東方幻奇譚 ~the Eighth Fantasy. 作:TripMoon
本作の1人目の主人公。
基本的に他の人間や
その為か、
――ある一人を除いて、だそうだ。
本作の2人目の主人公。
悪戯好きで意地が悪いものの、根は真っ直ぐな子。
影の努力家でもあり、日々魔法の研究に余念がない。
恭哉に対し、突拍子で勝負を挑むも自ら負けを認め、この世界を案内すると打って出たが、上手くいくかは誰も分からない。
唯一、恭哉の「赤い眼」を見た人物。
幻想郷に迷い込んだ外の世界の人間の一人で、本作の3人目の主人公。
「東京」という場所から来たらしく、迷い込んだ経緯は殆ど覚えていない。
何事にも臆することのない性格で、迫り来る非日常もこなしていく。
元の世界に戻る方法を詮索していくものの、どうやら上手くいっていない模様。
運動神経、反射神経、異能力共に仲間の中でも桁が外れているが、幻想郷では十分に発揮出来ず、色々と苦労しているらしい。
「まだ痛むか?」
私は今、箒に
向かい風が心地良いが、今はそれを楽しんでいる余裕はない。
「痛みは大分マシにはなったよ。 少しぐらいなら、力んでも大丈夫だと思う」
「そっか、とりあえず医者の所まで責任持って連れて行くからな」
「助かるよ」
私の後ろにいる人物、
おそらく
結果は私の負けだったのだが、その代償に怪我を負わせてしまった。
避ければいいのに、こいつは受け止めようとしたんだぜ?
まだ出会って間もないから確証はないが、こいつは今までの奴とは何かが違っている。
実際に戦っていて思ったことなのだが……恭哉の戦闘に関するセンスは、非常に高いものだと思う。
そんじゃそこらの妖精や下級妖怪とは、訳が違う。
「人間」だけでカウントすれば、上位に食い込むことも可能だと思うんだよな。
もちろん、今のままじゃ私の足元にも及ばんがな。
あくまでも私が負けたのは、単に弾幕を「避ける」というルールを設けた上でのことで。
正当に戦っていれば、負ける気がしない。
……といっても、こいつが力を隠してなきゃ、なんだけどな。
「戦いにくい」や「思う通りに動けない」という発言。
これらの言葉が意味する真意は分からないが、真っ先に浮かぶのは、本来発揮出来る実力が、何らかの理由で自由に扱えないということ。
あの動きから見るに、戦闘自体にブランクがあるとは思えない。
普通、何も分からない状態で何らかの攻撃を見かけたら、一般人なら後ろに走って逃げるだろう。
でもこいつは、自分の
そして、身体に触れるギリギリの所で避けていたんだ。
おそらく、無駄な体力を消耗しない為だと思う。
これだけでも、弱いとは言えないだろ?
「言い忘れてたけど、病人だからって変なとこ触んなよ? 触ったらマスパだからな」
「さ、触るか!! ってか、マスパって何だ?」
「マスパはマスパだ。 さっきやって見せただろ?」
少し考え込んだ後。
あーあれか、と一人納得していた。
納得はしてくれるんだな。
私はまだ納得がいかない部分がある、違う箇所だが。
「見渡しても木や水しかないけど、本当に病院なんかあるのか?」
「安心しなって。 私みたいな人間でも暮らせる様に、この世界は出来てるよ」
「どういうことだ?」
「
人間の里。
文字通り、人間が暮らす城下町のような場所だ。
全ての人間が暮らしている、という訳ではなく私のような例外も居る。
妖怪も日常的に訪れる場所なのだが、物騒な場所ではなく、共存している場所なのだ。
妖怪は人間を襲い、人間は妖怪を退治する。
これが幻想郷のルールなのだが、この人間の里だけはそこから除外されている。
一応、私の実家もあるんだよ。
まぁ、私から顔を出しに行く義理もないが。
「治療が終わったら案内してやるよ」
「いいのか? 俺は勝ったつもりとか、そんなのないぞ?」
「私が負けを認めたんだからいいんだよ。 変な情けを掛けられる方が私にとっては辛いぜ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
落ち着いたトーンで、そう話す。
こういう雰囲気の言葉は、初めて聞いたかもしれない。
「ちょっと飛ばすぞー」
少し姿勢を低く取り、高度を下げる。
勢いを着け、医者の元へと急ごうとした時だった。
『あやややや!?
