東方幻奇譚 ~the Eighth Fantasy. 作:TripMoon
悪魔ではあるものの、
紅魔館内では「こぁ」という呼称を貰い、門番を務める
大図書館で魔導書を読み漁る
互いに会話も交わさぬまま、ただ真っ直ぐに……。
――脳内には、一つの映像だけが流れている。
七色の羽と
先程見たそれが、ただ鮮明に流れていて……。
昨日の夜、正直に事を告げていたのなら、また結果は変わっていたのだろうか……?
しかし、そんなことさえ出来なかった。
昨日今日出会ったが、相手は人間ではない。
それでも人間と同様に、心を持っている。
たとえどんな形になっていたとしても、傷付けたくなかった……。
「聞いてるのか」
口を閉ざしたままだった筈の
「悪い、聞いてなかった。 どうしたんだ?」
「いつまでそうしているのかと聞いたんだ」
「……そのことか。 仕方ないだろ」
「全く……。 必要以上に感情を移入させるから、くだらないことに
「……何だと。 おい、もう一回言ってみろ!!」
立ち止まり、章大の方を
その視線に気付いたのか、章大も振り返りこちらを向く。
「何度でも言ってやる。 くだらないことだとな」
怒りが込み上げてくる。
握り締める拳も震え、血が
「その眼だ、それでいい」
思いがけない光景に、つい力が抜けてしまう。
一瞬前の自分の心情が、まるで嘘の様に。
「お前、何の為に?」
「らしくもない
章大の思う真意が、よく分からない。
頭を悩ませたまま、章大の方へと向かった。
「何をそこまで
「お前には分かんないよ。 人間じゃねぇんだから」
「その言葉、そのまま返すぞ」
いや、俺まだ人間だぞ。
章大の中に宿る魂は、レミリアやフランが生きている年月よりも長く現世に存在している。
正確な年数は覚えていないが、千年は超えていた筈だ。
当然、自分の知る存在など、当の昔に亡くなっている訳で……。
「結構前に言ったことあるだろ、何年か会ってない妹が居るって。 フランはさ、少し
「それがどうかしたのか」
「えっ、まだ分かんないのか……」
一体どれだけ
といっても、何と説明するのがいいのやら……。
異世界で偶然出会った少女と、頭の中で忘れられないでいる妹の存在を重ね合わせてしまっていて……。
なんというか、自分の思っている以上に大事にしてやりたいというか……。
――駄目だ、言葉が出てこない。
「まぁ、お前が不審者であることは分かった」
「あぁ!? んだとてめぇ!!」
「それ程馬鹿騒ぎ出来るのなら、本題に入るぞ」
こいつ……!!
元の世界に帰るまでに、絶対ぶっ飛ばしてやる!!
二度と出歩けないようにしてやるから、覚悟してろよこの陰湿野郎……!!
「人里には行ったのか?」
「少しだけな。 確か、団子を
「……もう少し、緊張感を持てよ……」
「そういう堅っ苦しいのは任せた。 章大は?」
「何度か足は運んでいる。 これから向かう所は、まだ行っていないがな」
そういえば、この世界の歴史を知る者が居ると言っていたが……。
簡単に異世界の住人に、己の世界のことを話してくれるのだろうか。
章大は問題ないと言ってはいるが、どうも信用に欠ける。
普段から、何を考えているのか分かんないからなこいつ。
しばらく歩いた後、見覚えのある景色が広がっていた。
人々が
まさか、連日同じ場所に行くことになるとは……。
昨日の団子……は我慢するか、お金もないし。
「
「寺子屋? なーんか聞いたことあるような……」
「現代の言い方をするなら、学校だ」
学校か……苦手な場所だ。
授業なんて聞いていられないし、屋上で寝るか学校を抜け出すかのどちらかの方法だけで、過ごしていた気がする。
「つまり、そこの先生から話を聞くってことか?」
「そうなるな。 ただ、俺たちが外の世界の来訪者であるということと、危害を加えないということを証明するものが必要だな……」
「それもそうだな、俺なんて首謀者って疑われてるし」
「話し合いだけで済む相手ではあるだろうが、念の為所持しておきたい所だな」
そんな都合のいいものなんて……。
と思った矢先のことだ。
突然目の前に差し出される一枚の紙の束。
独特の匂いと色合いからして、新聞紙か?
