これはU-47とケッコンした指揮官、慶次がU-47と一緒に、実家へ結婚報告をしに行くお話。

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慶次:指揮官だ。

U-47:U-47よ。潜水艦。


君がいれば

むせ返るような夏の大気を裂いて、アスファルトの上をいくつもの車が行き交う。ごく普通の街の、その中を走るごく普通の自家用車の車内で、ふたりは無言である。

曖昧に重い響きのエンジンとくたびれたラジオが流れて、ふたりの代わりに空白を日常色に染めている。

「あづい...指揮官、あつくないの?」

「暑いのか?47」

指揮官はハンドルを握りながら、助手席に座るU-47に話しかける。彼女は、開けた窓から風をめいっぱいに浴びて、

「ううん、暑いけど、暑くない。」と言った。

なんだか、少し不満そうにも見える。多分、あの後ろに積んだ自転車についてだろう。と、指揮官は後部座席をちらりと見やる。

赤と黒の鉄血のイメージそのままをボディーに反映した意匠である。

後でめいっぱい乗らせてやろう、と心内に決めて、「そうか」と短い返事をした。

「あと少しで着く。もうそろそろだ。」

「...そっか。」

目の前に見えた赤信号を見て、アクセルからブレーキへの切り替わり。慣性の法則が2人を少し前のめりにさせてから、元の位置に戻す。

「...指揮官の、お父さんとお母さんの家に向かってるんだよね。いま。」

「ああ。」

突然、U-47がそんなことを聞き出す。

そう、今ふたりは、指揮官の両親の元へ向かっている。

 

 

 

 

アズールレーンとセイレーンの抗争は鳴りを潜め、世界が束の間の安寧を得ている。

「いつ」また戦争が起こるかなんてわからない。

でも、少なくとも「今すぐ」ではないようで。

こうして車に乗ってあるべき事、やるべきことをやるために。

こうしてふたりで母港を離れ、今ここまで来ている。

「指揮官のお父さんとお母さんってどんな人?」

「うーんそうだなぁ...」

大きくハンドルを切りながらU-47の質問に答える。

「母さんは、何でもできるしやろうと思ったら何でもやるよ。すごい行動派なんじゃないかな。」

「お父さんの方は?」

「うーん...難しい人かな。いつもなにか考えてるよ。スマホのメモとか考え事でビッシリだな。」

47はその答えを聞いて満足したのだろうか。

ふーん、と素っ気なそうにしてまた窓の外を見やるのだった。

「ここの道を曲がったら、もうすぐだ。」

車1.5台ぶん程もない狭い道を入ってゆく。

もう100mもない道が、何故だか指揮官には長く感じられた。

懐かしいのか、それとも別のなにかかわからないが、そう感じた。

砂利の駐車場へ車を動かし、エンジンを止め車を降りた。

バタンっ、と戸を閉めた途端に熱風が肌を湿らせ大粒の汗を作らせようとする。

耳には先程までと変わって、夏が本場であるセミたちの鳴き声が絶えることなく響いていた。

指揮官が暑いと感じたのだ。普段冷たい海が仕事場の47は額に手を当て、もうクラクラだ。

「指揮官...ナゴヤってすっごく暑いんだね...熱中症になりそう。」

「ああ、結構今年は熱い方かもな。とっとと家に帰...入ろう。」

がらがらと鍵のかかってない引戸を開け、「ただいま〜」と指揮官は言う。

とたとたとたという可愛らしい音が聞こえてきた。

ふたりを一番に迎えたのは、愛らしい三毛猫であった。

「おお〜」といって47が猫を抱き上げる。そして片方の手で

「よ〜しよしよしよし〜うりうり〜ん〜?」

と猫を撫で回す。

「おっ、ハナじゃないか。元気だったんだな。あん時あんな小さかったけど3年...や、4年くらいかな?大きくなったな〜」

指揮官も同様に撫でる。ハナは人懐っこく顔を手のひらへ擦り寄せてくるので、なお撫でる手は止まらなかった。

続いて、どたどたという二人分の足音が玄関へ近づいてくる。

「け、慶次!!」「慶次っ!!戻ったんか!!」

「ただいま、母さん。父さん。」

慌てた2人の顔に、笑顔でただいまを言った。

隣の47は抱き抱えていた猫を地面に下ろしてやって、ぺこりと礼をした。

母親がそれを見て47に尋ねる。

「えーと、そちらのお嬢さんは?」

「私は、U-47。」

 

それから一呼吸置いて言った。

「KAN-SENよ。」

それを聞いて父親は訝しんだ表情を見せた。というより苦虫を噛み潰したような、と言った方がいい様子だった。

母親は変わらずに聞いてくる。

「聞かない名前ねぇ、艦船??外国の方?どういうこと??」

47は、それについて的確に答えたのだった。

「えーと...わたしは、指揮官の恋人で、好きで、好きで...えと、」

しかし最後はうしろすぼみになった彼女の言葉を指揮官は引き継いだ。

「俺、47のことが好きで、____好きで仕方ないんだ。だから、俺、U-47と結婚しようと思う。」

言った。言い切ったのだった。

結婚するにあたって、自分勝手に結婚する訳にはいかない。せめて親に知らせようといういたって世俗的な考え方が指揮官にはあった。

だから、今日この日、指揮官の実家へやって来たのだ。

 

