東方幻奇譚 ~the Eighth Fantasy. 作:TripMoon
四季異変を通じ姿を現した
霊夢の神社に勝手に住み着き、神社の守護をしている。
といっても、参拝客が滅多に居ない為、のんびり過ごすことの方が多い。
獅子としての側面も持つが、犬なので人懐っこく甘えがち。
元々妖怪の山に住んでいたとされる、山の四天王が一人。
好戦的な性格と圧倒的な力から、大抵の弾幕ごっこは遊戯に過ぎない。
またかなりの酒好きで、酔っていることの方が多い。
能力の性質や活動範囲、本人の性格から基本何処にでも居る。
が、博麗神社が一番心地よさそう。
「あれが
深い緑が生い
先程遭遇した
文字通り、様々な妖怪が生息しているが、その暮らし方は幻想郷の中でも少し変わっている。
強さの序列が
現在は
何というか……数ある幻想郷の土地の中でも、
「この用事が終わったら見に来ますか?」
「是非!! まだまだ知らない場所も多いので、広く見てみたいです!」
不安になったりしないのかしら。
人間とは違う種族が
あいつもそうだけど、変にズレてるのよねぇ。
元々外の世界の生まれで、この世界にやってきた例も存在するし、それと似ていると言ってしまえばそれまでなんだけどね。
……普段は何処に居るのかしら。
その事を尋ねてみると、白玉楼に身を置いているらしい。
何でもこの世界に流れ着いた際、一番最初に訪れた場所が
同じ剣術を扱う者同士意気投合し、身を寄せている……という経緯。
何となくだけど、似てるもんねこの二人。
「小さく滝が見えますけど、滝行とか出来るのでしょうか?」
「うーん、流石に難しいかもしれませんね……」
「そんなことする奴なんか居ないわよ。 お堅い仙人様ぐらいじゃない?」
よくあれを見てそんな言葉が出てくるわ……。
未熟という訳ではないんだけど……天然?
どこかのメイドみたいね、うん。
「今度人里に出てみますか? 色んなお店が並んでいますし、楽しめると思いますよ?」
「確か人間たちが暮らす場所なんですよね? 行ってみたいです!!」
「じゃあ夕食の買い出しのついでに寄りましょうか!」
楽観的な話を繰り広げる二人を後目に、私は考え事をする。
どうも引っかかる出来事。
もちろん、先程の妖怪のことだ。
魂の状態にあり、かつ冥界から
冥界に住む様々な生物は、皆死を迎えた後。
言い換えるなら、冥界は死後の世界なのだ。
その魂が
それに、同じ名前の刻まれた古紙が二枚残っているのも、おかしな点の一つ。
容姿や戦闘方法は全く異なるのに、一言一句違いなく同じ名前だった。
共通した消滅方法から、違う妖怪と断定するのは難しい。
……何がどうなってんのよ本当。
幸いにも被害は出なかったけどね。
人里や、力の弱い妖怪が住む場所に姿を現さなかったのは、運が良かったのかも。
昨日までは気配すらなかったというのに……。
何処から湧いて来たんだか。
――あー?
頭を悩ませていると、一際速いスピードで飛ぶ妖夢の姿が。
すっかり置いていかれたのか、私たち二人は取り残されてしまった。
「あの
あーそういうことか。
顕界と冥界の境目がある場所の近くには、
そこに行き着くまでに必ず通る道で、
一見恐ろしい場所にも思えるが、実は案外娯楽に近い場所なのだ。
その理由は単純で、
地獄に落とされた罪人が更生の為に、この道に出店を出す。
この出店っていうのが、案外評判良いらしいのよ。
……悔しいけど。
その為か、まだ生きている者でも気軽に立ち入ったり出来てしまう。
妖夢がさっさと飛び抜けた理由は、他でもなく幽霊や亡霊が居るから。
自分も半分幽霊なのにね。
それを指摘すると怒られるんだけど。
おばけの怖い幽霊剣士なんて、何か可笑しいでしょ?