「えーっと、ぶん……まる? なんて読むんだこれ」
「
この声どこかで聞いたことがあるような……?
顔を上げてみると、にこにことしながら新聞を差し出している一人の少女。
昨日見た服装とはまた違うが、この顔付きは覚えている。
「確か、
「よく覚えていて下さいましたね! いやー嬉しい限りです。 おっと、絵になりますし一枚失礼しますよっと」
「勝手に撮るな」
章大の様子を見る限り、文のことは知らない様だ。
昨日の今日のこともあり、嫌という程頭に残っている。
……そうだ、文に聞かなきゃならないことがあるんだった。
「なぁ、この世界に起きている異変のことは知っているんだろ?」
「あや、恭哉さんもご存知でしたか。 何やら見慣れない
「スクープがどうだかは知らないんだけどさ。 昨日分かったことなんだけど、その異変の首謀者が俺だって疑っている奴が居るんだ。 そのことについて、何か知らないか?」
「うーん、そういった情報は聞いていませんし、記事にした覚えもありません。 第一、能力のない人間にそんな芸当出来ませんしね。 ガセネタもいい所です」
文の言葉に、そっと胸を撫で下ろした。
これで、文への根拠の無い疑いも晴れたし、情報が広まる心配もなさそうだ。
となると、昨日怪しんでいたのは
「その見慣れない妖怪というのは?」
「その名の通りです。 って、
「知り合いというか、仲間なんだ。 昨日偶然会ってさ」
「なるほどなるほど……ふむふむ。 そういえば昨日、恭哉さんとはぐれた後、
「本当か!? どこで会ったんだ?」
美里 結衣。
章大同様に、俺たちの仲間だ。
頭は切れるし、この世界でも機転を効かせて、何処かに居そうだな。
これで八人のうち三人が、この世界に流れ着いてしまっていることが分かった。
文にそのことを聞いてみるも、どうもタダで教えてくれそうにもない。
ずる賢そうに笑う姿が、妙に目に触る。
「密着取材一回で手を打ちますよ? 外の世界からの迷い込みなんて、何年振りか覚えてませんし、結構評判よかったんですよねー」
「何年振りかということは、やはり過去にも似た事例があったということか……。 興味深いな。 恭哉、取材を受けてこい」
「なんで俺だけ。 初対面なんだから、お前が受けてこいよ」
「断る。 人柱になる気はない」
「あのー、そんな人体実験みたいな言い草、辞めてもらえます?」
そんな生贄みたいに言わなくてもいいだろうに……。
うーん、どうしたものか……。
取材を受けている時間なんてない、だが結衣のことも気になる。
「その取材とやらは、急がねばならないものか?」
「いえ、お時間はあまり頂きません。 もちろん、私からの情報提供は取材の後になりますが」
「場所さえ指定してもらえれば、後で俺が
「取材を受けてもらえるのであれば、私から言うことはありません。 では『
一瞬にしてその場から姿を消す文。
そういえば、
変装もしているし、正体がバレる心配もないだろう。
便利に出来てるなーこの世界は。
しかし、章大自らが取材を受けるとは思ってもいなかったことだ。
何か意図がありそうだけど……。
「不本意ではあるが、仲間の安否を確認する方が先だろう。 それに、お前には吸血鬼との問題もある。 寺子屋での用事が済めば、それをするといい」
「余計な干渉は不要なんじゃなかったのか?」
「あくまでも俺にとってのことだ。 お前とは違う」
「はいはい。 んじゃ、お言葉に甘えさせてもらうよ」
素直じゃねぇ奴。
人里の中を数分程歩いた頃だろうか。
子供と思しき姿が、続けてある建物から走って行くのが見えた。
中には人間らしくない者も居たが。
「あそこが寺子屋なのか?」
「確証はないが、行ってみるか」
その場所に近付いて行くと、中は何やら話し声で賑わっていた。
扉は見当たらないが、見上げる程に大きい暖簾がぶら下げられている。
これが扉代わり……な訳ないか。
辺りを見回してみるも、入口らしき場所は見当たらない。
「それでは、また後で伺いますね! 失礼しま――って、章大!? なんでここに!?」
「その声、
玲香って……?