私たちは、結婚する。と言うために。

 

それを聞いた母親は目を丸くし、父親は肩を震わせていた。

「結婚...するの?慶次。」

「ああ。」

聞いてくる母親に対し、父親はその肩を震わせたままだった。

「...父さん?」

「本当なのか。」

「何が?」

「本当にKAN-SENと結婚しようとしているのか!!愚か者!!」

父親は怒りにその身を震わせたのだ。

「どういうことかわかっているのか!?そいつは人ならざるモノだぞ!!兵器だ!!幾ら人の形をしていようと兵器なんだぞ!!」

「...」

 

 

しばしの安寧がもたらされた世の中のKAN-SENに対する評価は、とても冷たいものだった。

兵器が人の見た目をしたせいなのか。

それとも各船に、固有の意思があるのかいけなかっただろうか。

世の中の大部分の意見、いわゆる世論、というのは「KAN-SENは非常に強力な兵器で、人間とはかけ離れている。個々の自由意思を持っており、KAN-SENらが反逆活動を起こせば我々の命は一瞬で絶やされるだろう」と、いうふうになっている。どうしてこうなったかは特別理由はない。いつの時代も、マスコミが勝手に世論を操作するものだ。

彼女らには人間を根絶やそうなんて気持ちは、これっぽっちもない。

むしろ、人間の世界を存続させる為にセイレーンと戦っていたのだ。

これでは、彼女らが非人道的で凶悪な殺人犯と変わらない評価ではないか、と指揮官は思っていた。

無論、指揮官は今まで声に出したことはなかったが。

 

隣のU-47は感情を表に出さない。それでも今は少し悲しそうにして、俯いてしまった。

 

指揮官は今まで父親に酷い口の利き方をしたことはなかった。

それでも、考えるより先に怒りがそれを追い越し彼の口を動かしていた。

「そんな言い方ないだろ!!」

「黙れ!!今お前の隣にいるそれは」

「お父さんも慶次も一旦落ち着いて、もう。」

そんな一触即発な雰囲気を制止したのは、母親だった。両手で双方を抑えながら俯いたままの彼女に謝った。

「ごめんなさいね。うちの旦那が。私もKAN-SENってとても怖いモノだ。って聞いてたの。でもまさか目の前のこんなに可愛いお嬢さんがそうだと思えなくって、反応が遅れちゃったわ。」

そう言って笑顔を作った。対して父親の方は気に入らなかったのか「ふん、」と言ってずかずかと家の奥の方へ行ってしまった。ふたりと母親がそれを黙ったまま見送って、しばらくした。「お茶にしましょうか。長旅で疲れてるでしょ?慶次。47さん。」という、母親の声がするまでふたりは何かに縛られたように動くことができなかった。

 

 

「ケージはコーヒーでいいわね、彼女は?」

「あ...私もコーヒーで。」

「はいよ。」

黒色の木のダイニングテーブルに、白い湯気を立てたコーヒーが2つ並べられる。片方は不格好な赤いマグだが、もう一方のU-47の方へ出されたコーヒーは派手すぎない装飾のソーサラーに乗った白いコーヒーカップで出された。客人用だろう。

こつこつこつこつ、と年季の入った振り子時計が刻を打つ。

「ケージ、おかえりなさい。戻ってきてくれて嬉しいよ。4年...5年ぶり?」

「そうなるな。」

「あんたあの時急に『職が決まった』何て言ってこっちに帰って来なくなんだから、ビックリしたよ。どれだけ忙しい仕事かと思ったらまさか一海軍の指揮官なんて。」

「まぁ...そんな感じかな。」

自分がどこのどこ部の所属で...何て説明したら面倒なので、母親には「軍の指揮官」とだけ伝えた。

「あっ...苦い...」

「おや、ミルクか砂糖がいるかい?」

U-47はコーヒーを啜って舌を出した。母港で普段飲んでないらしい。どうやら苦味なものは得意ではないようだった。

「ああ、じゃあ俺取ってくるわ」

と言って彼は立ち上がって台所の棚を漁り始める。

「あなた、本当にかんせん?っていうのね。」

「あ...そう。私は、U-47。潜水艦。海で戦っているわ。」

「へぇ...わたし、せんすいかん?とかよくわからないのよ。言葉自体は知ってるわ。でもそれがどんなふうに戦うかなとか姿はとかは知識でしかない。ケージは、あなたと一緒に戦ったの?」

「うん。指揮官は私と一緒に戦ってくれた。いつも1人で戦ってたから嬉しかったよ。それにたくさん心配してくれた。」

「そう。」

それは良かったわ、と母親が相槌を打つ。

「あー恥ずかしいなもう!ほら!!砂糖と牛乳だ!!お好み分どうぞ!?」

砂糖とミルクを両手に持った指揮官が戻ってきた。恥ずかしさを紛らわす為か、なんだか声も動作も乱暴だが、U-47は変わらない調子で「ありがとう、指揮官。」と微笑んで言った。