鈴花ちゃんにその事を話すと、変に納得した様子を見せた。
こっちの人間は、心霊的な類は得意なのかも。
「降りて見てみたいですけど……幽々子さんのこともありますし、急ぎましょうか」
「そうね、私も忙しいし」
死人たちの賑やかな屋台を見下ろしながら、先へと急ぐ。
中有の道を抜け、次第に暗い水面が姿を現す。
この水辺こそが三途の川であり、この世とあの世を渡す為の場所でもある。
一度渡ってしまうと、次の生を受けるまで帰ってこれないとか。
死神の渡し
またどこかでサボってるんだろうけど。
「あれ、妖夢さんは?」
川岸に降り立ち辺りを見回すも、先に向かっていたはずの妖夢の姿が見当たらない。
先に冥界への境界を渡ったのかしら?
この場所からは遠く離れていないはずだし、そう考えるのが自然かもね。
その事を鈴花ちゃんに告げようとした時。
――この砂利道で、何かを引き
足音には聞こえないけど……。
二人してその場に立ち尽くし、その音のする方を見据える。
次第に大きくなって行き、揺らめく影の様なものまで見え始めた。
「霊夢さん、あれは一体……?」
「分からないけど、さっきの妖怪みたいな奴じゃない?」
「――っ!? 来ます!!」
強大な
瞬時に
甲高い音と共に、大きく後ずさる私たち。
あーもう、今日は本当ついてないわ。
二回もこんな妖怪に出くわすなんて……。
ったく妖夢の奴、何処に行ったのよ……!
「あの炎……何かに似てる……!?」
「何に似てるか知らないけど、
何なのコイツ……?
全身が赤く燃えるような肉体。
大木にも似た
その姿はまさに鬼そのもの。
先程の
これは少し骨が折れるかも……。
「気を付けてね。 あいつ、かなり強いと思う」
「分かってます……
双剣の突撃に合わせ、妖怪の周りを結界で覆う。
これで逃げ場はない。
「――受け止めた!? ぐっ!!」
風よりも素早い刺突を容易く受け止め、反撃が腹部へと吸い込まれる。
そのまま大きく弾き飛ばした後、真っ直ぐにこちらへと飛び掛って来た。
剛腕をしならせ、地を叩く。
後ろに飛び回避しても、その衝撃波が身体中を突き抜けていく。
まともに食らったら不味いわね……。
距離を保ちながら攻撃を加える。
私はともかく、鈴花ちゃんだと分が悪いか……。
隙を見て逃がしたいけど、そんな時間もあるかどうか。
妖怪退治を、他の世界の子に任せる訳にも行かないし。
数枚の
熱気に包まれているのか、湯気にも似た
霊撃と共に御札を投げ、目を閉じる。
――ここなら!
御札が妖怪へと達する直前に、もう一つ攻撃を加える。
地獄まで持って行きなさい!!
三日月を描く様に、無数の針を飛ばす。
もちろんこれだけで済むとは思わない。
追撃のスペルカードを……!
「
こちらの攻撃を全て振り払い、宙に浮かぶ私の元へと妖怪は達していたのだ。
……受け止めるしかない。
引き込んだ剛腕を、両腕を交差させ受け止める。
骨にまで響く重撃は、何にも縛られず浮く私ですら貫いた。
瞬く間に地へと叩き付けられ、何度も身が弾かれる。
完全に倒れ込む前に、
痺れる様な腕の痛み。
こんなものを感じるのも、私には久しい。
スペルカードルールなんてものは、こいつには通用しないってことか……。
「どこの誰だか知らないけど、違反者にはお
「私が注意を引き付けますから、霊夢さんは後方から
「そういう訳にもいかないのよ。 あいつの戦闘法じゃ、鈴花ちゃんとは分が悪いの」
地面を炎の波が走る。
こんなことまでしてくるなんてね……!
