東方幻奇譚 ~the Eighth Fantasy.   作:TripMoon

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第4話 狂炎の悪魔

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海藤(かいどう) 恭哉(きょうや)の死。

それが、章大(しょうた)に宛てられた手紙の内容だった。

この事実を知らぬ二人の吸血鬼(きゅうけつき)へと、震える声を抑え伝えた。

「死んじゃったの……? 恭哉が……?」

「そう書いてあったよ」

フランの弱々しい声が、私の耳へと届く。

こんな姿、見たことがない。

「……約束したのに」

「約束? 一体何の……?」

「帰って来たら、昨日と一昨日の分遊ぼうって。 恭哉から遊ぼうって言ってくれたの、初めてだったもん。 ……誰が壊したの?」

改めて手紙へと目を向ける。

自然と手が震えている。

焦点(しょうてん)も定まっていない気がする。

おかしいな……私がこんな風になるなんて。

何度か(まばた)きを繰り返し、手紙に書かれた文章を細かく読んでいく。

……何だ?

文字が(かす)んで読みにくい。

さっき視界をはっきりさせたばかりなのに、また(うる)んできた。

……泣いているのか?

私が……?

異世界の人間が、一人亡くなっただけなんだぞ……?

――違う、それだけじゃない。

私にとっては、凄く大きなことなんだ。

「……壊さなきゃ」

小さく呟いた後。

轟音と共に、壁面の一部が跡形もなく消え去った。

何かによる衝撃なんかじゃない。

ただ、目の前の少女が手を握り締めただけ。

そんな単純な動作で、全てを破壊してしまうんだ。

「フラン、どこに行くつもり?」

「決まってるでしょ? 恭哉は私が壊さなきゃ行けないの、でもそれを奪った奴が居る。 そんなの許せない……!!」

黒く不気味にも見える、無機質(むきしつ)な槍にも似た棒状の物を手にしている。

そして、不規則に揺れる色鮮やかな宝石を(かたど)った羽根を大きく広げ、空を見上げていた。

「お姉様だろうと邪魔はさせないから。 もし邪魔するつもりなら、お姉様であっても私が全て壊してあげる」

不敵な笑みを浮かべた後、瞬時にその場を飛び立っていくフラン。

この場に居る私たちは、誰もその姿を追おうとしなかった。

いや……追いかけることが出来なかった、そう表す方が正しいのかもしれない。

けれど、フランをこのまま放って置いていいのか……?

この幻想郷(げんそうきょう)でも、フランの能力を止められる奴は少ない。

例の妖怪(ようかい)たちによる被害の他に、誰かが犠牲になってしまう可能性もある。

「……面白いわね、この手紙」

ふと、レミリアが(つぶや)く。

面白い……?

人が死んだんだぞ!?

「何言ってんだよ……人が死んだんだぞ、面白い訳ないだろ」

所詮(しょせん)、アイツもその程度の人間ってことよ。 もう血を頂けないのは残念だけれど」

「ふざけんな!! あいつがそう簡単に死ぬ訳――」

「言葉で語る前に、行動に起こしなさい?」

レミリアに言葉を(さえぎ)られる。

私の口から、無意識に零れようとした言葉。

そう簡単に死ぬ訳がない、確かにそう告げようとした。

……そうだ、あの恭哉だぞ……?

この私の目を奪ったんだ。

あいつの炎に、心を()かれたんだ。

そんな奴が、見知らぬ誰かに負ける訳がない。

――こいつめ、それを見越していたんだな。

一本取られた気分だよ、吸血鬼の癖に。

「フランは私に任せてくれ、お前はそいつを頼むよ」

「この子を?」

木ノ内(きのうち) 玲香(れいか)、恭哉の大事な仲間だ。 あいつは、必ず生きている」

「……恭哉が……?」

涙を拭いながら、そう尋ねてくる。

玲香の元へとしゃがみ込み、まだ濡れたままの瞳を見ながら、私は口を開く。

「あぁ、私はそう思う。 そりゃ、私だって辛いさ。 でもな、あいつがそう簡単にやられるとは思わない、お前が信じてやらなきゃ、誰が信じてやるんだ?」

「でも、今の恭哉は能力が使えないんだよ……!? そんな状態で、あの魚みたいな妖怪(ようかい)に襲われたら……!!」

「私たちより、お前たちの方がよく知っているだろ? 二回も恩を売っているんだ、恩返しもさせてくれないまま、冥界(めいかい)になんか送ってやるかよ」

その場で立ち上がり、玲香へと手を伸ばす。

「今まであいつに助けられていたんなら、今度はお前たちがあいつを助けてやる番なんじゃないのか? 私も協力する、だから立て」

「……ありがとう。 でもごめん、時間が欲しい……かな」

私の手を取るも、玲香の顔はまだ(うつむ)いたままだった。

……無理もないか。

どれぐらいの付き合いがあるかは分からないが、仲が深いことは確かだ。

フランを連れ戻したら、迎えに来るか。

「レミリア、こいつを頼むよ。 私がフランを止めてやる」

「止められるならね」

「何言ってんだ、私は普通(ふつう)魔法使(まほうつか)いさんだぜ? それに、吸血鬼ハンターの名前は伊達(だて)じゃないんだ」

「懐かしい台詞(せりふ)ねぇそれも。 まぁ、やってみなさいな」

身を(ひるがえ)し、フランが飛び立って行った方を向く。

帽子を構え直し、(ほうき)に乗り空を目指す。

久し振りの弾幕(だんまく)ごっこだからなぁ。

待ってろよ、まずはフランからだ……!!

