東方幻奇譚 ~the Eighth Fantasy. 作:TripMoon
アリス・マーガトロイド
万能型の魔法使いであり、様々な魔法の扱いに
戦闘以外でも彼女の作った人形は彼女の意のままに動き、共に暮らしている。
外の世界から迷い込んだ人間の一人、
玲香自体が
内心、悪くは思っていないご様子。
それを毎日身に受けることが出来たら、どれだけ幸せなことだろう。
ただ、私には無関係なことであって……。
「すぅ……あだっ!?」
心地よく寝ていた私に向かって、何かが落ちてきた。
誰だよこんな所に置いたの……私か。
私の家だもんな、うん。
朝が訪れたとしても、ここ
どの時間でも薄暗いことが特徴的な場所だ。
この土地感の方が、
元気に育ってもらわないと困るからな。
時計を見るからに、まだ
昨日は、あれから時間を忘れるぐらい、玲香と夜空を飛んでいた。
連れ出した時に聞いたのは暗い話が多かったこともあり、楽しい話題で持ちっきりになっていた。
変わり者中の変わり者のあいつだが、根はしっかりしているし、女の子らしい
アリスの様に上品って言う感じじゃなくて、年頃の明るく活発な女の子。
色々な話を聞いたな……。
恋がどうとか、色々……。
印象に残っているのは……。
「
一体何のライバルなのかは分からないが、
誰が相手だろうが何の勝負だろうが、私は負けるつもりはないさ。
っと、見えない相手に
――玲香を迎えに行くまで、少し時間を潰すことにするか。
森に生い茂る木々の
私は小さい頃から物を集める癖があり、その結果が
用途が分からなくても、私の手元にあることに意味があるんだよ、こいつらはな。
時間を潰すのなら、あの場所でいっか。
着替えを済ませる前に寝巻のまま、窓から外の景色を眺めてみる。
本来ならば、魔法の森では日差しが地面に届くことは殆どない。
しかし、私が暮らしている場所である「
理由は単純で、周りの木々を全て切り倒してあるから。
まぁ、倒したっていうよりは魔法の実験でどっかに吹き飛んだって方が正しいんだけどな……。
ほら、若さゆえの過ちってやつだよ、うん。
よし、そろそろ行くとするか。
白のブラウスのボタンを留めていき、好んで着ている黒のサロペットスカートへと手を伸ばす。
……そういえば、あいつはシャツのボタンを、あまり留めていなかったな。
少し、真似をしてみる。
……ナシだな、これは。
流石に恥ずかしすぎるだろ。
ま、丸見えとまでは行かないが、少しかがんでしまえば……その、見えるというか……。
というか、私はまだ上に着るものがあるじゃないか。
とっとと着てしまえ。
手に取ったスカートを履き、腰の辺りから白いエプロンを着けていく。
髪も簡単に整え、鏡で確認していく。
うん、今日もバッチリだ。
これで魔法使い霧雨 魔理沙さんの完成……っと、いかんいかん忘れ物。
つばの広い黒の三角帽を被り、机に置いてあるミニ
こいつがないと、私は私じゃなくなってしまうからな。
室内の空調を整えるひんやりとした風を止め、ポケットへとミニ八卦炉をしまう。
扉に立て掛けてある箒を持ち、外へと出た。
朝日を浴びながら、身体をぐっと伸ばす。
昨日の薄暗くもやもやした気持ちは、どこかに飛んで行ってしまった様に、すっきりとした気分だ。
玲香と話したことが効いたのかは分からないが、とにかくいつも通りの私ってことだ。
箒に
空を見上げると、眩しくて目を覆ってしまいそうになる程の快晴。
少し前には、あの空へと天高く伸びる
……ダメだ、何かあるとまた結び付けてしまう。
私は何があっても、あいつを信じるって決めたんだ。
魔法使いに二言はないからな。
とにかく今は、玲香を迎えに行く準備をしないと。
まだ朝も早いし、少しだけ寄り道はするけどな。
時間を潰す為、私はある場所を目指した。
目的の場所に辿り着き、箒を降りる。
私がやってきたのは、魔法の森の入口にあたる和風の一軒家。
誰かの家ではなく、ここは古道具屋だ。
「
外の世界の道具や私の求める魔法具、ガラクタになり得てもおかしくない程の
一体どこから仕入れているのかは分からないが、ここの店主「
最近では、ここに直接外の世界のものを持ってくる人物も居るらしいが……?
