東方幻奇譚 ~the Eighth Fantasy.   作:TripMoon

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登場人物紹介


射命丸(しゃめいまる) (あや)
幻想郷をまたに翔けるジャーナリスト。
この世界での様々な出来事を記事とし、自らの新聞「文々。新聞(ぶんぶんまるしんぶん)」を発刊し、日々各地を飛び回っている。
恭哉たちの来訪を真っ先に知り、強行的に取材に当たっている模様。
鴉天狗(からすてんぐ)であり、自分よりも立場の弱い相手には強気に出、記事の為ならば手段は選ばず、恭哉たち相手にも非協力的な一面も見せる。


フランドール・スカーレット
湖の畔に立つ館で暮らす、小さな少女。
とある理由で館の外に出られず、長い間部屋に閉じ篭っていた。
たまたま廊下を歩いていた所恭哉を発見し、館の外への脱出に成功し、恭哉と行動を共にすることに。
何をするにしても「遊び」にしか捉えておらず、度々周りの物や者が塵も残さぬまま消えてしまうことも……。
自分の能力を見てもあまり驚きを見せなかった恭哉に対して、「いいおもちゃ」と称し気に入ってる様だ。


第3話 天真爛漫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっ、あんた!?」

人間の里らしき場所に入って、早速声を掛けられた。

この声、どっかで聞いたことあるような……?

「えっと、確か……霊夢(れいむ)、だっけ?」

「あ、霊夢だ」

どうやら、フランも知っているらしい。

魔理沙(まりさ)のことも知っていたみたいだし、何となく分かる気がする。

「いいからこっち!」

何故か霊夢に呼ばれ、一度この場から離れることに。

もちろん、心当たりなんてないぞ?

「色々聞きたいことはあるけど、まず一つ目ね。 魔理沙と一緒じゃなかったの?」

「途中までは一緒だったんだけど、はぐれちまった」

霊夢に魔理沙とはぐれた理由を話した。

それを聞いた霊夢は、ため息混じりにこう返した。

「あー……。 あんたも災難ねぇ」

「運が悪いのは何となく察してる」

「で、次よ次。 あんた、よくフランと一緒に居られるわね……」

「これにも深い訳があるんだよ」

「恭哉と遊ぶだけだよ? お姉様も相手してくれないし」

次に、フランと会った経緯を話す。

意外なことなのか、驚きを隠せないでいるようだ。

あの能力を除けば、年相応の女の子にしか見えないんだけどなぁ。

「まぁ、その様子じゃ死にはしないだろうけど。 それと、あの場所は人間以外が無闇(むやみ)に立ち寄る場所じゃないのよ」

「そうだったのか……。 なぁ、フランと遊ばなきゃ行けないんだけど、遊園地とかないのか?」

「何それ、聞いたことないわよそんな場所」

「えっ? だって遊園地だぞ、遊園地。 ジェットコースターとか観覧車とかあるやつ」

「ジェット、何? とにかく、幻想郷にそんなのないから諦めなさい」

何だと……。

遊園地がないなんて、本当なのか?

遊ぶ場所の定番中の定番なのに……。

いや、俺が行きたい訳じゃなくて、フランぐらいの子を遊ばせるなら、遊園地程ぴったりな場所はないと思っている。

とんでもない異世界に来ちゃったなこれは……。

「じゃあ、水族館は?」

「何それ、聞いたことないわよそんな場所」

「同じ言葉で返してくんな! 魚とか海の生き物が展示されてる場所なんだけど……」

「ねぇねぇ、海ってなーに?」

えっ?

フラン、今なんと?

海ってなーに、だって?

って、本気で言ってるのか!?

「海なんてないわよ」

嘘だろ……?

海もないのか……!?

別に、俺が行きたい訳じゃなくて、フランぐらいの子でも楽しめる娯楽施設以外の場所といえば、まず海だろう。

それもないとなると……。

「ど、どこで遊べばいいんだ……」

「気楽なもんねぇ。 外の世界から来たのに、随分呑気よね」

「外の世界は知ってるよ? なんか、変な世界なんでしょ?」

「俺からしたら、こっちの方が変な世界だけどな」

それにしても困った。

遊園地もなければ、海もない。

普段何をして遊んでいるのだろうか。

スマホも知らなかったし、おそらくゲームアプリの様な代物もないはずだ。

となると……鬼ごっこや隠れんぼになるのか?

フランはともかく、霊夢も見た目は年下っぽいし。

科学技術的には、こっちの世界はかなり劣っているのかもしれないな。

暇つぶしの手法は、一体何なのだろう?

