東方幻奇譚 ~the Eighth Fantasy. 作:TripMoon
霧雨魔理沙視点の物語である
東方幻奇譚 焔ノ章 流星編
の第6話あとがきでも記載した通り、本話より博麗霊夢編の物語である
東方幻奇譚 焔ノ章 幻夢編 をお送りいたします。
時系列は少し遡り、第7話 玉兎まで戻ります。
以後、博麗霊夢視点の物語を、お楽しみ下さいませ。
第1話 特異な妖怪
「……遅い。 何やってんのよあいつ……」
昼下がりの頃。
本来ならば清々しい気持ちになるであろう快晴の元、私は縁側の
いや、私の機嫌は天候ぐらいじゃ変わらないけどね。
異世界からの来訪者であり、
何故この世界に流れ着いたのかも覚えていない彼は、昨日この
その時一緒に居合わせていた、
しかし、ひょんなことから魔理沙が制限を付けた上で、
様々なスペルカードで
……のだが、その際腕を負傷した為、魔理沙が謎の責任感からか医者の元へと連れていくことに。
ここまでは、私も近くに居た為、経緯を知っている。
次に会った時には、何故か一人の少女を背負ったまま、様々な人間が行き交う場所である「
話によれば、医者の元へと向かう最中、
そのまま道なりに歩いていくと、湖の近くに建つ「
命を奪われる所か気に入られたらしく、一緒に遊ぶ……とか言っていたかしら。
怖いもの知らずもいい所よ、本当。
それで空腹の為、人里に最近出来た
……何で奢るとか言ったのかしらね。
その代わりの条件として明日、博麗神社まで来るように。
そう告げたのだが……。
恭哉はおろか、参拝客の一人も来やしないじゃない。
約束をすっぽかすなんて、
因みに、私がわざわざ神社に来る様に告げた理由は至って単純だ。
そろそろ、神社の近くに建っている小屋の掃除をしたいと思っている。
見覚えのないものから用途の分からないものまで。
一体いつ現れたのかすらも分からない。
そんな得体の知れないものたちを相手にするには、人の手も借りたいのよ。
ここを訪れる人間なんて限られているし、謝礼をするのも正直面倒くさい。
その為、先にこちらが何かを負担しておくことで、手伝いを断りにくくする
……最初から計画よ、間違いなくね。
ほら、重いものとかあると困るじゃない?
私も女の子なんだし、力仕事はしたくない。
だからこそ、あいつを使うのが最も楽な選択なのよ。
……とっとと来なさいよね。
「
「何よ、仕方ないじゃない。 約束すっぽかす奴が悪いのよ」
私の後ろで、弱々しく
実体化する以前からこの神社を守っていたらしい。
少し前に起きた「
そこからは私の神社に住み着き、何かとだらけたり勝手に守ったりしている。
まぁ、悪い子じゃないし良いんだけど。
「そのうち来るんじゃないの~?」
そしてもう一人、縁側で勝手に
度々この神社に現れては、好き放題お酒を飲み、私に突っかかって来る。
「お酒飲んでるだけなら、あんたが探して来てよ。 特徴教えるし」
「真っ昼間に人里には行けないな~。 人探しも
「違うわ! うちは何でも屋じゃないの、頼みたきゃ山の巫女にでも頼め」
「いや私頼まれた側なんだけど……。 あっ、
絵に描いた様に
薄い茶色の長髪が、膝裏程にまで伸びており、先端の方で一つに束ねるという少し特殊な
少し淡い色合いの
そしてこれまた似合わない紫と赤のリボンに、奇妙な
彼女が持つこの「
但し、鬼専用のお酒ともあり、人間や力の弱い妖怪が飲むと大変なことになるとか何とか……。
流石の私でも、これは飲もうと思わないわ。
「霊夢ぅ……肴……」
「硬ーい
「そんなのお酒に合わないじゃん!? あうーん、霊夢がいじめる!」
「私に頼らないで下さいよぉ~!!」
泣きべそ(嘘)をかきながら、狛犬に
そう、こいつこれでも鬼なのよ。
妖怪の序列の最上位に君臨しても過言ではない程に、強大な存在。
あの
……いつぞやの
こいつと初めて会った時が、何だか懐かしく感じるもの。