――思わず気の抜けそうな発言と、一気に身体が重く感じる気がした。
「一番会いたくない奴と会うなんてな……」
「私は探してましたけどね、魔理沙さんはおまけです」
「おまけ言うな! とにかくお前が思うほどのものはここにはない、こいつを医者に連れてくだけだからな」
「ふむふむ、貴方で間違いなさそうです。 突然ですけど、少し取材に協力してもらいますね」
いや聞けよ!!
私のことは無視か!!
――
この幻想郷に住む
おまけに自らを「
私にはさっぱり分からんが。
因みに、文が発行している新聞の名前は
なんでも、人間向けに発行しているものらしい。
紙飛行機にするには、丁度いいんだぜ?
「取材って、どういうことだ?」
「その名の通りです。 これでも新聞記者でして、貴方を取材させて頂きたいんですよ」
「俺なんかを? 他にも目立つ奴ぐらい、沢山居るんじゃないのか?」
「それがそうでもないんですよ。 たかが人間を取材するなんて、余程のことがない限り……そう、外の世界から来た人間でなければ、有り得ませんよ。 ねぇ、海藤 恭哉さん?」
こ、こいつ……!
なんで恭哉の名前を知ってるんだ!?
私と霊夢がさっき会ったばかりなんだぞ……?
今日までの数日間に、おかしな人間が現れたなんて話は入ってきていない。
恭哉もその事実には驚いているのか、少し目を丸くしている。
「あー申し遅れました。 私は射命丸 文、気軽に射命丸でも文でも、文ちゃんでも何とでも呼んでください。 それでは失礼して」
ふと、箒が軽くなる。
後ろを振り返る間もなく、恭哉の腕を掴んだ文が目の前に現れる。
「あれ、俺、魔理沙の後ろに居たはずなんだけど」
「取材用に確保させてもらいました。 こう見えて私、幻想郷最速と呼ばれているんですよ」
「最速か。 道理で気付かない訳だ」
「お褒めの言葉ありがとうございます、人間相手とは言え、褒められると嬉しいものですね」
あ、因みに魔理沙さんは元最速です、と言葉を続ける文。
文の言うことに嘘偽りはなく、全て事実のことだ。
鴉天狗全てがそうという訳ではないのだが、文はその中でも群を抜いて素早い。
現に私が認識する前に、箒から恭哉を連れ出している。
霊夢ですら、文のスピードには勝てないぐらいだ。
「あ、手荒な真似はしませんので安心してください」
「既にしてると思うんだけどなぁ」
「おい文、恭哉は腕を怪我してるんだ。 早いとこ医者に連れてかなきゃならないから、取材はその後でもいいだろ?」
「そう言われましても確保しちゃったんですよねー。 それに魔理沙さん、下の名前で呼ぶなんて随分親しい様で?」
「べ、別に普通だろ!!」
「良いお写真感謝です! じゃあ、私はそろそろ行きますので」
風の
そよ風が少し心地良い。
――って、そんな場合じゃなかった!
文を追いかけないと!
帽子を整え、前かがみの姿勢になりながら一気にスピードを上げていく。
私も速さには自信があるんだ。
好きにはさせないぜ!!
