東方幻奇譚 ~the Eighth Fantasy.   作:TripMoon

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登場人物紹介


魂魄(こんぱく) 妖夢(ようむ)
人間と幽霊のハーフである、半人半霊(はんじんはんれい)の剣士。
高い剣術と使役(しえき)し、彼女と共にある半霊を使った攻撃が得意。
恭哉を「幻想郷に起きている異変の首謀者」と決め付け、戦闘へと至る。
何事にも大して真っすぐ過ぎるが故に、よく空回りしてしまう苦労人の一面も。
また「白玉楼(はくぎょくろう)」の主「西行寺(さいぎょうじ) 幽々子(ゆゆこ)」に仕える庭師でもあり、よく幽々子に振り回されている。


鈴仙(れいせん)優曇華院(うどんげいん)・イナバ
元々月の都に住む「月の兎」だが、あることをきっかけに地上へと逃げ込んできた。
他者の波長を感知したり、波動を操作したりと多岐に渡り相手への干渉が可能。
妖夢と共に恭哉に「異変の首謀者」の疑いをかけ、戦闘を挑む。
だが、どうやら本心から疑っている訳ではないらしい。
自ら傷薬を渡したりと、友好的な関係を築こうとしている……ようだ。


第5話 紅魔の主

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、んぅ……」

眠ったままの少女が、ゆっくりと(まぶた)を開ける。

開ききらない目を(こす)りながら、こちらへと顔を向ける。

「おはよう、気が付いたか?」

「あれ、ここは……?」

紅魔館(こうまかん)の近くだと思うよ。 フランってば、遊び疲れたんじゃないのか?」

「そうなの? ――って、どうしたの!? いっぱい怪我してる……」

あー、まぁ隠す方が無理かこれは。

さて、何と誤魔化したもんか……。

「あーえっとーこれはだな……色々あって……。 そう、走り回ってたらそこら中で転びまくってさ!?」

半霊剣士(はんれいけんし)と月の兎が居た気がする。 そいつらにやられたの!?」

半霊剣士と月の兎。

確かに、該当する二人はつい一時間程前まで、この場所に居た。

フランの能力が暴走するまでの間、フランの姿は見えていなかったが気を失っていたはずだ。

ならば、麻酔弾を撃たれる直前で二人に気が付いていたのだろうか?

何も気配を感じることは出来なかったというのに……。

もしもフランが、自らの能力を完全にコントロール出来るようになれば、この世界で最も敵に回しては行けない人物にもなり得る。

……いつまでこの身が持つのか、少し心配にもなった。

「フランは何も覚えていないのか?」

「覚えてるって何を?」

「いや、それならいいんだ。 確かにその二人とは戦闘になったけど、話し合いでどうにかなったよ。 この傷はその代償だから、フランは何も心配しなくて大丈夫だからな」

「痛くない?」

「なーんにも。 フランが怪我しなかったなら、俺はそれでいい」

まぁ、痛くないのは嘘なんだけどな。

やはり、能力が暴走していた頃のことは覚えていないようだ。

身体中にある大半の傷はフランを止める為に出来たものだったが、わざわざ本人に告げるものでもない。

何より、こうして無事に戻ってくれた方が、俺にとっては何倍も嬉しいことだ。

もちろん、自分が死ぬよりも嬉しい。

「さて、そろそろ紅魔館まで戻るか……立てるか?」

「私は大丈夫。 恭哉は?」

「もちろん平気だ。 またおぶってやろうか?」

「ううん、今はいい。 けど、手繋いであげる」

手の平を優しく包み込む。

何の変哲(へんてつ)もない、穏やかな少女の手だ。

この温かさも、何処か懐かしく感じる。

異世界に居るなんて知ったら、杏佳(きょうか)の奴どう思うかな……。

数年は会っていないけどな。

「恭哉の手はおっきいね」

「そうか? 俺ぐらいの歳なら、みんなこんなもんだぞ?」

「ううん、そういうのじゃなくて、凄く落ち着くの。 ぽかぽかしてて、あったかい」

(ふところ)が大きいってことか……?

よく分からんが。

焼けた木々達を抜けていくと、また薄暗い道が続き始めた。

俺たちの足音以外、些細(ささい)な音さえしない。

先程まで戦闘が行われたとは、とてもではないが思えない。

それにしても、異変の首謀者(しゅぼうしゃ)か……。

一体どういう経緯があって、俺がそう捉えられているのかは見当も付かないが、気になることは山程ある。

異変が生じているのなら、少なからずこの世界は元の形とは違うことになる。

……流石に、フランには分からないか。

外に出られなかったのもあるし、今そういうことを聞ける雰囲気でもなさそうだ。

となると、やはり色々と調べなきゃ駄目か……。

あらぬ疑いを掛けられるのも(しゃく)だし、異世界で命を狙われ続けるなんてとてもごめんだ。

フランのように友好的な関係を築けた相手に、迷惑をかける訳にも行かないしな……。

幸いにも、今日の寝床は確保出来るようだし、明日からどうするか、もう一度考え直さなければならない。

単なる外の世界からの来訪者なら話は早いのだが、妖夢(ようむ)鈴仙(れいせん)に「首謀者」と捉えられている以上、目立った動きは出来ない。

どういう形で俺のことが知られているのかは分からないが、いくつか考えられる点はある。

まず真っ先に浮かぶのは、射命丸(しゃめいまる) (あや)