 

 

 

 

 

既に茜色(あかねいろ)に染まった幻想郷(げんそうきょう)の空。

辺りを見回しながら、空の航路(こうろ)を駆けて行く。

フランの行く宛には、正直答えがない。

その理由は単純で、外に出ることがないからだ。

この幻想郷の地形も、はっきりとは知らないはず。

今のフランの気が正気じゃないこともあり、そう遠くへは行けないだろう。

恐らくだが、生者を見つけては破壊して回る……?

余計な殺生(せっしょう)をさせる訳には行かないからな。

この世界の治安維持は、博麗(はくれい)巫女(みこ)だけの仕事ではない。

横取りするのが、私の仕事でもあるからな。

早い所、見つかってくれればいいが……。

――うん?

この様々な色の弾幕は……。

姿勢を低く構え、高度を下げる。

虹彩(こうさい)にも似た球体の弾幕が、私のすぐ上を(かす)める。

穏やかな夕焼けには、少し似合わない光の筋。

こうも早く見つかるとは……。

私の日頃の行いが良かった結果だな。

「なーに、魔理沙も私の邪魔をするの?」

「おぅ、邪魔しに来たぜ。 正直、私もあいつが死んだって知って動転(どうてん)していたが、本当に死んだのかどうか分からなくなってな」

もう涙も流さない。

泣くなら、あいつの前で泣いてやる。

それに……()かすのも私だからな。

「フランだって、あいつには死んで欲しくないだろ? だから、一回私と話そうぜ」

「話しても無駄、恭哉はもう居ないもん。 遊ぼうって約束したのに……」

無機質な槍を大きく振り翳す。

次第に強靭(きょうじん)な炎を(まと)い、夕焼けに溶け込む様に激しさを増していく。

「私が何もかも壊してあげる。 魔理沙に、私と遊ぶことが務まるかしら?」

「無償では受けたくないな、私も商売人の身だし。 コイン一個は受け付けないが、何を出してくれる?」

「後で払ったげる。 いいからやろうよ」

「ちぇっ、後払いか。 それじゃあ仕方ない、そのイカれた頭を叩き直してやるか」

ミニ八卦炉(はっけろ)と、四つの星型の光体を発生させる。

フランとの弾幕ごっこは何時(いつ)ぶりか分からないが、あの時より私は相当腕を上げているんだ。

引きこもり気味の妹君とは違うんだよ。

牽制(けんせい)の意味も込め、レーザーを展開しようとした時だった。

目にも止まらぬスピードで私の眼前にまで迫り、炎の槍を振り下ろして来た。

――おいおい、いきなりか!?

後ろに回転しながら攻撃を回避し、フランよりも上空を目指す。

その後を追う様に飛び上がり、真紅(しんく)弾丸(だんがん)をいくつも飛ばしてくる。

おっと、逃げてばかりじゃ話にならないな。

試しに、こいつでどうだ?

四つの光体をフランの方へと移動させ、水流にも似た攻撃を行う。

コールドインフェルノ、こいつの名前だ。

元々赤いだろうが、(あか)く染まるかな?

「何その弾幕、つまんない」

一度、大きく()ぎ払う。

その衝撃だけで、自らが放った弾幕すら跡形もなく消し去ってしまった。

何だよ、吸血鬼は夕焼けには強いのか?

日光に弱いこともあり、すぐに音を上げるかと思っていたが……そう簡単には言わないか。

流石は破滅的な妹君だ。

「戦いは弾幕だけじゃないのよ、教えてあげる」

「ほぉー、フランが私にご教授(きょうじゅ)してくれるのか。 何を教えてくれるんだ? 血の吸い方なら、受け付けないぜ」

「そんなつまんないこと教えてあげない。 見てれば分かるよ」

両手を上にあげ、その場で槍を回転させ始めるフラン。

風に晒されている風車(かざぐるま)みたいだ。

そんな生易しいものじゃないだろうが……。

先程まで纏っていた炎は、変わらずに綺麗な軌道(きどう)を描いていく。

……ん、これは……?

次第に炎だけではなく、風まで纏い始めたではないか。

気を抜けば、フランの方へと吸い込まれそうになる程だ。

少し目を(せば)めながら、行く末を見守る。

「本当は恭哉に最初に見せてあげたかったんだけど、ここで魔理沙(まりさ)は壊れちゃうんだし、構わないよね」

「おいおい、勝手に決めつけるなよ。 誰もお前に負けてやるなんて言ってないぞ」

「今決めたんだもの。 そしてこれが……」

――なっ……!?

