生まれ変わって突然記憶を取り戻した魔導具王は後悔する~世界中に散らばった前世の魔導具や古代遺物を取り戻すために冒険する~ 作:空雲ゆく
「ひえええええええ!? なんかでっかいドラゴンが出てきたですよー!?」
「落ち着けアリエス! まだ距離はあるぞ!」
そうアリエスに言い聞かせるものの、ヴァンも内心では、
(なんだよ、あの馬鹿でかいドラゴン……エヴァンジュの頃でも、あそこまででかいのはそうはいなかったぞ)
エヴァンジュの記憶においても、かぞえる程しか会ったことがない程大きさのドラゴンと禄に準備もせずに出会えば焦るのは当然だ。
あのドラゴンは別に自分達の方を向いているわけではないので、今すぐ襲われるということないはずだが、あれ程の巨体がそこにいるというだけで、二人は威圧感のようなものを感じていた。
といっても、さすがに世界樹よりは小さいのだが、それは比べる対象が間違っているというべきだろう。事実、世界樹を除く周りの木々よりは明らかに上だ。
唐突に現れたドラゴンだが、現れたわりになにもしない。咆えるようなこともせず、暴れ回ることもせず、ただそこにいるだけの状態だった。
と、二人してドラゴンを見上げているとアリエスが首を傾げる。
「ん? あのドラゴンなんか変じゃねーです?」
「どれどれ? 確かに変……というか普通のドラゴンと少し違うような?」
よく見れば、形は確かにドラゴンなのだが、ワイバーンのような竜種と比べると無機質感が強いというか……太陽の光に邪魔されないよう影を作りながら、目をこらして見るとなぜ違和感を覚えたのか理解出来た。
あれは樹だ。
あのドラゴンは生物ではなく、樹が集まってドラゴンのような見た目になっている――と認識したところで、ヴァンの脳裏によぎるものがあった。
「って、アレって〝
「〝竜樹〟ってなんです? マスターは知っているのですか?」
聞き覚えのない言葉にアリエスは疑問符を浮かべながら、ヴァンへと問いかける。
ヴァンは一つ頷くと〝竜樹〟を指し示しながら、口を開く。
「知ってるもなにも、あれは俺がリブラに渡した古代遺物だよ」
〝竜樹〟――エヴァンジュが冒険した森の中の遺跡で発見した古代遺物の一つだ。
「でも、確か防衛用の切り札として使うって話だったが……」
恩恵を受けている世界樹やエルフに喧嘩を売るバカがいるとは思えないが、大軍に攻め込まれたときや、戦乱の世にでもなれば必要かと思いリブラに預けたのを覚えている。
しかし、現状何処かの国に攻め込まれているような様子もない。先ほどの怪しげなローブの集団に対して発動したにしては、遅すぎるうえ、あの人数相手に〝竜樹〟が必要だとも思えない。
ここまで考えた所でアリエスがヴァンの肩をポンポンと叩いて呼びかける。
「ねえ、マスター?」
「どうした?」
「気のせいでなければなのですけど、あの〝竜樹〟大きくなってねーですか?」
アリエスに言われてヴァンもよく〝竜樹〟を観察してみると、確かに僅かにだが大きくなっているように感じていた。
微妙とはいえ大きくなっていく竜樹を見て、ヴァンは手を叩く。
「思い出した!」
「何をです?」
「〝竜樹〟の特徴だよ」
古代遺物として〝竜樹〟の使い方が分かったエヴァンジュは戦闘で使うことを想定し、解析を兼ねていろいろな実験や実証を行っていた。
しかし、自分で使うことは断念するという結果に終わっている。
その理由は大きく分けて二つある。
第一に、〝竜樹〟の特徴は樹がなければ、ただの歯車ということ。常に樹があるところで戦うとは限らないエヴァンジュとしては、常に持っている必要を感じなかった。
第二に、樹の量で大きさと強さが変わるということ。
〝竜樹〟は最初に使った樹以外にも、周りの樹を巻き込んで大きくなっていくのだ。一応、樹に直接触れるのと、
だが、そういった条件を知らずに、一度実験で使った森を壊滅させかけたのは、エヴァンジュの記憶に深く刻まれている。黒歴史としてであろうが。
つまり、大量に樹を取り込ませなければ〝竜樹〟の強さを発揮できないのだ。
森を壊滅させるほどの樹を取り込めば、〝竜樹〟はその能力を最大限発揮させてくれるだろうが、そんなことをすれば資源としての森や生態系が破壊されるだけでなく、近隣の街や国から恨まれることになる。
ようはリスクに見合った古代遺物とは言い難いのだ。
ただ、これがエルヴン大森林で使用するのなら話は変わってくる。
