東方幻奇譚 ~the Eighth Fantasy.   作:TripMoon

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登場人物紹介


木ノ内(きのうち) 玲香(れいか)
幻想郷に迷い込んだ人間の一人で、恭哉(きょうや)の仲間。
感情の浮き沈みが激しく、ムードメーカー的存在。
「かわいいもの」には目がなく、自室も自分の思う「かわいい」で溢れている。
魔法(まほう)(もり)」に身を置いているらしく、寺子屋(てらこや)まで足を運んだ際に、恭哉と章大(しょうた)と再会する。
双銃(そうじゅう)魔術(まじゅつ)を扱うが、どちらかというとサポートの方が好みのようだ。


藤原(ふじわらの) 妹紅(もこう)
(まよ)いの竹林(ちくりん)」で迷った人や病人を医者の元へと連れていく、ボランティア精神溢れる蓬莱人(ほうらいびと)
上白沢(かみしらさわ) 慧音(けいね)と親しく、寺子屋で長話をすることも。
一見難しそうに見えるが、内面は親切心溢れ気が良い女の子。
鈴仙(れいせん)から恭哉たちのこと聞き心配している様子。
しかし恭哉の能力が自由に扱えた際には、同じ炎を得意する者として、一戦交えたいと思っているらしい。


清蘭(せいらん)
(つき)(みやこ)で調査部隊「イーグルラヴィ」として働いていたが、少し前の異変後は、人里で団子屋「清蘭屋(せいらんや)」を営んでいる。
明るく陽気でノリが良く、人里で知り合いを見つけてはよく談笑しているご様子。
同じ境遇である鈴瑚(りんご)と団子の売り上げを競っているが、一歩及ばず負け越している。


第8話 歴史識る者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まいどありー! 鈴仙(れいせん)またねー!」

「また来るわー」

「君もありがとね! また食べにおいでよ」

「ご馳走様。 お金が出来たら寄るよ」

いくつか団子を買い終え、清蘭(せいらん)が営む団子屋「清蘭屋(せいらんや)」を後にする、俺と鈴仙。

もう一人の玉兎(ぎょくと)である鈴瑚(りんご)と呼ばれる兎の営む団子屋「鈴瑚屋(りんごや)」は、相変わらずの繁盛(はんじょう)っぷりらしい。

何でも味に(こだわ)っているようで、人里の住人を始め、幅広く支持を受けている様。

清蘭の方も売上こそ負けているものの、甘味処(かんみどこ)が立ち並ぶ中、(つき)(うさぎ)が営む団子屋ともあって、盛況(せいきょう)を迎えているそうな。

まぁ、実際にあれば面白いもんな、そんな店。

金銭の受け渡しの場面を見ていたが、見慣れない小銭を使用していた。

鈴仙に聞いてみると、この世界の通貨の最小単位は「(もん)」と呼ばれているらしい。

他にも銀貨を表す「(もんめ)」や「(かん)」、金貨を表す「(りょう)」などがあるようだ。

何処か聞いたことのある単位だが、上手く思い出せない。

章大(しょうた)辺りなら分かるか?

これで、財布は完全に役に立たないことが分かった。

かといって、捨てる訳には行かないけどな。

「そろそろ時間だっけ?」

「多分な。 寺子屋まで戻るよ」

「分かった、そこまで送っていくわ」

団子を持ったままの鈴仙と、寺子屋まで向かうことに。

それにしても、こんなにたくさんあるとは……食べ切れるのだろうか?

そういや、お師匠様がどうとかって……?

「あ、これ全部食べる訳じゃないわよ?」

「甘味ぐらいなら、別腹とかで食べれるんじゃないのか?」

「流石にねぇ。 お師匠様たちへのお土産よ、中々人里まで出てこれないからね」

「その『お師匠様』ってのは?」

八意(やごころ) 永琳(えいりん)