ひょっとすると、
ドアノブに手を掛け、ゆっくりと開く。
中には所狭しと様々な物が置いている。
いや、散らかっているという表現の方が正しいのか……?
一応商売人の身なんだし、少しは片付けた方が……って、そりゃ私も同じか。
うーん、何かめぼしい物はーっと……。
私の
――お、いいもの見っけ。
私が手に取ったものは、小さな指輪だ。
輪の部分は
文字というより、これは……どこかの魔導書で似た模様を見たことがある。
確か……
香霖の店にこんなものが置いてあるなんて、極めて珍しいことだ。
外の世界から流れ着いた得体の知れないものが多い為、私にとっても見慣れないものが多い。
しかし、この指輪に刻まれている魔法文字を読むことは出来るし、意味も分かる。
隈無く見てみると、輪の部分にも何か書いてあるようだ。
所々
……
その
さすれば
……それ以降の文章は、霞んでいて解読出来そうにないな。
ってあれ、何かおかしいな。
こんな小さな指輪に、ここまで長い文章が刻まれているのか?
私の知る魔法文字の規則には、そんな解読法は載っていなかったはず……。
……面白いじゃないか、こいつ。
ここまで知的好奇心をくすぐられたのは、久々だぜ。
よし、こいつは私が借りていこう。
なーに、解読したらすぐに返すさ。
死ぬまでに覚えていれば、だけどな。
さてさて、他にめぼしい物はー……。
「おや、お客さんかと思ったら魔理沙か」
店の奥から、一人の人物が顔を覗かせる。
白髪にも似た銀色の短い髪と、宝石の様に綺麗な金色の瞳。
この世界じゃ少し珍しい眼鏡と、洋服と和服を合わせた青い服。
無気力そうな目と表情は、昔から変わらず見慣れたものだ。
「よっ香霖。 邪魔してるぜ」
「珍しいじゃないか、こんな時間に盗みに来るなんて」
「人聞き悪いこと言うなよー。 私はただ借りに来てるだけだ」
「
「それはほら、私とお前の仲で水に流そう。 なーに、死んだら返すって」
「その台詞も聞き飽きたよ……まぁ、今に始まったことではないし、別に構わないが」
溜め息混じりにそう告げる。
この人物こそが、この香霖堂の店主である森近 霖之助。
私がまだ幼かった頃からの関係で、今も尚その仲は深いものだ。
私の蒐集癖や空に浮かぶ星々に興味を持ったこと、宝物であるミニ八卦炉を作り替えてくれたり、何かと手を焼いてくれる人物でもある。
他にも服を直してくれたり、魔道具を提供してくれたりと、色々と世話になっている。
私の場合、借りているだけだけどな。
霊夢は知らんが。
今でもよく覚えている。
私が実家を
懐かしいなぁ……。
あの頃は、実の兄のように
今思うと、ちょっと照れくさいけどな。
「どうしたんだい? そんな表情を見るのは初めてだ」
「何でもないよ。 そうだ、ちょっと聞きたいんだけどさ」
「最近、外の世界から何人かの人間が幻想郷に流れ着いただろ? その人間の誰かが、この店に来たりしたことあるか?」
「いや、そんな人物は見ていないな……第一、僕から探しに行くことはないし、会うことはないだろうが」
「勿体ないなぁ、結構面白い奴でさ。 私は気に入ってるぜ」
「珍しいじゃないか、魔理沙が気に入るなんて」
「香霖もたまには重い腰を上げな。 そうすれば、見えるものもあるかもしれないしな」
「ふっ、魔理沙にそんなことを言われる時が来るなんてね……」
何故か、感心した様な表情を見せる香霖。
お前は私の親か。
「それで、どんな人間なんだい?」
「かなり変わった奴だよ。 中でも一番変わってるのが、霊夢みたいな奴でさ」
「ふむ、霊夢みたいな人間か……僕の店のことは教えないでくれよ? ツケが増えるのは
なるほど、霊夢はツケにしてるのか。
まぁ、あいつに払える程の金銭なんかないだろうしな。
「霊夢みたいに適当な奴じゃないって。 なんかこう不思議な奴なんだ……目には見えない不思議な魅力があるっていうか」
「成程な……それは少し興味深くはあるが、この森まで来れるのかい?」
「今日連れてくる予定なんだよ。 ここも案内してやるぜ」
「お手柔らかに頼むよ」
恭哉もどこか落ち着いている所もあるし、香霖と会わせても問題ないだろう。
外の世界の道具のこととかも気になるしな。
香霖はあらゆる道具の「名前と用途」は分かるのだが、「使用方法」は分からないという不思議な能力を持っている。
その点外の世界出身の恭哉たちなら、この場所に置いてある見慣れない道具たちのことは分かるだろうという算段だ。
私の知的欲求を満たすには丁度いいからな。
「楽しそうだね」
「えっ? そんな顔してた?」
「していたよ。 会いたくて堪らないって顔だ」
ま、まっさかー……。
私がそんな顔する訳ないだろ?