「~っ!!」

指揮官はますます赤面するしかなかった。マグに残ったコーヒーを一気に飲み干して隣の畳の部屋に逃げていってしまった。

ふふ、とと笑い声が2つ聞こえる。

「まるで初恋の中学生ね。あの子ちっとも変わらない。」

「そうなの?」

「そうよ。人一倍正直で、素直に思ったことを言うし、すぐ顔に出るわ。」

「あ〜、そうかも。指揮官、すごく正直だ。でもそれが彼の魅力よ。たくさんの仲間を助けてる。」

彼の後ろ姿を見ながら、そんな感想が出てくる。

「あなた、趣味とかはないの?」

「趣味...?」

「そ。普段やってることとか。園芸とか料理とか。」

ああ、それなら。と人差し指を立てて、

「サイクリング、かな。」と47は言った。

「へぇ!サイクリング?」

「そう。指揮官に自転車も積んできてもらった。見せようか?」

「うん!見たいわ!!見せて頂戴!」

っと何やらとり決まりが成されたようで、ダイニングから人気が無くなった。

指揮官はそれを確認してから、1人ダイニングに戻ってもとの席に座った。

こつこつこつこつ、と年季の入った振り子時計が刻を打つ。

「.......」

それ以外に何も無い。

座って静かに時を過ごそう__、と思った瞬間。

「おう、いるな。」

「と、父さん!?」

奥の部屋から父親が顔を出した。

「今コーヒー淹れるよ!」

ガタッと慌てて席を立って、台所へ向かおうとする。が。

「ああいいからいいよ。もうコーヒーはこっちで飲んだんだ。」

父親はそれを手で制し、おもむろに反対側の椅子に座った。

「大事な話がある。」

そう言って真剣な眼差しをこちらに向けていた。

「彼女のことについてだ。わかるだろう。」

途端に指揮官は、先程、怒鳴られたことを思い出した。

あまりに理不尽な事だったから、思い出してまた怒りが込み上げてきた。

「まだなんか言うつもりか?彼女も、俺の仲間も、なんも危なくねえし非人道的な兵器じゃない。」

それでも何とか今度は冷静に返したのだった。

父親は怒るだろうか。それとも納得するのだろうか。と顔色を伺う。

「ああ。知ってる。というかわかったんだよ。それは。」

が、しかしそれは予想外の方角からの返答だった。

「知ってるって...!?」

「さっきからのお前の彼女とお母さんが話してるのを見てわかったんだよ。」

あっさりと意見を認める父が信じられないでいた。

怒鳴られたことからは想像もつかないくらい二つ返事とも言える即答だった。

「じゃあ...!」

「いぃや、彼女は『人』じゃあない。そうじゃないから考えなきゃ行けないことがある。」

問題はそこではないのだ、と首を横に振る。

「彼女はKAN-SENだ。海で戦い続ける兵(つわもの)だろう。」

「そうだけど...」

何が言いたい、と。また目の前の父の顔を伺う。

つわもの、という語に変換が追いつきまさか、と、ある思考に考えついた。

「まさか、彼女が沈むってのか!?」

だから、彼女がもし沈んだときに、喪ったときに襲ってくるであろう悲しみの覚悟はできているのか、と。そう言いたいのだろうか。

 

 

だが、そんな覚悟、とっくにできていた。それは指揮官となって平和を取り戻すと決めたそのときから、とっくに。できていたのだった。

来る日も来る日もセイレーンと戦い続ける背中を見続けてきたのだ。

「そんなもの、もうとっくに出来てる。沈む覚悟だなんて。」

その自分の覚悟を目の前の父親にぶつけた。

「それも違うな。彼女はきっと沈まないだろう。特にお前がいる限りな。」とそれもこの目の前の父親は否定した。

「特に」の部分を強調して。

 

「問題はその先だ。」

 

「それはな、慶次。彼女がー

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが...」

「うん。これが私の自転車よ。」

赤と黒とで塗装されたボディは、赤くなり始めた夕日を浴びて輝くかのようだった。

そのマウンテンバイクをそそっかしく立ち位置を変えて眺めているのが慶次の、指揮官の母親だった。

「かっこいいわね〜私こんな自転車乗ったことないわ〜。」

触ったり、また遠くから眺めたり、角度を変えたりと、本当に興味津々な様子だった。

「良いわねぇ自転車...私も買ってみようかしら。」

ぼそり、と呟く母親。

「買うの?」

「...買ってみようかしら。そうしたら貴方とも

何処かへ出かけられるわね。ああ、あんまり遠いところは嫌よ?いきなり行ったら疲れちゃうもの。」

と言って笑った。完全に買う気である。ここまで行動力のある人間がいるのか、とU-47は心底驚いた。

「そう...だね。今度港の近くに行ってみる?海も見れて綺麗だよ。」

「いいわねぇ。私まだケージが働いてるところ見たことないのよ。ついでで見に行ってもいいかもしれないわね。」

「うん。来たらいいと思う。きっと指揮官も喜ぶ...はず。」

あはは!と豪快に笑い飛ばす母親。

「それにしても、港、かぁ...」

ぽつり、と港という言葉に反応して呟いた母親。なんとなくそれに興味を惹かれたU-47。

「港がどうかしたの?」

「...まぁね。港での生活は楽しいかい?」

「うん。指揮官がいればどんな景色もいい景色になる。そんな気がするから、毎日が楽しいよ。」

「そう...ケージと一緒なら、か...」

 

