東方幻奇譚 ~the Eighth Fantasy.   作:TripMoon

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登場人物紹介


上白沢(かみしらさわ) 慧音(けいね)
元々は人間だったが、後天的に半人半妖(はんじんはんよう)となった人物。
しかし人間を愛し、常に人間側に立って行動している。
その対象は幻想郷の人物だけに留まらず、異世界からの来訪者である恭哉たちに対しても、情報の提供や親身になって話す場面も多く見られる。
妹紅(もこう)の数少ない理解者でもあり、心優しい人物。
……だが、彼女の頭突きには注意が必要だ。


稗田(ひえだの) 阿求(あきゅう)
人里にある由緒ある家系「稗田家」の現当主であり、九代目「御阿礼の子」
幻想郷縁起(げんそうきょうえんぎ)」と呼ばれる、幻想郷の妖怪について記した書物の著者でもあり、毎日様々な物事を書き記している。
個人的な感情で、前例のない来訪者たちに興味を持ち、聞いた話と独自の考えを記述した、秘蔵の著書を密かに制作しているらしい。
見た目に似合わず、結構毒舌家。


第9話 蠢くモノ

 

 

 

 

 

 

 

 

人里(ひとざと)での用事を終え、紅魔館(こうまかん)へと向かっている。

鬱蒼(うっそう)と続くこの道は、昨日も通った馴染みある場所だ。

日も完全に落ち、辺りは夜の静寂(せいじゃく)が包み込む。

黒土の道を踏む足音だけが響き渡り、風に揺られる草木の音さえ聞こえない。

昨日、ここをフランと通ったんだっけ……。

紅魔館へと帰った時、フランはもう一度話してくれるだろうか?

レミリアは、フランのことを無事に落ち着かせているのだろうか?

今はただ、それだけが気になっている。

――もし、初めから真実を告げていたら、どうなっていたのだろう……。

今よりも、もっと悪い結果になっていたのか……もしくは、簡単に受け入れられ、今も尚共に歩いていたのか。

何度考えても、答えは浮かんでこない。

何故ここまで固執(こしつ)してしまうのか、自分でも分からずにいた。

単に血の繋がった妹に似ているから、ただそれだけなのか……?

あの時走り去ってしまったのは、阿求(あきゅう)の言う「精神が不安定な波である状態」だったのだろうか……?

……ダメだ、考えれば考える程に深みに落ちてしまう。

一度、頭の中を払拭(ふっしょく)した方が良さそうだ。

あくまで自然体に居られる様にしないと……。

無意識に止めていた足を、再び動かしていく。

相変わらず、足音以外に聞こえてくる音はない。

夜の闇に包まれた草木たちも、昨日と何も変わらない。

昼間は少し蒸し暑く感じたし、虫の一匹でも居そうだけどな。

そう思った時、木の幹で何か(うごめ)く物が視界に入った。

近付いてみると、見慣れない蜘蛛(くも)の姿があった。

足の数や形は変わらないが、ここまで大きな物は初めて見たかも。

――って、見つめてても意味無いか。

薄気味悪いし。

特に気にも止めず、その場から離れていく。

そういえば、慧音(けいね)たちが言っていた、見慣れない妖怪(ようかい)

それらは、時間帯関係なく出現するものなのだろうか?

普段生息している妖怪の姿も知らないし、遭遇しても分かんないだろうな。

妖怪は人間を襲い、人間は妖怪を退治する。

それが、この幻想郷での(おきて)だ。

当然、今この場所でもその掟は適用されている訳で……。

出来るだけ遭遇したくないものだ。

何せ、戦える力もないし。

昨日のフランとの戦闘時の様に、あんな奇跡は二度もないだろう。

自由に扱えるなら、ある程度は切り抜けられそうなのになぁ……。

腕試ししてみたい奴も、何人か居るしな。

「……おーい……!」

ふと、声が聞こえてきた。

この声……何か聞き覚えが……?

思わず足を止め、声が聞こえてきた方へゆっくりと振り向く。

闇に包まれあまり姿は見えないが、近付いてくる軽い足音のお陰で、誰かが居ることが分かる。

「あれ、聞こえてないのかー……?」

「聞こえてるよ。 誰だか知らないけど、何処に居るんだ?」

「何だよ、私だって。 ほら、こっちこっち」

「こっちって、どっちだよ」

何かに背中を軽くつつかれる。

それで、ようやくその姿を認識することが出来た。

ウェーブの掛かった(かす)かに光る金色の髪と、それと同じ金色の瞳。

顔を見る為に、その姿を見下ろしてしまうぐらいに背丈に差があるが、白と黒の帽子がその役割を無くす。

「よっ! 昨日ぶりだな」

「昨日ぶりなんて言わないだろ普通。 まぁ、また会ったな……魔理沙(まりさ)