「おや、魔理沙さんってばもう追いついてきた」
「あーやー! そいつは返してもらうぞ!」
「すぐに返しますってー。 悪いことする訳じゃありませんし、いいじゃないですかー」
「良くない!! こうなったら撃ち落としてやる!」
ポケットからミニ
このミニ八卦炉は、私が生きていく上で欠かせない代物だ。
こういった弾幕戦から日常的な生活まで、全てにおいてこのミニ八卦炉を使用している。
言わば命と同じぐらい大切なものなのだ。
それ故に、こいつへの信頼も厚いもので。
「
スペルを唱え、私を取り囲むように四つの球体が一定の軌道を描きながら、出現する。
太陽を取り囲む複数の天体。
自転と公転を繰り返しながら存在する惑星たちのように、それらと似た動きと共にレーザー状の弾幕を放出させる。
小手調べには丁度いいだろう。
「おっとと。 急に弾幕戦ですかー?」
「お前が私の言うことに従わないなら、実力行使ってことだ! おらおら!」
レーザー状の弾幕に加え、ミニ八卦炉から星型の弾幕を文目掛けて発射していく。
余裕を持って避けられるが、それは計算の内だ。
複数の弾幕で文の可動範囲を狭めていき、吹っ飛ばす勢いでスペルをお見舞する。
そして恭哉を取り返して、医者の元へと急ぐ。
完璧な作戦だ。
「うぉ!? おぉ!? おい魔理沙!! 俺に当たったらどうすんだよ!! あっぶね!!」
あ、文の片腕に恭哉がぶら下がっていることを忘れてた……。
まぁ、あいつなら大丈夫だろ。
死なない死なない。
「なんで顔色一つ変えずに撃つんだよ!!」
「怖い人ですねー。 あぁ、私はあぁいう真似はしませんので、ご安心を」
「で、何処まで連れてく気なんだ?」
「とりあえず山ですかね、魔理沙さんを振り切る為に、少しだけ速度を上げますね」
少し身体を前に傾ける文。
私はその瞬間を見逃したりはしない。
速度を上げる為には、必ず加速する為の時間を必要とする。
幻想郷最速である文も、それは同じだ。
そこを一気に詰めるぜ!
「そうは行くか!
箒をしっかりと握り締め、超高速で文の元へと突進していく。
急には曲がれないが、文の姿勢を崩すことは出来るはず。
その時間さえ稼げれば、次のスペルを撃つ時間は十分に取れる。
「あやややや!?」
気の抜けそうな声と共に、文の姿勢が崩れる。
――ここだ!
「もらった! マスタースパーク!!」
一陣の風が、私の身を吹き抜けていく。
身が切れる程のものではないが、あまり心地の良いものではないことは確かだ。
「やっとやる気になったか? それとも、返してくれるのか?」
「滅多なことじゃ、人間相手では、戦わないんですがね」
「ふん、言ってろ言ってろ。 弾幕戦にさえ持ち込めればこっちのもんだぜ」
「確かに火力においては魔理沙さんには及ばないかもしれませんが、スピード勝負なら
「スピードも自信あるけどな」
「それは過信というものです。 とある世界で
「ひし形だかクワガタだか知らんが、そういうセオリーは弾幕にはノーだ」
文が手に持つ
あの団扇が、文の武器というか能力に使用するものだ。
風を操る程度の能力。
文字通り、様々な形でありとあらゆる風を操ることが出来る。
もちろん、あの団扇がなくても風は操れる。
風を操る文と風を起こす団扇、これらが合わさると厄介ということだ。
「私は戦闘を好むタイプじゃありません。 その私が、今こうしている意味分かります?」
「分からんね。 前は手加減してやるからかかってこいって言ってたが、今はそんな甘えは要らないからな」
「血の気が多いんだから……。 分かりました、といっても怪我されちゃ私自身も私の新聞にも傷が付きますから、手加減しますね」
「それもジャーナリズム精神とかそういうのなのか?」
「どうでしょう?」
「まぁ、どうあろうが挑むまでだ。 やっぱり本気で戦っておけばよかったって、後悔すんなよ!」
私と文が動き出そうとした、まさにその時。
ある重大なことに気が付いた。
「……あぁ!? 文、ちょっと待った!!」
「なんですか急に、調子狂うなぁ」
「お、お前……恭哉を何処にやった!?」
「えっ? 何処って私が腕を掴ん……で!?」
そう、文に腕を掴まれたままだった恭哉の姿が、どこにも見当たらないのだ。
一体いつから居なくなったんだ?
