東方幻奇譚 ~the Eighth Fantasy.   作:TripMoon

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登場人物紹介


チルノ
霧の湖に住む、氷の妖精。
妖精としては、かなりの力を持っている。
しかし妖精ということもあり、性格は子供っぽく悪戯好き。
異世界からの来訪者である美里 結衣とは、似た能力を持つこともあり、仲がいい。
幼い外見とは裏腹に、長い年月を生きている……かもしれない。


美里 結衣
外の世界から幻想郷に迷い込んだ人間の一人で、恭哉の仲間。
頭脳明晰、容姿端麗と非の打ち所がないが、少々天然気味。
氷を操る能力を持ち、様々な形に魔力を変え幅広く戦うことが可能。
剣や槍、弓矢に魔術など、一通りは扱える模様。
同じ人間である、木ノ内 玲香とは古くからの付き合いで、一緒に居ることが多い。
幻想郷では、チルノなどの妖精と共に居ることが多いが、どこに居住を置いてあるのかは分からない。


第3話 炎星、墜つ

 

 

 

 

 

 

 

ミニ八卦炉(はっけろ)から放たれた、白き閃光(せんこう)

()てつく冷気によって拘束されたままの巨大魚(きょだいぎょ)へと、真っ直ぐに進んでいく。

光の速さとは目には見えないもので、目の前の氷像(ひょうぞう)(またた)く間に、降り注ぐ細氷(さいひょう)へと姿を変えた。

「おぉー綺麗だなー!!」

「やったー!! 私たちの勝ちだー!!」

喜びを大にしてはしゃぎ始める、玲香(れいか)とチルノの二人。

共に戦った結衣(ゆい)も、安堵(あんど)の表情を見せる。

この場に居る誰もが勝利を確信していたんだ。

――私を除いて、な。

もし、あの巨大魚が例の妖怪(ようかい)の一種だとしたら……?

これで終わりな訳がない。

まだ……どこかに潜んでいる。

昨日がそうだったように。

この快晴の空の下の、どこに闇を作っている……?

居るんだろ……?

まだここに……!!

「うん? どうしたのー?」

「……さっきの作戦で、あの馬鹿でかい魚をぶっ倒せたと思うか?」

「もっちろん! さいきょーのあたいたちがやったんだから、勝ったに決まってるじゃん」

「特に怪しい気配は感じないし、心配しすぎよ」

……やっぱり、誰も不審(ふしん)に思わないのか……?

いや、単に私が気にしすぎているだけなのか……?

気のせいだと思いたいが、昨日の今日だ。

必ず、何かあるはずだ。

「終わっていたか」

ふと聞こえてくる、聞き慣れない声。

男の声だとは思うが、誰とも一致しない。

声のする方を振り返ると、やはりそこには見慣れない人物が一人。

紫がかった黒色の髪に、鋭い眼差(まなざ)し。

全体的に落ち着いたトーンの服装に、腰に差してある一筋の刀。

(つか)に手を添え、いつでも抜刀出来るようにしている。

それ以上の言葉を発さぬまま、こちらを見据(みす)えたままだ。

「玲香に結衣、お前達が先程の妖怪を?」

章大(しょうた)……良かった、無事に会えたわね」

「一足遅かったねー。 私たちが倒しちゃったよ!」

「なんだ、知り合いか?」

「うん。 ほら、ここに来る途中に話したでしょ?」

切崎(きりさき) 章大(しょうた)……あー、玲香が言っていたのはこいつのことか。

確かに関わり辛そうな奴ではあるな。

何というか、恭哉とは真逆のタイプだ。

「章大はどうしてここに?」

「妙な気配を感じたのでな。 妖気(ようき)にも似た特異(とくい)な何か……それを追ってここに来てみれば、既に消滅していたんだ」

なるほど、そういうことも分かるんだな。

そういや、人間じゃないって言っていたっけ?

