東方幻奇譚 ~the Eighth Fantasy. 作:TripMoon
性格は穏やかで、無理に紅魔館に侵入しようとしたり手を上げようとしなければ、襲ってくることはない。
よく居眠りをしており、叱りを受けているが、高い身体能力から何かと頼られている存在である。
レミリア・スカーレット
紅魔館の主であり、
フランドール・スカーレットの姉であり数百年単位で生きているが、中身はまだまだ幼く突拍子な言動で周りを振り回している人物。
フランを外に連れ出したとして恭哉に対し快く思わなかったものの、自分のことを恐れない姿と何かを秘めた眼を認め、紅魔館の居候として受け入れることにした。
無邪気に遊ぶフランの姿を実は羨ましく思っている節があるらしく、どうすれば威厳を残したまま遊ぶことが出来るのかを模索中らしい。
紅魔館全体を仕切るメイド達の長であり、レミリアに直属で仕えている。
元々は外の世界出身らしいが、詳しい経歴等は分かっていない。
時を止める能力を有しており、紅魔館の空間操作から家事に掛かる時間の短縮、弾幕戦に用いたりと、用途は多種多様に渡る。
ナイフ投げとタネ無手品が得意なようで、その実力は折り紙付き。
一見完璧超人の様だが、実はどこか抜けている天然さん。
外の世界から幻想郷に迷い込んだ一人であり、恭哉の仲間。
性格は冷酷で他人との干渉や得られる情報などは、全て自らの目的と合致しなければ不要と考えている。
剣術、体術、魔術共に優れており、幻想郷に流れ着いても、その実力は健在。
紅魔館に半ば勝手に身を置きながら、この世界のことを探り帰る算段を立てているようだ。
知識人でもあることから、よく大図書館に出入りしているらしい。
パチュリー・ノーレッジ
紅魔館にある大図書館で暮らす魔法使い。
レミリアとは旧友であり互いに「レミィ」と「パチェ」と呼び合う仲であり、それ故の皮肉めいた発言も多々ある。
生まれ持ちの喘息を患っており、身体能力は普通に人間にさえ劣るものの、多様な魔法と魔力を所有しており、その実力は高いとされている。
火、水、木、金、土、日、月の元素を扱う魔法や精霊魔法を得意としているが、魔法役の調合は苦手な様。
度々図書館にやってくる
暖かく眩しい光が、閉じたままの
部屋を見回すと、普段では絶対に見られないであろう整えられた洋風の部屋。
この世界、
いつもの世界で迎える朝に比べて、何処か心地が良い。
ぐっと全身を伸ばし、ベッドから降り立った。
どうやら、部屋には一人だけの様だ。
そういえば、フランと一緒に寝てたんだっけ……。
当の本人の姿は部屋にはなく、先に起きて部屋を出て行ったたのであろう。
窓のカーテンを開けてみると、初夏の快晴がそこには広がっていた。
多く人々が訪れる観光地かと疑う程の景色は、目を覚ますのには十分なものだった。
軽く扉を叩く音がする。
誰かが起こしに来たのだろうか?
その予想は当たっていて、この
「目が覚めた? お嬢様と妹様がお待ちよ、着替えたら出てきてもらえる?」
着替える……?
あぁ、そういえばレミリアが新しい衣服を用意させていたんだった。
枕元にあるチェストの上に畳まれている黒い衣服。
良かった、変な服装じゃないみたいだ。
すぐに着替えると返事をし、一度部屋を出ていく咲夜。
待たせてしまうのも悪いし、とっとと着替えますか。
自らの血に染った衣服を見てみる。
本当、良く生きていられたものだ。
包帯を巻いておくのは忘れていたが、
(相変わらず、こいつは傷付く所か割れ目すら入んないな……)
右肩に埋められた、紅く光る烙印の結晶、
自らの存在を人間と
こいつのお陰で、炎の能力「
章大
こうしていなければ、今この場所に存在することすら出来ていないのだが……。
――っと、待たせているんだった。
畳まれている衣服を手に取り、広げてみる。
これは……スーツか?