「それと一番気になってたのは……よくおぶってられるわね」

「あぁ、これか。 これも成り行きで」

「恭哉の背中すっごく落ち着くの!」

「まぁ、お似合いなんじゃない? とりあえず、そのままの格好で不用意に人里には近付かないこと、いい?」

「変装しないとダメなのか?」

「あんたはまだ大丈夫だけど、フランがね」

人間っぽい格好をしていなければ、人間の里には入れないってことなのか。

フランも羽と能力さえなければ、普通の女の子なんだけどなぁ。

人間の里での明確な決まりなどがあるのかどうか、霊夢に聞いてみる。

霊夢(いわ)く、白昼堂々と妖怪と分かる格好で出歩くことは推奨されていないらしい。

被り物をしたり、羽を隠したりと、何かしらの変装を(ほどこ)すようだ。

フランの羽が隠せるのなら、それで大丈夫かもしれないな。

フランにそれを聞いてみると、すんなり羽を仕舞うことが出来た。

吸血鬼というものは、常に羽が出ているものかと思っていたが、案外そうではないらしい。

「うん、その状態なら大丈夫そうね。 あんたはレミリアと違って、顔が知られてないから気付かないだろうし」

「はぁーい! ほら、早く行こ?」

いつの間にか背中から降りていたフランに腕を引かれ、足早に人間の里へと入っていく。

歩を進め始めてからすぐに、ある異変が起きた。

 

 

 

 

 

