生まれ変わって突然記憶を取り戻した魔導具王は後悔する~世界中に散らばった前世の魔導具や古代遺物を取り戻すために冒険する~ 作:空雲ゆく
「リブラ様、これは!?」
「ウム、ドウヤラウゴキダシタ、ヨウダナ」
見れば〝竜樹〟が一歩、また一歩と動いている。
しかし、その動きはヴァンの記憶にあるものよりも、どこかゆったりしているように感じられた。
「なんか変だな? 取り込んで大きくなるのを待っていたり、動きだしたかと思えば遅かったり、改めて考えると〝竜樹〟ってあんな古代遺物だったか?」
「久々の起動で調子が出ていねーとか、そういう理由じゃねーですか?」
〝竜樹〟のことをよく知らないアリエスはありそうな理由を並べる。それに一瞬、納得しかけるも、すぐに否定する。
確かに古代遺物は現代だろうと、エヴァンジュの時代だろうと、完全解析に成功したものは多くない。
だが、ヴァンにはわかるのだ。古代遺物と魔導具に人生をかけた、エヴァンジュの記憶を持つヴァンには今の〝竜樹〟が本来のものと異なっていると感じていた。
「いや、そんな理由とは思えないな」
「マスターがそう思うならそれでいいですよ。でも、考えるのは後にしたらどうですか?」
「そうだな。〝竜樹〟の核を調べれば分かることだ。それで、俺たちはどうすればいい?」
アリエスとの話を終えたヴァンはリブラとフィーネの方を向く。先ほどまでの予定では、フィーネが案内をするとの事だったが、〝竜樹〟が動きだした以上、状況は変わっている。
「リブラ様、どうなされますか?」
「フィーネニマカセル。コチラハ、サトノモノトトモニ、フタタビコウソクヲ、ココロミル」
「了解しました!」
リブラは人型の根を解除すると、何処かに行ってしまった。
言葉の通りならば、歩き始めた〝竜樹〟を止めようとしているのだろうが、あれ程の巨体だ。
止めるのにも一苦労しそうなものだが……とここまで考えた所で、〝竜樹〟の周りから根っこが大量に現れ、雁字搦めにしていく。
「あれはリブラの根ですか!?」
「ええ、厳密には先ほどまでいらっしゃったリブラ様と同様、本体と直接繋がっている根ではなく末端との事ですが」
あっけらかんと答えるフィーネだが、地面から飛び出た巨大な根っこが、巨大な〝竜樹〟を拘束している様はかなりの迫力だ。
と、この光景を見たヴァンはふと疑問をこぼす。
「最初からあれで拘束していれば〝竜樹〟が動き出すこともなかったんじゃない?」
「負荷がかかるとのことで、あまり好まれていないようです。それと〝竜樹〟の特性上、リブラ様であってもあまり触れたくないのだそうで」
理由としては納得のいくものだった。負荷がかかるというのはよく分からないが、リブラが好ましくないと思っているからには何らかの問題やデメリットがあるのだろう。
「こちらも急ぎます、ついてきてください!」
フィーネの先導に従って、エルヴン大森林を駆け抜けていく。魔導具の場所はエルフの里の中でも離れた場所にあるらしく、少し時間が掛かるとのことだった。
移動の最中、視界に必ず映っている〝竜樹〟を気にしつつも、ヴァン達は魔導具が保管されている場所へとたどり着こうとしていた。
「見えました! あそこにリブラ様がエヴァンジュ殿から預かったという魔導具が保管されています!」
フィーネが目を向けた先にあったのは一つの小屋。
小屋の大きさは小さめの一軒家と同じ程度だろうか。見た目はエルフの里の家と同じような木製の作りだが、こちらの方が幾分か簡素に思える。
入り口には魔石を利用した結界が存在していた。
「よし、これで戦力も上がる」
「安心するのは、はえーですよ、マスター」
ヴァンとアリエスがそんな会話をしたときだった。
ブチブチィ!! と嫌な音が響いたのは。
音のした方を見れば、〝竜樹〟を拘束していたリブラの根っこが何本か引きちぎられていた。
「なっ!?」
「これヤベーやつです!?」
「リブラ様!?」
三人が驚愕の表情でそれを目撃する中、いち早く気付いたヴァンが叫ぶ。
「危ない! 伏せろ!」
ヴァンが見たのは〝竜樹〟が身体を回転させ、周辺を薙ぎ払おうとしている光景だった。