試しに棚に置いてある鏡を見てみる。
うん、いつも通り私らしい表情だ。
香霖め、変な薬でも飲んだんじゃないか?
何度尋ねても、真意は教えてはもらえなかった。
「そうだ、最近見慣れない妖怪が出現しているって異変について何か聞いてないか?」
「いや、何も聞いていないよ。 魔理沙は見たのかい?」
「確信はないけど、見たかもしれない。
私がそう告げると、何やら分厚い書物を取り出して来た。
軽く流す感じでページを
私も顔を覗かせ、何を探しているのか一緒に見てみる。
ページの至る箇所に何やら気難しそうな細かい文章と、白黒の雑な
自分で読む分にはナシだな、ちっとも面白くなさそうだ。
「蠍には該当しないが、こいつが近そうだな」
「何て読むんだ? そんな本どこから拾って来たんだよ」
「
香霖が開いたページには、昨日見た虫の妖怪に
香霖によると、この蜘蛛と蟷螂が合わさった様なものの名前は「
外の世界の遥か昔の神話に存在していたとされる、生き物らしい。
名前以外は解読することが出来ておらず、記されている言語の文法さえ分かっていないようだ。
何故名前だけは分かったのかは、疑問だがな……。
見た感じ、ただの古臭い
「その似たような妖怪が、何で幻想郷に居るんだ? 理由もなく私たちを襲ってきたし、あんな大きい虫が居ればすぐに見つかるだろ?」
「……襲われたのか!? 今の魔理沙を見るに怪我はしてないようだけど……それは、いつの出来事なんだ?」
「私のことを助けてくれた奴が居てさ、そいつが今日魔法の森に連れてこようとしている奴でもあるんだ。 昨日の夜、たまたまそいつと会ったんだ。 星を見ながら話していたんだが、急にその虫が現れて襲われた」
「その助けてくれた人物というのが、外の世界から流れ着いた人間だと……?」
香霖の言葉に首を縦に振る。
信じ難いという表情をしていたが、私の供述ともありすぐに納得した様子を見せた。
「確か、外の世界の人間たちと言っていたね。 この書物も外の世界のもので間違いないだろうし、誰か解読することが出来るんじゃないかな」
「……それもそうだな。 その人間たちにはあてがあるし、私に貸してくれないか?」
「僕も渡そうと思っていた所だ。 少し重いが、魔理沙に預けるよ」
香霖から書物を受け取る。
言葉の通り、力を抜いてしまえばすぐに落ちそうになる程にずっしりとした重さだ。
時間も丁度いい頃合だろうし、玲香と合流したら聞いてみるか。
確か、全員で八人だったか……?
