東方幻奇譚 ~the Eighth Fantasy.   作:TripMoon

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東方幻奇譚 焔ノ章 煉舞編
第10話 血の盟約


 

 

 

 

 

 

 

 

 

(やっと着いた……意外と遠いもんだな)

木々が(つら)なる夜道を歩き、赤いレンガで造られた洋風の館へと辿り着く。

夜に見るこの場所は、どこか異色の存在感がある。

昨日の様に入口がどこかと迷うことはなく、大きな門の前にすぐに立つことが出来た。

ただいま、でいいんだよな……?

鉄扉(てっぴ)に手をかけようとすると、軽い寝息が聞こえてくる。

横目に見てみると、壁に背を預けたまま眠る人物の姿があった。

確か、美鈴(めいりん)……だったっけ。

よく立ったまま寝れるな……。

昨日咲夜(さくや)が門番に戻れと言っていたので、その職務中なんだろうけど。

妖怪(ようかい)などが出歩いているこの場所では、門番という仕事もかなりの激務だよな。

何か差し入れでもしてやりたいけど、お金ないしなぁ……。

この世界の通貨を手に入れる方法も、誰かに聞いておいた方が良さそうだな。

美鈴を起こさぬようにそっと鉄扉を開け、紅魔館(こうまかん)の敷地内へと歩を進めていく。

昨日と同じで噴水によって溢れる水の音が、上品さを(ただよ)わせている。

ロビーへと続く木製の大きな扉を開け、中へと入る。

「おかえり、随分と遅かったじゃない」

大広間に行く前に、この紅魔館の当主、レミリアに出迎えられた。

その後ろには、両手を前に構え凛と立つ咲夜の姿も。

「ただいま、でいいのか?」

「勿論よ。 今貴方は、この紅魔館の住人なんだから」

「そいつはどうも。 フランは?」

「自分の部屋に居るわ。 何度か足を運んだのだけれど、相手にして貰えなかったわね」

どうやら、もう一度俺と話し合う機会を設ける為に、取り(つくろ)おうとしてくれていたようだ。

フランはというと部屋から出ず、ずっと閉じこもったままらしい。

咲夜やメイド妖精、パチュリーに小悪魔(こあくま)、美鈴と皆朝食を終えた後から誰も姿を見ていない。

やっぱり、俺が要らない嘘をついたせいで……。

「レミリアに頼みがあるんだけど、フランの部屋を教えて欲しい。 もう一度、話せなくても顔を見ておきたいんだ」

「そう言うと思ってたわよ。 いいわ、案内してあげる」

「お嬢様、私がお連れ致します」

「結構よ。 咲夜は他の仕事をしておいて」

「ですが――」

「咲夜、私は下がれと言ったの」

「……かしこまりました」

音も立てず、その場から消え去る咲夜。

小悪魔の言っていた「時を操る能力」の一種だろうが、時間が止まった感覚さえ感じられなかった。

その見事な芸当に、少し口を開けてしまっていた。

「何してるの、行くわよ」

レミリアの声で我に返り、後をついて行く。

夜ということもあってか、館内は静まり返っていて、床を踏む足音以外何も聞こえてこない。

吸血鬼の住む館ともあって、夜は賑わっているものかと思っていたが、実際そうではないようだ。

「そういや、章大(しょうた)は? 帰ってないのか?」

「パチェのとこじゃない? なんか紙束を持って帰ってきてたけど、真面目にお勉強かしらね」

「何か言ってなかったのか?」

「いえ何も。 気付いたら、もう館内に居たもの。 第一、気にする程の存在でもないのよ、貴方と違ってね」

レミリアが言うには、章大への関心はないらしい。

実力こそは認めているようだが、人妖感(じんようかん)の波長が合わない……とか何とか。

まぁ、取っ付きにくいのは分かる。

対して俺の方は、飼い慣らし甲斐があるとのこと。

もちろん、飼われる気は一切ないけどな。

「さっきから気になっていたのだけれど、その服装は何? またボロボロじゃない」

「あーこれにも深い訳があって……」

「また無茶でもしたのでしょう? 私は死人の血なんか欲しくないわ」

「そう簡単に血なんか上げてたまるか。 大体俺の血は普通の血じゃ――」

「その血が気になるのよ、人間以外の血っていうのがね。 紅魔館の主として、執事の情報を知る権利があるの、教えなさい?」

「いつから執事になったんだよ、毛皮なんてないぞ。 まぁ、血のことについて教えるのはいいんだけどさ」

「いや羊のことじゃないから、今朝のこともそうだけど半分わざとでしょ。 いいから、その血は何?」

魔族の血(ギルティブラッド)

通常の人間の血液と同様に、俺の体内を巡るもう一つの血液。

これを(ほどこ)した理由は、先述していたと思うが、単に命を繋ぎ止めただけのものではない。

この魔族の血と共に刻まれた、真紅ノ結晶(クリムゾンコア)