「お、流石に覚えてたか。 こんな所で何してるんだ?」

「これから帰るとこ、そっちは?」

「奇遇だな、私もこれから家に帰るとこだよ」

「そうだったのか。 それじゃ、気を付けてな」

「そっちこそ、またなー」

それぞれが振り返り、歩を進めようとした時。

「逆方向かよ……」

「なんだ逆かー」

……つい、殆ど同じ台詞を口にしてしまった。

再び向き合うと、何故か笑いが込み上げてくる。

それは魔理沙も同じ様で……。

「あっははは! なぁ、私は今暇を持て余してるんだが、ちょっと付き合ってかないか?」

「はぁ……何か、悩んでんのがアホらしくなってきた。 いいぜ、付き合うよ」

「悩んでたのか? そんな風には見えなかったけど?」

「色々あったんだよ」

気分転換には、丁度いいかもしれないな……。

目の前にいる魔法使(まほうつか)い、霧雨(きりさめ) 魔理沙(まりさ)の暇潰しに付き合うことになった。

 

 

 

 

 

「この辺でいいかなーっと」

魔理沙と会った場所から少し歩き、木々の中へと入っていく。

一本の木を魔法で倒した魔理沙は、その上に腰を下ろす。

隣が空いているぞと言わんばかりに、倒れた木を手で軽く叩いている。

こうも軽々と木を倒すとは……。

っと、待たすのも悪いか。

魔理沙の隣に座り、夜空を見上げてみる。

昨日は紅魔館からの景色だったが、木々に生える葉たちの隙間から微かに見える星々も、何処か風流を感じる。

……風流とかよく分からないけど。

「なんだ、星が好きなのか?」

「そういう訳じゃないよ。 昨日とは違う景色が、なんかいいなってさ」

「なんだそれ。 そういや、腕の怪我はもう何ともないのか?」

「あぁ、仲間に治してもらったよ」

「そっか、良かった……。 本当にすまなかったな、医者に連れてくって約束だったのに」

「魔理沙のせいじゃないだろ? それに、あそこで振り落とされていたから、出会えた奴も多いし、逆に感謝してるよ。 ありがとな」

「どういたしまして。 本当、変わってるよなー……お前って」

昨日は見る暇なんてなかったが……。

魔理沙も、団子を食べていた時の霊夢(れいむ)と同じ、魔法を扱っていなければ、普通の女の子なんだな。

魔法使いと人間って、同じ(くく)りに入るのだろうか……?

「な、なんだよ、人の顔じっと見て」

「何でもないよ。 そうだ、京一(きょういち)玲香(れいか)に会ったって聞いたけど」

「えっ、知ってたのか!?」

「玲香から聞いたんだ。 元気そうだったか?」

玲香が言っていたのだが、京一がこの世界で初めて会ったのが、どうやら魔理沙のようだ。

人里を歩いていた所を声を掛けられ、アリスという人物の家に連れられ、そこで玲香と合流することが出来たらしい。

まぁ、風貌(ふうぼう)は似ていないにしても、服装は同じだったからな。

今は違うけど。

「怪我とかもしてないし、人里の民家で世話になってるらしいぜ? 何か、そこの仕事を手伝う代わりに、泊めて貰ってるってさ」

「京一らしいな。 あいつ生真面目だからなぁ、俺には絶対無理だ」

「全く似てないもんな! 私も初めて話した時、びっくりしたよ」

「ほっとけ。 他の誰かには会わなかったか?」

「いや、私が会ったのは玲香と京一と、恭哉だけだよ。 私とはぐれた後、何処に居たんだ?」

「あの後、この辺りを歩いてたら紅魔館に行き着いてさ。 そこでフランに会って、遊んでたよ」

その事を話すと、驚きを見せる魔理沙。

阿求も同じ反応をしていたが、やはり普通じゃ考えられないことのようだ。

「まさかフランに会うなんてなぁ。 大丈夫か? 襲われたりしなかったか?」

「殺されかけたよ、何とか気に入られて生き延びてるけど」

「相変わらず悪運が強いなお前は。 変わり者にも程があるぜ」

「お前にだけは言われたくない」

何だと、と仔犬(こいぬ)の様に(うな)る魔理沙。

背が低いのもあって、やっぱり小動物感が(いな)めないな……。

……そうだ、丁度周りには誰も居ないし、あのことを聞いてみるか。

「話は変わるんだけどさ、最近見慣れない妖怪が増えたってのは本当なのか?」

「よく知ってるな。 私もまだ見たことないが、居るのは確からしいな。 何処の誰が絡んでるのか知らないが、被害が大きくなる前に解決しないとな」

「……それなんだけど、一部の間で俺がその異変の首謀者じゃないかって、疑ってる奴らが居るんだ」

「お前を……!? いやいや、そんなの有り得ないだろ。 だって、戦えないって言ってたじゃないか」

「玲香や京一と会ったんなら、少しは聞いているだろ? 俺たちのことや、異能力のことも……」

静かに(うなず)き返す魔理沙。

この様子を見る限り、魔理沙へ疑いを掛ける必要はなさそうだな……。

当初怪しんでいた中で、まだあれから会っていないのは霊夢だけになるが……元から最も可能性が低いと思っていた為、やはり違う奴を当たる方が良さそうだ。

――先程聞いた二人を当たるのが、一番いいか……。

「誰から疑われてるんだ? 私から言ってやるぞ?」

「いや、それが誰なのかはまだ分かってないんだ。 ……魔理沙は疑わないのか?」

「疑う訳ないだろ。 今まで色んな奴を見てきたが、お前はとても異変を起こす様な奴には見えないからな」

「……喜んでいいのかそれ。 あ、他の皆には内緒な?」

「教えなくていいのか? いざって時に、助けてくれるかもしれないだろ?」

「いいよ、余計な心配掛けたくないし」

「そ、そうか? ……なんか、恭哉と霊夢って似てるよな」

容姿とかではなく、考え方や雰囲気が、魔理沙から見ると似ているらしい。

――そんなもんなのか……?

