生まれ変わって突然記憶を取り戻した魔導具王は後悔する~世界中に散らばった前世の魔導具や古代遺物を取り戻すために冒険する~ 作:空雲ゆく
「浜辺ってことしか分からないんじゃどうしようもない。持っていた地図は濡れてボロボロだし、そもそも携帯食料も濡れて食えたもんじゃない。水筒はかろうじて無事だったが、このままだと最悪死ぬな」
自分の状況を改めて確認したヴァンは思いっきり顔をしかめる。
シェルクラブを倒し身体の確認が出来たまではよかったが、今居る場所が何一つ分かっていないのは大問題だった。
シェルクラブなど浜辺であれば殆どの場所で出てくる可能性のある魔獣だ。全く参考にならない。
それに今になって気付いたが食料の問題もある。食べられる木の実でもなんでも探さなければ餓死する可能性も十分あり得るのだ。
ちなみにシェルクラブの身は生で食すと腹を下すので、この状況で食べるのには適していない。
さらに、ヴァンは海に投げ出されたときに大半の道具を失っており、その中に着火の魔導具も入っていたため火もつけられない状況だった。
「せめて、シェルクラブを倒す前に気付いていれば……」
そうやって嘆くも時すでに遅し、シェルクラブは見事な死体となってしまっている。
今から火打ち石を探して火を起こすにしても、木を探して火を起こすにしても時間がかかるうえ、準備している間にシェルクラブの死体に寄ってくる魔獣も出てくるだろう。
そんな魔獣の中でも特に厄介なのが空を飛ぶ魔獣だ。ヴァンが使える武器がロングソードだけの今の状態で、空を飛ぶ魔獣に襲われればほぼほぼ逃げるしかない
一部を持ち運ぶことも考えたが、照りつける太陽と気温から考えれば食す前に痛み出す可能性も高い。
「とりあえず諦めて適当に歩くか……遠くに山は見えるが流石に山の形までは覚えてないな」
これが雪山ならば話は別だが、木々が覆う稜線などエヴァンジュの記憶に沢山ありすぎてわからない。島から出たことがないヴァンの記憶などもっと参考にならない。
海に投げ出された位置から判断すればヴァンが元々向かおうとしていた街からそう離れていないと思われるのだが、海流がどうなっているかなどどちらの記憶にも残っていない。
「そもそもエヴァンジュの記憶の方は全部思い出したわけでもなさそうだしな」
そう、エヴァンジュの記憶は一部が霞がかっているというか、虫食いというか、全てを覚えているわけではないのだ。
これから先思い出せるのか、それともこのままなのかはヴァンにも分からないが、一部思い出せただけでも有効活用できそうなので、「まぁいいか」と呑気に考えていたりする。
浜辺から草むらを適当に歩いていると、何やら巨大な石のようなものが見えてきた。
まだ、だいぶ離れているようだが、この距離からでも分かるということは家程度の大きさはあるということだろう。
「ん? あれはもしかして!?」
そして、ヴァンはその石に覚えがあった。厳密にはエヴァンジュの記憶に思い当たるものがあったというのが正確だろうか。
駆け足で近づいて行くに連れてその物体はどんどん大きくなっていく。
ヴァンが完全に形状を認識できる距離まで近づいたときには、二階建ての住居ほどの大きさになっていた。
「やっぱりドクロ岩だったか」
こうして近くで見たことによって、予想通りの物体だったことを確信したヴァンはグッと拳を握りしめる。
ドクロ岩というのはエヴァンジュが名付けただけで正式名称は知らないが、読んで字のごとくドクロの形をした岩のことである。
内部は空洞で口に当たる部分からは中に入ることが出来るのが特徴だ。
ヴァンは中に魔獣などが住み着いていないか確認しつつドクロ岩へと入っていく。
「火の跡があるな。住んでいるって感じじゃないし、結構前みたいだから雨宿りにでも使ったのか?」
エヴァンジュが生きていた頃はその不気味な見た目から近寄られることも殆どなかったはずだが、冒険者が増えた現代となっては一時的な休憩場所として使われているようだ。