俺や玲香(れいか)たちの持つ(コア)には、それぞれ与える能力や魔力(まりょく)に違いがあるが、この真紅ノ結晶だけは、他とは違う点がいくつか存在する。

まず一つ目は、核の形状を変化させられること。

真炎剛爆ノ核(パイロキネシス)が発現した頃は、真紅ノ結晶は指輪の形をしていた。

だが、魔族の血を輸血する際に結晶石(けっしょうせき)の様な形に変わり、右肩に埋め込まれていた。

どのようにしてそうなったのかは分からないが、意識が戻り目が覚めた時には今の身体になっていた。

自分の中に見知らぬ血が流れていることに違和感を覚えていたが、次第に慣れていき今では何ともない。

人間が元々備え持つ代謝や治癒力、潜在的な魔力を極限まで引き出せる為、戦いにおいては(むし)ろ好都合でもあった。

その為、昨日今日の怪我や大量の出血をしたとしても、すぐに死に至る訳では無い。

もちろん、心臓をぶち抜かれたりとか脳を破壊されてしまえば流石に死ぬんだろうけど。

不老不死(ふろうふし)……にはなれないか。

「ふーん、そういうことなのね。 じゃあ、私のような吸血鬼(きゅうけつき)は口にしない方がいい血なの?」

「今まで吸血鬼に会ったことがないから何とも言えないな。 そうだ、純粋な人間の血はどうなんだよ」

「それぞれかしらね。 今は選んだ人の血しか口にしないの。 昔はそうねぇ……生ける人間を捕まえて、抵抗しないように加工して血を飲んでいたかしら。 低俗(ていぞく)な人間の血は不味いって、相場が決まっているのよ」

「昨日俺のこと不味そうって言ってたけど、レミリアにとっては低俗な人間に入るのか?」

「昨日のことは昨日のことよ。 まぁ、今では大事な……って、変なこと言わせないで頂戴」

照れ隠しなのかは分からないが、横から腹部を小突かれる。

上手く聞き取れなかったものの、何故か急に寒気が……。

「吸血鬼的には、人間の血の味ってどうなんだ?」

「上質なものは甘いかしら? 他は覚えてないわね」

「ふーん……俺からしたら、鉄の味しかしないけどな。 吸血鬼の理屈はよく分からん」

「分かり得ないでしょうね。 でも、いつか貴方の血も飲んでみたいわね」

涼しい顔で、さらっとそんなことを言い放つレミリア。

出来る限り、それは避けてもらいたい所だけど……。

それにしても、本当に広いな紅魔館……。

 

 

 

 

 

「もう少し歩くわね。 この先にある地下室がフランの部屋よ」

レミリアに連れられて来られた場所は、紅魔館の地下に当たる。

窓は一切なく、洋風の造りとはかけ離れた殺風景な冷たい空間。

部屋というより牢獄(ろうごく)……そう表現する方が正しいのかもしれない。

こんな場所に、フランは何百年も一人で……?

「こんなとこに部屋なんかあるのか? 誰かが暮らせるような状況じゃないと思うんだけど……」

「貴方たちの常識では、そうは捉えられないでしょうね。 それに、あの子の能力の前では、いくら空間を用意した所で無意味なのよ」

「きゅっとしてドカーンってフランは言ってたけど、それが何かを壊すのとどんな関係があるんだ?」

「あら、聞いてなかったの? この私の妹と仲良くするのだから、相応のことは知っているものだと思っていたのだけれど」

「この世界に来てしばらくの時間が経ってれば知れただろうけど、何せ昨日来たばかりだからな」

「私専属の執事になるのなら、教えてあげましょうか?」

「思ったんだけど、何でそこまで執事に(こだわ)るんだ? 咲夜は専属の従者なんだし、事は足りてるだろ?」

レミリアに問いてみるも、真意は見い出せない。

単純に従者が欲しそうな訳ではないし……。

「それなら、()盟約(めいやく)でも結んでみる?」

「なんだそれ。 朱肉(しゅにく)の代わりに血で判子を押す、とかじゃなさそうだけど」

「そのままの意味よ。 貴方の生き血を私に捧げるの」

「要は血が飲みたいだけだろそれ……。 単なる人間の血なんか、その辺の奴とっ捕まえて吸えば良くないか?」

高貴(こうき)なる種族は、その身分にあったものしか欲しないのよ。 光栄に思うことね」

「その割には出会い頭に首締められたけどな」

うっ、と(うめ)いた後ジト目でこちらを(にら)むレミリア。

上品な物言いとは裏腹に、子供っぽい仕草に少し笑ってしまいそうになる。

数百年生きているとはいえ、やはり子供にしか見えないんだよなぁ……フランも同じだけど。

そろそろ視線が痛いので、謝りを入れておいた。

「まぁ、血をやるのはいいんだけどさ。 本当にどうなっても知らないぞ?」

「大丈夫よ、吸血鬼は元来より最上位に君臨する種族よ? 違った血液を喰らった所で、死ぬことなんてないわ」

「ならいいんだけど……。 その代わり、情報は先払いな」

傲慢(ごうまん)な執事だこと。 まぁいいわ、貴方の顔を立てて教えてあげましょう」

だから誰が執事だっつーの。

かしこまりましたお嬢様ーとか、口が裂けても言えないぞ。

そんなことを口にした日には、それこそ嵐でも台風でも起こりそうだ。

ため息をついた後、レミリアが告げるフランの能力。

ありとあらゆる物を破壊する程度の能力、とそう言った。

計り知れないパワーや、次元すらも超越する力で対象を破壊するのではなく、全ての物質に共通する最も弱い箇所である「()」を自らの手の中に移動させ、それを握り潰すことで跡形もなく破壊してしまう。

これがフランの能力の原理であり、「目」が存在するものであれば、何でも瞬時に破壊する。

宇宙空間に存在する隕石でさえ、フランにとってはただの石ころに過ぎないと言う。

昨日のあれは、たまたま目を見つけることが出来なかったから……なのか?

