東方幻奇譚 ~the Eighth Fantasy. 作:TripMoon
それは昨日とは違い、少し慌ただしくて……。
眠気の覚めない目を擦りながら、その慌ただしさに身を任せている。
左右両方の腕をそれぞれ等間隔に引っ張られ、背中から飛び付かれ……。
唯一空いている腹部も、やがて一人の少女が抱き着き、身動き一つ取れなくなってしまった。
……どういう状況だよこれ。
「恭哉は私と遊ぶのー!!」
「ダメ!! この玩具は私が遊ぶんだから!!」
「あはははは!! たかいたかーい!!」
「みーんみーん……絵本で読んだセミの鳴き声ってこれで合ってる?」
いやいや、訳が分からん……。
フランが四人居るのは昨日分かったからいいとして……。
思い返せば、今こうなっている理由も分からず……。
フランの部屋は紅魔館の地下に存在している。
その為窓は存在せず、照り付ける太陽の日差しが入り込むこともない。
昨日は自らの意思で目が覚めたが、今日はまだ寝たままの身体に勢い良く飛び込んでくるフランによって目が覚めてしまった。
目を少し開けた時には、既にフランのスペルが発動しており四人のフランに囲まれていたという。
「離してってばー!! 私だけのものなの!!」
「いーやーだー!! 独り占めは良くないって、お姉様から教わったでしょ!?」
「ねぇねぇ、早く歩いてよーつまんなーい。 ほーら、全速前進だー!!」
「つくつくほーし……つくつくほーし……」
どんだけ自由奔放なんだ……。
しかし、次の瞬間で一気に目を覚ますことが出来た。
「いだだだだ!? おいフラン!! 千切れる、千切れるって!!」
それぞれ別の方向に引っ張られる両腕。
その痛みは筋肉を伸ばしている時の様な、心地良い痛さとは比べ物にもならない。
……フランの力なら、本気で千切れ兼ねない。
悲痛の叫びを聞いてくれたのか、二人揃って腕を離すフランたち。
余程の力で引っ張っていた為か、反動で尻もちまで付く。
いやー痛かった……関節外れるかと思った……。
「おはよう!! 昨日遊べなかったから遊ぼ?」
「何して遊ぶ? 死体ごっこ?」
「そんな物騒なもんで遊ぶか。 とりあえず、レミリアたちに顔見せとかないと……」
「あっ、昨日服がボロボロになってたから、また着替えておきなさいって」
「あーそういやそうか……。 ありがと、先に着替えるよ」
昨日の虫の妖怪との戦闘のことをすっかりと忘れていた。
あの後、魔理沙は無事だといいけど……。
怪我はしていなかったし、大丈夫だと思いたいな。
「肩にあるキラキラしたやつ綺麗だね」
「あーこれか。 そんなに綺麗か? フランの羽の方が綺麗だと思うよ」
「何か不思議な感じがするの。
「なんだそれ。 そんな物騒なもん……でもあるか」
「お腹の筋肉凄いね。 つんつん」
「こら勝手に触るんじゃない。 それと、人の着替えをまじまじと見るもんでもないぞ?」
いつの間にか二人のフランの姿が消えていて、残った二人が揃って手で目を覆う。
子供っぽい時はとことん子供だな……。
ささっと着替えを済ませ、フランに声をかける。
「お待たせ、もう目開けていいぞ」
「はーい。 うん、やっぱり似合うね」
「恭哉かっこいーい。 本当の執事みたい」
「あんま茶化すなって。 ほら、行くぞ」
朝には眩しすぎる程のにこにことした笑顔を見せながら、手を差し出してくるフラン。
どうやら今日は手繋ぎをご所望らしい。
こちらも手を下に差し出し、握ってくるのを待つ。
手が触れると、優しく握り返してくる。
それを確認した後そっと扉を開け、日差しの差し込む紅魔館を目指した。
朝といっても、この地下の空間は相変わらず少しひんやりとしている。
……フランにとっては、居心地が良いものなのだろうか?
