生まれ変わって突然記憶を取り戻した魔導具王は後悔する~世界中に散らばった前世の魔導具や古代遺物を取り戻すために冒険する~ 作:空雲ゆく
倒れ伏しピクリとも動かなくなったワイバーンを見ながら、ヴァンは剣についた血を振り払うと鞘へとしまい込み、一息ついた。
「ふう、危ない危ない。最後に返り血浴びるとこだった」
「そこですか!?」
てっきり戦い方について反省するのかと思っていたアリエスが反射的にツッコんだ。
一方で言われたヴァンは何の事やら分かっていない様子で、アリエスの方へと振り返る。
「あんなの無茶に入らないだろ?」
「マスターが昔のままなら無茶の欠片もねーですけど、今の装備じゃ十分無茶に入るですよ。木から飛び乗ってたたき落とすとか、降ろした後も正面から戦うとか作戦もなにもあったものじゃねーじゃねーですか」
「いや、地上に降ろすにはあれしかなかったし、そもそもワイバーンだから正面から戦ったんだがな……」
ワイバーンは竜種ではあるが、ドラゴンの代名詞ともいえるブレスによる攻撃手段を持っていない。そのため、体躯をいかした突撃や牙による噛みつき、羽ばたきによるふき飛ばしなどが主な攻撃手段となっている。
複数人で攻めるならば、正面にいる仲間を囮にしつつ――……などといった作戦も出来るのだろうが、戦闘員がヴァンだけの現状ではそういった手段はとれない。
だからこそ、攻撃を見極めるには正面にいる方が見切りやすいのだ。
とはいえ、最後にワイバーンが繰り出した一撃はヴァンにとっても予想外だったのは間違いない。
エヴァンジュの知識には存在していなかったので、もしかしたら見た目が変わらない魔獣もこの百年で少し進化しているのかもしれない。
と、ここまでの説明を聞いたアリエスは一応納得したのか、ため息を一つ吐くだけにとどまった。やや、苛ついたように上下に身体が揺れているのはご愛敬というやつだろう。
それを見たヴァンは肩をすくめると、アリエスに声をかける。
「いやー、食料に魔獣避けの問題がいっぺんに解決できそうだったからな、つい張り切ってしまった。けど、お前も食べるだろ、肉?」
「まあ、いただくですけど……」
アリエスは眉根を寄せつつもヴァンの問いかけに素直に頷く。
ドラゴンの肉といえば超がつくほどの高級品だ。ワイバーンの肉は最高級品というわけではないが、大量に出回ることもなく、それでいて庶民が気軽に買えない程度には高級な食材になる。
そんなものが手に入るのだ。食事が不要なアリエスといえど食べないという選択肢は存在していない。
「で、これどーやって処理するですか?」
アリエスは改めてヴァンが倒した
道の大半を塞ぐようにして、倒れているワイバーンは正直に言ってかなり邪魔だ。
「とりあえずは解体するしかないだろうな。いらない部分や使わない部分はそこら辺に捨てるか、埋めとくか」
そう言ったヴァンは鞄型収納庫から筒状のものを取りだした。
その物体に見覚えのあったアリエスが思わず声をあげる。
「ああ、私に預けていた魔導具の一つですね」
「その通り、魔力を通しやすいミスリルを利用した魔導合金製のナイフだ」
「確かその場で自由に形を変えれるとかいうやつですよね?」
「本来は武器の予定だったんだが、形状変化の特性を持たせるかわりに、剛性がやや不足することが分かったから、武器には適さなくてな」
こうして解体だとか加工用の道具として使っているわけだ、と言いながらヴァンはナイフをノコギリのような形に変化させると、ワイバーンの身体へ刃を進めていく。
「本格的に雨が降ってくる前にさっさと解体してしまおう」
「はいはい、分かったのですよ。私は何をすればいーですか?」
「俺が切り出した部位に結界を張ってくれ。そのままそこら辺に転がしておいていい」
ヴァンとアリエス二人で協力してワイバーンの解体を進めていくうちに、すっかり夜になってしまっていた。
処理を終えたヴァンは雨宿りに使っていた木の元に移動すると、ワイバーンの解体した素材を並べ始める。
「じゃあ、さっそく始めるか」
「何を作る気なのです?」
魔獣避けを作るとは聞いていたが、並べられたのは魔石だけでなくワイバーンの骨がいくつかと、翼の部分――皮膜と呼ばれる部位だ。
「作ってからのお楽しみってな。先に魔獣避けから作っちまうか。といっても、これは殆ど魔石のままだが」
魔獣避けの魔導具とは、魔獣の魔石をほぼそのまま使用したもので、もっとも簡単な魔導具と呼ばれている。