低い音が鳴り響く。

音の鳴っている場所は、俺にはすぐに分かる。

「ん、お腹空いてるの?」

何気なく聞いてくるフラン。

そう、恥ずかしながらお腹の鳴る音だ。

思えば何も食べてなかった気がする……。

あまりお腹の空く方じゃないんだけどなぁ。

「霊夢ー、ここって食べ物もあるの?」

「団子屋とか蕎麦屋とかがあるわね。 あーあとカフェとか居酒屋か」

「えらく充実してるんだな」

「物好きが居るのよ。 で、あんたどうせ一文無(いちもんな)しでしょ?」

今まで気にしていなかったこと。

この世界にも、当然金銭は存在するらしい。

流石に貨幣(かへい)は違うよなぁ……。

財布はあるとはいえ、この世界じゃ役に立たないだろう。

元々、手持ちなんて少ないしな。

学生身分のお財布事情なんて、語るまでもないだろうし。

「はぁ……。 妖怪退治の依頼で、いつもより多く貰ったから、今回だけ私が出してあげるわ」

「霊夢すごーい。 普段そんなこと絶対しないのに」

「うっさいわね、誰にそんなこと聞いたのよ、全く……。 その代わり、一つ条件があるわ」

「条件ってのは?」

「明日、また神社まで来なさい。 その時に話すから」

神社っていうと博麗神社のことか。

魔理沙の箒に乗せてもらっていた為、詳しい道は覚えてないが……何とかなるだろう。

「私甘いものが食べたいなー。 お姉様が言ってたんだけど、お団子っていうのが美味しいんだって!」

「あー団子か。 こっちの世界でも同じものだといいけど」

「そんなのでいいの? って、フランあんたまでか」

「恭哉の分も食べてあげるから平気平気」

「良くない! ……まぁ、一人だけお預けってのも癪だし、今回だけよ」

「わぁーい! ほら、行こ行こ!」

まさか、年下っぽい子に(おご)ってもらうことになるとは……。

腹が減っては何とやら、って言葉もあるしここは素直に欲に従おう。

その分、明日の条件とやらを真面目に取り組めばいい。

今日明日で元の世界に帰れる程、甘くはないだろうしな。

フランの提案通り、俺たちは団子屋を目指すことになった。

歩いている道中、軽く辺りを見回してみる。

――何度見ても、元居た世界とは違っているみたいだ。

まず目に入るのは、街行く人々の服装。

男女関係なく、浴衣(ゆかた)のような衣服を来ている。

現代とは少しかけ離れている……といった感じだ。

例えるなら、江戸時代の城下町というのが正しいのかもしれない。

人々の服装のこともあってか、建ち並ぶ建物もどこかレトロチックだ。

京都(きょうと)」の街並みと、どこか少し似ている。

外観も気になるのだが……。

「なぁ、すごく見られてる感じがするんだけど、そんなに変な存在か俺たち」

「あんたは特にね。 博麗(はくれい)巫女(みこ)と何食わぬ顔で歩ける奴なんて限られてるし、あんた自体が特に浮いてるわ」

「同じ人間なんだけどなぁ」

「ねぇねぇ、ここにはおもちゃはないの?」

「危ないから止めなさい。 死人が出るぞ」

「えー。 じゃあ、その分恭哉が遊んでね?」

その遊ぶ場所がないんだよなぁ……。

まぁ、今のところご機嫌みたいだし良しとしよう。

「随分と気に入られてるわねぇ」

「俺もよく分からん」

ここまで懐かれている理由は、本当によく分かっていない。

実の妹もこんな感じでべったりだったのだが……こういう、俗に言う妹系とは相性が良いのかもしれない。

喧嘩っ早い俺のどこがいいんだか。

「っとここね。 最近出来たばかりのとこなんだけど、評判いいらしくてね」

話している内に、目的の場所に着いたようだ。

外見は……先程言った通り、どこか古風だ。

学校の教科書の内容など一つも覚えてはいないが、この店の写真を載せても違和感なく馴染むことだろう。

「とっとと入るわよー」

 

 

 

 

 

店の中に入ると、内装もやはり一昔前の雰囲気が(ただよ)っている。

木材で作られたテーブルと椅子。

垂れ下がっている長い暖簾(のれん)

元々居た世界では、あまり見ない光景だ。

これは想像なのだが、酒類を扱う様な店はこんな感じなのかもな。

未成年だし、まだ飲めないけど。

まぁ、フランにも霊夢にもまだまだ飲酒は程遠いことなんだろうけどさ?

空いた席に分かれて座り、テーブルに置かれたメニュー表に目を通す。

字は……良かった、読める。

文字と文字が繋がった書体で書かれているのかと思っていたのだが、案外普通だった。

その辺の配慮はあるようだ。

――なんて言うんだっけ、あの書体。

草、草なんとか……?

「ねぇねぇ、この『三色団子』ってなに?」

「そのまんまだよ。 確か赤、白、緑の三色の団子だったっけ?」

「赤ってよりかは桃色じゃない?」

「こっちの『みたらし団子』は?」

「そっちは甘い(あん)が掛かってる団子だな、って本当に知らないんだな」

三色団子はともかく、みたらし団子も知らないとは……。

フランが、普段何を食べているのか気になる。

でも、吸血鬼って食事自体するのか……?