自らを新聞記者と名乗っていたし、魔理沙(まりさ)と出会って間もない頃、既に俺の顔と名前を知っていた。

新聞記者ならば合点がいくし、何より情報収集には長けていることだろう。

もちろん、それは真実の報道と情報の捏造、の二つの意味になるのだが……。

そして次に霧雨(きりさめ) 魔理沙(まりさ)

まだ少ししか話をしていないが、魔理沙に隠し事は向いていないはず。

自分の弾幕を攻略されたこともあり、俺に対し良い印象は持っていないだろう。

その為、異変の首謀者に仕立て上げることも可能……という推理だ。

これは力説が弱い為、あまり信用したくはない。

最後に、博麗(はくれい) 霊夢(れいむ)

彼女に関しても、魔理沙同様に隠し事は苦手だろう。

そしてこの世界での顔は広いはず。

まぁ、他人行儀に関心がない為、わざわざ異変の首謀者を教える必要はないだろうが……。

それに、この中じゃ最も敵とは遠い存在だろう。

何か、どことなく俺と似ている気がするんだよな……気のせいかもしれないけど。

やはり、一番濃厚なのは文か……。

明日、会えるのならば話しておくのもいいかもしれない。

簡単に口を割ってくれそうにはないが。

「もう着くよ?」

「あぁごめん。 また考え事してた」

「そればっかり。 お部屋に戻ったらうーんと遊んでもらうんだから、覚えておいてね?」

「分かったよ。 お手柔らかに」

 

 

 

 

 

前方に(そび)える巨大な洋風の館。

この館こそがフランと出会った場所、紅魔館である。

昼間に見た頃とは違い、どこか怪しげだ。

窓が少ない為あまり見えないが、照明はついているようだ。

入口を探していると、フランに腕を引かれる。

その方に身体を任せていると、大きい門が見えた。

誰か立っているようにも見えるが……。

美鈴(めいりん)ー、ただいま!!」

「はーい……って妹様!? どこに行ってたんですか!?」

「恭哉と遊んでたの! ねぇねぇ、今日は私のお部屋に恭哉を泊めるけどいいよね?」

「えーっとすみません、話が見えてこないんですけど……」

フランに「美鈴」呼ばれるこの人物。

背は高く、橙色(だいだいいろ)の長い髪にチャイナドレスの様な服装をしている。

星型のマークに「(りゅう)」と書かれた帽子が、特徴的だ。

それにフランが「妹様」って、どういうことなんだ?

「えっと、貴方(あなた)が妹様のいう恭哉さん、でいいんですよね?」

「そうなるかな。 何処から話せばいいのか分からないんだけど、とりあえずごめん。 フランなんだけど、ほぼ勝手に連れ出しちまった」

「違うよ。 私が壁を壊して恭哉に外まで連れて行ってもらったの」

「は、はぁ……。 とにかく妹様がご無事で何よりです。 お嬢様たちも心配してましたよ?」

「そのお嬢様ってのが、レミリアって子か?」

「ご存知なんですね。 って、どうしたんですかその怪我!?」

いや、気付くの遅くないか……?

今ここで事の経緯を話すべきか否か……。

「後で話すから、咲夜に傷の手当をするよう頼んで?」

「分かりました。 どうぞ、中に入ってください。 後、歩けます? 肩貸しましょうか?」

「気持ちだけ受け取っとくよ」

木製の扉を開けてもらい、館の中へと入っていく。

本館までの道はそう遠くないものの、生い茂る草木やいくつもの噴水。

小さな街並みでも広がっているんじゃないかと、つい錯覚してしまいそうになる。

隅々まで綺麗に手入れされているため、どこか上品さも(うかが)える。

外観から見ても思っていたのだが、この館かなり広いぞ?

「立派な館でしょう? お嬢様自慢のものなので」

「あぁ、外からしか見てなかったけど、凄いと思う」

「ここから館の中になります。 大広間にお嬢様たちもいらっしゃるので、あと少し頑張って下さいね」

「いや、傷はなんともないよ。 歩けてるし」

「そんなこと言っても、かなりの大怪我ですよ? 出血の跡もひどいですし、よく立っていられますね?」

「昔から死に損ないなんだよ。 フランは何ともないし、俺が傷付くぐらい、どうってことないさ」

俺の言葉に、驚きの表情を見せる美鈴。

フランの様子を確認した後、小さい声で話しかけて来た。

「それ本当に言ってます? 妹様の能力見ました?」

「もう嫌という程見たよ。 けど、それ以外は普通の女の子だろ?」

「あーまだ妹様の本当の姿を見てませんね……。 いいですか? 妹様はですね――」

「美鈴ー? 何話してるのー?」

美鈴は情けない声を上げながら、そっとフランの方を見ていた。

それにしても、フランの本当の姿か……。

能力を使っている時以外にも、まだ他の人格があるっていうことなのか……?