「あっ、章大に見て欲しい本があるんだけど」

玲香に例の書物を渡し、玲香から章大の手に渡る。

虫の妖怪似た生物、亜羅蜘涅(アラクネ)(こう)が記載されているページを教え、その反応を待つ。

しばらく時間が掛かると思っていたが、私の予想に(はん)し、すぐに口を開いた。

「珍しい表記をしているな。 本来『アラクネー』と書かれることが多いが……これは何処にあった?」

香霖堂(こうりんどう)だ。 魔法(まほう)(もり)にある、変わった道具屋」

「ふむ……森近(もりちか) 霖之助(りんのすけ)の居る場所か。 何か供述(きょうじゅつ)していたことは?」

……驚いた。

香霖(こうりん)のことも知っているとは……。

幻想郷(げんそうきょう)の住人ならまだしも、こいつらはこの場所に来てまだ日は浅いはず。

章大とは違い、玲香と結衣は知らないらしく、小首を(かし)げている。

外の世界から流れ着いた道具や、骨董品(こっとうひん)を扱っている変な道具屋と説明を入れておいた。

章大の問いには首を横に振り、言葉を付け加えた。

「私と恭哉は昨日、こいつに似た妖怪に襲われたんだ。 退治は出来たが、姿以外分かったことがないんだよ」

「昨日、それに恭哉と一緒に居た……か。 成程、恭哉が(かば)ったと言っていたのはお前のことだったか」

「お前じゃない、霧雨(きりさめ) 魔理沙(まりさ)さんだ。 それで、こいつはどういう妖怪なんだ?」

章大によると、ここに記載されている「亜羅蜘涅」と「アラクネー」と称される者は名前のみが共通しており、それ以外は全くの別物らしい。

本来、アラクネーという存在は外の世界に存在しているとされる「希臘(ギリシャ)」と呼ばれる場所で発祥(はっしょう)した神話(しんわ)に登場する人物の名前だ。

優れた()()であったらしく、機織(きお)りを(つかさど)る神でさえも、その腕前を認めていたという説が残っているようだ。

その後彼女は自ら命を絶つのだが、神によって転生し蜘蛛(くも)へと姿を変えた……というのが、このアラクネーの伝説の一部。

「神話というのも、所詮(しょせん)は言い伝えや伝承に過ぎない。 この世界に転生してきたとは考えにくいな」

「じゃあ、誰かがこいつを参考にあの妖怪を作り上げたってことか?」

「そう考える説も有りだろう。 先程の妖怪の姿は、どのようなものだった?」

玲香に話した時と同様に、虫の妖怪の姿を伝える。

今思い出しても、気味悪いよなーあれ。

章大の見解(けんかい)によれば、この書物に載っているものとは別物で間違いないとのこと。

あの妖怪を()び出した人物が他に存在し、蜘蛛の化け物の意を持たせる為に「アラクネー」の名と似た名前を付けたであろう……という仮説だ。

うーん、こんな妖怪を喚び出せる奴には心当たりがないな。

何かを操ることが出来る奴なら沢山いるが、対象は様々だ。

そういや恭哉とあの妖怪を退治した後、何か拾っていたな……。

私は見てはいないが、一体何だったんだ……?

「もう少し情報が欲しいな。 恭哉と合流次第、その件を話そう」

「一緒じゃなかったの?」

「元々後で落ち合う予定だったが、少し予定が狂ってな。 比那名居(ひななゐ) 天子(てんし)という人物の邪魔が入った」

あの天人(てんにん)か……。

どうせまた暇なんだろうけど、厄介なことをするもんだ。

……っていうか、天子の邪魔が入ったってどういうことなんだ?

その事を聞き出そうとした時。

「何してるの?」

水面を(なが)めていたチルノに、結衣が声を掛ける。

ずっとあぁしてるけど、何かあったのか?

あまり気難(きむず)しいことを考えられる奴じゃないんだが。

「――あっ」

 

 

 

 

 

――やっぱりか。

そうだろうと思ったぜ。

さっきぶりだなーでかいの。

再び水面から巨体を天に向かって伸ばす巨大魚。

何処に隠れていたのかは知らんが、もう驚かないぞ?

もしも昨日出会っていたら、いい絵は撮れたかもな。

「嘘!? さっき倒したんじゃないの!?」

「悔しいから化けて出てきたんじゃないのか? まぁ、もう一戦ぐらいなら付き合ってやるさ」

「ほぅ、これが見慣れない妖怪というものか」

「そんな呑気(のんき)なこと言ってないで、やるよ!!」

既に双銃(そうじゅう)を構え、眼前の光景を見据えている玲香。

誰も(おび)えていない所を見ると、こういう化け物には慣れてるのか?

(むし)ろ、先程よりも目が生き生きとしているじゃないか。

なんだなんだ?

戦闘狂(ものずき)の集まりかお前らは。

……是非とも、弾幕(だんまく)を基礎から習って欲しいもんだ。

こいつらがどんなものを見せてくれるのか、益々興味が湧いて来たぜ。

「それじゃあ、もう一度力を貸してね、可愛い最強の妖精(ようせい)さん?」

「よーしっ!! あたいにまっかせろー!!」

()き付けるの上手いなーあいつ。

馬鹿……じゃなかった、妖精の扱い方をよく分かっている。

もしかして仲良しか?

「さて、お手並み拝見といこうか」

腰の刀を抜き、振り下ろす章大。

こっちはこっちで物騒だな……。

……まぁ、私も負けるつもりはないが。

どれだけ強いのか、見させてもらうぜ。

「ね、ねぇ……何か様子がおかしくない?」

玲香の言う通り、先程から巨大魚の様子がおかしい。

こちらを見据(みす)えたまま、微動だにしない。

このまま崩れてなくなってくれれば、気楽に済むんだがな。

「震えてる? 寒いのかな?」

「んな訳ないだろ」

「うわっ! 頭が増えたー!!」

巨大魚の頭部が、縦に二つに裂ける。

うっ、気持ち悪……。

双方の肉片(にくへん)がそれぞれ形を変え、二つの頭部を形成し始めた。

亀裂(きれつ)の入った中心から更に一つ、胴体から頭部と伸びていき、三つの顔を持つ者へと姿を変えた。

「なんか見た事あるあれ!! 確かキングギ――」

「はいはいそれは後ね。 玲香は後方からサポートをお願い、前は任せて」

何やら手に持った物を(かざ)し始める結衣。

なんだあれ?