「ねぇ、もしよ、貴方のー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ー彼女が、人じゃないから考えなきゃいけないんだ。彼女が、『どれくらい生きることが出来るのか?』ということについて、な。」

「何...!?」

「彼女は兵器だ。再三散々言うようだが、兵器なんだ。だから彼女の寿命は人並み以上...それこそ相手に沈められるまで生き続ける、半永久的存在とも予測できる。理由は単純。人並み、もしくはそれ以下の寿命なら交換、再配備が面倒だからだ。個々が自我を持ち最新の兵装で...なんて考えたら、とんでもないコストだろう。」

目の前の父親はまるでKAN-SENについてあらゆる事を知っているかのように話す。いや、知ってはいない。今ある知識とそれを組み合わせた予想、推測、推理......。

事実ではないものの、考えれば考えるほどにそれは事実に思えてくるのだった。

「わかるか?例えばお前が、お前の仲間と世界を平和にして、そのあと、彼女を娶ったとしよう。それはもう飽き飽きするほど幸せだろう。だがな、そんな日々は突然瓦解する。何物でもない、お前が先に死ぬことによってな。」

 

「それは...」

そう言い掛けた慶次の言葉を父親は取って続ける。

「それは、悲しいことだろうな。置いていかれるんだ。二度と会えない。」

彼女が、とり残される。そんな予想が、明確な黒い光となって視界を思考を覆い尽くすのだった。

もとより、考えればすぐに思いつくことだったかもしれない。

しかし、少なくともこの慶次という真っ直ぐすぎた指揮官には、平和にしたそのあとのことなど考える余裕などなかったのだ。

何より「今」を平和にするために戦って邁進して来たのだから。

身を切るような思いかもしれない。

または腹の中に鉛を押し付けられるような辛さかもしれない。

はたまた、頭に釘を打ち付けられたような痛みかもしれない。

それでも、彼は考えられずにはいられなかった。

 

振り子時計が鳴らす6回の鐘がやけに響くように感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「___貴方の隣から、ケージが。指揮官がいなくなったら、貴方はどうかしら?」

そうやって、質問をされて、U-47はしばらく夕日を見ながら黙るしかなかった。

ついに言葉が出てきたときには眼鏡のレンズに残るオレンジの光はもう少ししかなかった。

「あれ...何で泣いているんだろう。」

眼鏡の下から一筋の涙が肌を伝わる。一筋では収まらず連鎖するように溢れ出ていく。拭おうとしても拭いきれない程に。

「貴方、優しいのね。」

「え...?」

ハンカチがU-47の涙を拭いた。

「よっぽど優しいわ。普通の人よりね。」

 

そう言って彼の母は微笑む。

「そう。いつかは終わってしまうわ。貴方とケージだけじゃない。私と、あの人だってそうよ?」

あの人...?と言われて、47は、怒鳴ったあの男を思い出す。

「そうそう。...あの人、悪い人じゃないのよ?聡明な人で思いやりも人一倍強いわ、それはわかってあげてね。」

 

「それでね。話を戻すけど、結局形あるものに終わりは来てしまうわ。それでもね...」

と言葉を切り、空を仰ぐ。

するとそこには都市部とは思えないほど綺麗な星空が広がっていた。

「これ......!」

思わず感嘆をあげた。星空ではある。しかしまだ地平線にはまだ夕日は沈みきっておらず、強く輝いている。

夜空ではない。頭の中にある知識の言葉を借りるならばそれは、『宵闇』というものだった。

「それでもね、元からある景色は変わらないのよ。いつまでもずっと。」

「元から...」

オレンジの輝きは段々と薄くなり、完全な夜の星空が訪れる。

無限のような、それともほんの一瞬のような、どれくらい、その空を眺めたかわからない。

「さ、ご飯にしましょう!!2人が待ってるわ。」

そんな指揮官の母親の声でやっと、現実に引き戻されたU-47だった。

 

 

 

 

