生まれ変わって突然記憶を取り戻した魔導具王は後悔する~世界中に散らばった前世の魔導具や古代遺物を取り戻すために冒険する~ 作:空雲ゆく
ユノの刀をヴァンが止めてから数秒後、このまま押し切るのは不可能だと判断したユノは一旦刀を引く。
「まさか、そんなもので止められるとはねー」
「すごいだろ? アリエスの結界は一級品だ」
「確かにすごいねー。でも、連続での攻撃を防げるのかなー!」
ユノは刀を中段に構え直すと、弧を描くような軌道で、幾重もの剣閃をヴァンに向かって放つ。
先ほどユノは実際にぶつかった結果、刀から伝わる手応えから、アリエスの結界を一撃で壊すのは無理だと悟っていた。
まるでまだ見習いだった頃、わら束の途中で止まってしまった刀を力で押し切ろうとしてもどうにもならなかった――アリエスの結界から感じ取ったのはその時の感覚とよく似ていた。
だが、ユノには刀を結界で受け止めているアリエスの反応は、本気で焦っているように思えたのもまた事実。
その状況から、あれほど強力な結界だ、時間制限か回数制限のどちらかはあるに違いない、とユノが考えたのは決して間違いではないだろう。
といっても、実際はユノの勘違いでヴァンがいきなり掴んで刀と打ち合わせたのをアリエスが本気で驚いただけなのだが……。
ユノの剣閃に合わせるように、ヴァンは手に握ったアリエスをぶつけていく。
「防げるさ、アリエスならな!」
「いや、ちょっと待つのですよ、マスタッあぁぁぁぁ!?」
ユノは先の連撃以上に刀を振るい、ヴァンもそれに呼応するようにアリエスを振るう。
刀に対して妖精をぶつけるという酷い絵面だが、刀を完璧に防げている現状、仕方のない事ともいえる。
そんな両者の間で交わされた剣閃のようなものは、あっという間に十や二十を超え、百近い数となったところで再び離れた。
仕切り直しといったところだろう。
「うわぁ、すごい。どーなってるの、その妖精ちゃん」
素で賞賛の言葉をこぼすユノ。自分が全力で刀を振るっているのにも関わらず、完璧に防がれてしまえば、相手が上だと認めるしかない。
「きゅう……目が回るです」
一方で、ユノに賞賛されたアリエスはどこかぐったりとしていた。結界があるとはいえ、刀と百近く打ち合うはめになれば、疲弊するのも仕方がない。
こんな状態であっても未だに結界を張っているのには、ヴァンとしても素直に褒めるしかない。
アリエスの結界にはヴァンとしても一目置いている――というか、エヴァンジュの記憶が正しければ、エヴァンジュ達の中でアリエスが誰よりも結界を使いこなしていた。
とはいえ、ヴァンとしてはアリエスの大きさでは剣と比べて、リーチが足りないため、あまりこのぶつかり合いが続くのは好ましくなかった。
先ほどの百近い攻撃を凌ぐのも多大な集中力を要したのだ。
けれども、ここで弱気な態度を見せてしまえば、ユノは嬉々として刀を振るってくるだろう。
だから、それを少しも見せないようにする。
「さあな、知りたかったから破ってみろよ」
「破られたら死ぬですよ!? 私がどれだけ集中して結界張ってると思ってんですか!?」
ヴァンの声を聞いて、目を回した状態から復活したアリエスが叫ぶ。
結界に自信があろうとなかろうと、自分の意思でもないのに刀の前に出されれば文句の一つくらい言いたくもなる。
しかし、ここで自分が逃げてしまえば、武器を失っているヴァンが斬り殺されてしまうと思い、甘んじてこの扱いを受け入れていた。
そんな二人の様子を見てクスリと笑ったユノは再び刀を構える。
「そうだねえー、どこまでやれるのかなー。興味もあるし、ちょっと楽しくなってきちゃったー」
ユノは自分とここまで打ち合える人間が、今回のような仕事で出てくるとは想像もしていなかった。
持っているのが剣や刀のような武器ではなく、妖精という意味不明なものなのも予想外だったが高揚しているのは事実だ。
(さっきの言葉は逆効果だったか!?)