あいつは空を飛べないし、自分から腕を離すとは到底思えない。
ここは空中だし、建物の屋上とは訳が違う。
「いつの間に落としたんだろう……あぁ、私の貴重な新聞ネタがー!!」
「そんなこと言ってる場合か! とにかく探すぞ!」
「魔理沙さん、もし見つかったら教えてください! では!!」
「えっ、おい!?」
「お仲間らしき人を見つけたので取材してきますので!!」
そう言って、瞬時にその場から飛び立っていく文。
お仲間らしき人ってことは、ひょっとして恭哉の仲間のことか。
向かってみるのも手ではあるが……怪我人を放置しておくのも気が引ける。
かといって、この膨大な木々の中を探すのも……。
けど、恭哉も仲間を探していることだろうし、連れて行く方が喜ぶかも。
高度を下げ、文が飛んでいった方へと向かう。
ここは……人間の里か。
変装しないで大丈夫なのか文。
人間の里は妖怪も出入りするのだが、普段は皆変装している。
人間に近い奴もいるのだが、中には姿形が妖そのものの奴もいるのだ。
地上近くまで降り立った頃、箒から軽く飛び降り地面に着地する。
お昼頃という時間もあってか、人間の里もとい人里は多くの人々で賑わっている。
自分が生まれたこの場所も、今では少し懐かしくも思える。
ある理由があって、ここには住んでいない。
いや、住んで居られなくなった……という方が正しいかもな。
まぁ、この話は今はいいだろう。
(文の姿も見えないなー……っと、あの服装どっかで……?)
辺りを見回していると、一人の人物に目が止まった。
薄い黒色の服。
着こなし方こそ違うものの、あれは紛れもなく恭哉の服装と同じだった。
もしかして、恭哉の言う仲間なのか?
後ろから駆け足で近付き、声を掛けてみる。
その声に反応したのか、私の方を振り返って来た。
恭哉と同じで中性的な顔立ちに、茶色の瞳。
髪の毛は柔らかく整えられており、恭哉とは違い黒髪が印象的だった。
目付きもどこか穏やかだ。
「何か御用ですか?」
「いや、私の勘違いならすまないんだが、海藤 恭哉って名前知ってるか?」
「えっ? 兄さんのことを知っているんですか!?」
私の問いかけに、目を丸くする人物。
兄さん、ということはこいつは弟なのか?
全っ然似てないけど。
「あ、あぁ知ってるというかなんというか。 この辺で見かけなかったかなって思ってさ」
「この辺に……ということは、兄さんもこの変わった世界に居るのか……。 あの、もし良かったら兄さんが何をしていたのか教えて貰えませんか?」
物腰の柔らかい言動に、思わず気が抜けそうになる。
喧嘩っ早そうな恭哉とは大違い。
これだけ兄のことを慕っている奴に、怪我させたから病院に連れて行くなんて言ったら怒られるか……?