鈴仙に「優曇華院(うどんげいん)」という名を与え、自らを変えてくれた恩人だと言う。

材料さえあれば、ありとあらゆる効能を持つ薬を作ることが出来、鈴仙(いわ)く「天才」という言葉が似合う唯一の人物らしい。

永遠亭(えいえんてい)」と呼ばれる場所で医者として務めているらしいが、主に急患や奇病等の治療に当たっている様だ。

昨日魔理沙(まりさ)が連れていこうとしていた医者というのは、おそらくこの人物のことかもしれないな。

また、主に薬学や雑学、一般的な教養を鈴仙に教えているらしい。

鈴仙の話を聞く限り、かなりの頭脳を持つ人物であるとすぐに分かる。

もちろん章大とは比べ物にならないぐらい、な。

あいつもかなりの知識を持っているが、あくまでも自分が必要とするものに限る。

次元が違う、そういった方がいいのかもしれない。

「昨日倒しそびれた奴と歩いている所なんて見られたら、怒られるんじゃないか?」

「まさかー。 お師匠様が今回のことをどう見てるかは知らないけど、少なくともお師匠様たちも恭哉のことを疑っているとは思わない」

「その師匠も、俺たちのことを?」

「面識はないにしろ、知っているはずよ? そういえば、小さい子が紛れ込んでた様な……美春(みはる)ちゃん、だったかな?」

「美春は無事なのか?」

「もちろん、怪我一つないはずよ。 なんたって、お師匠様の元に居るんだし」

良かった……。

鈴仙の言葉に、ほっと一息付いた。

篠原(しのはら) 美春(みはる)玲香(れいか)と同じで俺たちの仲間だが、仲間の中では非力な方に入る。

戦闘系の魔術(まじゅつ)等は苦手で、主に治癒術(ちゆじゅつ)招来術(しょうらいじゅつ)でのサポートを担当していた。

本人も臆病(おくびょう)な一面がある為、最も心配される一人でもある。

しかし、鈴仙が言うことが事実なら、傷付くことも何かに(おびや)かされる心配もないだろう。

これでこの世界に流れ着いたのが六人か……。

鈴花(すずか)賢太(けんた)の二人は、未だ不明か。

まだ合流出来ていない皆も、無事でいるといいけど。

異変の首謀者という疑いも、掛けられるのは俺だけでいい。

何とか、無事で……。

「あ、そろそろ着くわよ? あ――」

「遅かったな。 既に待ってもらっている、急げ」

 

 

 

 

 

「悪いな、遅くなって。 鈴仙もありがと」

「う、うん。 それじゃあ、また!」

何故か駆け足気味に去っていく鈴仙。

その理由はさっぱり分からない。

「知り合いか? ずっとお前をつけていたらしいが」

「それも含めて話してた。 あんま(おど)すなよ?」

「何もしていない。 ただ、お前を追いかけ回さない方が、身の為と忠告を入れたまでだ」

「それだよそれ、それが駄目なんだって」

「ほらー早くー! 慧音(けいね)先生と妹紅(もこう)さん待ってるよー!?」

暖簾(のれん)から顔を覗かせる玲香に催促(さいそく)され、寺子屋の中に入っていく。

誰かの所に戻るから来れないんじゃ……?

そのことを尋ねると、どうやら二つ返事で了承してくれたようだ。

元の世界に関わることだし、引き止められる義理もないだろうけど。

玲香に連れられ、寺子屋の中を歩いて行くことに。

中は木造になっており、都会から外れた昔の校舎を彷彿(ほうふつ)とさせる内装になっていた。

もちろん実際に見た訳ではないが、そんな雰囲気が漂っている。

魔法を初めとした他の世界とは異なる異文化は発達しているものの、機械技術や電子系の技術などは地球には劣るのかもしれない。

一昔前の街並みが残っているのも、何か意図があるのだろうか。

まぁ、住めればなんでもいいけどさ。

扉が開かれたままの部屋を横目に覗いてみると、中は教室そのものだった。

どこか懐かしくも思える。

奥へと進み、玲香に通された、一際大きい部屋へと入る。

先程会った妹紅という人物と、見慣れない人物が二人。

一人は銀色の髪に所々、青いメッシュが入っており、見慣れない帽子を被っている。

いや、被るというより乗せてるのか……?

群青色にも見える服装で、胸元が大きく開いている。

い、いやこれは……流石に、開き過ぎじゃないか……?

目のやり場に困るんだよなぁこういうの……。

もう一人は小柄で、紫色の短い髪に白い花飾り。

若草色(わかくさいろ)の着物に、黄色の長い袖を羽織り、赤い(はかま)を履いている。

なんていうか、動き辛そうだな……。

外見だけなら歳下っぽいけど、フランやレミリアの例がある。

もしかすると、この子も数百歳……ということも有り得る。

「待っていたよ。 妹紅から話は聞いている、どうぞ座ってくれ」

「すまない、時間を少し押してしまったようだな」

「そう(かしこ)まらないでくれ。 玲香から、二人のことは軽く聞いているよ」

快く迎え入れられ、それぞれ対面する形で座布団に腰を下ろす。

部屋を見回してみると、様々な書物や掛け軸等、今の時代では(おが)む事の出来ない代物(しろもの)ばかりが視界に入る。

もちろん、俺たちの世界での話だが。

漫画やこういった書物などは全てが電子状のデータに変換され、電子機器一つでありとあらゆる書物を読むことが出来る。

字を書くことも、全て液晶の文字を指で触れればその文字が打たれる。

墨や筆なども、もう持つこともないだろう。

「何か気になりますか?」

「あーいや、見慣れないものばっかだからさ?」

「ふふっ。 宜しければ、後でごゆっくり見ていって下さいね」

「玲香から(うかが)っているだろうが、改めて名を名乗っておこう。 切崎(きりさき) 章大(しょうた)、隣の馬鹿が海藤(かいどう) 恭哉(きょうや)。 周知の通り、木ノ内(きのうち) 玲香(れいか)を含め、外の世界から迷い込んだ者だ」