馬鹿騒ぎしている妖怪二匹を見守っていると、
この感じ……人里の人間っぽくはないわね。
っていうか、人じゃないわあれ。
うちは
重い腰を上げ、その方へと向かってみる。
対処出来ない相手じゃないだろうし、何とかなるでしょ。
長い石段を上り、私たちの視界に入った一つの影。
背丈は高く、身体は細長い。
いや、身体って言っていいのかしらあれ。
鎧っぽくも見える装飾に、不気味に光る
あんなのが人里に居たら、大騒ぎってレベルじゃないでしょうね。
もちろん、色んな意味でだけど。
この
人間は妖怪を退治し、妖怪は人間を襲う。
これが、この世界の
人間の数も少ない訳ではなく、妖怪と同様に様々な人間が居る。
私たちのように戦うことの出来る人間も居れば、その逆も
当然、私は前者よ。
伊達に異変解決を
妖怪共に好かれ、家に入り
縁側でゆっくりとお茶を飲みたい。
「あんた誰?」
私の問いには答えず、その場でじっとしている。
言葉が通じない妖怪ってのも、何か珍しいわね。
大体の奴は
うわー巫女だー逃げろー、って。
……って、誰が鬼じゃ。
「なんだなんだー? おや、見た事ない顔だねぇ」
「むむっ、この異様な
それぞれが、
いや、退治しないと行けないのは分かってるんだけどね?
何というか、反応がないとこっちも困るというか。
「うちは妖怪神社じゃないのよ。 受け入れは御免だから、大人しく帰りなさい」
「……」
先程と変わらず、ただこちらを
……やりづらい。
「なぁ霊夢ー、私がやってもいい? 弱そうだが、
「ダメよ。 あんたがここで暴れたら、また神社が倒壊するかもしれないじゃない」
「大丈夫大丈夫、手加減するし任せろってぇ~」
「信用ないわよ。 ……丁度おかきがあるから、それで我慢しなさい。 宴会用の肴は後で買ってくるから」
「本当か!? じゃあよろしく~!!」
上機嫌で神社の本殿へと帰っていく萃香。
……って、
あぁーもう……。
「れ、霊夢さん!! 私はお供しますよ!!」
「あんたも下がった下がった。 萃香と茶菓子でも食べてなさい」
「本当ですか!? じゃあお願いします!!」
丁寧にお辞儀までして、後ろを振り返るあうん。
いやあんたもか。
確かに下がれとは言ったけど……。
一応神社を護る狛犬なんだから……まぁいいや。
これで一対一だし、十分でしょ。
「さてっと。 余計に参拝客も来なくなるし、とっとと片付けるわよ」
「……!!」
瞬時に目の前に現れ、両腕を交差させる。
……腕ってこんなに長いものなの?
後方へと回避しながら、目を
実際の長さは身丈に合っているだろうけど、今この瞬間だけは別ね。
多分、伸ばすことが出来るんじゃない?
……当たらなければ一緒よ!
数枚の御札を、鋭い光の筋と共に妖怪へと放つ。
まずは小手調べって所ね。
これに当たるようじゃ、
こういった純粋な化け物は久し振りに見るし、もう少し見てみたい気もする。
そう思うのも、絶対に負けない自信があるからで。
妖怪はというと、難なく回避してみせる。
オマケに後方へと回転しながら、私と大きく距離を取って見せた。
身のこなしは軽そうね。
重そうな鎧なのに、意外に軽量な造りなのかも。
「じゃあこれはどう?
青と白に光る、数個の
それぞれが意志を持つ様に、地を跳ね妖怪へと向かっていく。
このスペルカード一枚で仕留められるとは思っていない。
私の半身程の大きさもある為、身を隠すことも出来る。
この攻撃に気を取られていると……次の一手を貰うことになるわよ!
時間差で跳ね続けることによって生まれる、微妙な隙間の数々。
それを目で捉えつつ、着実に距離を詰めていく。
次は……こいつよ!
「
左手に、
体術の様に肉体的に攻撃する技とも少し違う。
なんというかこう……あぁもう面倒くさい。
とにかく攻撃よ攻撃!!
先に
後方へと吹き飛び、その様子を
……ん?
あら、案外平気?
