生まれ変わって突然記憶を取り戻した魔導具王は後悔する~世界中に散らばった前世の魔導具や古代遺物を取り戻すために冒険する~ 作:空雲ゆく
思ってもみなかったヴァンの言葉にアリエスはビシリ、と固まった。
「あー、ひょっとして私、聞き間違ったですか? 欲しいのは私の力じゃなくて鞄型収納庫――魔導具っていう風に聞こえたのですよ」
「間違いじゃないな。確かにそう言った」
得意げな顔から一転、頬をひくつかせ始めたアリエスに対し、ヴァンは首を傾げながら手を差し出す。言外に早くよこせと催促していた。
そんなヴァンを見て、アリエスはプルプルと全身を震わせると一瞬でヴァンの耳元に転移し、大声で叫んだ。
「信じらんねーです、このバカマスター!」
「うおっ!? いきなり耳元に来て叫ぶな!? 鼓膜が……」
ヴァンはキーンとなる耳を押さえながらアリエスから距離をとる。ここにやって来た時と違い短距離ならば魔法陣もなしで転移できるのは見事だが、こんなことされるとは全く想定していなかった。
ヴァンは苛立っています! と言わんばかりに上下に揺れているアリエスに問いかける。
「何を怒ってんだよ? 間違ったことは言ってないだろ?」
「別に怒ってねーですよ。久しぶりに会って、あそこまで私の力が必要みたいに言っておいて、結局必要なのは魔導具だっていうマスターに呆れてんですよ!」
大声出したという事は怒ったのと同義のようにも感じられたがアリエスが違うというならばそうなのだろう。
どうやら少しからかいすぎたらしい。
今回は自分が悪かったと思ったのかヴァンが素直に謝る。
「悪かったよ。昔の感覚のままいっちまった。お前にしてみれば、久しぶりだったな。俺の感覚じゃいまいち一〇〇年経ってる気しないんだよ……」
「まあいいです。大体、昔からいっつも言葉が足りないのですよ。だから、面倒事に巻き込まれるのです。少しは気にしておくと良いのですよ」
いきなり始まった本気のだめ出しにヴァンは苦笑いすることしか出来ない。今回の件は甘んじて受け入れるつもりのようだ。
「ああー、お前らによく注意されてたのはそれが原因か。覚えてく、覚えとく」
そう言って覚えてなかったから捕まって死んだのだろうな、とアリエスはため息をはく。そもそも、こんな性格だったのはアリエスも知るところであったのだ。
一〇〇年ぶりにあったことで調子に乗った自分も油断していた……と、思うことでアリエスは精神の安定を図る。
「それで、マスターが私に渡した鞄型収納庫ってこれの事ですよね?」
アリエスが指さすのは自身の肩から胸にかけてある小さな鞄。シンプルなデザインだが、アリエスの髪の色に合わせたのか紫色になっており、よく似合っている。
これはエヴァンジュがアリエスにプレゼントしたもの……というか、エヴァンジュ達ならば全員が持っていたものだ。
鞄型収納庫――と名付けられているとおり、鞄にものを入れられるというだけのものだが、鞄以上の大きさのものでもすんなり入れることが出来る優れもの。
ただし、これは物体が鞄に直接入っているわけではなく、エヴァンジュが用意していた収納庫と繋がっているだけだ。
鞄は倉庫の入り口だけを切り離したようなものというのが適切だろう。
ちなみに、持っている人によって大きさは自在に変動するようにもなっている。例えば、今アリエスが持っている鞄型収納庫をヴァンが持てば大きくなるということだ。
ヴァンはアリエスが指さした紫の鞄をみると大きく頷いた。
「ああ、それであってるんだが、一応、確認だ。共有鞄の方はどうなってる?」
「持ってはいるですけど、マスターが全部どっかに転送したので中身はからのはずです。もしかしたら誰かが何かを保管してるかもですが、なんもねーと思うですよ」
共有鞄とはエヴァンジュ達が全員の共有財産や魔導具などを入れていたものだが、アリエスの言うとおり、自分で世界各地に転送したはずなのでからだろうとは思っていた。
一方で今アリエスが持っている鞄型収納庫はアリエス個人のものだ。ヴァンの狙い――というか目的はアリエス個人の鞄型収納庫なので、共有収納庫の中身が空でもこれがあればそこまで問題ではない。
「なら、そっちはいいな。そこに入っている魔導具が欲しいんだ。記憶は思い出せても魔導具は一個も持ってなくてな」
この剣以外に戦えるものがない、とヴァンは腰に差してあるロングソードをカチャリと鳴らす。
エヴァンジュがどうやって戦っていたかはアリエスもよく知っているため、ヴァンが魔導具を求めているのは理解出来た。
「まあ、わかったのです。ほら、受け取るがいい――いや、ちょっと待つですよ」
アリエスは肩にかけていた鞄型収納庫をヴァンに渡そうとしたところで、何かを思い出したのか急に取りやめた。
「ん? なんでここで止めるんだよ。別に壊したりしないぞ? 必要なものを取り出させて貰うだけだ」
これはヴァンの本心だ。鞄型収納庫の素材と作り方は覚えているが、現段階では材料が手元にないため、万が一壊してしまえば修理などは出来ない。
元々、自分が作った物とはいえ今はアリエスのものなのだ。壊さないように細心の注意を払うつもりでいた。
加えて、理由も説明したのだから拒否されるとは思っていなかった。
そんなヴァンの考えが表情に出ていたのか、アリエスは鞄を両手で掴みながら口を開く。
「ま、マスターが必要なものを言えばいいのですよ。私が取りだしてやるのです」
「いやいや、デカさ的にお前が出すにはつらいのもあるだろうが。いらん気遣いはまわさなくて……ん? まてよ、お前、なに隠してる?」
頑なに鞄型収納庫を話さそうとしないアリエスを見て、ヴァンは流石になにかおかしいと気付く。
「な、なにも隠してねーです……よ?」
もはやその言い方が何か隠していると言っても過言ではなかった。
「……そうか。じゃあ、とりあえず預けた魔導具を取りだしてもらえれば――今だ!」
ホッと息を吐くアリエスの姿を見たヴァンはその一瞬の隙を付き、アリエスの手から鞄型収納庫を奪い去った。
妖精と人間という大きさに差がある種族だ。単純な力比べではアリエスがヴァンに勝てるはずもない。
「あ!? それはズリーですよ、マスター!?」
「油断する方が悪い。大体、そこまでして隠したいものってなんだよ……」
ヴァンの体躯に合わせて大きくなった鞄型収納庫を掲げて、アリエスに再び
「いやー大したものではねーですよ」
「大したもんじゃないなら、俺が取りだしたって良いだろう――よ!」
未だ答えないアリエスに付き合っていられない、と思ったのかヴァンは鞄型収納庫へと手を突っ込んだ。
それを見たアリエスは半ば悲鳴のような声で叫ぶ。
「あ、待つです、マスター!」
「だからなにをそんな焦って――〝ねちょ〟――おい、なんか今手に変な感触が当たったんだが……」
あまりよろしくない感触にヴァンの顔が引きつったような笑みを浮かべる。
その一方でアリエスはヴァンと目線を合わせようとしなかった。どうやら、ヴァンに隠したかったものというのはこのねちょっとした何からしい。
スライムの死骸というわけでもなさそうな感触に嫌な予感を覚えつつ、ヴァンは鞄型収納庫から手を抜いた。
抜かれた手を見てヴァンは思わず驚愕の声を上げる。
「何じゃこりゃぁあぁぁぁぁぁぁ!?」
手の先にくっついていたのは変色し、悪臭を放つおかしらしき物体だった。