「おい、流石にそれはスルーしないぞ」

「こちらも妹紅から聞いていると思うが、私は上白沢(かみしらさわ) 慧音(けいね)。 隣が藤原(ふじわらの) 妹紅(もこう)、そして稗田(ひえだの) 阿求(あきゅう)。 この稗田寺子屋(ひえだのてらこや)で、私は教師を、阿求は書物の執筆を担当している」

「私はただの付き添いだから、適当に。 で、何が聞きたいの?」

くっ、見事にスルーされた……。

見た目はともかく、服装だけならまだ賢そうだろ。

執事服なんだし。

「俺たちの他に、恐らくだが五人の仲間がこの世界に流れ着いている。 ここを訪ねたのは、この世界の歴史を知りたいと思っている」

「歴史をか……それは何故?」

「私たちの様に、過去に外の世界から幻想郷に迷い込んでしまった人が居ないのか、知りたいんです。 その後どのようにして、元の世界へ戻ったのか……または、この世界に移り住んだのか。 慧音先生に聞けば、分かると聞いたので」

「成程な。 事情は分かった、私たちで提供出来る範囲のことは教えよう。 しかし、二つ条件を設けたい」

章大の前に座る人物、慧音が出した一つ目の条件は、この世界で起きている異変のことについてのようだ。

俺を除き、それぞれが個々に異能力を宿していることを知っているらしく、そのことを含めこちら側からも話や情報を聞き出したいとのこと。

この世界の妖怪のことは知らないが、この世界に流れ着いてからのことを事細かく聞いておきたいらしい。

断る理由もなく、それを快諾する。

そして、もう一つの条件は……。

「恭哉、だったかな? 君とは、別のことで話をしたいと思っている。 此度(こたび)の話し合いが終わってからで構わないのだが……どうだろうか?」

「俺に? ……分かった」

もう一つの条件は、俺と個別で話がしたいとのことだ。

内容は聞かされていないが……良いことでない確率の方が高そうだ。

引きずっていても仕方ない為、一度頭の中を払拭し、話し合いへと臨んだ。

 

 

 

 

 

「さて、何処から話したものか……」

「まず俺たちの他に、この世界に別世界の住人が流れ着いた例は存在するのか?」

「過去に何度か存在しているよ。 しかし、その殆どはこの世界に移住している記録しか残っていないんだ」

「一人一人のことを記録することは出来ないんです。 その為、この世界に残った人物は分かりますが、他のことは何も」

「その人たちの名前を聞くことは出来ますか?」

「えぇ、もちろん。 ですが、現存するのはただ一人です。 たまにこの世界へ訪れる例外の方もいらっしゃいますが……」

「ほぅ……。 そちらも教えてもらいたいな」

玲香の前に座る人物、阿求から名前を聞くことが出来た。

外の世界出身で、今も尚幻想郷で暮らす少女、東風谷(こちや) 早苗(さなえ)

そして度々この世界へ訪れる人間、宇佐見(うさみ) 菫子(すみれこ)

阿求から聞くことが出来たのは、この二人のみ。

この世界に移住している東風谷 早苗という人物も気になるが……。

今の段階では、宇佐見 菫子という人物の方が気になる所だ。

「度々この世界へ訪れる」ということは、何度か自らの世界と幻想郷を行き来していることになる。

名前こそ聞いたことはないが、外の世界のどの辺りに住んでいるかによっては、有力な情報源になりうる。

「その二人が、よく訪れる場所などは分かったりしないか?」

「東風谷 早苗、もとい守矢(もりや)の巫女は「守矢神社(もりやじんじゃ)」に住んでいる。 妖怪の山に建てられているが、索道(さくどう)で繋がっている為、迷うことはないだろう」

「もう一人、菫子さんに関しては特定の居住地はありません。 しかし、何度も幻想郷に行き来しているので、会うことは難しいことではありませんね」

「菫子に関してなら、私が取り繕ってもいいぞ。 かなり頭が切れるし変わった奴だから、取っ付きにくいかもしれないけどね」

「ならば、そっちに関しては俺が向かう方が良さそうか。 守矢神社の方は、玲香に頼みたい所だが」

「私? 大丈夫だけど、恭哉じゃなくてもいいの? 私より怪しいかもしれないけど、実力は確かだし……」

「その『実力』が、この世界では役に立たない。 何者かによって、封じられている可能性が高くてな」

章大が告げる事実に、玲香は驚嘆(きょうたん)の声を上げる。

絵に描いた様に、信じられないという顔をしていた。

慧音と妹紅は驚かず、その様子をじっと見据えている。

阿求はというと、小首を(かし)げ不思議そうに見つめていた。

「あのー、御三方(おさんかた)の異能力というのは、一体どういうものなのでしょうか?」

「私も気になるね。 慧音からは、この世界では珍しいタイプだって聞いてたけど」

「私は(みず)原素(げんそ)を使った、水系魔術(みずけいまじゅつ)水霊術(アクエリア)召喚術(しょうかんじゅつ)かな。 章大は特定の原素は使わないけど、他の属性原素を魔素(まそ)に変換させて闇系魔術(やみけいまじゅつ)術式闇影(アポカリプス)と、剣術を主体とした戦闘スタイルだったよね?」