「どうしたの? そんなにじーっと見て」

「いや、フランが普段何を食べてるのかって思ってさ」

「うーん咲夜が持ってきたものだからなぁ。 人間は最近食べてないかも」

「あー人間な……って、はぁ!? に、人間食べるのか!?」

「馬鹿! 声が大きいわよ」

はっ、つい大声が。

霊夢に抑止され、辺りを軽く見回した後、軽くため息をつく。

「あんたも、あまりこういうとこで、素は出さない事ね」

「はぁーい。 あ、恭哉はまだ食べないから安心してね!」

「物騒なこと言うな!」

「あんたたちねぇ。 とにかくさっさと頼むもん頼みなさい」

やけに達観してるな霊夢は。

まぁ、ここに住んでりゃこうなるってことか。

――飽きないだろうなぁ、この世界。

っと、注文注文。

とりあえずフランが気にしていた三色団子と、みたらし団子を頼むことに。

霊夢の(ふところ)にも悪いだろうから、程々に。

「恭哉はお団子食べたことあるの?」

「まぁ一応はな。 こっちの世界と同じかは分からないけど」

「あんたの世界にもお団子はあるのねぇ」

魔法使(まほうつか)いと吸血鬼(きゅうけつき)と、空飛ぶ新聞記者が居ること以外は、ここと変わらないよ」

一部ズレている部分はあるものの、基本の世界構造はあまり変わらないようだ。

何故十分に能力を発揮出来ないのかは、未だに分からないが……。

「ふーん……って、恭哉はこの世界に住んでないの?」

「そういえば言ってなかったっけ。 幻想郷の生まれじゃないんだ」

「どこから来たのよ」

日本(にほん)って国の東京って都市だよ。 高い建物が多くて、うるさい所」

俺の発言に、二人揃って小首を(かし)げている。

この様子だと、知らないようだ。

でも日本語は通じている訳だし、幻想郷は一体どこに分布(ぶんぷ)されているのやら。

「魔理沙と戦った時は、どうだったの? 私には軽々避けているようにも見えたけど」

「軽々なもんか。 身体が重いって訳じゃないけど、とにかくいつもより動きにくかったよ。 弾幕(だんまく)ってのが身体に当たった時は、かなり痛かったし」

「ふーん。 私のも避けたもんね?」

「あれは避けたっていうより、ズレただけなんじゃないのか?」

「よくもまぁ生きてるわ……」

霊夢がため息混じりにそう呟く。

姿形が人間な為、ここの住人からすれば驚くのも無理はないだろう。

厳密に言えば、人間じゃないんだけどなぁ。

まぁ、今その話は割愛(かつあい)しておこう。

折角の甘味の甘さも飛ぶというものだ。

「あ、見て見て! あれがお団子?」

フランに腕を掴まれ、指さす方を向いてみる。

皿に盛られた団子たちが、こちらへと近付いてきた。

店員らしき人に運ばれた団子たち。

見た目は……俺のよく知る団子そのものだった。

料理は見た目からというし、不味(まず)い訳ではないだろう。

ただ、人間を食らう種族が居るぐらいだし……口にしてみなければ、分からないか。

「おぉー。 こっちがみたらし?」

「そうそう。 色が違う方が三色な」

「本当に知らないのね。 レミリアに教えるよう言っておくわ」

「うん! いっただきまーす!」

みたらし団子の串を一つ手に取り、口に運ぶフラン。

無邪気に笑ったままの表情は変わらず、甘さの余韻(よいん)(ひた)っているようだ。

口にせずとも、美味しいかったのだとすぐに分かる。

本当、とてもじゃないが吸血鬼には見えないんだよな。

フランとは対照に、三色団子の方を手に取ってみる。

やはり、見た目はごく普通の団子だ。

恐る恐る口に運んでみる。

……が、そんな心配は要らなかったようだ。

少し歯ごたえのある団子特有のもちっとした食感に、ほんのり感じられる甘さ。

うん、普通に美味しい。

甘味処の老舗(しにせ)の味といっとも、差し支えないだろう。

まぁ、食べたことないけど。

霊夢の方を見てみると、フランと同じくみたらし団子を食べていた。

表情もフラン同様に、頬が綻んでいる。

他人行儀(たにんぎょうぎ)に興味のなさそうな素振りをしていたが、こんな表情(かお)もするんだな。

年相応の女の子の顔っていうのかな。

こちらの視線に気付いたのか、少し目を見開いていた。

すぐに頬を少し赤く染め、そっぽを向かれてしまった。

あまり見せたくないものでも、見せてしまったのだろうか?

何はともあれ、こちらの世界でも食事はまともなようだ。

ようやく安心することが出来、食事に(いそ)しもうとした時。

「あら、霊夢じゃない。 こんな所に居るなんて珍しい」

 

 

 

 

 

「げっ、華扇(かせん)……」

「何よ、物の怪(もののけ)が出たみたいに言わないで頂戴? って、どうしたの男の子なんか連れて! まさかあの霊夢が男の子を(たぶら)かせるなんて……」

「誰がそんなことするもんですか!! 色々あんのよったく……」

どうやら霊夢の知り合いらしい。

背は霊夢や魔理沙より高く、どこか大人びている雰囲気がある。

鮮やかな赤い服の前掛けに、深緑(しんりょく)のスカート。

胸元にある、花の飾りが印象的だ。

後頭に着けている二つの団子のような髪飾り?

あれなんて言うんだ?

……肉まん?

