物凄い励みになっています。
漸く、話が進んだ?気がする。
あと1,2話で本編に移れると思います。
そうなるといいなぁ~
ベルの家にアルフィアとザルドがやってきて一緒に住むようになってから三年が経った。
家族四人。平穏とほど遠いかもしれないが、それでも楽しくも癖の強い日々を送っていた。
そんなある日。
ベルとアルフィアは、夕暮れの帰り道を手を繋ぎ歩いていた。
周囲を見渡せば黄金の麦畑が広がっており、その麦畑は風に吹かれ海の波のように揺れている。
まるで御伽噺の一幕を切り取ったかのような幻想的な光景だ。
道を歩く二人には会話はない。
ただ静寂の満たす空間。聞こえるのは風の音や揺れる麦の音、鳥や虫たちの鳴き声だけだ。
しかし重苦しくはなく。むしろ心地いい静謐。
義母に感化され似てきたのか、ベルはこのような静かなひと時が、そしてこうして義母と二人で過ごす時間が好きだった。
そうして歩き、家に着く。
扉を開けると、とても良い匂いが漂ってきた。
キッチンのほうに目を向けるとザルドが鍋をかき混ぜているのが見える。
ザルドはこちらに気付くと、鍋を混ぜる手は止めずに首だけ回してこちらを確認した。
「おぉ帰ってきたかベル、アルフィア」
「ただいまザルドおじさん」
「あぁ今戻った」
何でもないように行われる会話、三年前まで祖父と二人暮らしだったベルにとって、このような些細な会話でさえも嬉しく大切なものだった。
「ちょうど良い。シチューももうできる頃合いだ」
ザルドの作る料理はどれも絶品だが、その中でもシチューはベルのお気に入りだった。
ゼウスやベルたちが手ずから育てた野菜の甘味にザルドが狩ってきた兎の肉。
それらが牛乳のまろやかさが合わさり頬が落ちてしまうのではないかと思うほどだ。
ベルは今日の夕飯にワクワクしながら手を洗いに行く。
そうして暫らくするとシチューも出来上がり、四人で食卓に着く。
「いただきます」
四人が声を揃えてそう言い、食事を始める。
食事中、四人が囲む食卓にも会話はない。
これもまたアルフィアの影響である。
最初は、重苦しく感じ料理に延ばす手も進まなかったが、今では慣れてしまい黙々とシチューを食べ進める。
全員が食べ終えると、食べ始める前のように、
「ごちそうさまでした。」
と声を揃える。
「いやぁ相変わらずザルドのシチューは絶品じゃな、のうベル」
「うん、美味しかった」
「そう言われると作った甲斐があったというものだ」
ザルドは皆が食べ終えた後のあとかたずけを始める。
アルフィアは部屋の隅へと移動し、一人静かに本を読み始めた。
ゼウスは「腹いっぱいじゃ」と深々と椅子に腰かけ食休憩を取っている。
ベルは特にやることもないのでザルドの手伝いをすることにした。
「おじさん、手伝うよ」
「ん? そうか、ならテーブルを拭いてくれ」
「分かった!」
ザルドから布巾を受け取り、ベルはテーブルを拭き始める。
そうして各々が食後の自由な時間を過ごしていると、不意に家の扉が、コンコン、と叩かれる。
誰かが訪ねてきたのだろうか。
村の人達が何か用があり来たのか、それとも祖父やアルフィアたちを訪ね誰かがやって来たのか、はたまた賊の類か。
仮に賊の類でも問題はない、何せザルドとアルフィアがいるのだ。
むしろ賊を憐れむべきだろう。
「む? 誰じゃこんな時間に」
ゼウスが椅子から立ち上がり、訪ねてきた相手へ対応しようと玄関へと向かい扉を開ける。
扉を開けた先にいたのは、男だった。
否、人間ではない。
その男からは神威が発せられており、
『神』 天界より降り立った不変不滅の
その男は神だった。
一部灰がかかった漆黒の髪、着ている服も全体的に見て黒い。
顔はとても整っていて、同性のベルでさえ目が引かれるほどだ。
しかし、その顔には表情は浮かんでいなく無表情。
少しも笑わない相貌がベルは怖かった。
そんな訪問者にゼウスはとても驚いているようだった。
それは、アルフィアとザルドが突然やってきた日とまるで同じ。
