生まれ変わって突然記憶を取り戻した魔導具王は後悔する~世界中に散らばった前世の魔導具や古代遺物を取り戻すために冒険する~ 作:空雲ゆく
「特に変なところもない、ふつーの腕輪にしか見えねーですよ?」
ヴァンとアリエスの目の前にあるのは銀色の腕輪だ。
装飾などは特に取り付けられておらず、至ってシンプルなものだった。強いていうのならばアクセサリーにしては大きいということぐらいだろうか。
「よく見ろ、腕輪の側面に細かい穴が空いているだろ?」
「んー……ホントですね。でもこの穴がどう関係してくるのですか?」
ヴァンが指し示した腕輪の側面をよく見てみると、確かに細かい穴が無数に空いていた。
だが、この穴が空いていることによって、この魔導具――〝カラミティ〟がどんな効果を発揮するのかは想像もつかなかった。
「どれ、確認も兼ねてちょっと試してみるか、目標アリエス」
腕輪を右腕に装着したヴァンはアリエスへと〝カラミティ〟を向ける。
その妙に物々しい雰囲気にアリエスは顔を引きつらせ、首を横に振った。
「いやいやいや!? なにも私で試す必要ないじゃねーですか!? ここら辺に落ちてる端材でも何でも使えばいいですよね!? ちょっと、マスター聞いて――」
「――行け〝カラミティ〟!」
「ひゃあ!?」
アリエスの言葉など意に介さずに腕輪に魔力が注ぎ込まれ、腕輪の側面から何やら細い糸のようなものがアリエスへと絡みついていく。
といっても、アリエスは結界で守られているため、アリエスそのものには何の影響もないのだが、結界ごとシュルシュルと包み込まれていく。
「いい加減にするですよ! 試運転ならもう十分なはずですよ!?」
半分ほど包み込まれた状態でアリエスが叫んだ。
「スマンスマン、もうちょっと出しておきたかったんだが……一応、大丈夫そうだな」
手を合わせて謝りつつ、ヴァンはアリエスを包んでいた物体を腕輪に回収する。
「で、これは一体何なのですか?」
解放されたアリエスはジト目でヴァンを睨みつつ、先ほど自分を包んでいたものの正体について尋ねる。見た限り糸のようにも見えたが、糸にしては結界に対して、やけに強く締め付けていたように感じていた。
「簡単に言うと綱糸の一種だな」
「綱糸っていうと金属を糸みたく細くしたものですよね?」
「その通りだな。こいつはミスリルのような稀少鉱石をふんだんに使った綱糸の一種だ。ただ、普通の綱糸と違って、切断力を低くするかわりに強度と捕縛力に全力を注ぎ込んだ魔導具だな」
とここまで説明したヴァンは少量の綱糸を腕輪からだすと、星の形にした。
「こんな風に魔力で操れるんだが、作ったばかりのころは上手く操れなくてな。自在に操る練習をしていたら、自分に絡まった挙げ句、解除も出来なくて、研究室で三日三晩誰にも気付かれることなくとらわれ続けた経験から〝
「それって、ただマスターがバカってだけなのではないです? しかも、くだらないシャレじゃねーですか!?」
あのヴァンが禁忌の魔導具とまでいうから、どれほどヤバいものなのだろうか!? と考えていたアリエスは呆れたのか、肩を落とした。
いや、確かに性能はエヴァンジュが生み出した魔導具と呼ぶにふさわしいものだが、それを無に帰すほどのくだらない理由に疲れるのも無理はないだろう。
「もういいですよ、さっさと他に魔導具が残ってねーか確認するですよ。一個あったってことはまだあるかもしれねーんですから!」
「そんなにダメかなぁ? この名前」
「どうでもいいから手を動かすですよ!!」
そんなやりとりをしながら、二人は魔導具を捜していくのだが、
「やっぱりねーな。奇跡的にこれだけ無事だっただけってことか」
「ですね。近くにでかいのがあったので、それが盾になった可能性が高そうですね」
結局、先ほど見つけた〝カラミティ〟以外に無事なものは存在していないようだった。
「なら、さっさと戻って、〝竜樹〟を止めるぞ!」
「分かってるですよ!」
ヴァン達は破壊された小屋を後にして、