この感覚、この熱気……そして、紅い魔法陣(まほうじん)だと!?

私には見覚えがある。

つい最近、自らが体験したばかりだからだ。

首筋を、一滴の汗が伝う。

「へぇ、真炎剛爆ノ核(パイロキネシス)ってこんな感じなんだ。 ……あはは、気持ちいい」

 

 

 

 

 

真炎剛爆ノ核って、まさか……。

紅い指輪を取り出す。

宝石を(かたど)った部分を見てみると、(かす)かに光っているのが分かる。

夕陽を反射している訳じゃない。

フランが魔法を扱うことは、おかしなことではない。

魔法少女(まほうしょうじょ)だったか。

どこかの書物に、そう書かれていたのを覚えている。

「こーんな素敵な炎を扱えるなんて、やっぱり恭哉はすごいなー。 さぁ、遊びましょ?」

「遊ぶことが務まるのかとか、遊ぼうとか忙しい奴だなお前は」

私の時の様に、この指輪がフランにも関与しているのだろうか。

確か、憤怒(ふんぬ)意思(いし)がどうとかって……?

――そうか、これか。

フランは恭哉の死に対しての悲しみの他に、自分の玩具(おもちゃ)を見えない他人に壊されてしまったことに、怒りを覚えているんだ。

その為、こいつの力が作動し、フランが恭哉の能力に似た炎を扱っている。

まさか、まだ魔力(まりょく)が残っていたとはな……。

私が全部使っておけばよかったぜ。

今更悔やんでも仕方ないし、やるしかないか。

炎剣(えんけん)「レーヴァテイン・ディフェルト」燃えちゃえ」

紅いレーザー状の弾幕。

その一つ一つが、巨大な剣にも見える。

これは一度見た事があるな。

細かい弾幕も、()(くぐ)って行くだけでいい。

二度も同じ技が、私に通用する訳ないだろ?

こっちもそろそろ仕掛けさせてもらうとするか。

照準をフランに合わせ、スペルカードを発動させようとした時だった。

「言ったじゃない、弾幕だけじゃないって」

不敵な笑みを浮かべるフラン。

目が見開かれ、口角が大きく吊り上がっている。

……弾幕だけじゃないって、どういうことだ?

私がそれを理解する前に、フランの攻撃に変化が生じた。

小さく無数に散らばった赤い弾幕が一点に集中し、爆発を起こしたのだ。

何なんだよあれ……!?

って、やばい!!

一度攻撃を中断し、飛行態勢に入る。

私が飛行する軌道と、フランによる爆発の攻撃。

寸分(すんぶん)の狂いもなく、私の後を追って来ている。

くそっ、追いかけられるのは嫌いなんだがな……!!

「あはははは!! ほらほら、こっちこっち!!」

再び前方に現れ、槍を振り下ろす。

側方へと回転しながら回避することは出来たものの、急な進路変更と判断の為、スピードが大きく殺されていた。

……仕方ない、こっちも吹っ飛ぶ覚悟でやるしかないか。

狂咲(くるいざき)「クリムゾンファイヤーワークス」!!」

星符(ほしふ)「グラビティビート」!!」

私たちのスペルの宣言は、ほぼ同時だった。

地上から気流に乗って上昇する星型の衝撃波と、巨大な炎の球体。

球体が炸裂し花火の様に散っていく前に、私たちよりも上へと打ち上げられる。

スペルによる弾幕の発生は、ほんの(わず)かではあったものの、私の方が早かったようだ。

空中を揺らめきながら、フランのスペルは不発に終わる。

自らの攻撃を破られたことに驚いているのか、その場から動こうとしない。

「さぁ、次は何を見せてくれるんだ?」

「……もしかして、今ので私のスペルを破ったつもり?」

「今目の前で散っていっただろ。 嘘は好きじゃないな」

「へぇ……」

俯きながら、何かを呟き始めるフラン。

とてもじゃないが、あの状態から何かが起きるとは考えにくい。

だが……そう上手く収まるものなのか……?

今のフランは、少なくとも誰も見た事がない状況にある。

気が動転していたり、とち狂っているのならまだ理解出来る。

しかし、フランはこの世界には存在しない能力を使用し、私と対峙(たいじ)しているんだ。

恭哉の真炎剛爆ノ核を初めとした能力には、いくつかの条件が必要なはず。

確か、魔力や特定の原素(げんそ)だったか。

そのどの条件にも、フランは当てはまらない。

それに、私があの指輪の能力を借りることが出来た理由も分からない。

この世界の(ことわり)を無視する物なのか、こいつは?

「その指輪、私に返してよ」

「はぁ、お前のものだぁ? 残念、こいつは私の味方でもあるんだ」

「あるべき場所に帰るのよ、そいつはね。 今の(あるじ)は私、早く返して」

「何の主だ? そもそも、お前が誰かの上に立っているなんて有り得ない話なんだぜ? それとも、今お前の意志は自分自身じゃないって言いたいのか?」

どうもフランの様子がおかしい。

単にとち狂っている訳ではなさそうだし……。

こいつに宿る何かが、フランに乗り移っているっていうのか?

