生まれ変わって突然記憶を取り戻した魔導具王は後悔する~世界中に散らばった前世の魔導具や古代遺物を取り戻すために冒険する~ 作:空雲ゆく
「ま、マスター!? どうなっているですか!?」
「自己修復の機能は持っていたはずだが……自己増殖まで? それにしては大きさは本体の数十分の一程度と小さい。発動の条件は本体が危機に陥ったときか? それならばリブラの根による拘束の時はなぜ発動させなかった?」
「分析している場合じゃねーですよ!? 来るです!」
小型の〝竜樹〟は動けない本体に代わるかのようにエルフ達へと襲いかかっていく。
「この! 風よ敵を吹き飛ばせ! エアロバースト!」
フィーネが風の魔法で数体の小型〝竜樹〟――〝小竜樹〟を纏めて吹き飛ばすも、一部が欠けただけで、再び起き上がり襲いかかろうとしていた。
「思ったよりも硬いな……総員! 注意しろ! だが、倒せないほどではない! なんとしてもこれを突破して核へたどり着くぞ!」
「「「「はっ!!」」」」
フィーネのように魔力が残っているエルフは〝小竜樹〟に対して、続けざまに魔法を放っていく。硬いといっても、流石に複数の魔法をくらった〝小竜樹〟は為すすべもなく消滅していった。
魔力を消耗したエルフ達は弓や槍を使用して、少しでも仲間の援護をすべく〝小竜樹〟の進軍を食い止めていた。
フィーネやエルフ達の奮戦もあり、〝小竜樹〟の勢いは最初ほどはない。本物のドラゴンのように、飛行能力をもっていないことが幸いしているのだろう。
しかし、逆にいえば飛べない限り、〝小竜樹〟をどうにかしないと〝竜樹〟に近づけないということでもあった。
エルフ達が優勢とは言い難い様子をみて、アリエスは心配したように言葉をこぼした。
「マスター、これ以上〝竜樹〟が変なことしてきたりしねーですよね?」
「おそらく、動きを止められた〝竜樹〟の最後の手段だとは思う。目的は自身が再び大きくなるまでの時間稼ぎ。それが終われば〝カラミティ〟を外す気だろうな」
ヴァンは完全に射出して、地面に縫い合わせるように〝竜樹〟を固定している綱糸を見つめる。
〝竜樹〟を抑えつけている綱糸の一部はカタカタと震えており、これ以上、巨大化されればリブラの根のように、引きちぎられる未来が容易にうかがえた。
「じゃあ、私達も協力しねーと、ヤベーんじゃねーですか!?」
「これ以上、俺たちに何が出来るんだよ」
焦るアリエスとは対照的にヴァンはどこか冷めた態度で答えると、続けざまに吐き捨てるように言い放った。
「アリエスは戦闘が苦手だし、俺に至ってはまともな武器、魔導具、古代遺物、何もないぞ? 魔法だって基礎しか使えない。素手での戦いなんて対人戦ならともかく、〝竜樹〟相手に戦えるとは思えないな」
「それはそうかもしれねーですけど、そんな冷静な……」
とそこまで言ったところでアリエスは口を閉じた。ヴァンが思いっきり拳を握りしめていたからだ。
どうやら、悔しさや非力さを感じているのはアリエスだけでなく、ヴァンもだったようだ。
過去の力がもう少しあれば……という思いはエヴァンジュの記憶を持つヴァンならば、より強く感じるのも無理はない。
このまま、見ていることしか出来ないのか、と両者が思ったときだった。
「ブキナラバ、アルゾ」
「「リブラ(です)!?」」
声と同時に、地中から根が飛び出して以前と同様に人型をとる。
リブラの名前が聞こえたのか、それからほどなくフィーネも後方のヴァン達の元へと、一時的にやって来ていた。
「リブラ様! ご無事でしたか!?」
「ウム、イマノトコロハナ」
フィーネのこの反応を見る限り、リブラは根の拘束をふりほどかれてから、エルフ達に対しても連絡を取っていなかったようだ。
「モウイチド、コウソクハ、デキソウニナイガナ」
どこか申し訳なさそうに言うリブラだが、そんなリブラに対してフィーネは頭を下げた。
「いえ、こちらこそ申し訳ありませんでした。リブラ様への直接攻撃を許してしまうなど、痛恨の極みです。しかもそれだけにとどまらず、現在も続いているという失態を……」