似合いそうではあるけど。

「あぁ、ごめんなさい。 偶然見かけたものだからつい、ね」

「いや、俺たちは気にしてないから大丈夫だよ」

「ありがとう、折角だしご一緒してもいいかしら?」

今までの人物にない程の柔和(にゅうわ)な雰囲気。

もしかしたら、この世界のことを聞き出せるかもしれない。

あわよくば、帰り方とか。

有力な情報がなくとも、人柄が良い人物を邪険に扱う理由もないし。

二つ返事で了承し、華扇という人物は俺の向かい側に座った。

「自己紹介がまだだったわね。 私は茨木(いばらき) 華扇(かせん)茨歌仙(いばらかせん)だったり華扇って呼ばれてるの。 えっと、人里の子?」

「よろしく。 俺は海藤 恭哉。 人里というかこの世界の生まれじゃないんだ」

俺の返答に、華扇は目を見開いて驚いていた。

なんか、こんなリアクションされるのは初めてかもしれない。

霊夢と魔理沙は落ち着いていたし、(あや)は既に知っていた。

フランは、驚きというより好奇心を全面に押し出していた。

華扇のようなリアクションが、一番正しいのかもしれないな。

「へぇ外の世界の子かぁ。 ねぇ、外の世界ってどんな場所なの?」

「どんな場所っていっても、こことあまり変わんないぞ? ここまで、自然豊かな場所には住んでなかったけど。 後、人間しか居ないかな」

「妖怪も居ないの? 楽そうな世界ねぇ」

「ねぇねぇ、吸血鬼は?」

「それも居ないよ。 どっちも空想上の生き物にされてるからな。 似たような奴らなら居るんだけど」

「ちょっと待って!? 吸血鬼って……そっちの小さい子?」

「こいつはレミリアの妹よ。 どういう訳か外にいるのよね」

霊夢の補足の説明に、納得した様子の華扇。

フランと遊び終わった後、レミリアという人物には会っておいた方が良さそうだな。

不本意とは言え、勝手に連れ出してしまった訳だし。

「そういえば気になっていたんだけど、恭哉君は人間……でいいのよね?」

「うーん人間、だと思いたいな」

「どういうこと? 少し(くせ)があるぐらいで、後は普通の人間じゃない」

「なんて言えばいいのかな、人間以外の血が流れてるって言うか……そんな感じ」

その言葉に、霊夢も華扇も首を傾げる。

この世界であっても、その種族以外の血が流れているということは、あまりピンと来ないらしい。

だがそう思ったのも、ほんの一握りの時間だけで。

半人半妖(はんじんはんよう)と似たようなものかしら。 それだと、霖之助(りんのすけ)さんと同じね」

「あぁ、あの道具屋さんの」

どうやら、この世界に「魔法(まほう)(もり)」と呼ばれる場所があるらしく、そこの一角にある道具屋、香霖堂(こうりんどう)

そこの店主である「森近(もりちか) 霖之助(りんのすけ)」と呼ばれる人物が、先程霊夢が言っていた半人半妖という種族に当たるらしい。

半人半妖というのはその名の通り、人間と妖怪のハーフ。

妙に親近感を覚える。

名前からして男だし。

因みに箒に乗せてくれた人物、霧雨 魔理沙の家もそこにあるらしい。

「この世界じゃ、あんたぐらい異端でも何でもないわよ。 もっとぶっ飛んでる奴なんて、いくらでもいるもの」

「そいつは良かった」

「恭哉君の世界って、どんな所なの?」

「うーん、地球っていう惑星の日本って国で、そこの都市の東京って街だよ」

先程霊夢にも話した時と同じ反応を、華扇が返してくる。

まぁ、そうなるよなぁ……。

そういえば、よく「外の世界」との言葉を耳にするが、地球とはまた違う世界のことを指すのだろうか?

そのことを霊夢に尋ねてみると、どうやら違うらしい。

幻想郷以外の世界全てが「外の世界」に分類される様で、霊夢自身も全てを把握している訳ではないらしい。

これはしばらくは帰れそうにないかもな……。

となると、この世界のことをある程度は調べておく必要も出てくる。

人柄で分かる通り、調べ事は苦手。

誰かに任せてしまいたい。

「ごちそーさま! もうないの?」

「あ、忘れてた。 全部食べたのか?」

「甘くて美味しいから食べちゃった」

「あんたねぇ……」

「私の分少し食べる?」

「いいの!?」

気が付けば先に持ってきた皿の上の団子が無くなっていた。

それと同時に、華扇の目の前に並ぶ和菓子の数々。

団子はもちろん、ぜんざいやあんみつも。

……流石に食べすぎでは?

「大食いなのよ」

「失礼な! これは動く上で必要なもので――」

「あーはいはい。 今更隠しても仕方ないし観念なさい」

「俺たちも気にしないよ。 有り得ないぐらい食べるやつなんて、たくさん見てきたし」

「そんなに有り得ないかしら……」

あぁー言っちゃダメなやつだったかこれは?

目に見えて、気分の沈む華扇の様子が分かった。

何とかフォローを入れ、気を取り直してもらった。

食べる姿が魅力だって思うよ、ぐらい言っておけば大丈夫だろ。

すぐに笑顔に戻り、フラン同様甘味の味に浸っていた。

その光景は、眩しくも思える程に、どこか微笑ましかった。

 

 

 

 

 

「っと、そろそろ俺たちは行くよ」

華扇から分けてもらった分を食べ終え、席を立つ。

物足りないかと思っていたが、意外にも胃袋は満たされていた。

普段そこまで食べる方ではない為、それもあるかも。

フランも変わらずご機嫌みたいだし、霊夢と華扇様々ってことで。

「ごちそーさま! また食べさせてね」

「レミリアなり咲夜(さくや)にでも(たか)りなさい」

「あら、霊夢が出してあげるの? 優しくなったわね」

「今回だけよ、次は倍以上奢らせてやるんだから」

「その一言がなければいい子なんだけどね」

「うっさい! あと、明日のこと忘れんじゃないわよ?」

「分かってるって、それじゃご馳走様でした。 ありがとな、二人とも」

二人に礼を言い、その場を後にする。

小一時間程は滞在していただろうか。

照り付ける程だった昼の日差しも、少し落ち着いて来ている。

「あ、傘持ってないや」

ふと、フランが呟く。

見た所、雨が降る様な天気ではないが……?