「それは構わんが、私にもお前のことや恭哉のことを教えてくれよ。 この世界の出身じゃないんだろ?」
私の返答に
この様子から見るに、まだ文には見つかっていないのかもしれない。
また文に取材取材と迫られる前に、どこかに身を隠した方が良さそうだ。
――っと、いい所があったな。
こういう時に立ち寄れる場所。
「いい場所があるんだ、連れてってやる」
「ありがとうございます! あ、兄さんから聞いていたらすみませんが、僕は
「私は霧雨 魔理沙だ。 恭哉からは仲間が居るとしか聞いてなかったからな。 んじゃ、行こうぜ」
恭哉の弟、京一と共に、私はある場所を目指した。
「……生きてる、か……。 今回のもマジで死ぬかと思った……」
魔理沙の弾幕といい、今回の上空からの落下といい……。
普通ならどうってことのない出来事も、この世界では一つ一つが命に関わってくる。
今回も落下した先が、高い木々が連なる場所で良かったものの……単調なアスファルトだったらと思うと、身の毛もよだつ。
おまけに腕は怪我したままだし、悪運続きだよ全く。
魔理沙も、あと文って奴とも見事にはぐれてしまったし……これは、振り出しに戻ってしまったのかもしれない。
この世界が幻想郷という世界ということと、魔法使いや新聞記者、巫女が暮らしていることぐらいしか分かっていない。
本当、なんでこの世界に辿り着いてしまったのか……。
元はと言えば何が原因だったのかも覚えていない。
って、うだうだ考えても仕方ないか。
まずは行動に移す、と行きたい所なのだが……。
高い木々に生えている枝達に上手い具合に支えられている為、下手に動けば枝が折れて、地面に叩き付けられそうだ。
流石にこの高さなら死にはしないだろうけど……。
とりあえずそっと……そっと……。
「いけるか……? あ――」
安全に降りられると思った矢先だった。
案の定枝が折れて、地面に叩き付けられてしまった。
なんか、こんなのばっかだな……痛いし。
頭を
木々が立ち並ぶ先に、何やら曇った物が目に入った。
一定の周期で揺れているようにも見えるが……?
その場を立ち上がり、揺れ動く曇った物の方へと歩いていく。
そういえば、霊夢が何か言ってたっけ?
妖怪や妖精が出てくるから気を付けろ、とか何とか。
もし遭遇した場合、どう対処するのか、考えておいた方が良さそうだな。
この世界に来てからというもの、本来の
空を飛ぶことすら出来ないなんて、思いもしなかったことだ。
今のままでは移動はおろか、戦闘を行うことも出来ない。
魔理沙も実の所は手加減していたと思うし、そんな都合の良いことはもうないだろう。
未だに脳内で整理の付かないことを
曇った物の正体は、どうやら霧の様だ。
前方が全く見えないという訳ではないが、視界は悪い。
それにどこか涼しさを持った小風も、漂ってくる。
……これは、水か?
慎重に足元を探りながら歩いていると、地面にぴったりと当たっていた靴が、行き場を失った。
その場にしゃがみ、手を伸ばしてみる。
ぽちゃんと軽い音を立て、指から腕にかけひんやりとした冷たさが伝わってきた。
これは
どこかに流れている感じなく、手が入った所からゆっくりと広がっていく。
水溜まりでもないだろうし、湖か何かか?
水面から手を引き上げ、軽く水気を払う。
再び辺りを見回すと、先程とは違う景色が、目に入った。
霧に包まれてはっきりとは見えないが、赤いレンガの様なものが確認出来る。
もしかしたら、何かの建物なのかもしれない。
行く宛もないし、今はそこを目指すことが先決だろう。
その建物らしき場所に行くまで、特に何も障害などはなく簡単に辿り着いてしまった。
何かの罠じゃなきゃいいんだけどな……。
俺の予想は当たっていて、レンガに覆われた大きな洋風の館がそこには建っていた。
ここまで来れば霧は晴れたのか、建物全体を直視出来る程に、視界は良好の様だ。
どういった建物なのかはまだ分からないが、少なくとも無人ではなさそうだな。
外観に窓が少ない為、中を確認することは出来ないが。
ただ何の意味もなく、こんな大きな洋館が建っているとも思えないし。
っと、入口はどこなんだ……?
右にも左にも、高く張り巡らされた
というか、柵の間から覗けばいいんじゃないか?
鉄柵に顔を近付け、建物の奥を覗いてみる。
第三者から見たら、ただの不審者だなこれ。
そういう趣味はないからな!?
普段なら柵ぐらい難なく飛び越えられるのだが、今の状態じゃおそらく無理。
それに柵の先端が尖っている為、さらに怪我をしてしまいそうだ。
(本当に誰か居るのか、これ?)
そう疑ってしまう程に、中の様子が分からないのだ。
レンガ状の壁が視界に入るばかりで、窓や扉などは見当たらないでいる。
一か八かで、乗り越えてみるか……?
