生まれ変わって突然記憶を取り戻した魔導具王は後悔する~世界中に散らばった前世の魔導具や古代遺物を取り戻すために冒険する~ 作:空雲ゆく
「…………」
全く予想と違う第一声にヴァンは思わず無言で固まってしまった。
どうしたものかと悩むヴァンを差し置いたまま、声の主は面倒くささ全開のまま語りかけてきた。
『とりあえず出ないのはダメですね。はいはいどちら様です? この魔導具は認識コードがないと作動できないです。認識コードを言うですよ。……どうせわかりっこないのです』
(そういやそんな制限つけてたっけな……というか、アイツいくら何でもやる気なさ過ぎだろ)
ヴァンはこの声の主が誰なのかは分かっているのだが、あまりにいい加減な対応にちょっと驚かせてみるか、と悪い顔になって魔導具に向けて声を出す。
「認識コード〝アリエスの頭はトンチンカン〟」
『誰の頭がトンチンカンですか!? って、どうして私の名前を知ってるです!? というか、このコードは使用権だけじゃなく最上位コード!? え、なんでです!? マスターはとっくにくたばったはずです!?』
混乱する相手の声を楽しむヴァンだったが、最後の一言にはカチンときた。まさか自分がコイツに〝くたばった〟とまで言われるとは想像していなかったからだ。
表情を真顔にしたヴァンは先ほどよりも低い声で呼びかける。
「聞こえてるだろアリエス。お前ならどこにいるかも分かってるだろうから、とっとと来い」
『こ、この容赦のない命令はまさかホントにマスター!? いや、でも……万が一本当だったらどのみち強制的に呼ばれるですよね? なら行くしかねーじゃねーですか!』
何やらやけっぱちな気もするが、声の主――アリエスがひときわ大きい声で叫んだ瞬間、ヴァンの目の前には魔法陣が展開される。
空中に現れた魔法陣がチカチカと点滅しながら回転していき、最後に大きく発光するとそこから一人の少女が出現する。
現れたのは、紫色の髪を後頭部で一つに纏め、琥珀色の目をした少女。あどけなさを感じるやや丸みを帯びた顔つきだが、どこか勝ち気そうな印象も受ける。
しかしながら、その身長はヴァンの頭ぐらいで横幅は腕くらいと明らかに小さく、背中には半透明の羽根が付いていた。
そう、アリエスはヴァンのような人間ではなく妖精と呼ばれる種族だった。
「来たですよ、マスタぁ? ……ん? お前、誰です?」
アリエスは魔法陣の先にいる人間がエヴァンジュであると思い込んで来たわけだが、そこにいたのはエヴァンジュとは似ても似つかない少年が待機していたことに目を丸くする。
「……………………」
一方でヴァンはヴァンで悩んでいた。呼び出したまではよかったが、いきなりエヴァンジュの記憶を持っているなどと説明したところで納得するかどうか分からない。
それに、アリエスは基本的には素直なのだが、変なところで疑り深いという大変面倒な性格をしていたことを思い出したヴァンは、〝さて、どうせつめいしたものか?〟と思わず答えにつまってしまう。
「マスター……ではないですよね。マスターほど目つきが悪くないですし、それにこんな髪の色でもないのです。ホントに誰です? なぜマスターしか知らない上位コードを知ってたですか?」
ヴァンが悩んで、反応しないことをいいことにアリエスはぐにょん、ぐにょんと顔や髪を引っ張ったり、ペタペタとあちこち触りまくる。
少し触れば満足するかと思い放っておいたが、ここまで好き放題されれば口の前に手が出てしまう。
「お前……いい加減にしろよ?」
ヴァンは隙だらけだったアリエスの頭を思いっきりわしづかみにする。
「ひ、ひええええええええええええ!? いだだだだだだだだ!? こ、この握り方と威力はホントにマスターじゃねーですか!?」
「どこで確信してるんだよ!」
「いだいですって、マスタぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!?」
ドクロ岩に妖精の悲鳴が響き渡ったのだった。
「ひ、ヒドいのですよ。妖精虐待で訴えてやるです」
「そんなヒドいことはしてないだろうが……もう何回かやってもいいんだぞ?」
散々、弄くられたのはこっちだというのに一回強めに頭を握っただけで虐待扱いは納得がいかん、とヴァンが再び手をわきわきさせる。
「そ、それでマスターはどうしてそんな見た目になっているです? どっかの死体でもつなぎ合わせて墓場から復活したですか?」
身体を大きく一回震わせたアリエスが矢継ぎ早に質問を繰り出す。
明らかに話を変えようとしているのは分かったが、ヴァンとしても説明しておきたかったことなのでなにもしなかった。
「どっからそんな発想が出てくんだよ!? 死臭なんかしてねえだろうが! そもそも俺はそう言ったやべえ実験は一回もやってなかったはずだが?」
「なんとなくのイメージですかねー。よく自室で変な叫び声上げてたって聞いたですよー?」
「どいつがそんなこと言ってやがった……って、そこは別に重要じゃない。いいか、アリエス。俺がこれから話す内容はかなり荒唐無稽なうえ、俺自身も理解出来ていない話だ。しっかり聞けよ?」
「……そこまで前置きされると少しこえーですが、真剣には聞いて見るです」
聞く体勢へと移行したアリエスを見てヴァンは自分が分かっている限りのことを話していく。
といっても、大まかな内容は百年後の世界に生きるヴァン少年がエヴァンジュの記憶を思い出したというだけのことなのだが。
「はえー、不思議なこともあるもんですねー」
ヴァンの話をひとしきり聞いた後のアリエスの反応はけっこう軽いものだった。
そのあまりの反応の薄さにヴァンは怪訝そうな表情をうかべる。
「ちょっと軽すぎやしないか?」
「そう言われても私が納得したから、それでいーんじゃねーですか?」
「いや、もうちょっと疑われるもんだと思ってたからな」
見た目も変わってるし、とヴァンは自身の顔を指さした。
処刑されてから一〇〇年も経っている状況でいきなり〝エヴァンジュの記憶を持ってます〟などと言い出したら、控えめに言ってもホラ吹き扱いは免れないだろう。最悪、狂人扱いだ。
だから、アリエスも懐疑的な反応をすると思っていたのだ。先ほど、握りかと威力とか言っていたがまさかあれだけでエヴァンジュだと確定したわけではないと思いたい。
「そもそも昔、マスターとした
あっけらかんと答えたアリエスを見て、気にしすぎていた自分がバカらしい、とヴァンは口に手を当てて笑い出した。
「くくっ、くはっ!」
「なんで笑ってるです!? ここで笑うのはしつれーじゃねーですか!?」
「いや、逆だ。お前が変わって無くて笑ってんだよ、ぶくっ……これは――……」
ひとしきり笑ったヴァンはアリエスへと頭を下げる。
「で、だ。早速アリエスにお願い……というか頼み事があるんだが?」
「ふっふっふ、マスターが頭を下げてまで頼み事とは珍しいですね。それは私じゃないと出来ないことですか?」
エヴァンジュ時代でも滅多にないことにアリエスは気をよくしたのか、羽根がいつもより大きくはためいていた。
アリエスからのその問いにヴァンは目を見て、ハッキリした声で答える。
「そうだ。お前にしか頼めない」
「わかったのです。この時空間妖精アリエスにお任せなのですよ!! マスターはこの私にいったい何をして欲しいのですか! 言ってみるがいいですよ!」
「お前に渡した鞄型収納庫あるだろ?」
「? まあ、あるですね。マスターがくれたやつですけど……」
「それをよこせ」
「はい?」