もしそうではないのなら、ちょっとした改装を提案するのも悪くないかも。
レミリアにも悪くは思われていないだろうし、渋々ながらも了承してもらえそうだ。
まぁ、それを頼むのはもう少し後の話になるんだろうけど。
「まさか、お姉様まで恭哉の血を飲むなんて思わなかったなー」
「フランのことを聞く代わりに約束してたからな。 身体は何ともないか?」
「何ともないよ。 って、私のこと? 何を聞いたの?」
「変なことは聞いてないよ。 フランの能力のこととか、色々な。 後、レミリアの能力についても聞いたかな」
「ふーん……お姉様は未来が分かるとか言ってるけど、あれは分かってるフリをしてるだけだから信用しちゃダメだよ?」
「そ、そうなのか……?」
フランの瞳を見るに、嘘は付いていない様子。
確かに「未来予知」という言葉だけでは、能力の具体性は分からない。
一手先のことが分かるのなら、戦闘をはじめ様々な用途に使えるが……。
昨日レミリアが言っていたのは「私の機嫌を損ねないこと」とだけ。
運命が変わる、とも言っていたがまだ実態は分からないでいる。
……もしかすると、フランなら何か知っているのだろうか?
尋ねてみるも「単なる口癖みたいなもの」と返ってきた。
うーん……答えにはなってないな。
レミリアに直接聞く方が早いか。
こちらも能力に関して、まだ打ち明けていないこともあるし、情報の対価交換としては充分だろう。
「恭哉ー、はーやくー」
「……あぁごめんごめん、すぐ行く」
いつの間にか手を離れていたフランが、階段の近くで手を振る。
……いかんいかん、また考え事だ。
駆け足でフランの元へと急ぎ、階段を上る。
「お姉様おっはよー!!」
「おはよう、朝から変わらず元気ねぇ」
「おはよ、レミリア。 また服用意してもらって悪いな」
「貴方は相変わらずね。 紅魔館に居座る身として、身なりはきちんとしてもらわないとね」
「ごもっとも。 まぁ、着こなし方はノータッチで」
俺がそう言うと、溜め息をつくレミリア。
……仕方ないだろ、きちんとした服装は苦手なんだから。
学校の制服なども、規則通りに着た試しなどない。
まぁ誇れることではないんだろうけど。
「起きていたか」
「章大か。 昨日どこに居たんだよ」
「
パチュリーの読書の邪魔にならぬ様、
用意周到というかなんというか……堅苦しい。
「恭哉を借りていくぞ」
「えーまた遊べないのー?」
「弾幕戦なら後で付き合ってやる。 そうだ、昨日の土産がある、受け取るといい」
何処に隠していたのかは知らないが、いくつかの小包をフランに手渡す章大。
不思議そうな顔をしながら小包を開けると、中には包装されたいくつかのお菓子が。
「おぉー意外に優しいんだねぇ」
「ついでだついで。 レミリアの分もあるが?」
「必要ないわよ、フランにでも上げて頂戴」
さらっと言い放っているが、その表情は何かを我慢しているご様子。
……フランの姉だし、自分もお菓子が欲しいのだろう。
しかし、子供っぽい一面を隠したい……って所かな?