直接的に破壊しようとせず、あくまでも炎剣(えんけん)や弾幕での勝負を仕掛けてきたし、やはりフラン自体もあまり分かっていないのかもしれないな。

そして、どんな場所に閉じ込めたとしても内部から破壊し、出てきてしまうのが、フランが一人にされていた真の理由らしい。

様々な術や方法を用いたとしても、結局はあっけなく壊されてしまう。

姉である私の能力さえも、あいつは超えてしまうと、レミリアが話す。

――そういえばレミリアの能力は聞いたことなかったな。

「フランが全てを破壊するんなら、レミリアの能力は何になるんだ?」

「未来予知、といった所かしら。 私によって、全ての運命は変えられるのよ……良くも悪くもね」

「未来予知……? どういうことだ?」

「本来貴方が辿るはずの運命が私によって変化する、と言っても分からないでしょうね。 私の機嫌を損ねないこと、それだけ分かってくれてばいいわ」

「分かった、善処(ぜんしょ)しとくよ」

イマイチ想像が付かないが、フラン同様にレミリアへと接し方も気を付けておいた方が良さそうだ。

生きられるはずの運命が、こっくりと死の運命へと変えられようものならたまったもんじゃない。

物理的なダメージは受けられても、絶対的な死という避けようのない力には適うはずもないしな。

そうこうしている内に、一枚の木製の扉の前へと行き着く。

地下の奥深い場所ともあって、一層暗くひんやりとした寒さの感覚さえ感じられる。

「ここがフランの部屋よ」

「部屋っていうより、何か牢獄みたいだな。 ここに五百年も閉じ篭っていたのか?」

「そんな訳ないでしょ? さっきも言ったけれど、あの子同じ場所に閉じ込めておくことは不可能よ。 だからここは……何個目の部屋かしら、覚えてないわ」

……待てよ?

何個目の部屋か分からないってことは、昨日よりも前にフランの能力が暴走することがあったってことか……?

紅魔館の誰であっても手に負えない、フランの能力。

どうやって止めていたんだ……?

「じーっ」

小さくこちらに向けられた、聞き覚えのある声と馴染みある視線。

その方を振り向いて見ると、扉の隙間からこちらを覗く深紅(しんく)の瞳がそこにはあった。

間違いない……フランだ。

最後に見た悲哀(ひあい)に満ちた瞳ではなく、純粋無垢(じゅんすいむく)で目に映るもの全てに興味を示す様な子供の瞳だ。

「フラン……だよな?」

「出てらっしゃい」

「やだ。 お姉様は向こう行っててよ」

「恭哉と話し合う気があるのなら、この場を去ってあげるわよ」

レミリアの言葉に、(しば)し黙り込むフラン。

何度か低く(うな)った後、扉を少し開け小さな手を出してくる。

そして、こちらを手招きする動きを見せ始めた。

思ってもいなかった行動に、レミリアと目を合わせる。

「OKってことなのか……?」

「行ってらっしゃい。 願ってもいないことでしょう?」

「そ、そりゃーそうだけどさ……急すぎるっていうか……」

「いいから行きなさい。 あの子もそれを望んで居るのだし」

レミリアに言われるがまま、フランの部屋へと繋がる扉に手を掛ける。

……ここで躊躇(ためら)っても、しょうがないよな。

意を決して、扉を開け中に入った。

 

 

 

 

 