エルヴン大森林で使った場合、大木が多いのと相まって巨大な〝竜樹〟となり、使われ分の樹は世界樹からの恩恵により、新たな樹木がかなり早く育つためデメリットが殆どないのだ。
「はえー、そんな古代遺物もマスターは所持してたわけですか」
「ここの防衛に使うならもってこいだと思ったから、リブラに渡していたわけだが、なんでこんなことになってるんだろうな」
そんな風に会話しながら、エルヴン大森林の入り口からエルフの里へと向かう二人。
ヴァンとアリエスがエルフの里へとたどり着くと、明らかに様子がおかしかった。
エルフ達が右往左往しているというか、大慌てしているというか、混乱しているようだった。
「あの〝竜樹〟はエルフ達にとっても予想外みたいだな」
「そうですね」
里の様子からリブラ、もしくはエルフ達が〝竜樹〟を使った可能性はない、と判断したヴァンは警護の兵がいなくなった門を抜けて、里の中へと入っていく。
ヴァンと一緒に入ったアリエスだったが、これは無断侵入ではないだろうかと、声をあげた。
「勝手に入っても大丈夫なのです?」
「良くはないだろうが、この状況じゃ正式な手続きをしようったって、いつになるか分かったもんじゃないぞ? リブラにさっさと会いに行って、状況を聞いたうえで、手伝えるなら手伝う方が効率的ってもんだろ?」
そう言って、里の奥へと進んでいくヴァンの後をアリエスも追うのだった。
「ああ、もう! しょうがないですね!」
ヴァン達が里の奥――世界樹の方へと歩いて行くと幾人かのエルフが集まっているのを目撃する。
「何か相談事しているみたいだな」
「この状況ですからね。これからのことでも決めてるんじゃねーですか?」
「リブラに会えるかと思ったが、あれだけエルフがいる場所で会うのはやめておいた方がいいかもな」
ヴァンは自分の今の状態も含めて話すとなると、エルフ達は邪魔というと言い方が悪いが、あまり話したく無いのは間違いない。
加えて、今この場で出て行った場合、エルフ達がどんな反応をするのか分からないというのもあった。ヴァンとアリエスはなにもしていないが、ここまで入ったことを咎められる可能性は非常に高い。
そのため、二人はリブラに会うのは一旦保留とし、この場から離れることにした。
「じゃあ、一旦引くですよ」
アリエスはゆっくりと後ろに下がっていく。
それを見たヴァンはすぐに手を伸ばして、アリエスを止めようとする。
「バカっ!? そこは!?」
その時、アリエスが木の枝に引っかかりガサッ! と葉が擦れる音を立ててしまう。
それと同時にエルフ達の耳がピクッと動き、全員でヴァン達の方を向く。
エルフ達の瞳にはしっかりとヴァン達の姿が映し出されていた。
「人間!? なぜこんなところまで……しかも、滞在許可を出している者ではないな!」
「あっちゃあ……」
「……やっちまったです」
その場にいたエルフ達は各々の武器を構え、ヴァン達を半包囲する。
「どうするのですか、マスター?」
「お前のせいだろうが! って言いたいが、ここまで来たのは俺だしな。とはいえ、敵でもないのにエルフ達を倒すわけにもいかねーだろ?」
「それはそうかもですが、ここで捕まるぐらいなら、入り口で待って方が良かったですよ!?」
コソコソと小声でやりとりする二人を見たエルフの一人が苛立ったように叫ぶ。
「何を話している!! こいつらを捕らえろ! 〝竜樹〟の件に関与しているかもしれん!」
「「「「はっ!」」」」
エルフ達が今にも襲いかからんとしたところで、
「ソノモノタチハモンダイナイ。オサメヨ」
と、どこか不思議と響くような声が聞こえてきた。
それと同時に、ヴァン達とエルフ達の間に木の根が飛びだしかと思うと、現れた根は人型へと変貌する。
その姿を見たエルフ達はヴァンとアリエスの半包囲を解いて武器を下ろした。
「「「「「了解しました、リブラ様」」」」」
一斉に人型に向けて礼をするエルフ達を見て、アリエスはホッと胸をなで下ろした。
「いるなら早く出てきて欲しかったのですよ」
「コノヨウナジョウキョウデナケレバ、モウスコシハヤクデラレタノダガナ。キュウコウトハイエナニヨウデオトズレタノダ、アリエス?」
「あー、それは私じゃなくてこっちというですかね」
アリエスはヴァンを指さす。
アリエスの動きにあわせるように、根の人型がヴァンの方を向く。
「アリエストイルトイウコトハ、モンダイノアルニンゲンデハナイトハンダンシタガ、ソノオトコハイッタイ…………イヤ、ソンナマサカ!?」
ヴァンのことをじっくりと見た世界樹(リブラ)は驚愕の声をあげるのだった。