それと独自設定を多数盛り込んでますので、苦手な方は御遠慮ください。
「おら!起きろマスター!!」
粗雑な声に乱暴に毛布を取られて目が覚める。時刻は午前6時半。何時もの起床時間だ。ベッドから立ち上がり、背伸びを1つ。正直に言えばまだ寝ていたいが、それは彼女が許さない。
「起きたか?起きたな。ならさっさと顔を洗え。ほらよ、タオルだ。」
言われるまま洗面所に向かい、冷たい水を浴びる。起き抜けで頭が鈍いが、とりあえず眠気は覚めた。
「服はここに置いておくからな。ちゃっちゃと着替えて朝飯にするぞ。」
了解と返事をすると彼女は満足そうな顔をして部屋から出ていった。
と思いきや、直ぐに戻ってきて一言こう言った。
「手伝ってやろうか?」
要らないよ。
身支度を整え、自室を出ると彼女が待っていた。驚きはしない。何時ものことだ。故に2人で並んで食堂に行くのも何時ものこと。何も珍しくない。僕のいるカルデアのメンバー全員の見解がそうだ。僕と彼女──モードレッドとの関係は皆知っていることだ。
モードレッドを召喚したのは第一特異点、オルレアンの前だった。きっかけはただの戦力増強。誰でもいいからサーヴァントが欲しい。そんな当たり障りのない理由だった。
『モードレッド推参だ!父上はいるか?』
ごめんなさい、いません。それどころかあの頃はマシュを含め、両の手で足りるほどしかサーヴァントがいなかった。だから僕は彼女をとても頼りにした。
オルレアンでは共にジャンヌ・オルタを倒し。
『行くぜルーラーじゃねぇルーラー!!』
『ややこしい呼び方すんな!!』
セプテムではローマに対抗し。
『てめぇがローマならオレはキャメロットだ!!』
『それもまたローマ…。』
オケアノスでは共に海を眺め。
『ったく。こんな状況でもなければ、波にでも乗って楽しむのにな…。』
『いいねぇ。船とは違う波乗り、あたしも味わってみたいもんだねぇ!』
ロンドンではもう1人のモードレッドと共闘し。
『行くぜオレ!遅れを取るなよ!!』
『そっちこそ!!相手が父上だからって手加減するんじゃねぇぞ!!』
イ・プルーリバス・ウナムではナイチンゲールと一緒にラーマを背負った。
『次の町で交代な!』
『余はランドセルか!!』
多くの特異点を彼女と共に駆け抜けた。多くの戦いを彼女と共に切り抜けた。そして多くの思い出、絆を彼女と共に刻んできた。それはこれからも続くだろう。人理を修復するその日まで。
「今日はあの赤いアーチャーが朝飯担当だ。つーことは和食だろうな。」
モーは和食嫌い?
「嫌いじゃないが…あの箸ってのが気に食わねぇ。よくあんな使いづらいもんで飯食えるな、お前ら日本人は。」
慣れだよ慣れ。
「慣れる気がしねぇなぁ…。」
だったら箸以外を使って食べればいい。なんてことは言わない。 何故ならモードレッドは既に日本人ばりに箸を使えるからだ。
最初こそ本当に箸を嫌い、フォークやスプーンなどでご飯や味噌汁を食べていた。だけど何時からか頑張って箸で食事するようになり、持ち方などをエミヤ達に聞いたりしていた。その甲斐あってか今の彼女は箸食をマスターしている。僕よりも綺麗な持ち方だと思うほどに。それでもまだ不満を口にするのは…なんでなんだろうか。
「おや?おはよう2人とも。今日も仲睦まじいようで何よりだ。」
そんな何気ない会話をしている内に食堂に到着する。そこには先客がいた。
「おはようございます先輩、モードレッドさん。」
おはようマシュ、ダ・ヴィンチちゃん。
「おはようさん。」
そこにいたのはマシュ・キリエライトとレオナルド・ダ・ヴィンチ。僕達より前に来ていたようで、テーブルの上の食器はほとんど空であった。
しかしマシュはともかく、ダ・ヴィンチちゃんがここにいるのは珍しい。何時も管制室か工房にいるのだが今日は違うようだ。
「おや?その目は『ダ・ヴィンチちゃんがここにいるのが珍しい』という目だね。」
流石は万能の天才。何も言ってないのにバレた。
「そうとも!私がここにいるのは珍しい!!普段の私ならば君の想像するように、管制室か工房にいる。その2箇所に留まらなけばいけない理由はあれども、動く理由も動く必要もありはしないからね。しかし!今日の私は一味違う!!…何故だと思う?」
欲しがる顔に負けて、素直にどうして?と聞いた。
「ふふーん。なんと!遂に!第六特異点を観測したからさ!!」
僕とモードレッドは目を見開いた。とうとう6番目の特異点。その所在が明らかになったとあれば只事ではない。
「…厳密には特異点の場所は特定したのであって、その詳しい時代まではまだ判明していないのですが…。」
上がった肩が落ちた。
「そうガッカリしないでくれたまえ。なに、後は糸を辿るだけだ。遅くても数日中にはレイシフトできるよう準備しておこう。…時にマシュ?」
「はい、何でしょうかダ・ヴィンチちゃん。」
「今日、君たちの予定はシュミレーターによる戦闘訓練だったよね?」
「はい、そうですが…それがなにか…。」
ダ・ヴィンチちゃんはにんまりと笑った。
「その予定はキャンセルだ。」
はい?