声のする方に振り向いてみると、そこには見慣れた姿があった。
目の前に居る少女の名前は、
黄色味の強い茶色の長い髪に、ベージュ色のベストと灰色のミニスカート。
丸く大きな瞳と目が合うと、目の前の人物は次第に涙を浮かべ始める。
こちらが口を開けようとする前に。
「恭哉……だよね!? 良かった……生きてて……! 会いたかったよー!!」
「勝手に殺すなって。 後、抱き着いてくんな」
「魔理沙って子から聞いたんだよ? 腕を怪我したって……」
「いつの間に……。 後、暑苦しいから離れろ!」
腕で玲香を引き剥がす。
どうやら、魔理沙に会っていたらしい。
玲香が言う通り、魔理沙の弾幕によって、片腕に火傷の様な怪我を負っていた。
昨日の章大の応急処置によって、傷は塞がっているけど。
玲香がいつそのことを魔理沙から聞いたのかは分からないが、章大の様に数日前からこの世界に流れ着いていた訳ではなさそうだ。
「玲香はここにどういった用事が?」
「えーっと……何だったっけ……。 あ、今度人形劇を手伝うことになって、その話をしに来たの!」
「に、人形劇……?」
思いがけない事柄に、少し力が抜けそうになった。
そもそも、玲香にそんな趣味は……あったのかも。
「かわいいもの」が好きとか言ってたな確か。
「章大たちは誰かと会った?」
「いや、まだ恭哉と玲香だけだ。 天狗の話では、どうやら結衣もこの世界に居るらしいが」
「本当!? あ、私は
京一か……。
実の弟で、俺とは真逆の性格をしている。
魔理沙と一緒ならば、少なくとも無事だろう。
他人に喧嘩を売るタイプではないし、魔理沙も無闇に挑戦状を叩き付ける人柄でもないだろうし。
「で、この場所は?」
「寺子屋だよー。 二人は何しに来たの?」
「上白沢 慧音という人物に会いに来た。 この世界について、更に調べる必要があってな」
章大の返答に、玲香は変に納得した様子を見せる。
どうやら、先程建物内で話していたのが、その上白沢 慧音という人物のようだ。
この寺子屋で教師をしており、里の子供達へ教えを説いているらしい。
人柄も良く、玲香が外の世界の人間であっても
その事を聞いて、こちらも安心出来そうだ。
「あーでも、今慧音先生授業中かも……」
「慧音に用事か?」
「あ、
「いや大丈夫。 慧音は教室に行っちゃったし」
暖簾から顔を覗かせる人物。
銀色の長い髪に、赤と白の小さなリボンが点々と付いている。
暖簾を潜り外へと姿を現すと、何とも特徴的な服装だ。
白のブラウスに赤いオーバーオールの様なズボン。
それでいて、どこか上品さを感じる衣服だ。
玲香の奴、意外に顔が広いな……って、俺も人のこと言えないか。
「そうだ、紹介するね! こっちが章大で、こっちが恭哉!」
「恭哉……あー、
「鈴仙……あの兎っ子?」
その問いかけに、首を縦に振る妹紅と呼ばれる人物。
「私は
「助かる。 玲香からも言われていたが、切崎 章大だ。 そっちの阿呆そうなのが海藤 恭哉」
「自己紹介ぐらい自分でさせてくれよ……。 えーっと、その慧音って人にこの世界のことを聞きたくて来たんだけど……」
「成程な……。 後二時間ぐらいは授業で手一杯だろうから、その後にでも来てよ」
「分かった、宜しく頼む」
妹紅に別れを告げ、章大と玲香と共に寺子屋を後にする。
二時間か……何をして時間を潰そうか。
「二時間か……お前たちはどうする? 俺はこの近くにある
「貸本屋? そんなのあるの?」
「あぁ。 『
「いつの間に行ってんだか……。 玲香はどうするんだよ」
「私はアリスの所に戻らないと行けないから、一緒には行けないかも。 また進展があったら教えてよ、しばらくこの世界に居なきゃならないかもだし?」
「それもそうだな……。 俺は適当にぶらついておくよ、何かしたい気分じゃないし」
「分かった。 では二時間後、ここで落ち合うとしよう」
「でも、携帯使えないんだよねー……。 私「
章大と玲香の二人は、それぞれ違う方へと歩いていく。
玲香が言うように、しばらくの間はこの世界に留まることになるだろう。
たとえ帰る方法が分かったとしても……だ。
関係の無いことかもしれないが、少しでも世話になった世界で異変が生じている。
それを無視したまま帰る程、冷たい人間だとは思っていない。
といっても、戦えないんだよなーこれが……。
そういえば、玲香は章大同様に能力は扱えるのだろうか?
