生まれ変わって突然記憶を取り戻した魔導具王は後悔する~世界中に散らばった前世の魔導具や古代遺物を取り戻すために冒険する~ 作:空雲ゆく
ユグドラを手に入れたヴァンはフィーネ達と〝竜樹〟が戦っている場所に戻るべく、元来た道へと踵を返す。
「行くぞ!」
「待つですよ、マスター!」
先行するヴァンを追いかけて飛ぶアリエスだったが、この場にいるはずのもう一人がついてきていないことに気付いて、台座の方を振り返った。
そこには、リブラが動く素振りを全く見せずに立ち尽くしていた。
「リブラは来ねーのですか?」
「アア、モウスコシ、ヤルコトガ、アルノデナ」
「そうなのですか? 何をするのかは知らねーですが、気をつけるのですよ!」
リブラに対して軽く手を振るとアリエスは羽根を素早く動かして、ヴァンを追っていった。
そんなアリエスの後ろ姿を見ながら、リブラは世界樹(自分)をジッと見上げていた。
「……ゲンカイガ、チカイヨウダナ」
漏れ出た言葉は誰にも聞かれずに、根で作った仮初めの身体は崩れていくのだった。
「アリエス! フィーネ達と〝竜樹〟の様子はどうだ?」
森の中を駆けながらヴァンはアリエスに状況を尋ねた。
未だ〝竜樹〟の拘束が解かれていないのは見れば分かるが、〝小竜樹〟とエルフ達の戦いがどうなっているのかはヴァンの目からは分からない。
戦闘音が聞こえてきてはいるので、無事なのは分かるがそれだけだ。
「んー、どうやら、一進一退を繰り返しながら、ちょっとは進んでいるって感じですね」
「そうか。なら、早いとこ援護に向かいたいところだな」
そのまま、駆け抜けていくとフィーネ達の姿が視界に映る。
「――タービュランス! 巻き上げたぞ、撃ち落とせ!」
フィーネの魔法によって空へと放り出された〝小竜樹〟が、後方のエルフ達の矢に撃ち抜かれ消滅素する。
「全く、キリがないな……っ、このっ!?」
周囲の状況を確認していたフィーネの元に、二体の〝小竜樹〟が別々に襲いかかってきた。
魔法を発動させている暇はない、と判断したフィーネは片手を短杖から剣へと持ち替えると、正面の〝小竜樹〟をはじき飛ばした。
続けざまに、後方から飛び掛かってきていた、〝小竜樹〟もはじき飛ばす。
連続して対処したことにより、張っていた気が少しでも緩んだからだろうか。フィーネはもう一体の〝小竜樹〟が、自分を狙っていることに気付いていなかった。
横の茂みから飛び出してきた〝小竜樹〟は、フィーネのがら空きの背中目掛け一直線で突っ込んでいく。
「っ!?」
フィーネも突っ込んでくる〝小竜樹〟に気付いて剣を構えようとするが、完全にがら空きの背中側に回すには体勢が悪すぎた。
軽鎧とはいえ、鎧で保護されているから即死はないだろうが、怪我は免れないだろうと覚悟したその時、〝小竜樹〟が横合いから突き出された棒によって貫かれ、消滅する。
「ふう、久々に使う武器の一発目がこれっていうのはちょっと緊張するな。手元が狂ったかと思った」
「いや、でも十分上手いですよ? ワイバーンのときよか安心して見てられるです」
「マジか……」
フィーネの視界に映ったのは、何やら長い棒を持ったヴァンとアリエスの姿だった。
リブラに呼ばれて武器を取りにいっていた事を考えれば、あれが武器なのだろうが、あの棒は確かリブラが大切に管理していたことをフィーネは知っていた。
まさか、それがエヴァンジュの武器だったことに内心で驚きつつも、助けられたことに感謝を述べる。
「すまない、助かった」
「いや、これを取りに行くときにこっちも助けて貰ってるからな」
ヴァンが言っているのは、リブラに呼ばれたときに現れた〝小竜樹〟をフィーネが魔法で蹴散らしたときのことだ。
「さて、いくとするか」
ヴァンはユグドラを弄ぶようにクルクルと数回、回転させると、構え直し、〝小竜樹〟目掛け疾駆する。
手始めに、フィーネがはじき飛ばした二体を先ほどと同様に一突きで消滅させたかと思うと、〝小竜樹〟の群れに突っ込んでいく。
そのまま、ユグドラを身体の周りで吸い付くように振り回し、飛び掛かってくる〝小竜樹〟を吹っ飛ばし、消滅させていく。
「すごい……魔導具王、エヴァンジュ・ローディアスは武の方もあれほどまで凄かったのか……」
〝小竜樹〟を次々と撃破していくヴァンの姿を見て、フィーネは呆けたように呟いた。