それにしては何かきっちりしすぎているというか……。
いずれにせよ、苦手な部類の服装だ。
堅苦しいし、首元が空いていないのが何よりももどかしい。
まぁ、適当に着崩しておくか。
シャツに腕を通し、胸元までボタンを閉める。
流石に腹筋まで見せびらかすつもりはない。
ベスト……らしきものをシャツの上に身に付け、上からジャケットを羽織る。
もちろん、ボタンなどしていられない。
縛られるのは苦手だし。
ネクタイは……いいや、返しておこう。
下は普通のズボンだし良しとしておく。
こういった
いざという時にも、走ったり蹴り上げたりするのに不自由はない。
この服装で、唯一の利点かもな。
……念の為、スマホは持ち歩いておくか。
電波が通っていない為使い物にならないが、もし元の世界に戻る際にないと向こうの世界で困ってしまう。
この世界に居る間に、潰れてしまわないかが問題ではあるが。
着替えを済ませ、部屋を出る。
すぐ近くで咲夜が待っていたようで、こちらを振り向いた。
「もう少しきちんと着られないの?」
「ごめん、俺にはこんな服装は向いてないの」
「はぁ……まぁいいわ。 朝食の時間をずらしてまで、お嬢様と妹様は待っているわ。 急いで頂戴」
うっ、そこまでして待たれていたとは……。
会ったらまず謝っておこう。
咲夜に連れられて来たのは、一般的な形のテーブルと椅子が置かれている、いわばリビングの様な部屋だった。
内装はやはり豪華で、並べられている家具や食器類は全て気品漂うものばかり。
一般庶民には手の届かないものの為、まるで夢の中に居るみたいだ。
もちろん、これは現実なんだけどな。
テーブルの上には既に朝食が並べられており、色とりどりな料理が朝を色付ける。
レミリアとフランの二人も並んで座っていた。
こうしてみると、確かに姉妹っぽい。
吸血鬼という点は、今はナシということで。
「遅いわよ
「おはよー! あれ、恭哉が着替えてる」
「おはよ。 服ボロボロだったから、レミリアに着替えろって言われてさ」
「まぁ違和感はないけれど、どうも執事っぽくないわね。 主に対抗する気満々じゃないの」
「縛られるのは嫌いなんだよ。 きちんと着なきゃ爆発するとかなら流石に考えるけど」
「あーそう。 パチェに頼んでそうしてもらうか」
「冗談でも辞めろ!!」
「私がどかーんってしてあげよっか?」
「いやそれも辞めてくれ死んじまう。 で、何処に座ればいい?」
レミリアとフランが、ほぼ同時にある椅子を指さした。
その先にある椅子は、特段何も変わらないものだ。
しかし、その場所が問題な訳で……。
「いただきまーす!」
「ちょっと待て。 食事を出して貰えるのはありがたいんだけど、何でこの位置なんだ?」
そう、二人が指さした位置は丁度二人の間にある椅子。
つまり、テーブルの片側にレミリア俺フランと、三人が固まっている状況だ。
普通二人と一人で別れて座らないか……?