「お姉様は?」

「部屋の外だよ。 多分だけど、俺が話終わるのを待っているんだと思う」

「ふーん。 私以外の人がこの部屋に来るなんて、なんか不思議」

扉の先で広がっていた光景。

照明は消され、窓もなく冷たい雰囲気に包まれた場所だ。

そんな場所には似合わない、茶色の熊のぬいぐるみが一つ。

それを拾い上げ、抱き締めながら口を開くフラン。

「で、恭哉は何しに来たの?」

「今朝のことを謝りたくてさ。 お前に嘘をついていたこと」

「へぇ……やっぱり、恭哉は優しいんだね」

フランの言葉に、思わず首を(かし)げる。

優しいという言葉は、何度も言われてきたことだが、フランの場合は少しニュアンスが違う。

どういうことなのかを尋ねようとした時、先にフランが言葉を続けた。

「私ね、全部知ってるよ? 昨日の弾幕ごっこのこと」

「えっ……? でも、あの時のフランは……」

「ほら、恭哉は私が倒れたことに怒って、あの二人と戦ってくれたでしょ? それが凄く嬉しかった、でも私以外の誰かに壊されそうになったから、少しだけ能力を使ったの」

「じゃあ、あの状態の時でも、意識も記憶もあるってことなのか?」

「うん。 血肉の匂いや感触、恭哉の言葉も全部」

あの後、少しの間眠っていたのはこちらの予想通り、体力の消耗が原因のようだ。

目が覚めた後、ボロボロの状態でも自分の傍に居てくれたことが分かり、能力を使用していた時のことを覚えていないフリをしていた。

きっとまた同じ様に笑って自分と遊んでくれる。

私じゃない誰かに、決して壊されることはない。

そう思い、今の状態にあるとフランが話した。

「じゃあ今朝のことは……?」

「あぁいう風にすれば、恭哉が出掛けていても私のことを心配してくれるかなって」

「そうだったのか……。 俺が要らない嘘をついたから、フランに悪い想いをさせたんじゃないかって、心配だったんだ」

「そんなこと思わないし、恭哉のことを嫌ったりなんてしないよ。 だって、初めてだったもん。 誰かが、私の為にあんな眼や表情を見せてくれるの……すっごくゾクゾクしちゃった」

霊夢や魔理沙、咲夜とはまた違った表情。

与えられる苦痛に顔を歪めながらも、眼に宿る生気が決して消えることはなく果てなく燃やし続ける。

その様子が、自らの中に溢れる狂気の中でたまらなく快感だったとフランは話す。

今のフランの姿からは、考えられないことだ。

「こら! 私の玩具に勝手なこと吹き込まない!」

「えー私のってことは、同じ姿の私も含まれるんでしょ?」

「もー!! いいから!! どいてって!!」

目の前に広がる光景。

全く同じ姿や声をした二人のフランが、何故か口論を始めた。

そういえば、昨日もフランの姿が三人に見えたことがあったような……?

「ねぇねぇ、喧嘩してる暇があるんなら目の前の人間で遊ぼうよ!」

「今忙しいの!! それと、恭哉と遊んでいいのは私だけ!!」

「私の癖にケチなこと言うのねー。 独り占めは駄目って、アイツに教わらなかった?」

「もー眠たいんだから静かにしてよ。 きゅっとしてドカーンってするよ?」

「それ私たちみーんな出来ることだよ?」

な、なんなんだ……?

色々と収集が付かなくなっているような……?

っていうか、フランが四人いる!?

一人は眠そうにしていて、一人は遊ぶことを提案し、もう二人が口論を繰り広げる。

見ている分には微笑(ほほえ)ましいんだろうけど……。

自分が考えていた雰囲気と、今この場の状況があまりにもかけ離れていて、頭の中を困惑が埋め尽くす。

どうにか話し合えるようにしないとダメかこれは。

「おーい。 フランー聞こえてるかー?」

「呼んだ?」

「えーっと、そっちのフランじゃなくて。 右側に居るフラン」

「今忙しいの!! ちょっと待って!!」

「えっ、あーごめんごめん。 じゃあ、そっちの眠そうな――」

「ぐぅぐぅ」

「くっ……お前らなぁ……。 全員そこに直れ!!」

怒声が響くと、四人のフランが一斉に姿を止める。

はっ、つい声を荒らげてしまった……。

「はい番号」

「いちっ!!」

「全員で返事すんな!! とりあえず、こっちの話を聞きなさい」

急に大人しくなるフランたち。

律儀に「気を付け」の姿勢を取る三人のフランと、唯一熊のぬいぐるみを持ったままのフラン。

……このフランが本物なのか?

「本物のフランは手を挙げてくれ」

「はい! 私が本物!!」

「何で四人とも手挙げるんだよ!!」

「だって全員フランだもん! フランはフランなの!!」

「ねぇー眠気覚めちゃった、だっこ」

「しません。 っていうか、同じ姿なのに性格は全然違うんだな」

「そうでしょ、えっへん!」

いや褒めてないからな。

ったく、これはどうしたもんか……。

そもそもこの三人のフランは、一体何処から……?

フランの能力とは直接の関係はないだろうし、魔術もしくはスペルカードの可能性が高い。

「流石に(らち)があかないな……。 楽しそうな所悪いんだけど、今から大事な話がしたいんだ。 昨日一緒に居たフランだけ残ってくれ」

「えーつまんなーい。 ねぇねぇ、遊んでよー」

「用事が終わったら遊んでやるって、ちょっとだけ我慢してくれ」

「ねぇーだっこー、おんぶー」

「はいはいそれも後でな」

これで二人か。

深紅(しんく)の影を残しながら、二つの姿が消滅した。

実体があっても、消える時はあっさり消えるもんなんだな。

さて、残り二人になったのはいいけど……。

「昨日遊んだ私はどっちでしょうか!?」

「それも後でね、えいっ」

一方のフランが、もう片方のフランの頭をポコっと叩く。

先程と同じ様に、フランの姿が消える。

何とかなった……んだよな?