まぁ、それも予想してはいたんだけどね。
「……!!」
「何よ、はっきり喋んなさい」
言っても無駄か。
ってあれ?
何か外見が変わったような……?
今までは細い身体だったはずなのに、気付けば腕に
背中には
自らの原型を残したまま姿を変える妖怪なんて、初めて見たかも。
でも、妖怪は妖怪でしょ?
退治するのが、私の仕事だからね。
「姿を変えて
四方から囲む、青い
自らが置かれた状況を理解したのか、途端に
気付いた時には遅いのよ。
「これで決めるわね。
足元から伸びる、巨大な光の柱。
……こんな所かしらね。
妙な妖気も消えたみたいだし、一件落着っと。
さーて、そろそろ買い出しに――。
と思ったら、また来客か。
はぁ……。
「あれっ、確かにこっちの方角に来ていたはずなのに……」
「見当たりませんね……」
「珍しいわねあんたが参拝なんて。 とりあえず野菜ちょうだい」
「いやあげないよ? 今晩の料理の為の材料なんだから」
両手で抱える程の袋を持ち、こちらを見つめる少女。
普段は
幻想郷から見ると「
元々冥界とは、死者が
その為、生きる者が立ち入ることすら出来ない世界。
しかし
私も何度か訪れている。
理由はまぁ、色々ってことで。
そういえば、見慣れない子が居るんだけど……誰?
妖夢へと率直に
「初めまして、
「あーどうもどうも。 えーっと、
「はい、まだ人間ですよ。 何と言いますか、実は違う世界からここに来まして……」
……あーそういうことか。
この子も恭哉と同じで、外の世界から流れ着いた人間ってことね。
見た目は、私と同じぐらいの年齢かな?
黒色の髪を左右に括り、服装は恭哉と似た色の服を来ている。
けど……着方は変わっているかも。
それに腰に備えてある二本の刀。
外の世界も、うちと似たような場所なのかしらね?
知らないけど。
「で、妖夢と揃って何の用?」
「実は冥界から
「あー。 それって腕が細くて、目が一つしかない奴?」
「それです! 見かけませんでした?」
「見たも何も、ついさっき退治した所よ」
驚いた様子を見せる鈴花ちゃんと、変に納得した様子の妖夢。
まぁ、私の所に来た時点で……ねぇ?
それにしても、冥界から霊魂が逃げ出すなんて妙な話だ。
冥界の管理は白玉楼の主である、
仕事をサボる様な人物ではないけれど……。
どの道、幽々子に話を聞きに行くしかなさそうねこれ。
仕方ない、行きますか。
妖夢に事情を話し、白玉楼へと向かおうとした時。
「あの、霊夢さん。 この紙は一体……?」
「うん? 何それ、随分ボロボロじゃない」
「人の形みたいね。 あっ、何か書いてる」
妖夢と共に、鈴花ちゃんが拾い上げた古紙に目を通す。
はっきりと解読出来るのは、筆で書かれたであろう「
おそらく、先程私が退治した妖怪の名前で間違いないだろう。
他には、様々な文字が羅列してあるものの、解読することは出来ない。
見慣れない字ではないのだが、
それに人の形か……。
……
それならばまだ文句の一つでも言えば解決するのだが、もっと違う何かが関わっている気配がする。
こういう時でも、博麗の巫女の
うーん、まだ情報がなさすぎるわね。
幸いにもまだ形は保っているようだし、保管しておきましょうか。
「私が預かっとくわそれ。 何かあった時対処しないと行けないし」
「それがいいかもね。 鈴花さん、霊夢に渡して貰えますか?」
「私たちではどうにかすることは出来ませんしね……。 霊夢さん、よろしくお願いします」
「はいはいっと。 こいつだけ
一度本殿へと戻る。
私以外の手が届かない場所なら……大丈夫よね?
えーっと、どこがいいかしらっと。
この神社に住むのは私だけなのだが、出入りしたり
現に今も、あうんと萃香が居るしね。
……あら?
こんな木箱あったかしら?
……ってかこれ、
私もよく触っていた覚えがある。
まぁ、何だかんだで色んな物がありそうだし、使っちゃえ。
ふむふむ、そういうことね。
これをこうしてっと……。
……あぁっ!?