一人ぐらい知識人が居てもおかしくはないだろう。
「そろそろ行くよ、また来るぜ」
妖怪らしきものが記された書物と、内緒で持ってきた指輪を持ったまま、外へ出ようとする。
香霖に呼び止められ、後ろを振り返った。
「気を付けるんだよ」
「分かってるって。 じゃあまた後でな」
外へ出た後、玲香の居るマーガトロイド
「魔理沙ー!! 待ってたよー!!」
私がマーガトロイド邸に降り立つと同時に、玲香がこちらへと両手を大きく広げ駆け寄ってくる。
これはまた抱き着かれるな……。
受け止めようとせず横に流し、扉を開けたままこちらを見ているアリスに声をかける。
「よっ、魔理沙さんのご登場だ」
「相変わらず元気ね……。 その本は何? また盗み?」
「香霖から借りてきた。 内容はよく分からんが、中々面白そうでさ」
試しにアリスに見せてみるも、やはりアリスも内容までは分からないようだ。
私と同様に妖怪らしき挿絵と、見慣れない文字が細かく並べられていることだけは読み取ることが出来たらしい。
玲香は……分からなさそう。
「いつまで寝てるんだ、いくぞ」
「ひどいよぉ……折角挨拶しようとしたのにー……」
「いきなり飛びつこうとしてくるからだろ?」
「じゃあ前もって言っておけばいいの!?」
「ダメ」
大きく
忙しいなぁこいつ。
「まぁまぁ、気を付けてね」
「アリスは優しいなぁ……その優しさに涙が出ちゃうよ、女の子だもん」
「意味分からないこと言ってないで、探しに行くぞー」
「魔理沙はツンツンだなぁもう。 じゃあ、行ってきます!」
昨日と同じで魔法陣を描き、大きな泡を
ぽよんと音を立て、その場にもたれかかる玲香。
本当、異様な光景だな。
後、そんなに短いスカートだと……見えるというか……。
興味なんてないし見るつもりもないが、何故か気になってしまう。
「ん? どうしたの?」
「な、なんでもない!」
「あっ……魔理沙のえっちー」
「吹っ飛ばすぞ!?」
私よりも先に飛び上がって行く。
アリスに軽く手を振った後、その後を追う。
「とりあえず
「はぁーい。 その小馬館ってどんな場所なの?」
「
「き、吸血鬼!?」
玲香は顔を真っ青にしながら、わざとらしく震え出し始めた。
まるで何かに
吸血鬼って、そこまで珍しい存在なのか……?
私たちの世界じゃ至って普通の存在だし、言ってしまえばただの妖怪の一種に過ぎない。
「た、食べられたりしないよね……!?」
「そんなことされないって、血は吸われるかもしれないがな」
「ひいぃ!! ほ、本当にそんな場所に恭哉が居るの……!?」
「昨日確かにそう言ってたんだ、仮に居なかったとしても手掛かりぐらいはあるかもしれないだろ?」
「うぅ……お化けはちょっとなぁ……」
なるほど、こいつも
妖夢と会わせて肝試しでもさせたら楽しそうだな。
いい酒の
これはまた、面白いことを思い付いてしまったぜ……自分の才能が怖いな。
「まぁ今日は私も居るし、心配すんなって。 そうだ、玲香はこれ読めるか?」
箒に乗ったまま、泡に乗っかっている玲香に書物を渡す。
不思議そうな顔をしながらも、何度かページを捲り目を
あまり知的には見えないが……。
「これ、一体どこにあったの?」
意外な発言をする玲香。
まさか、内容が分かるとか?
心の中で前言を撤回しておこう。
「香霖の所から借りてきたんだよ。 私が昨日遭遇した妖怪に似たやつが載ってたみたいでさ、もう少し後の方なんだけど」
載っていた大体の場所を教え、ページを捲ってもらう。
あまり気味のいいものじゃないがな。
「うーん、私もあまり詳しい方じゃないんだけど……ここに載っているのは、世界の神話や伝説に登場する神様や妖怪、
「本当か!? そいつの名前だけは分かったんだが、どういう奴なんだ? 妖怪なのか?」
「妖怪というより、神話に登場する女性の名前だね。 ほら、よく見ると人の形がまだ残ってるでしょ? ここの
玲香が指差す挿絵をよく見てみると、確かに人の姿は確認出来る。
それに女性の名前ってどういうことなんだ……?