 

 

 

 

「ごめんね、びっくりしたでしょ?」

「今のは魔術(まじゅつ)なのか? それともスペルカード?」

禁忌(きんき)『フォーオブアカインド』、私のスペルだよ。 勝手に出てきちゃったんだよね」

元々は分身を三人用意し、それぞれが弾幕を放つものらしいが、今回の様に戦闘時では無い場合は、単にフランが四人に増えるだけらしい。

能力とかけ離れていることでも、スペルカードにすることが出来るんだな……いい事を知れたかも。

――話を戻すとするか。

「で、何の話だっけ?」

「嘘ついてごめんって話。 ほら、妹が居るって話をしたの覚えてるか?」

「うん。 私の方がずーっと大人だけどね」

「……まぁそれ。 確証はないんだけどさ、無意識の内に妹とフランを重ね合わせてたのかもしれない。 懐いてくれてる所とか、ほっとけない所とかそっくりなんだよ」

「そうなの? でも嘘をついた理由にはならないじゃない」

魔理沙と居た時と同様に言葉に困ってしまう。

どう表現すればいいのか……。

「なんて言ったらいいかな……吸血鬼って聞いた時、人間からすれば忌むべき存在だと思ったんだけど、実際そうは思わなかった。 能力を除けば、俺からすればただの女の子にしか見えなかったし、人間と同じ様に心がある。 だから、お前のせいで俺は怪我をした、なんて言いたくなかったんだよ。 だから、誤魔化していたんだ」

たとえどんな状態になっていたとしても、フランを責めるつもりなんてない。

四肢が無くなろうが、動けなくなったとしてもだ。

フランだけではなく、妖夢や鈴仙も。

戦いってのは、負けた時他の誰でもない己自身が全て悪い。

嘆くのなら、自分の無力を嘆け……って、まだ喧嘩ばかりしていた頃に教わった気がする。

男としてみっともないってな。

「この世界に流れ着いて、何の疑いもなく接してくれたのはフランが初めてだったんだよ。 だから、この繋がりは大事にしていたいなって思った。 ――傍から見れば、ただの変質者かもしれないけどな」

「私も同じかな。 めーりんや咲夜、パチェも相手をしてくれるけどそれは本当の私じゃないもん。 何をしても壊れないのは、恭哉が初めて。 だから、これからも私と遊んでよ」

フランが告げた言葉。

その言葉に、ようやく肩の荷が降りた気もする。

安心し切っていたのか、自然と頬が緩んでいた。

――こんな表情するの、久し振りだな。

「そうだ! 血の盟約って知ってる?」

「レミリアから聞いたよ。 生き血を捧げるとか何とか?」

「お姉様は恭哉の血を飲んだの?」

「いや、やってないよ」

「じゃあ私に頂戴! それで約束するの。 恭哉は私以外に壊されないこと、恭哉が壊れる時は私が壊すこと」

「要は死ぬ時はフランの前で死ねってことか。 そう簡単には行かないだろうけど、いいよ。 ただし、俺の血は半分化け物みたいなもんだぞ。 フランの身に何かが起きるかもしれない……それでもいいのか?」

「大丈夫、吸血鬼は強いんだから。 じゃあ、首元をー……あ、ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね?」