魔導具王という二つ名と過去の噂から、厄介な魔導具を使う戦い方に特化していると思っていたが、今、目の前で起きている光景から考えれば、それは否定されたと言っていいだろう。
だが、そんなフィーネの考えを否定するように、アリエスはどこか白けた声を出しながら、〝小竜樹〟を屠るヴァンの姿を見ていた。
「別に強かねーですよ。あのユグドラを持っていようと、今の状態のマスターとフィーネが戦ったら、九割方フィーネが勝つはずですよ」
「えっ!?」
アリエスが話した内容にフィーネの顔が驚愕に染まる。
苦戦……とまではいかないが、フィーネは〝自分が小竜樹〟相手にヴァンのように一撃で葬る姿を想像出来なかった。
だから、魔法もなしに屠っていく姿からヴァンの実力が高いものだと判断したわけだが、アリエスはそんなフィーネの内心を見透かしたように言葉を続ける。
「マスターは前に自分で言ってのですよ。『多分、俺は武力に関しちゃ一流には届かないだろうな』って。マスターはギリギリ一流に届くかどうかですね。その程度では、本物の一流には敵わねーでしょう」
事実、超一流とでも言うべきユノにヴァンは押されていた。
「じゃ、じゃあなぜあんな簡単に小さい〝竜樹〟を倒しているのですか?」
「あのちっこい〝竜樹〟の外皮は硬いですが、無理矢理生み出されているせいか、存在自体が凄く不安定なのですよ。だから、魔力の流れを見ると弱点みてーな、歪な綻びが存在しているのですよ」
ここで一息ついたアリエスは再び続ける。
「私は、戦いが得意じゃねーですけど、こういうのを見破るのは得意ですからね。マスターも私程じゃないにしても見えてんですよ。まあ、今回はマスターの方が先に見つけて、倒してるですけど」
「な、なるほど……」
分かったような、分からないような。フィーネもエルフだけあって、魔法を使った探査などは得意なうえ、感覚は鋭いはずだが、アリエスの言うような〝小竜樹〟の特性は認識できていなかった。
〝竜樹〟からあふれ出る膨大な魔力と存在感から思うような探査が出来ていないためだろうが、この状況であっさりとそれを成すアリエスとヴァンの能力の高さに素直に感動していた。
とはいえ、ヴァン一人が〝小竜樹〟を屠っても、戦況が劇的に変わったわけではない。
全体的な状況は良くなっているが、〝竜樹〟の拘束は今にも解かれそうな状況だ。このままのペースでは間に合わないだろう。
そう考えたヴァンはアリエスの名を呼ぶ。
「アリエス、頼む!」
「この人数にかけるのは正直疲れるんですけどね。でも、マスターのおかげで弱点も分かったことですし、私も頑張って見るのですよ!」
アリエスは自身の周囲に魔法陣を発動させると、フィーネをはじめとしたエルフ達を柔らかな光が包む。
「これは……!?」
「ただ同調させているだけですよ。私の事はいいから、よく見るのです」
アリエスに促され、フィーネは〝小竜樹〟を見つめる。
すると、そこには〝小竜樹〟の一部にひび割れのようなものが見えた。
「一体一体、場所が微妙にズレているのが厄介ですけど、〝竜樹〟の魔力に妨害されていたとしても、一度認識すれば、魔力操作や魔法に長けたエルフなら、個人でも出来るはずです」
ひとしきり説明したのと、大人数を同調させたことに多少疲れたのか、アリエスは肩を落とした。
「た、確かに、見える! 私にも見えるぞ! 総員、今見たのが弱点だ! アリエス殿から受け取った感覚を忘れるな!」
「「「はっ!」」」
フィーネはエルフ達に簡単な説明をすると、近くにいた〝小竜樹〟の弱点を突いて一撃のもとに切り裂いた。
他のエルフ達もフィーネと同様に〝小竜樹〟を倒していく。
流れは完全にこちらに傾いてきていた。
そのまま、全員で襲い来る〝小竜樹〟を撃破していき、ある程度数が減ったところで、ヴァンは前線から離れ、〝竜樹〟の元へと駆けていく。
「よし! 大体小さいのは片付いた、アリエス! 上に行くぞ!」
「分かったのですよ!」
〝小竜樹〟の大半が消滅したのを確認したヴァンはアリエスと一緒に〝竜樹〟を駆け上っていく。
それを一瞬固まったように見ていたフィーネだったが、
「はっ!? 私も行きます! 私はこれより彼らとともに〝竜樹〟の核を狙いに行く! 残存戦力の排除と新たに出現した敵性体の撃破及び〝竜樹〟の拘束に全力を尽くしてくれ!」
「「「はっ!」」」
矢継ぎ早に指示を出すと、自身もヴァン達の後を追って〝竜樹〟の上を駆け上がっていくのだった。