聞くことを忘れていた。
少し立ち止まった後、俺も寺子屋から離れることにした。
さて、また一人の時間がやって来たが、考えなきゃならないことは山ほどある。
フランのことも、この世界の異変のことも……。
なんて話すべきかな……。
レミリアが何とか取り繕っておくとは言っていたが、人任せにはしていられない。
かといって、正直に話すことも出来なかったし……。
何と情けないことか……。
ふと、後ろを振り返る。
行き交う人々しか見られないが、気になる気配が一つ。
(この感じ、ただの人間っぽくはないんだよなー……)
こちらをじっと見つめているかの様な気配。
不思議と恐怖感はないが、こそこそと見られるのは気分が悪い。
何度か歩を進め再び振り返ってみるも、気配は変わらずだ。
一定の距離を保ったまま、こちらが進むのと同じように身を
追いかけるのはまだしも、追いかけられるのは嫌いなんだよなぁ……。
仕方ない、振り切るか……気は乗らないけど。
足を止め、何度か周りを見渡してみる。
やはり気配と視線は変わらずに後ろにある。
軽く深呼吸をした後、地面を蹴り前方を駆けていく。
行き交う人々をかわしていき、細い路地へも入っていく。
動きを
左、右と入り込んでいくも、すぐに行き止まりの場所へと行き着いてしまった。
まぁ、土地勘なんてないもんな……。
上を見上げれば、飛び上がれば届く高さに
壁を足場に伝っていけば、登れるか……?
反動を殺さぬ様屋根へと登り、不安定な足場の中を走り抜ける。
思ったより滑るんだな、瓦って。
屋根の下に居る人々が足を止め、こちらを見上げているのが横目で分かった。
何かを話す声も聞こえてくるが、上手く聞き取れない。
っと、もう屋根が途切れる所か。
少し姿勢を低く構え、瓦の終着点で地面を目指し飛び上がる。
身に浴びる風が、少しくすぐったい。
こんな感覚、久し振りだな……。
スピードが落ちない程度に受け身を取り、再び地面を駆ける。
後方に注意を向けると、先程よりは遠いものの、あの気配は確実についてきている。
……結構やるじゃん、何処の誰だか知らないけど。
そろそろ走るのも飽きたし、正体を拝むとするか。
再び狭い路地へと入り、薄暗く壁に覆われた場所へとやって来た。
屋根には登らず、じっと息を潜める。
ゆっくりとではあるが、まだ追ってきている。
視界にその姿が入った瞬間だった。
壁際に押し込み、その人物を睨み付ける。
片腕を前に突き出し壁に手を付く、逃がさないようにな。
本当、追いかけ回されるの大っ嫌いなんだよ。
「何か用か。 喧嘩なら買ってやるけど」
「今回はそういうのじゃないって! 声で分からない?」
何故か慌てた様子で、敵意がないことを示してくる人物。
声に関しては、どっかで聞いたことがあるような……。
けれど、今耳にしているように穏やかな声色ではない。
もっとこう……静かで迫力のある感じだったと思う。
「えっ、本当に分からない?」
「名前も知らない奴の顔なんて、分かる訳ないだろ?」
「人里であまり正体を
そういって、ゆっくりと笠を脱ぎ始める。
首を何度か振り、淡い紫色の長い髪と見慣れない白い兎の耳が現れる。
それに、この引き込まれそうな
思い出した……!
