生まれ変わって突然記憶を取り戻した魔導具王は後悔する~世界中に散らばった前世の魔導具や古代遺物を取り戻すために冒険する~ 作:空雲ゆく
手の先についた物体をつけていたグローブごと投げ捨てたヴァンはアリエスに向き直ると同時に詰め寄った。
「お前、収納庫になに入れてるんだよ」
「食料的なもんですかねー。ま、マスターもよく入れてたですよね!」
「入れてはいたが腐らせたことはねーよ! まさかこれ以外にも変なものばっか入れてんじゃねーだろーな……なんか不安になってきたからひっくり返して全部取り出すか。たしか、最大容量はそこまでじゃなかったから、ここで出しても問題ないだろ」
アリエスに渡していた収納庫は種族的な大きさもあり、家一件分にも満たない量だったはずだ。
外ということもあり、最大容量まで詰め込まれていたとしてそれを全て取りだしても、ヴァンやアリエスが出てきたもので埋まるということはないだろう。
「あー!? 待つのですよ!?」
「もう待たねーよ!」
焦るアリエスを横目にヴァンは鞄型収納庫をひっくり返し、中のものを全て出すイメージで上下に振る。ヴァンのイメージを感じ取った収納庫からはドサドサといろんな物が溢れるように出てくる。
最終的に出てきたのはヴァンの予想よりも少なかった。アリエスならば全身が埋もれそうな小山だが、容量的には全て合わせてもヴァンの腰くらいの高さだろうか。
「これ以上は出てこないみたいだが……なんだよ、このおかしの数々は? しかも一部どう見ても腐ってんじゃねーか!? 一緒の場所にあった入れてるおかしは食べれんのか? これ?」
出てきたものの大半がおかしだった。
それだけでなく、食べかけのまましまわれ放置されたのか、先ほどヴァンの手の先に触れたようにヒドい色と臭いを発する物体がいくつか見受けられる。
それに隣接するように食べられそうなおかしも存在しているのだからヴァンが不可解な面持ちをするのも無理はなかった。
「よく見るのですよマスター。食べられるおかしには私が一個一個結界を張っているのです。だから他の影響は一切受けてねーのですよ!」
「ああ、なるほど。見れば確かに……ってそういう問題じゃねー!?」
無駄に高度な保護を受けているおかしを見たヴァンはこめかみを押さえて呻いた。
「……好きに使えって渡したが、ゴミ箱じゃねーんだぞ。もうちょいどうにかならなかったのか?」
乱雑な倉庫程度の使われ方は想定していたが、まさか食いかけのものを入れられるなど想像もしていなかった。
「い、いいじゃねーですか。私がもらったもんですよ!」
「いや、確かにそうなんだが……って、お前に預けてた魔導具は!?」
ひょっとしてこの中だろうか、と気付いたヴァンは目の前のお菓子の山に改めて視線を向ける。
「あー、多分そうですね。だから私が取り出すっていったのですよ」
「お前に出させるなら問題ないってわけでもねーよ。というか、こんなとこに入ってて魔導具は大丈夫なのか? ある程度頑丈に作ったとは思うが……」
おかしの山に驚いて一瞬忘れていたが、ヴァンは魔導具を取り出そうとしていたのだ。しかし、この中にある魔導具が無事動くかはエヴァンジュの記憶を探ってもよく分からなかった。
ただ、収納庫に入れられていただけならば動く可能性が高かったのだろうが、おかしの山――しかも一部腐っているもの混じり――に放置しておいたことなど一回もない。
それに魔導具によっても強度や耐久値なんかは大分違うのだ。
そんなヴァンの心配をよそにアリエスはどこか興味なさげにポツリと呟く。
「……大丈夫ですよ。魔導具の方も保護して突っ込んでいたはずですから」
「お前の結界って長期間だと張り直さなきゃいけなかっただろ? わざわざ張り直して保管してたのか?」
「う、うるせーですね!? 有り難く思っておけば良いのです! どのみち探す必要はあること変わりはないですからね! ほらやるですよ!」
「お、おう」