やっぱり、こっちの世界の感覚はよく分かんないな……。

「あいつも、基本一人が好きだからさ」

「あーそこは同じかも。 って、この辺虫多くないか?」

「ん? 確かに今日はやけに多いな……あっちいけ、えいっ」

ふと視界に入る木々。

座っている倒木の幹や、地面に何匹かの虫が居た。

それも同じ様な蜘蛛ばかり。

ちょっと気味悪いな……あまり得意な方じゃないし。

「んー、仕方ない。 空中散歩に切り替えるか。 また後ろ乗れよ」

「そうさせてもらうよ。 んじゃ、行きますか」

倒木から腰を上げようとした時だった。

 

 

 

 

 

「えっ?」

つい間抜けな声を、二人揃って出してしまう。

月夜の闇とは異なる、黒の細い足が何本か見える。

視界を上げていくと、能面(のうめん)彷彿(ほうふつ)とさせる白い顔に、蟷螂(かまきり)の様な腕と銀白色(ぎんはくしょく)の爪らしきもの。

薄く光り、一目見ただけで鋭利なものだとすぐに分かった。

聞き取りにくい金切り声を上げながら、こちらを(にら)み付けている。

虫にしては大きすぎるし、足が多くあんなにも巨大な爪を持つ生き物なんて見たことがない。

――ってことは……!?

「しゃがめ!!」

頭を下げた瞬間、後頭部を爪が(かす)める。

外傷はないものの、後ほんの少し遅かったら……首ごと斬られていただろう。

目だけで目の前の生き物を見上げてみると、右腕が上に上がっている。

――振り下ろしてくる気か!?

魔理沙に飛び付き、抱き抱えたまま倒木から離れる。

「な、なんだよあれ!?」

「知るか!! とにかく逃げるぞ!!」

二人揃って背を向け全速力で走り出す。

あんな禍々(まがまが)しい生き物を見たのは、久し振りだ。

「って、私が逃げる必要なかった! 私の弾幕をお見舞してやる!!」

走りながら、エプロンのポケットらしき場所を探り始める魔理沙。

こんな時になんと流暢(りゅうちょう)な。

「お、あったあった! 吹き飛ばされんなよ!? 恋符(こいふ)『マスタースパーク』!!」

魔理沙が手にする小さな箱から、虹色の巨大なレーザーが発射される。

これは確か、昨日の……。

神社で目が覚めた時、変な因縁を付けられ、最初に見た魔理沙の攻撃。

その時よりもずっと大きなそのレーザーは、あの生き物を包み込んでいく。

だが……。

「うわっ、ピンピンしてる!!」

「はぁ!? 手抜いてないだろうな!?」

「そんなことするか!! 火力のない弾幕なんて、キノコのない鍋みたいなもんだぜ!!」

「知るかそんなもん!! 魔理沙は左側に行け! 回り込んで振り切るぞ!!」

俺の指示通り、魔理沙が大きく左側へ円を描きながら走っていく。

こちらも同様に右側へ走るが、あの生き物の足音はこちらに近付いている。

やっぱ狙われるよな!!

木々を走り抜ける中、視界の横で再びあの鋭利な爪が迫っていた。

しゃがみ込めば、難なく避けられるが……今の勢いを殺してしまい、次に繋がらない。

あの爪……少し触れただけでも、皮膚を切り裂いてしまいそうだ。

こうなったら、一か八か……!!

爪が頭部へと迫るその瞬間に姿勢を低くし、前方へと滑り込んでいく。

空を掠ったのと同時に近くの木に手を掛け、遠心力に任せ身体を大きく滑らせる。

手が離れた瞬間に駆け抜ける足を戻し、生き物との距離を取った。

「よっしゃ! こういう追いかけっこなら得意――おわっ!? 無茶苦茶するなお前!?」

上半身を回転させたのか、辺りの木々を一斉に斬り裂いた。

どうなってんだ……こいつの身体は……!?

「恭哉!! そこ動くなよ!!」

声のする方を振り向くと、箒に(またが)り青白い光弾を放とうとする魔理沙の姿があった。

瞬時にそれを放ち、生き物の胴体を捉える。

直撃したのか、微かに身体がよろめいた。

「ちぇっ、転んだりしないか。 それなら、もう一発!!」

再び光弾を放とうとしたのと同時に、生き物の背中が開き薄い膜が広がり始めた。

目に見えない程に膜をはためかせ、空へと飛び上がった。

今更かもしれないが、変な生き物というより……あれ虫か……!?