「今日だけじゃあない。レイシフト当日まで君たちは休暇としよう。しっかりと体を休めたまえ。」
僕とマシュは口をあんぐりとさせた。
「あ!あの…それは一体どういった風の吹き回しで…い、今までそんな…。」
マシュの言う通り、これまではレイシフト前でも戦闘訓練をしてきた。実戦前の調整の意味があったからだ。しかし今回ダ・ヴィンチちゃんが発した言葉は休暇。お休みである。6番目を前にして何故いきなり…。
「いや、何。第五特異点での反省を活かそうという私なりの考えさ。まさかアメリカ大陸を横断することになるとはね。日に日に足取りが重くなって行く君たちを見て、私は思ったよ『こんなことになるならば、レイシフト前はしっかりと休ませるべきだった』とね。それはロマニも同じ考えだ。」
「し、しかしレイシフト前は通常の戦闘訓練に比べ、相当軽いメニューに…。」
「いいや。違うよマシュ。軽い運動と完全な休息は別物だ。たしかに軽く体を動かしたほうが疲労回復効果が高いなんてデータもある。だがね、それは当代の一般人の生活様式に当てはめた場合だ。君たちが行う人理修復、それを行う上で発生する運動量を考えれば、開始前は『何もしない』くらいが丁度いいのさ。
いやはやそんなことに気づくのにこれ程時間がかかるとは…失態だ。言い訳の余地なく私の失態だ。天才故の慢心だ。だからこそ!」
バン!とテーブルが揺れる。
「君たちにゆったりとした時間を過ごしてもらいたい!!そのための休暇さ!!……ちなみにこれから私もお休みだ。久しぶりにしっかりとした睡眠を取ろうかなと考えているよ。寝なくていい体とはいえ、心のリフレッシュに睡眠は最適だからね。今頃ロマニも部屋でグースカ英気を養っているはずさ。カルデアは開店休業中。それでは諸君!良き休日を!
言うだけ言って、ダ・ヴィンチちゃんは食堂を去っていった。僕達はその背を呆然と見送った。
「おっ?終わったみてぇだな。」
唖然としていると後ろから声がかかる。声の主はモードレッドだった。
「ほらよ、朝飯。」
いつの間にか朝食を取りに行ってくれていたようだ。感謝の言葉を伝えた。
モー、実は…。
「聞こえてた。つか、あんなデカい声でしゃべってりゃあ、部屋の隅にいたって丸聞こえだっつうの。あれだろ?サボりになったんだろ?」
サボりでは無いのだが。まぁ、聞いていたのなら話が早い。付け足す説明も無いだろう。モードレッドは横に座り、2人でいただきますをする。
「それでは先輩、私もこれで失礼します。」
それと同時に皿に残っていたのを食べきったマシュが席を立つ。
戦闘訓練なくなっちゃったけど、マシュはどうするの?
「私は気になっていた本を読み進めようかと。ジャックさんやナーサリーさんもいらっしゃると思いますので、先輩もどうですか?」
ありがとう。でも折角だし今日は寝休日にしようかな。誰かさんのせいで寝不足だしね。
横目をチラリ。
「んだよ…文句あんのかよ。」
いや、別に。
モードレッドは頬を膨らました。
「ふふっ。たまにはそれも良いかと。では先輩、モードレッドさん。よい休日を。」
マシュもね。
そうして僕達は2人きりになる。厳密には厨房で働いている人や、同じく朝食を食べに来た人がいるのだが、少し遠い距離だ。ここは2人きりと言わせてもらおう。
モーはどうする?