完全憑依(かんぜんひょうい)

それに似ていると言ってしまえばそれまでだが……。

きっと、この世界には存在しない概念だろう。

何が理由であれ、渡す理由にはならないがな。

「欲しけりゃ奪ってみな」

「素直に渡す気はないのね、流石は魔理沙だよ。 でも、そんな貴女(あなた)に逃げ場があるかしら?」

私のすぐ真下で、真紅の魔法陣が展開する。

真っ直ぐに伸びた、(いく)つもの光。

それらは炎の柱へと姿を変え、私の視界と行動範囲を奪っていく。

この柱……昨日見た、黒い炎に似ている。

ってことは、昨日妖怪(ようかい)(やま)で見た者は……?

「考え事している余裕なんてあるの?」

 

 

 

 

 

私のすぐ眼前に映る、紅い悪魔(あくま)の姿。

狂乱(きょうらん)の笑顔を見せたまま、私の顔のすぐ横を炎の槍が通り過ぎる。

それと同時に身体全体を走る、正体不明の痛み。

フランから距離を取る為、炎の柱を突き破り空中で停止する。

その間に痛みの根源(こんげん)を特定出来たのか、無意識にそこに手が伸びていた。

苦痛(くつう)に顔を(ゆが)めながら、手の平を見てみる。

そこに映っていたのは、色の濃い赤色の血。

私の左肩を、フランの持つ槍が貫いていたのだ。

経緯を認識した瞬間、更に痛みは増していく。

こんな経験初めてだ。

魔法に失敗した時とは訳が違う。

自分の血を、自分自身が間近で見ることなんてないと思っていた。

「私はレミリアの妹である前に、誰もが恐れる吸血鬼よ。 さて、魔理沙の血は甘いかしら?」

すぐ後方から、(ささや)く様に聞こえてくる声。

可愛らしくも恐ろしい。

フランに対して、初めて恐怖心を抱いている。

その場から逃げるように、真っ直ぐに飛行する。

「あらあら、追いかけっこなの? いいわ、何処までも追いかけてあげる!!」

形容しがたい笑い声。

私には後ろを見る余裕なんてない。

反撃することも出来る。

それよりも、自分の身を守ることを優先してしまっていた。

何かから逃げている……この私が?

自分の力には、自信がある。

これまでだって、幾度(いくど)となく異変を解決してきたんだ。

それなのに……戦うことが怖い。

箒を握り締める力が強くなっていく。

身体全体が震えることを、必死に(こば)む様に。

何かに(すが)り付いてでも……誰かを蹴落(けお)としてでも、今この場から逃げ出してしまいたい。

何をどうすればいい?

炎忌(えんき)「ファイヤメイズ」!! この迷路から逃れられるかしら?」

私の行く手を(はば)む、炎の迷路。

どこに動けばいい!?

右か、左か!?

私が迷っていても、フランが放った弾幕は動き続けている。

迷路に迷い込んだんじゃない。

そこに巣食う見えない何かに、吸い込まれている気もした。

――落ち着け、考えろ。

私の姿は今、フランに確実に(とら)えられている。

自分自身を不可視(ふかし)領域(りょういき)に誘うことは出来ない。

そんな魔法は聞いたことも無いし、見たことも無い。

フランが改めて言っていた、吸血鬼という名称。

辺りはもう夕陽が落ちかけていて、夜が訪れようとしている。

元々夜に生きる種族だ、闇夜には慣れている。

しかし、フランはこの幻想郷の外の姿を(ほとん)ど知らない。

……ってことは、今この時間に私の姿が視界から消えれば、時間の猶予(ゆうよ)は生まれる……?

その間に体勢を立て直せば、あいつを攻略することが出来るかもしれない。

踏ん張れよ私……!

今更びびって逃げ出す奴じゃないんだ、一発かましてやれ!!

意を決し、姿勢を低く取る。

弾幕が密集した場所へと触れる寸前に、進路を真下へと向ける。

急降下へ入る際に、帽子から魔法瓶(まほうびん)を取り出し、フランの放った弾幕へと投げ付ける。

所謂(いわゆる)、目くらましって奴さ。

吸血鬼にはちょっと(まぶ)しいが、これも社会勉強だぜ。

フランが目を覆っていることを確認しながら、地上に広がる木々の中に身を隠す。

荒れた呼吸を整えながら、肩の傷口を抑える。

痛みは引かず、(むし)ろ増している。

治療薬なんて持っていないし、玲香の様な治癒魔法(ちゆまほう)も持ち合わせていない。

痛みが自然に引くまで、どうにかやり過ごすしかない……。

何度見ても、この鮮血(せんけつ)は見慣れない。

全身の血の()が引いてしまう感覚を、今初めて体感した気がする。

……あいつらは、こんなことにも慣れているっていうのか……?

見知らぬ妖怪の返り血に身を染めていても。

得体の知れない何かに、無惨(むざん)にも殺されてしまった者の姿を見たとしても。

そんな状況に置かれたとしても、誰一人生気(せいき)を失うことは無かった。

私たちとは、根本的に違っているのか……!?