まさか、普通の世界での常識が通用しないのがこの幻想郷なのかもしれない。
そのことを二人に告げてみる。
「じゃあお姉様が向こうに座れば?」
「お断りよ。 紅魔館の主として客人を
「嫌だ! 恭哉の隣じゃなきゃやだもん」
「我がまま言わないの。 はい、動いた動いた」
「そういうお姉様こそ、恭哉の隣に居たいだけなんじゃないの? お姉様ってば
「はいはい姉妹喧嘩は辞めてくれ……。 いいよ、俺が向こうに座るから」
席を立ち向かい側へ移ろうとしたのだが、レミリアとフランそれぞれ別の視線が気になって仕方がない。
こうも視線が気になると、僅かな良心が痛む。
結局二人の視線に押し負け、そのままの位置で食事を摂ることになった。
座り直し食卓を囲むと、何ともご満悦な表情。
まぁ、喧嘩に発展しなかっただけましか……。
傍で弾幕ごっこでも始められようものなら、たまったもんじゃない。
お互い、昨日は首を絞めて来たり遊びで殺そうとしてきたというのに……何なんだこの変わり様は……。
吸血鬼とは、俺の想像以上に恐ろしい存在なのかも……。
「ご馳走様でした」
「お粗末さまでした」
豪華な朝食を終え、ほっと一息つく。
紅魔館の家事全般を咲夜が担当しているようだが、料理に関しても文句の付け所がない程美味しいものだった。
小さい頃から料理を手伝ったり自ら作っていたりした経験がある為、それなりに料理に関する心得や知識はあるのだが、これに関してはぐうの音も出ない程。
味付けから食材の選択、そして見栄え。
どこを取っても、非の打ち所なんて出てこない。
これ程までに美味かつ豪勢な食事を毎食摂ることが出来るだなんて、ここの住人は何と幸せなことか。
「お嬢様、食後の紅茶はいかがなさいますか?」
「用意して頂戴。 そうねぇ、今の気分は少し甘めがいいわね」
「咲夜ー私甘いのがいい!」
「かしこまりました。 貴方はどうする?」
「レミリアと同じやつで」
食後のアフターサービスまであるとは……。
これだけで職に出来そうな気もする。
「ねぇ、折角の執事服なんだし、お嬢様って呼んでみなさい?」
「俺そういうの苦手なんだよなぁ……。 誰かに様付けなんて出来ないよ」
「いいからやりなさい。 今の私は気分がいいし、多少の失言は許してあげるわよ」
「お、お嬢……くっ。 ……レミリア」
「なんでそんな不服そうなのよ。 わざとやってるでしょ」
「ねぇねぇ、私は私は?」
「どうしたフラン?」
「もー!! 私もきちんと妹様なりお嬢様って呼んでよー!!」
「俺にどんなキャラ期待してんだ。 無理なものは無理なんだって」
本当に苦手なんだよなぁ……。
相手が誰であっても、砕けた話し方しか出来ない。
ましてや、相手の容姿は十歳にも満たないであろう子供だ。
咲夜や美鈴が、心底凄いと思うよ。
「章大程じゃないけど、貴方も十分身の程知らずでしょう? こう、飼い慣らしたくなるのよ」
「私はお兄様にしても、おもちゃでもどっちでもいいよ?」
「今凄く物騒な単語が聞こえた気がするんだけど、気のせいか?」
「確かに、こう生意気な
「勝手に遊び道具にすんな! 人外の化け物ならまだしも、玩具扱いはいけ好かん」
「吸血鬼が人間の血を吸い尽くすと、吸われた人間は死ぬ事も幽霊になることも出来ず、ゾンビ状態になった後に溶けちゃうんだってー。 ゾンビ状態のまま保存してあげよっか?」
「絶っ対にお断りだ!!」
人情の宿ったゾンビなんてごめんだ。
そんな喜劇の様な場面には決してならないだろう。
死ねるなら楽に死なせて欲しい。
天国にも地獄にも行けなさそうな気はするが。
そうこうしている内に純白のティーカップ達が、テーブルへと運ばれていく。
やはり食器の一つ一つが丁寧に手入れされており、汚れや
カップに注がれるのは、鮮やかに透き通ったオレンジ色の紅茶。
漂う甘酸っぱい香りは……
それぞれの前に紅茶が出され、三人揃ってその表面を見つめていた。
「本日はアップルティーをご用意させて頂きました。 妹様のお口には甘さが物足りないと思うので、ジャムやミルク、砂糖にハチミツとご用意しておりますので、混ぜ合わせる際はお申し出下さいね」
「こっちは炭酸水か? 暑さが出てくる時期には、さっぱりしてて口当たりがいいとは聞いてたけど」
「よくご存知で」
「へぇ紅茶にも、そんな飲み方があるなんてね」
「恭哉すごーい! ねぇねぇ、私の分作ってよ!」