そのことをフランに尋ねてみる。

「私、日光苦手なの。 ここに来るまでは木陰で隠れてたから大丈夫だったんだけど……」

「そうだったのか。 つっても傘は買えないし……とりあえず、これで凌げるか?」

上着の中に来ていたパーカーを脱ぎ、フランに被せる。

背丈が違いすぎる為、当然オーバーサイズなのだが皮膚は隠せるだろうし、我慢してもらうしかない。

これで機嫌悪くされたら終わりだけどな……。

「変な匂いはしないと思うんだけど、嫌だったら言ってくれ」

「ううん、これでいい。 この服可愛いし!」

「そ、そうか? 何処にでもあるような、普通のパーカーだぞ?」

「パーカーっていうんだ。 私に合うサイズもあるのかな?」

「探せばあるんじゃないか?」

パーカーを(まと)ったフランは、どこかお化けみたいだ。

本物のお化けって訳ではなく、布団やシーツを被った小さい子供がよくやるあれ。

(そで)から手は出てこないし、(すそ)の部分はスカートの丈よりも少し下まで伸びている。

フードも帽子と重なって、目や鼻、口が覗き込めば分かる程度だ。

――ってこれ、(はた)から見たら幼女誘拐犯(ロリコン)っぽくないか……?

いや、そういう趣味はないから!!

って、誰に言ってんだか……。

「どう、似合う?」

「似合う似合う。 着たことないのか?」

「うん。 今までお外なんて出ることなかったし寝る服と、この服しかなかったもん」

そこまでされて、良く平然としていられるな……。

俺なら耐えられないし、壁をぶち破ってでも外に出てる。

というか家出だ。

勘当(かんどう)されようが、別に構わない。

「辛くなかったのか?」

「ずっと地下に閉じこもってたから、辛くなかったよ? 食べ物は手に入るし、私自身が望んでお部屋に居たから。 でも霊夢や魔理沙と会ってからは、お外にも興味が湧いたの」

「それなら、二人に連れ出してもらうのでも良かったんじゃないのか?」

「うーん、それだとお姉様や咲夜に見つかっちゃうの。 だから、恭哉みたいにまだ知らない人で、壊れにくい人の方が都合が良いのよ」

「この世界じゃ、俺だってただの人間と変わらないよ。 いつ死んでもおかしくないし」

「怖くないの?」

「怖くないよ、フランのことも、この世界のことも。 ほら、話は後にしてどっか遊べる場所を探そうぜ」

明るく返事をし、再び背中に飛び乗ってくるフラン。

余程気に入ったのか、さっきよりも力強く抱き着いて来る。

少しくすぐったいぐらいだ。

「恭哉は何して遊んでたの?」

「俺か? どうだったかなぁ、子供の頃に親が死んで、遊ぶというより人探しをずっとしてたんだ。 中学からはそこら中の奴と喧嘩ばっかしてた」

「喧嘩? 弾幕ごっこみたいなの?」

「まぁ、それよりもっと優しいかな、死ぬ訳じゃないし」

「じゃあ、恭哉はすっごく強かったのね? 私を見ても怖がらなかったもの!」

「向こうの世界じゃ、強かったんじゃないかな。 仲間の誰にも負けるつもりも、負けてると思ったこともないし」

「恭哉の仲間も、私と遊んでくれるかなぁ?」

「程々にしてやれよ? 俺だって死ぬかと思ったんだから」

フランの能力には、正直まだ驚きを隠せてはいない。

今だから思えることだが、あれは爆発というよりかは、何かを対象にして「破壊」しているものだと思う。

力でねじ伏せるということでも、重力や内部の爆発などの()への干渉によるものでもなくて。

……なんて言えばいいのだろうか。

もっとこう、根本的に違う何かで破壊している。

確か、初めて能力を目にした時手を握り締めていた様な……?