あの時の……!
「これで分かった?」
「嫌という程。 で、何の用なんだ。 昨日の続きでもやるつもりか?」
「今回はそういうのじゃないって言ったじゃない。 と、とりあえず腕を
「えっ? あ、あぁ悪い悪い」
突き出していた腕を離し、目の前に居る人物……鈴仙と向き合う形に。
ほんのりと頬が赤いのが気になったが、それはまぁいいだろう。
鈴仙は昨日、
だが何故なのは分からないが、昨日の様な
兎の耳を除けば、ただの女の子にしか見えない。
ここの世界の住人って、そういうの多くないか……?
「何で後ろなんかつけてきてたんだ」
「薬売りの最中に、たまたま見かけたの。 昨日のことも含めて、話がしたくて」
「それならそうと、声掛けてくれれば良かったのに」
「昼間の人里で、人間以外が堂々と正体なんてバラせないのよ。 絶対に『あの時の兎!!』とか言うでしょ?」
うっ……よく分かってらっしゃる。
そんなに単純かなー俺って……。
「話の前に、あの剣を持ってる人は何!? 私が後をつけてたことを、最初から分かってたみたいなんだけど……」
「あーあいつか。 バカみたいに感が鋭いというか、抜け目ないというか。 不用意に近付かない方がいいぞ?」
「気を付けます……。 あ、昨日の薬は飲んでくれた?」
去り際に鈴仙から受け取った錠剤型の薬。
ある程度の傷なら治せるといっていたが……。
章大の治癒術による治療もあって、存在をすっかり忘れていた。
確かポケットに……。
「それが飲むの忘れててさ」
「お師匠様特性の栄養も取れる治療薬なんだから、きちんと飲んで! さぁ!」
「いやいや近付きながら言ってくんな! 飲む、飲むから!!」
そういうと、すっと身を引く鈴仙。
見た目は普通の薬っぽいが……毒とか入ってないよな……?
仮にも、昨日襲ってきた身だし。
「……って、昨日襲ってきた人から貰った薬なんて、普通飲めないわよね」
「正直な……。 でも、あんたは何か敵っぽく見えないし、有難く頂くよ。 その前に、名前だけ教えてくれればだけどな」
「名前? どうして?」
首を
「名前さえ分かれば、信用するよ。 それで仮に失敗したとしても、自分の責任だしな」
「随分と変わった考え方よねそれ。 まぁいっか……鈴仙よ。
「鈴仙……う、うどん? ……イナバ? それで名前なのか?」
「名前なんかで嘘つく人なんて居ないわよ。 後、呼ぶなら鈴仙にしてね。 お師匠様や姫様以外に、
「分かった、気を付けるよ。 んで、人里に流れてる川の水って飲めるのか?」
「えぇっ!? そのまま飲もうとしないわよあんなの!」
「そう言われてもなぁ、水ないし」
見た感じ綺麗だったんだけどな、人里の川。
東京の川とは大違いだ。
水は透き通っているし、薄らと小魚の影も見えていたぐらいだ。
沢の水と見間違える程だったし、普通に飲めそうなんだけどなぁ……。
どう水を調達するか考えていると、鈴仙がそっぽを向いたまま水筒を差し出して来た。
「す、少しあげるわよ。 口付けてるけど……」
「昨日疑ってた奴を信じていいのか? 飲み口を舐め回すかもしれないぞ?」
「え、嘘っ!? そういうことする人……?」
「いや普通に冗談……。 流石にそんな
「だよね、私も冗談のつもり。 そんなことする様には見えないもの。 私も貴方を信じてみる」
「……ありがと。 知ってるとは思うけど、
瓶の蓋を開け、錠剤をいくつか手に取る。
鈴仙曰く、一回で二つから三つでいいらしい。
口に含み、水で流し込んでいく。
流石に水の味は一緒だな。
飲んでいる間、じっとこちらを見る鈴仙の視線は気になったが……。
「即効性はないと思うけど、すぐに効いてくると思うわ」
「普段薬なんて飲まないからなぁ……実感はないけど、ありがとな」
「どういたしましてっと、少し時間あるでしょ?」
「そういや話があるんだっけか。 用事まで時間あるし、付き合うよ」
寺子屋に集合するまで、まだ時間がある為、鈴仙と共に行動することになった。
昨日のことも含めた話か……。
聞き出せることは、少しでも多く聞いていた方がいいかもな。
裏の路地を抜け、再び人々の行き交う賑わった道へと出てきた。
隣には笠を被った鈴仙の姿もある。
あの大きな耳と長い髪を束ねて、傘で隠しているみたいだが……大変そうなことをしているよな。
幻視や幻覚が、彼女の能力なのかは定かではないが、耳だけでも人々の視界に干渉されなくしてしまえば、もっと楽だろうに。
そういえば、薬売りの最中だって言ってたけど……大丈夫なのだろうか?
