生まれ変わって突然記憶を取り戻した魔導具王は後悔する~世界中に散らばった前世の魔導具や古代遺物を取り戻すために冒険する~ 作:空雲ゆく
ヴァンがエヴァンジュの記憶を取り戻し、アリエスと合流してから一週間。
二人の向かう先には、エルヴン大森林のシンボルと呼べる存在が圧倒的なまでの質量をもって顕在していた。
「大分前から見えてはいたが、ここまでくると相変わらずものすごい存在感だな」
「そうですねー。ここまで立派なら、マスターが懸念していた森が滅んでるってこともなさそうですしね」
二人が見上げるのは、雲を貫くほどの巨木――世界樹と呼ばれる大樹だった。
エルヴン大森林は世界樹とそれに連なる樹木から成り立つ森林地帯で、ここに住むエルフ達は世界樹の恩恵を受けて暮らしているのと同時に、世界樹の守護も行っている。
具体的な恩恵は、豊富な魔力を生み出す世界樹の影響で肥沃となった土地と、そこでしかとれない植物などが代表的だろうか。
もちろん、世界樹そのものの葉や枝にも貴重な価値があるのは言うまでもない。
ヴァンがエヴァンジュ時代にエルヴン大森林を訪れたのも、こういった特異性を求めてのことだ。
「とはいえ、まだもうちょっとかかりそうだな……ペースは下げないようにしたいな」
世界樹があまりにも大きいためもう目的地に着いたような気さえしてくるが、二人はまだエルヴン大森林の入り口にすらたどり着いていない。
気合いを入れ直すヴァンの横でアリエスはゆっくりと距離をとる。
「それはいいのですが、マスターくせーです。あんまり近づかねーでもらえるですか?」
「うるせー、最低限の洗いはしてるっての。服だってこれ一着しかないんだからしょうがないだろうが」
ワイバーンをはじめとして、この一週間魔獣を狩ったり、木の実や果物を取ったりすることで食料に悩まされることはなかったのだが、着の身着のまま流れ着いただけのヴァンに替えの服などあるわけがない。
返り血などは極力浴びないように気をつけた、といっても、戦っている以上完璧に防ぐことは不可能だ。それに生きている以上、汗だってかく。
そのため、ヴァンの服や鎧からはすこしすえたような臭いがしている状態だった。
アリエスがあまり近寄りたくないのもよく分かる。
「私は近づかなければいいとしても、エルフの里にたどり着いたとき、そんな服で迎え入れてもらえるですかねー」
エルフの里はエヴァンジュの記憶に残っている限り、そこまで閉鎖的な場所ではなかったはずだ。
なので、いきなり不審人物として捕まるようなことはないだろうが、薄汚れた格好の人間が入ろうとすれば、門番に止められる可能性はゼロではない。
「……最悪リブラに頼んで入れてもらう」
「他力本願ですねー」
そんな会話をしつつ、歩いて行く二人だったが、エルヴン大森林の入り口まであと少しという所でヴァンの足が止まる。
その理由は、どう見てもおかしな物が視界に入ったからだ。
思わず立ち止まったヴァンは訝しげな表情で、それを見つめる。
「何だあれは?」
「マスターはおかしくなったのです? 人に決まっているですよ」
「そんなことは分かっている。人が道のど真ん中で、座っているのがおかしいと言っているんだ」
ヴァンが見つけたのは、うずくまるように道の真ん中に座っている一人の少女だった。
何か棒のようなものを支えにしており、ピクリとも動く様子はない。
「罠? にしちゃ露骨だよな。でも、それ以外にどんな可能性がある? 行き倒れにしてはしっかり座っているように見えるし……」
道に人が座っている状況で一番あり得そうなのは囮として配置しておき、旅人が近寄ったのと同時に周辺に潜む仲間と共に襲いかかる、という野盗の襲撃ぐらいだが、少女の周辺には人が隠れられそうな場所はない。少し離れた場所には木々があるが、少女を囮に襲うには距離がある。
「アリエス、人の気配は?」
「特にねーですよ」
「だよな」
自分とアリエス両方が周囲を確認してなにもないとなると、本当になにもないのだろう。
とはいえ、一応、周辺を警戒しつつ近づいてみると、その少女が今どんな状態にあるのか理解出来た。
「……ZZZ、スピー」