何で開かないのよ!!
……これも秘密箱の特徴。
特定の手順をしっかりと踏まないと、箱を開けることが出来ないのだ。
何処で間違えたのかしら……。
「霊夢ー、まだー?」
やばっ、とにかくこの箱ごと押し入れにでも仕舞ってっと……。
白玉楼から帰ったら、また詳しく調べてみましょうか。
聞き出さなきゃならないこともあるし。
「待たせて悪かったわね。 さて、行きましょ」
二人の剣士と共に、冥界を目指す。
「他に冥界から抜け出した奴は居るの? 本当に一体だけ?」
「私が見た限りでは、他には居ないはずよ」
空を飛びながら、妖夢に聞けるだけのことを聞いている。
幽々子はともかく、妖夢がサボることはなさそうだしね。
そういえば、何気なく飛んでいるけど、鈴花ちゃんは……?
辺りを見回すと、私たちの少し後ろを飛んでいた。
……飛べるのね。
まぁ、恭哉も空を飛ぶことぐらい普通と言っていたし、おかしなことではないのかも。
「鈴花さん、どうかしました?」
「いえ……幻想郷の景色って綺麗だなーと思いまして」
「外の世界って、どういう場所なの? 恭哉は、
私が恭哉の名前を出すと、二人揃って違う表情を見せる。
妖夢は
「兄上……じゃなくて、恭哉のことを知っているんですか?」
「えっ兄上? 鈴花ちゃんの兄弟ってあいつなの?」
「い、いえそうではなくて!! その、幼馴染みなのですが、昔はそう呼んでいたので……」
そっぽを向きながら、小さく呟いていた。
最後の方は聞き取れなかったし。
ふーん、あいつが「兄上」ねぇ……。
「霊夢は、海藤 恭哉に会った?」
「えぇ、あいつうちの神社に倒れてたし。 あんたも会ったことあるの?」
「……一応ね。 出来ることなら、もう会うことがないといいかな」
あら、鈴花ちゃんとは真逆。
何かあったんだろうけど、今は鈴花ちゃんも居るし……聞かない方がいいわね。
そこまで悩むタイプには見えないけど。
「霊夢さん、私や恭哉の他に、誰か外の世界から来た人間には会いましたか?」
「いや、二人以外には会ってないわよ? わざわざうちまで来ることもないでしょうし」
……自分で言ってて少し寂しくなりそう。
「鈴花ちゃんたちは、皆こんな風に飛べたりする訳?」
「一応飛行ぐらいなら、無意識にでも出来る程度だとは思いますよ? 恭哉に会ったのなら、能力のことも聞いていたりしますか?」
能力……?
私たちと同程度の能力を、外の世界の人間も持っているの?
……根拠はないけど、こっちのことも聞いておいた方が良さそうね。
「私たちは、ある
「そっちにも妖怪が居るってこと?」
「根本的には違いますが、似たようなものだと思います。 まだこの世界の妖怪には、あまり出会っていませんので……」
出会わない方が助かるんだけど。
私の仕事が増えちゃうし。
……まぁ、普通の妖怪程度なら、楽に戦えちゃうんでしょうけど。
「それなら、やっぱり帰りたいって思うの?」
「それはそうですけど……もし、この世界に危険が迫っているのだとしたら、私たちはまだ帰る訳には行かないと思うんです」
「へぇ、でもこの世界は他に心配される程柔じゃない。 自分たちが帰る為の方法探した方がいいわよ?」
「……恭哉ならきっと、その返答には、いいえと答えますよ」
目を真っ直ぐに向けたまま、そう告げる。
こんなにも鋭い眼差しを見たのは、随分と久しい気もする。
そこまで人を信じられるなんて、何か凄いわ……。
私なら、きっと真似出来ない。
「鈴花さん、もし自分の信じる人が間違った方向に進むとしたら、どうします?」
「その過ちを正しますよ。 刺し違えてでも、私はその人を救います」
妖夢も変なこと聞くわね……。
それに刺し違えるって、そんな大袈裟な……。
鈴花ちゃんの表情を見るに、冗談ではなさそうだけど。
「あーお堅い話はここまでにしましょ。 幽々子はどうしてるの?」
「幽々子様はいつも通りよ。 でも確か紫様がいらしてたような」
幻想郷最古の妖怪であり、私とも縁の深い人物の一人。
何かとちょっかいも掛けてくるしねあいつ。
それにしても妙な話だ。
あの霊魂が抜け出す際に、幽々子と紫が揃っていたのなら、冥界からは出られないはず。
どこに居たとしても、逃げられないからね。
妖夢が紫のことを話している以上、白玉楼から幻想郷へと向かう際には居たことになる。
わざわざ逃がす真似もしないでしょうし……うーん。
どの道聞かなきゃ始まらないか。
私たちの目の前に、黒い影が現れる。
「霊夢さん、あれって?」
「さっきの……? 倒されても出てくるなんて、随分としつこい奴ね」
先程神社で退治したばかりの、一つ目の鬼である、百々目鬼がそこに居た。
しかし、何処か様子がおかしい。
こちらを見据えたまま動かないのは、先程と同じなのだが……。
そう思ったのも一瞬で、すぐに変化が生じた。
生々しい音を立てながら、徐々に姿を変えていく鬼。
一つ目の顔も形を変え、原型すら留めない程の
……何なのこいつ?