もしそうだとしたら、一体何が?

同じ人間だろ?

少し変わった力を持っていて、魔法が使えて、戦うことが非日常ではなくて。

大きな違いはないはずなのに……。

どうして、そう平然と居られるんだよ……!

「魔理沙ー、どこに隠れてるのー? 早く出てこないと、殺しちゃうよー?」

少し遠くで、いつも通りの無邪気(むじゃき)で幼いフランの声が聞こえてくる。

言っていることは物騒(ぶっそう)そのものではあるが、フランからすれば他愛もない一言に過ぎない。

息を殺し、じっと身を潜める。

不意を突けば、いくらフランとは言え気絶させることぐらいは出来る。

しかし、この状態のまま紅魔館(こうまかん)に連れて帰るのは、少しリスクが高い。

フランの実の姉であるレミリアでさえ、フランの実力を(しの)ぐことは出来ない。

言い換えれば、こいつの暴走を止められる奴なんて、この世界には片手で数えられるぐらいしか居ないってこと。

「こっちかな? それともこっち?」

木々の合間を掻い潜り、顔を覗かせたり辺りを見回したりを繰り返している。

先程までの狂気は、すっかり消えたようにも思えるが……。

私の手元にこの指輪がある限り、再発する可能性もある。

迂闊(うかつ)に動けないな……私には、肩の傷もあるし。

本当、痛くてたまらないんだよこれ……泣いて治るのなら、何度だって泣いてやりたい。

――私を(かば)ってくれた時、恭哉はどう思っていたのだろうか。

今の私よりも、ずっと深い傷を追っていた。

それでも尚、私のことを守ろうとしてくれた。

きっと、今の私に似た状況に置かれていたんだ。

逃げ出したくもなるぐらいに、どうしたらいいのか分からない相手に遭遇して……。

こいつは……教えてくれないか。

何気なく指輪を見てみても、相変わらず怪しげに紅く光っているだけだ。

それにしても、何なんだろうなこいつ……。

見れば見る程に、その紅色に引き込まれそうになる。

まるで、自分自身を失ってしまいそうに……。

「みーつけたっ。 遊びましょ?」

 

 

 

 

 

耳元で囁かれた細い声。

私が振り返る前に、首元へ突き立てられる鋭利(えいり)(やいば)

フランの持つ黒い槍。

目で見ずとも、その正体はすぐに分かった。

「魔理沙の身体って細いのね。 握ったらすぐに折れてしまいそう」

「ふんっ、お前に握られるなんてごめんだね」

「それを決めるのも私よ、試しに腕から折ってみる?」

もう片方の小さな手が、私の手首へと伸びてくる。

このまま触れられる訳には行かない。

勢いよく、手で払い()ける。

それと同時に、目を細める程の痛みが生じる。

槍の先端が、首元への皮膚へと僅かに刺さっていた。

肩の方へと、血が流れていくのが分かる。

「今の魔理沙は私の人形も同然なのよ? 余計なことしないで」

「何がしたいんだ……?」

「それはこれからのお楽しみ」

黙ったまま、前を見据(みす)える。

このまま言いなりになっていても、この状況が変わる訳ではない。

どうにか切り抜けないと……。

幸いにも両手は動く。

足が封じられている訳でもない。

箒は手元にないから……ミニ八卦炉か?

ポケットに仕舞ったままのはずだ。

しかし、この距離じゃフランに勘づかれてしまう。

話し合いが通じるのなら、少し気を逸らしてみるか……?

「なぁフラン、恭哉の能力ってどんな感じなんだ?」

「何でそんなこと聞くの?」

「気になるんだよ、魔法使いの飽くなき探究心が騒いで仕方ないんだ」

「……まぁいいよ。 今ね、すっこぐいい気分なんだ。 何もしていてなくても、全身に魔力が満ちている気がするの」

……なるほどな。

この感想を聞く限り、フランは本当に恭哉に似た能力を手にしているようだ。

もちろん、一時的にだろうが。

……ってことは、あいつの能力についてもう少し詳しく聞き出せるかもしれない。

もう少し探ってみるか。

「この世界の魔力とは違うのか?」

「もちろん。 今私の中には二つの魔力があるの」

「一つは普通のものだろ? 残りの一つは?」

「うーん、何だろ……」

フランの言葉が詰まり出す。

流石に正体までは分からないか。

まだ何か聞き出せそうではあるが、何を聞き出すのがいいのか……。

「って、わざわざ魔理沙に教えなくてもいいじゃん」

「そう固いこと言うなよー。 私とお前の仲じゃないか」

少しずつではあるものの、無邪気なフランに戻りつつある。

もう少し……。

あと少しだけでも気を逸らすことが出来れば、一定の距離を保てる。

「――ねぇ。 そこに居るのは誰? 私と遊んでくれるの?」

突然、そんなことを言い出した。

誰か居るっていうのか?

この場所で、私たち以外に?

「隠れんぼが下手なのね、もうバレバレだから出て来なよ」

再度、見えない誰かに問い掛けるフラン。

それでも、何も姿を現さない。

……言葉が通じないのか?