ユノの態度を見たヴァンも警戒しつつアリエスを構える。
再び剣戟が始まる、と三人が思った時――
ズズン! と大きく地面が揺れた。
地震のような揺れではなく、何か大きな物が落ちたような音と揺れだった。
それと同時に今にも飛び掛かってきそうなユノが構えを崩して、エルヴン大森林の方を一瞥するとつまらなそうにため息を吐いた。
「うーん、お兄さんと死合うのは嫌いじゃないしー、もう少し続けたいのも本音だけどねー、時間切れみたい」
「何を言っている……?」
闘気が一瞬にして霧散し、最初に出会ったときのような状態となったユノだが、ヴァンはどこか寒気のようなものを感じていた。
大きな波が来る前に一旦、海が穏やかになるような――そんなことを感じさせるのが今のユノだった。
直感的にマズいと判断したヴァンは後ろに飛び退こうするが、それよりもはやくユノが動く。
刀を一旦、鞘へとおさめたユノは深く腰を落とすのと同時に、闘気を解放する。
「秘剣〝桜花散――」
ユノが必殺ともいえる戦技を放つ瞬間、エルヴン大森林の方角から何者が複数移動してきていた。
全員ローブに身を包み性別、種族、年齢がまるでわからない。どこからどうみても怪しいとしか言いようのない集団だった。
その怪しげな集団の一人がユノに声をかけると、そのままヴァン達を無視して通り過ぎていく。
「何をしている傭兵! 仕事は終わりだ、撤退するぞ!」
「はいはい、今行きますよー。そういうわけだからお兄さん達、じゃあねー。機会があったらまた死合おうよー」
黒ローブに言われて、刀を修めたユノはヴァン達に手を振ると、集団のあとを追ってその場から離れていく。
一瞬にしておきた出来事に驚きつつも、危機が去ったことを認識したヴァンはホッと息を吐く。
「冗談じゃない、こっちは二度と会いたくない」
「……ですね」
その言葉にアリエスも同意するのだった。
ユノ達が去った後、折られた剣を拾って鞄型収納庫へとしまい込むと、ヴァンはユノとの戦いを反芻するように呟いた。
「あのまま戦っていたら負けてた可能性が高かったな。全盛期の魔導具全部――とはいかなくてももう少しが揃ってれば別だったんだが……」
はやくリブラに会わないと、と思うヴァンの横でアリエスがムッとした目で見つめていた。
「だからってふつー、私を盾に使いますか!?」
「ちょっとまて」
「な、なんです……急に見つめてくるなんて……」
ヴァンの目の前で上下に揺れながら、プンスカと怒るアリエスだったが、紅玉のような瞳に見つめられ、しどろもどろになってしまう。
そして、そんなアリエスの反応を知ってか知らずか、ヴァンの口がゆっくりと開かれた。
「盾じゃないぞ、武器として使ったんだ」
「……そこじゃねーですよ、バカマスター!!」
「がっ!?」
ヴァンとしては冗談のつもりだったのだろうが、明らかに状況がマズかった。
言葉の意味を理解したアリエスは、先ほど以上に顔を真っ赤にするとヴァンの鼻を思いっきり蹴り上げる。
小さい妖精の一撃とはいえ、完全に不意打ちだった蹴りは鼻にクリーンヒットし、痛かったのかヴァンの目の端には涙が浮かんでいた。
「無茶なことして悪かったよ。お前がいなかったらヤバかった。今無事なのはアリエスがいたからだ……ありがとな」
「最初から素直にそう褒めてれば、良いのですよ!」
思っていたよりも真っ直ぐな感謝の言葉に、アリエスはどこか気恥ずかしそうに返事をする。
それを見たヴァンは続けざまに言葉をかけた。
「よっ、アリエス最高! アリエス役に立つ! アリエス可愛い!」
「……なんかてきとーに言っていれば、それで私が満足するとか思ってねーですか?」
「そんなことないぞ?」
一転してジトッとした目に見つめられたヴァンはこの話題を切り上げて、ユノに呼びかけた集団へと切り替えた。
「それにしても、さっきのやつら何者なんだろうな。ユノに傭兵って言っていたからにはここでの足止めを依頼していたってことなわけだろ。一体なんの目的で……」
「というか、マスター?」
「ん? どうした?」
「揺れが段々ヒドくなってきてねーですか?」
「やっぱり? そんな気はしてたんだよ」
揺れはローブ姿の集団が現れたのと同じ方向――ヴァンとアリエスが向かうエルヴン大森林から伝わってきていた。
あのローブの集団が何をしたのかは知らないが、これと無関係だと考えるのは難しい。
「リブラに会うにしても、この揺れがなんなのか確かめるにしても、エルヴン大森林に向かうしかないな」
「ま、そうなるですよね」
二人が覚悟を決めて一歩踏み出すと、それに呼応するかのように、今まで一番大きい揺れが発生し、ワイバーンの数倍はあろうかという巨大なドラゴンがエルヴン大森林から現れたのだった。