作り方は単純だ。魔石が反応するまで魔力を注ぎ込み、光ったら完成――ただそれだけである。
ワイバーンの魔石が光ったのを確認したヴァンは魔石を地面に設置する。
こうすることで使われた魔獣よりも弱い魔獣は魔石の周辺に寄りつかなくなるのだ。理由としては魔石が魔力と反応することで、魔獣の気配を発しているからではないか、と言われている。
ただこれは無加工の魔石だから出来ることで、加工した場合はいくら魔力を注ごうと魔獣避けの機能を有することはない。
魔獣避けを作ったヴァンはそのまま脇目もふらずにワイバーンの素材を手にとって、先ほど解体にも使用した魔導合金製のナイフの形を細かく変えて加工していく。
何を作るのか決まっているからか、迷いのない手つきだった。
「ま、今の道具じゃこんなもんだろ」
そう言うヴァンの目の前にあるのは、大きめの一人用テントだ。骨組みには加工したワイバーンの骨を使用しており、布代わりに皮膜を使っている。
全部ワイバーンの素材で出来たこのテントは、市販のテントよりも強度は上だ。負けている点があるとすれば使いやすさぐらいだろうか。
ちなみに、素材の時点で綺麗に洗っているうえ、アリエスの結界で素材となるもの以外を全て排除してから作ったため生臭さなどは一切ない。
「おー、早業ですね。さすが、マスター」
あっさりとつくったことにアリエスは素直に感心する。
しかし、褒められたヴァンのほうはそこまで喜んでいるように見えない。
「何です? 私が褒めたのが気持ち悪いとでも言うつもりですか?」
「いや、そういうわけじゃないんだが、別にこのテントに特殊機能なんかついてないしな。これを魔導具と呼ぶには違和感があるというか、プライドが許さないというか……」
「めんどくせーですねー。魔獣の素材を使った道具だから、魔導具ってことでいーじゃねーですか」
「それじゃ魔道具だろうが……まあいいや」
ヴァンはまだどこか不満げだったが、こんなことで言い争うつもりはないらしい。
ヴァンとアリエスの二人はテントの中に入り込む。
「結構広いですね」
「そりゃ大きめに作ったからな。これくらいないとゆったり出来ないだろ?」
テントの大きさはヴァンが横になってもまだ余るくらいの広さだった。詰めればヴァンくらいの人間がもう一人は入るだろうか。
「テントも出来たことだし、さっさと夜営の準備をするぞ」
そう言うとヴァンは、雨に降られる前に集めておいた木の枝などを鞄型収納庫から取り出し、火をつけてたき火を作った。
続けてその周りに串状の骨に肉を突き刺して並べていく。
「あとはこれで待つだけなわけだが……」
「カットしたとはいえ焼けるまでそこそこ時間かかりそうですね」
二人で会話しながら肉が焼けるのを待つこと十分ほど。
テントの中にはジュウジュウと肉の焼ける音と共に良い匂いが広がっていた。
「うまそー、ほれアリエス」
「いただくのです」
二人は揃ってかぶりつく。
やや焦げ目のついた肉を口に入れた瞬間、香ばしさとうま味があふれ出した。
「ん、美味いな。調味料がないのがちと残念だが、木の実を調味料代わりに合わせてもいけるかもしれん」
「これ、むぐ、美味しーですよ」
「落ち着いて食え。いくつか余分に焼いて明日も食うか? 生のまま保存しとくよりも持つだろ」
「そうでふね、干し肉にも出来ねーでしょーし、それでいーんじゃねーですか?」
未だ肉を食べながら答えるアリエスに苦笑しつつも、自分も美味いのは事実なので食べ進めていく。
そうこうしているうちに食べ終わった二人は就寝の準備へと入っていった。
「んじゃ、そろそろ寝るか。リブラに会いに行くためにも早く起きて距離は稼いでおきたいしな」
「それは構わねーですが、二人同時に寝ても良いのですか? 魔獣は大丈夫だとは思うですけど」
アリエスが言っているのは野盗などに襲われないかということだろう。ワイバーンを超える魔獣が襲ってくる可能性もあるが、エルヴン大森林の近くにそこまで危険な魔獣はいなかったはずなので、こちらについてはそこまで考えなくてもいいはずだ。
「俺もお前もやばい気配には起きるだろ? それに周辺には、加工した時に出た骨の欠片を組み合わせた仕掛けが何個も用意してある。誰かが近づけばあれが鳴るだろうよ」
それを聞いたアリエスは一つ頷くとテントの端の方へ移動して横になった。
「なら、問題ねーですかね。おやすみですマスター」
「おう、おやすみ」
こうして、ヴァンとアリエスが再会した一日は過ぎ去っていくのだった。