空へと回避し、妖怪との距離を取る。
次第に燃え盛る波は天へと伸びていき、巨大な柱を形成した。
渦巻く蛇の如く、こちらへと首を伸ばしてくる。
「
結界を張り巡らせ、猛進を押し殺す。
しつこいわねこの……!!
「
一瞬で生まれた五つの
その一つ一つが、あの炎の柱を捉える。
その姿はまるで、美しく散る桜の様。
……これが
主に魔理沙がだけど。
散った炎は、やがて雨の様に降り注ぎ出した。
だが、真っ直ぐ地へと落ちることは無い。
行き着く先は……私たちだ。
鈴花ちゃんには、先程の攻撃によって生まれた反動がある。
遅れなんか取るもんですか。
「
動きは鈍くとも、小さな炎の雨を打ち消していく。
私たちの元に達する前に、攻撃は完全に消滅した。
「助かりました……」
「お互い様でしょ。 さてっと、あいつをどうしようかしら」
「もし先程の妖怪と同じならば、姿を変えてくるかもしれませんね……」
「そうだったとしても、退治するだけよ」
小さく深呼吸をした後、妖怪の方へと飛んで行く。
対象を
まだ一度も攻撃を当てられた訳じゃないし。
打撃よりも斬撃か……?
しかし、鈴花ちゃんにはさっきのダメージが……。
私たちが妖怪の元へと達する前に、再び剛腕を地面へと叩き付け始めた。
一定の間隔を刻み、脈打つ
やがて地面より炎が噴出し始める。
ゆったりと燃えながら、辺りを回り始めた。
眼前の獲物を取り囲む様に。
防がれる前に、退路を無くす……か。
幸いにも炎のスピードは遅い。
これぐらいなら回避は十分に間に合う。
進路を変え、側面から攻撃を加えようとした時。
そこには居ないはずの無数の
一斉に飛び掛り、こちらを目指す。
攻撃を
――また冥界から漏れ出しているのではないかと。
何やってんのよあの亡霊は……!
「霊夢さん、前です!!」
少女の
しまった、油断した!!
逃れる暇もなく、双方より迫る剛腕。
真っ直ぐに私の首を目指し、掴みに掛かる。
でも……まだ間に合う!
瞬時にその場から移動し、頭上へと位置取る。
空を飛ぶ程度の能力。
単に空を飛ぶ訳じゃない。
あらゆる物に縛られないことこそが、私の能力。
重圧であっても重力であっても……。
だからこそ、一瞬の超速移動すら可能にする。
そして――。
両足に霊力を込め、落下速度の勢いと共に蹴り下ろす。
当たった……?
感触こそあったものの、大したダメージにはなっていないようだ。
再び距離を取る。
私の行く先を見切っていたのか、
数枚の結界を衝突させ、炎を塞ぎ止める。
「加勢します!」
少し離れた場所に居た鈴花ちゃんが、こちらへと駆け寄る。
――って、攻撃しに行くんじゃないの?
「妖怪はあっちなんだけど?」
「分かってます。 奴の目には、今私の姿は映っていません。 そこを突きます」
「どうするつもり?」
私の問いには答えず、結界のすぐ手前に立つ。
二本の刀を天に掲げ、声を発した。
「
確か、
まだ力を隠していたなんてね……。
「今です!!」
見据える暇もないまま、鈴花ちゃんの合図が木霊する。
言葉通りに、結界を解き上空を目指す。
吹き
追撃を加えるなら、ここしかないか。
――身に覚えのある違和感。
あの子ってば、いつの間に……。
使えってことでしょ?