どこかで見たことがある様な形だけど……。

型式(コード)氷魔(フロストデビル)連結(アクティベーション)!!」

白の冷気(れいき)と、深い青の鎖が結衣の身体を取り囲む。

瞬時にそれらは消滅し、再び姿を現した結衣だったが……その光景に、少し目を丸くしてしまう。

ただの人間の姿のはずだったが、見たことも無い腕に生えた(とげ)と氷で作られた翼。

眼差しも鋭く、同一人物とは思えない程だ。

「結衣の能力は氷幻転生(グレイシャルクイーン)氷属性(こおりぞくせい)の魔力を様々な形に変え、自らの戦闘能力とする」

「あんな風に変わるのか……誰かが憑依(ひょうい)している訳じゃないんだよな?」

「あれは結衣自身の姿だ、嘘偽りはない。 さて、こちらも続くか……零式夢幻(ぜろしきむげん)、展開。 朱雀ノ型(すざくのかた)斬魔獄炎刃(ざんまごくえんじん)

――なんだよこれ……!?

振り下ろした刀身が、銀色から赤色に変わり炎を(まと)い始める。

恭哉だけじゃなかったのか……!?

各々(おのおの)の属性など、単なる飾りに過ぎない。 それは、奴も同じことだ」

……恭哉のことか。

玲香も、恭哉の本当の力は炎を操ることじゃないって言っていたし、間違いないだろう。

ったく、いい意味で狂ってるよこいつら。

スペルカードに(のっと)った戦い方なら、一体どこまで行けてしまうのだろうか……。

「恭哉がその身と封魔結晶(ふうまけっしょう)を使い(かば)ったその実力……見させてもらうぞ」

「偉そーに言いやがって、存分に見せてやるさ。 度肝(どぎも)抜いてやる!」

それぞれが武器を構え、巨大魚を見据える。

三つの咆哮(ほうこう)と共に、再び戦いの火蓋(ひぶた)が切って落とされた。

 

 

 

 

 

後方で玲香が私たち四人のサポート全てを担当する形になった。

結衣とチルノは左側から、私と章大で右側から巨大魚を攻めることに。

先程とは違い、奴には三つの首がある。

その為、視界も反応速度も三倍ってことになる。

こいつの元になった化け物も、あの本に載っているのか?

調べてみたい所ではあるが、今はそんな余裕はない。

「なぁ、お前たちはあぁいう馬鹿でかい化け物と戦い慣れてるんだろ? どう対処するつもりなんだ?」

「俺たちの世界と同じ原理なら、力で(ひね)り潰せばいい。 だが、それが通用する相手かどうか、まずは見定める必要があるな」

「玲香の攻撃や、私のスペルじゃびくともしなかったぞ? もちろん、本気じゃないがな」

「成程、それだけ分かればいい」

いやいや、私にも分かるように説明しろよ。

巨大魚へと近付いていく姿の後を追う。

玲香の様に危なっかしさはないが……。

正直、恭哉たちの中では最も何を考えているのかが分からないでいる。

刀を扱う以上、戦法は分かるが……。

劫魔一閃(ごうまいっせん)

炎を纏った斬撃が三日月(みかづき)の様に形を成し、巨大魚へと向かっていく。

頭部が増えたからといって、素早い動きが出来る訳ではないだろう。

さて、どれ程ダメージが与えられるか見ておくか。

いつでも追撃出来るよう、準備は念入りにな。

炎の斬撃は見事に命中し、巨大魚の皮膚を大きく斬り裂いた。

しかし、一瞬にしてその傷が消えていく。

「ふむ、自己再生(じこさいせい)か。 少し試したいことがある」

「なんだなんだ? 今度こそ、私にも説明しろよ」

「そのつもりだ。 奴の自己再生の速度、及び範囲を調べる。 なるべく、手数の多いスペルカードを使用してくれ」

スペルカードの存在も知っているのか。

よくもまぁこんな短時間で調べたもんだよ。

玲香が言っていた様に、頭が切れるのも納得が行く。

白虎ノ型(びゃっこのかた)空刃千裂破(くうじんせんれっぱ)

星符(ほしふ)「メテオニックシャワー」!」

白き剣閃の雨と、七色の星々が降り注ぐ。

小手調べなんだろうが、こういうやり方はあんまりなぁ。

派手にガツンとやった方が面白いだろ?

うーん、こいつとは合わないかもしれない。

「わわっ!? うぉ!? ひいぃ!!」

「っ!? 何これ!?」

……何だ今の。

チルノと結衣の(あわ)てふためいた声が聞こえてきた。

巨大魚の胴体に隠れて見えないが、向こう側の攻撃が凄まじいのか?