「キニスルナ、フィーネハ、ヨクヤッテイル」
「はっ!」
美しき主従のやりとりだったが、それよりもヴァンが気になったのはリブラが言った武器についてだ。
「それで、リブラ、武器があるって話だが?」
「ソウダ、マドウグトハベツニ、マスターニ、ワタシテオキタイ、モノガアル」
「案内してくれ」
その言葉を聞いたヴァンは大きく頷くと、駆け出す準備をする。
アリエスもヴァンとリブラについて行こうとしたところで、自身の感知に引っかかる存在を確認し、警告する。
「来るですよ!」
アリエスの言葉どおり、数体の〝小竜樹〟がヴァン達の行く手を塞ぐように現れた。前線を抜けてきたのか、それとも別方向から近づいてきていたのかは分からないが、今のヴァンにはかなりの強敵といえるだろう。
走り抜けるしかない、と考えた所で、
「――タービュランス!」
フィーネが放った魔法によって小型の竜巻が起こされ、巻き込まれた〝小竜樹〟同士がぶつかり合いながら、地面に叩きつけられる。
「行ってください! リブラ様があなたに渡すものがあるというなら、それは絶対に必要です!」
「わかった!」
ヴァンはリブラの先導に従って、駆けていく。
吹き飛ばされた〝小竜樹〟は未だ活動は可能なようだが、傷は浅くないようで動きが鈍い。これならば簡単に突破できるだろう。
突破した後でチラリと後ろを確認してみると、フィーネが追加で現れた〝小竜樹〟を全て撃破し終える所だった。
フィーネはヴァンが見ているのに気付いたのか、一礼すると短杖を持ち直し、前線へと帰って行く。
ヴァンはそれに対し心の中で感謝し走り続けるのだった。
リブラがヴァン達を案内した場所は、そこまで遠い場所ではなかった。位置的には〝竜樹〝と戦っている反対側の世界樹の根元だった。
世界樹自体が大きいため、短いとは口が裂けても言えないが、この程度の距離であればヴァンもアリエスも疲れることはない。
「ここでいいのか?」
「な、なんか身が引き締まる感じですね」
世界樹の周りの森でも神聖さは感じ取れたのだが、この場はそれ以上のように感じていた。エルフ達ですらあまり来たことがないのか、人の気配や息吹の残滓のようなものさえないのだろう。
「ココハ、ワタシガ、カンリシテイル」
「なるほど」
リブラのその言葉を聞いて納得がいった。この神聖さもリブラ本人が整備していたのならば、理解出来る。
「アレダ……ウケトッテクレ、マスター」
そこにあったのは台座に置かれた棒。中心には小さな宝石のようなものが埋め込まれていた。
「お前、これは……」
それを見たヴァンは言葉を失った。それはヴァンとしてもよく知っている――エヴァンジュが愛用
していた武器だったからだ。
「ソウダ、マスターガマエニ、ツカッテイタブキダ」
「いや、確かにそうだがこれは
そう、この棒は中央にある加工された小型の魔石を除いて、全てが世界樹で出来ていた。
別の武器を手に入れてしまってからは使用する機会も少なくなり、このまま収納庫で死蔵するのももったいないと思ったエヴァンジュがリブラに返還したものだった。
「ステルノハ、ハバカラレテナ」
どこか郷愁さを感じさせる物言いだった。
綺麗に置かれていた時点で想像はついたが、リブラはこの武器を手厚く管理していたのだろう。
また、こうして使われるとは思っていなかっただろうが、今ヴァンに渡るのをリブラはただ黙って見ていた。
ヴァンは台座から棒を掴むと、確かめるように棒を振るっていく。
最初はぎこちなかった動きも、段々と洗練されていきヒュンヒュンと自在に回したかと思うと、突きや薙ぎ払いなどの一通りの動きを確認していた。
「悪くない……というより、元々使っていた剣よりもしっくりくるな。前に使っていた記憶が残っているからかもしれないな」
ヴァンが幼少から練習してきた剣よりも、上手く使えることに少しだけ複雑な気持ちを抱くが、
「また頼むぞ、ユグドラ……」
ヴァンは世界樹から作られた棒――ユグドラを強く握りしめるのだった。いた。