昨日の妖怪の姿を、詳しく伝えてみる。
「確かにこの絵とは違うね。 そうだ、私の仲間にこういう話に詳しい人が居るから、この本を見せて聞いてみようよ」
「そうなのか、因みにそいつの名前って?」
玲香たちの仲間の中でも群を抜いて知能に優れており、様々な知識を持っているらしい。
唯一、人間とは違う存在。
肉体のみ人間で、魂や記憶の全てが、かつて「
そういえば、恭哉も天界や魔界がどうとか言っていたな……。
霊夢が驚いていたのを覚えている。
ざっと数千年はこの世に存在しているらしく、実力も確かなようだ。
難点としては、己が望むもの以外の全てに興味を示さず、冷酷な一面も持つとのこと。
私なら問題ないと言っているが、どうだろうな。
「で、そいつが何処にいるのかは分かるのか?」
「うーん、昨日会った時は恭哉と一緒に居たんだよね。 だから、紅魔館で恭哉の居場所を聞いて、そこから章大のことを聞いてみよっか」
「そうするしかないか。 もうすぐ着くぞ、あそこに湖が見えるだろ? あの近くなんだ」
紅魔館のすぐ近くにある大きな湖。
「
現在の時間が昼時に近い為、霧に覆われているはずなのだが……。
何故か、水面が空の上に居ても見えてしまっている。
こんなこと、今までなかったはずなんだが……。
「ね、ねぇ……湖なんだよね!? あんなに大きな魚も居るの!?」
「えっ? ――なんだあれ!? 玲香、降りるぞ!! あそこには力の弱い
進路を変え、一気に急降下する。
玲香の言う通り、水面には黒く揺らめく巨大な
霧の湖は釣りの名所であり、
――なんだ、この寒さは……?
少し肌寒くなってきた。
玲香の水の能力とは違う……これは一体?
よく氷精や妖怪が遊んでいるとはいえ、ここまで冷気が及ぶとは思えない。
あの巨大魚の力なのか……?
「魔理沙見て!! 水面が凍っていく……!?」
玲香の言う通り、水面が徐々に凍結し始めていく。
自らの身を閉じ込める様な真似をするとは思えない。
ってことは、誰か他に居るってことか……?
湖の近くに降り立ったと同時に、凍結していた水面が
それと同時に、巨大な魚影の主が天高く伸びていく。
「おいおい、なんだよこのでかさ……。 釣り名人が見たら腰抜かすんじゃないか?」
「そんな
「分かってるって!
全長がどの程度あるのかは分からないが、水面から出ている胴体からして、尾の先端まではまだまだ続いていそうだ。
全身は青みがかった銀色で、鋭い眼光と鋭利に尖った無数の歯。
こんな魚、見たことないぜ……。
魚なのかも怪しいがな。
「
「馬鹿言え、あんな大きな魚なんて居る訳ないだろ?」
「ってことは、例の見慣れない妖怪で間違いないのかな……?」
「多分な。 連日出会うなんて、私は妖怪退治専門じゃないんだがな。 今度こそぶっ倒してやる!」
「私も戦うよ!
次は玲香と共に妖怪と戦うことになるとはな。
自分の強さについてはあまり話していなかったが、玲香の実力はどの程度なのだろうか?
後方から弾幕とスペルを放つ体勢を取りたいところだが、玲香の武器は
その為、二人とも接近戦より遠距離戦の方が向いていることになる。
両方の様子を見ながらの戦法は難しいか……?
……あー考えるのは辞めだ。
これだけでかい図体だし、紅魔館の連中もすぐに勘づくだろう。
あのメイドが来る前に、片付けてやる!
「
私を取り囲む四つの光の球体。
私の動きに連携してレーザーを放つスペルだ。
様子見には丁度いいだろう。
「こっちも行くよー!!
少し離れた位置を飛び続ける玲香は、双銃から青白い銃弾を無数に撃っている。
弾幕には似ているが、少し違うな。
でも、いい線いってるぜ……?
「うーん、あんまり効いてない……? それじゃあ、これはどう!?」
双銃を高く放り投げ、無防備になる玲香。
何やってんだ!?
そんなことしたら、格好の的だぞ!?
「
空に投げられた双銃が回転しながら、姿を変えていく。
銀色と青色の配色は同じまま、銃口の多い火器へと変形した。
玲香はそれを少しよろめきながらも受け止め、再び巨大魚へと構える。
これも、まだ明かしていない能力の一つなのか……?
「
上空へと構え、雲目掛けて一斉に射撃を初め出した。
銃弾は一点に収束し、巨大魚の頭上から
おっと、関心してる場合じゃなかったな。
私も負けてられないぜ!
背後を目指し、巨大魚の横を飛び去っていく。
目を凝らしてみると、
こんな全身凶器みたいな奴、恭哉ならどう倒すんだろうか。
玲香による銃撃で身体を縮こませる巨大魚の背後を、私は捉える。
うん……?