整えられたベッドの上に座り、シャツの襟を手で下ろし首元を曝け出す。

向き合う様にフランが、膝元に座り首元へと顔を寄せた。

何か変な感じだなこれ……。

「私、お姉様と違ってたくさん飲んじゃうかもしれないけど、大丈夫?」

「貧血で倒れない程度ならな。 流石に俺もまだ人間だし」

「それでこそ恭哉だね。 私が血を飲んでいる間、離れない様にぎゅってしてよ。 うーんと強くね」

「ってことは、抱き締めてればいいのか? ――こう?」

「もっと強く!! 引っ付くぐらいだってば」

そう言われてもなぁ……。

こんな状況、誰かに見られでもしたら大変なことになりそうだ。

数百年生きてるとはいえ、容姿は子供同然。

それを高校生が強く抱き締めているのだから……警察の出番だなこれは。

「うん、それで大丈夫! じゃあ……いただきまーす」

小さく尖った歯が首元の皮膚へと食い込み、少し顔を歪めてしまう程の痛みが走る。

血を吸われている感覚はないが、腕に注射を受けている……それに少しだけ近いのかもしれない。

注射器の針よりかは、ずっと痛いけどな。

次第に背中に回されているフランの腕の力が強くなる。

――一層大きな痛みが身体を貫いていく。

フランの指が、魔理沙を庇った時に出来た傷へと当たっていた。

そういや、まだ治してないんだった。

「……ごちそーさま。 また怪我してる、今度は誰にやられたの?」

「帰ってる途中にちょっとな。 フランは心配しなくてもいいよ」

「ダメ!! 昨日みたいな大きい炎は使えないんだから、恭哉は私が守ってあげる!」

「気持ちだけ貰っとくよ。 俺にだってプライドぐらいあるんだから」

納得がいかないのか、むーっと頬を膨らませるフラン。

殺されようとしたり守られたり……忙しいな。

こっちの能力が完全に戻ったとしても、フランに太刀打ち出来るとは思わないけど……。

昨日はたまたま「目」が見つからなかっただけで、それを見つけられたら……勝負は一瞬で着くだろうし。

「っと、これで盟約完了ってことで。 ねぇねぇ、まだもう少しだけぎゅーってして?」

「はいはい、ちょっとだけな」

自然と断れないんだよなぁこういうの……。

その返事が嬉しかったのか、胸へと顔を埋めてくる。

時に落ち着いていたり、時に甘えん坊になったり。

まだまだ、フランのことは分かんないな。

「あー!! 私だけずるい!! ねぇ、私もぎゅーってしてよ!!」

「おんぶはー? だっこもー」

「早く私と遊びましょ? 弾幕ごっこ!? 鬼ごっこ!? かくれんぼでもいいよ!?」

「今忙しいんだから邪魔しないでよ!!」

気付けば、先程の四人のフランに囲まれてしまっていた。

一人一人性格が違うのも、何か面白いな。

――っと、レミリアを待たせるのも悪いか。

「ねぇ、今日はここで一緒に寝よ?」

「それはいいんだけど、まだやらなきゃ行けないことがあってさ。 それが終わってからまた来るよ」

「そっか。 あっ、ちょっとかがんで?」

立とうとした所をフランに呼び止められ、再びベッドへと腰を下ろす。

もう一回抱き着いて来るのだろうか?

何が起こるのか待っていると、騒がしかったフラン達に沈黙が流れる。

――頬に柔らかい感触がやってくる。

「い、いってらっしゃい……」

そして告げた、初めて聞いた声。

時が止まったように、静かになった空間。

一人頬を染める少女と、それを不思議そうに見つめる同じ姿の三人の少女。

……何をしたのか聞くのかは、吝かだよな。

軽く言葉を交わし、フランの部屋を後にした。

 

 

 

 

 

「おかえり。 その様子だと、きちんと話せたようね」

「お陰様でな。 単なる俺の思い込みで済んだよ」

それを聞いたのか、部屋の外で待ってくれていたレミリアの表情も優しげなものへと変わる。

プライドが高く優雅(ゆうが)な振る舞いに、時折見せる子供っぽい仕草。

それだけだと思っていたが、こういう表情もするのか。

幼き姿ながら、この場所の主として務められるのも、何となく分かった気がする。

「で、その首に付いている血は何? さっきは付いてなかったでしょう?」

「あーフランが、血の盟約がどうとかって」

「貴方ねぇ……。 まぁいいわ、私も頂くのだし」

「えっ? 何で?」

「情報量は払ったつもりだけれど?」

……そういえばそうだった。

フランが先に行ったことに納得がいかないのか、少し不機嫌そうだ。

フランのことを教えてもらう代わりに、血を飲ませるという約束をすっかり忘れていた。

「ごめんごめん忘れてた。 っと、これでいいか?」

「こんな場所で飲めないわよ。 私の部屋に案内するから、そこにして頂戴」

「誰も居ないし、駄目なのか?」

「昨日今日会った人間の血を飲む私の姿を、ここの子たちに見せられると思う?」

謎のプライドなのか、レミリアがそう告げる。

まぁ反対する義理もないし、素直に従うことに。

地下を後にし、再び紅魔館のロビーへとやってくる。

そういえば、レミリアの部屋ってどんな感じなのだろうか。

ここの主だし、さぞかし豪華なことだろう。

客人用の空き部屋でさえ、俺にとっては高級ホテルを彷彿(ほうふつ)とさせる程だった。

……四段ベッドぐらいありそうだな。

「周りに誰も居ないか確認してもらえる?」

「見た感じ誰も居ないぞ? 気配もないし、俺たちだけだよ」

「なら大丈夫ね。 ここよ」

ロビーを抜け、大きな廊下をしばらく渡った場所にレミリアの部屋はあった。

赤と茶が混ざった様な扉に、細かく編み込まれたであろう扉の装飾。

一目見ただけで、気品溢れる上質なものだと分かった。

扉を開け、中に入ると急いで扉を閉めるレミリア。

「ふぅ……誰にも見られていないわね……」

「見られたら不味いのか?」

「あのねぇ、さっきも言ったけれど昨日今日会った人間とここまで親しく接してること自体、(はた)から見れば異常なのよ?」

「そうなんだろうけど、よく分かんないよ。 別に堂々としていればよくないか?」

「そう出来れば苦労しないわよ。 そこに座ってて、紅茶を入れてくるから」

レミリアに言われた通り、綺麗に磨かれた純白の椅子に腰を掛ける。

普通だったら、絶対座れないよなーこんな高そうなの。

脚でも折れたらと思うと……ゾッとする。

「見かけによらず、おどおどするのね? はい、紅茶が入ったわよ」

「こんな高そうなの、一般庶民には手が届かないものなんだよ。 初めて座るよ、こんな椅子」

あらそう、と言いながら向かい側に座るレミリア。

紅茶を入れてくれたみたいだが、吸血鬼でも紅茶を入れるもんなんだな。

……毒とか入ってないよな……?

レミリアには失礼かもしれないが、とても料理が達者な風貌は感じられない。

意を決するしか……?