「はいただいま。今からおゆはん作るわね!あら?慶次はどこ行ったかしら?」

エプロンをつけながら台所まで帰ってきた母親が、リビングに見えない息子の場所を問う。

がやがやと流れるワイドショーから意識を逸らさずに「考え事つって仏間に行ってたぜ」と父親の方が答えた。

「そう、じゃあ後で呼べば良いわね。」

「......」

そこへU-47が入ってきて、自分の居場所がないことを悟った。指揮官のところにでも、いや、考えごとの邪魔になっちゃいけないから、また外に出ようか__

開けかけたリビングへの引戸を、閉めかけようとしたそのときだった。

「あにやってんだ嬢ちゃんよ。入んな入んな。蚊が入るだろ。」

と行って慶次の父親の方がこっちこっち、と手招きをした。

47はそろりと引戸を開け、ダイニングテーブルの椅子に座った。

座っただけで何も起きない。合間にあるのはクイズ番組の司会者の声と、炒め物の水分を飛ばす音だけだ。

『クイズ、アルティミットワン!!アイドルチームからの脱落は~......』

『サンディエゴさんで~す!!』

『ちょ!!私はナンバーワンよ!?ねえ、ちょ』

『それではボッシュートとなりま~す』

『ねえ!!ちょ.....うわああああああああああ』

 

「はっはっはっ!」

彼の父親はクイズ番組に参加しているタレントを見て笑う。

......と、突然、テレビに向いていた意識がU-47に変わった。

「嬢ちゃん、名前...U-47って言ったっけな。その、あのときは怒鳴ってすまなかった。」

「あ...え...?」

突然切り出された言葉を咀嚼できないでいる47だ。

「さっき慶次と話したんだ。あいつと嬢ちゃんと、それからについてな。慶次が本気なのはわかったし、嬢ちゃんが優しいのも、危なくないのもわかった。だから、謝る。すまなかった。」

向き直ってから、まっすぐとU-47に頭を下げた。

「いや、だいじょ...ううん。ありがとう。」

「君は...本当に優しいんだな。」

顔を上げて父親は言った。

U-47は、優しい、という言葉を噛み締めた。

冷たい海の中にいたときには、ついぞかけられなかった言葉だ。

優しいからこそ、彼は私に声をかけてくれた。

優しさがうつったのだろうか。私に。

そもそも、言葉なんて聞かなかったかもしれない。暗い暗い海の中では。

(彼が私に声を掛けなかったら...いや、掛けなくても...)

景色は変わらない。いつでも。

そう彼の母親は言っていた。これもどういう事か、まだ理解出来ていない。

ただただ、考え続ける。

答えはまだ、出ないか。

リビングには、フライパンが水分を飛ばす音と、クイズ番組と、年季の入った振り子時計の秒針が、何でもない時間を彩るだけだった。

 

 

 

 

 

考えていた。考えていた。

暗い部屋の中で。

あかりは目の前のパソコンだけ。

ブルーライトが薄く後ろの仏壇の輪郭を形取るくらいの明かりでしかない。

検索画面には何を調べるか、調べてどうか、宙ぶらりんなまま文字を途中で打ち込み終えている。

もちろん、この問題の解決案がネットの海に転がっている訳が無いと、虚ろなまま気がついて、打ち込む手を止めたのだ。それっきり、同じところをぐるぐると考えたまま過ごしている。

「おいていく、か...」

ぽつり、と声に出してそれは、瞬く間に部屋の暗がりに消えていった。

これまで、考える余裕はなかった。本当になかったのだ。

なぜだったか海に立ち、彼女たちと、アズールレーンと共に、世界の平和をかけた戦いをすることになった。

戦って、戦って、それでも。

そりゃあ、

たまには平和な日もあった。

そんな日に、初めて出会った彼女。

U-47、と名乗った。

無表情で名乗るだけ名乗って執務室から出ていこうとしたその背は、やけに小さく見えた。

次の日も、その次の日も、心配で心配で様子を見に行ったのを覚えている。

ある任務があった日、『上級個体のセイレーンに囲まれた。特に損傷はない。』なんて報告を寄越した日もあった。

その背に限らず、体中がボロボロだったのを覚えている。

それから、無理でも、迷惑でも、彼女のお節介を焼こうと決めた。

秘書艦に任命した。来る日も、来る日も一緒に過ごした。ときには事務作業を進め、ときには遊んだりもした。

最初は面倒くさがって乗り気じゃなかった。でも彼女は、少しずつ、少しづつ、笑ってくれた。

少しづつ、少しづつ執務室に居る時間が、一緒に過ごす時間が増えていった。

来る日も、来る日も、

少しづつ、少しづつ。

 

そして、いつしか朝日も一緒に見た。

「私は...私の存在価値をあの暗い海の中だけだと思ってた。でも、今は、母港でも、そしてあなたの隣でも...あなたと一緒なら、たとえ言葉をかわさなくても、私は...」

 

 

 

「幸せよ。」

 

そう言ってくれた。

 

置いて行くなんて考えられない。

それでもそれはいずれ来てしまう。

どうしたらいいのだろうか。

また、同じことを考え始める。

そうして何度目かのループに入ったとき、

「指揮官、」

ふすまを開けてU-47が入ってきた。

「......」

何も、何も言えない。なにか言うべきかもしれない。そうでないかもしれない。必死で何かを探しながらしばらく見つめあった後、U-47が先に口を開いた。

「指揮官、ご飯出来たって。焼きそばって言ってた。食べよう?」

「お、おう。」

おもむろに立ち上がると、さっきまで気にもならなかったいい匂いが慶次を誘う。

思考を一旦中断して、居間へ向かうのだった。

 