流石吸血鬼(きゅうけつき)、謎が多い。

……って、褒め言葉にはならないか、これは。

「恭哉も、変な事聞かないでね?」

「お、おぅ……。 っと、また随分とでかい扉だな」

フランの可愛らしい笑顔も、今回だけは謎の威圧感があった。

恐るべしこの子……。

話題をすり替えるべく、扉の方へと向けた。

「こ、ここを入ってすぐエントランスホールがあるので、そこを抜けると大広間ですね」

館の中は外観同様に広く、床や壁面等赤を基調とした洋風の作りとなっていた。

ランタンの様な照明が、壁面にいくつも並んでいる。

とてもじゃないが、俺たちの世界の中では見られないものだった。

奥へ進んで行くと、美鈴の言葉通り大広間なる空間が広がっていた。

ちょっとした(もよお)し物を開き、百人程度なら簡単に収まる程の室内には、思わず言葉を失ってしまう。

……流石に広すぎないか?

確かに外観こそ大きかったものの、ここまで広く作られるものなのだろうか……?

それに、あまり見慣れない服装をした浮遊物が、そこら中を飛び回っているではないか。

目を凝らして見てみると……メイド服か?

美鈴にそれを尋ねてみると、妖精たちがメイドの服装をし、この館のあらゆる世話をしているらしい。

ただ個々の出来はあまり宜しくないようで、よくこの紅魔館のメイド長である「十六夜(いざよい) 咲夜(さくや)」から、(しか)りを受けているらしい。

どうやら、妖精はあくまでも妖精なようだ。

この世界でも、その定義は変わらない。

この定義というのは、妖精という存在は人間に近い存在であり、非力な部類に入るということ。

悪魔(あくま)みたいに強い妖精でも居るのなら、一度見てみたいものだ。

「この先が大広間になります。 おそらく、お嬢様たちが待っているはずなんですけど……」

「待っているはず、なのか? フランを探しに外に出てる可能性もあるってことか……」

「お姉様は中に居るよ。 開けちゃえ」

両手を広げ、扉を開けるフラン。

ゆっくりと開かれた扉の先には――。

 

 

 

 

 

「お姉様ただいま!」

「フラン! 一体どこまで行ってたのよ」

「ちょっとお外で遊んでたの。 大丈夫、何も壊してないよ?」

「そういうことじゃない、どうやって外に出たかを聞いてるの」

あいつが、レミリアって子か……。

確かに声の質や雰囲気、容姿等似ている箇所は多い。

フランとは違い、青みがかった銀色の短めの髪。

同じく深紅(しんく)の大きな瞳に、桃色を基調としたドレス。

蝙蝠(こうもり)の様な羽は、まさに吸血鬼らしい。

「恭哉、何故ここに?」

章大(しょうた)……。 それは俺のセリフなんだけどな、お前もこの世界に流れ着いてたのか」

「その言葉、そのまま返すぞ。 他の皆には会ったのか?」

「いや、お前が最初だよ」

切崎(きりさき) 章大(しょうた)

堅苦しい話し言葉で、(ほとん)ど感情を表に出さない無愛想な人物。

って、無愛想なのは俺も同じか。

同じ世界で行動を共にしていた仲間の一人で、剣術や体術、魔術といった様々な戦闘方法に長けている。

俺とは正反対でかなりの頭脳派で、物事に対する記憶力もかなりのもの。

たまーにムカつくんだけどな。

「お姉様、咲夜も紹介するね! えっとね、これが恭哉、私と遊んでくれてたの」

「遊んでそんなに傷を負うものなのか?」

「まぁ、これには色々と深い訳があってさ。 レミリアだっけ、詳しいことは後で話すとして、フランを勝手に連れ出したのは俺なんだ。 悪かった、ごめん」

何かを小さく呟くレミリア。

黙ったまま、こちらをじっと見ている。

フランもその様子を見兼ねてか、レミリアへと声を掛ける。

その問い掛けにも答えず、ゆっくりと宙へと浮かび始めた。

そして――。

瞬時にして、目の前に姿を現しこちらへと手を伸ばしてきた。

反応することも出来ず、身体を持ち上げられた後、強く床へと叩き付けられた。

そのまま、首を絞められていく。

こいつ……フランよりも力が強い……!

「――っ、恭哉!」

「お嬢様!」

「お姉様……!? お姉様止めて!!」

身体の震えを振り払い、片手でレミリアの腕を掴む。

一向に力が緩まる気配はしない……(むし)ろ、首の骨までへし折らんとする程だ。

「お前が……!!」

声を出そうとするも、上手く発することが出来ない。

全て力のない(うめ)き声へと変わってしまう。

……ほんの少しだけ、視界が揺れた。

振り払えない……!!

