっているかは分からない。

それでも、明日を……恭哉のことを信じている。

今までだって、いくつもの異変を乗り越えてきたんだ。

――夜空を徘徊(はいかい)しながら横目に見えた、一つの流れ星。

本来なら白く輝く星なのに、今だけは少し紅く見えた。

いい意味であって欲しいけどな……。

……って、うだうだ考えてても仕方ないか。

脳裏に浮かぶ迷いを身に受ける風と共に空へと放ち、星々が(いろど)る夜空を駆けて行った。

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