「やけに騒がしいな……」

「そうだなー。 ――うわっ!?」

私のすぐ横を、氷の刃が通り過ぎていく。

少しでも動いていれば、頬を(かす)めていたかもしれない。

水だけじゃなく、氷まで使えるのか。

「これは……。 一度この場を離れるぞ」

章大の言葉通り、大きく旋回(せんかい)し先程の場所から離れていく。

離れながらも、氷による攻撃は続いたままだ。

予兆もない攻撃ってのが、随分と面倒ではあるが……。

「何か分かったのか?」

「先程の氷撃(ひょうげき)は、結衣とチルノのもので間違いないだろう」

「はぁ? あいつらは向こう側に居るんだぜ?」

「俺たちが攻撃を仕掛けた時、二人の声が聞こえてきただろう?」

章大の言葉に首を縦に振る。

推察によれば、攻撃が胴体(どうたい)をすり抜け向こう側に到達してしまっている可能性があるとのこと。

物体であるはずが、何らかの条件に達した時に流体へと変わり、その可能性に結び付いている。

先程の連撃も、その全てがすり抜けたこともあり、手数で押す手法は通用しない。

そうなると爆発力のある一撃になる訳だが……。

「じゃあどうするんだ? ぶっ飛ばすにしても、攻撃がすり抜けるんじゃ意味がないだろ?」

「もう少し判断材料が必要だな……」

「こらー!! 余所見(よそみ)しちゃダメだってばー!!」

気付けば、すぐ近くまで巨大魚の攻撃が迫って来ていた。

私たちの元へと達する前に、玲香の作った結界(けっかい)(さえぎ)られ、衝撃波(しょうげきは)(くう)を走る。

「後方支援はもういい。 玲香、奴の胴体の一部を操作することが出来るか試してくれ」

「えっ、胴体を? うーん……やってみるね」

攻撃を()(くぐ)りながら、魔法陣(まほうじん)を描く玲香。

胴体の一部を操作するって言ってたが、どうするつもりなんだ?

その意味を、章大に尋ねてみる。

「もし奴の胴体が流体に変化するのなら、玲香の能力で操作することは可能だ。 奴の下には大量の水、氷の能力を持つ者が二人居る……ここまで説明すれば分かるだろう」

「操作してどうするんだって。 あいつ自身を操ることが出来ないなら、何の解決にもならないじゃないか」

「実際にやって見せようか、暗影包(ブラックウォール)

突如(とつじょ)漆黒(しっこく)の空間に包まれる。

先程まで聞こえていた喧騒(けんそう)が、何一つ聞こえない。

「この空間に居る間、外部との干渉は出来なくなっている。 ここで先程の説明を続けるぞ」

 

 

 

 

 

章大が複数の魔法陣を作り出し、順番に詠唱(えいしょう)を始め出す。

小さな水の塊と、岩で出来た柱。

そして氷の(つぶて)を生み出し、私との間の空間に配置した。

「これが何なんだ?」

「水が湖、岩が奴の胴体で氷は結衣とチルノの能力を可視化(かしか)したものだと思ってくれていい。 まずは胴体が物体のままの場合だ」

指先で岩を突き始めるが、びくともしない。

これだと、攻撃がすり抜けていないってことか。

「胴体が流体に変わる場合は、言わなくても分かるだろう」

「向こう側に攻撃が通り抜けるな。 それがどうしたんだよ」

「一部分でも流体に変わり水分と化した時、玲香の能力の干渉が入り、流体の状態を維持出来る。 そして、そこに冷気が伝わり水温が急低下するとどうなる?」

「……あっ、凍るな。 そうか、氷で外側から覆うんじゃなくて内部から凍らせるのか!」

「そういうことだ。 外部からなら、体内組織の細胞まで死滅するには時間が掛かる。 しかし内部凍結(ないぶとうけつ)ならば、より早く体内組織の壊死(えし)させられる為、復活はしないだろう」

章大の説明で全て理解することが出来た。

後は玲香の能力が通用すれば、章大の作戦通りであいつを完全に倒しきれる。

「そろそろ玲香に聞きに行かないか?」

「分かった。 この空間を解除した際、外部の攻撃には気を付けるんだな」

漆黒の空間が消滅し、元の景色が視界に入る。

言葉通り、早速攻撃が迫って来ている。

すぐに飛行態勢に入り、難なく回避していく。

昨日の虫の妖怪もそうだったが、こいつらも弾幕に似た攻撃をしてくるんだな。

本当、よく分からん……何が目的なのかもな。

「章大ー!! 私の能力じゃ操れないよー!!」

結界を作りながら、玲香のこちらに向かい声を荒らげる。

……そうなると、作戦は使えないってことか。

うーん……どうしたもんか……。

こちらの攻撃は全てすり抜け、奴には通用しない。

体力にも魔力にも限りがあるし、ずっとこのまま均衡状態(きんこうじょうたい)を続ける訳にも行かない。

(こういう時、霊夢(れいむ)ならどうする……?)

ふと、そんなことを考えてしまう。

あいつが負けた所は見たことがない。

何かしら倒す方法を見つけるはずだ。

しかし、今の私にはそれが分からないでいる。

凍らせることが出来ない物質。

それらを完全に消し去るには……?

――なんだ……この感覚は……?

身体の芯から熱っぽく、汗が吹き出しそうな程の熱さ。

確かに今の季節は夏だが、ここまで暑いことはない。

近くに水源もあるし、涼風(すずかぜ)だって流れてくる。

まさか、これか?

ポケットから、小さな指輪を取り出す。

こいつには、ある魔法文字(ルーン)の文章が刻まれていた。

途中までしか解読してはいないが……熱源はこいつで間違いない。

手に持っていると、手の平から腕へ、腕から全身へと熱が伝わり始める。

力を貸してくれるのか……?