先述した通り、蜘蛛の様な足に、蟷螂の様な爪。

おまけに甲虫類の薄い羽と、見上げる程の巨体。

「あ、バカ! 避けろ!!」

「えっ? うぉあっぶね!!」

巨大な虫が飛び上がったことにより、標的を失った光弾は真っ直ぐに飛んできていた。

魔理沙の声で間一髪回避出来たもの……あれを喰らったら一溜りもなさそうだ。

「すまんすまん、まさか飛ぶと思わなくて」

「いや、俺も余所見してたしお互い様だ。 それより、あの飛んだ虫どうする」

「退治するしかないだろ? もしかすると、あいつが見慣れない妖怪ってのかもしれないしな」

箒に跨ったまま、こちらに背を向ける魔理沙。

「乗れよ。 今回は特別だ。 こ、腰ぐらいなら掴んでてもいいぜ?」

「いや、棒のとこで十分だよ。 乗るぞ」

魔理沙のすぐ後ろに跨り、箒の棒をしっかりと握る。

その動作を確かめたのか、ゆっくりと足が地を離れていく。

「あいつは私の獲物だ。 妖怪退治は、博麗の巫女だけの仕事じゃないからな」

「油断すんなよ、あいつ何してくるか分かんねぇし」

「大丈夫だって。 魔理沙さんが弾幕ごっこってのを見せてやるから、瞬きせずに見とけよな!!」

「流石にそれは乾燥するから無理だな。 代わりに、目ん玉ひん剥いて見届けてやるよ!!」

「いや、それも乾くだろ。 あー身が入らん。 とにかく行くぞ!!」

 

 

 

 

魔理沙と共に、上空へと飛び上がっていく。

対する虫の妖怪はというと、羽をはためかせたまま、こちらをじっと見据えていた。

あの面が顔でいいのか……?

玲香が遭遇したら絶対泣き出してるなあれ。

「動かないなあいつ。 どこぞの付喪神(つくもがみ)と同じで、何考えてるのか分からん」

「あぁ無表情だとな。 ただ、異様なまでの妖気(ようき)は感じるよ」

「そんなのも分かるのか? ……本当に人間か?」

「戦ってる後ろで呟かれててもいいなら、事細かく教えてやるけど?」

「それはお断りだな。 戦い終わってから語ってくれ」

「へぇへぇ。 くっそー、戦えないってのも暇だなぁ」

「そんなこと言うのお前ぐらいだぞ……。 さてっと、あいつが動かないなら、こっちから仕掛けるまでだ、いくぜ!!」

箒が瞬時に加速し、虫の妖怪目掛けて突進していく。

対する虫の妖怪は両腕を広げ、爪の射程内に入るのを待っている。

あんな見え透いた攻撃に当たる程、こちらは未熟ではない。

挟み込まれるであろう寸前の距離で急降下し、腹下を通り抜けていく。

その間、奴の腹部を見上げてみたが、何やら奇妙な模様が描かれていた。

薄暗くよく見えなかったが、自然的に出来た模様とは思えない。

「うわー、後ろから見ても気持ち悪いなこいつ」

「生々しいよな……って、何探してるんだ?」

「ん、ちょっとな。 お、あったあった」

そう言いながら、何やら小さい瓶を手にする魔理沙。

中に何が入っているのかは分からないが、それを手にしたまま虫の妖怪の頭部へと飛び上がっていく。

こちらにはまだ気付いていないのか、左右に小さく動いているのが見えた。

反応速度は鈍いのか、いい情報だな。

丁度いい位置に来たのか、魔理沙が瓶を投げ付ける。

妖怪の胴体に触れた瞬間、青白い光を放ちながら爆発した。

「魔理沙さん特性の魔法薬の効能は爆発だ。 熱加減はどうだ?」

「そんな危険なもん、よく持ち歩いてんな……」

「調合も魔法使いの(たしな)みだからな。 いやー私の溢れ出る魔法の才能には、つくづく惚れてしまうぜ」

「その自信を汚すようで悪いけど、全然効いてないみたいだぞ?」

爆発による噴煙が消え去った後、こちらに視線を向け低く唸る妖怪。

心無しか怒っているようにも見える。

やがて能面の口が開き、赤黒い閃光を放ち始めた。

一筋の軌道を描き、真っ直ぐに飛んでいくレーザー状の光。

弾幕に入るのか……?

「おっと、そうこなくっちゃな。 恭哉、今の私は結構じゃじゃ馬だ。 しっかり掴まってろよ!」

急発進した衝撃で、身を切る疾風。

思わず目を細めてしまう程だ。

じゃじゃ馬と自負していた通り、少しでも気や力を抜いてしまえば、昨日と同じで振り落とされてしまう。

一層、握る力を強める。

こんな時に戦えないなんて……情けなさすぎるだろ……!

魔理沙が飛ぶ軌道を追うように、先程の赤黒いレーザー状の弾幕が放たれる。

まだまだスピードに余裕はあるものの、どこかもどかしい。

魔理沙の奴……こっちに気を使ってるんじゃ……?