「咲夜にやってもらわなくていいのか?」
「妹様がそれを望んでいますから、貴方が引き受けて下さい」
まさか、こんなことも回ってくるとは。
といっても飲み方を知っているだけで、配合なんてしたことないんだけどなぁ……。
炭酸の度合いが強いのか弱いのかで、量は変わっては来るんだろうけど……。
空きグラスを探していると、いつの間にか目の前に用意されていた。
まるで元からそこにあったのかにも思える光景に、思わず関心してしまう。
……タネのない手品の様だ。
グラスに炭酸水を少し移し、口に含んでみる。
どうやら、こちらは普通の炭酸水の様だ。
炭酸特有の苦味が、ほんの少し前に出てきているぐらいか。
この感じだと、紅茶は多い方が良さげか。
目分量で合わせていき、これまたいつの間にか手元にあったマドラーでかき混ぜて行く。
紅茶の質が良いのか、かき混ぜるだけでも茶葉の心地良い香りが漂ってくる。
十分に混ざり切った所で、少しだけ試飲。
……これぐらいなら、フランでも大丈夫そうだな。
「出来たぞーって、それ俺が飲んでたグラス」
新しいグラスを用意する前に、先程試飲に使ったもので既に飲み始めていたフラン。
いつの間に取ったのやら……。
「ちょっとしゅわしゅわしてるけど、美味しい! お姉様も飲んでみなよ」
「私は後でいいわ。 まずはそのままの味を
いや、見た目は子供だけどな。
年齢はともかくとして。
まぁ、美味しく仕上がったのならそれでいっか。
レミリアと同じく、ティーカップに注がれたままの紅茶を口にする。
口当たりはすっきりとしていて、飲みやすい。
林檎の酸味が奥深く広がり、
ただ……もう少し甘さが欲しい。
咲夜が一緒に用意したジャムやミルク、砂糖や蜂蜜があれば甘さが足される訳だけど……正直言うと、少し取り辛い。
甘味を加えようとして、手を伸ばした際に子供扱いされるのが嫌なのだ。
何ならコーヒーとか飲めないし。
紅茶は辛うじて飲むことが出来るのだが、ストレートティーなるものは到底無理な訳で。
どうにか、どうにかバレずに加える方法は……。
ミルクはまず選択肢から外される。
理由は単純で、見た目が変わってしまう。
砂糖も溶け切らないことが
選択肢は一つ……蜂蜜しかない。
色合いも似ているし、覗き込まなければバレないはず。
レミリアとフランはいいとして、問題は咲夜だな。
この場を見守るようにして、レミリアのすぐ後ろに立っているからだ。
当然、その隣に座る俺の姿はバッチリと視界に入っている。
こうなれば……
「どうしたの、進んでないわね。 もしかして……この甘さが感じられないのかしら?」
「い、いやそんなことないぞ? フランの分を作ってたから、少し飲むのが遅くなって……」
「さっきからハチミツを見てるけど、欲しいの? 取ってあげようか?」
「だ、大丈夫!! ――あっ!! 快晴の空にUFOが!!」
「そんなもの居ませんから、取りたければハチミツを取ってください」
完全にバレていた……。
恐るべし、紅魔館連中……。
「あらあら、お可愛い執事だこと」
「恭哉もまだまだ子供だねぇ」
「うっせぇ!! っていうか、いつ執事になるって言ったんだよ!」
「えっ!? 違うの!?」
「違うわ!!」
「朝から騒がしいな。 恭哉、パチュリーの所で話がある、行くぞ」
「えっ、お前いつから居たんだ?」
「さっさとしろ」
えー俺の意見は無視ですか……。
全く、無愛想な奴。
誰も居なきゃぶん殴ってやるのに。
「ってことらしいからごめんな。 ちょっと行ってくるよ」
「今日は遊べないの?」
「やることが終わったら、また遊ぼうな。 きっと戻ってくるよ」
「しばらく部屋は開けておいて上げるから、絶対に戻ってきなさい」
「分かった、それじゃ。 咲夜もご馳走様、美味しかったよ」
それぞれに軽く挨拶を告げ、部屋を後にする。
「さて、色々と聞きたいことが山積みなんだけど」
「俺も同じだ。 パチュリーは大図書館で待っている、そこに行くまでにある程度情報交換だ」
どうやら、紅魔館には図書館なる場所もあるようだ。
本当、どうなっているのやら……。
少し距離があるらしく、数分程歩かねばならない。
思えば、幻想郷の住人以外と居るのは、初めてかもしれないな。
「フランから聞いたけど、俺がこの世界に流れ着く前にこの世界に居たらしいな。 どういうことなんだ?」