香霖(こうりん)の店で、こんな代物に出会えるとはな……。

家まで持ち帰りたい気持ちはあるが、今はこいつを倒さなきゃならない。

何が宿っているかは知らんが、正体不明の者に恐れる程、この世界の魔法使いは弱くないぜ。

私が指輪を強く握り締めた時だった。

「うわっ!! な、なんだ!?」

私を取り囲む、無数の(あか)い魔法陣。

こんな形……見たことないぞ……!?

それになんだ……この、身体に押し寄せてくる複雑な感情は……。

思わず耳を塞ぎたくなる程の、様々な声。

しかし、自然と私にはその行動が出来ないでいる。

こいつらを受け入れなきゃ、この魔法陣は扱えない気がするんだ。

憤怒(ふんぬ)意思(いし)だか紅蓮(ぐれん)(たましい)だか知らんが……。

今は、私のものだぜ!!

力強くミニ八卦炉を突き出し、照準を巨大魚へと合わせる。

元々私の中にあったのか、今脳内に現れたのかは分からない。

スペルカードにはならないかもしれないが、こいつで必ず勝てる。

そう強く思えるんだ。

私が弾幕以外の魔法を、こんな所で使うなんてな。

目を見開いて見とけよ。

これが、霧雨 魔理沙の魔法だ!!

「焔星符「超新星爆発(ハイエクスプロージョンノヴァ)」!!」

ミニ八卦炉から放たれる、紅い流星(りゅうせい)

一点だった光が瞬く間に拡散し、巨大魚へと降り注ぐ。

その光線の一筋一筋が、紅い剣閃にも見える。

星の様に綺麗で鮮やかに。

鋭い剣閃の輝きは、優雅(ゆうが)残酷(ざんこく)に。

あれだけ攻撃を重ねても倒せなかった巨体が、少しずつ溶け始めていく。

本当、この指輪は何物なんだ。

私の魔法研究にも使用したいが、この強い炎には少し恐怖もある。

香霖に聞いておくべきだったな。

――まぁ、今はいいだろう。

私たちの勝ちだからな。

あるべき場所へ帰りな、お前ぐらい大きいと釣り人も困るんだ。

燃え盛り朽ち果てていく巨体を、私は黙ったまま見据えていた。

 

 

 

 

「す、凄い……今度こそ、勝ったんだよね……?」

「ま、まぁあたいよりすこーし強いぐらいかな?」

玲香とチルノの二人は、それぞれの感想を口にしている。

結衣は水面の方に向かい、辺りを見回している様だ。

そういや、あいつは?

ミニ八卦炉と指輪をポケットに仕舞い、地上の方を目指して降りて行く。

「少し聞きたいことがある、構わないか?」

地上に辿り着く前に、既に刀を納め戦闘態勢を解いた章大がこちらへと声を掛けてくる。

雰囲気はあまり変わらない。

軽く返事を返し、章大の質問を待つ。

「先程の魔法陣には見覚えがある。 どういった手法であの術式(じゅつしき)を?」

その言葉に、私は少し目を見開いた。

魔法陣というより魔法に関しての知識も所持しているらしい。

知らないことなんてないんじゃないか?

まぁ、恭哉たちの仲間であることと、隠し事をする理由もないことから、詳細を話すことにした。

先程ポケットに仕舞った指輪を取り出し、章大に見せる。

「馬鹿な、何故これがこの世界に……? 何処で手に入れた」

「香霖の店にたまたま置いてたから借りて来たんだ。 こいつを知ってるのか?」

真紅ノ結晶(クリムゾンコア)、それがこいつの名だ。 以前恭哉が所持し、真炎剛爆ノ核(パイロキネシス)発現(はつげん)に必要な魔力と契約(けいやく)を行う物だった」

「はぁ!? ちょ、ちょっと待てよ。 玲香から聞いたけど、あいつの核っていうのは、身体に埋め込んであるんだろ? なんで同じ物が……」

「以前は指輪の形をしていたんだ。 魔族の血(ギルティブラッド)を体内に流す際に形を変え、この指輪は消滅していた筈だが……魔法文字が刻まれているだろう?」

魔法文字のことも知っているのか……。

私が最初の文を口にすると、私よりも先に続きの文章を呟き始める。

一言一句間違わず、全て解読してみせた。

そういや、続きは(かす)んでいて読めなかったが知っているのだろうか?