ましてや、相手はあの堅物だしな。
世話になってるし、助け舟を出してやるか。
「レミリアが要らないなら、俺がもらうよ。 丁度甘い物欲しかったし」
「恭哉もお菓子食べるの?」
「そりゃ人間だし。 疲れた時の甘い物は最高なんだぞ?」
「まぁ、そういうのなら」
「さんきゅっ。 先行っててくれよ、後で追い掛けるから」
踵を返し、部屋を後にする章大。
お菓子を受け取ったが、もちろん食べるつもりはない。
「フランもごめんな、帰ってきたら昨日と一昨日の分遊ぼうな」
「本当!? 約束ね!! それまでパチェの所で待ってるから!!」
受け取ったお菓子を天高く掲げ、上気分で走り去って行く。
その光景は何処か微笑ましい。
周りに誰も居ないことを確認した後。
「ほら、お菓子欲しかったろ?」
レミリアに手渡そうとするも、そっぽを向かれてしまう。
ありゃ、見当違いだったか……。
うーん、あぁは言ったけど別にお腹空いてる訳じゃないしなぁ。
素直にフランに渡してしまえば良かったのかもしれないが、それだと少し良心が傷むというか。
小包をどうするか迷っていると、何やら辺りをキョロキョロ見回すレミリア。
何かを把握したのか、レミリアが手に持っている小包に手を伸ばす。
「……貴方には分かってた?」
「何となく。 素直になりゃいいのに」
「それでは示しが付かないでしょう?」
「自分を押し殺してまで手に入れる示しなんて、俺はいらないと思うよ。 まぁ、手始めに俺の前でぐらい素直に居てみな?」
「……考えておくわ。 えーっと、ありがとう」
「どういたしまして。 それじゃあ行ってくるよ、今日は服ボロボロにしないから」
「妙に信憑性にかけるわね。 まぁいいわ、いってらっしゃい」
小包を渡した後、章大が歩いていった方へと向かう。
昨日と同様に情報の整理と、何処に向かうべきかを話し合うんだろうけど……。
……
――君たちの実力では、二人には到底追い付けない。
慧音の言葉が、
どれ程の実力なのかは気になる所だが、今のままでは死にに行く様なものだ。
やるべき事もあるし、摩多羅 隠岐奈のことは黙っておこう。
扉を開け廊下を進んでいくと、近くの扉に背中を預ける章大の姿があった。
「もういいのか?」
「あぁ。 で、昨日と一緒か?」
「そうだな、昨日のことや
「ここなら邪魔は入らんだろう」
章大と共にやって来たのは紅魔館にある、何の変哲もない一室。
しかしそうではないことが、すぐに分かった。
一つの機械端末を操作し、何やら映像を映し出す。
そこに映っていた映像は見た事のある光景から、見慣れないものまで。
「なんだこれ?」
「数日間で集めた、この世界全体の地図だ。 無論まだ記載出来ていない所もあるだろうが、一つを除いて大体の場所は把握してある」
「いつの間に集めたんだよこんなの。 すぐに
「先にお前に共有しておく必要があってな。 今の段階では、お前以外の全員が能力に支障がない為、ある程度の能力者には善戦出来るだろう」
「けど俺はそうじゃないから、ここには近付くなって場所を教える為か……」
黙ったまま、章大は頷き返す。
八雲 紫と
「
「あーそれなんだけどさ、封魔結晶使っちゃったんだよな」
「何? 本当の危機に面した時に使えと、あれ程言ったはずだが」
「それが昨日訪れたんだよ。 あの時使ってなきゃ、あの場所で二人死んでた」
「……昨日何があった」
昨日寺子屋で別れた後のことを話す。
章大の知識を持ってしても、虫の妖怪の正体は分からないようだ。
一つだけ言えるのは、自然発生したものではなく人為的に出現させたものの可能性が高いらしい。
その説を裏付けるのが、あの汚れた古紙。
形や描かれていたものまでは分からないが、古来より
簡単に言うのなら「
更に言い換えるのなら、この世界での「
「その蜘蛛に何者かが手を加え、妖怪へと姿を変えさせていたのだろう。
「それって、誰でも出来るものなのか? 昨日遭遇したのが偶然ならいいんだけど……」
「方法さえ分かっていれば、特別な妖力等は必要としない。 だがそれは、あくまでも単に『喚び出す』場合に限る」
「相応に操るんなら、ある程度強くなくちゃダメってことか……」
「そうなるな。 封魔結晶も、そう簡単に作れる代物ではない。 今後、能力が戻るまでは単独での行動は控えた方がいい」
悔しいが、章大の言う通りかもしれない。
フランの暴走を止める時の様な奇跡も、昨日の溢れ出る
それでも、この世界では異変の首謀者という疑いを取り除く為に動かなければならない。
……何でこんなことになるんだか……。
「悔しいのは分かるが、仕方あるまい。 今日向かう場所に関してはまた後で伝える、先に結衣達のことについて話しておこう」
「結衣達って、結衣以外にも誰か見つかったのか?」
「
鈴花は
昨日、
文曰く、霧の湖と呼ばれる場所で
見慣れない人物の特徴などを聞くと、結衣の容姿と一致した。
……何故文が知っていたのかは、疑問だが。
「情報の出処は、自らが見聞きしたものだから間違いないと言っていた。 一昨日、結衣を見掛けた際に
「それで俺の名前も知ってたのか。 あれ、じゃあ章大の事を知らなかったのは何で?」
「単に忘れていただけだろう」
「お前影薄いしな、陰険だし」
「さて、今日向かう場所だが……
くっそ無視された……!!