「どうしたの、飲まないの?」

「い、いや飲むよ? ちょっと自分の心に言い聞かせてる」

「何よ失礼ね。 ここのメイド長は優秀でね、私みたいな吸血鬼でも入れられる紅茶の作法ぐらい、心得ているのよ」

「……なんだそうだったのか。 それなら早く言ってくれればいいのに」

「全く。 本当、他人を敬うということを知らないのかしら。 今もこうして生きているのが、不思議でたまらないわよ」

「悪運は強い方だからな。 思ってたより全然美味しいな……見直したよ」

「前半の言葉がなければ完璧な感想ね。 まぁ、その容姿に免じて大目に見て上げるわ」

よ、容姿……?

玲香たちにも何度か似たようなことを言われていた気がするが……よく分からん。

今朝飲んだものと同じで、甘さは控えめなものの、喉に不快感なく通り抜ける上質な茶葉を使っているようだ。

飲み比べなんてしたことないし、何処の産地かは分からないけどな。

「さて、血を頂くのは後にして、その怪我のことから聞きましょうか」

「今日も情報交換か?」

「まだ知らないことが多いからね。 どうせしばらくはここに居座るのでしょう? 行く宛てもないでしょうし」

「……そうなるかも。 俺もレミリアに聞いておきたいことは、たくさんあるんだ。 助かるよ」

レミリアに背中と腕の傷の経緯を話す。

ついでにあの巨大な虫の妖怪や、怪しげに散った古い紙のことも。

蜘蛛(くも)の胴体に(さそり)の尾、それに蟷螂(かまきり)の爪ねぇ。 私も長い間、色々な妖怪の(たぐい)を見てきたけれど、そんなのは見たことも聞いたこともないわね。 噂の『見慣れない妖怪』で間違いないかもね」

「やっぱりか……。 そいつを倒した後、薄汚いボロボロの古紙が落ちてたんだ。 拾おうと思ったら灰になって消えたんだけど、それについてはどう思う?」

「形が分からないんじゃあねぇ。 そういう類のものは、私よりもスキマ妖怪の方が詳しいと思うわよ」

「その『スキマ妖怪』ってのは?」

レミリアが告げた、スキマ妖怪という言葉。

ある人物の名前を指しているらしく、その名前を尋ねてみる。

レミリアの口から出た名前……八雲(やくも) (ゆかり)

……表情を険しくするのには十分過ぎるものだった。

「あら、聞き覚えでもあるの? 怖い顔ね」

「……あぁ。 俺たちが何故この世界に招かれたのか、その真実に最も近い人物らしいからな」

「言っておくけれど、そいつはこの幻想郷でも特に厄介な奴よ。 出来ることなら、私もあまり関わりたくないものだし」

「慧音も似たようなこと言ってたな……。 でも、いずれ俺たちはそいつに会わなきゃならない。 元の世界に帰ることもそうだけど、見知らぬ異変の首謀者って疑いを取っ払って貰わないと行けないしな」

「それもそうね。 けれど、まずは貴方の封じられた能力の解決が最優先、違うかしら?」

「……そうしたいけど、原因が何も分からないんだよ。 章大から貰った封魔結晶(ふうまけっしょう)で、あの虫は倒せたけど、それももう使っちまったからな」

封魔結晶という言葉に、レミリアは首を傾げる。

説明を混じえながら、封魔結晶のことをレミリアに話した。

そういえば、章大はあれをどうやって作ったのだろうか。

封印を超える程の膨大な魔力を、あんな小さな結晶に閉じ込めることなど可能なのか……?

手にした時から禍々しい気配は感じていたが、安易に使っても良かったのか……?

思い返せば、何一つ分からない状態で、よく使ったものだ。

……あぁしなきゃ、魔理沙を助けることは出来なかったんだけどさ。

「成程ね。 貴方の言う魔力の概念は、確かにこの世界にも存在するものよ。 理屈までが同じだとは限らないけれど」

「殆ど同じだと思ってるよ。 そいつがどうにかならない限り、自由に能力を使うことは出来ないだろうな」

「……私もそこはあまり詳しくないのよね。 吸血鬼に魔力の仕組みなどなくとも、有り余る力が無くなることはないもの」

「そもそもの種族が違うからな。 人間なんて数十年すれば勝手に死ぬし、一人じゃ何も出来ない生物とじゃ、次元が違うよ」

「そう蔑まなくてもいいでしょうに。 まぁ、こちらも咲夜とパチェに調べられることは調べさせるつもりよ。 貴方との戦いも楽しそうだしね」

血を飲まれる後は戦うのか。

勘弁して欲しい……。

運動神経や反射神経は衰えていなくても、昨日のレミリアの動きは目で追うことすら出来なかった。

相手の姿を視認出来るか否かで、その先の勝敗なんて考えるまでもないだろう。

「まぁ、これぐらいでいいでしょう。 そろそろ血を頂こうかしら」

「やっぱ飲むよなぁ。 いいよ、どうすればいい?」

 

 

 

 

 

「フランの時はどうやったの?」

「膝の上に座らせて、首元をガブッと。 その間離れない様に抱きしめてーとか言ってたな」

「あ、貴方ねぇ……よく平然とそういうこと出来るわ……。 ま、まぁ妹がそうしたのだし、姉である私も同じ手順を踏むべきよね……うん」

もしかして血の盟約は初めてなのか……?