もしそうだとしたら、例の妖怪って可能性もある。

フラン程の実力があれば心配は無用だろうが、私まで巻き込まれてしまうのは避けたい。

「ふーん、出てこないんだ。 じゃあ……壊れちゃえ」

すぐ近くに生えている草木が消滅する。

噴煙(ふんえん)が立ち込める中、一筋の雷撃(らいげき)が私とフランの間をすり抜けていく。

……下手に動いていたら危なかった。

「魔理沙さん! 今のうちに!!」

声の正体も分からないまま、フランの元を離れる。

聞き覚えがあるのは確かなんだが……。

私の動きに気が付かなかったのか、フランは立ち尽くしたままだ。

それにしても、一体誰なんだ?

「私が遊ぶのを邪魔するなんて、いい度胸してるじゃない。 ……ん? 恭哉に少し似てる、誰?」

「この子も兄さんのことを知っているのか……。 その槍を降ろしてください、戦うつもりはないんだ」

恭哉に少し似ていて、「兄さん」って呼ぶってことは……。

京一(きょういち)、お前なんでここに!?」

「人里に帰ろうと思ったら、急に爆発音が聞こえて。 それで、飛んで来たらこうなってたんだ」

海藤(かいどう) 京一(きょういち)

恭哉の実の弟であり、生真面目(きまじめ)で礼儀正しい奴だ。

雷を操る能力を持っており、恐らく先程の雷撃は京一によるものだろう。

戦うつもりがないって言っても、その槍じゃ説得力ないけどな。

「相変わらず無茶しますねぇ。 ほら、傷を見せて下さい」

物腰の柔らかい、優しい声。

血に染った衣服を見たのか、怪我を負った肩へと視線を向けながらそう言う。

――無茶するのは、お互い様だろ。

「ありがたーい詠唱(えいしょう)とか、興味あります?」

「無いね、これっぽっちも。 私は動けるし、怪我の治療は後だ。 とにかく、フランを落ち着かせてやらないと」

「駄目ですよー、雑菌とか入ってしまえば、悪化するかもしれませんし。 せめて傷口ぐらい隠しておかないと」

「ねぇ、知らない奴ばっかり増えたんだけど。 私と遊んでくれるんだよね?」

「おままごとですか? それなら負けませんよー!!」

「あの、早苗(さなえ)さん。 そんな穏やかな遊びじゃないと思うんですけど……」

照れくさそうに笑う人物。

博麗(はくれい) 霊夢(れいむ)の他に存在するもう一人の巫女(みこ)東風谷(こちや) 早苗(さなえ)

それが、彼女の名前だ。

真面目で純粋な奴なんだが、どこかぶっ飛んでいる。

……っつーか、こんな凸凹(でこぼこ)コンビでフランの相手なんか出来るのか?

「まぁいっか。 全員まとめて壊してあげるよ。 不味そうな血なんていらないし、消してあげるね」

「不味そうとは失礼ですね。 私は神様ですし、きっと血も美味しいですよ? 信仰心がない方には渡せませんが!」

「お前たちはフランのことを知らないだろうし、言っておいてやる。 あいつ、私たち全員が相手でも余裕だからな?」

実力が下であることは認めたくはないが……。

今のフランは一人でありながら、一人ではない。

後ろに見えるよ。

あの時に見た、紅い眼が。

「余裕と言いますと? 私たちは三人ですし、絶対に勝てますよ?」

「レミリアの妹だぞ、フランは」

「えぇ!? レミリアさんに妹が居たなんて、初耳ですよ」

――大丈夫かこいつら……。

 

 

 

 

 

私たちの間を、炎の斬撃が通り抜ける。

「とにかく遊んでよ。 今の私は気分が良いし、粉々にしてあげられるよ?」

「な、なんですかあれ!?」

「今のフランはいつも以上に狂ってる。 とりあえず、ありったけの弾幕をぶつけるぞ!!」

とにかく攻撃を拡散させ、フランの視界や手数を鈍らせるしかない。

……私たちに攻撃する余裕があれば、だがな。

一層激しくなる炎撃に対し、私と早苗は防戦一方の状況へと追い込まれ始めていた。

こちらが弾幕を放つ隙すら作らせては貰えない。

――真紅の槍と、蒼雷の槍が交差する。

重い音と共に、衝撃波による風が巻き起こった。

「二人は一度体勢を整えて下さい!! ここは、僕が持ちこたえます!!」

京一の叫び声が響き渡る。

あのフラン相手に、時間を稼ぐ算段があるってのか……?

