勇者で聖女で庶民です!~従魔と一緒にお気楽冒険者生活~   作:槙麻貴(まき・あさたか)

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プロローグ(2)

 なぜか一介の大学生でしかない男を適任だとした女神様は、自転車通学中のオレを魔法陣で女神の間に拉致し、異世界である「カカルーニア」に送り込んだ。正確に言えば、大国の王都たるヘルギングスに聳え建つ王城――その名もヘルギングス城にある「召喚の間」に。邪神を討つ存在――勇者として。自転車? 女神様に亡き物にされましたよ。危ないからと言われて。まあ、代わりに巨大な力を授けられたんだけれども。

 

 そう、ただの男子大学生であるオレは女神様に力を授かり、女神様の神託を聞いて待ち構えていた癒しの力を持つ聖女である女性・ウィスタリカと、第三王子兼聖女の護衛となったユクセル――ユクセル・アルド=ヘルギングスという三人で邪神を討伐する旅に出たのだ。美しい人間たちに囲まれた旅が。異世界人は顔面偏差値が高くて困るな。モブ顔のオレなど必要ないだろうと言い切れるほどに、会う人会う人みな美形だったのだからね。人化した従魔たちも例外なく。

 

 いやね、旅の前に力の確認があり、従魔という名の従者?ができたんですよね。なんと世界を轟かしている銀狼フェンリルさんと水竜さんだよ! 強い強い魔物ですよ!

 

 タリカとセルたちはどん引いていたが、オレだって引き攣り笑いですわ。なんだって最強と謳われる種族を従魔にできてしまったのだから。それも二体もな! なぜか懐かれてしまったものだから、行きがかり上だけれども。

 

 報酬は前述どおりに、現代日本に帰ることだ。邪神の討伐だというのに、三人では少ない人数だと思われるかもしれないが、あまり多いと連携技が面倒なのでこれでいい。それに、二体の従魔もいるので数としては五になる。これ以上増えるとオレがまとめきれない可能性があったというわけで、少人数にした。それに、犠牲は少ない方がいいだろう。いやまあ、犠牲を出さないように尽力はしますが。なにより痛いのは嫌なのでね。

 

 剣と魔法のファンタジー世界なので、現代日本よりも苦楽があるのかと思えば、楽しかなかった。力の確認のときもね。女神様の恩恵は素晴らしいよ、本当に。もちろん、邪神と対峙するまではだが。魔王も恐れているのも解るほどには強かったのだから、その強さは最強と畏怖すべきものだろう。生身だったなら何度死んでいたかも解らないわ。

 

 女神様からは邪神は欲に飲まれた妹だと聞いていたので、あまり手荒な真似はしたくなかったのだが、そうも言っていられないくらいに追いつめられたとき、邪神がオレに手を伸ばしてきた。巨大な手を。

 

 叩き潰されるのかと覚悟すれば、逆にその手に吸い込まれていき、あろうことか女神の間に似たような空間にいた。巨大な躯――まさしくのっぺらぼうずの姿形をしている――は黒くとも、空間は白いのが不思議だが、ここは摩訶不思議ファンタジー世界なのだという説明に尽きるだろう。それにしても、まさか巨体にこんな場所が存在しているなんて知らなかったなあ。やはり摩訶不思議ファンタジー世界なだけあるわ。

 

 すごいなあと感心していると白く美しい空間に女神様に似た小さな女の子――といっても十歳前後だろうが――が現れる。そうしてオレに言った。「姉様が向かわした刺客か?」と。

 

 刺客ではなく討伐する者だと答えれば、幾本もの短剣が女の子の周りに生まれては一斉に投げつけられる。「同じでしょ?」と冷たい目をして。

 

 女神様は欲に飲まれたと言っていたが、この子の望みはなんなのだろうか?

 

 女神様に渡された長剣で短剣を打ち落とす間に考えるが、解らないままだ。解らないなら聞けばいいと、妹ちゃんに聞いてみる。君の望みはなんなのかと。

 

「決まっているでしょ! 私は――」

 

 友達がほしいの!!!

 

 悲痛な叫びとは裏腹な内容にオレは目が点になった。いやだって、点にならざるを得ない。

 

「え……、友達?」

「友達」

「女神様は――、ああ、姉か。家族であって友達ではないな」

 

 妹ちゃんの話を聞くと、彼女は下界――でいいのか? すなわち、この大陸に降りては、街の子と遊ぶらしいのだが、力の制御がまだ難しく、どえらいことになっていたらしい。作ったゴーレムとともに街の一部を破壊したり、冒険者の真似事をしては最強格とされている種類を単騎で狩ったりとしていたらいつの間にか畏怖の対象となっていたと言う。まあ、そうだろうな。聞かされているオレも想像しては軽く引いているからね。後始末が大変そうだなと。

 

 それ以来近づいたら逃げられを繰り返し、いつしかひとりぼっちとなった。天界に帰れば姉に怒られるしか道はなく、それは嫌だと地上に留まっていれば力が暴走し、制御さえできなくなった――。

 

 結論からいえばなんだが哀れなのだが、それでも国を消していい理由にはならない。たとえ力が制御できないといっても、現実に彼女は国を何個か消しているので、さすがの女神様も堪忍袋の緒が切れたのだろう。

 

「うん、そっか」

「っ……、なによっ、あなたもバカにするの!?」

「いや、バカになんてしないよ。強い思いは強い力を生むと女神様も言っていたからな。つまり、君はそれほど友達がほしいんだろ?」

 

 女神様から力を授かったオレでもボロボロにされているからな。

 

「だったらどうだって言うのよ!」

「いやあ、それなら簡単かなあと思ってさ。君にとってはオレみたいなただの人間は嫌かもしれないけど、オレと友達になろう」

 