羽の生えた巨大な
「この先へは通してくれなさそうね。 急いでるし、とっとと片付けましょ」
「これがこの世界の妖怪……? 何処か似てる……」
「何が相手だとしても斬るのみ!!」
「
同時に、刀を引き抜く二人。
一筋に銀の軌道を描く、妖夢の持つ
そして風の通り道を
恭哉の時は上手く見れなかったが、外の世界の人間がどの程度戦えるのか。
見せてもらおうじゃない。
――異変解決に手を出すならね。
長い胴体をくねらせ、耳に
こういった
今回の妖怪退治は、溜め息混じりには行かなさそうね。
「遅い!!
その場で急降下し、逆への字に妖怪の死角を突きに行く鈴花。
刀を握った途端、あんなにも
いつかの妖夢みたい。
妖夢も遅れまいと、逆方向から斬りに掛かっている。
って、弾幕使いなさいよ。
相手が何してくるか分からないんだから。
怪我されても困るし、私は少し離れた位置から
数本の
あの胴体を覆う黒い
なーんか硬そうなのよねぇ。
精巧に作られてはいるが、刀と違い一撃では致命傷にはならない。
……そもそも弾幕通じるのかしらこいつ。
二人の攻撃を軽くいなし、こちらへと尾の
流石に一撃じゃびくともしないか。
私だって、そんな見え見えの攻撃には当たんないのよ。
早めに
下腹部がダメなら……背中はどうかしらね!
垂直に降下し、
――ここ!
落下するスピードに沿って、重力が加わる。
生身とはいえ、これらの自然の力と霊力の合わせ技。
少しは効いてよね。
「霊夢後ろ!」
妖夢の掛け声で、背後を向く。
脚の関節を
そういうこともするのね……。
でも、当たんないわよ!!
「伊達に
私の身体へと到達する前に、結界が生じ行く手を阻む。
何処ぞのお
こういう時は役に立つのよ、練習した覚えはないけどね。
「
「
二つの風の刃が、互いに交差しながら妖怪の脚を捉える。
数本の脚を幾度となく切り裂き、
中には
甲殻の破片となった小さな刃たちが、落下を始める前に少し下へと移動する。
この距離なら十分間に合う。
数枚の御札を地へと構え、霊力を集中させる。
塵よりも細かくすればいいんだし、これで足りるわよね。
「
私を中心に、青白い結界が生じ天へと伸びていく。
結界の中で、小さな刃たちは目に見えない程にまで細かい
さてっと、あいつをどうにかしないとね。
――うん!?
おかしい、先程切り刻んだはずなのに……。
切断した数本の脚が、何事もなかったかのように復活していたのだ。
それに身に纏う無数の
一つ一つが意志を持つように、
異常に気付いたのか、二人も妖怪から距離を取る。
「どうすんのあれ。 何度脚を斬っても、あれじゃあ
「あーあれ、あれっどうしよ!? あわわわわ!」
「よ、妖夢さん!? 急にどうかしました!?」
「半分幽霊の癖に、お化け苦手なのよこいつ」
「そこお化けとか言わない!! こ、怖くない……怖くない!!」
「妖夢さん!! あれはきっと大きな虫です!! ばっさり斬っちゃいましょう!!」
あれ?