しかし、私としても少し時間が欲しいのは事実だ。

早苗も京一も、まだこの状況を完全に理解していないはず。

こちらとしても、ある程度の情報は伝えておきたい。

……ここは、甘えさせてもらうか。

「へぇ、私の事怖くないんだ?」

「君みたいな子は初めて見るよ。 でも、もっと醜く恐ろしい奴は沢山見てきたんだ。 これぐらい……どうってことない!」

「恭哉に似た事を言うのね。 いいわ、少しだけ遊んであげる!!」

何度も何度も激しくぶつかり合う、双方の攻撃。

フランの注意が、完全にこちらから外れたタイミングを見計らい、早苗と共に一度距離を置く。

どういう状況か分からないようで、早苗の表情は少し困惑していた。

「コソコソ隠れるなんて、魔理沙さんらしくないですね? それに、出血も止まってないじゃないですか」

「今は肩の怪我はどうだっていいんだ。 とにかく、今のフランはフランじゃないんだよ」

「そのフラン、っていう方はレミリアさんの妹なんですよね? それなら、あんなに暴力的だとは思えないんですけど……」

「それも含めて話したいから、今こうして隠れてるんだろ?」

木陰に身を(ひそ)め、早苗をじっと見つめる。

今の言動から察するに、フランのことは微塵(みじん)も知らないはずだ。

フランの元々持つ能力とスペルカード。

それに、恭哉の能力が何らかの形で干渉し、今の状態にあると説明する予定なのだが……。

早苗自身は、恭哉のことは知っているのだろうか?

京一と共にこの場所に現れたのだから、名前は知っている可能性はあるが……。

その項を尋ねてみる。

私の想像通りで、京一から話だけは聞いている様で、実際には会ったことがないらしい。

まぁ博麗神社(はくれいじんじゃ)と同様に、普通の人間にはとてもではないが、楽な道のりじゃないしな。

しかし、京一の他に玲香や章大、その他にもう一人顔を合わせたことがある人物が居ると言う。

名前は佐野(さの) 賢太(けんた)

恭哉たちの仲間の一人で、この世界のことを聞き出す為に、早苗の住む神社である「守屋神社(もりやじんじゃ)」を訪れていたようだ。

「……えーっと、あいつらの持つ能力に関しては知らないのか?」

「まぁ、手合わせを願うこともありませんでしたからね。 でも、それが今と何の関係が?」

「それが大アリなんだよ。 どういう理屈なのかはまだはっきりしていないが、フランが持つ能力に別の異能力(いのうりょく)が干渉しているんだ」

「うん……? スペルカードルール的に、それってアリなんですか?」

「普通ならないな。 だが、あいつらには弾幕を放つことも、スペルカードを唱える事も出来ない。 私たちとは違う形で戦っているんだよ」

やはり、弾幕ごっこ以外の戦い方に納得が行っていないのか、早苗の表情は困惑したままだ。

……と思っていたのだが、すぐにいつも通りの表情に戻る。

おまけに、目を少し輝かせているではないか。

私には、その理由は分からんが……。

「なるほど……そういうことね!」

「どういうことだ? お前までイカれるのは勘弁してくれよ?」

「メカ成分の一種ですよ! 私たちがロボで戦うのなら、京一さんたちはヒーローの(ごと)く戦うのです!!」

……あー?

お前は何を言っているんだ?

メカだのヒーローだの……さっぱり分からん。

「ねぇねぇ、そろそろ魔理沙たちも遊んでよ?」

私たちの間からフランが顔を覗かせ、微笑(ほほえ)みながらそう告げる。

京一が時間を稼いでくれていたはずだが……。

待てよ、じゃああいつは!?

「あら、まだ生きてた?」

「……ここまで強いだなんて思わなかったよ。 少し、手加減していたのかもしれません」

「もちろんよ、人間如きに負ける訳ないじゃない。 あなたじゃ私の相手にならないし、つまんないわ?」

「それは、僕が普通の状態での話だ。 第二の鎖(セカンドチェイン)、解放!!」

無数に降り注ぐ、巨大な雷撃。

――これってまさか、昨日玲香が私に見せてくれた……?

確か、魔力を爆発的に増加させるって……。

玲香は一つだけ、それに戦う意図では使用していない。

今、京一が使用するこの能力が、真価になるってことか……。

震霆御霊(しんていのみたま)建御雷神(タケミカヅチ)!!」

――(まばゆ)い閃光が辺りに広がり出す。

全身を駆けて行く様な、おぞましい程の魔力の波。

なんだよこれ……玲香の時とは全く違う。

これが本当の魔力の解放だっていうのか……!?

「すごーい、こんなのもあるんだ?」

「……君は、兄さんのこの状態を見たことは?」

「ないよ? 恭哉の能力で見たことがあるのは、おっきくて綺麗な炎だけ。 全てを燃やし尽くし、あらゆるものを灰燼(かいじん)と化す程の炎撃……とっても綺麗だったなぁ」

「そっか。 じゃあ、僕のこの姿で予習しておくといいよ。 腰を抜かさないようにね」

「さっきよりは強そうだし、遊んであげるね?」

二本の槍を構え、ゆっくりと歩いていく京一。

強さだけじゃなく、性格まで変わってしまうのか……?