「そこまでだ。 それ以上力を強めるのなら、貴様(きさま)を斬ることになるぞ」

「剣を納めて。 お嬢様に手出しはさせない」

二人の声が響き渡る。

それと同時に、首を絞める力は弱まっていく。

「恭哉、大丈夫!?」

フランが慌てて駆け寄り、身体を揺さぶり始めた。

すぐに身体を起こし、揺さぶりを止めさせた。

「無事か」

「なんとか……。 一体何なんだ……?」

「咲夜、そいつを始末しなさい。 不味そうだし、土にでも埋めといて」

「かしこまりました、お嬢様」

レミリアは軽い足音を立て、部屋を後にしていく。

その背中を隠す様に、咲夜と呼ばれる人物がそこに立ち塞がる。

妖夢の髪よりも銀色が強く、この場の雰囲気には似合わない三つ編み。

青と白のメイド服を(まと)い、その容姿からは想像も付かないであろう、三本のナイフを手にしていた。

くそっ、ここでもかよ……。

もう異変の首謀者なんて言葉聞き飽きたぞ。

俺はともかく、章大は疑われないのか?

あいつの実力も相当なはずなのに。

もしも俺と同様に能力が封じられていて、戦闘になる場面がなかったのなら納得が行くが……。

あぁ見えて、結構手が出るのが早いからなあいつ。

「咲夜! 恭哉は殺しちゃダメだよ! たくさん怪我してるの、手当してあげて?」

「申し訳ありません妹様。 お嬢様からの命令は絶対ですから」

「さ、咲夜さん。 私からもお願いします! 先程会ったばかりですが、この人は故意に妹様を連れ出した訳ではない気がするんです」

「美鈴は下がりなさい。 門番の仕事に戻って」

どうやら聞き入れてはくれないようだ。

こっちはボロボロだってのに……。

相手を見据えたまま、剣を抜こうとする章大を腕で制する。

手出しを求めるつもりは無い。

向こうが挑んでくるのなら……その戦いを買うまでだ。

歩を前に進めようとした時、俺のすぐ前にフランが立ち塞がった。

「咲夜が手当てしてくれないなら、私が咲夜を壊すよ?」

「妹様、何故その者を(かば)うのですか?」

「私と遊んでくれたもん!! 私が壊そうとしても、恭哉は壊れなかった。 だから、私以外に恭哉を壊すことはさせないよ」

「フラン、気持ちは嬉しいけど、そんな言葉が通じる相手じゃないんだ。 どいてくれ」

「無茶ですって!! そんな身体で、咲夜さんに敵う訳ないですよ!!」

「んなこと始めから分かってる。 けどな、だからって何もしないまま土に埋められるなんてごめんだね。 今更ナイフでつく傷なんかどうってことねぇんだ」

フランの横を過ぎて通り、目の前の人物と向き合う。

手加減してくれる雰囲気じゃない。

妖夢や鈴仙、暴走したフラン同様、本気の殺し合いだ。

一日の間にこう何度も戦うことになるなんてな。

おまけに能力は扱えないし、最悪の状況だ。

……でも、やるだけやるしかないか……!

ナイフを手にしている以上、接近戦か……?

三本しかない為、投擲武器(とうてきぶき)として扱うことはして来ないはず。

ならば、最初は様子見の方が良さそうだな。

向かい合ったまま、(しばら)くの間沈黙が流れる。

小さくだが、衣服が揺れた。

軽く地を蹴り、動き出そうとした時だった。

――(りん)とした声で、その動きが止まったのだ。

 

 

 

 

 

「咲夜、今回だけレミィの言うことは無視していいわよ」

一人、別の扉から大広間へと入ってくる少女。

「パチュリー様、いつからそこにいらっしゃったんですか?」

「あれだけ騒がれたら、読書の邪魔だからね」

腰の辺りまで伸びる長い紫色の髪。

薄紫と桃色を基調にした、全体的にゆったりとした服装。

寝巻きの様にも見えるが、本人は読書をしていたようだ。

てっきり、睡眠の邪魔をしたのかと思っていた。

「パチェからも何か言ってよ!」

「何を言ったらいいのか分からないんだけど。 まぁ、さっきも言った通りこの子を始末する必要は無いわよ」

(おっしゃ)っている事の意味が分かりかねます」

「彼も章大と同じ、外の世界から流れ着いた人間よ。 それもただの人間じゃない」

パチュリーという人物は、俺のことを知っているらしい。

外の世界から来た人間ということはまだしも、普通の人間ではないということも。

文ですらこのことについては言及していなかったことのはずだ。

章大からでも聞いたのか……?

しかし、章大も俺以外の皆にはこの世界では会っていない。

自分から話すタイプでもない為、今日あったばかりの人物に打ち明けたとも思えない。

やはり、誰かが裏で糸を引いているのか……?