「なぁ、普通に鈴仙って呼んで大丈夫なのか?」
「もちろん。 変装してても、周りからは兎だってバレてるし」
「意味無くないかそれ。 髪の毛とかも癖ついて傷むだろ?」
「薬売りは仕事だからね、相応の服装じゃないと駄目なの。 恭哉の方こそ、おかしな服装してるじゃない」
「あーこれか。 執事服らしいんだけど、堅苦しいったらないんだよ……もっと楽なのがいい」
「それだけ前開けてて、堅苦しいって……」
いやいや、そんなに開いてないって。
……開いてないよな?
「そんなこと言うなら、昨日の鈴仙のスカートが短いのだって一緒だろ?」
「そ、そんなとこまで見てたの!? ……やっぱり、変態?」
「ぶっ飛ばすぞお前……! 目を閉じて戦える程、器用な人間じゃないんだよ……」
「それもそうよね。 それより、昨日のあの炎ってどうなってるの? スペルカードっぽくなかったけど……」
「あれはなんていうか……
昨日のフランとの闘い。
正直、奇跡的に能力を扱えた時のことは、はっきりとは覚えていない。
自らの意思に反して動いていた……そんな気がする。
それより、俺としては「スペルカード」という物の方が気になる所だ。
今まで出会ってきた人物の全員が所持しているであろうスペルカードだが、その実態がどういったものなのか。
主に戦闘に用いられる物なのなら、ある程度把握はしておきたい。
少なからず、今後も弾幕戦に巻き込まれることはありそうだしな……。
スペルカードについて、鈴仙に尋ねてみる。
すると、数枚の紙を手渡してきた。
目を通してみると、何やら難しい漢字がチラホラ……。
「スペルカードっていっても、単なる契約書に過ぎないのよ。 技や名前は頭に入っているしね?」
「ってことは、この紙自体に力が宿ってる訳じゃないってことか……。 えーっと、
「近眼花火(マインドスターマイン)ね」
「ま、マインド……? あ、こっちのは読めるぞ!
「ざーんねん、平行交差(パラレルクロス)でした~。 因みにそっちのは望見円月(ルナティックブラスト)、その次にあるのが幻朧月睨(ルナティックレッドアイズ)ね」
「はぁ!? ずるいぞそんな読み方!!」
「えぇ……。 かっこいいと思うんだけどなぁ」
鈴仙からすれば、この読み方は格好いいらしい。
なんというか、独特のセンスだな……。
スペルカードとして使用するには、予め自分で技の名前やそれを体現する技を何通りか考えておくらしい。
そして、この契約書に記すことで、初めてスペルカードとして認められるようだ。
先述した通り、書き記す行為さえ終えれば、この契約書は単なる紙に変わってしまう。
本人以外が他人のスペルカードを使用することは、限りなくゼロに近い確率で不可能だそう。
弾幕の形も様々で、ナイフや
攻撃的な面よりも、美しさを重視するらしく、無闇やたらに殺意溢れるものは存在しないようだ。
まぁ、能力が暴走してしまったフランの弾幕は除くんだろうけど。
「恭哉なら、このかっこよさが分かると思ってたのになー」
「俺にどんなキャラ期待してるんだよ……。 まぁ、そのまま読むよりかはマシなんだろうけどさ」
「でしょ!? それに、技名なんて凝っていた方がいいと思うのよね」
「そんなもんか?」
うーん、イマイチ分かんないな。
技の見た目が派手な方が格好いいと思うけど。
……はっ、まさか鈴仙と似たような思考なのか……!?