あの動作が、フランの能力と関係しているのかもしれない。

「恭哉ー、聞いてる?」

耳元で名前を呼ばれ、少し驚いてしまう。

何度か声を掛けていてくれたみたいだ。

考え事をしていると、咄嗟(とっさ)に反応出来ないのは、悪い癖だな。

「ごめんごめん。 で、何だっけ?」

「どこで遊ぶのって聞いたの。 呼んでも全然反応してくれないから、きゅっとしてドカーンってする所だったよ?」

「きゅ、きゅっとしてドカーン……?」

「うん。 私の能力」

あーあの破壊することか。

危ない危ない、あんなのすぐ近くでやられちゃ一溜りもない。

一瞬で血も残らない程度まで、バラバラにされてしまう。

「うーん海もなければ遊園地もないしなぁ……とりあえず、人里を出てから考えるか」

横目で見ればむすっとしていたフランの表情も、すぐに笑顔へと戻っていた。

いつまでも歩き続けては行けないだろうし、どこか良い場所を探さないと。

俺も万全の状態ならなぁ……。

弾幕ごっこでも軽い殺し合いぐらいなら、付き合えるのに。

もちろん、手出ししたくはないが。

 

 

 

 

 

「っと、この辺まで来たら大丈夫かな」

人里を後にし、しばらく歩き続けた俺たち。

振り返っても高い木々が連なっているだけで、そこに人影は微塵も残されてはいなかった。

正直、いつでも迷える状態。

「もう羽を出しても大丈夫だぞ?」

「分かった! あ、恭哉の服破けちゃった」

そういえばパーカーを渡していたまんまだっけ。

すっかり忘れていた。

「それやるよ。 大切な物って訳じゃないし」

「いいの!? ありがとう!!」

「どういたしまして、もう夕焼けも出てきてる頃だし、日光も大丈夫そうじゃないか?」

「もう少し暗くなったら大丈夫かも。 この頭に被ってるのって取ってもいいの?」

もちろん大丈夫だ、と伝えた。

首を大きく振って、フードを脱ぐフラン。

あくまでもお洒落の一環で使うものだぞ、と補足で教えておいた。

お洒落という言葉には、はてなマークが浮かぶような表情で返してきたのでその説明も。

他愛もない会話を続けてはいたものの、フランのことについては触れてなかったな……。

この世界の情報を収集することは出来ないが、フランのことを知っておくのも無駄ではないだろう。

色々と気になる点もある訳だし。

「疲れない?」

「大丈夫だよ、妹で慣れてるし」

「恭哉にも妹が居るんだよね、私とどっちが大人っぽい?」

正直どちらも子供なんだけどな。

妹は海藤 杏佳。

最後に会ったのは、フランと同じぐらいの背丈の頃だから……五年程前になるのかな。

とにかく無邪気で、気が強くよく姉に叱られていた気がする。

弟には懐いていなかったものの、兄である俺にはよく懐いていた。

今こうしているみたいに、良くおぶっていたのも覚えている。

「そんなに悩むこと?」

「いや、どっちもどっちだと思ってさ。 でもまぁ、フランの方が落ち着いてはいるけど、まだまだ子供にしか見えないよ」

「えーっ。 恭哉の方がずっと年下なのに」

「そんな冗談はバレバレだぞー? 後十年は早く生まれてないと、その台詞は言えないな」

「だって五百年ぐらい部屋に閉じ籠ってたもん。 恭哉の方がずっとずーっと子供だよ」

「急に嘘ついても……って、はぁ!? ご、五百年!?」

五百年、本気なのか……?

フランの目も嘘をついている目には見えないし……何しろ、変わったこの世界のことだ。

数百年、数千年単位で生きている者が居ても不思議な話ではないのかもしれない。

それにしても五百年か。

もっと大人びててもいいと思うんだけどなぁ。

見た目は十歳にも満たない容姿だし。

何処かの戦闘民族は若い頃の容姿が、長い間続くともあるが……?

それとも精神と何とかの部屋にでも、閉じ込められていたのだろうか……?

いずれにせよ、フランからすれば俺が生きてきた年数など、取るに足らないはずだ。

「でも、恭哉みたいなお兄様が居たら、私ってどうなってたのかな」

「俺がフランの兄にはなれないだろ、人間なんて数十年したら死んじまうし、第一人間だしな」

「それは分かるけどー。 お姉様は外に出してくれないし、恭哉なら優しいから私と遊んだり外に連れてってくれたのかなーって思ったの」

「何かしら理由でもあるんじゃないのか? 血の繋がった妹に、理由もなしにそんなことするとは思えないぞ?」

「だって、お姉様はそんなの教えてくれないもん」

思っていたより、姉妹の仲は良くないのか?

部屋に閉じ篭っていたのなら、当然顔を合わす機会も少ない訳で。

――お節介かもしれないが、あの館に戻った時にでも聞いてみるか。

悪い癖なんだけどなぁ、こういうとこ。

「会話が出来そうなら、俺からも聞いてみるよ。 どうしてフランを外に出さないのかって」

「うーん、お姉様が相手してくれるかなー?」

「そんなに人間と相性悪いのか? フランは普通なのに」

「いや、あいつワガママなの。 私の方がずーっと、大人だよ?」

うーん、やっぱり仲は良くないのか?