「恭哉が人間じゃないってどういうこと?」

「団子食べてる時に話してなかったっけ?」

俺の言葉に、フランを首を(かし)げる。

霊夢や華扇(かせん)と話している間、ずっと団子を食べていたし、話の内容を聞いていないのも無理はないか……。

「それも後ほど話すとしよう。 で、結局殺すのか殺さないのか、どっちだ」

「お前庇う気ゼロかよ……」

「それだけ怪我を負っていても話せている以上、簡単には死なんだろ。 よく知っている」

よくもまぁ、能力が封じられている中言えたもんだ。

――って、それは俺も同じか。

「ですが、お嬢様からの命令は……」

「レミィも(しばら)くしたら落ち着くでしょうし、一旦私に預けてもらえる?」

「咲夜お願い!! お姉様が何かいうなら、私がぶっ飛ばしてやるから」

「咲夜さん、私からもお願いします!」

フランに美鈴、そしてパチュリーのそれぞれが咲夜へと言い寄っていく。

困った表情を浮かべながら、小さくため息をついた。

「……分かりました、パチュリー様と妹様がそう仰るのなら」

「私は無視ですか!?」

「いいから門番に戻りなさい」

……えっと、一命は取り留めることが出来たのか……?

どうやら、すぐには始末されないらしい。

まだ確証ではない為、安心は出来ないが……。

あまりにも緊張感のない場面に、思わず崩れ落ちそうになる。

一悶着(ひともんちゃく)あるか、スパッと殺されるのかと思っていた。

まぁ、生き残れたし良いことに越したことはないんだけどさ。

「咲夜、レミィから伝言。 空き部屋を一つ、寝泊まり出来るよう準備しておきなさいって。 もちろん、その子用ね」

「お嬢様が……? かしこまりました、すぐご用意致します」

そう言い残し、瞬時に姿を消した。

瞬間移動が可能なのか?

「今の、瞬間移動と通信魔法(つうしんまほう)の一種か?」

「えぇ、我がままな主の為にわざわざ移動するなんて手間だもの。 それに、うちのメイド長は優秀だから、すぐに用意されると思うわ」

「えー恭哉は私の部屋で遊ぶのにー。 つまんなーい」

「館を壊さないのなら、同じ部屋で遊べばいいじゃないの」

「そっか、そうしよっと。 あ、先に恭哉の手当てをしてあげないと」

「あーそういえば。 出血も止まってるし、怪我のこと忘れてた」

「全く……。 応急処置ぐらいはしてやる、包帯は自分で巻くんだな」

身の回りを魔法陣が包み込む。

この感覚も久しいものかもしれない。

今行われているのは「治癒術(ちゆじゅつ)」と呼ばれる魔術の一種で、その名の通り人や物を対象に傷を癒したり、使用する術式や魔力(まりょく)が大きくなれば一時的に蘇生させることも可能だ。

医療施設などの手術や医薬品などに頼る訳ではなく、活力源とするのは体内にある細胞や微量の魔力。

「魔力」とは全ての生物に微量に存在するエネルギー体のようなもので、それを自由自在に操ることが出来るようになれば、この世界での「能力」や俺たちの世界での「異能力」を得ることが出来るとされている。

学者たちにより世間一般に知らされている訳ではなく、戦うことを使命として与えられたものだけが知るものだ。

言い換えれば、一種のオカルトといっても過言ではない。

小さな傷からフランの炎剣や鈴仙の弾幕によってついた傷も、次第に塞がっていく。

治癒術を得意とする奴も居るのだが、章大のものはあくまでも応急処置。

それでも大したもんだ。

この世界で言う魔法と同じで、魔術に置いても様々な用途で使うことが可能だ。

もちろん、扱える人物に限るが。

まぁ、魔術で離れた所から戦うなど、俺には無理な話な訳で。

フランに美鈴、そしてパチュリーは治癒術を(ほどこ)す光景を見てそれぞれ違う表情をしていた。

フランは驚き、美鈴は関心。

パチュリーはと言うと……無表情。

あまり表情を出さないタイプなのか?

「傷は塞がったぞ」

「さんきゅ。 やっぱ俺には魔術は無理だな」

「へぇそういう魔法もあるの、やはり大したものね」

精霊魔法(せいれいまほう)の方が余程興味深いがな」

「すごーい、もう何ともないの?」

「あぁ、激しい動きでもしなきゃ傷が開くことはないよ」

「じゃあ弾幕ごっこは出来ない?」

もう一度フランと弾幕戦か……いや無理無理。

あの時は奇跡的に能力が使えたものの、今の身体じゃとてもじゃないが勝負にもならないだろう。

寝床が確保出来たというのに、この世とおさらばしてしまうのは、流石にごめんだ。

「パチュリー様、空き部屋の手配が終わりました。 ご案内しても宜しいでしょうか?」

「えぇ、頼むわね。 じゃあ」

「今日はもう休むといい、明日また話を聞く」

「あ、あぁ……」

いやお前馴染み過ぎだろ。

今日来たばっかの癖に。

「ほら、早く行こ?」

 

 

 

 

咲夜が先導し、フランと共に用意された部屋へと向かうことに。

至る所でメイド服を着た妖精が飛び回り、窓を拭いたり床を掃除したりと、何処か慌ただしい。

そういえばこの妖精達の指揮を執るのが咲夜と聞いていたが、妖精にも人語(じんご)が通じるのか……?