「
複数の
一つ一つが
宙に浮いたまま、様子を伺うことに。
刀の一振りで、舞い上がった噴煙や塵が完全に消滅する。
強靭な
その姿を確認出来たのもほんの数秒で、すぐにその場から姿を消してしまった。
地上へと降り立ち、立ち尽くしたままの少女の元へ向かう。
「追いますか?」
「いや、先を急ぎましょ。 あの状態じゃ、低級の妖怪にも負けるでしょうし人間も襲えない筈よ」
「……分かりました。 えーっと、冥界への境目はどちらに……?」
「反対側ね」
穏やかさが戻ったのか、物腰が柔らかくなる。
というか、そこまで性格とか変わると、イマイチ調子狂うんだけど……。
変な子ね本当。
しかし、気になることは多い。
聞いてみようかしら。
「ねぇ、さっきの覚醒だったっけ? というか戦ってる時と今とじゃ、何か性格違う感じがするんだけど?」
「あ、あはは……どうしても、気分が高揚してしまいまして……」
苦笑いを浮かべながらそう告げる。
何でも能力自体ではなく、魔力が関係しているのではないかと言う。
魔力という概念は、この幻想郷にも存在している。
主に
こういうのは専門家に任せればいいのよ。
「でも魔法使いじゃないんでしょ?」
「えぇ、私は人間ですからね。
「契約? それに核って何?」
私が尋ねると、腰に掛けてある刀を取り出し見せてくる。
刃の部分は妖夢が持つ刀に似ているけど、柄は少し変わっているわね。
こんな模様見たことがない。
「
「ふーん、また変わった名前ねぇ。 ――っとここか」
冥界へと続く境界を潜った途端、目の前に少し息を切らせた妖夢が走ってくる。
どこに居たのよあんたは。
「妖夢さん!? 一体どちらに?」
「先に冥界まで戻っていたんですけど、中々二人が来ないので迎えに行こうと……」
「なるほどねぇ、あんたのお陰で散々だったわよ」
「えっ? ――うわっ、どうしたのその
えーそっちの心配……?
あの妖怪の攻撃をまともに受けない為に、両腕で塞いだのだが……。
骨にまで達するほどの衝撃であったこともあり、お陰で袖はボロボロ。
白玉楼の後は
はぁ、忙しい忙しい。
「
「屋敷でお待ちです、行きましょうか」
白い霧に覆われた長い階段と、等間隔に置かれた無数の鳥居たち。
本当、何故こんなものがあるのか未だに分からない。
妖夢と出会ったのも、この場所が最初だったかしら。
あの頃と比べると、何処か笑顔が増えたと思う。
私はー……知らない。
一々覚えていないものそんなこと。
飛び続けること数分が経った頃。
今の景色には似合わない、和風造りの巨大な屋敷。
この建物こそが白玉楼であり、冥界を管理する
……いつ見ても広いわここ。
遠目で見ても大きいと感じるのだから、この異常さは分かってもらえると思う。
砂利の続く道へと降り立ち、建物を目指す。
「――あぁ!?」
歩き始めようとした途端、妖夢が声を荒らげる。
「ど、どうかしました!?」
「買い物袋……霊夢の神社に置いてきちゃった……」
……あー?
そんなことで大声を上げなくても……。
「そういえばあの中身って? 野菜とか入ってたけど」
「おつかい……」
「でもあんた、さっき夕食の買い出しがどうとかって」
「あれは別なの! 幽々子様が沢山食べるから足りなくて――」
「あら、妖夢ったらそんなこと思ってたの?」
妖夢の背後から顔を覗かせる人物。
「ゆ、幽々子様!? いつからそこに!?」
「だって私の家だもの。 居てもおかしなことじゃないでしょ?」
「そ、それはそうですけど……びっくりするじゃないですか!!」
「妖夢の可愛い所を見る為よ。 ……で、お花見はまだよ?」
「今日はそんなんじゃないの。 ちょっと聞きたいことがあってね」
西行寺 幽々子。
冥界を管理する亡霊であり、妖夢が仕える人物。
桃色の髪と、青と白を基調とした和装。
その