「それは俺も引っ掛かる所だ、何故お前との来訪に時が空いたのか……。 この世界に流れ着く前のことは覚えているか」
「……悪い、殆ど覚えてないんだ。 金髪の女と、目の前が真っ暗になったぐらいしか覚えていないな」
「それだけか?」
章大の返答に、黙ったまま頷く。
その様子から察するに、章大は他の何かを覚えているのかもしれない。
「俺も全てを把握は出来ていない。 幻想郷に流れ着く前、確かに俺たち全員は行動を共にしていた。 そして、誰かに導かれ、古びた神社に向かった」
「神社? それも古びた場所か……近くにそんな場所なかったぞ?」
単に建物だけが古びている訳ではないらしい。
神社にある
「その誰かってのが、金髪の女か……。 他には何か覚えてないのか?」
「何度か記憶を探ってみたが、それ以上のことは分かっていない」
「そうか……。 十日間も空いたのは、どういうことなんだろうな」
「いくつか考えられるが……
「一体、誰が何の為に……。 昨日の様子を見て気付いたかもしれないけど、俺はこの世界では自分の能力を完全に扱えないんだよ。 それについては、どう思う?」
少し頭を悩ませた後、ゆっくりと口を開く章大。
歩を進めながら、小さな
何やら意味不明な数字や文字列。
確か……術式?
「外部から、特段何かを施されている訳ではないな。 この世界と元の世界との環境も大きく違っているのも、原因の一つだろう。 直に調子は戻る」
「章大はいつから使えたんだ?」
「この世界に来訪してからも、変わらず扱えている」
「何だよそれ、俺なんて能力はともかく空すら飛べなかったんだぞ? 何で俺だけ……」
「日頃の行いのせいだろう。 他の皆も、この世界に流れ着いているのか、気になる所だな」
何だよ日頃の行いって。
そんなに悪くない……と思いたい。
俺と章大を除いて、同じ境遇の中日々を過ごしてきた仲間は後六人だ。
その六人全員がこの世界に流れ着いていたとしたら……少しだけ、希望は見えてくる。
「あ、やっと見つけました! パチュリー様がお待ちですよ?」
前方から、小さく羽を動かしながらやってくる少女。
赤く長い髪を揺らし、頭と背中に
黒を基調とした気品ある姿をしており、悪魔の羽はとてもじゃないが似合っているとは言えないだろう。
何より、悪魔っぽくないし。
「
「あぁ、以前仰ってた方ですね? パチュリー様の所まで、ご案内致しますね」
「よく分かんないけど、よろしく」
小悪魔……が、名前なのか?
幾ら何でもそのまま過ぎるような……。
まぁ、大図書館まで案内して貰えるのなら、良いに越したことはないだろう。
幼い吸血鬼に、瞬間移動の出来るメイドに、小さい悪魔。
確か精霊魔法がどうとか言っていたから、恐らくパチュリーは魔法使いで間違いないはず。
見た目は武闘派な気もするが、人は見かけに寄らず、という言葉もあるぐらいだ。
今度聞いてみるか。
「やけに広いけど、この館はどうなってるんだ?」
「咲夜さんのお陰ですね。 咲夜さんがこの館の空間を操作して、外観よりも内装が広いんですよ!」
「空間を操作か……それって別次元を往復することも出来たりするのか?」
「うーん、それは出来なかったはずですねー……。 咲夜さんは、時を操ることが出来るんですよ」
時間と空間操作か。
ようやく、あの瞬間移動のトリックが分かった気がする。
瞬時に移動したのではなく、俺たちの時間を止め、その間に移動する……これが、瞬間移動の原理だと思う。
いざ敵対することになった時、かなり厄介な相手になりそうだ。
目に見えている場合なら、反射神経で避けられる確率は上がるだろう。
しかし、こちらの時間を止め、解除された時に既に攻撃をされている場合もある。
こちらの動きが止められている以上、抵抗することは出来ない。
どこまでの規模を操ることが出来るのかは分からないが……昨日は、運が良かった。
パチュリーが、あのタイミングで現れなかったら、傷はより多く、深いものになっていたはず。
悪運が強いのか、天に見放されていなかったのか……。
どちらの表現が正しいのか、正直分からない。
「えっと、恭哉さん……で、いいんでしたっけ?」
「うん、合ってるよ。 章大から何処まで聞いてるは分かんないけど、こっちの世界じゃただの人間と変わらないから、お手柔らかに」
「そんなー、取って
……今、魔族の血って……!?