黙々と食べる彼女に質問する。
「んだな…訓練がねぇとなると、別段やることもねぇな。お前は…さっき言ったとおりか?」
そうだね。寝るだけでないにせよ、自室でゆっくりすごそうかなとは思っているよ。中々そんな機会ないしね。
「そうか。そうだな。そうだよな……。」
生えてないはずの耳と尻尾が、項垂れるのが見えた。
……部屋に来る?
「いいのか!?」
生えてないはずの耳と尻尾が、激しく揺れているのが見えた。
僕の部屋にモーを拒む扉はないよ。
「よし決まりだ!あのゲームで勝負な!今日こそマスターに勝ってやる!!」
楽しみにしてるよ。
こうして朝食の時間が過ぎていった。
「全く…穴が空いてんなら言えよ。」
気づかなかったんだよ。
「気づかねぇわけねぇだろ。指が2、3本入るくらいデカかったんだぞ。」
朝食から3時間後、モードレッドは僕のズボンを縫っていた。と言うのは最初は先程の会話の通りゲームで対戦していたのだが、ふとした時にモードレッドが僕のズボンの股の部分に穴を見つけたことが起因している。
『おら、縫ってやるから貸せ。』
この位別にいいって。
『お前が良くてもオレがいやなんだ。穴の空いたズボンを履いているマスターのサーヴァントなんて、ダサくて泣けてくるっての。ほら、いいからよこせ!』
わかったわかった脱ぐ!自分で脱ぐから!だから下ろそうとするのは止めて!
という経緯があって今にいたる。
「しかしなんでこんなとこ破くかなぁ…股擦れってわけじゃねぇだろ。お前全然太ってねぇし。」
この間のシミュレーションじゃないかな。
「ああ!あの無様に逃げ回っていたやつか!」
笑わないでよ。あの時転げ回ったりして僕も激しく動いたからね。その時にビリっといったのかも。
「なるほどな。……あの戦闘は失敗だった。」
神妙な様子で語りだす。
「マスターに危機が迫るというのは言うなれば、本陣に攻め込まれるってことだ。そこで王が切られれぱその時点で負け。その後に相手の王を切ろうがそれは変わんねぇ。分かるかマスター。」
それはそうかもだけど結果として無事だったし…。
「それはシミュレーションだからだ。あのダ・ヴィンチが本当にお前に危険が及ぶモノを組むわけがねぇ。実際、確実に取れる動きはしてこなかったしな。つまりだ、実戦だったら死んでたぜお前。」
うっと言葉に詰まる。モードレッドが言っていることは事実だからだ。
「オレも情けねえ。王を守れなくて何が騎士だ。自分の不甲斐なさに腹が立つ。」
それは違う。モードレッドはよくやってた。悪いのは僕だ。あのシミュレーションのエネミーは一定の範囲内にいる敵を目標として攻撃するようプログラミングされていた。それを知りながら不用意に近づいた僕のせいだ。そう思うが彼女には伝えない。伝えたところで彼女は考えを変えないからだ。むしろさらに自分自身を攻めかねない。それは僕が最も望まないことだ。だから僕は何も言わなかった。沈黙が続いた数分後、モードレッドが突如として声を上げる。
「出来たぞマスター!どうだ!!」
戦果を誇るように見せられたズボンは鮮やか手並みで、パッと見では分からないほど綺麗に縫われていた。
いや、本当。お見事としか言えない出来だ。
「当然だろ!なんてたってこのオレが縫ったんだからな!」
胸を張って己が腕前を誇示するモードレッド。その微笑ましさから自然と頭に手が伸びる。
ありがとう、モー。
「……おう!」
労うように撫でると嬉しそうに笑う。まるで犬か猫だ。
「…どうしたマスター?何か言いたそうだな。」
しまった、顔に出ていたか。それとも直感か。何にせよ前述の言葉が滑ってしまえば、折角の上機嫌が急転直下してしまう。ここは誤魔化すとしよう。
いや、まさかモーがこんなにも針仕事が上手になるとはね。出会った頃は思いもしなかったよ。
「んだよ、ガサツな奴だと思ってたってことか?」
しまった、これもやぶ蛇だったか。口を尖らせる彼女を見て、冷や汗が流れる。しかしてすぐ様一変。モードレッドはにっかりと笑う。