昨日の仕返ししてやりたかったのに!!
そういえば、永遠亭って確か
一応知り合いだし、俺がそっちに向かうのがいいんだろうけど……単独行動は禁止だもんなぁ。
フランを連れていく訳にも行かないし……どうしたもんか。
それに鈴仙は、何故か章大を怖がっていたし。
「白玉楼に行くには、
「その冥界ってのは?」
冥界は死者が転生や成仏を待つ為に、幽霊として暮らす世界だ。
基本的に死者、もしくはその場所を管理する者しか立ち入れないのだが、
一般人からすれば、危険な場所の一つらしいけど。
「冥界にある池の
「妖夢がそこに居るのか……。 鈴花の奴、無事だといいけど」
「知り合いか? 言っておくが、鈴花は生者として白玉楼に居る、死んだ訳では無いぞ」
「分かってるよんなこと。 妖夢は知り合いって程じゃないんだけどさ、俺が異変の首謀者として疑われてることを知れたのは、妖夢と昨日会った鈴仙のお陰なんだよ」
「そうだったのか。 八意 永琳の居る場所は永遠亭、迷いの竹林と呼ばれる場所の奥に存在している。 こちらの方が危険度は少ないが……」
「俺が白玉楼に向かうよ。 妖夢の誤解を解いておきたいし」
「危険な場所だぞ、お前一人だけで行かせる訳には行かないな」
「誰かと一緒ならいいんだろ?
確か玲香は「魔法の森」ってとこに居るって言ってたっけ。
京一は人里の民家って言ってたし、どちらも見つけるのは簡単そうだ。
「玲香と京一の二人を連れて行く方が無難だろう。 何度も言うが危険な場所だ、戦力は多い方がいい」
「そこら中で戦う訳じゃないんだし、心配しすぎだって。 まぁ、先に人里に行って京一に声かけるよ。 そっから玲香を探して、冥界に向かう。 どっから行けるんだ?」
章大によると冥界までの道のりは遠いらしい。
まず、人間の里から霧の湖を経由し紅魔館を目指す。
紅魔館から北西に進むと、大きな山がある。
そこは妖怪の山と呼ばれる場所でその名の通り妖怪や
妖怪の山を超えると
その場所は三途の河、そう呼ばれているらしい。
……って、三途の河!?
「おいおい、それって死んだら行くとこじゃねぇかよ。 渡れるのかそんなとこ」
「誰も横断しろとは言っていない。 三途の川を川沿いに歩いていけば
「……かなり遠いなそれ、一晩で行けるのか?」
「分からん、だから永遠亭の方が危険度は少ないと言っただろ」
「そうは言われてもなぁ……でも妖夢の誤解も解いておきたいし……」
「誤解を解ける確証はあるのか? 一度とは言え、お前を疑っている相手だろう、そう簡単には行かないと思うがな」
……確かに章大の言う通りだよな。
妖夢の誤解が解けたとしても、同じく疑っていた鈴仙の様に良好な関係を築けるとは限らない。
それに、本心から疑っていないという確証もない。
どうするのが正解なんだ……?