「要約すれば、玲香は水を、俺は影と闇を操る能力だと思ってもらえればいい」

「恭哉さんの異能力は、何になるんです? それに、封じられているというのは?」

「そのまんまの意味だよ。 真炎剛爆ノ核(パイロキネシス)、炎を操れるんだけど、この世界じゃ何故か扱えないんだ」

考えられる方法で調べてみたが、第三者により封印されている可能性が高いと、章大が言葉を続ける。

それについて返ってきた答えは、慧音、妹紅、阿求の三人とも能力を封印することの出来る妖怪には心当たりがないらしい。

この返答には、更に頭を悩ませる他ない。

封印することが出来ないのなら、何故……?

「章大と玲香は、自分の異能力に対し、違和感を持った覚えはあるのか?」

「最初は術式の演算が少し遅れるぐらいで、その後は何も。 元の世界に居る時と同じように扱えますよ?」

「俺は特段変わった覚えはないな。 そして何故か恭哉の能力だけが、意図的に封じられていることになる」

「炎を操ることなら、私の妖術(ようじゅつ)でも出来るからね。 過去に起きた異変の方が、余程驚異的だと思うよ」

「妹紅の言う通りだな。 どのような方法で調査を?」

パチュリーの魔法と、自らの魔術のことを話す。

どちらも成果は得られずに終わり、詳細は謎のままだ。

玲香も、言葉をつけ加え始める。

本来、同じ(コア)によって異能力を手にしている俺たちは、互いに魔力を感知することで居場所が分かる様になっている。

魔力とは、誰しもが持っている不思議な力だが、使いこなす為には人間の手だけでは不可能に近い。

それぞれに対応した属性色を帯びている為、偽装も見抜くことが出来る。

玲香がこの世界に流れ着いた時、俺を除く四つの異なる魔力を(わず)かだがすぐに感知出来たらしい。

その為、俺との合流を果たした際に、あのように涙を浮かべたのだろう。

「へぇ、便利なもんだねぇ」

「恭哉自身に、変わったことはないか?」

「あり過ぎて困るぐらいだよ。 空も飛べないし、体内の魔力の流れも変に感じる。 昨日、一時的にだけど能力を使えたんだ。 でも、その後から体内の魔力が極端に減った様にも感じてる」

「もし誰かが意図的に封じたのであれば、恭哉さんはその一時的な間だけ、封印する能力を超える異能力を発揮した、ということになりませんか?」

「その説が有力かもしれんな。 現に、恭哉の魔力が減少しているのであれば、相違点が見受けられない」

「うおぉーって、力んだり出来ない?」

「それで封印が解かれるのなら、苦労しねぇよ……。 能力については話したし、次に聞きたいことがあるんだけど」

 

 

 

 

 

「この世界に迷い込んでしまうのは、自然的な現象なのか……もしくは、他の干渉による人為的なものなのか。 そのどちらなのかを聞きたい」

「どちらも有り得るな。 君たちの世界で言い換えるのなら、前者は『神隠(かみかく)し』となる。 後者に呼び名はないが、それを引き起こすことの出来る人物には心当たりがあるよ」

「神隠しって?」

神隠し。

天狗隠(てんぐかく)し」とも言い換えられるこの現象は、ある日人間が忽然(こつぜん)と姿を消してしまうことだ。

神が住まう場所……つまり神域(しんいき)に近い森や神社、山などがそれに該当する。

日本は発展が進み、かつて神が住んでいた場所も街に生まれ変わっていることもある為、街から姿を消すこともあるようだ。

日本には「八百万(やおよろず)(かみ)」という古来からの言い伝えがあり、文字通り八百万という神々が、この島国に住まうという意味だ。

……っていうのが、章大の説明。

俺にはさっぱり。

「この世界に行き着く以前のことは、何か覚えていますか?」

「俺と恭哉が覚えているのは、金色の髪を持つ女性と、()びた神社に居たということだけだ。 玲香は、何か覚えていることはあるか?」

「私も同じかな、金色の女の人に招かれて古い神社に連れてこられて……何か言ってた気がする。 確か「幻想郷(げんそうきょう)へご案内(あんない)」って言ってたような?」

「ご案内、か……。 まるで、こっちから君たちを招いた様な言い草だねぇ」

「既に聞いていると思うが、基本的に幻想郷と他の世界が干渉しあったり、行き来することは有り得ないことなんだ。 私たちも外の世界のことについては知らないし、外の世界側も幻想郷を認識することすら出来ない」

「だが、現に俺たちは迷い込んでる……根っこからおかしいってことか」

「神隠しである可能性も否定出来ないが、後者の方が気になるな。 意図的に神隠しを引き起こすことの出来る人物は、一体誰だ」

章大の問いに、(しば)し沈黙が流れる。

やがて慧音がゆっくりと口を開き、ある人物の名前を出した。

八雲(やくも) (ゆかり)