あの模様、どこかで見たことが……。
っと、今はそれ所じゃないか。
玲香が銃撃なら、私も少し真似てみようか。
バランスを保ちながら、箒の上に乗る。
私だって箒が無くとも宙に浮遊するぐらいどうってことはないが、箒に乗っている方が魔法使いらしいだろう?
「次はこっちだ!
先程呼び出した四つの球体によるレーザーと、私が発動した無数のレーザー弾幕。
様々な色を織り成しながら、巨大魚へと弾幕を放っていく。
昨日の虫の妖怪、
これで押し切ってやる!!
「魔理沙!! 大きく右に旋回して!!」
玲香の叫び声が響き渡る。
右に旋回って、まだ攻撃の途中なんだぞ……!?
……いや、ここは従っておいた方がいいか。
昨日、それで恭哉に怪我を負わしているんだ。
あんなみっともない真似、二度と出来るか!
弾幕の放出を中断し、言葉通り右に旋回し始めていく。
私が動き出すのとほぼ同じタイミングで、青色の巨大な水の刃が地を
「数で押すのはダメみたい。 私が隙を作るから、魔理沙は攻撃の準備をお願い!!」
「分かった、気を付けろよ!!」
一度大きく距離を取り、巨大魚の視界から姿を消す。
玲香は私と逆に距離を詰め、攻撃を誘っている様な動きを取る。
私なんて強くないよ。
そう言っていた癖に、得体の知れない妖怪に
お前は強いぞ、この世界でも遅れなんて取らないぐらいにな。
さて、私はどうあいつに攻撃を撃ち込むか考えないと……。
もちろん、火力には自信がある。
それでも、先程のスペルはびくともしていなかった。
身体の耐久性は優れているってことか……。
弱点の一つでも見つかれば楽なんだが……。
しかし、そう都合良くは見つからない。
しばらくの間は、周りを飛びながら奴の様子を見た方がいいかもしれない。
ミニ八卦炉を構えたまま、巨大魚の周りを旋回していく。
玲香が上手く注意を
あの胴体を斬り裂くのは難しいし、かといって決定打に成り得るものもない。
……待てよ、魚には水が必要不可欠。
そうか、ミニ八卦炉で炎を出して湖の水を蒸発させれば!
水温を上げ、水蒸気へと変えることが出来れば!
いくら図体がでかいからって、所詮は魚だ。
虫が炎で燃え尽きた様に、同じ方法を取れば退治出来るはず。
そうと決まれば、水面に出来るだけ近付かなければならない。
まだ気付かれていない内に……!
箒に乗ったまま、水面を目指した時だった。
砂埃と共に叩き付けられた、一つの人影。
軌道を変え、その方角へと急いで向かう。
「玲香!!」
先程まで攻撃の誘導役を担っていた玲香が、地面へと叩き付けられていたのだ。
何か特殊な攻撃が……?
玲香の元へ向かいながら横目に巨大魚の方を見てみると、いつの間にか
なんてこった……あんなにでかいのか……!?
長い胴体を巻き、玲香の死角を付き尾で攻撃を仕掛けた。
そう考えるのが自然だろう。
「大丈夫か!?」
「私は大丈夫、また攻撃が来るよ。 避けて!」
玲香の言葉通り、いくつもの小さな
鱗をそのまま飛ばしてきたのか……?
玲香の腕を掴み、そのまま空を目指す。
刃の雨を
「お前、血が!」
「このぐらいの傷なら大丈夫だよ」
負傷した箇所を手で押え、目を閉じる玲香。
すぐに手に光が集い、傷口を治し始めた。
「
「そんな魔法もあるのか、やっぱりお前は面白いな」
「そんなに褒められると照れちゃうなー。 さて、反撃開始といこっか!」
巨大魚の頭部がこちらを捉え、振り向こうとした時。
「
「コールドストライク!」
声質の異なる、二つの声が響く。
それと同時に、巨大魚の胴体を氷の
耳を塞ぎたくなる程の
先程の水面の凍結と何か関係が……?