いや、流石に物音を立ててしまうのも気が引ける。
誰かに見つかって不審者扱いされて、話し合いの余地もなくなってしまえばそれまでだもんな。
一度頭に浮かんだ複数の選択肢を振り落とし、再度柵の向こう側に目を通してみる。
すると、たまたま一つの窓を見つけた。
どうやら、単に見落としていただけのようだ。
うーん、やっぱり見辛いな……。
それになんか妙な視線も感じる。
気のせいだと良いんだけど。
鉄柵の前で少し考えた後、結局柵を超えて中に入ることにした。
柵の骨組みに足を引っ掛け、先端部分に軽く触れてみる。
見た目ほど
(これならいけるか)
何度か身を縮こませた後、勢いを付け柵を飛び越える。
ここは何とか無事に着地。
初めてこの世界で、何かに対して成功したかもしれない。
再び建物の方に目をやり、先程の窓を見てみる。
……視線の正体はこれか。
早速先程から感じていた視線の正体らしきものを発見し、窓の方へとゆっくりと近付いていく。
近付くにつれ、徐々に姿が判明出来る程になっていた。
それと同時に、視線も上へと上がっていく。
窓のすぐ前に近付いた時、改めて視線の正体と目が合う。
見慣れない帽子に、赤を基調としたドレスの様な衣服。
背丈は低く、こちらが腰を下ろさないと視線が平行にならない程だ。
見た目はまさに少女、というべきか?
背中に見える小さい宝石のような物が、やけに気になるが。
おそらく、建物内の装飾か何かだろう。
瞬きを繰り返し、顔色一つ変えずこちらを
こういう子供も、この世界に居るんだな。
まぁ、当然っちゃ当然か。
俺も特に何か出来る訳でもなく、少女と同様に見据えている形になる。
すると少女が口を開き、何かを喋り始めた。
しかし声は聞こえず、口の形で言葉を読み取ることに。
い、ん、げ、ん……?
いんげん豆のことか、って流石に違うか。
うーん、何を伝えたいのか分からない。
俺が首を傾げると、少女も首を傾げ返してくる。
駄目だ、コミュニケーションが成り立たん。
少女もそれを察したのか、何かを考えている素振りを見せる。
打開策を思い付いたのか、少女が手を払い始める。
まるで、向こうに行け、と言わんばかりだ。
少女の行動通り、建物から少し距離を取り、少女の様子をじっと見守ることに。
俺が離れたのを確認したのか、少女はゆっくりと窓に手を
それと同時に爆発音が鳴り響く。
爆発の衝撃によって舞い上がった砂埃が消え、視界に入ったのは……。
先程まであった窓が跡形もなく消え去り、少女と俺を区切る物が無くなっていた。
あまりの出来事に、思わず目を丸くしてしまう。
驚いた……直接触れていた訳でもないのに、こうも簡単に破壊してしまうなんて……。
あれがもし自分の身だったと思うと……背筋が凍る程度では済まない。
まだ驚きを隠せないままで居ると、いつの間にか少女が目の前に居た。
にこにこと
「あなたって人間なの?」
「い、一応人間だけど。 それがどうかしたのか?」
「本当に人間なのね!? ねぇねぇ、あなたって壊れない?」
何やら嬉しそうに聞いてくる少女。
「壊れない」って、どういう意味なんだ?
その意味を問おうとした時。
――すぐ後ろで、先程と同じ爆発音がした。
「あ、ズレちゃった」
そんなこと軽く言うか!?
下手に動いていたら、不味かった……。
もう一回仕掛けてくるか……?
どうする……?