妖怪にも通じるみたいだし、妖精も(くく)りは同じって解釈でいっか。

「咲夜ー、恭哉が寝るお部屋で私も寝てもいい?」

「妹様もですか? 寝具は一つしか用意していませんよ?」

「へーきへーき、一緒に寝るもん」

「勝手に話を進めんな! 布団はフランが使っていいよ、こっちは床でいいし」

「えーっ、一緒は嫌?」

うっ、そういうセリフは……。

こっちが悪者見たいだろ……。

おまけに何か咲夜の視線は冷たいし……。

――思わず、ため息を吐いてしまう。

あーこういうのにはとことん弱いんだろうなぁ。

「分かった、分かったから。 そんな、散歩に行きたくて強請(ねだ)仔犬(こいぬ)みたいな顔するのは止めてくれ」

「わーい!! ねぇねぇ、お兄様って呼んだげよっか?」

「普通に恭哉でいいです、いや勘弁して下さい本当に。 これ以上変なレッテル貼られたくないんで」

口調が変わってしまう程、気が動転している。

自分にこんな一面も残っていたとは。

色んな意味で、フランは良くも悪くも起爆剤だな……。

それにしても、えらく広いなぁこの廊下も。

一体何人が暮らしているのだろうか?

咲夜に聞いてみたい所だが、先程の事もあり話し辛い。

それにレミリアが何故、俺のことを見逃したのかも気になる所だ。

章大が異様にこの場所に馴染んでいることも。

駄目だ、気になる点が多過ぎる。

何か一つでも聞いておきたいが……。

だが、その願いは叶わず――。

「ここが用意した宿泊部屋です。 一通りの物は揃えてますので、ごくつろぎ下さい」

歩いている内に、部屋へと辿り着いてしまった。

明日もやらなきゃならないことも多いし、今日はゆっくり休むとするか……。

折角与えられた厚意を無駄にする程、薄情者ではないし。

扉を開け、部屋の中へと入る。

咲夜の言葉通り、生活に必要な物は一通り揃えられていた。

短時間で、よくここまで用意出来たものだ。

空き部屋と言っていたぐらいだから、常日頃からこうある訳ではないだろうし。

瞬間移動に似たことをやって見せたこともあり、メイドとして従事するのも頷ける。

フランも部屋の中に入った後、咲夜に手を振り扉を閉めた。

ようやく長い一日が……終わらないかまだ。

ベッドに横たわり一息つこうとした時、突然フランが驚嘆(きょうたん)の声を上げた。

その声に思わず、身体を起こしてしまう。

「恭哉から貰ったパーカー、ボロボロになっちゃった……」

そういえばそうか……。

耐久性に優れたものではないし、暴走した際に汚れ破れてしまったのだろう。

俺もそこまで見ていた訳ではない為、今の言葉でようやく気付いた程。

「折角貰ったのにー」

「いつかまたやるよ、あれぐらい何処にでも売ってるし」

「本当!? ぜーったい、約束ね?」

これ程までに残念がるとは……。

似ている所もあれば、違っている所もある。

本当に想像すらもしたことのない世界に行き着いたんだな……。

今更かもしれないが、夢なんかじゃない。

きちんと帰ることが出来るのだろうか……。

それまで生きてればいいけど。

「ねぇ、さっき一緒に居た人って恭哉の仲間なんだよね?」

「章大のことか。 ムカつく奴だけど、一緒に戦っていた仲間だよ」

「やっぱりそうなんだ。 なんかパチェが最近誰かと話してたから、誰なんだろーって思ったの」

「最近って、あいつも今日来たばかりだぞ?」

「ううん、話したことはないけど、何回か廊下で見たよ?」

――えっ?

フランの返答に、言葉が詰まる。

俺がこの世界に行き着く前に、この世界に居たってことか……!?

いや、そんなことは有り得ない。

と思いたいのだが、この場所にやけに馴染んでいたことを思い出す。

謎の世界に行き着いたなら、あいつはそう簡単に自己開示をしないはずだ。

それなのにも関わらず、ある程度の所まで知っている様な口振りだった。

「具体的にいつから前とか覚えてないか?」

「うーん、分かんない。 お姉様なら知ってるかも。 咲夜以外の人間を館に置くなんて有り得ないもの」

……どうなっている?

思っていたよりも、複雑な状況の様だ。

あいつに直接聞いた方が早いか……。

考えれば考える程、頭の中が様々なものに埋め尽くされていく。

――またフランの機嫌を損ねる真似はしたくないし、今日は一旦忘れておくか。

全身の力が抜け、ベッドに横たわる。

そのすぐ隣に、フランが飛び込んで来た。

「誰かと一緒に寝るなんて初めてかも」

「レミリアともか?」

「うん、私だけずっと地下に閉じこもってたもん。 館の中を歩くことを許可されても、一人だったし」

そう、フランはずっと一人で過ごして来たらしい。

何百年もの間、ずっと……。

咲夜でさえ、つい最近初めて顔をきちんとみたばかりらしい。

この辺も含めて、レミリアに聞くことが出来ればいいんだけど……。

また考え事をしていると、フランの首がこくんと小さく動いているのが横目に見えた。

初めての外出で刺激的なことが多く、能力の暴走によって疲れも溜まっていたのだろう。

「眠いか?」

「うん、もっとお話したかったけど寝ちゃうかも……。 ねぇ、腕貸して?」

頭の後ろで組んでいた腕を解き、片方をフランの方へと降ろす。

柔らかい布団へと沈みかけた頃、そっと両手を添えてくる。

なんて言うんだっけ……腕枕?