「……人間の里までは同行する。 永遠亭も一度そこまで行かないといけないからな」
「分かった。 人里に着くまでに、どっちに向かうか決めるよ」
紅魔館を後にし、昨日歩いた道を歩いていく。
昨日はそういや無言のままだったっけ。
ずっとフランのことばかりを考えていた昨日。
今日はまた違っていたとしても、気分が優れている訳じゃない。
「本当に、俺はこの異変には関係ないのかな」
「弱音を吐くなんて珍しいな。 お前は自身をどう思う」
「もちろん、俺は無関係だって思ってる。 けどよ、何回そう言い聞かせても湧き上がってくるんだよ……妖魔の力に手を貸す自分の姿がさ」
「それは単なる自己暗示に過ぎない。 お前はお前の思う道を進めばいい、立ち塞がる者が居るのなら、迷わず叩き伏せろ。 この世界に居たとしても、所詮別世界の住人だ」
「そうはなれないんだって。 たとえ俺を疑っている奴だったとしても、目の前で襲われていたら、俺は助けるよ」
「……人情が過ぎるな。 己を大事にしろ、戦場ではその甘い考えが命取りになるぞ」
「……分かってるよ、嫌ってぐらいにな」
綺麗事だってことは分かってる。
それでも……嫌なんだ。
目の前で消え去っていく誰かを見るのは……もう耐えられない。
あの時のように……。
――っと、思い出さないようにしてるんだった。
頭の中の迷いを振り払い、再び前を見据え歩いていく。
その瞬間だった。
少しずつ、身体全身が揺れ始める。
身体だけじゃなく、周りの木々が地面が、激しい揺れを
「地震か? それにしてはやけにでかいな……」
「自然現象とは考えにくいな。 気を付けろ、誰かの気配を感じる」
視界が揺れながらも、精神を研ぎ澄まし周りを見回す。
章大の言う通り、誰かの気配を感じるのは確かだ。
この辺りに居る妖精や妖怪がどの程度のものなのかは分からないが……この感じ、只者じゃない。
自分に絶対的な自信を持っている……そう
「……下か、その場から離れろ。 地面が
章大の言葉通り、今立っている場所から側方へ大きく転がる。
足が地を離れた瞬間、地面が隆起し巨大な石山を形成していた。
……明らかにこちらを狙っていた。
ってことは、疑ってる奴ってことか。
「うーん、まぁ暇潰しにはなりそっか。 おーい異世界の人間、まだ生きてるんでしょ?」
何処からか聞こえてくる少女の声。
その凛とした声には、底知れぬ覇気さえ感じる。
空よりも深い青の長髪と、
白と青を基調としたドレスに、黒く丸い帽子。
緑の葉と桃色の果実を乗せており、この場には似合わない。
更には、不規則に揺れる剣の様な物を手にしている。
剣でいいんだよな……?
「
「生憎ここに暇を持て余す人物など居ないんでな、他所を当たれ」
「やっと出てきた。 ねぇ、今回この地上で起こってる異変の首謀者がこの辺に居るって聞いたんだけど、何か知らない?」
……やっぱり異変のことは知っているのか。
俺を名指ししてこない辺り、疑いのある人物までは知らないのかもな。
「知らないな。 少なくとも、俺たちはそれには該当しない」
「へぇー。 じゃあさ、他の奴の居場所を教えて貰える?」
「教えられる訳ないだろ。 他のみんなは関係ないんだし」
「……やっぱり、あなたたちが無関係って訳じゃないのね。 助言してあげる、もう少し上手く嘘をつくことを覚えた方が良いわよ」
あっ……。
目先に居る子の言う通りだ。
「この馬鹿が……」
「……普通にごめん、つい……」
「さてっと、どっちが首謀者だかは分からないけど、ある程度の実力はお持ちでしょう? まずは
「断る。 先程も言ったが、暇潰しに付き合う時間などない」
「丁寧に申しているうちが華よ? もう一度だけ、選択の余地をあげるわ」
「何度言われようが同じことだ」
「はぁ……命知らずの人間も居るものよね。 異世界の人間がどの程度かは知らないけど、天人である私の相手が務まるかしらね!!」
瞬時に目の前に移動し、手にする剣を振り翳す。
不規則な形をしていたはずなのに、今は黄色く光る刃が見える。
振る時だけ実体化するのか……?