妙にもどかしいというか……。

「俺だってされたことないんだから仕方ないだろ? まぁ、どうやるかは任せるよ」

「わ、分かったわ……。 それじゃあ、そこに座ったままで……」

何度か深呼吸を始めるレミリア。

血を飲むという行為は、気合いでも必要なのだろうか?

今まで頭の中で考えていた吸血鬼という存在は、もっと恐ろしく忌避(きひ)すべき存在だと思っていたが、案外そうでもないらしい。

羽がなければ、レミリアも吸血鬼っぽく見えないし。

「貴方は緊張しないの?」

「んーよく分からん。 仮にも一度血を吸われてる身だし。 そういやフランがお姉様とは違ってたくさん飲むとか言ってたけど、レミリアは少食なのか?」

「そうね、あまり食べる方ではないかしら。 血を吸ってもよく(こぼ)れるのよ」

「流石にもう血塗(ちまみ)れはごめんだな……。 お手柔らかに頼むよ」

「ふふっ、善処しておくわ。 それじゃあ、行くわよ?」

フランの時と同様の姿勢を取り、首元へと歯を近付けていくレミリア。

だが、一向に皮膚には触れないでいる。

「……フランの時は抱き締めていたのよね?」

「そう言われてたからそうしてたけど……こっちも必要?」

「む、無理にとは言わないけれど……」

こんなにも汐らしい反応は初めてだ。

うーん、やっぱりこの世界の住人って不思議だよな……。

お互いの表情が分からない為、今どういう顔をしているのか分からない。

どうするべきかこれは……。

とりあえず、腕を回しておくか……?

「ちょっ! こ、声ぐらい掛けてもらえるかしら!?」

「どっちがご所望なのか分かんないって。 ほら、早くしないと誰か来るかもしれないぞ?」

「そ、それは困るわね……。 い、いくわよ!」

先程感じた、小さく尖る歯の感触。

やっぱり、心地良くはないな。

首筋を自分の血が伝っていくのが分かる。

フランがどれぐらいの血を飲んだのかは分からないが……倒れたりはしないよな?

次第に肩を掴んでいるレミリアの手の力が強くなる。

……ちょっと痛い。

音を上げる訳にも行かないし……我慢するしかないか……。

「……ご馳走様。 聞くのを忘れていたけれど、貴方って血液型は?」

「人間の方はB型だったかな? 魔族の方は……分からん」

「そう、通りで好みの味だった訳ね。 ありがとう、美味しく頂いたわ」

「口元拭いてからそういうこと言おうな、お嬢様」

口周りについていた血を、指で拭う。

レミリアの衣服にいくつか血の痕が付いており、事情を知らなければ恐ろしく感じるかも。

「みっともない姿を見せてしまったわね……」

「気にしてないよ。 で、この血の盟約ってのに意味はあるのか? 仕えなきゃいけないとか?」

「特にないわよ? まぁ、貴方が仕えてくれるなら良いに越したことはないけれどね」

「こっちに永住する訳じゃないし、それは無理かもな。 ――っ!?」

会話を続けている中で、急な目眩が襲う。

出血とはまた違う形で、体内の血液が減ったからだろうけど……。

こういう状態になれるのは、まだ人間っぽいかもな。

「平気? 立てる?」

「……大丈夫。 意外と吸血って血が無くなるんだな、何か新鮮だよ」

「本当、変わり者ね。 益々貴方には興味が湧いてくる、面白い存在よ」

「そいつはどうも。 さてっと、今日はもう休むよ。 おやすみ、レミリア」

「あっ……。 ――えぇ、おやすみなさい」

何か言いかけていたみたいだが、すぐに言葉を訂正するレミリア。

まだ用事でもあったのだろうか?

部屋を出ようとするも引き止められることはなく、すんなりと扉を開けることが出来た。

地下へと続く階段は……あっちだったっけ?

歩こうとするも、少し身体がふらついてしまう。

なるほど、戦闘中ではない時に血液が少なくなると、こうなるのか。

……変に勉強になった気がする。

普通じゃ絶対に体験出来ないことだろうし、良しとしておくか……。

館内の中を迷いながらも、何とか地下に辿り着き、フランの部屋を目指す。

確か真っ直ぐ歩いていたはずなんだけど……。

うーん、どうも身体がふらつくな。

今日一度ずつ吸われただけでは終わらないだろうし、今後相応の覚悟はしておいた方が良さそうだ。

レミリアは好みの味と言っていたし、フランは言わずもがな。

一体何がどうなって気に入られたのやら……。

殺されていないだけマシなんだろうけど。

何度か壁にもたれ掛かりながらも、何とか扉の前まで来ることが出来た。

扉を開けようとすると、待っていたと言わんばかりにフランが出迎えてくる。

自分の時にはなかった歯の痕を見つけたのか、すぐに部屋の中に連れ込まれ根掘り葉掘り聞かれる羽目に……。

あー寝てしまいたい……。

姉妹の間に挟まれると、こんな風に苦労するんだな……。

何とか(なだ)めつつ、事情を話し分かってもらうことが出来た。

神経使うなぁ、色々と……。

――明日のことは、起きてから考えるか……。

適当な場所を見つけ、ゆっくりと目を閉じる。

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