「どうだ! さいきょーのあたいの攻撃は!!」
「私の氷の力も、負けてないと思うけど?」
「あたいの次ぐらいには強いと思うぞー。 で、何するんだっけ?」
「あの水弾を見るからに、私の友達がこの近くに居るはずなのよ。 チルノ、探すのを手伝ってくれる?」
「まー仕方ないな、手伝ってやる!」
チルノ……そうか、あいつか。
この辺に住んでいる妖精だもんな。
でも、あの巨大魚に一発咬ませられる程強かったか?
もう一人誰か居るみたいだが、見たことない奴だな。
「さっきの氷撃……やっぱり! おーい!!」
何かを確信したのか、大きく手を振りながらある人物に向けて声を発する玲香。
チルノと顔見知りには見えないが……。
っつーか、巨大魚はどうすんだよ!?
……放っておいたら、それこそ周りも見ずに突き進んでしまいそうだし、一緒についていくか。
巨大魚を注視しながら、玲香の後を追う。
私の推測は当たっていたようで、先程の氷の剣閃はチルノの攻撃で間違いないみたいだ。
見慣れない人間が一人居るけど……?
黒く長い髪と少し青みのかかった瞳。
紺色の袖のないベストと、白のブラウスと玲香と同じチェック柄のスカート。
「結衣ー!! 会いたかったよー!!」
「やっぱり玲香だったのね。 っと、ちょっと待ってね」
巨大魚の方へと手を翳し、何やら呟き始める結衣という人物。
こちらの姿を見つけたのか、大きく口を開き
「これで少しは話す時間が出来そうね、ほら離れて離れて」
抱き着いたままの玲香を軽くあしらい、こちらへと顔を向ける。
なんだよ、抱き着くのは誰でもいいのかお前は。
……妬いてる訳じゃないぞ……?
「とにかく、無事でよかったわ。 やっと誰かと会えたし」
「なーなー、こいつは誰だ?」
「玲香って言ってね、私の大事な親友よ」
「えーっと、妖精……なのかな? よろしくね!」
「あたいはチルノ! 幻想郷でさいきょーの妖精様だぞ!!」
「小生意気な妖精……アリ!! あの巨大魚を片付けたら、ぎゅーってさせてね!?」
玲香の発言に小首を傾げるチルノ。
無視していいからな、と忠告を入れておいた。
「
「気にしてないよ、あんな変わり者は初めてだからな。
玲香には無い大人びた雰囲気。
どことなく、アリスに似ているかもしれないな。
それに先程の氷撃を見る限り、少なくともチルノや玲香より実力が高いことが分かる。
一度戦ってみたいもんだな。
「もうすぐ鎖が溶けるころでしょうし、次の作戦を考えなきゃね」
「……あの二人は放っておいていいのか?」
結衣と話していると、玲香とチルノは追いかけっこを始めている始末。
本っ当に緊張感ないなお前。
攻撃を受けた時、心配して損したぜ。
「仕方ない、私たちで対処しましょうか。 性質は魚類同様、表面が乾燥するか、湖の水を蒸発させてしまえば力尽きると思うけれど……どうかしら?」
「水の蒸発は私も考えたんだが、チルノみたいにあの場所で遊ぶ妖精や妖怪が居るからな」
「となると、後者の方法は駄目ね。 奴の注意を
結衣の立てた作戦はこうだ。
巨大魚の注意を私と玲香で惹き付け、チルノと結衣が奴の死角に潜り込む。
胴体の
玲香の
あれ程の巨体を凍結させるには時間が掛かる為、その間奴の攻撃を凌いで欲しいとのこと。
どれ程の実力なのか確かめたいし、乗ってもいいだろう。
チルノの攻撃が格段に強く見えたことも気になるしな。
「いいぜ、乗った。 玲香ーそろそろやるぞー」
「えっ? 何するの?」
「バカかお前は!! あの巨大魚をぶっ倒すんだよ!!」
「あぁそうだった。 よし、やろう!!」
あー気が抜ける。
玲香が意気込んだのと同時に、複数の氷が砕ける音が響き渡る。
即座に口を開き、水の刃を放ち出した。
予め身構えていた二人はすぐに戦闘態勢に入り、余裕を持って回避している。
私もすぐに箒に跨り、玲香の腕を引いて大きく飛行を開始する。
「手筈通りにお願い!」
「おぅ!! 任せとけ!!」
結衣とチルノと分断し、玲香と共に巨大魚の動きを窺う。
作戦を一通り説明し、結衣たちの動きに備えておく。
「魔法で巨大魚を浮かすって言っていたけど、そんなこと出来るのか?」
「動きを拘束することさえ出来れば、大丈夫だよ! おっとっと!?」
刃の雨と共に、玲香の銃弾に似た水の
弾幕そっくりだ。
ということは、こっちの弾幕も受けてもらわなきゃ困るな!