ひょっとして、この子も意外と抜けてる?
思わず溜め息が出そうになる。
一人でやった方がいいかしらこれ。
「よっと、ほら茶番は終わり。 戦いに戻った戻った」
妖怪の突進を結界で受け止める。
甲高い音が、辺りに鳴り
とっとと先を行きたいんだから、邪魔しないでよね。
「よ、妖夢さん気を確かに!!」
「す、すみません鈴花さん……もう大丈夫! 魂魄 妖夢、引いて参るー!!」
「引かずに
あーあ、ダメねあれは。
刀を構え、前方に突進しようとする妖夢の前に立ちはだかる。
「れ、霊夢?」
「下がってなさい、そんなんじゃ怪我するでしょ」
「だ、大丈夫だってば!!」
「あーはいはい。 ボロボロになる前に、先に冥界まで行ってなさい。 すぐ追いかけるから」
「敵を目の前にして逃げるなんて恥でしかないよ!!」
ったく人聞きが悪いわねぇ。
「手の平に人と言う字を三回書いてですね、それを飲み込めば落ち着きますよ!!」
「なるほど!! ……半人の方がいいです?」
「そ、そこはお好きに」
「もう!! 喜劇なら
わざとやってんでしょあんたたち!!
結界ごと妖怪を離れた位置へと押し返し、大きく距離を取る。
あーあ、何でこんなことばっかり……。
「よし! これならいけそうです!!」
「すみません霊夢さん、ここからは私の舞台にしますよ」
「イマイチ信用ならないんだけど?」
「少し見ていて下さい。
――身に浴びたことのない程の
先程までは
まるで何かが取り
「これが私たちの能力に共通する『
聞き慣れない言葉。
って、能力が変化するとかそんなのアリ!?
おまけに人柄まで少し変わってるし。
まぁ、後でみっちりと聞かせてもらおうじゃない。
今はこいつをどうにかしないとね。
「悪いけど、妖怪退治は私の専売特許だから。 女の子の
「いざ尋常に、宜しくお願い致します!!」
その言葉と共に、私たちを包む
私たちの丁度間で、綺麗に真っ二つに割れる。
それは、一人の少女による、刀の一振り。
――何だろう、もっと見てみたい。
私の知らない世界に住む、同じ種族の生物。
この際限のない能力の果てを見てみたい。
妖怪へと飛んでいく最中、そんなことを思っていた。
こんなにもワクワクすることなんて……何時ぶりかしらね。
妖怪が纏う鬼火は、標的を捉える度に突進を繰り返し爆発する。
永久的に作り出され、絶えず小さな炎を燃やし続けていた。
こちらも攻撃を与え続けるも、硬い甲殻の下に眠る肉までは届いていない。
何か、瞬間的に強撃を叩き込む方法は……?
「霊夢さん、少しいいですか!?」
攻撃の雨を
背中合わせになり、その問に応じる。
「どうしたのよ」
「少し試したいことがありまして、協力して貰えませんか?」
「私じゃないと出来ない事?」
反撃を加えた後、互いの背を
その目は何を訴えているのか。
正体は分からないけれど、この話に乗るしかなさそうね。
埒が空かないし。
「妖夢さん!! 敵の注意をお願いします!!」
少し離れた位置で応戦する妖夢に、鈴花ちゃんは声を荒らげる。
先程までの
まだまだ未熟者とはいえ、今の所は大丈夫そうね。
「それで、何をすればいいの?」
「私たちには覚醒の他に、もう一つ共通している能力がありまして。 それを試してみたいんです」
「へぇ、まだ隠してたの。 私たちに教えても大丈夫なの?」
「もちろんです、仲間だと思っていますから」
……仲間ねぇ。
お人好しが過ぎるというか、正直者過ぎるというか。
いずれにせよ、この世界では生きにくそう。
っと、それは置いておきましょうか。
「
えっ、何それそういうお祈りか何かなの?