見てからじゃ間に合うとは思えない。
これなら、まだ怪しまれてた方が何倍もマシだ。
再びあの爆発音がすると覚悟をしていたのだが、予想とは違った言葉が出てきた。
「うーん、つまんない」
こちらを見上げるようにして、そう言っていた。
表情はどこかご機嫌ななめ、と言ったところか。
何もしてないんだけどなぁ……。
「つまんないって?」
「私のこと怖くないの? きゅっとしてどかーんって出来るよ?」
「太刀打ちは出来ないだろうけど、怖くはないよ。 怪我とか出血、爆発とかには慣れてるつもりだし」
「ふーん……。 人間ってそんな感じなんだ」
「そんな感じがどんな感じか分かんないけど、俺にはちょっと変わった女の子にしか見えないよ」
「へぇ、私のことそんな風に思うんだ? 面白いかも!」
今度は面白がられた。
どう
心の中で一息つく。
「私フラン。 フランドール・スカーレット、あなたは?」
「海藤 恭哉だ。 よろしく、でいいのか?」
「うん! 壊れるまでは遊んでね!」
「その壊れるっていうのは?」
「うーん、死ぬまで? 動けなくなるまで?」
「どっちも一緒だよ……。 まぁ、それまでは遊ぶか」
「わーい!! 私外に出たことないから、案内よろしくね!」
「悪いけどそれは無理だ。 俺だって、この世界に来てまだ数時間しか経ってないんだ」
俺の言葉に、フランは目を丸くする。
嘘は言っていないし、何も悪くないぞ?
それにフランは、外に出たことがないと言っていた。
外見が幼いとはいえ、流石に外で遊ぶぐらいのことはさせるはず。
親が過保護過ぎるとか……?
まぁあり得そうだけどな、この変な世界だし。
「じゃあ何して遊ぶのー? 弾幕ごっこ? 鬼ごっこ?」
どっちも物騒な連想しか浮かばない……。
弾幕ごっこはおそらく弾幕戦のことなのだろうが、鬼ごっこは……。
一見可愛らしく聞こえるが、フランが見せた先程の爆発。
捕まったら
「そういえば人間の里ってのがあるって魔理沙に聞いたな」
「魔理沙を知ってるの?」
「なんだ知り合いなのか。 言っても俺も顔見知り程度なんだけど」
「魔理沙も全然遊んでくれないんだよね。 まぁ、恭哉がその分遊んでくれたらいいや。 とりあえず、その人間の里って所に連れてってよ」
そう言われてもなぁ。
上空からしか見ていないこともあり、詳しい場所は分からないのだ。
(そういえば、あの宝石……)
じっとフランの方を見つめる。
フランは小首を傾げているが、そこは重要ではない。
背中に見える色鮮やかな宝石たち。
建物の装飾かと思っていたが、宝石はフランのすぐ後ろで微かに揺れている。
よく見れば黒く細長い枝のようなものに、吊るされているではないか。
ってことは、これ羽か。
そう思い付くのも、様々なものに見慣れているのもある訳で。
「なぁ、フランって空飛べるのか?」
「もちろん! 吸血鬼だもん」
吸血鬼か、こりゃまた意外な種族。
「むーっ。 少しは驚いたりしないの?」
「ごめんごめん。 悪魔とか言ってくるのかと思ってたからさ」
「変なのー。 で、飛べるけど、どうすればいいの?」
「こう言っちゃ悪いんだけど、俺今飛べなくてさ。 だから、上空からそれっぽい場所を探したいんだけど……持ち上げられたりする? そこまで体重重い方じゃないと思うんだけど」
「うーん……やってみるね」
そういうと、後ろに周り少し飛び上がるフラン。
俺の両脇から腕を入れ、小さく唸りながら上へ上へと引き上げていく。
少しずつ足が地面を離れていき、視界も木々を抜け青白い空が広がってきた。
小さく見えても流石は吸血鬼。
関心しているのか、気付けば何度も首を縦に振っていた。
だが、次第に視線が再び落ちていき……。
「あだっ!?」
間抜けな声を上げてしまう。
耐えきれなくなったのか、地面に叩き付けられてしまった。
これで何度目になるのやら。
「あ。 大丈夫?」
「これも慣れてる……って言いたいけど、やっぱ痛い」
さてさて、これは困ってしまった。
こういう時こそ、空を飛ぶことが出来ればなんと幸せなことか……。
だが、少しだけ持ち上がったのは事実。
ということは、少し工夫さえすれば歩くよりずっと早く移動出来るんじゃ……?