「魔理沙、これじゃあ(らち)が明かない。 俺のことは気にしなくていいから、全力でやっていいぞ」

「全力で飛んでるって。 けど、気にしなくていいんなら……もう少し速く出来るけど?」

「それでいい。 最悪落ちても何とかなるだろ……化けて枕元に出てやる」

「そうなったら霊夢にお祓いして貰わないとな。 ――よし、行くぜ!!」

先程よりも速いスピードで、虫の妖怪を翻弄していく。

こちらの動きを捉えられないのか、その場で身体を捻らせることしか出来ていない。

「変な戦法だし弾幕ごっこらしくないが、まぁいいだろう。 派手なやつ撃つから、しっかり掴まってろよー!!」

魔理沙の持つ八角形の箱。

その中心に光が集まり、虹色の閃光を描き出した。

箒を持つもう片方の手をさっと離し、こちらに瓶を手渡してくる。

魔理沙曰く、攻撃の前に攪乱(かくらん)の役目代わりで投げてくれとのこと。

こんな速いスピードの中、中々無茶なこと言ってくれるな。

――まぁ、やるけどよ……!

「一度降下して、そこから一気に上空まで上がる。 上昇する間に、あいつ目掛けてそいつを投げて欲しいんだ」

「当てられるか分かんないけど、やってみるよ。 ぶつけるだけでいいんだな?」

「おぅ! 名前はそうだなー魔理沙さん特性スペシャルボムって所で」

「お断りだ。 とっととやるぞ」

「ちぇっ、釣れない奴。 よしっ、いくか!!」

宣言通りこちらの動きに翻弄されている内に、虫の妖怪の近くを通りながら降下していく。

ようやくこちらを見つけたのか、爪を振り回すが、魔理沙のスピードの前では当たらない。

角度と勢いをつけ、一気に上昇していく。

こちらの軌道を見つけ、能面と目が合った瞬間。

「顔面真っ白で気分悪そうだな。 俺たちから選別、特性の魔法薬だ!! 飲んで寝てなっ!!」

姿勢を崩さない様に、右腕で魔法瓶を虫の妖怪目掛けて投げる。

丁度顔の辺りに直撃し、爆発の噴煙と閃光に包まれていく。

「ナイスだ! さて、お次はこっちだ!」

虫の妖怪を見下ろす程までの距離に達した時、その場で制止する魔理沙。

先程の箱を構え、溢れ出んばかりの閃光を解き放つ。

星符(ほしふ)『ドラゴンメテオ』!!」

七色の激しい光線が、流星の(ごと)く降り注ぐ。

避けられるはずもなく直撃し、地面へと叩き付けられていく。

地上に達した時、衝撃音が生まれ、辺りに響き渡った。

俺も魔理沙も勝利を確信し、地上へと降り立って行く。

「私の魔法も大したもんだろ、はっはっは!!」

「俺の時にやられたら、死んでるなーこれは」

「お前に負けるつもりはないからな。 さてっと、こいつも一応弾幕を使ってきた訳だし、見慣れない妖怪で間違いないのかもな」

「妖怪もみんな弾幕を?」

「もちろんだ。 力の大小や美しさに違いはあるが、扱える奴が大半だよ。 その気になれば、恭哉も弾幕とスペカも使えるんじゃないのか?」

「どうだろうな、鈴仙(れいせん)にスペルカードってのは見せてもらったけど、一々覚えるの面倒だし、その場その場でやる方が俺には合うかも」

「弾幕の良さから学んだ方がいいな。 私が教えてやろうか?」

「機会があればな」

「機会なんて作るもんだぜ。 んじゃ、暇潰しの続きでもするかなー」

その場を立ち去ろうとした時だった。

ある異変に気付く。

 

 

 

 

 

「魔理沙……あいつ、どこに行った……?」

「どうしたんだよ急に。 その辺に転がってないか?」

「ないんだよ……あいつの死体が。 あれだけでかいんだ、動けば絶対に気付く」

辺りを見回しても、どこにも虫の妖怪の死体が見当たらないのだ。

先述した通り、動けば必ず気付く。

まさか……まだ死んでなかった……!?

あれだけの攻撃を受けて……虫が生きてるってのか……!?

物音一つしない空間を、必死に見回す。

どこだ……どこに居る……!!

「おいおい、あの高さから私の弾幕をまともに食らったんだ。 形を保ってるのもおかしいぐらいなんだし、居る訳ないだろ?」

「いや、完全に消滅しなくても、身体の肉片や血痕が残っててもおかしくないんだ。 それがどこにもないんだぞ!?」

「大丈夫だって、私が粉々に――」

「――っ!? 魔理沙!!」

ふと視界に入った光景。

魔理沙のすぐ背後に、あの虫の妖怪が立ち爪を振り下ろそうとしていた。

名前を叫んでも、魔理沙が回避するのは間に合わない。

……傷付けさせる訳には……!!