 

「いただきます」

「はいど〜ぞ!」

手を合わせて、目の前の焼きそばを見る。

どうやら子供のときから食べていたものと食材も作り方も変わってないようで、何だか安心した。

ここの地域では、どうやら他の地域と味付けや食材が少し違うらしい。麺には蒸し麺を、そして味付けには醤油ベースのタレ、というかウチでは醤油を使う。

決定的に味が違う。というかこれが一般的なものでは無いと気がついたのはまさに、アズールレーンの指揮官になってからだった。

そして気づいてから実家には帰っていないことになるから、本当に久しぶりの味であった。

隣に座ったU-47を見やると、ふー、ふー、とよく冷ましながらその味に驚いていた。多分、母港でのイベントの屋台で食べたことのある味とは相当違ったのだろう。一口一口に驚きながら、また口に運んでいっている。

母親は満面の笑みでこちらを見ている。こんな美味しそうに自分の作ったものを食べるんだからこれ以上嬉しいことは無いんだろう。

満腹になって、なんとなく幸せな時間を過ごした...

 

 

そうして、満腹のまま、何も考えないままゆるりと時間が過ぎた。

もう9時だ。どうやって過ごしたかは覚えてない。満腹からくる眠気がすごかったのは覚えている。酔った父親のトークはほとんど覚えてないけれど確かに彼女が楽しそうにしていたのは覚えている。それだけで十分だったことも覚えている。

そのままのまどろみで風呂に入った。

浴槽はそのまま...ではなく、浴槽だけリフォームしたようで真新しいタイルに白いツヤのある浴槽に湯が張られていた。

まぁ、前までの風呂も悪くはなかった。味があって。

風呂から上がり、港から持ってきた適当な寝間着に着替えた。...完全に実家帰りと化した。あれから、父親とははっきり話していない。酔った状態で話しても、まともな話し合いではないだろう。母親の方はおそらく、自分たちの結婚を認めてくれている。もしかしたら、父親も認めてくれているのかもしれない。

 

でも問題はそこじゃない。

もっと大きな問題が、自分に見つかった。

「どうしたの?厄介事でもあった?」

「あ...いや、別には」

居間の隣の畳の部屋で体を投げ出してるところに、U-47がちょうど風呂から出たのだろう。声をかけてきた。

「そんな厄介事っぽそうな顔してた?」

「うん。してた。」

あー、と頭の後ろを掻く。すぐ顔に出るな、と今更ながら思う。でも次には笑って

「ううん、なんでもない。」

と言って心配をかけないようにする。少なくとも自分の覚悟の問題なのだから。

「けいじ〜?」

「おん?」

どうやら玄関あたりの方からか、母親が自分を呼ぶ声が聞こえてきた。

「どうした〜?」

「あなた達寝るところ洋間でいいかしら〜?」

「わかった〜」

...と、声だけでやり取りしたがもしかしてもう洋間に布団を敷いてたりするのだろうか。流石に申し訳なくなってソファから起きて、声のした洋間の方へ向かった。

「あら、どうしたの?」

「ごめんごめん布団ぐらい敷くって自分で。」

やはり布団を物置から引っ張り出して洋間に敷こうとしていた。その役目を買ってでる。

おくれて、とことことU-47がやってきた。

「手伝おうか?」

「じゃあ頼む。こっちの布団を敷いてくれないか?」

「ん。」

「ああ〜折角帰ってきたんだからもてなさせてくれてもいいじゃない?」

「何言ってんだ俺がガキの頃はやれ自分で敷けだのやれ何だと全部やらせようとした癖に」

「わかったわよ...じゃ、シーツ持って来とくわね。」

「わかった。」

 

「...これで寝たことないよ、私。」

「そっか...母港はベッドだもんな。重桜の寮舎まで行けば多分これだろうけど。」

と、はじめての敷布団に、興味津々なU-47。シーツをさわったり、枕をさわったり...いや、枕は同じだぞ、U-47。流石に竹で出来た枕じゃああるまいし。

「で、このかけぶとん?って言うのをかぶるの?」

「そう。」

もそもそと布団を引きずって布団にくるまる。

自分も同じように隣で掛け布団と敷布団のあいだに体を入れ込む。

そのまま、何も言わずに寝息を立て始める。

不安になって声かける。

「...47?」

「...」

 

「U-47さん?」

「...何?どうしたの?」

「いや...なんとなく...」

「...そう、」

また、暗闇が眼前に広がり沈黙が流れる。

...いっその事、U-47本人はどうなのか聞いてみたい。

 

 

 

 

 

 

 

「U-47...もし、俺がいなくなったら、どうする?」

 

「もし...セイレーンを全部倒して、何もかも自由になって、それで、俺たち結婚して...それで...」

指揮官が、そんなことを聞いてきた。

すぐに返すことは出来ない。

とっくに暗くなった木造の屋根を見て考える。

彼の母親も、同じことを聞いた。

そのときは...答えを出せなかった。

ただ、感じたことも無い気持ちが溢れ出てきて、涙を流しただけ...