今の状態は、少しだけ恭哉に似ている。

戦うことに恐れを抱かない、寧ろ楽しんでいる様にも見える。

「そうだ、これぐらいなら避けられるよね?」

先程の空中戦でフランが見せた、巨大な炎剣。

それを発生させ、真っ直ぐに京一へと飛ばす。

進めていく歩は止まらない。

片方の槍を目の前で回転させ、炎剣とぶつかり合う。

周りの空間を捻じ曲げんとする程の衝撃波が生まれ、私たちの身へと向かってくる。

飛ばされない様、身体全体を力ませ腕で顔を覆う。

「これぐらいの炎、兄さんに比べたら全然だね」

「小手調べに決まってるじゃない。 ほら、ここからが本番」

 

 

 

 

「……さん、魔理沙さん」

息を()む暇もなく、目の前の光景に目を奪われていた。

これが、本当の……。

「魔理沙さんってば!!」

「うわっ!? さ、早苗か……」

「本当にらしくないですねぇ。 ほら、どうするんです?」

早苗の声に振り向いた後、またフランの方へと視線を戻す。

三つの槍がぶつかり合う光景。

……少しだけだが、京一がフランを上回っている様にも見える。

こんなの……アリかよ……。

私だって同じ人間なのに……。

何度努力したって、こんな力……手に入れることなんて出来ないんだぞ……!?

「腰を抜かすなんて、魔理沙さんらしくありませんね。 ここに居てください、私は加勢しに行きますので」

私の元を離れ、一人戦乱の中へと入り込んでいく早苗。

その姿を、私は呼び止めることが出来なかった。

……何も感じないのか?

悔しくないのか?

同じ種族なのに、こんな……絶対的な力の差を見せ付けられて……。

玲香も京一も、口を揃えて「恭哉が自分たちの中で最も強い」と、そう言っていた。

こんなんじゃ……私はあいつの足元にも及ばないのか……?

……嫌だ。

もう、あんな思いをするのは嫌だ。

誰にも追い付けないなんて、そんな……。

私の脳内にふと過ぎる。

――海藤 恭哉は死んだ。

そうだよ、そう手紙に書いてあった。

このまま、私の元を去ってくれれば……悔しい思いなんて抱かなくてもいい。

それなのに、あいつが死んだと決め付けることが出来ない。

こんな感情の狭間に追い込みやがって……。

秘術(ひじゅつ)「グレイソーマタージ」!!」

鳴雷天翔駆(なるかみてんしょうく)!!」

「あっはははは!! そんなの全然効かないよ!?」

先程まで優勢だったのに、徐々にフランに押され始めている。

まだ力を隠していたのか、こいつに魔力が残っていたのか……。

指輪を取り出し、見据えてみる。

相変わらず、何も変わりはしない。

こいつを……恭哉はどんな想いで使っていたんだ……。

――ん?

何だ……段々と私の指に近付いている……?

私の意思じゃない。

まさか、こいつが……!?

私が気付いた時にはもう遅く、左親指の方へと指輪を()めようとしている自分が居た。

指から離そうとしても、何かに縛られている様に自由が効かない。

なんだよこれっ……!!

もし、こいつを指に嵌めてしまったら……どうなる?

フランよりも、恭哉の命を奪った奴よりも強大な力を得ることが出来るかもしれない。

だが……それで得た力が、私にとっての何になる?

そんな力、私は欲しくない。

今までずっと努力だけで、全てに追い付いて来たんだ。

こいつを取り込んでしまえば、今までの霧雨(きりさめ) 魔理沙(まりさ)を否定することになる。

何が何でも……嵌める訳には……!!

「――!? それを付けちゃダメ!! 私のモノ!!」

戦いの最中にいるフランが、声を荒らげる。

……こうとまで言い張るとは、やはりこいつが干渉していることに間違いはなさそうだ。

私だってこいつを嵌めるつもりも、お前にくれてやる理由はないがな……!

そうは思っていても、中々振り解けない。

寧ろ、少しずつ私の指へと近付いている。

「魔理沙さん!! 今すぐそれを放り投げて下さい!!」

フランの炎剣を槍で受け止めながら、京一が叫ぶ。

まさか、何か知っているってのか……?

「魔理沙さんの魔法なら、完全に破壊出来るはずです。 だから早く!!」

「無茶言うな!! こいつの力が強すぎて、剥がれない……!!」

いつの間にか戦線を離脱し、私の腕を掴む早苗の姿。

二人の力なら、何とかなるか……?

徐々に指から離れていく。

このまま、こいつを放り投げれば……!

「三つ数えたら、これを離して破壊しましょう」

「あぁ、こっちの準備は出来てるぜ」

顔を向かい合わせ、静かに頷く早苗。

軽く呼吸を整え、掴まれていない方の手でミニ八卦炉を持つ。

「壊したらダメ!! ……が、居なくなっちゃう!!」

「魔理沙さん!!」

「行きますよ……いち、にの……さん!!」

私の手から、真紅の指輪が離れる。

宙に放たれ、数度回転した後。

私の魔法によって、欠片も残さない姿となった。

時を同じくして、フランの手から棒状の槍が離れ、地に落ちる。

膝から崩れ落ち、呆然としているフラン。

ここからでは、少し様子が見辛い。

早苗と共に、フランの元へと走って行った。

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