「この続きは?」

「核がこの形に転生する際、続きの文章は失われている。 人間が扱うには、あまりにも強大すぎるからな」

「でも、恭哉はこの能力を扱えるんだろ?」

「奴はもう人ならざる者へと足を踏み入れている。 至極(しごく)、不思議なことではない」

人ならざる者……か。

行く(すえ)も、こいつは知っているはずだ。

数千年も生きているんだ。

人のまま生を謳歌(おうか)する方法だって……必ずあるはずだ。

「もう一度、あの書物を借りられるか? 先程の妖怪の正体を探りたい」

「あぁいいぜ。 どの道私には読めないんだ、解読してくれよ」

「ねぇ、これを見てくれる?」

私たちの間に割り込み、結衣が何かを見せてくる。

その手には、何やら古くボロボロの紙が握られていた。

()(しろ)の一種かしら? 章大はどう思う?」

「結衣の予想で間違いないだろう。 魚型の形代(かたしろ)は見たことがないが……降ろす為に、肉体の(しかばね)が必要な筈だが、どこかにあったか?」

「いえ、これ以外は見ていないわ。 多分だけど、湖に沈んでいると思う」

「なぁ、召喚魔法(しょうかんまほう)とか精霊魔法(せいれいまほう)とかじゃないのか?」

「それには該当しない。 この形代に魔力が感知出来ないことと、術者の遠隔操作にしては動きが機敏(きびん)すぎる。 自我を持つ者で間違いはない」

確か……神降ろしだったか。

魔法じゃないとすると、この方法もあるかもしれないな。

やっぱり、誰かが糸を引いているのか。

――お前じゃないんだよな、本当に。

って、いかんいかん……疑わないって決めたんだ。

何があっても、あいつを信じてやらないと。

うん……?

何だこの匂い……妙に鼻につく。

「あーっ!! また煙草(たばこ)吸ってるー!! ダメだよ身体は(いたわ)らなきゃ!!」

「そうよ、未成年者の喫煙は法律で禁止されてるんだから。 消しなさい」

「なーなー、それおいしいのか?」

「……一仕事終えた後は、吸わないと生きた心地がしない。 ここは幻想郷(げんそうきょう)だ、喫煙(きつえん)に関する法律などないだろ」

「恭哉みたいな屁理屈(へりくつ)言ってる!!」

「黙れ、不味くなる」

何かと思ったら煙草かあれ。

なるほど、外の世界のはあぁいう形なんだな……。

未成年者って何のことかは分からんが、そこはまぁいいだろう。

「あたいも吸ってみたーい!!」

「ダメ!! 私はチルノちゃんを、そんな子に育てた覚えはありません!!」

「いつから親になったのよ……。 とにかく、これからどうするの?」

「書物のこともある以上、一度紅魔館(こうまかん)に戻る。 そこで情報を採算した後、恭哉と人里で落ち合う約束がある」

「こ、紅魔館ってあの吸血鬼(きゅうけつき)の居る場所だよね……!? ちょっと怖いけど……私も行く!!」

こいつも紅魔館に居るのか。

うーん、私が行ってもあまり良い顔はされないだろうが、先程の巨大魚のことも気になるし、ここは着いていくしかなさそうだ。

恭哉を魔法の森に連れていく用事もあるし、仕方ないか。

借りていく本も少しにしておけばいいんだよ、少しに。

「人間の里ね……私たちは他の妖精を探さないと行けないの。 また後で情報を貰える?」

「分かった。 後で落ち合うか」

チルノと共に湖の方へと飛び立って行く結衣。

他の妖精っていうと、いつも遊んでる仲間たちか。

恐らく、先程の戦闘時に逃げたままなんだろうけどさ。

「吸血鬼といっても、恐れる程の存在ではない。 見かけはただの……いや、今はいいか」

「えー教えてよー。 吸血鬼なんて、怖い存在に決まってるよ!!」

「それがそうでもないんだって。 実際に見たらびっくりするぞ?」

私たちは(きり)(みずうみ)からそう遠くない洋館(ようかん)、紅魔館を目指した。

 

 

 

 

 

「あれ? 章大さん早かったですね、もうお帰りですか?」

「少し予定が変わってな。 すぐにまた出る」

「お、お邪魔しまーす……」

「借りてくぜー」

「はーい……ってちょっと待った!! そんな堂々と入ります!?」

「安心しとけって、今日はそんな用事じゃないからさー」

紅魔館の本館へと続く道を歩いていく。

普段なら、こういう入り方はしないんだがな。

門の前に立つ人物、(ほん) 美鈴(めいりん)もいつもなら寝ているしな。

最早(もはや)、建造物の一部なんじゃないかって思うぐらい。

……流石にそれは言い過ぎか?