声を出しつつ、ヴァンも反射的に身を屈める。
アリエスも地面につくまで高度を落とし、フィーネもヴァン同様、身を屈めた。
三人と〝竜樹〟に当たることなくやり過ごすことには成功したのだが、ある意味で無事とはいえなくなってしまった。
その理由は〝竜樹〟の一部が小屋へと命中し、バゴォン!! と大きな音を立てて、小屋が崩れていくのを見てしまったからだ。
「アリエスぅ!? お前があんなこと言うから小屋がやられたじゃねーか!?」
「私のせーじゃねーですよ!? 責任転嫁するの止めてもらえねーですか!?」
「それよりも〝竜樹〟の動きが変です!」
フィーネの言葉にヴァンとアリエスは揃って、〝竜樹〟を見上げる。
回転した〝竜樹〟はまるで本物のドラゴンが咆哮するように体躯を動かす。ドラゴンの咆哮は威嚇や牽制の意味があると言われているが、それを模した存在である〝竜樹〟の行動も威嚇だとすれば、その対象はいったいなんなのだろうか。
〝竜樹〟の視線の先にあるものといえば世界樹ぐらいだ。
その一連の行動を見て、『まさか!?』とだれもが思った瞬間――
〝竜樹〟は世界樹目掛けて突撃を開始した。
少し前まで、ゆったりとしか動いていなかったのが嘘のような速度で疾駆した〝竜樹〟は世界樹に思いっきりぶつかっていく。
一度ならず、二度、三度と続けざまだ。エルフ達が止めようとしているのか魔法らしき攻撃も見えるが、〝竜樹〟は止まらない。
大きさは世界樹の方が圧倒的に上なためか、どれだけ体当たりされても少し揺れるだけで、すぐにでも倒されるようなことはなさそうだが、見ていてあまり気分の良い物ではない。
特にリブラを崇拝しているように感じられたフィーネにとっては、衝撃が大きかったのか声も出ていない。
「っち、こうなったらこの壊れた小屋のなから魔導具を探すしかない。アリエス、お前も探してくれ!」
そう言うと、ヴァンは小屋の跡地へ駆けだしていく。
「それは分かったですけど、壊れたのばっかりですよ?」
「それでも探すんだよ!」
〝竜樹〟の一撃を食らったせいか、小屋があった場所には、ぱっと見では無事な魔導具が存在しているとは思えないほどボロボロの状態だった。
「あの私も、お手伝いを……」
探す二人を見てフィーネもここに来た目的を思い出し、協力を申し出たが、
「こっちは俺たちだけで十分だ! リブラの親衛隊長なんだろ! あっちに行った方が良い!」
ヴァンが断った。明らかにフィーネの意識はリブラの方へと移っていたからだ。未だに世界樹に突撃している〝竜樹〟を意識するなと言う方が無理だろう。
ヴァンの熱の籠もった言葉を聞いてフィーネはハッと身体を震わせ、一礼する。
「分かりました! 私はこれより元の任務に戻ります! そちらも気をつけてください! ――風よ!」
そう言い残し、フィーネは風魔法をその足に纏うと来たときの倍近い速度で〝竜樹〟の元へと駆けていった。
ヴァンとアリエスはフィーネを見送りつつ、小屋の跡地で無事な魔導具を探していた。
「まさか、ここに来て魔導具を手に入れられないとは……くそっ、こっちは今、碌な物がないってのに」
「武器も折られてやがるですしね」
「ホントにな」
ヴァンは鞄型収納庫に保管してあるユノに折られた剣を思い出しながら同意する。
あの剣は大量生産の品としてはよい物で、駆け出しとしては十分に上物と呼べる剣だったが、一流の武芸者と業物を相手取るのには流石に力不足だったらしい。
だからこそ、ここで魔導具を手に入れておきたかったのだが、この有様ではどうなるかわからない。
魔導具を探し続ける二人だったが、あまり成果は芳しくない。
「使えそうな魔導具は……ないな」
「こっちもねーですよ……ん? これ魔導具だったりするですか?」
そんな中、アリエスが何かを見つけたのかヴァンを呼ぶ。
「どれどれ……ってこれは!? 俺が作った禁忌の魔導具の一つ〝カラミティ〟じゃねえか! 使えるなら、当たりも当たりの魔導具だぞ」
「カラミティ? これがそんな大層なものなんですか?」
そう聞くアリエスが指さした先には、銀色に光る腕輪が存在していたのだった。