「「………………」」
ヴァンとアリエスの耳には少女の寝息が届いていた。思わずヴァンとアリエスが無言になるほど、それはもう実に綺麗な寝息だった。
そう、この少女は道のど真ん中で熟睡していたのだ。
一拍ほどの時をおいて、状況を認識したヴァンとアリエスは、警戒していたのがバカらしいとばかりに一息ついた。
「よくこんなとこで寝られるですねー」
「……本当にな」
なぜ寝ているのかは知らないが、眠らされたにしては服や顔に汚れや傷がなかったので、おそらく自分の意思によってここで寝ているのだろう。
エルヴン大森林周辺はエルフが定期的に見回りをしているため、好戦的な魔獣はそこまで多くないはずだが、魔獣避けや不寝番もなしに道の真ん中で寝る勇気など今のヴァンには存在していない。
あまり関わり合いになりたくないため、横を通り過ぎようか、とさらに一歩近づいたところで、座っていた少女の瞳がパチクリと開かれる。
「ふわ~、誰ー?」
大あくびをした少女はのんびりした動作で立ち上がると、ヴァンとアリエスを薄紅色の双眸に映す。
「お? おはよー」
「おはよーってまた呑気な……」
こちらを認識してからの第一声に毒気を抜かれつつ、ヴァンは少女を観察する。
少女の見た目は、短く切りそろえられた
身長はヴァンよりも少し低く、可愛らしい外見と相まって、こんな所にいるのが似つかわしくないようにも思える少女といえるだろう。
しかし、彼女が手に持っている棒のようなものは、刀と呼ばれる剣の一種だとエヴァンジュの記憶に残っていた。
つまり、彼女は戦闘ができる人間ということだろう――とここまで考えた所で、ヴァンには彼女の見た目に対して思い当たる節があった。
「その格好は確か……着物袴だったか? 服といい、腰に差してある武器といい――もしかしてアズマ者か?」
少女は持っていた棒――刀を鞘ごと腰に差すと、驚いたような顔つきでヴァンをみつめる。
「およ、お兄さん詳しいね。ひょっとしてアズマに来たことあったりする?」
「前にな」
行ったことあるのはヴァンではなくエヴァンジュの時の話だが嘘ではない。アズマと呼ばれる地域は独自の文化が発展した国で、服装はもちろんのこと生活様式までもエヴァンジュが旅していた中では異色で良い刺激を受けたと記憶していた。
「そうそう、ワタシはアズマ出身のアマガセ・ユノ。お兄さん達はこの先に用があるの? でもエルフじゃないみたいだし……観光か何かかな?」
「まあ、そんなところだな。この先のエルヴン大森林に用がある」
本当の目的を濁して答えるヴァン。いきなりあった他人に何でもペラペラ話すつもりはない。
ただ、この道を通ろうとした時点で、エルヴン大森林へ向かうのはバレているだろうから、そこについては誤魔化す必要はないだろう。
そんなヴァンの返答を聞いてユノは弱った声をだした。
「あー、そうなんだー。でもね、ここさあー、誰も通すなって言われてるんだよねー。だから、悪いんだけど帰ってくれる?」
コテンと首を傾げ、ユノはどこか困ったように懇願する。
通行止め、とでも言うように両手を広げていることから、本気で言っているのは理解出来た。
だが、ヴァンも大人しくユノの言うことを聞くわけにはいかない。
「それは困るな、俺たちはこの先に行く必要があるんだ」
「そうですよ、大体何の理由で止めているのです?」
アリエスもヴァンの言葉に同意するように頷きながら、ユノに理由を問う。
「それは秘密でお願いねー。でもホントにだめ? このまま戻ってくれたりしないー?」
一方でユノは頑なにヴァン達をこの先に行かせたくないようだった。どこかヴァン達を案じているようにもみえる。
ユノがなぜここまでして自分達を通したくないのかは分からないが、ここまで来て引き返すという選択肢はヴァン達には存在していない。
「本当だ。悪いが先に進ませてもらう」
これ以上の問答は時間の無駄だと判断したヴァンがザッ、と一歩踏み出した瞬間、
「じゃあ、しょうがない――一の型〝
ユノが刀に手をかけ、それと同時に凄まじいまでの殺気がヴァンとアリエスへと向けられる。
「っ!?」
「マスター!?」
その直後、ユノの放った