「この分じゃもしかして見つけられているか? いや、とりあえず探してみよう」
ヴァンがドクロ岩に来た目的は別に休憩場所を求めたわけではない。エヴァンジュの記憶にこのドクロ岩に魔導具を隠した記憶があるためだ。
「ここのが残っていると、これから先非常に助かるんだがあるかぁ?」
内心、自分でも半信半疑のままヴァンはドクロ岩の右側から壁伝いに手をついてゆっくり歩いて行く。
そのまま、四分の一ほど回ったところでヒュウと前髪を風が揺らした。入り口付近からの風ではない。風はヴァンの右側――手をついている壁の方からやって来ていた。
「あった。まずはここの隙間を広げて……指が入るようになったら思いっきり横に引っ張る!」
ゴゴゴッ! と鈍い音を立てて岩の一部がズレていき人一人通れそうな隙間が顔を出す。
この仕掛けはドクロ岩の右側が左側に比べてやや厚いことを利用して、エヴァンジュが作った隠し部屋というやつである。
男なら隠し部屋は憧れだよな! 的なテンションの元、魔導具を使ってちゃちゃっと作ったので簡易的な造りだが物を隠しておくには便利な場所だった。
そのため、何かあったときのため魔導具を残しておいたのだが――
「まさか、百年経って役に立つとはな」
自分でも全く予想できない使われ方をした隠し部屋に驚きつつ、中に入っていく。
隠し部屋などと言っているが半分通路に近く、このままもう少し先まで進まなくては目的の物までたどり着けないのだ。
外壁と内壁の間に作られたごく僅かな隙間のため非常に暗く、肩が岩肌にぶつかる事もありかなり進みにくい。
「あー、やっぱりないか……」
行き止まりまでやって来たヴァンは開けられた状態で放置されている岩の箱を見てポツリと呟く。
しかしながら、その声音には特に落ち込みなどは感じられない。
「予想通りといえば、予想通りだ。手前にあったものは持っていかれているみたいだな」
そう、ここには二種類の魔導具を隠していたのだ。手前に置いてあったのは、万が一見つけられて持ち去られてもそこまで痛手にならない魔導具が隠されてあった。
もちろん手前の魔導具も残っていれば有り難かったが、ヴァンのお目当ては古代遺物を利用した奥の魔導具だ。
そして、開けた状態で放置された岩の箱とこの行き止まりの状況を見る限り、ここに以前やって来た何者かはその先の仕掛けは見抜けなかったらしい。
「まずは蓋を閉めて、次は――」
ヴァンは開けられていた岩の箱の蓋を閉じるとその箱の上に乗った。
そのまま、正面の行き止まりを何かを確認するようにペタペタと触っていくと、ヴァンが触っていた行き止まりの一部がズレて奥に押し込まれていく。
「よし、つぎ!」
ヴァンはその言葉通り、押し込まれた岩の上、またその岩の上、と押し込んでいき数分で階段が出来上がってしまった。
出来上がった階段を上っていくと、そこにあったのは下と同じような岩の箱。
ただし、こちらは開けられていないものだ。
「やっぱりこっちは大丈夫だったか、それで中身も――無事だな」
岩の箱から取りだしたのは手に持てる大きさの四角い物体。中心には何やら黒い網状の物が存在しており、ぱっと見では何のための道具なのかわからない。
「すぐに使いたいところだが、まずはここから出るか」
目的の魔導具を手に入れたヴァンはわざわざ狭い行き止まりに必要もないため、足早に隠し部屋を後にする。
ドクロ岩の内部へと戻ってきたヴァンは隠し部屋への入り口を閉じると、早速手に入れた魔導具を使い始めた。
使い方はさほど難しくない上、エヴァンジュの記憶にも残っているためヴァンの動きに迷いはない。
「まずは、スイッチを入れて……ん? 反応がないな? これで良いはずなんだが……」
壊れた様子は見られなかったがもしかしてどこか壊れていたのだろうかと、少し不安になりつつ魔導具に向かって話しかける。
「おーい、聞こえないのか?」
そんな風にヴァンが呼びかけた後、
『うえ、久々に通信魔導具が作動しやがったのです』
魔導具からはかったるそうな少女の声が聞こえてくるのだった。