生まれ変わって突然記憶を取り戻した魔導具王は後悔する~世界中に散らばった前世の魔導具や古代遺物を取り戻すために冒険する~ 作:空雲ゆく
リブラは目の前にいる男――ヴァンから目が離せなくなっていた。
最初はアリエスが連れてきた人間という印象しか無かったのだが、いざ自分の目で観察するとどこか懐かしさを感じていたのだ。
この感覚はエルフの里にふらっとやって来て、世界樹である自分と契約をしたいと言ってきたあの男――後に魔導具王と呼ばれたエヴァンジュと同じ感覚だった。
今、目の前にいる男と、黒目黒髪のエヴァンジュとは、見た目も歳も全然違うのにも関わらず、そんなことを考えてしまっていた。
それと同時に、一度切れたはずの
リブラが混乱してしまうのも無理はない。
一方で、妖精(アリエス)と話している時は大丈夫だったのに、男の方を向いただけで固まったリブラをエルフ達はどこか心配そうに見つめていた。
この空気の中、話さなきゃダメなのか……と若干尻込みするヴァンだったが、早く行けとばかり、アリエスに後頭部を軽く蹴飛ばされて一歩前に出る。
「久しぶりでいいのか?」
どこかばつが悪そうな表情で片手をあげるヴァン。
記憶と一致する仕草と表情に、リブラは自分の予想が当たっているのではないだろうか、と確信を強める。
「……ヤハリアナタハ」
「多分、その想像であってるよ」
目の前の男が理屈は分からないがエヴァンジュなのだ、と理解した瞬間にリブラの契約は完全に結び直された。
この男がエヴァンジュだとすれば、今の状況をなんとか出来るかもしれないと考えたリブラはアリエスとヴァンに呼びかける。
「スコシ、ハナシガシタイ。オクニ、イドウスルトシヨウ」
「あ、ああ、それは構わないが」
ヴァンとしては願ってもない提案だが、それに待ったをかけたのは一人のエルフだ。
「お待ちください! 今は〝竜樹〟の対処を優先すべき時です。リブラ様の知り合いとはいえ、この状況において部外者と話す時間などありません!」
強く止めてきたのは先ほどもエルフ達に指示を出していた女性のエルフだ。
黄金色の髪をサラッとたなびかせ、大海を彷彿とさせる青い瞳をした彼女はこの場において一番権限がうえなのだろう。
彼女が話しているせいか他のエルフ達は一言も話してはいないが、内心では同じ事を思っているのか顔の端に不満が見え隠れしている。
「ソノタメニモ、イチド、ハナスヒツヨウガアルト、ハンダンシタ」
「しかし、理由は我々にはお聞かせできない……ということですか」
「ソウダ」
ある意味で否定のようにも聞こえる肯定の言葉に対し、少し面食らったようなエルフの女性だったが、息を一つ吐くと、
「……ならば! 私だけでもついていってもよろしいでしょうか! リブラ様の親衛隊長として、このフィーネ・リッターシュルト! 妖精付きとはいえ、よく分からない男と二人きりにするわけにはまいりません!」
胸に手を当て一礼した彼女――フィーネはリブラに一歩も引かずにそう宣言した。
心の底からリブラのことを心配してのことだと感じ取ったのだろう。
リブラは仕方がない、とでもいうように肩をすくめると歩き出した。
「カマワナイ」
「ありがとうございます!」
フィーネもリブラに続くように歩き始める。
ヴァンとしては、みだりに話すようなことでもないと思っている。
そのため、エルフに知られるのはあまりよろしくないのだが、リブラがこのフィーネという信用しているのならば、リブラを信じるしかないだろう。
もしフィーネが不用意にバラすようなことがあれば、お仕置きは確定……と心の中で決めて。
「!?」
その時、何かを感じ取ったのかフィーネは背筋をブルリと震わせると周囲をキョロキョロと見渡していた。
「……エルフって感受性も強いんだろうか?」
「急に変なこと言ってどうしたのですか? リブラと話せるのですから、さっさといくですよ、マスター」
「分かってるよ!」
ヴァンとアリエスもリブラ達の後を追うのだった。
少しだけ歩いたヴァン達がたどり着いたのは、世界樹の根元と呼べる場所だった。先ほどエルフ達がいたところも大概、世界樹に近かったが、ここはそれ以上に近い。
ヴァンなんかは世界樹の張り出した根に腰掛けている状態だった。
それを見たフィーネのこめかみに青筋がはしるが、リブラに止められているため武器を抜くようなことはなかった。
その後の流れはアリエスの時と似たようなものだ。