いや、それはちょっと違うか……でも、似たような感じ。

小さくおやすみを告げた後、目を閉じるフラン。

すぐに軽い寝息を立て始めた。

これで本当に、幻想郷での一日が終わる。

色々と不快な点もあるが、とりあえず今日は身体を休めよう。

起こさない程度に頭を撫でる。

穏やかな寝顔を見届けた後、静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

「駄目だ、寝れん……」

かれこれ二時間程は経った頃だろうか。

目を閉じてはいるものの、一向に眠ることが出来ない。

ベッドの寝心地は最高といっても過言ではないぐらいに素晴らしいものなのだが、何故か目は()えたままだ。

昔は何かとよく眠っていたのだが……。

能力を会得(えとく)した反動で、人間らしい習性が徐々に欠けているのかもしれない。

(外の空気でも吸いに行くか……)

隣で眠るフランを起こさぬ様、ゆっくりとベッドから起き上がる。

相変わらず心地良い寝息を立てている為、朝まで起きる気配はなさそうだ。

音を立てぬ様、扉を開け部屋の外へと出た。

廊下はもう薄暗くなっており、外の(かす)かな月光(げっこう)と、ランタンの様な小さな照明が(ほの)かに照らす程度になっていた。

吸血鬼であっても、夜は眠るものなのだろうか。

意外と人間らしい所もあるもんだ。

廊下と廊下を区切る木製の扉をいくつか通っていくと、バルコニーの様な場所に出た。

まさか、こんな場所まであるとは。

所々階段も見受けられた為、やはりこの館は少々大き過ぎる。

俺たちの世界にこの様な館が存在していれば、たちまち人々の注目の的になるだろう。

鉄製の柵に身体を預け、夜空を見上げた。

満天とは行かないものの、都会の喧噪(けんそう)の中では味わえない星々に(いろど)られた夜空がそこにはあった。

周りに生える木々たちも、その景色に溶け込んでいる。

思わず言葉を失いそうになる程だ。

しかし、そんな時間もほんの少しのもので。

ある人物と目が合ってしまう。

その人物は周りを見回した後、口を開きこう告げた。

こっちまで来なさい、と。

その言葉通り、その人物の居る方へと向かう。

館の構造なんて分からないし呼ばれている以上、迷って待たせてしまうのも申し訳ない。

鉄柵を超えその場所まで細い足場を伝って歩いて行くことに。

「あ、そう来るのね」

「何処が何処に通じているのか分かんないからな。 迷子になる方が、嫌だし」

「とりあえずそっちに座りなさい。 後、謝罪なんてしないわよ? フランを外に連れ出したのは、貴方なんだから」

「別に求めてないって。 今こうして生かされているんだし」

レミリア・スカーレット。

フランの実の姉であり、この紅魔館において「お嬢様」と呼ばれている。

言い換えれば、この館の主だ。

その主に直々に呼び出されるなんて、一体何をされるのやら……。

「で、俺を呼び出した要件は?」

「要件ねぇ……その前に」

フランと同じ、真紅の槍を手にし首元に突き立ててくる。

先程見た表情とは違い、何処か落ち着いている。

当然、それはこちらも同じな訳で。

「死を恐れない……か、いい面構えね」

「みんなの前じゃ恥ずかしくて殺せなかったのか? 微塵(みじん)の殺気もない武器を突き出されても、何も怖くないよ」

「今この場に、大量の悪魔が現れたらどうする?」

「変わるもんか。 死んでからも、お前を睨み続けてやるさ」

「……いい度胸ね、気に入ったわ。 紅魔館に居る間は、殺さないでいてあげる」

「そいつはどうも。 で、本題を聞かせてくれないか」

「私が話すというより、そっちの話を聞きたいわね。 少し前から居候(いそうろう)も1人増えたみたいだし。 あんたの連れでしょアイツ」

「なぁその少し前ってどれぐらい前なんだ? 俺はこの世界に流れ着いたのは今日の話なんだけど、章大はいつから?」

「美鈴が連れてきたのが丁度、十日前ぐらいだったかしら。 どういう訳か私たちを見ても驚かないのよ、あんたと一緒で」

十日前……!?