章大の奴、まさか喋ったのか……。
そのことを聞いてみると。
「お前、話したのか?」
「もう一つの血液の正体を迫られたからな。 話しても問題ないだろう?」
よくも勝手なことを……。
いつもの無愛想な一面はどこに行ったんだか……。
魔族の血とは、俺の体内に流れている人間とは違う、もう一つの血の正体だ。
一度、敵対する種族である「
その際に、人間としての性を半分捨てる代わりに魔族の血を体内に流すことで、一命を取り留めることが出来た。
元々身体能力は高い方だったらしいのだが、この血のお陰でより限界を高めることに成功し、今の状態に至る……という訳だ。
「まだ色々お話したいことはありますが、ここが大図書館になります。 奥でパチュリー様がお待ちです」
小悪魔に連れられ、一際大きな扉を潜る。
中は薄暗く、
辺り一面が全て本棚になっており、様々な本が並べられている。
この場所が大図書館と称されるのも、納得だ。
「中には
「どういう本なんだ?」
「魔導書はその名の通り、魔術に関しての書物だ。 他にも
「やけに詳しいな……」
「興味深い書物が多くてな。 すぐに帰ることが出来ない以上、この世界の情報をより多く集めておく必要がある。 その為の材料だ」
「不思議なことに、章大さんは魔導書の解読が出来てしまうんですよね。 私ですら、あまり得意ではないというのに」
「大半は術の内容や演算方法ばかりが記されているからな。 ルーティーンさえ覚えてしまえば、誰でも読める」
辺りを見回しながら奥に進んでいくと、一際大きい場所へと出た。
先程の場所よりも明るく、目を
いくつかの長机と椅子があり、ここが本を読む際に使う場所だと、小悪魔が言っている。
館中を飛び回る妖精の数も加えれば、妥当な広さなのかもしれないな……。
「遅かったじゃない。 昨日はよく眠れた?」
「お陰様で。 それで、何かあったのか?」
「貴方たちのことでね。 いくつか気になる所もあるし、今後の動きの役に立てばと思ってね」
「協力してもいいのか? 俺はこの世界に起きている異変の首謀者だって、疑われてるんだぞ?」
「そうは思わないから、よ。 レミィから頼まれてる事でもあるし」
レミリアが……?