 

きっと、怖かったんだ。喪うのが。

居なくなるのが...いつか、消えて掴めなくなってしまうから。とても怖かったんだ、と思う。

 

「...うん。怖い。とっても怖いよ。」

考えて、考えて。どれくらい考えたかわからないけれどやっぱり、正直な気持ちを口にするしかなかった。

呟いたような気持ちは暗闇に溶けて消えた。

「...指揮官?」

返事が返ってこない指揮官の方を見やる、と...

「すー、すー、」

「は?」

どうやら寝てしまっているらしい。

自分から聞いてきた癖に、勝手な...。

...勝手な。

また暗い天井を見る。

結局のところ、目が冴えて眠れない。というわけだ。

というか、今何時だろうか。

指揮官の枕元にあるスマートフォンの電源を入れ、表示された数字を見る。

1:34。と表示される。

...結構、長い間考えていたみたいだ。

これは、指揮官に寝られても仕方なかったかもしれない。

また暗い天井に目をやる。

...寝ることはできない。

少し昔の事でも思い返すことにしてみる。

 

『たとえ言葉をかわさなくても、私は...幸せよ。』

 

思い返してすぐ、これが真っ先に出てくる。

ああ、そんな事も言ったな。なんて、今更ながらに思い返す...。

彼の寝顔を見ながらそんなふうに懐かしむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは...?」

暗い空間。...天井は、ないように伺える。

地面は存在するようだが、これは地面ではない。

海だ。

ここは、暗い海の上だ。

進めるだろうか。足を1歩前に出すとどうやら歩けるようだ。

何のあてもなくここが何なのかも考えずに前に足を進めた。

すると、背中が見えた。あのときから、守りたいと思った背中が。

「47っ!!」

思わず声を掛ける...が、どうやら聞こえないようだ。

「U-47?」

もう少し、近寄ろうと海を進もうとした、そのとき。

『ここまでね~』

「なっ...!?」

突如として、後ろから首筋にナイフが突きつけられた。

「お前は...ピュリファイアーかっ!?」

『...よくわかってるね。いや。当然か』

なんの意図で、ここに「浄化者」がいるのかはわからない。

『アレ、かわいそうだね。』

「...何?」

あれ、とは目の前にいるU-47のことだろうか。いや、この空間では、もはや彼女以外を指す言葉ではないだろう。

『勝手にヒトに作られて、ココロを搭載されて、挙句の果てにひとりぼっちから解放されたと思ったら、またひとりぼっちになる。』

 

『勝手だよ。特異点。いくら君でも終わりが来る。』

『勝手すぎたんだ君は。』

『覚悟なんて君にない。彼女を幸せにすることは出来ない。』

『覚悟』

『覚悟』

『覚悟』

『覚悟』

『覚悟』

『覚悟』

『覚悟』

『覚悟』

『覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟覚悟孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独むりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだむりだきみにはできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないdekinaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa

 

 

 

 

 

 

 

「..........っ!!!」

...どうやら、目を開けるとそこは、先程まで眠りについていた洋間のようで。

さっきまでの出来事が悪い夢だったとどうにか理解できた。

「っ!?どうしたの指揮官!?」

隣のU-47が、慌てて起きて、こちらを心配した。

隣にいる。U-47が。

たったそれだけのこと。

何だか、急に愛おしくなった。

泣きつくしか無かった。子供のように泣いた。

U-47は、驚くことなく指揮官を受け入れて訳を聞く。どうしたの? と。

あまりにも優しい声だった。

「悪い夢を見たんだ...俺が、おまえを、おいってっちまう夢だ。」

 

 

「お前は、生き続ける。きっとこれから先ずっと。俺は死んじまう。死んじまって、おまえを置いてっちまう、」

 

 

「俺は、それが怖い。怖いんだ。考えるまでわからなかった。でも、怖いんだ...恐ろしく、怖いんだよ...!」

 

彼女の膝の上で、あまりにも惨めったらしく泣いてしまう。でも、そんな体裁を気にする余裕なんて、どこにもなかった。

心は半ばそれに侵されているのだから。

彼女も同じだった。ゆっくりと口を開いた。

 

「うん、私も怖い。指揮官に置いていかれるのがすっごく怖いわ。」

でも、そこから先は違った。

 

「指揮官。見てよ、窓の外。」

「あ....?」

 

それは、少しの青い光。

闇を、少しずつ振り払うかのような窓の外にある光。

たまらず、外に出た。立ち上がって、靴もそこそこに引戸を引いて、空を見た。そうしろと体が叫んだ。

 

 

 

空を裂く、暁であった。

白く清涼なコントラストを描き、青い光に変わってゆく様は、まさしく開闢であった。

 