古い知り合いに会った時のようだ。
「エレボス....」
「久しぶりだなゼウス、天界以来だ」
どうやら反応からして祖父の古い知己だという事がベルにも分かった。
「地上に来ていたのか」
「あぁ、俺も地上の様子を直接見たくなってな、こうして遥々やってきたってわけだ」
「それで? 世間話をしにわざわざこんな山奥まで来たわけじゃなかろう...何の用じゃ」
神意が分からないエレボスにゼウスが要件は何かと問う。
そんなゼウスにエレボスは大仰に肩をすくめた。
「用があるのはあんたじゃない、そっちの二人だ。漸く見つけた」
そう言ってエレボスはアルフィアとザルドへと視線を向ける。
二人はその視線に身構えた。
そんなアルフィアの強張りに気が付いたのか、いつの間にかに傍にいたベルがアルフィアのドレスの裾をギュッと握りしめる。
それに気づいたアルフィアはベルを安心させるように笑みを浮かべ優しく頭をなでた。
「ベル、奥に行っていろ。私たちは、あの男神と話がある」
「でも....」
ベルは、より強くアルフィアのドレスを握る力を強める。
何故だか分からない。
でも、ここで離してしまえばアルフィアが遠くに行ってしまい、帰ってこないような、そんな予感があった。
アルフィアは、そんなベルに困ったような顔をした後、ベルを抱きしめた。
「大丈夫だ、ベル。大丈夫だ」
一体何が大丈夫なのか、ベルには分からなかった。
恐らく言っているアルフィアにすら分かっていないだろう。
それでも、アルフィアはそう言わなければならないような気がした。
言われたベルは、その言葉に安心したのか自然と手を放していた。
ベルが自分のドレスを離したことに気付いたアルフィアは抱擁を解き、その背中を押す。
ベルはそれに逆らわず素直に家の奥へと引っ込んでいった。
そんなベルをエレボスは興味深そうに見送った。
ベルが見えなくなるとアルフィアとザルドに視線を戻す。
「とりあえず、此処ではなんじゃろう。中に入れ」
「それでは、お言葉に甘えて」
ゼウスに促されるままエレボスは家の中にはいる。
そのまま食卓へと案内され腰を下ろした。
アルフィアとザルドはエレボスと向かい合う様に座り、ゼウスは椅子を動かし二人と一柱の成り行きを見守るように席に着く。
「さて、先ずは確認だ。お前たちは元ゼウスファミリアの『暴喰』のザルド。そして、元ヘラファミリアの『静寂』のアルフィアに相違ないな」
神は地上の子供たちの嘘を見抜く力がある。
例え、此処で二人が「違う」などと嘘を答えても、エレボスには分かるのだ。
元より二人に偽る気はないが。
「あぁ間違いない」
エレボスの問いにザルドが答える。
その答えにエレボスは満足そうに笑う。
「あぁそれは良かった。ようやく見つけたと思って、こんな山奥まで来たんだ。これで外れだったら徒労もいいところだ」
「御託はいい、さっさと要件を言え」
わざわざベルを引き離したんだ。と、今にもアルフィアは痺れを切らしそうだ。
「そうだな、では率直に言おう....。どうせ死ぬなら世界の踏み台になろうぜ」
「は?」
エレボスの言葉に、ザルドとアルフィアは思わず声を零す。
意味が分からなかった。
「いきなり現れ何なんだ、この神は」
2人時は、そう思いながらもエレボスの真摯な目からそれが、よくある神たちのふざけた余興などではなく、全てを賭けた真剣なものだという事だけは読み取れた。
ゼウスもいまだエレボスの神意が読めずエレボスの様子を窺っている。
そんな、アルフィアとザルドにエレボスは、先ほどまで浮かべていた笑みを消し真剣な表情で語り始める。
「お前たちのことは調べた。だから知っている、そう長くないんだろう」
二人はエレボスの言葉に驚く、その言葉は張ったりなどではなく的を射たものだったからだ。
そう、二人の命はこうしているい今も蝕まれていた。
アルフィアは生まれつきの、スキルになってまで付きまとう病に