魔理沙との立ち位置を入れ替える様に、両肩を掴み身体を(ひね)る。

爪が振り下ろされるのと、俺の背中が虫の妖怪に向けられるタイミングは……殆ど同じだった。

背中に激しい痛みが走る。

思わず顔を歪めてしまう程だ。

「お前……何で……!」

斜め十字の傷を入れた後、先程よりも太く強靭な脚で二人(まと)めて蹴り飛ばされる。

離れない様に、傷を負わせない為に無意識に強く抱き締めていた。

木々にぶつかる寸前に、自らの背中も木の幹が面する様に身体を向け、衝撃を自分の身体のみに抑えた。

……よかった、魔理沙に怪我は見られない。

「……おい、大丈夫か!? 何で私を(かば)ったんだよ!!」

「こうするしか、間に合わなかったんだよ……!! あいつはまだ弱っちゃいない……お前だけでも逃げろ……!!」

「そんなこと出来るか!! 待ってろ、私がすぐに――」

「さっきの弾幕を食らっても平然としてるんだぞ!! ……俺が捕食されてる間に、誰か呼んでこい!! 一人なら無理でも、何人か集まれば……」

「それが出来るかって言ったんだよ!!」

耳に触る羽音を響かせながら、こちらへとやってくる虫の妖怪。

その姿に、まだ魔理沙は気付いていない。

――こいつ、姿を変えたのか!?

先程には見られなかった、(さそり)の様な尾をこちらへと伸ばしてくる。

「魔理沙!! 速く飛べ!! また後ろに居るぞ!!」

「えっ!? く、くそっ!! 離せ!!」

瞬く間に魔理沙の身体へと尾を巻き付けていく。

尾の先端にある巨大な針が、少しずつ魔理沙の身体へと近付いていくのが見えた。

どうにかして引き剥がさないと……!

でもどうやって……!?

背中を切り付けられてから、身体の動きが鈍い。

肉体が重く感じる訳ではなく、脳から伝わる神経の一つ一つが遅く感じる。

蜘蛛と蟷螂、そして蠍。

考えられるのは、形状を変えてから毒を持った可能性が高い。

即死級の毒ではないのが幸いか……って、そんなこと分かっても何も解決にならないだろ……!

「ぐっ……このっ……!!」

徐々に締め上げる力が強まっていくのが、外から見ても分かる。

今の状態で殴ったって、締め付けを解く所か返って自らを危険に晒すだけだ。

毒が全身を(むしば)むのも時間の問題。

フランの戦闘の時とは、比べ物にならない。

昨日は自分の身だけを守りつつ、時間経過を待てばよかった。

だが、今回は違う。

魔理沙の命もある。

攻撃の一発一発は威力も速度も高いが、耐久面は普通の人間と変わらないはず。

ましてや、身体は俺よりも小さい女の子だぞ……?

そう長い時間は掛けていられない。

――本当の危機に面した時、それを使うといい。

脳裏に過ぎった、章大の言葉。

そうか、封魔結晶(ふうまけっしょう)か……!

際限のない魔力(まりょく)が込められているらしいが、これを使った所で自らの能力を扱えるのかは分からない。

しかし、今はこれ以外に手段はない……。

震える腕を無理矢理に動かし、封魔結晶を手に取り強く握り締める。

この世界に、神様なんてものが存在するかは分からない。

もしも、神様が居るのなら……。

一回だけ……微笑んでくれよ……!!

封魔結晶を握ったまま、腕を地面に叩き付ける。

痺れる腕じゃ割れないが、衝撃を与えれば割れるはずだ。

身体の奥底から、紅の魔力が込み上げてくる。

灼熱の炎撃(えんげき)が、虫の妖怪の尾を溶かし切断する。

――なーんだ、妖怪も天狗も吸血鬼も居るんじゃ……神様も居るってことか……。

神々や宗教なんて信仰するつもりはないが、お供え物ぐらいはしておくか。

「――炎神招来(えんじんしょうらい)真炎剛爆ノ核(パイロキネシス)!!」

 

 

 

 