 差し出した手には擦り傷がたくさんあるが、まあいいだろう。わざわざ傷だらけじゃないかと気にしてはいけないのだ。手を差し出したことにこそ意味があるのだから。

 

「な、なに言って――」

「いやほら、かわいい子と友達なんて自慢になるしな! オレだけ特かもしれないなあ。あ、でも通報だけは勘弁してくださいね!」

 

 気持ち悪がられないように笑顔で対応するが、お巡りさん案件にはならないよな? という不安が駆け巡るが、ここは異世界。案件になるにはお巡りさんではなく、衛兵だろうか。――と、ここまで考えていると、彼女は手を払った。どうやらいつの間にかこんなに近くにいたらしい。

 

「なんで私があなたなんかと友達にならなきゃにゃらないのよ!」

「あ、いま噛んだ」

 

 手の痛みを打ち消すようにふはっと噴き出すと、妹ちゃんは「バカにしないで!」と足を踏んでくる。思い切りの力で。なんだが骨が折れるような音がしているようだが、オレの足は無事だろうか。右足さんは。と少々不安に思うが、いまもって立っているので、大したことはなさそうだ。不安を煽るような音がしただけであって。ちょっと痛みが残っているが。

 

「友達は選ぶようにって、姉様が言っていたわ!」

「あー、確かに、悪い友達は選んじゃダメだよなあ」

「違うわよ! あなたは異世界人でしょう! 私を置いて行っちゃうじゃない!」

 

 あー、うん。それは確かに言われたとおりだわ。だがと、大粒の涙を次々に流す彼女の頭を撫でて言ってやる。

 

「君がなにを言おうとも、友達に世界は関係ないぞ」

 

 いやあ、いいことを言ったなあと自画自賛していると、彼女は「異世界人は頭が悪いわね!」とオレに抱きついてきた。ううん、この子はツンデレかな?

 

「いやいや、異世界人がみんな頭が悪いわけじゃないから。オレが友達になりたいだけだよ」

 

 安心してもらうためにへらりと笑うと、胸板を押される。「私、帰るから」というひとこととともに。

 

「姉様に怒られてしまうだろうけど、いいわ。私は怒られるようなことをしたわけだしね」

 

 なんだか晴れやかな笑顔を浮かべるその顔は、やはり女神様に似ているよなあと思う。妹を救うために違う世界から人を寄越すあたり、女神様も相当な家族思いなんだろうけれども。

 

「頑張れ」

 

 消え行く視界に向けた言葉は妹ちゃんにちゃんと届いたかな?

 

 確認することは不可能なのでどうすることも出来ないが、気がついたときには黒い巨体から出ていて、ふわふわと空中を浮かんでいた。

 

 そうして地面に足がつくと、黒い塊は瓦解する――。

 

 そこまで回想し終えたときには幾分か落ち着いたので、ほぅと息を吐く。

 

 女神様曰く、オレの躯をきちんと保存するように部下に申しつけたが、いかんせん天界は常日頃から多忙を極めている。気持ちのよい返事を返した部下さんは次々に仕事に取り組み、そして女神様の申しつけを彼方に押しやった。

 

 女神様が気がついたときにはオレの貧相な躯は荼毘(だび)()されており、もはや後の祭りでしかない。たとえ女神様の力であったとしても、オレの遺骨やオレが使用していた物を女神様の力に変換して片っ端から証拠隠滅することとオレに関した記憶を消すだけで精一杯で、それ以上は難しい。異世界からの干渉とはつまり、ほかの世界にいる高位次元体に対する挑戦である。干渉のしすぎはよろしくないのだ。

 

 それならば、と女神様は提案してきた。落ち着きを取り戻したいまというタイミングで。いまだに居心地が悪そうな顔をしてね。

 

「本当に申し訳ないのですが、有人さんには新しい世界に行くことしか道はありません」

「まあ、ミスは誰にもありますし、しかたがないですね。記憶を消して下さった女神様には感謝しかありませんし」

 

 ありがとうございますと頭を下げると、女神様は「いいえ、こちらの落ち度ですから」と顔を上げるように進言してくる。「あ、はい」と顔を上げると、目の前には柔らかな笑みをこぼす女神様がいた。うっかり見惚れてしまったのは内緒だ。

 

「――有人さん、あなたの働きは私が(しか)と見ました。ですから、それに見合った褒美が必要です」

 

 新たな生をあなたに――。

 

 その言葉とともに掲げられた女神様の右手が、淡いオレンジ色の光を放つ。オレの額にそれを当てると、「では有人さん、新たな生をお楽しみくださいませ。なにをするにもあなたの自由ですが、こちらとしてはあまり世界を壊さないようにしていただけると嬉しいですね」と目を細めた。慈愛に満ち満ちた翡翠色の瞳を見つめ返していれば、いつの間にか意識を失っていたらしい。

 

 聞こえる音とちらつく光に瞳を開けると、真っ青な空がお目見えした。

 

「は……?」

 

 異世界においても青い空は美しいようだと呆けていたのは、わけが解らないと混乱したすぐあとである。

 

 

 

 

 




【 どうでもよいだろう補足 】


プロローグが長くなるのは嫌だろうかなあと思って2話に別けましたが、結局長くなりましたね…。もっと簡素にまとめなければなあと思いました。

主人公である有人は作中で自身をモブ顔だと評していますが、それは有人自身の評価であり、ただただ現実逃避をしているだけです。実際にはかわいらしい顔をしています。童顔とかわいいという言葉がコンプレックスになっているんですね。
まあ、そこら辺の話は追々で解るかと。
一話一話書き上げての不定期更新となりますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
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