ザルドはかつてベヒーモスと戦い倒すため、その肉を喰らった
刻一刻と体を命を蝕まれ、死へと近づいていた。
その証拠にアルフィアは咳き込むことが増え、その中に血が混じることも、その血の量も増えていた。
「いつ尽きるか分からないその命、どうせなら時代の英雄たちのために使わないか」
そう言って、エレボスは自らの計画を話し始めた。
現在のオラリオは、かつて最強のファミリアとして君臨していたゼウスとヘラのファミリアが消え、その威光がなくなったことにより、抑圧されていた
そして、ゼウスとヘラのファミリアが挑み壊滅させられた『黒龍』。
二つのファミリアにより『終末の時計』を遅らせることはできたが、刻一刻とその時は近づいていること。
それらを踏まえて、オラリオに、世界には新たなる英雄が必要だという事。
その英雄を『次代の英雄』を生み出す。
そのためにオラリオを絶望へと突き落とす。
世界を救う礎を築くために、多くの血を流し、絶望をもたらし、試練を課すために。
きっと、その絶望を乗り越え、希望へと至ると信じて。
そのために、どういった手段を用いるのか淡々と語っていった。
その内容をアルファイアとザルド、そしていつも騒がしいゼウスさえも黙って聞いていた。
「未来のために悪をなす。次代の英雄を生み出す『必要悪』にして、世の歴史に罪過の象徴として刻まれる『絶対悪』。それが、俺が成そうとしている
そう言いきり、エレボスはアルフィアとザルドへと手を差し出す。
「そのために、未来のために踏み台になってくれないか」
言い終わると、エレボス口を閉じた。
ただ手を差し出したまま、二人の決断を、答えを待っている。
アルフィアは悩んでいた。
この話を受けるか受けないか、迷っていた。
三年前のアルフィアなら考えるまでもなく、エレボスの話を受けていただろう。
生き残ってしまった自分の命を使い切るには、これ以上ない舞台だ。
しかし、今のアルフィアにはベルがいた。
ベルを置いていき、悪をなすことがはたしてできるのか。
自分はベル捨て、悪を取ることができるのか。
そうして考えて、浮かんできたのはベルの笑顔だった。
ベルは私がいなくなれば、泣くだろうか
そうして先ほど、不安そうに自分のドレスを握りしめていたベルを思い出す。
あぁ無理だ。
私はもう、ベルを選んでしまっていたんだ。
ベルを置いて、『悪』を選ぶことは、もうできない。
それはザルドも同様だった。
ザルドもベルを我が子のようにかわいがっていた。
今更、ベルを置いて『悪』を選ぶことはできなかった。
結論は出た。
アルフィアは普段閉ざしている双眸を開き、ザルドと共にエレボスを見据える。
そうして二人は、ただ一言
「帰ってくれ」
と告げる。
そして二人は同時に「すまない」と謝る。
その表情は、とても悲しそうだった。
この二人の決断により、英雄は生まれないかもしれない。
そのせいで世界は滅んでしまうかもしれない。
結果、二人は世界とベルを天秤にかけ、ベルを取ってしまったのだ。
それを二人は理解していた。理解をしたうえで答え、謝った。
どんな罵りも受け入れるつもりでいた。
しかし、エレボスは眉を下げ笑い
「謝るなよ」
と言った。その表情はどこか残念そうな、けれど安堵したものだった。
「さて、それじゃあ俺は帰るするよ。長居をするつもりはない。お前たちがいない穴をどう埋めるか考えないといけないしな」
そう言って、椅子から立ち上がる。
「諦めるつもりはないんじゃな」
そこで、今まで黙って成り行きを見ていたゼウスが口を開く。
「当たり前だ。あんたにはどう映るかは分からんが、これは俺なりに地上の、そしてそこに住む子供たちの未来を考えた結果だ。諦める気も、立ち止まる気もサラサラない」
エレボスの答えに、ゼウスは「そうか」とだけ呟き目を伏せる。
そんなゼウスの様子が逆に気にかかったのか、エレボスは訝しむ。
「止めないのか?」