きちんと見れば、ね。
「霊夢がお花見以外で来るなら、異変か何か?」
「まだ確定してないってだけ。 さっきここから霊魂が逃げ出したって聞いたんだけど」
「えー、そんなの知らないわよ?」
何で知らないのよ……。
理由を尋ねてみても、本当に知らない様子。
あーこれじゃ来た意味ないじゃない。
「本当に見ていませんか? 私と鈴花さんはすぐに追いかけに行ったので……」
「もし私が見ていたら、逃げ出せる訳ないじゃない」
「あっ、確かに……幽々子さんなら、見逃すとも思えませんし、本当に見ていないのではないでしょうか」
幽々子の言うことにも一理ある。
変化する前の状態なら敵にもならないだろうし。
……となると、何も進展がないってことか。
どうなってんのよ全く……。
「そうだ、鈴花ちゃんにお客さんが来てるわよー」
「私にですか? 誰でしょう……今はどちらに?」
「客間で待ってもらってるの。 私も見たことない人なんだけど……」
鈴花ちゃんに客人か。
きっと、同じく外の世界から迷い込んだ誰かでしょうね。
あいつの居場所を知りたいし会っておきましょうか。
何が何でも掃除させるんだから。
屋敷に上がり、客間を目指す。
白玉楼の特徴として最も大きいといっても過言ではないのが、この無数の桜の木々。
一年中咲いており、春以外でも花見楽しめるという代物。
何度か言述した通り、冥界と幻想郷との行き来は容易なものになっている。
その為、私や魔理沙などはよく白玉楼に来ては宴会を楽しんだりしているのだ。
……ちょっと飲みたくなってきたかも。
帰りに何か買って帰ろうかしらね。
丁度、神社で留守番中の二匹も暇を持て余しているし。
何度か部屋を通り過ぎた後、ある場所へと辿り着く。
妖夢が
「
「鈴花か、
予想的中ね。
鈴花ちゃんの仲間で間違いないみたいだ。
……またあいつと似た服装、流行ってるの?
違う所を挙げるなら……傍らに置かれた
これまた妖夢と気が合いそうな。
「皆さんは無事なんですか?」
「今の所はな。 ただ、近い内に帰ることになるぞ」
「手段があるんですか!?」
「確証はないがな。 それを実行に移す為、西行寺 幽々子の元を訪ねている」
「あらそうだったの? てっきり鈴花ちゃんに会いに来たのかと思ったわ?」
「そんな安易なことの為に足を運んだりはしない」
……何と言うか、こいつはこいつでかなり変わり者ね。
とにかく堅苦しいったらありゃしない。
まだ名前も知らないけど、取っ付き難いタイプ。
「あの鈴花さん、この方は?」
「すまない申し遅れていたな。
「幽々子に話があるみたいだけど、それって私たちも聞かなきゃダメなこと? こっちも用があって来たんだけど」
「聞いて貰えるなら有難い限りだな。 こちらとしても、より多くの情報が欲しい」
はぁ……これは聞かなきゃダメな奴か。
厄介事は増やしたくないんだけど。
「ここを訪ねた理由は一つ、
紫か。
その名前を聞いた途端に、私と幽々子の手が止まる。
色々と深い関係だからね。
「確かに……一理ありますね。 今まで外の世界からの来訪なんて、そこまで表立ったことではなかったはずなので」
「
やけに詳しいわね……。
言っていることに間違いはない。
「それで、紫のことを知る理由はあるの?」
「元の世界へと戻る為、それ以外にはない」
「成程ねぇ……でも残念、私も紫の住む場所は知らないのよ」
幽々子の言う通り、八雲 紫という妖怪は謎が多い。
住む屋敷もその謎の一つ、私ですら見たことがないもの。
「それに、一日の大半は寝ているみたいだから会うことも
「随分と呑気な……邪魔してすまない」
部屋を後にしようとする所を呼び止める。
自分だけ聞きたいこと聞いて終わりなんて不公平だし。
「あんた、恭哉が何処に居るか知ってる? あいつに用事があるんだけど」
「今は寺子屋の筈だが。 用が済めば