よし、あれでいこう。
「フラン、悪いけどおんぶしていいか?」
「おんぶって何?」
「えーっと、背中に飛び乗ってくれる感じで」
「背中に? こう?」
少し勢いを付け、俺の背中へと飛び付くフラン。
――って、これは肩車だろ。
背中を通り越して両肩に足を付けている。
一度下ろし、もう一度説明することに。
「よいしょっと。 うん、バッチリだ」
「こんなことして本当に飛べるの?」
「飛ぶっちゃ飛ぶんだけど、まぁ見てなって」
しっかりとフランを支え、体勢が崩れないことを確認する。
その後、軽く地面を蹴り、前方目掛けて走り出す。
徐々に加速して行き、スピードに乗った頃。
スピードを押し殺さぬよう、強く飛び上がる。
フランの羽のお陰で、少しだけ空中を浮遊出来ることが分かった。
つまり、飛行までとは行かないものの、忍者の如く木々を走り、飛び移って行くことは可能なのだ。
空を飛ぶことが可能ならば、わざわざこんな手法を使うとも思えない。
ある意味で未知の体験を経験したのか、フランのご機嫌は良いらしい。
「すごーい!! ねぇねぇ、もっと早く飛んでよ!」
「よしっ、任せとけ! しっかり掴まってろよ!」
胸元で交差する腕が、より強く締まったことを確認し、飛び移るスピードを上げていく。
今更かもしれないが、運動神経や反射神経まで制御されている訳ではないみたいだ。
後は普通に能力が使えれば、何も問題なく元の世界へ帰る方法を探すだけなんだけどなぁ……。
木々のざわめきを、吹き渡る風が切っていく。
微かにだが、人々が賑わう声が聞こえてきた。
幸運にも、人間の里らしき場所へと近付いているみたいだ。
この世界に来て、二回目の幸運。
因みに一つ目の幸運は、フランに殺されなかったことだ。
あんな瞬時の爆発を喰らってしまえば、今頃肉塊になってその辺りに散らばっていることだろう。
今後も、フランの機嫌を損ねないようにしないとな……。
「ねぇ、見て見て! 人間っぽいのがいっぱい!」
「多分あれが人間の里かもしれないな。 そろそろ、歩いて行くか」
見慣れない服装や街並みではあるものの、おそらく視線の先に広がる場所が人間の里で間違いないだろう。
木々が連なる場所に降り立ち、ここからは歩いて行くことに。
「……降りないのか?」
「降りなきゃダメ?」
少し甘くも聞こえる声で、そう返答するフラン。
――気に入られたのか?
まぁ、ご機嫌ならいいんだけどさ。
「俺は何ともないけど、フランに任せるよ」
「じゃあこのまま! こんなことされたの初めてだし、恭哉の背中は何か落ち着くもん!」
背中越しに、顔を埋めているのがよく分かる。
それにしても、おんぶも初めてなんて、フランの両親は無愛想なもんだ。
きちんと育ててやれよってそう思う。
……吸血鬼に、親なんて居るのか?
「なぁ、フランって一人っ子なのか?」
「一人っ子ってなぁに?」
「兄弟が居ないってことだよ」
「うーん、それなら私は一人じゃないよ? レミリアお姉様が居るし」
レミリア、か。
また変わった名前だ。
この世界の住人は、何かと名前が変わっている気がする。
聞き馴染むのは文ぐらいか?
「恭哉は一人なの?」
「いや、弟が居るよ。 後、しばらく会ってないけど姉ちゃんと妹も」
元気にしてるかなぁ、あいつら。
このままこの世界から帰れないとなると、どうしたもんか。
「っと、この辺からか。 本当に人間ばっかりだな」
そうこうしている内に、人間の里らしき場所に辿り着いた。
危険な場所もそうはないだろうし、この世界のことを探りつつフランのご機嫌を取っていこう。
命に関わるし……。