この世界に起きている異変のことは、耳にはしていないと言っていたが……。
俺との話が終わった後に、もしかすると情報が入ったのかもしれない。
それでいて、疑われていないのなら……これ程、心強いことはない。
ただし、まだ完全にとは言えないのも事実だ。
まだ、油断は出来ない。
「先に聞きたい。 恭哉も言っていたが、今この世界で何が起きている?」
「妖怪は人間を襲い、人間は妖怪を退治する。 これがこの世界に定められている法則よ。 けれど最近妙なことに、見慣れない妖怪が増えていてね」
その見慣れない妖怪は、人間だけでなく妖怪すらも襲うという。
言い換えるのなら、それが正しいだろう。
「それらに規則性はないわ。 スペルカードも通用するし、個々の力はあまり強くはない。 でも」
「まだまだ未知数である為、一点に集まった時にどうなるか分からない……と言ったところか」
「そういうこと。 外の世界からの来訪者、つまり貴方たちが現れた時期と、見慣れない妖怪が出現した時期が、丁度重なるのよ……奇妙な程にね」
言い返す言葉もなく、黙り込んでしまう。
見慣れない妖怪、か……。
……幾ら何でも、事が上手く当てはまり過ぎている気もした。
俺たちがこの世界に流れ着き、着いた先では異変が起きる。
とてもではないが、自然的に起こったことではないと思う。
元の世界に帰る為の手段を見つけることも重要だが、その前に黒幕を引きずり出さなきゃならない。
――必ず、見つけ出してやるからな。
「どうかしました? 浮かない顔をしてますけど……」
「あー……悪い、ちょっと考え事。 異変の詳細を聞いてるとさ、本当に自分が無関係なのかどうか、少し分かんなくなって」
「無関係ならば、それを曲げずにいればいい。 関与しているのなら……解決すればいい、ただそれだけのことだ。 お前らしくもないぞ」
章大の言うことは、十分に分かっている。
その通りだ。
だが、無関係であるという確証はない。
それに、ずっと首謀者ではないと言い張ってきたが……それを真実だと言ってくれる人物が、何処にいる?
パチュリーたちは、俺が首謀者であるとは思っていないと言っていたが……。
「パチュリー、魔法で恭哉を調べられないか? 何故能力が使えず、封じられているのか」
「出来るかは分からないけれど、いいわよ。 魔方陣を描くから、そこに立ってて」
色々なものが煮え切らないまま、パチュリーの言う通り指定された場所に立つ。
すぐに魔法陣が現れ、目には見えない不思議な感覚が身体中に押し寄せてくる。
しかし、その感覚はすぐに感じられなくなってしまった。
「嘘、魔法が解けた……?」
「この感じ、
章大が言うには、普通反転術式というものは、自然的に発生するものではないらしい。
術者、つまり人の手が加わらない限り、有り得ない事象なのだ。
ということは、この世界に流れ着く途中で、誰かが能力に対し反転術式を施した……?
世界を破壊するだとか、神の領域に達する様な能力ではない。
炎を自在に操ることが出来るだけ……ただそれだけのことが、この世界にとってデメリットでも生じるのか……?
「どちらにせよ、俺の能力は使えないってことか……。 昨日のことは、奇跡って所だな」
「そういえばやけにボロボロだったわね。 何があったの?」
レミリアと美鈴にしか話してなかったんだっけ。
傷を負った経緯と、この世界に行き着いてからのことを順に話した。
「能力が封じられていて尚、あの眼か……。 封印を解くことは出来そうだな」
「本当か!? どうすりゃいい!?」
「慌てるな、まだ理論上での話だ。 どの道、ある程度の時間は要する。 その間、自分の身は大事にするんだな」
「ごもっとも。 それで、俺たちがこの世界に行き着いた理由は、何だと思う?」
「恐らくだけど、何らかの能力が関わっているのは確かなのよ。 それがどれであるのか、まではまだ行き着いてないんだけど」
そう簡単に、真相には辿り着けないってことか……。
それにしても、異世界に行き着いてしまう能力か……。
随分と迷惑な能力だよな。
「まぁ、少なくとも私たちは協力するつもりよ。 どんな存在であれ、ね」
「こちらとしても、敵対する気はないからな。 宜しく頼む」
「私はずっと恭哉の味方で居てあげるから、恭哉はずーっと私のおもちゃで居てね?」
「はいはい……ってフラン!? お前いつの間に……」
気が付けば、膝の上に座るフランの姿があった。