「レミリアの所か……ありがと」
そういえば昨日フランと一緒に居たし、紅魔館に身を寄せていることも
それにしても寺子屋か……何でまた。
ってもう居ないし。
音も残さないまま消えるなんて、変な奴。
「か、変わった人ですね……」
「私たちの中でも相当な変わり者なので……幽々子さんもすみません、急に押しかけたみたいで」
「大丈夫よー。 鈴花ちゃんにも言っておくけど、紫には気を付けてね」
その顔で言っても説得力ないわよ……。
普段から笑顔というか真意が読めないというか……。
一癖も二癖もあるのよ、この亡霊は。
「彼も話していたけど、鈴花ちゃんは帰りたいって思うの?」
「家族も居ますから帰りたいですけど……今はその時ではないと思うんです。 この世界から受けた恩義、何も返さずに帰ってしまうのは罰が当たりそうですから」
「お人好しって言われたりしない? 相手は見ず知らずの化け物だし、命を落とすことだってあるわよ?」
「私……いえ、私たちは能力を手にした時から、死とは隣り合わせで生きてきました。 ――今更、怖がる必要なんてないんです」
他の仲間も、皆口を揃えて同じことを言うと思います、と言葉を続ける鈴花ちゃん。
力強く、
私を少し見上げるぐらいだろうか。
とても眩しく思える。
憧れの眼差しや、
本心から現れる強い意志。
その言葉に、嘘偽りは一つもないように見えた。
「鈴花さん!! 私も共に歩みます、そして互いに
「妖夢さん……!!」
「あらあら、本当に仲良しねぇ」
「用も済んだし、私は帰るわね」
不思議そうに見つめてくる妖夢。
いやいや、あんたさっきまで一緒に居たでしょ。
冥界の主が、逃げ出した霊魂のことを知らない以上、ここに留まる理由はない。
ここで花見宴会って気分でもないし。
「霊夢さん、もし恭哉に会う事があれば、私は無事だと伝えて下さい」
「あいつには用事があるからね、伝えとくわ。 それじゃ」
「送って行くよ」
後ろから妖夢がついてくる。
断りを入れようかと思ったのだが、何かを目で訴えてる様子。
その真意も気になるし、途中まで共に歩くことに。
互いに無言のまま、屋敷を後にする。
「――
沈黙を破ったのは妖夢のこの一言。
気を付けるって……何を?
妖夢が言うには、恭哉と異変との間に何か関係があるらしい。
そもそも異変って言っても、何も起きてない……訳ないか。
今までの妖怪退治においても、あんな妖怪は見たことがない。
「誰から聞いたのよ異変のこと。 私だって、まだ確証なんかないんだけど」
「確か紫様が話していたような……そうだ、鈴仙さんも何か知っているかも」
「また紫か……これ以上目的地を増やされても困るんだけど」
「鈴花さんのことは裏切れないし、私もあまり強く出られなくて……とにかく、何かあるかもしれないから注意してとだけ伝えとくよ」
「ご忠告どうも。 あんたこそ、これまで以上に冥界の管理をきっちりするようにって幽々子に伝えといて」
慌てふためく妖夢を後目に、冥界を後にする。
さて、どうしようかしら……。
新たに永遠亭にまで出向く羽目になりそう。
異変のことは気になるが、私が留守の間に神社に来ていたとしたら……。
まぁそっちは上手くやってくれるか。
あいつ人付き合い上手だろうし。
先に袖を直しちゃいますか。
薄暗く湿気の多い場所である魔法の森。
その入口付近にある道具屋、
まだ陽は落ちていないし……流石に居るでしょ。
「霖之助さーん、居るー?」
扉を開け中に入る。
うわー相変わらず色んな物が沢山……。
「ん、霊夢か。 どうかしたかい?」
店の奥から出てきた人物。
幼い頃から馴染みがあり、何かと世話を焼いてもらっていた人物でもある。
衣服の
「変な妖怪と戦って、袖がボロボロになっちゃって。 直してくれる?」