幻想郷を創り出し、この世界で最も古い妖怪とされている人物。

神出鬼没(しんしゅつきぼつ)であり、彼女の真意を知るものは極めて少ないらしい。

「全ての事象を根底から覆す、これが八雲 紫様の能力です」

「えーっと……どういう意味ですか?」

玲香と同じ意見だ。

言葉だけでは、どういった能力なのか全く想像もつかない。

「恭哉の能力で例えようか。 お前の能力の根源となるのは、火の原素だ。 その原素と魔力を使用することで、不可視(ふかし)の原素を視覚化する。 これが、真炎剛爆ノ核の原理になる」

「それぐらいは分かるよ。 根底から覆すって意味が分からない」

「言い換えれば、火の原素と魔力、そのどちらかが無ければ、真炎剛爆ノ核は機能しない。 だが、八雲 紫はそれを根底から覆す……つまり、火の原素や魔力も使わずに、炎を具現化(ぐげんか)することを可能にする。 それが、その能力の説明と言えるだろうな」

「章大の説明で間違いないよ。 全ての物事には「境界(きょうかい)」が存在し、それがなければ全ての事象は、一つの大きな塊になる。 そんな単純な論理でさえ、八雲 紫にかかれば新しい論理を想像しながら、論理を壊してしまうのさ」

「……慧音、多分章大以外誰も分かってないと思うよ?」

妹紅の言う通り、何一つ分からない。

章大の説明ですら理解していないのに、境界やら論理やら……。

頭が割れそうに痛くなる……。

「ま、まぁ、様々な妖怪の中でも極めて危険な人物、とだけ伝えておこうか。 ややこしくしてしまったのなら、その……すまない」

「後ほど、俺から簡単に伝えておく。 謝る必要はない。 その、八雲 紫という人物と関わりの深い者は?」

「まず、博麗(はくれい) 霊夢(れいむ)だな。 八雲 紫と共に異変解決に(のぞ)んだこともある。 そして、八雲(やくも) (らん)。 彼女に仕える式神(しきがみ)だ、人里に油揚げを買いに来る」

「あ、油揚げ……? 何でまた?」

「彼女の好物なんですよ。 因みになんですけど、恭哉さんたちの世界にも、妖怪(ようかい)という概念(がいねん)は存在するのでしょうか?」

「実在はしないけど、大体の奴は知ってるんじゃないかな」

「では、九尾(きゅうび)(きつね)はご存知ですか?」

「九尾の狐だと……? まさかとは思うが、それが八雲 紫の式神だと?」

阿求の説明によるとこうだ。

まず、式神という存在は、単体で存在しているものではないらしい。

妖怪や妖獣(ようじゅう)などの(たぐい)媒介(ばいかい)とし、式神と呼ばれる特殊な術を掛けたものを「式神」と呼ぶ。

こうすることで、術者の思う通りに強化したり、強大な実力を制御することも可能なようだ。

そして八雲 藍という式神は、「九尾の狐」を媒介とした式神であり「最強の妖獣」と、されている。

九尾の狐に関しては詳しくは知らないが、その話を聞いた章大だけが、神妙(しんみょう)面持(おもも)ちをしていた。

章大によると、九尾の狐は妖怪の中でも最上位に君臨(くんりん)する程に強力な妖力(ようりょく)を誇り、様々な伝説を残しているとされている狐。

名前の通り九つの尾が特徴で、古来絶世(こらいぜっせい)の美女と(うた)われた妲己(だっき)玉藻御前(たまもごぜん)などにも化け、人々の世を迷わせる悪しき存在らしい。

またある言い伝えでは、天界(てんかい)より(つか)わされた霊獣(れいじゅう)の一種である、という話もあるそうだ。

「八雲 藍に関しては温厚な性格だ。 嫌がらせでもしない限り、手を出してくることはないよ」

「嫌がらせですか? あ! 尻尾があるなら、もふもふするとか!?」

「呪われても知らないよー? 後、関わりがあるとすれば、あの不良天人(ふりょうてんにん)か?」

「あー……確かに関わりはありますけど、不仲もいい所ですからね……。 幽々子(ゆゆこ)さんは如何(いかが)です?」

「その、幽々子さんというのは?」

八雲 紫と旧知の仲である西行寺(さいぎょうじ) 幽々子(ゆゆこ)という人物。

白玉楼(はくぎょくろう)」と呼ばれる場所で暮らし、「冥界(めいかい)」の管理を任される亡霊(ぼうれい)

……って、亡霊?

既に死んでいるってことなのか?

妖怪や妖精(ようせい)だけではなく、まさか亡霊まで暮らしているとは。

この世界の住人が死んだら、一体何になるんだ……?