だが霊夢も、俺とフランが普通に接していることには驚いていたし、もしかすると異端なのはこっちなのかもしれないな。

フラン本人でなくても、館の人間から聞いてみるのもいいのかも。

果たして人間が居るかは、別として……。

 

 

 

 

 

「あれ、もう夜になったの?」

周囲を歩きながら話し込んでいると、辺りは暗く月の光が(かす)かに照らすだけになっていた。

結局遊べそうな場所は見つからず、フランの期待には答えられず。

「ごめん、結局遊べそうな場所見つからなかったな……」

「ううん、恭哉とお話出来たからそれでいい。 ねぇねぇ、恭哉は泊まる場所はあるの?」

そういえば、宿泊のことなど何も考えていなかった。

人里に川は流れていたし、そこで魚でも取って(しの)ごうと思っていたぐらいだし。

すんなり帰れそうにはなさそうだし、休めそうな場所は必要かもな。

雨風は……忘れてた。

まぁ、馬鹿は風邪引かないっていうし。

誰が馬鹿じゃ誰が。

「何も考えてなかった。 どっかその辺の木の上で寝ようと思ってるよ」

「じゃあ、私の部屋においでよ! そこでいっぱいお話ししたり遊ぼ?」

「本当に遊ぶの大好きなんだな。 まぁ、フランがいいならお邪魔するよ」

喜びを大にして、両手をあげるフラン。

その反動で後ろに倒れそうになったので、何とか支える。

部屋はともかく、夜を凌げる場所が見つかったのは大きい。

自分の力が不完全な以上、一人の時に妖怪などの(たぐい)に出会うのは出来るだけ避けたいし。

このまま真っ直ぐ館に戻るだけだし、今宵(こよい)は安全に過ごせそうだ。

遊びが弾幕戦に発展しなければ、だけど。

流石にもうあれを避ける気力はないし、肉塊(にくかい)になってお終いだろう。

得体の知れない世界で、死ぬことになるなんてごめんだ。

「勝手に部屋まで上がってもいいのか?」

「大丈夫! お姉様も咲夜も美鈴(めいりん)もパチュリーも、こぁもみーんな納得してくれるよ」

「それなら助かるよ、ありがとなフラン」

「ねぇねぇ、もう一回飛んで欲しいな?」

空を飛ぶ訳ではなく、忍者の(ごと)く素早く移動するあれだ。

軽く返事をし、すぐにその体勢へと入る。

ついでに、あの館の場所も見ておいた方が良さそうだ。

そう遠くはないんだろうけど……。

案の定、すぐにあの館を発見することが出来た。

昼間に見た赤いレンガ状の館は、月光(つきびかり)に照らされ怪しげに(たたず)んでいる様にも見える。

吸血鬼が暮らしていても、違和感一つすら感じない程。

――実際住んでるんだけどな。

「なぁフラン、フランが暮らしている館って、なんて名前なんだ?」

紅魔館(こうまかん)だよ。 お姉様たちが暮らしてるの」

「その、お姉様って確か……レプリカ? レガリア、だっけ?」

「レミリア! レミリア、お姉様!」

「ごめんごめん、そのレミリアって子はフランに似てるのか?」

「私よりワガママだよ」

うーん、それしか分からないか。

五百年もの間、部屋に閉じ込められていたのだし、仕方ないか。

受け入れて貰えるかは分からないが、関係が良好に進みそうなら、いくつか聞いてみるか……。

というか五百年生きてるフランの姉ということは、一体何歳になるんだ……?

紅魔館が薄らと視界に入るぐらいになり、飛ぶのを終え、地面へと降り立った。

それと同時に背中からフランも降り、共に歩くことに。

この薄暗い中でも、フランの背中にある一つ一つの宝石のような羽が美しく見える。

僅かな光を反射し、小さく揺れている。

思わず、目を奪われそうになる程。

こんなにも近く、輝く虹彩にも似たものが見られるとは。

案外、この世界での運も悪くないみたいだ。

「どうしたの? 早く行こ?」

「あぁ、ごめんごめん。 ちょっと見とれてた」

「変なの。 早く部屋に戻って遊びましょ!」

無邪気(むじゃき)にも、駆け足気味に先を急ぐフラン。

その後を追い掛けるが、何故か視界に映る風景が変わった。

目の前に居たフランの姿が……倒れ込む様にして消えたのだ。

「フラン……? フラン!!」

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