「珍しいね霊夢が被弾するなんて。 ――って、服まで汚れてるじゃないか」
「あー……本当だいつの間に。 じゃあついでにお願い」
「分かった分かった、だから僕が居る場所で脱ごうとしないでくれ。 代わりの衣服を持ってくるから、少し待ってて」
別に気にしないのに。
着てるもの着ているし。
代わりの衣服となると……あーあの服か。
大きさが合わないし、動きづらいったらありゃしないのよねあれ。
昔一度だけ着たけれど、もう懲り懲り。
それにしても、一体何処で汚れてしまったのやら……。
あの妖怪、何処かで騒ぎでも起こしたりしていないといいけど。
二人がかりでも、対等に渡り合っていた。
今までの妖怪とは少し違っている気もする。
これは明日には本腰を入れて異変解決かー……。
「お待たせ、これを着るといいよ。 終わったら僕に渡してくれ」
あーやっぱり霖之助さんの服よね。
直してもらうし仕方ないか……。
汚れた巫女服を脱ぎ、受け取った衣服に袖を通す。
サイズは合わないけど、以前来た時よりかはマシかも。
これでよしっと……。
衣服を直してもらう間、店内に並べられた骨董品たちに目を通す。
ある人物のお陰で、以前よりも外の世界の物が手に入りやすくなったって聞いたけど……。
どれもこれも私にはよく分からない物で溢れている。
幻想郷にやって来ては、よく見せびらかしに来たり……最近見ないけど。
――ん?
これって……指輪?
鮮やかながらも、どこか艶めしく光る小さな宝石をあしらった一つの指輪。
ずっと見ていたら……何かに
それでも手に取り、様々な角度から目を通す。
うーん、私の指には少し大きいかも。
こんな装飾品に興味もないしいらないけど。
誰も言い寄って来たりしないでしょうし。
――寂しくないわよ別に。
他にはー……あっ、分厚い本?
何度か
文字も絵も何も無い。
もしかすると、売上を記録する物だったりして。
それなら白紙なのも頷ける……って失礼か。
題名すら書いていないのも、少し不気味だけどね……。
魔理沙辺りなら喜んで飛び付きそうだけど。
「はい、仕上がったよ。 何か気になるものでもあったかい?」
十分程度だっただろうか。
店内を見回している内に、衣服の修繕が終わったらしい。
……というより、以前預けていたものと差し替えただけなんだけど。
一日これを着て過ごせというのも難しい話で。
「ありがと。 そういえば霖之助さん、その本って何?」
「これか、それが僕にも分からないんだよ。 そこに置いてある指輪と一緒でね」
霖之助さんでも分からない……?
用途はもちろん、名前すら分からないという。
気が付いた時には、既にこの店に置かれていた……というのが、霖之助さんの証言。
事の経緯は良しとして、問題なのは霖之助さんですら「分からない」ということ。
それが霖之助さんの持つ固有の能力であり、今まで私や魔理沙が分からない物は全て教えて貰った。
しかし、これらの道具はそれが通用しない。
……妙に頭に引っ掛かるのだ。
「誰かの悪戯だとしても、僕にはこれらの道具が何なのか分かる筈だからね」
「外の世界の物でも分かるんだし、おかしな話しね。 道具を作ったりする過程で、何か分かったりしないの?」
「別の物に錬成するのかい? 残念だが、一つは書物だしもう一つは小さな貴金属だ。 特殊な加工法を用いたとしても、難しいだろう」
「……気になる。 私でも少し調べてみるわ、異変と関係あると色々と楽だし」
「異変か……。 そういえばさっき、変な妖怪と言っていたが……?」
百々目鬼と、炎の鬼の話を伝える。
それと、外の世界からの迷い人の話も。
滅多に魔法の森から出ないから知らないでしょうし。
鈴花ちゃんたちに関しては、私からも伝えられることは少ないけどね。
まだ二人しか知らないし。
……あいつ、本当に何処に居るんだか。