身体中を駆け巡る魔力と、燃え盛る灼熱の炎。

これだ、この感覚。

昨日の奇跡の一時と、殆ど同じだ。

唯一違うのは……目の前の誰かを救いたい炎と、熱く(たぎ)憤怒(ふんぬ)の炎、ただそれだけ。

「お前……恭哉、なのか……?」

「あぁ、事情は後で話すよ。 立てるか?」

尾を切断したことで締め付ける力が緩まり、地に伏せていた魔理沙に手を差し伸べる。

何が起こったのか分からない、そんな顔をしていた。

それは俺も同じ、まさか本当にあの結晶でどうにかなるなんて、思いもしなかった。

「普通なら自由に使えるんだがよ、今は一瞬だけなんだ。 その時間内で、あいつを潰すぞ」

「何か作戦でもあるのか?」

「そんな回りくどいものなんてないよ。 一人じゃ無理でも、二人なら勝てる」

「……分かった、独り占めしようと思ったんだかな。 手柄は半分こだ」

歩合制(ぶあいせい)にしたいけどな。 んじゃ、とっととやるか」

「その前に一つだけ聞かせてくれ。 お前のその赤い()は、昨日私と戦った時と同じなのか……?」

そっか、今は眼が赤いのか。

玲香たちも言っていた気がするな……。

眼が赤くなった時の恭哉は、凄く強いけど怖いって。

自分では分からないけどな。

「……分からない。 昨日のあれは、本当に何が起きたのか分からなかった」

「そっか……。 私もミニ八卦炉(はっけろ)も、準備万端だぜ。 いつでも行けるぞ」

「こっちもOKだ。 ――次は跡形もなく(ちり)にしてやるよ、腐れ外道(げどう)が」

先程切断した尾の部分を高く掲げ、こちらへと振り下ろしてくる。

魔理沙は左側、俺は右側へと回避し次の出方を見る。

爪を大きく広げ、その場で回転の動作を取る虫の妖怪。

どの方向でも避けられるが、追撃に繋ぎやすいのは上か。

「飛ぶぞ」

「おう! ……って、ここじゃ箒に届かないぞ?」

「こっちだって飛べるよ。 魔理沙はそのまま空中戦に備えてくれ、その間は俺が何とかする」

「分かった、無茶すんなよ!」

早めに回避動作を取り、ほぼ同じタイミングで上へと飛び上がる。

既に空を目指す魔理沙の姿は追わず、こちらへと視線を向けてきた。

爪も脚も動かすことはなく、叩き付けていた尾を伸ばしてくる。

切断したこともあり、こちらに届くとは思えないが……。

難なく回避するが、何処か様子がおかしい。

やけに長く感じる尾をよく見てみると、その場には存在しないはずの巨大な針が迫っていた。

「へぇ、再生能力(さいせいのうりょく)もついてんのか。 まぁ、当たんないけどよ」

勢いをつけ尾を振り切り、胴体へと突進していく。

腕に炎を集中させ後ろへと引き、胴体に達する瞬間に炎撃を放った。

今までに感じたことない触感は、心底気持ちが悪いが、それはどうでもいいだろう。

胴体に纒わり付く邪魔者を排除しようと、数本の脚が入れ替わりで迫ってくるが一撃一撃を確実に回避し、反撃を与えていく。

やがて表面の殻が破れ、黒みのかかった緑色の液体が(したた)り始める。

「血は緑色か。 あんま見たくないし、そろそろ上でやろうぜ」

下腹部へと潜り込み掌底と蹴り上げで、黒の巨体を宙に浮かす。

追い打ちを掛ける様に、幾度となく炎撃を浴びせながら魔理沙が待機している上空付近を目指す。

目標付近に達した時、炎を纏った回し蹴りで巨体との距離を離した。

「滅茶苦茶やるなお前。 何かあいつが哀れに見えてくるよ」

「魔理沙に手を出した以上、それ相応のケジメは付けさせる。 それだけだ」

「お、おぅ……。 ――あっ!! あいつもう来るぞ!!」

魔理沙が叫んだ通り、もうこちらの眼前へと爪を振り上げた状態で迫っていた。

回避行動は取らず、左腕に虫の妖怪の爪が突き刺さるように上に掲げる。

「恭哉!! お前、爪が!!」

「大丈夫、心配すんな。 ――緋炎脚(ひえんきゃく)

爪を抜き取った後、止血する前にもう一度炎を纏った回し蹴りで、腕の付け根を狙う。

虫の妖怪の甲殻は簡単に溶け、腕を切断する。

下へと落ちる腕を引き上げ、奴の胴体へと切断された爪を突き刺した。

黒緑色(こくりょくしょく)の血液が水飛沫(みずしぶき)の様に吹き上げ、形容しがたい呻き声をあげ始めた。

「終わらせるぞ」

「わ、分かった! 魔砲(まほう)『ファイナルスパーク』!!」

聞き覚えのあるスペルカードだ。

確か、魔理沙の攻撃の中でも一際威力の高いものだ。

瞬時に準備出来るとは……やっぱり、実力は高いみたいだな。

おっと、関心してる場合じゃなかった。

煉舞(れんぶ)炎神掌(えんじんしょう)!!」

真紅の燃え盛る炎を腕に集中させ、一気に拳を放つ技。

七色の砲撃と、一色の炎撃が交差し虫の妖怪を挟撃(きょうげき)する。

夜空に溶け込む程に細かくなり、灰の様にゆらゆらと揺れながら地へと落ちていく、かつての虫の妖怪。

同じ過ちを繰り返さぬ様、魔理沙に目で合図を送り地上へと降下していく。

降り立った先には黒く黄ばみ、解読し(がた)い一枚の紙切れと、普段見慣れた小さな蜘蛛がその場で力尽きていた。

よく見れば、虫の妖怪の下腹部にあった模様と同じものが、力尽きる蜘蛛の腹部に施されている。

どういう原理であの姿になったのかは分からないが、この世界でいう異変に絡んだ妖怪の一種で間違いないだろう。

明日、この紙だけでも見せておくか……。

汚れた紙切れを拾い上げると、また灰の様に下へと落ちていった。

……何だったんだ……?