いや、そんな筈がない。

十日間も俺たちの世界から姿を消していれば、必ず誰かが気付く。

ましてや連絡を取る手段なんて幾らでもある世界だ……有り得ない。

「どうしたのそんなに驚いた顔して。 とにかく、あの生意気な人間が何なのかと外の世界から何をしに来たのかを話して頂戴」

「章大のことなら答えられるけど、外の世界から来た理由までは分からない。 俺だって、気付いたらこの世界に居たんだ」

「何よそれ、幻想郷は他の世界と干渉することは一切ないのよ? それなのに外の世界から流れ着くなんて、考えられないわ」

「とにかく分からないものは分からないんだ。 で、章大の何を話せばいい」

「そうねぇ……何者なのかってことね。 人間なのも、どうせ仮の姿でしょう?」

鋭いな……。

章大も俺と同様で、厳密に言えば普通の人間ではない。

俺の場合は人間以外の血が流れているぐらいなのだが、章大の場合は存在そのものが人間ではないのだ。

肉体は人間なのだが、中にある人格や魂は元々「天界(てんかい)」という場所で騎士軍を率いていた戦天使(アークナイト)の一人。

何らかの理由で堕天(だてん)し、地上の世界で人間の肉体を得た……とか言っていた気がする。

そのことをレミリアに話すと、変に納得が良い。

レミリア(いわ)く、大きく括れば妖怪と同じ、だそうだ。

レミリア自身も吸血鬼な訳だし、謎の説得力もあるが。

「気に食わない奴だけど、実力は確かなのよね。 咲夜には劣るけど、大体の妖怪相手なら圧倒するでしょうね。 もちろん、私の敵になるには後千年は早いでしょうけど」

「その実力に関してなんだけど、何か言ってなかったか? 能力が使えないとか、動きにくいとか」

「一切ないわね。 剣術や体術、おまけに魔法まで扱ってたわよ。 パチェは興味津々だったみたいだけど」

 

 

 

 

レミリアのその言葉に、またも驚いてしまう。

その理由は単純なもので、能力が封じられている所か衰えてすらいなかった。

能力の原理は同じものなのに、何故……?

実力がかけ離れている訳ではなく、(むし)ろ殆ど同じといってもいいぐらいだ。

「この世界で異変が起こっているって本当なのか?」

「さぁ? 私の耳には入っていないわよそんなこと。 何かあれば咲夜が出向いて解決するだろうし、関係ないわ」

「さっき大広間で会った時、俺の身体はボロボロだった。 全身に様々な傷があったのを覚えているか?」

俺の問い掛けにレミリアは頷き返した。

「あの傷は二つの出来事が起きて出来たものなんだ。 一つは妖夢と鈴仙という二人に、異変の首謀者に捉えられていたみたいで、その二人との戦闘で付いたもの」

「あー、亡霊(ぼうれい)に仕える未熟剣士と薬師(くすりし)の所の見習い兎か。 で、もう一つは?」

「妖夢と鈴仙との戦闘中に、フランの能力が暴走したんだ。 元に戻す為に身体を張った結果があの傷だ」

「へぇあの子のねー……」

「偶然能力が使えたから何とかなったけど、次同じ状況に陥ったとしたら、俺には止められないと思う」

「まぁ無理でしょうね。 フランと私を前にしても生きてる人間なんて霊夢と魔理沙、咲夜を除けば貴方ぐらいよ」

特段驚いた様子はないレミリア。

寧ろ、何処か関心している様な素振りさえ見せる。

強者故の余裕というか何というか……。

妹であるフランがあの破壊力だったのだ。

もしレミリアが本気を出せば……とてもじゃないが、敵う要素はゼロだ。

「厳密に言えば俺も人間じゃないんだけどな……」

「じゃあなんなの? アイツが天使なら、貴方は悪魔とでも言う気?」

「半々になるかな。 人間としてあるべき最低限のことはまだ生きているけど、それがいつ無くなるかは分からないんだ。 理由は一つで、人間とは違う別の血が一緒に流れててさ」

「へぇー妖怪みたいなもんね。 それなら、血の味見でもしてあげましょうか?」

「死を恐れないなら、首にでも噛みに来いよ」

「私を挑発するなんて、本当いい度胸しているわね。 甘噛みなんかじゃなく、血肉ごと引き千切って上げましょうか?」

「念の為だよ。 人間とは違う血が、吸血鬼の体内に影響が出ないとは限らないぞ?」

「……まぁ、何であれこの場所に居る限りは、命までは奪わないわよ。 安心していなさい」

その言葉に、嘘偽りはないようだ。

ようやく安心することが出来たのか、急に眠気がやってきた。

こんなことも、随分と久しい気もする。

「あら、そんな表情(かお)もするのね。 可愛い所もあるじゃない」

「有難く貰っとくよその言葉。 んじゃ、おやすみ」

「あ、ちょっと待って。 そんなボロボロの服で館内をうろうろされるのは気分が悪いわ。 朝、咲夜に新しい服を用意させておくから着替えておくように」

空返事(からへんじ)だけ返し、先程の部屋まで戻っていく。

再び音を立てぬよう中に入り、部屋の中を見渡してみる。

フランは相変わらず眠ったままで、起きた形跡は見られなかった。

邪魔をしないようにベッドへと寝転び、暗いままの天井を見上げてみる。

すると待っていたかのように、目を閉じた時と同様に、フランの両手が腕に添えられる。

……本当に起きてないよな?

寝顔を見つめてみるも、変わらぬまま年相応の少女の寝顔だった。

実年齢は省いておくが。

軽く欠伸(あくび)をした後、ゆっくりと目を閉じる。

これで、ようやく長かった一日が終わる。

目を覚ました後、どんなことが待っているかは分からないが、そっと夢の中へと身を(ゆだ)ねることにした。

おやすみ、フラン。

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