「ま!オレも針子なんざ、何度生まれ変わろうとも縁がねぇって思ってたけどな!いや…針子だけじゃねぇ。掃除、炊事、洗濯。そんな女みてぇなこと、オレには絶対無理だと思ってた…。それもこれもお前のせいだぜマスター!お前が生活能力が全然無いせいだ!」
じっと見られて居た堪れなくなる。そうだ、モードレッドがこんな風に甲斐甲斐しく世話をするようになったのは僕のせいだ。
「始めてお前の部屋を見た時はビックリしたぜ!まるでゴミ屋敷だったもんな!服は脱いだら脱ぎっぱなしは当たり前。ゴミは屑篭へは入れず、零した飲み物も拭かず、ホコリがつもろうともお構い無し。おまけに食事はレーションばっか。こんな奴で大丈夫か、やばいマスターに召喚されたんじゃないかと最初は嘆いたもんさ。」
あははと笑って誤魔化す。
「お前がそんな奴で、カルデアにはそういった家事が出来る奴がいなかったもんだから、オレがやるしかねぇと腹括る羽目になった。それからだな。」
そう、それからだ。
と言っても最初はモーも全然駄目だったよね。
「お前が言うな。…ま、そうだな。んな経験全然無かったからな。今思い返してもひでーもんだったな!」
服を洗えば破き、掃除すれば壊し、料理すれば焦がす。そんな腕前だったモードレッド。
でも辞めようとは言わなかったよね。
「言えなかったというのが正解だな。オレが諦めたら誰がお前の面倒を見るんだよ。」
でもその後エミヤとかブーディカさんとか来たし、その時は辞めても良かったんじゃないかな。
「…そうだな。その通りだ。たしかにローマを越えてその2人が来た時、オレはお前の世話係を辞めても良かった…。」
どこか遠くを見るような目をする。
「でも、それが出来なかった…。選択肢すらなかった…。なんでだろうなマスター。」
それは…と言って詰まる。それを告げるのは違うと思ったからだ。その言葉を言うのは思い上がりだと思ったからだ。だから違う答えを提示する。
それはモーが責任感が強いからだよ。一度引き受けた仕事を他人を押し付けるなんて我慢ならなかったんじゃないかな。
今はそう言っておこう。
「……そうか!そうだな!うん、その通りだ!さすがマスター!オレのこと、よくわかってんな!!」
肩を叩いて賛美する。しかし痛くはない。しっかりと加減してくれている。
「さて!縫い物も終わったし、ゲームの続きをすっぞ!勝ち越しなんて許さねぇからな!」
こうして僕と彼女の休日は過ぎていった。
「おら!起きろマスター!」
粗雑な声に乱暴に毛布を取られて目が覚める。時刻は午前6時半。何時もの起床時間だ。ベッドから立ち上がり、背伸びを1つ。正直に言えばまだ寝ていたいが、それは彼女が許さない。
「起きたか?起きたな。ならさっさと顔を洗え。ほらよ、タオルだ。」
言われるまま洗面所に向かい、冷たい水を浴びる。起き抜けで頭が鈍いが、とりあえず眠気は覚めた。
「服はここに置いておくからな。ちゃっちゃと着替えて朝飯にするぞ。」
了解と返事をすると彼女は満足そうな顔をして部屋から出ていった。
と思いきや、直ぐに戻ってきて一言こう言った。
「手伝ってやろうか?」
要らないよ。
「待たせたね3人共。ようやく第六特異点へのレイシフト準備が出来た。時代は1273年、場所はイスラムの聖地、エルサレムだ。」
「今回は私も同行させてもらう。何、足でまといにはならないさ。この万能の天才を信じたまえ。」
「それでは行きましょう先輩、モードレッドさん。」
うん。
「おうよ!今回も任せておけ!」
これから始まる6番目の人理修復。過酷な旅となるのはこれまでの経験から分かっている。でも僕には頼れる仲間達がいる。何度も僕を助けてくれた仲間達が。だからといって不安がないわけではないけど、でもきっと大丈夫。大丈夫って信じている。
そんな楽観的な感情が粉々に打ち砕かれるのを、この時の僕はまだ知らなかった。