「んー、
「どうしたんだ、そんなキョロキョロして」
「あぁ、知り合いの団子屋がね。 折角だから、案内しようかなって。 あーあっちも忙しそう……」
「まだ時間あるし、少し後で来てみるか。 それより、聞きたいことがあるんだ」
「私に? 変なことじゃなかったら、答えるわよ?」
「変人扱いすんな。 けど、出来たら場所を変えたいな……二人で話したいんだ」
「ふ、二人!? え、えーっと……いきなりそういうのは……」
「言っとくけど、聞きたいのは昨日のことだからな。 人が多いとこで、何で異変の首謀者って疑ったんだ、なんて言える訳ないだろ?」
「あーそっちの話ね、そうよね……。 なら、さっきの場所に戻りましょうか」
来た道を一度引き返し、再び人気のない場所を目指すことに。
何故か不機嫌そうな鈴仙は気にしない気にしない……。
先程の薄暗い場所へと戻り、周りに誰も居ないことを確認する。
誰かが路地へと入ってくればすぐに分かるだろうし、ここなら問題ないかもな。
壁に背を預け、口を開く。
「異変のことについては、俺も少しは聞いているよ。 けど、どうして俺自身が疑われるのか……それが分からないんだ」
「正直、私もよく分かっていないのよ。 妖夢さんに連れられただけというか……」
「なんだそれ……。 じゃあ、俺のことを知ったのは誰から?」
「天狗の新聞と、妖夢さんから直接」
文の新聞……?
今は章大が所持している為、確認は出来ないが……特段、異変についてのことは書いていなかったはずだ。
第一、文は俺が疑われていることを知らなかった。
となると、妖夢が……?
もしそうだとしたら、昨日の段階で間違いなく首を
わざわざ己の無力さを見せたり、膝まで付いたというのに。
しかし、逃がす様な形を取った。
――まだ、目には見えていない黒幕が居るかもしれない。
何が何でも、引きずり出してやる……!
「おーい、怖い顔になってるわよ?」
「……知ってる。 それじゃあ、鈴仙は何も知らなかったってことでいいんだな?」
「そういうことになるのかな。 もちろん、私はもう疑っていないし」
「……そっか、ありがと」
鈴仙の言葉に、つい顔が
こんなにも安心することなんて……何時振りだろうか。
ずっと、異変とは無関係だと周りにも自分にも言い聞かせていた。
しかし、心の底では自らのことも疑っていたんだ。
誰にも悟られぬ様に、誰からも気付かれない様に。
そんな中で、自分のことを信用してくれているという言葉。
たとえ、出会って間もない人物であっても……凄く心強くて、嬉しく感じる。
まだ、異変の幕すら引いていないんだ。
能力が封じられていたとしても、前を向かないとな……。
「そんな
「俺だってまだ人間だからな」
「理由になってるのそれ。 あ、さっき聞きそびれたんだけど、あの炎は熱くなかったの?」
「自分の能力で火傷する程、未熟じゃないよ。 あの能力とも、色々あったんだ」
「へぇ……。 ねぇ、良かったら聞かせてよ、その昔の話」
「あぁ、いいぜ。 聞かれてもマズい話じゃないし、もう一回戻りながら話すか」
昔のことか……。
さて、何処から話したもんか……。
再び、昼の日差しが照らす道へとやってきた。
先程より、少し人波は落ち着いた頃だろうか?