急に怒鳴ったアリエスに急かされるようにおかしの山をかき分けて二人は魔導具を捜していく。
腐ったものは触りたくないため基本的にアリエスに処理して貰い、ヴァンは結界が張られているものを鞄型収納庫に詰めていくというやり方だ。
作業開始から小一時間ほど経つとおかしの山は全てなくなる。
「ふぅ、なんとか終わったか」
「そうですねー」
予想以上に手間取ったがなんとか魔導具をおかしの山から発掘したヴァンは額の汗を拭いつつ並べた魔導具を見る。
「なんというか……」
「? どうしたです? お目当ての魔導具は見つかったのですよね?」
言葉に詰まっているヴァンを見てアリエスはどこか不思議そうな声を出す。
ヴァンがアリエスに連絡をとったのはこの魔導具が欲しかったからのはずだ。
「いや、そういやお前に預けた魔導具って基本補助だったなーって思い出しただけだ」
「そりゃそうですよ。そもそも私は基本戦わねーですよ?」
アリエスは攻撃的な魔法は使えないかわりに防御や移動、補助といった魔法には優れており、エヴァンジュの魔導具研究や古代遺物の解析にも役に立っていたのだ。
一つか二つでも戦闘に使えそうな魔導具があれば御の字といったところだろうか。
「まあ、ぱっと見どれも使えそうなのが幸いってところか」
ヴァンは目の前にあった革のグローブを手に取った。手の甲に当たる部分にはキラリと光る宝石がはめ込まれている。
「それって確か簡単な魔法が全部使えるやつですよね?」
「そう、こんな風にな」
捨てたグローブの代わりに左手に装着したヴァンは手をかざすと小さな火や少量の水やぬるい風を発生させる。
エヴァンジュがこの魔導具を作ったのは単純に面倒くさかったからだ。
どういうことかというと、当時、火にせよ水にせよ、単一の現象を起こす魔導具は存在したが一つの魔導具で複数の現象を起こす魔導具は存在していなかった。
そこに目を付けた、というべきか、ものぐさというべきか、野営において水を出すにせよ、火を起こすにせよ魔導具を切り替えるのを煩わしく思ったエヴァンジュが作ったのがこの魔導具になる。
「とりあえず大丈夫そうだな。じゃあ、他のもチェックしていくぞ」
「おー、なのですよ」
ヴァンとアイリスは残っている魔導具を確かめるべく、次々手に取っていった。
「マスター、この丸まった紙はなんです? 開けた箱から出てきたんですけど?」
「ん? ああ、これは地図だったはずだ。ちょっと貸してくれ」
「はいです」
地図を受け取ったヴァンはアリエスにも見えるように手元で開く。
「これが地図ですか? 私の目には白紙にしか見えねーですよ?」
「起動させたばっかだからな、ちょっと待ってみてなにも起きなきゃ壊れてるってことだろ」
とヴァンが言っている間に白紙の地図だったものが色鮮やかに描かれていく。
「おー、ここのドクロ岩まで描かれているってことは、これはこの周辺の地図なわけですね」
「そのとおり。コイツは所持者の周辺の地図を勝手に描いてくれる魔導具だ。さらに、移動すればその分も描き足されていく。これがあるのとないのじゃこれから先の旅で大分変わってくるからな無事で助かった」
そこまで広くないのが難点だがな、とヴァンは言っていたがそれでも十分役に立つ代物だろう。エヴァンジュの記憶に大まかな地図はあれど一〇〇年前と現在では国や森、道などかなり変わっているはずだ。
その後も、ヴァンとアリエスの二人は魔導具が使えるか確認していき、どれも使用できることが分かったが、いずれも戦闘用とは言い難いものだった。
「うーん、やっぱり戦闘用は預けてなかったか……」
「ですねー。でもマスターあんまり深刻そうじゃねーですね?」
参ったように頭をかくヴァンだったが、アリエスの目から見てそこまで困っているようにも見えない。一体なぜだろうか、と悩むアリエスに対しヴァンは一つの魔導具を手に取った。
「それは、これを使うんだよ」
「また、その通信魔導具を使うですか?」
それに対しアリエスは目を細めて見つめるのだった。