「止めても聞かんじゃろ、そもそも儂にお前を止める権利はありはせん。お前にそのような決断を強いたのは儂のせいでもあるのだからな」
「あんたのせいではないだろ、あんたとヘラのファミリアがダメだったなら、当時じゃどうしようもなかった」
ゼウスの言葉に、気にする必要はないとひらひらとを手を振る。
一方ゼウスは、下を向いたまま何も言わなくなった。
そんなゼウスに苦笑いを浮かべ、エレボスはわざとらしく思い出したとアルフィアへと話を振る。
「そういえば、さっきの子供ってアルフィア、お前の子供か? だとしたら、その
お茶らけた様子で話を振って来るエレボスに、アルフィアは眉根を寄せる。
「違う。あれは妹の子だ。ヘラの眷属の血筋であり、そこの糞爺の系譜でもある」
「へぇ? という事は、父親がゼウスファミリアか?」
エレボスが興味深そうに声を上げ、ザルドとゼウスへと目を向ける。
「あぁ....俺達の中でも一番下っ端だった
エレボスの視線にザルドは苦笑いしながら答える。
すると、空元気かゼウスも笑いながら話に混ざり始める。
「だがノリは良かったぞ。儂と一緒に女湯を覗きに行ったりもしたしな」
「それ自慢気に言う事じゃないぞ」
「頼むから、このエロ爺と父親にだけは似ないで欲しいと切に願う」
ゼウスの言葉にエレボスが突っ込み、アルファイアが頭痛に耐えるように頭を抑える。
いっそ三つ向こうの山まで吹っ飛ばすか、と真剣に思案し始めたアルフィアを見て、エレボスが
「ゼウス、あんたよく送還されずに済んでるな」
と、憐れみを含めた声で言うと、ゼウスが「自分でも不思議じゃ」と言って二柱そろって笑い始める。
一頻り笑うと、エレボスは再度アルフィアとザルドへと向き直る。
「アルフィア、ザルド、さっきも言った通り俺は計画を止めるつもりはない。お前たちの穴を埋めるのは難しいだろうが何年掛かろうとも実行して見せる」
そんなエレボスの言葉を二人は申し訳なさそうな表情で聞いていた。
それを見てエレボスは苦笑しながら「だから気にするなって」と言い、話を続ける。
「そしてもしもの話だが、さっきのあの子が父親と母親の血に導かれ、オラリオにやってきたとしよう。そして俺の計画も実行に移せる段階まで持っていけていたとする。
その時は、お前たちの子供だろうが容赦しない、関係なく絶望へと落とし、試練を課す。その結果死んでしまうかもしれない。それでもかまわないな」
お前たちの子供だろうが容赦しないぞ、とエレボスに覚悟を問う様に聞かれた質問に、二人は聞くまでもないことをという様に、その問いを笑った。
「皆まで聞くなよ、エレボス」
「あぁ、答えなど決まっている」
そうして、二人は答えを告げる。
「その時は、全力を持ってあの子の前に立ちはだかってくれ」
二人は声を揃えて言った。
「より大きな悪として、あの子に前に現れ『正義』とは『英雄』とは何か問いただし、その結果、答えを見つけるに至らんことを」
「そして、より高い
二人は答えた。精々あの子の踏み台として現れ、全霊を持って立ち塞がれと。
その答えに、「そうか....」と呟くと、腹をかかえて笑い出す。
「全く酷い愛だな。愛情というには物騒すぎるぞ。
今からあの子が哀れに思えてくる」
「私たちは、そこの爺とヘラの眷属だぞ? これくらいは序の口だ」
「ああ、ファミリアが健在ならもっとひどい目に合っている」
その会話にゼウスは「間違いないな」と頷く。
そこでまた皆で笑った。
笑い終えるとエレボスは背中を向けて玄関へと向かう。
もう言いたいことも、聞きたいこともないのだろう。
玄関の扉を開け、外に出ていく。
扉が閉まる直前、首だけ回して振り返り最後の問いを投げかける。
「あの子の名前は?」
「ベル・クラネル」
「そうか覚えておこう」
そうして、扉が閉まる。
突如訪れ、世界を救うため『悪』をなそうと二人を勧誘しに来たエレボスは帰っていった。
これが二つ目の帰路。分岐点。
世界の行く道筋は完全に切り替わった。
この選択が招く結果は、誰にも分らない。