ヴァンがエヴァンジュの記憶を思い出したことや、これまでの旅のことや、ここに来た目的などをかいつまんで話していく。
「……ソノヨウナコトガ。マスターモズイブント、スウキナタイケンヲ、シテイルナ」
ヴァンとアリエスから話を聞いたリブラはどこか感慨深そうに頷いた。
もう会えないと思っていた存在が再び現れれば、こういう反応になるのも無理はない。
むしろ、おかしいのはリブラ以外のもう一人の方だ。
「つまり、この方が魔導具王、エヴァンジュ・ローディアスということですか。正直、信じられませんが、リブラ様がマスターと認めたからにはそうなのでしょうね」
この話を聞いたフィーネはそう言って頷くだけで、ヴァンやアリエスに特に何か言ってくることはなかった。
久々に〝魔導具王〟なんて呼ばれたな、などと思う間もなく納得されてしまい、ヴァンはどこか拍子抜けしてしまう。
普通こんな話、信じられないと切って捨てられるか、疑われて当然だからだ。
そんな考えが透けていたのか、フィーネは苛立ったように腕を振るって力説する。
「なんですか? その表情は? リブラ様が言っているからにはそれで間違いないのです! たとえそれが荒唐無稽の話でも私は信じます!」
「あ、うん。わかった」
「……リブラもとんでもねーのに好かれてるですね」
先ほどまでは職務に忠実な親衛隊長の印象が強かったフィーネだが、これは狂信者一歩手前のヤバい奴だと理解する。
このままでは話が逸れていきそうだとリブラも感じていたのか、話題はヴァン達がここにやって来た目的へと移る。
「マスタータチハ、マドウグヲ、トリニキタノダナ?」
「そうなるな。それで残ってるか?」
「ウム、タイハンハ、モテアマシテイルジョウタイダ。モッテイッテモラッテ、カマワナイ」
リブラの答えを聞き、とりあえず目的は達成できそうだとヴァンとアリエスはパチンと手を合わせる。
リブラに預けていた魔導具を回収できればかなりの戦力増強になるだろう。もしユノと戦うことになっても優位にたてる可能性が高い。
とここまで考えたヴァンはリブラに気になっていたもう一つのことを聞く。
「あの〝竜樹〟ってどうなっているんだ? リブラが発動させたとは思えないんだが?」
「マスタートハ、ソノハナシガシタカッタノダ」
今度はヴァンとアリエスがリブラ達の話を聞く番だった。
といっても、リブラ達も〝竜樹〟が発動した具体的な理由は知らないらしい。
「キュウニ、ハツドウシタトシカ、イイヨウガナイ」
「おそらく、何者かが〝竜樹〟の古代遺物に何らかの細工をしたとは思われるのですが……」
「それをしたのは、ユノが一緒について行った黒ローブの連中だろうな」
「そうだと思うです」
あの怪しげな集団に、邪魔が入らないよう足止めしていたユノ。物証はないが、状況が整いすぎている。
だが、リブラ達としては犯人をどうこうするよりも竜樹〟を止めたいようだった。
「ソコデダ、マスターナラバ、トメカタガ、ワカルノデハナイカ、トオモッテナ」
リブラに問いかけられたヴァンは困ったように首を横に振る。
「期待されてるとこ悪いが、自分の意思で発動させた〝竜樹〟の止め方ならともかく、勝手に発動した〝竜樹〟の止め方なんぞ分からないぞ……〝竜樹〟の核を壊せば止まるのは間違いないがそれくらいだな」
「そうですか。我々も最悪にそなえ破壊を試みているのですが、現在核の位置すら掴めていない状況です。せめて大きくなるのだけでも止められないかと、拘束はしているのですが……芳しくありません」
「拘束っていってもあの大きさじゃ顕界があるわな。よし、俺も手伝おう。まずは魔導具の所に案内してくれ」
残念がるフィーネを見たヴァンは自分から〝竜樹〟を止めることに協力を申し出た。
「どうしたのですか、マスター? 今回はかなりやる気に見えるですよ?」
「お前失礼だな!? まだ〝竜樹〟が動いていないのは起動準備が完全に終わっていないからだろう。止めるなら急いだ方が良い」
一方的な借りを作る気はないのか、ヴァンの目には力強い輝きが宿っていた。
「分かりました。私が案内します。よろしいですか、リブラ様?」
「ウム、コチラハ、コウソクヲツヨメテオコウ」
と、リブラが返事をした瞬間、爆発的な魔力の奔流とともにグラグラと地面が揺れる。
「なっ!? この揺れは!?」
「ヤバくねーですか!?」
揺れがおさまるのと同時に、ドォン!! と大きな音が鳴り響く。
「遅かったか……」
ヴァンの視線の先には、〝竜樹〟がその巨体を揺らしながら、一歩踏み込んだ姿が映っていたのだった。