「攻撃を惹き付けてくれって言われたけど、こっちが手を出しても問題ないよな?」
「ダメージを与えて弱らせることも出来るし、いいと思うよ?」
「だよな、よし……行くか!
私を中心とし、その周りを惑星の如く
ただし、こいつらはあくまでも準備に過ぎない。
「そうだ、まだ魔理沙に話してない私の能力があるの。 私の魔力、存分に使って!
玲香の魔力を使う?
その言葉の意味を理解する前に、私の手を青い光が包み込む。
不思議と冷たくはなく、寧ろ暖かいぐらいだ。
「これで、魔法の威力がより強くなるはずだよ」
イマイチ
私が最も信頼している、こいつでな!
「
――ん?
これは……驚いた、まさかここまでなんて。
七色のレーザーに青い光が
先程までの攻撃では何ともなかった巨大魚が、呻き声を上げその身を大きく
「どう? 強くなってたでしょ?」
「こいつは大したもんだな……。 ガンガン攻めたい所だが、今の私たちの目的はあいつの注意を惹き付けることだからなぁ」
「さっきのはマスタースパーク改め、アクアライトスパークって所かな? また次回のお楽しみにってことで。 次が来るよ!」
「よしっ、行くぜ!」
身体を前に傾け、飛行姿勢に切り替える。
文程ではないが、私もスピードには自信があるからな。
奴の視界に入る様わざと高度を上げ、こちらへと注意を向ける。
これだけの巨体なんだ。
動きが
後は、向こうの準備が終わるのを待つだけだが……。
どう仕留めるつもりなのだろうか。
そういや、玲香は大丈夫かな?
飛びながら玲香の姿を探す。
少し目を離したら、地面に叩き付けられていたしな……。
あいつが強いのか弱いのか、イマイチ分からなくなってきた。
なんつーか……ドジだし。
お、居た居た……って何で私の目の前に?
理解する前に、光の
「よそ見してちゃダメだってば!」
「お、おぅ……。 この結界も、お前の?」
「私って攻撃することよりも、後ろから支援する方が得意なんだ。 この結界ぐらい、おやすい御用!!」
この結界ぐらい、か……。
巨大魚の攻撃を全て受け流す訳ではなく、結界が吸収していく。
ただ防いだだけでは、周りに被害が及んでしまう。
そのことも踏まえての行動だろう。
まさか、こいつも同じなのか……?
努力なんかじゃなく、才能でここまで……?
「二人とも、その場所から離れて!!」
結界を纏ったまま、巨大魚から距離を取る。
攻撃を終え、こちらを見据えたままの巨大魚を青白い冷気が取り囲み始めた。
「
冷気は次第に濃く深くなっていき、巨大魚の全てを凍てつかせた。
完全に閉じ込められ、身動き一つすら取らない。
まるで氷の
――高く売れそうだな、誰も買わんが。
「で、こいつを砕くのか?」
「えぇ。 間違いなくこれで
やったー、と声を揃えて両手を挙げる玲香とチルノ。
お前ら思考回路同じかよ。
まぁ、楽観的なのも悪いことではないと思うがな。
さてっと……緊張感はないが、私が派手に決めてやるか。
「そうだ、玲香ーあいつを宙に浮かしてくれよ」
「おっけー!! じゃあいっくよー」
両手を巨大魚へと
何やら
次第に地面全体が少しずつ揺れ始め、凍ったままの巨大魚が宙に浮き始める。
おぉー本当に浮かすとは大したもんだ。
ある程度の高さまで到達した時点で、私の出番だな。
ミニ八卦炉を前へと突き出し、ゆっくりと魔力を込める。
出力は問題なし、こいつなら……跡形もなく吹き飛ばせる!
あいつにだって負けない……これが私の魔法だ!!
「