小屋の掃除に追加で、今晩の食事の支度と
後買い出しも。
「類を見ない妖怪か……言葉も理解出来ないとなると、この世界に住む妖怪とは考えにくいね」
「外の世界に妖怪なんて居るとは思えないし、今まで何処かに隠れていたんじゃないの?」
「いや、それは考えにくい。 仮にその妖怪たちが人妖問わず襲うとすれば、彼女が黙っていないだろうしね」
「あー言われてみればそうかも。 そんなのとっくに紫が片付けているでしょうね」
「そういうこと。 しかし、こう考えることも出来る」
霖之助さんの持論によれば、単刀直入に言うと外の世界からやってきた特異な人間と、類を見ない妖怪に何らかの関わりがあるのではないか……というもの。
実際に外の世界から幻想郷に移り住んだ者も少なからず居るのだが、何らかの影響を異変という形でこの世界に
信仰を集める為、うちの神社を乗っ取ろうとした巫女。
得体の知れないオカルトボールや根も葉もない噂。
どちらとも外の世界からこの世界にやって来た後に、異変を起こしている。
その説を当てはめるのなら、何ら偽りはないだろう。
複数人居るのが問題なんだけど。
鈴花ちゃんに恭哉。
二人とも変わった能力をその身に宿している。
後者に至ってはまだ見てはいないが、おそらく近いものは持っているに違いない。
魔理沙の弾幕を生身で避け、受け止めようと素手で対抗。
おまけに魔理沙の目を点にする程の
……とてもじゃないが、ただの人間だとは思えない。
空を飛ぶことすら普通だと言っていたしね。
「僕はまだ見ていないが、霊夢はどうだい?」
「既に会ったわよ。 でも、まだ異変が起きているとは、どうにも思えないのよねぇ」
「情報がなさすぎるからだろうね。 僕も同意見だよ」
人間か……。
これまでは妖怪も絡んでいたけれど、主犯格が全員人間となると……どうも気乗りしないわね。
「霊夢も気を付けた方がいい。 その炎の鬼の前例もあるんだ、無理はしない様にね」
「大丈夫よ、何とかなると思うし。 その言葉、魔理沙にでも言ってあげれば?」
「ふっ、そうかもしれないね。 何かあったら、また来てくれ。 僕の方でも、色々と調べてみるよ」
「その時は頼らせて貰うわ。 それじゃ」
店を後にし、帰路に就く。
はぁ……今日は色々と頭を使う一日だったわ……。
外出ばかりで掃除も終わっていないし……あぁーもう!!
どこほっつき歩いてんのよあいつ!!
ったくもう……。
そういえば……私にしては気にしすぎているかも。
掃除ぐらい、神社に住み着いている狛犬なり妖精なりにさせればいいのに。
あの瞳の奥は、何を見つめているのか。
……少しだけ気に掛けている自分がいる。
私らしくもない。
誰と一緒に居ても、自分の中では一人。
上も下も、仲の好き嫌いもない。
全てに等しく、興味が薄いと言える。
そんな私でも……あいつには惹かれる所があるのは事実。
あーもう訳分かんないわ……。
頭の中で渦巻く様々な想い。
どれを手に取ったって、何も変わらないし分からない。
普段通り、時に身を任せていれば何かが変わる?
そんな確証もないけど、今の自分にはそれしかない。
山を通り過ぎた頃、辺りを包む夕焼けの色。
もうこんな時間だったの?
とっとと帰って、明日からまた何かを探せばいい。
きっと……普段の博麗 霊夢ならそうする。
――あっ、萃香たちに肴買ってあげるって言ってたっけ。
適当に何か持っていって上げましょうか。
まだ神社に居るか分からないけどね。
一度航路を変え、人里へと降り立つ。
日が沈みかけるこの場所は、普段とはガラリと変わる。
日中、素の姿で出歩けない妖怪たちは、夜にこの場所へと訪れる。
妖怪の為に開いているお店もあるしね。
今は特に依頼がある訳じゃないし、買い物だけ済ませちゃいましょ。
まだ明るいこの場所で、ほんの少しの安らぎを過ごすことにした。