「西行寺 幽々子も、特段話が通じない相手ではないだろうし、八雲 紫について、何か聞き出せるかもしれないな」

「白玉楼には亡霊や幽霊が巣食うと聞いている。 ……仕方ない、そこも俺が行こうか」

「玲香ちゃんじゃなくてもいいの?」

「私お化けダメなんですよねー……あはは……」

顔を真っ青にしながら言う玲香。

妖怪は平気なのに、心霊系のものは駄目らしい。

……って、このままじゃ俺何も出来なくないか?

 

 

 

 

「なぁ、俺は何もしなくていいのか?」

「お前には吸血鬼(きゅうけつき)との問題があるだろう? それを終えたら、出来るだけ同じ場所に固まり、情報が揃うまで待機だ。 現に、お前は何度死にかけている?」

「実際生きてるからいいだろ。 変な疑いまで掛けられてるのに、じっとしておくなんてごめんだぞ」

「水を差すようだが、あまり命を粗末にするものではないぞ?」

「それは分かるんだ。 でも自分は何もしないで、代わりに誰かが何かをしてそれで傷付くなんてことがあったら、そっちの方が嫌なんだよ」

今のままでは、役に立たないことも十分に分かる。

それでも、自分の信念だけは曲げたくはない。

――隣から、何かを投げられる。

怪しげに光るそれは、引き込まれそうな程の紫色をしていた。

封魔結晶(ふうまけっしょう)大図書館(だいとしょかん)にある魔導書(まどうしょ)を参考に作ったものだ。 結晶内に大量の魔力を封じ込めてある。 本当に危機に面した時、それを使うといい」

魔力さえ回復すれば、もう一度一時的に封印を解き、能力を扱えるだろう、とのことらしい。

暴走したフランの力さえ(しの)がんとした程だ。

並の妖怪相手なら、敵にさえならない。

使い所は、考えておかないとな……。

「あの、(やぶさ)かではあるんですけど、恭哉さんと吸血鬼との問題というのは?」

「大した問題ではない。 レミリアの妹である、フランドールとのすれ違いがあってな」

その言葉を聞くと、驚いた様子を見せる阿求。

阿求の著書(ちょしょ)である「幻想郷縁起(げんそうきょうえんぎ)」という書物がある。

そこには幻想郷に存在する、ありとあらゆる妖怪について記している書物であり、代々受け継がれ、日々書き記されていくものらしい。

当然、そこにはレミリアやフランなどの吸血鬼のことも書かれている訳で。

妖怪と人間との関係性や友好度を知る阿求からすれば、紅魔館に暮らす人間以外の人間が、親密な関係を持つことが異端であり、驚く他ないようだ。

「フランドールさんが気に入るだなんて……これは、情報の修正が必要かも……。 私も一度お会いした事があるんですけど、そんな素振り一切なかったので」

「えっ? フランと会ったことがあるのか?」

「正確な情報を記さないと行けませんからね」

「そろそろ、次の話題に移りたいのだが、構わないか?」

慧音が持ち出した次の話題。

それは、幻想郷を現れた見慣れない妖怪たちのこと。

少なくとも俺の記憶には、その様な姿を見た覚えはないが……。

合流するまでの二人の動きは知らない為、こちらも気になる所だな。

「通常の妖怪というのは、皆人語を話すことが可能なのか?」

「話すことが出来るのは、ごく一部のみになるな。 何かしらの能力を施していたり、弾幕を用いたりと……中には、私たち同様にスペルカードを持つ者もいる」

「成程。 特段怪しい妖力を持つ者には出会っていないな。 この世界に流れ着いた際、試し斬りと魔術の試用で何匹か遭遇したぐらいか」

「私も最初に遭遇したぐらいかな? それからは、話せる人にしか会ってないかも」

「そうか……。 恭哉はどうかな?」

「俺も特には会ってないな。 嫌な雰囲気を感じることもなかったし……。 そういや、その見慣れない妖怪の被害はあるのか?」

「幸いなことに、まだ被害は出ていないよ。 博麗の巫女が出向いて退治していないこともあるから、まだ表立った行動には至っていないのだろう」

被害がないなら良かったか……。

このことを聞く限り、皆も無事なようだし。

「もし遭遇した場合は、悪いことは言わない。 無理に対峙せず、何とか逃げ切って欲しい」

「分かった……とは、素直に言えないな。 けど、無茶しないことは約束するよ」

「有難う。 さて、他に聞きたいことはあるかな? もしなければ、恭哉と個別で話をしたいのだが」

「俺は構わないけど、お前らは?」

章大と玲香、それぞれが首を横に振る。

急ぎで聞き出したい情報は入手したし、また分からない所が出れば、聞きに来ればいいだろう。

「俺はこの後、妖怪の山に向かう。 玲香はどうする」

「うーん、私も遅くなるって言ってるし、章大について行こうかな」

「妖怪の山か。 どんな用事かは知らないが、麓の所に先程言った東風谷 早苗が暮らす『守矢神社』があるよ。 時間があれば、寄ってみるといい」

「分かった。 すまないな、長居して」

「気にしないで、外まで送ってくよ」

「ありがとう妹紅さん! それでは、失礼しますね」

妹紅に連れられ、部屋を後にする二人。

その姿を目で追った後、慧音と阿求と向き合うことに。

「この世界に来たばかりなのに、すまないな。 呼び止める真似をして」

「気にしてないよ。 で、話ってのは妹紅が戻ってきてからでいいのか?」

「そうだな、少し待っていてくれ」

 