歩きやすさや、周りからの視線もあまり感じられない。
それでも目立つよなー、不良執事と笠被りの兎なんて。
「恭哉や他の人達も、あんな風に炎を出したり出来るの?」
「そんな所かな。 俺は炎だけで武器もないけど、他の皆は水だったり雷だったり、それぞれが契約した属性の能力を持ってるよ」
「契約? スペルカードみたいな感じ?」
「うーん、それとは少し違うかな……。
鈴仙は、イマイチぴんと来ていないご様子
物がなければ分かり辛いよなぁこればっかりは。
今の俺は自由に能力は扱えないし……。
玲香なり章大なり居れば、実際に見せることが出来るんだろうけど。
因みに玲香の核はペンダントで、章大の核は鞘に納められている剣そのものだ。
俺も最初は指輪状だったのだが、身体に埋め込む際に宝石状へと姿を変えている。
「他にも
「確かに、私の動きにも動じなかったもんね。 そうそう、こう見えても私、元々
「月の都って何処の話だ?」
「そのまんまよ、夜になったら夜空に浮かぶお月様と一緒」
「え、マジで!? 月に兎が居るって本当だったのか……!」
「そ、そんなに驚くこと……?」
「当たり前だろ! 俺たちの世界じゃ、月では兎達が餅をついているって言い伝えがあったぐらいだからな」
小さい頃、よく聞かされていた。
まさか本当の事だったとは……。
これは、ある意味で嬉しい……かもしれない。
「で、玉兎ってのは?」
「月に住む兎達のことよ。 その中でも、私は「月の使者」に属したエースで――」
「なぁ、あのうさ耳生えた子、こっちに手振ってないか?」
「もう、少しぐらい褒めてくれても……って、本当だ。 行きましょ?」
鈴仙に腕を引かれ、手を振る兎の少女の元へと向かう。
肩の少し下あたりまで伸びる、
鈴仙と同じく
服装はよく見えないが、髪の色と似た衣服を着ている様だ。
手を振る動作と共に、ぴくぴく動く耳が少し可愛らしい。
思ったけど、あの耳って柔らかいのかな?
「やっほー鈴仙! 仕事の休憩中?」
「やっほー清蘭。 休憩というか、今日は売る量も少なかったからもう終わったのよ」
「へぇーサボってた訳じゃないのか。 ってどうしたの鈴仙! 男の子と一緒に居る!?」
昨日、華扇に同じことを言われていた少女が居たなそういえば。
改めて、
「いやー君も
「たまたま会っただけなんだけどな。 ん、いい匂いがする……」
「清蘭と、向こうで
「ぐぅ、何で負けちゃうのかなー」
「二人で売上を競ってるらしいのよ。 私はどっちの団子も好きだけどね」
どうやら目の前のこの子、清蘭と鈴仙のいう鈴瑚という子は、鈴仙と同じく玉兎であり月の都出身だそう。
「イーグルラヴィ」と呼ばれる調査部隊の一員であり、過去に鈴仙と戦ったことがあるらしい。
同じ兎同士なのに、戦うのか?
餅つきの役割で揉めたとか……いや、流石にないか。
「ねぇ、ちょっと食べてみてよ! お代は鈴仙持ちでいいからさー」
「こら、勝手にお客を出しに使わない!」
「えー鈴仙はよく食べてるから、舌が肥えてるでしょ? 初めて見る人なら、きっといい感想くれるよ! はい!!」
そういって串に刺さった団子を手渡してくる、清蘭という少女。
昨日もそうだったが、この世界では団子が流行っているのだろうか?
まぁ、俺たちの世界でも大衆的な食べ物だし、そこは変わんないか。
見た目は昨日と変わらないみたらし団子だが……。
一切れ食べてみると、餡の甘さが独特というか強すぎるというか……。
粘り気も強いし、片栗粉と醤油、砂糖の比率が合っていないのだろう。
そのことを清蘭に告げてみる。
「ふむふむ、その比率が違うのかー……。 ありがとう! 早速改良してみる!!」
「一つ食べただけなのに、そこまで分かるの?」
「よく料理してたからそのせいかも。 団子を一から作ったことは無いけど、大体の味で分かるよ」
「へぇー。 ねぇ、今度何か作ってよ、食べてみたいし」
「機会があればな」
「あ、鈴仙だけずるいぞー!」
「分けてあげるから、それでいいでしょ?」
兎同士の会話って、こんな感じなのか。
人間と変わんないな。
首謀者として追われてなきゃ、いい世界なんだけどなぁ……。
その後も話が弾み、玉兎の事や月の都のことについて、少し聞くことが出来た。
幻想郷のことではないが、土産話にはなるだろう。