フィーネをはじめとするエルフ達が奮闘しているのか、〝竜樹〟が世界樹に突撃する回数は明確に減っていた。
とはいえ、最初よりも頻度が落ちているだけで、未だに突撃をしていることには変わりない。
「見えた! 世界樹の近くにエルフ達だ!」
「フィーネもいるみてーですよ!」
ヴァン達が見たのは世界樹の前に陣取り、竜樹を囲むように存在している多数のエルフ達だった。
その大半は杖を構えており、土での拘束を基本に水や風で〝竜樹〟を押し返そうとしているようだった。
〝竜樹〟に一番効果的であろう火を使わないのは、森に火が移るのを防ぐためだと思われた。
そもそも、あの巨体に対し小さな火では、どこまで役に立つのか分からない、というのもあるかもしれない。
幾人かは魔力切れなのか、肩で息をした状態で膝をついていた。
そんなエルフ達の中でも、先頭に立ち目立っていたのは、フィーネだった。
フィーネは短杖を二本構えると、その両方から同時に魔法を放たれる。
「とまれぇえぇぇぇぇぇ!!! 索敵班! 核の位置はまだ掴めないのか!?」
「申し訳ありません! ですが、〝竜樹〟を止めるためとはいえ、索敵班をこれほどまで減らされては……」
攻撃や防御以外の魔法を放っているのは三人ほどしか存在していなかった。〝竜樹〟の巨大さに対して人数が少ないといえるだろう。
「っく、減らしすぎたか? だが、この人数で当たっても、完全に止められていないのだぞ。しかも、リブラ様の根も段々本数が少なくなってきている。このままでは!?」
最悪、暴れ回る〝竜樹〟に自分が無理矢理にでも乗って、核を探すべきだろうか? と中々に危険なことを考え出したフィーネの元にヴァンとアリエスがやって来たのだった。
「待たせたな!」
「ようやく合流できたのです!」
「あなた達は……早めに来てくれたことには感謝しますが、状況は芳しくありません」
この状況で二人増えたところで、改善するとも思えないフィーネは複雑な表情を浮かべる。
しかし、ヴァンは自分に任せろとでも言うように胸を叩くと銀の腕輪を〝竜樹〟に向けて構えた。
「どこまで持つかは分からんが……縛って縫い付けろ〝カラミティ〟!」
ヴァンが付けている腕輪から大量の綱糸が放たれ、まるで生き物のように〝竜樹〟へと襲いかかっていく。
〝カラミティ〟が纏わりはじめた最初こそ、〝竜樹〟も動く余裕があったが、次第にその動きを鈍くしていく。
〝カラミティ〟が出きったところで、ヴァンは小さく舌打ちをした。
「っち、小型のドラゴンなら丸々一体は包み込める〝カラミティ〟を使い切っても、この程度の拘束しか出来ないか!」
すでに並みのドラゴンよりも大きくなった〝竜樹〟に対しては〝カラミティ〟の全力を持ってしても完全拘束は難しいようだった。
とはいえ、〝竜樹〟も暴れて抜け出そうとしているものの、簡単に抜け出すことは出来ないらしく一応拘束には成功している状況だ。
それを確認したヴァンはアリエスに呼びかける。
「アリエス、探査はできるか?」
「〝竜樹〟から放たれる魔力が多くて正確な位置はきびしーですが、やってみるですよ」
索敵もお手のものであるアリエスが厳しいというからには、よほど〝竜樹〟からの干渉が強いのだろう。
とはいえ、さすがアリエスと言ったところだろうか、探査を開始してから数分で大まかな位置を特定してしまった。
「んー? 下の方にはなさそーですね。あるなら上の……あの辺りですかね?」
そう言うとアリエスは〝竜樹〟の頭から胸にかけてをなぞるように指さした。
「よし、ならあとはフィーネやエルフ達と一緒にそこまで行って、核の破壊なり、確認なりを――」
とヴァンが言ったときだった。
〝竜樹〟が全身を身震いさせたのは……。
今までと違う動きに全員が注目する中、思わず絶句してしまいそうになる光景が広がっていく。
「小型の……」
「〝竜樹〟です?」
ヴァンとアリエスが見たのは、〝竜樹〟の身体から生み出されるように湧いてきた小さな〝竜樹〟の群れだった。