うーん、ここの風景をまじまじと見る機会なんてあまりなかったが……やっぱりでかいよなーこの館。

まぁそれでこそ、借り甲斐(がい)があるってもんだ。

木製の大きな扉を開け、中へと入っていく。

大図書館(だいとしょかん)はーっと……おっと、今はそうじゃなかったな。

エントランスホールを抜け、巨大なロビーへと行き着く。

そろそろ誰か迎えに来てもいい頃だと思うが。

「あっ、魔理沙だー!!」

「よぉフラン、久し振り」

フランドール・スカーレット。

ここの館の主である、レミリア・スカーレットの実の妹。

元々外には出てこないが、昔に起きた異変を(さかい)に館内を出歩くことは許可されたらしい。

だからこそ、ここに居る訳だが。

「あれ? もう帰ってきたの? 恭哉はー?」

「少し予定が変わってな。 ふむ、やはり人里に向かったままか……」

「や、やっぱり恭哉はここに居るんだね……うぅ……」

「誰? 恭哉は私の玩具(おもちゃ)なんだから、あげないよ?」

「お、玩具!? ダメダメ、絶対にそれはダメ!! いくら可愛い女の子だからって、恭哉は渡さないよ!?」

「じゃあ貴女は恭哉の何なの?」

フランの問いかけに、言葉を詰まらせる玲香。

自分のものと言い張るぐらいだし、恭哉が殺されなかった理由が少しだけ分かったかもしれない。

余程気に入られているのだろう。

フランに気に入られるなんて、本当変わり者だな……人のことは言えんが。

私もフランには邪険(じゃけん)に扱われていないし、どこか気に入られているからな。

「と、とにかく!! 渡せないものは渡せないの!!」

「ふーん、じゃあ弾幕ごっこで勝負してみる?」

能力戦(のうりょくせん)なら望む所だよ!! いくら小さい女の子だからって、手加減してあげないんだから!!」

「やめとけ玲香、フランはかなり強いぞ」

「そんな事言われても!! 恋する乙女(おとめ)は、何にも屈してはいけないんだよ!?」

「相手はお前の恐れる吸血鬼だ、実力も高い。 第一、お前が敵う相手じゃない」

「えっ!? こ、この子が……吸血鬼!?」

絵に描いた様な驚きを見せる。

あぁ、こいつも真っ当な人間なんだな……。

そう感心したのだが……。

「……可愛い!! えっなに、何なの!? 吸血鬼ってこんな女の子が……ねぇねぇ、ちょっとだけ抱っこしてもいい!?」

「わわっ! ちょっとやめてってば!! はーなーしーてー!!」

軽々とフランを持ち上げ、抱き締める玲香。

……前言撤回(ぜんげんてっかい)、やっぱりこいつ変態(へんたい)だ。

今まで恐れていた吸血鬼の姿が分かった瞬間、目の色を変えやがって。

こりゃーレミリアに会った時が楽しみだぜ。

あいつも小さいからな。

想像しただけでも、意地悪く笑みが(こぼ)れてしまいそうだ。

フランには悪いが、こっちはこっちで本題に入っておくかな。

「ほれ、さっきの本だ。 あのでっかい魚も載ってるのか?」

「一度、全てのページに目を通さなければ分からんな」

「お前は読めるんだろ? 私には読めないし、何かいい情報があれば教えてくれよ」

勿論(もちろん)、そのつもりだ」

章大が書物のページを捲っていく。

やはり私には、何が書いてあるのかさっぱりだ。

見たこともない文字の羅列(られつ)、外の世界の本で間違いないのかもしれないな。

「もー!! 離してよー!! ぎゅーってしていいのは、恭哉だけなんだからー!!」

「恭哉だけずるい!! ――えっ!? 抱っこされたの!?」

……やっぱり騒がしい。

助け舟を出してやりたいが、どうしたもんか。

謎の口論を繰り広げている二人を意に介さず、例の本に目を通している章大。

こういう状況には、真っ先に食ってかかる奴だと思っていたが、案外そうでもなさそうだ。

その事を尋ねてみると。

もう慣れているとのこと。

玲香が騒がしいのは、外の世界でも同じらしい。

ムードメーカーって言ってやった方がいっか。

まぁ、私も騒がしいのには慣れっ子だがな。

「ふむ……磯撫(いそな)でか。 先程の妖怪はこいつで間違いないだろう」

そのページを見てみると、確かに似た姿の絵が記されている。

名前は「韋溯薙照(いそなで)」と書かれている。

巨口鰐(おおぐちわに)」と呼ばれることもある古来(こらい)の妖怪の一種で、外見は「(さめ)」という魚に似ているらしい。

背びれに細かい針の如くおろし金が無数にあり、船人を海に沈めては喰らうという伝説が残っている。

あそこまで巨体ではないのだが、亜羅蜘涅と同様別の誰かがこの世に喚び寄せた……と考える方が合点が行く。

当然、術者や目的に一切の心当たりなどない。

こんな形の異変は初めてだよ。

いつからこの世界に潜んでいたのかは分からないが、ここまで見慣れない……ましてや、巨大な妖怪が存在している。

それに誰も気付かなかったなんて……何か裏があるのか?

(ゆかり)隠岐奈(おきな)が動かないのも、少し不自然な所もある。

――恭哉達がこの世界に来たことと、やはり何か関係がある?

そう考えるのも、一つの糸口なんだろうけど……。

「フランちゃーん!! 待て待てー!!」

「こんな追いかけっこつまんなーい!! うわあー!!」

横目で、玲香に追われているフランの姿を見てみる。

良くも悪くも能天気(のうてんき)な奴らが、未知の世界に異変をもたらすなんて……。

考える方が難しいか、そうだよな。

私の考えを遮る様に、すぐ後ろに何かが迫っていた。

 

 

 

 

 

「ぐぬぬ、魔理沙を盾にするなんて……!」

「魔理沙!! あいつ何とかして!!」

フランが私の後ろに回り込み、抱き着いてくる。

おまけに助けてくれと懇願(こんがん)して来ていた。

それにしても、あのフランがこんな風に人間を相手にするなんてな……。

私も頻繁に会う方ではないが、少なくとも紅魔館の地下で初めて会った時は、今とはかけ離れていた。

スペルカードルールが制定されるきっかけとなった、一つの異変。

紅霧異変(こうむいへん)、そう呼ばれている。

その主犯である、レミリア・スカーレットとの戦闘の後、私はもう一度紅魔館に向かった。

レミリアは博麗神社へと向かっていた為、構うことなく大図書館に眠る魔導書(まどうしょ)を借りていこうとしていたんだ。

そうしたら、地下の方からとてつもない魔力を感じて向かってみれば……それが、フランとの初めての出会い。

落ち着いてはいたものの、一度弾幕ごっこが始まれば狂気(きょうき)沙汰(さた)も何のその。

危うく骨が折れる所だったぜ。

そのとち狂っていた吸血鬼様が、今じゃこのご様子。

……何があるか分からんもんだな、自分の住んでいるこの世界でも。

「うーん、私も玲香の変態加減には付いていけないからなぁ」

「がーん!! うぅ、ひどいよ……魔理沙まで……」

あちゃー、言い過ぎたかな?