「恭哉、お前まで付き合わさせるつもりはない。 先に人里に向かえ、ここを片付けてから追いかける」
少女の振り下ろした剣を受け止めながら、章大がそう言う。
……一人残したくはないが、仕方ない。
今の俺じゃ戦力にはなれないし、言う通りにするしかない。
「後ろの子の方が興味があるんだけど、まぁいっか。 お前で我慢してやろう」
「そいつは光栄だ。 レミリア以来の強者と見受ける、相手にとって不足はないだろう」
「あぁ、あのお子ちゃま
「その言い草だと、レミリアが自分よりも強いと認定しているみたいだが……達者なのは口だけか?」
「……天人である私を
「さっさと来い、時間の無駄だ」
再び地面の揺れが襲う。
地震を起こしたり、地面を隆起させたり。
これがあの子の能力って所か?
似たようなことを出来る奴を知っているが、レベルが違う。
この子、かなり強いぞ。
「
黒い影が、正方形を織り成し少女の辺りを包み込む。
音一つ発しない漆黒の空間は、やけに不気味だ。
「あの影がある間だけ、奴の視覚と聴覚を奪っている。 今のうちにここを離れろ」
「お前も離れた方がいいって。 あの子、かなりの実力だと思う」
「二人とも消えて
「そうだけど……って言っても聞かないか。 先に行ってるぞ」
「急げ、そう長くは持たない」
地面が揺れている中、バランスを崩さぬ様走り出す。
真っ直ぐ進めば人里に着く。
……こんな時に逃げることしか出来ないなんて。
こんなにも悔しい思いは、初めてだ。
やがて、剣と剣がぶつかる甲高い音が微かに聞こえる距離まで離れていた。
まだ駆ける足を緩めることは出来ない。
振り向く間もなく、人里へと足を急がせた。
(ここまで来れば、大丈夫だろ……)
人里と外部を隔てる巨大な鳥居に手を付き、荒れた呼吸を整える。
驚いた……あの距離を走っただけで、こんなにも息が上がるなんて……。
やはり魔力が消失している分、普通の人並みの体力に戻っているのかもしれない。
通気性の悪い執事服ともあって、身体中を伝う汗が止まらない。
……っと、こんなとこで突っ立ってても意味ないか。
何度か大きく深呼吸をした後、ゆっくりと手を離し人里の中を歩いていく。
本当、ここは平和そうだな……。
普通の立場でこの世界に流れ着いていれば、ここを行き交う人々の様に……この世界での時間を過ごせていたのだろうか。
……今更、叶いもしない願いを込めた所で仕方ないか。
この世界に来てから、妙に考え込むことが増えた気がする。
これも全部、得体の知れない首謀者という肩書きのお陰なんだろうけど。
――昨日の虫の妖怪のことを思い出す。
あんな化け物が、何体も居るってことか……。
力のない誰かに被害が訪れる前に、解決の糸口が見つかればいいんだけど……。
「あっ、恭哉さーん!」
少し先でこちらの名前を呼び、手を振る小柄な少女。
紫色の短い髪と、
隣にもう一人女の子が居るけど、知り合いか?