 

 

 

数分も経たぬ内に、妹紅が部屋へと戻ってくる。

先程とは違う、妙な空気感。

明るく談笑(だんしょう)する雰囲気ではない。

「さて……。 これから話す内容は、察しが付いていると思うが、君が異変の首謀者として疑われている件についてだ」

「やっぱりそれか……。 先に聞くけど、誰から聞いたんだ?」

「私が鈴仙ちゃんから聞いて、慧音と阿求に伝えたんだ。 もちろん、根拠なんてないし、疑っちゃいないけどね」

「私たちも同じ意見でな。 君たちの話を聞く限り、君たちの来訪と今回の異変が関係しているという可能性は、極めて低いと思う」

「俺もそう思ってるよ。 けど、それを証明するものがないんだ。 鈴仙の誤解は解けたようだけど、まだ妖夢には疑われたままだし」

昨日の夜のことを話す。

その話を聞き、真っ先に阿求が口を開く。

幻想郷縁起にも妖夢のことも記しているらしく、その事も踏まえた阿求の見解はこうだ。

まず、魂魄(こんぱく) 妖夢(ようむ)は「半人半霊(はんじんはんれい)」という種族。

文字通り半分が人間であり、もう半分は幽霊(ゆうれい)らしい。

人間に対しての接し方こそ危険が少ないものの、真っ直ぐ過ぎる性格故、よく他の意見に流されがち。

このことから、俺が異変の首謀者であるということは、妖夢自らが導いた答えではなく、第三者から聞かされた可能性がある……。

これが、阿求の見解だ。

慧音、妹紅共にその説が正しいと思うようで、同意見らしい。

「つまり、鈴仙ちゃんと同じで、根っから疑っている訳じゃないってことじゃないかな?」

「鈴仙より誤解を解くことは難しいだろうが、必ず疑いは晴れるはずさ。 無論、私たちで力になれることがあれば言ってくれ」

「助かるよ。 でも、妖夢の前にもう一つ解決しなきゃならないことがあってさ」

「先程言っていた、フランドールさんとのことですか?」

阿求の問いに、黙ったまま首を縦に振る。

あまり話してもいいものかと迷ったが、素直に事を告げてみた。

少なくとも、俺よりフランのことを知っていそうだし……。

「フランドールさんは、能力精神共に不安定な波があると推測しているんです。 なので、波が穏やかな時にもう一度話すことが出来れば、きっと分かって頂けますよ」

姉であるレミリアよりもどこか落ち着いており、冷静な判断も出来ると言葉を付け加えていた。

この点に関しては、フラン自身も言っていたことがある。

……単なる思い込みすぎで済めばいいんだけどな。

このまま関係が(こじ)れたまま、紅魔館に戻るのもどこか気分が悪い。

ここでの話し合いが終わった後、少し時間を潰して紅魔館に戻るとするか……。

阿求の言う通り、もう一度話せば、分かってもらえるかもしれないし。

「それにしても、吸血鬼相手に生きていることも奇跡的だが、まさか気に入られるとはな……」

「姉の方はワガママなお子様だからねぇ。 人妖問わず好かれるなんて、あの巫女みたいだね」

「巫女? それって、霊夢のことか?」

「あぁ。 雰囲気もどことなく似ている気もするな」

あいつとか……。

自分では分からないが、この世界の住人が言うのならそうなのか……?

「霊夢さんとお会いしたことは?」

「昨日会ってるよ。 何なら、博麗神社で目が覚めたんだ」

「成程……おそらくだが、恭哉が何故この世界に流れ着いたのか、ある程度の想像はついたかもしれないな……」

慧音によると、どうやら神隠しの他に「幻想入(げんそうい)り」という言葉が存在するらしい。

幻想入りとは、外の世界に暮らす「人間」に存在を忘れ去られた人物や物事、物体そのものが境界を()て、幻想郷へと流れ着くことのよう。

……忘れ去られたのか……?