冗談だと告げようとした時。

「昨日は、二人で夜空のデートをした仲なのに!! エスコートしてくれたことは、忘れてないよ!?」

「そういうとこだよお前は!!」

……ダメだこいつは。

憎めない所もあるんだがなぁ。

「随分騒がしいと思えば、これまた見慣れない組み合わせね」

淡い桃色のドレスと、背中に見える黒い羽根を揺らしながら、こちらへと歩いてくる小さな人物。

レミリア・スカーレット、フランの実の姉であり、ここ紅魔館の主でもある。

「あら、帰ってたの。 恭哉は一緒じゃないのね」

「用が済んだらまた出掛ける」

「そう……で、そっちのフランと(にら)み合ってるのはお仲間?」

「一応な、すぐに連れて行く」

「魔理沙も一緒なのね、パチェの所以外に居るなんて、どういう風の吹き回しかしら」

「私にも色々あるんだよ。 後で本は借りてくぜ」

軽くあしらうレミリア。

大図書館に居る魔法使い、パチュリー・ノーレッジからすれば、私が魔導書を借りていくことは死活問題になる。

しかしレミリアは、あまり意に介してないらしく、楽しんでいる(ふし)もある。

奪い返しに来ることぐらい、いつでも出来るだろうしな。

無論、私も負けるつもりはないが。

「そうだ、貴方宛に手紙が来てたわよ?」

レミリアは、小さな封筒を章大に手渡す。

余所者にわざわざ手紙を書くなんて、物好きも居るんだな。

章大本人も思い当たる節がないのか、少し考えている素振りを見せている。

すぐに封を開け、手紙に目を通す。

その間、私は香霖から受け取った書物に目を通してみるも、やはり何が書いてあるのかはさっぱりだ。

他のページを見てみるも、分かるのは見たこともない怪物の挿絵のみ。

「レミリア、この手紙は誰から受け取った」

「差出人は書いていないのよ。 外で呑気(のんき)に眠っている門番が持ってきたわ」

「……こういった便箋(びんせん)を持つ者に心当たりは?」

「人里なんかに売っているんじゃないの?」

「人里か……今日の帰りは遅くなる、あの馬鹿はもっとな」

「どういう意味? あの馬鹿って、恭哉のことでしょう?」

レミリアの問い掛けには応じず、一人紅魔館の入口へと向かっていく章大。

手紙はというと、先程まで立っていた場所に放り投げられていた。

他人宛ての手紙を勝手に見るのは、少々抵抗がある。

しかし本人も居ないし、こういった事が気になるのは魔法使いの性だ。

少しだけ読んでみるか。

落ちた手紙を拾い上げ、目を通す。

私にも読める文字で書かれているが、少し乱雑(らんざつ)というか汚い。

えーっと、何々……?

――嘘、だろ……!?

待てよ……こんなの、信じられないって……!

手紙を持ったまま、何も発せず動けない。

見えない何かに縛られているかの様に、身体の自由がなくなる。

目の奥も、自然と熱くなるのが嫌でも分かる。

……夢だって思いたい。

「何が書いてあったのー?」

無邪気に尋ねてくるフラン。

ダメだ、お前がこれを知るなんて……。

私ですら、膝から崩れ落ちそうになるのを、必死に耐えているんだぞ……!?

「手紙見てもいい?」

返答する余裕もなく、私の手から手紙が離れて行く。

誰が取ったかなんて、気にかける余裕なんてない。

「そん……な……。 嘘だよね……ねぇ、魔理沙!!」

私の肩を、何度も強く揺らしてくる。

泣きじゃくりながら、何度も……何度も……。

私に言われたって……!!

「落ち着けよ……玲香……。 こんなの、私だって信じたくない……」

「昨日は、いつもの姿だったんだよ……!? 違う世界に居ても、いつも通りだったんだよ……!? それなのに……こんな……!!」

「私だって分からないって言ってんだろ!!」

怒鳴り声を上げてしまう。

揺さぶる手を止め、私の方を見る。

そのまま力無く地へと崩れ落ち、悲壮(ひそう)な現実を受け入れるしかなかった。

何なんだよ……くそっ……!!

「魔理沙、私は活字(かつじ)が苦手でね。 手紙の内容を教えて貰える?」

「……少し待ってくれ。 お前たちにも、辛いことだと思うぞ……?」

「構わないわ、教えなさい」

せり上がってくる哀しみを、必死に押し殺す。

声だって、震えてしまいそうだ。

何度も深く息を呑み、ゆっくりと口を開く。

「……恭哉が死んだ。 あいつはもう、帰ってこない」

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