何も感じない……そう思ったのも一瞬の出来事で、すぐに変化が生じる。
身に纏う不思議な感覚。
まるで無数の風の刃の一つ一つが、自分の周りを吹いているかの様。
「これがもう一つの能力『転生』です。 ある程度の
「成程ねぇ。 つまり、より強力な攻撃が出来るってこと?」
「そういうことです。 妖夢さんにも一度試したことがあったのですが、相性が良くなかったのか、効果が薄かったので……」
相性もあるのね。
まぁ妖夢は半分死んでいるようなものだし、半身人間とはいえ合わなかったのかも。
それにしても、よく魔力と霊力の存在に気付いたものだと思う。
目には見えない特殊なエネルギー体だし、
これも、似た境遇にあるからなのかもね。
「先程脚を数本切断した時、ほんの僅かですけど手応えはあったんです。 出血も多量でしたし、自己再生には限りがありそうですね」
「それが分かっても、直接攻撃出来ないんじゃあねぇ……」
結界で動きを止めてしまえば、再生する隙も与えずに倒すことが可能なのだろうけど……。
あぁいう変則的な動きをする妖怪は、これまでの例を含めても初めてかもしれない。
今まで通りの要領で、どうにかなるとは思えない。
第一、スペルカードルールにも沿っていないしね。
弾幕に似た攻撃をして来ているとしても、奴がルールを理解しているのかしら。
……スペルカードが通用するのかどうかもね。
「行きましょう、先陣は私が切ります!!」
身をすくめ、妖怪に向け一直線に突撃する。
その後を私も追う。
攻撃のタイミングは、ほぼ同時に行う必要があるだろう。
まさか、私がこっち側に回るなんてね。
「――ここ!! 霊夢さん!!」
二本の刀を、妖怪の胴体を繋ぐ細い関節へと突き刺した。
風を纏う魔力なんて、どう使うかは知らないけど……。
――思いっ切り叩き付ければいいんでしょ!
「大人しくしてなさい!!」
私の持つ霊力と風の魔力を込め、斬撃によって出来上がった傷口へと一気に叩き込む。
耳に障る、
その場で何度も身体をくねらせる。
その度に、鋭く硬い甲殻が消滅していく。
本当に何とかなっちゃうなんて……。
っと、まだ終わってなかったわね!
「
「
「
各々が放つ一撃により、目には見えない程にまで小さくなっていく妖怪。
一枚の古びた紙を残し、完全に消え去った。
地に落ちる前にそれを拾い上げ、目を通してみる。
先程神社で見たものに似ている。
やはり、誰かがあの妖怪を喚び出した……?
「やりましたね!! 一時はどうなることかと……」
刀を手にしていた時とはまるで別人。
聞きたいことが山積みなんだけどねぇ。
「鈴花さん、霊夢に何かしました?」
「えぇ、以前試した術を少々。 私も不慣れなのでどうなることかと思いましたが、霊夢さんのお陰で何とかなりましたね」
おい、私は実験台か。
はぁ……成功したから良かったけど、失敗していたらと考えるだけで、頭が痛くなる。
何というか、外の世界の人間ってやっぱり変わり者だわ。
まぁ、向こうからしても似たような印象を抱いているんでしょうけど。
さてっと、改めて冥界に……って、また話し込んでるし。
仲良いわね本当。
お互いに刀を主体とした戦闘スタイルから、何処か通ずる所があるのかもしれない。
戦闘方法なんて、弾幕が大半を占めているし、物珍しいのもあるかもね。
私も刀とか使ってみようかしら?
やらないけど。
余計に負担が増えそうだし、遠慮しておくわ……。
今の戦い方が、自分の肌にあっているのもあるけどね。
それにしても、あの大百足は一体……?
あーもう、次から次へと分からないことだらけ。
「霊夢さん、何か気掛かりなことでもありましたか?」
私の様子を見兼ねてか、声を掛けられる。
こんな様子を見るのも珍しいのか、妖夢まで不思議そうな顔をしていた。
――考え込みたくもなるっての。
今までの異変は長期的で、かつ目に見えていたものが多い。
しかし、今回はどうだ。
結果として、見慣れない妖怪が一匹見つかっただけ。
まだ異変と呼ぶにも、事が足りなさすぎるのだ。
もう少し、様子を見るしかないか……。
「何でもないわ。 ほら、とっとと冥界まで行くわよー」