「な、なぁ。 本当に恭哉なんだよな……?」

「あぁ、海藤 恭哉で間違いないよ。 どんな姿になっても、俺は俺だ」

「あれ? 眼が茶色に戻ってる?」

「……多分、今のでまた魔力が尽きたんだろうな。 それより、怪我してないよな?」

「私は大丈夫だよ、お前のお陰でな。 恭哉こそ、私を庇った傷があるだろ……?」

「あーあの背中のやつか。 そうだ、先に返り血を洗い流してもいいか? このまま帰ったら、またレミリアに怒られそうだし」

不思議そうな顔をしたまま、頷く魔理沙。

昨日と同じ場所なら、確か近くに湖があったはず……。

そのことを尋ねると、案内してもらえるようだ。

魔理沙の後をついて行くことに。

 

 

 

 

 

「空き瓶でいいなら貸してやろうか?」

「助かるよ。 うっ、夜の水って案外冷たいんだな……」

魔理沙の帽子の中にあった空き瓶を貸してもらい、湖の水を掬い先程の虫の妖怪の返り血を洗い流していく。

背中や腕の傷に()みるが、まぁいいだろう。

帰ったら章大(しょうた)に治療させよっと。

「洗いながらでいいんだけどさ、何で私を庇ったんだよ。 あの時、何もしなかったらお前は怪我を負わずに済んだのに」

「変なこと聞くよな、魔理沙って。 そんなの、魔理沙に傷付いて欲しくないからに決まってんだろ。 お前と親しい奴に、俺のせいで大怪我させた、なんて情けなくて言えないし」

「だからって、恭哉が身体張ってまで助けなくても良かったじゃないか!! 一歩間違えてたら、本当に死んでたかもしれないんだぞ!?」

「あれぐらいで死ぬもんか。 封魔結晶のお陰で能力も使えたし、それに俺の身体には別の血が――」

「そういうことじゃないんだよ!! 私が……私が昨日から、お前のことをどれだけ心配したと思ってるんだ!!」

ふと、洗い流す手を止める。

魔理沙が上から見上げる形で、すぐそこに迫ってきていた。

普段は帽子に隠れていて見えにくいが、今ははっきりとその表情が分かる。

「昨日文との追いかけっこで、私はお前の姿を見失った。 探しに行こうと思ったんだが、私は先に人里に向かったんだ。 文が恭哉の仲間を見つけたって言ったから、他にも居るんじゃないかってさ」

「そこで出会ったのが京一だろ?」

「京一から色々と聞いたんだ、お前のこと。 まだ出会って間もないのに、恭哉の昔のことを聞いてると段々とほっとけなくなってきてさ……。 それで、ずっと心配していたんだと思う……私らしくないがな」

京一が……?

一体何を話したのかは分からないが、良いことも悪いことも含め、俺のことばかりを話したはずだ。

兄として認められなかった頃から、今に至るまでのことを……。

「恭哉は誰かの為なら、自分の身すらも投げ出して助けようとする、そんな人だって京一は言ってたよ。 さっきのお前なんて、まさにそうだ。 よく出会って間もない奴の為に、命を張れるよ」

「そう思うのは普通だよ。 京一にどこまで聞いたのかは知らないが、俺がそうするのには理由があるんだ」

「理由? どんなだ?」

魔理沙にその理由を話そうとするも、言葉に詰まってしまう。

自分そのものを変えたといっても過言ではない過去の出来事。

玲香たちにさえ、打ち明けることを躊躇った時期があったぐらいだ。

昨日今日会ったばかりの人物に話しても……何になる……?

だが、魔理沙の表情や言動から察するに、悪い印象は持たれていないはずだ。

しかし、こればっかりは……。

「どうしたんだ?」

「……いや、何でもない。 悪い、話すのはまた今度でもいいか?」

「私は構わんが、尚更気になるんだよなぁ」

「俺にとってその話は、あまり思い出したくないというか……話す勇気がいるというか……そんな感じなんだ。 本当にごめんな」

「いいって、謝る必要ないだろ? 私も変なこと聞いたな、すまん。 でも、一つだけ聞きたいんだ。もし、今日一緒に居たのが私じゃなかったとしても、同じ風に助けていたのか?」

「形や方法は違っても、助けてただろうな。 けど、絶対とは言えない。 今日この場に居たのが魔理沙だったから、俺は飛び込んででも抱き締めてでも庇ったんだと思うよ」

「――はぁ!? お、お前それってどういう――」

「んじゃ、また明日な」

「おい待てって!! こらー逃げんな!!」

背中の傷跡を隠す為、羽織っていた上着を手でぶら下げる。

何度か魔理沙の声がしたものの振り向かず、手を振って空返事をしておいた。

さて、帰ったら帰ったでフランとの話し合いか……。

それに良くも悪くも気分転換になったし、決心も着いた。

今なら、きちんと話すことが出来る気がする。

少し前までは重かった足取りも、今では何も感じずに真っ直ぐ歩けている。

(もう少し待っててくれよ……フラン)

再び静寂の訪れた暗闇の道を、ただ歩いて行った。




ご閲覧頂き、ありがとうございます。

ここから霧雨魔理沙視点と、引き続き海藤 恭哉視点と物語が分岐いたします。


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