「こんにちは、昨日はどうも」
「こちらこそ。 今日は屋敷に居ないんだな」
「今は休憩中でして、これから帰る所なんです。 恭哉さんはお出掛けですか?」
「うーんまぁ、そんな所。 そうだ、慧音は寺子屋に居る?」
「この時間だとまだ授業中かもしれませんね。 どうかなさいました?」
「昨日のことで話しておきたいことがあってさ。 結構重要なこと」
「重要なことですか……。 では、屋敷までご一緒しますか? 私から慧音さんに伝えておきます」
「助かるよ。 悪いな、友達と居るのに」
「いえ、お気になさらないで下さい。 この子も会いたがってましたし」
この子って、隣に居る子のことかな?
今話している人物、
こういう服装を見る度に思うんだけど、暑くないのかな。
生地が薄い訳でも、風通しが良い訳でもないだろうし。
っと、あまりジロジロ見るのも失礼か。
挨拶をしようと口を開けた瞬間だった。
「はじめまして!!
びっくりした……。
少し身を引いてしまう程に元気な第一声が響く。
物腰が落ち着いている阿求とは正反対だ。
「よ、よろしく。 えーっと、会いたがってたっていうのは?」
「阿求と章大さんから聞いていたんです。 話を聞いてると一度お会いしたくて」
「章大から? あいついつの間に……」
「鈴奈庵って聞いた事ありますか?」
鈴奈庵……どっかで聞いた事あるような……。
「小鈴は、ここ人間の里で
「貸本屋……あー、聞いた事ある! そうか、章大の奴そこに行ってたのか……どんな話を聞いているのか知らないけど、とりあえずよろしくな」
「はい!! こちらこそよろしくお願いします!!」
元気だなぁ……眩しいぐらい。
「立ち話もなんですし、屋敷に向かいましょうか」
阿求と小鈴と共に人里に栄える巨大な屋敷、
章大が戻ってくるまで、ここで時間を潰しておくか。
無事だといいけど……。
あいつの実力は高いし、俺も認めている部分も多い。
でも、あの自分のことを「天人」と言っていた少女。
直接攻撃を受けた訳ではないが、実力は章大とほぼ互角と言ってもいい。
いや、もしかすると章大より上だ……その可能性の方が高い。
阿求なら何か知っているだろうか?
歩きながらだけど、少し聞いてみるか。
「なぁ阿求、天人ってどういう種族なんだ?」
「天人ですか? ひょっとして、どなたかとお会いしました?」
「ついさっきな。 今、章大が応戦してくれてる」
「えっ!? 一体どういうことですか!?」
珍しく慌てた様子を見せる阿求。
先程までの落ち着いた雰囲気はどこにも見られない。
「その方の容姿は、青い髪に青と白のドレス。 黒の帽子に桃色の果実の緑の葉、そして不規則な剣を持っていませんでしたか?」
「当たってる……知ってるのか!?」
「はい、その方は天界に住む天人、
比那名居 天子。
大地を操る能力を持っており、
天人という種族は長寿であり、身体が他の生物と比べ物にならない程頑丈らしい。
並大抵の攻撃は効果がなく、高い耐久力の他に豊富な攻撃手段を持つ。
幻想郷の
「あの、応戦しているというのは……?」
「いきなり襲いかかって来てよ。 異変の首謀者を探してるって言ってた」
「それって……!」
「あぁ、俺を探してたんだろうな。 でも、俺がその疑いを掛けられてることを知らなかったみたいでさ」
「阿求、恭哉さんが異変の首謀者って何のこと?」
「小鈴はまだ知らなかったよね。 ここで話す訳にも行きませんし、屋敷に急ぎましょう」
異変についての会話を聞かれていないことを確認した後、足を急がせる。
天子って奴の実力ははっきりとは分からないが、章大にも隠している能力の解放がある。
苦戦はしても、圧倒的な大差は付けられないはず。
必ず来いよ……待ってるからな……!