いや、そんなはずはない。

一人だけならまだしも、現段階で俺たちは全員で六人居る。

その六人全員が、ある一定の期間で存在そのものを忘れ去られることなど、普通は有り得ない。

そう、普通ならば絶対に……。

「その幻想入りっていうのは、どの世界でも起こりうることなのか……?」

「どうだろうか、私たちも外の世界の全てを知っている訳ではないからな……。 既に知っているかもしれないが、幻想郷と他の世界は基本的な干渉は一切ないんだ」

「私たちから外の世界を把握出来ませんし、外の世界も私たちの世界を見ることも境界を越え、やってくることもありません」

「でも今こうして恭哉たちが、この世界に居る……。 やっぱり、誰かが意図的にやったとしか思えないかな。 その真相は分からないけど」

「さっき言ってた、八雲 紫って奴を中心に当たって行った方がいいのか?」

「普通では会うことも難しいですが、それが最も回り道のように見えて、近道なのかもしれませんね……。 後、御二方(おふたかた)にはお伝えしなかったのですがもう一人、八雲 紫様に近い人物が居るんです」

 

 

 

 

 

摩多羅(またら) 隠岐奈(おきな)

八雲 紫同様に古くからこの世界に住んでいる賢者の一人。

この世界の創造にも一役買っているらしく、尊大(そんだい)な人物らしい。

同じく会うことは難しいようだが、俺たちの来訪と関係している可能性が高いと、阿求は告げる。

八雲 紫に摩多羅 隠岐奈、か……。

今まで通りこの世界に溶け込みながら、この二人の人物について調べておいた方が良さそうだな。

簡単に教えて貰えるかは分からないけど。

「気になったんだけど、どうして摩多羅 隠岐奈のことは章大と玲香には伝えなかったんだ?」

「玲香はともかく、章大に教える訳には行かなかったんだ。 彼なら、どんな手を尽くしてでも、これらのことを調べ上げ、戦いを挑みに行くだろう」

「それは俺も同じだぞ? 訳の分からない疑いまで掛けられてるんだし、穏便に済ませる気はないからな」

「そういう面では、恭哉の方が冷静な判断が出来るってことさ。 妖怪の山に向かった後、章大は必ず八雲 紫を追う。 だから私たちは、摩多羅 隠岐奈については語らなかった」

「どういうことなんだ? いまいち話が見えてこないんだけど……」

「端的に言えば、君たちの実力では二人には、到底追いつけない。 博麗の巫女でさえ、手を焼くレベルだ。 次元が違う」

霊夢は、この幻想郷の異変を解決し、世界の均衡(きんこう)を保つ役割を担っている。

俺を除いた五人が束になっても、八雲 紫や摩多羅 隠岐奈とは、勝負にもならない……ということらしい。

「俺なら深追いはしないけど、章大ならそうはいかないってことか?」

「あぁ見えて結構、根は熱いだろ? 瞬時に命を落としてしまうだろうから、一人に絞ったのさ」

「八雲 紫様は幻想郷の安全を第一に考えますが、摩多羅 隠岐奈様は、多少の危険は(かえり)みずに、崩壊寸前のことまでやり兼ねない傾向にあります。 これが、御二方の決定的な違いなんです」

「なら、どうすりゃいい? 首謀者として追われながら真相を追っていたら、いずれ限界が来る。 俺だって、我慢強い方じゃないんだ」

「恭哉たちの来訪や異能力、今回の異変を含め、まだ情報が足らなさ過ぎる。 ある程度の情報が出揃うまでは、出来るだけ表立ったことはしないこと。 それだけは、私たちと約束して貰えないだろうか」

その約束の条件の代わりに、玲香たちの安全やこの世界に滞在する間の生活の手助けを、してくれるようだ。

願ってもいないことだが……完全に守れるとは思っていない。

自分のことは自分が一番理解している。

「……善処はしてみる」

「……やはり、完全には飲んでもらえないか……。 この世界なら、死以外の状態なら、完治することは理論上可能だ。 仲間のこともあるだろうし、命だけは大事にしてくれ」

「慧音は固すぎるよ。 私はそれぐらい図太い神経の方がいいと思うけどね……まぁ、無理はしないでよ」

「なんか、最期のお別れみたいだな……。 大丈夫、悪運は強い方だし。 色々教えて貰って助かったよ、また顔出しにくる」

「こちらもお待ちしておりますね。 また、お話を聞かせて下さい」

それぞれに別れを告げ、部屋を後にする。

校舎の窓からは、日が少し落ちた夕暮れの光が差し込んでいる。

直に夜になりそうだ。

今朝からかなり時間が経ってしまったが、フランはどうしているだろうか……。

それと、寺子屋を訪れることとはまた別の用事があったような……?

誰かに呼ばれていたような……そんな気がする。

……思い出したら、また明日向かうとするか。

今やらなきゃならないのは、フランとの和解。

寺子屋から外に出ると、昼間の雰囲気とは違った景色が広がっていた。

人通りは少なく、少し遠くまで見通せるぐらいだ。

流石に、昼と夜は元の世界と同じか……。

寺子屋の方を振り返ると、上の階層の窓からひょっこりと、阿求が顔を覗かせていた。

目が合うと、軽く手を振ってくる。

こちらも微笑み返し、手を挙げ返事を返す。

すぐに振り返り、人里の出口へと歩いていく。

この場所で聞くことが出来た、様々な憶測や情報。

頭の中を埋め尽くすには、充分過ぎる量だ。

気持ちを切り替えるため、深く息を吸い込む。

躊躇(ためら)いや不安を吐き捨てる様に息を吐き、紅魔館へと続く帰路についた。


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