そこへ47が追いついた。

隣に立って、同じように暁空を見上げ、それから自身の方へ視線をおくる。

その目は、あのときと同じ。

一緒に朝日を見た目。

 

「指揮官。私はね。きっと幸せだ。」

 

「今も。今までも。」

 

「見える景色は変わらない。今も、今までも。そして、これからも。」

 

「でも...今を生きているあなたとなら、海でも、陸でも...そこは....いい景色になるよ。だから、」

前までと、違う。

彼女は、笑って、しかし、目の端には涙を浮かべて言った。

 

「だから、今。あなたといればきっと、大丈夫よ。」

 

その言葉は、付き纏い、たちこめる闇をきり払った。

 

そうだ。

 

彼女がいる。今を生きて、今を幸せにする。

それでいい。

だって、何者でもない、彼女がそれを望んでいるから。

もう何も怖くない。恐れることは無い。彼女の手をとって、幸せに生きる。それだけでいい。

 

「...ああ、そうだな。そうだきっと。」

 

「大丈夫だ。」

 

暁の空はだんだんと明るくなってゆく。

青く。青く。青く。

空は青く澄み渡ってゆく。

 

きっと_____。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何!?帰る!?今日帰るのか!?昨日来たばっかりでしょう!?」

「いや、仕事がさ...」

こっちだって予想してなかったのだから、そんな顔されても困るよ。と、指揮官は肩をすくめた。

あの後、母港からの連絡があったのだ。

『背景、誇らしきご主人様へ。鏡面海域からの不審な動きが確認されました。と、言っても少々の動きですが...しかし、セイレーン出現の可能性もあります。急ぎ、母港に帰還をお願い致します。』

最初の「背景」、の誤字の時点で誰が書いたか大体わかるが、どうやらロイヤルメイド隊からの連絡のようで、ようは

すぐに帰ってきてね、ということだ。

帰還の為に玄関に少ない荷物をまとめ始める2人だった。

「もうっ!!だからってそんな急じゃなくっても...」

「いやいや、行かなきゃだからね。なに、今度はゆっくり帰るさ。」

指揮官と母親が話しているあいだU-47は最初にここに来た時と同じようにハナとじゃれあっていた。

しばらくして、ハナをはひょいとどこか別の方へ行った。というより元々の飼い主の方へ擦り寄っていった。

「おい、帰るのか、慶次。」

父親が、のそのそと奥からやって来た。

やってきて、足元に来たハナを軽々腕に抱く。

「...ああ。仕事だ。」

「そうか。」

それ以上の会話は続かなかった。

「...」

(47...?)

U-47が突然、指揮官の手を握った。

暖かな温もりがこちらに溶け込んでくる。

 

父親はそれをじっと見つめていた。

不意に、

「結婚式には呼んでくれよ。」

とだけ言って、また奥の方へ帰って行ってしまった。

「もうっ、あの人ったら勝手な...。まぁ、いいわ。」

そうやって母親は半ば呆れるように父親を見やってから、またこちらを見た。

「わたしも、結婚式に呼んでね。いつになるかわからないから、気長に待つけど。あんまり待たせちゃダメよ?私達も、当然、あなたの手を繋いでる彼女もね。」

「ああ。わかってる。...24時間経ってすらないけど、お世話になった。突然帰ってきて、ごめん。」

「最初に言いなさいよね。またいつでも帰ってきなさい。」

「...わかった。ありがとう。」

がらがら、と引戸を開ける。

「いってきます。」

「いってらっしゃい。」

手を振る指揮官。

「...今度は、一緒に自転車乗ろう。」

U-47は遠ざかりながらも、振り返って、改めて言った。

「ええ!楽しみにしてるわ!」

 

 

荷物を、雑にトランクに放り込む。キーを差し込み、エンジンを動かす。

「あづい...指揮官、エアコンつけて...」

「あっごめんそっちでつけといてくれ多分すぐには冷えないと思うけど。」

U-47は、助手席に座ると同時にぐでた。

熱された車内の空気にやられ、今や半分溶けきっている。

指揮官の方はトラックに雑に詰めた荷物をどうにか端にやってU-47の自転車を押し込む。

最初から考えて入れればよかったなんて無粋なことは思っていない様子だった。

見送るかのようにセミが大合唱をする。

ジワジワジワジワジワ、と何匹分が鳴いてるかはもうまるでわからなかった。

「おまたせ。」

ばたむっ、とクルマのドアをしめ、シートベルトを着用。

「帰るか。」

「うん。帰ろう。」

 

むせ返るような夏の大気を裂いて、アスファルトの上をいくつもの車が行き交う。ごく普通の街のその中を走るごく普通の自家用車の車内で、ふたりは無言である。

曖昧に重い響きのエンジンとくたびれたラジオが流れてふたりの代わりに空白を日常色に染めている。

けれど、指揮官は思っている。

今日が幸せだ。それでいい。今ここに2人でいられるのなら、今、君がいれば、

____きっと、大丈夫だろう、と。

 

 

 

 

 

fin

 


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