何も感じなかった為、声でようやく気付くことが出来た程。
「あら、本でも取りに来たの?」
「うん! もう全部読んじゃったから、新しいの借りに来たの。 こぁ、何かいい本はない?」
「うーんそうですねぇ……少し、探して来ますね」
羽をはためかせ、
この場所には、一体何冊の本があるのやら。
「レミィも言ってたけど、フランにここまで気に入られるなんてね」
「何なんだろうな、俺もよく分からん」
「レミリアこそ、何故こいつを生かす真似をしたのだろうな」
「たまにだけど、お前味方なのか敵なのか分かんなくなるんだよなぁ……」
確かに、章大の言うことは気になる所だ。
度胸を買ってくれたのか、紅魔館に居る間は生かしておくとは言っていたが……。
それ以前に、何故休める場所を提供したのかも分からないでいる。
結局聞きそびれたからなぁ、教えては貰えなさそうだけど。
「さて、そろそろ出掛けるぞ。 情報収集だ」
「出掛けるってどこに」
「人里に、この世界の歴史を知る者が居るらしくてな。 俺たちの他にも、何度か似たような事例があったそうだ」
「そいつから話を聞こうってことか……。 行ってみる価値はありそうだな」
似たような事例ってことは、他にも別世界から幻想郷に流れ着いた人間が居るってことか。
今も尚生活しているのかは分からないが、もし帰った手段も歴史として残されて居るのなら……それを再現すればいい。
章大の魔術は健在だし、時空を
思っていたよりも早く、元の世界には戻れそうだな。
「人間の里に行くのね、私も同行する!」
「フラン……って、またレミリアに何か言われないか?」
「大丈夫、何か言われたらお姉様なんて、ぶっ飛ばしてやるし」
「こら、姉に向かってそんな言葉使わないの」
フランが現れたと思ったら、お次はレミリアのご登場。
それも俺のすぐ後ろに……何で?
「ねぇねぇお姉様。 私も出掛けてきてもいい?」
「駄目よ。 昨日、能力が暴走して辺り一体焼け野原になったらしいじゃない」
「そんなことしてないもん。 恭哉も何か言って!」
そういえば、フランはまだ昨日のことを知らないでいたんだった。
自分が気に入っている者を、自らが傷付けた。
いくら吸血鬼とはいえ、心は宿っている。
少なからず、ショックを与えてしまいかねない。
だが、レミリアにはそのことを告げているし、どちらを取ればいい……?
正直に話してフランを傷付けることも、誤魔化してレミリアから反感を買うことも避けたい。
折角生かされた生命だ。
出来るだけ、大事にしておきたい。
「いい? 恭哉の傷も、元はと言えば貴女が付けたものなのよ。 その、何もかもを壊す能力でね」
「私が……? そんなことしないよ……。 だって、恭哉は私の……」
フランが、こちらを見つめている。
その視線に対し、何も言葉が浮かばない。
「だって、恭哉の怪我は
「貴女を気遣った嘘よ。 本当は、貴女の暴走を止める為、助ける為にその身を張ったのよ。 能力も封じられている癖にね……これ以上、迷惑を掛けさせる訳には行かないの」
「……バカ……。 お姉様も、恭哉も……もう知らない!!」
「フラン!!」
呼び止めようとするも、すぐ隣をすり抜けていく。
昨日とは違う、悲し気な背中を目で追うことしか出来なかった。
本当に、これで良かったのか……?
「何故、本当のことを?」
「あの子の能力は、私でさえ手が付けられないものよ。 だからこそ、私たちの目の届かない所で、能力を使われる訳には行かないからね」
同じ吸血鬼でも、フランの潜在能力は姉のレミリアさえも
自ら閉じ篭ったことも一つの理由ではあるが、本来ならば誰も手が付けられない能力を持つフランを、地下に
これが、フランが外に出ることが出来なかった、本当の理由らしい。
何重にも張り巡らせた魔法による結界や、力を抑制する為の束縛の魔法。
それらを持ってしても、フランは一度地下を抜け、霊夢や魔理沙と出会った……と、レミリアが言葉を続けた。
「悔いても仕方がない。 俺たちは成すべきことをするまでだ」
「待てよ。 フランのあんな姿見て、このまま人里に行ける訳ないだろ!!」
「ならば、お前に何が出来る。 要らぬ干渉は避けろ」
「……章大!!」
無意識に章大の胸ぐらを掴み、声を荒らげていた。
その光景を見たレミリアは、静かに告げる。
「フランは私が何とかしておくから、貴方たちは出掛けてらっしゃい」
その場を