生まれ変わって突然記憶を取り戻した魔導具王は後悔する~世界中に散らばった前世の魔導具や古代遺物を取り戻すために冒険する~ 作:空雲ゆく
「何だよその目は……そんなおかしなこと言ったか俺?」
「いえ、別にいーですけどね。管理を私に任せていた挙げ句、久しぶりに呼び出されたと思ったらバンバン使ってるですから調子いいなーとしか思ってねーです」
「ホントに死んでたんだからしょうがねーだろ!? この魔導具の要になっている古代遺物を任せっきりにしたのは悪かったと思ってるよ」
「別に、放置されてる古代遺物が反応してるかを見てるだけだったのですから、大した問題はねーです。最初の一〇年くらいはマスターの魔導具を見つけた輩がちょくちょく通信魔導具を使おうとしてきたですが、大半は認識コードも見つけてなかったから、そのまま使用不能にしてやったのです」
ヴァンがアリエスに呼びかけるのに使った四角い物体は、通信魔導具というエヴァンジュ時代に古代遺物を使用して作ったものだ。
古代遺物が超広範囲に発生させる微弱な魔導波を利用し、遠くの場所同士であっても会話することが出来るのがこの魔導具の特徴だ。
この通信魔導具はエヴァンジュであっても一から生み出すことは出来ず、魔導波の同調にはアリエスの力を借りているうえ、時折ズレることがあるのでその調整もアリエスに任せていた。
「いや、すまなかったな。お前が未だに管理してくれていたおかげでこうして助かってる」
「別にいーですよ。どうせ片手間でしたからね」
死ぬ前に管理を頼む、とアリエスに伝えていたが律儀にその約束を果たしていてくれたことには感謝しかなかった。
「それで、だ。これを使って他のヤツらに連絡取りたいんだが……いけるか?」
エヴァンジュが世界中を旅して契約したのはアリエスだけではない。全員が一〇〇年経った世界で生きているとは限らないが、寿命的に生きていそうなのに何人か心当たりがあった。
彼らにも預けた魔導具は存在しており、その全てを回収できれば魔導具王エヴァンジュ・ローディアスが復活すると言っても過言ではない。
そんな期待を込めてアリエスに問いかけてみるのだが、
「あーはい、そういうことですね。でも無理だと思うですよ?」
返ってきたのは否定の言葉だった。
「え、何でだよ? あいつらも通信魔導具を持っていたはずだろ?」
エヴァンジュはこの通信魔導具を何かあったときのため人数分作って渡していた。アリエスが未だに古代遺物を管理しているのならば、通信魔導具越しに連絡できるはずなのは間違いない。
「ここ五〇年ぐらい誰とも連絡とってねーです。最後に話したのは誰でしたかねー。というか、今となってはこの通信魔導具を持っているかもあやしーですね。元々、マスターで繋がっていたようなものですので」
「そうか、そんな感じだったか……」
一緒に旅をした記憶を完璧ではないにせよ覚えているヴァンは当時のことを思い浮かべる。
基本魔導具にしか興味のないエヴァンジュの横や後ろについてきてくれた記憶はあるものの、エヴァンジュが部屋に籠もっているときに、契約した仲間同士で仲良さそうな会話など少しも聞いた記憶がなかった。
おそらく、特に仲が悪かったわけではないが、よくもなかったのだろう。
(昔の俺、ちょっと魔導具にしか興味なさ過ぎじゃないか!? いや、今もそこまで変わんねーけど)
ヴァンの意識と混ざった今ではそうと思えるが、当時はこれが当たり前だと思っていたのだから中々、業が深いといえる。
「良くも悪くもマスターに興味を惹かれて集まった連中ですからね。マスターが死んだあの時に解散したようなもんですよ」
どこか哀愁差を感じさせるアイリスの言葉にさすがのヴァンも何も言うことはなかった。
幾ばくかの時間をおいて、ヴァンが口を開く。
「一先ず準備して魔導具を探しつつ、他のヤツらにも会いに行ってみるかー」
「マスターは再び魔導具を取り戻して、前みたいに好き放題する気なのですか?」
ヴァンがこれから先にしようとしていることを聞いたアリエスは首を傾げながら問いかけた。その目には不安の色が浮かんでいた。同じようなことをすればまた処刑されるとでも思っているのだろうか。
だが、ヴァンはそんなアリエスを見てキッパリと否定した。
「いや、違うな。今の俺はエヴァンジュ・ローディアスじゃなくて、ヴァン・フーリュアスだ。ただ魔導具を取り戻すだけじゃなくて、新しい魔導具を作り、未発見の古代遺物を見つけて使いこなし、エヴァンジュ以上の力を手に入れる。俺がなんで前世の記憶を思い出したのかは知らないが、やれるだけのことをやらなきゃ俺じゃないだろ」
そう言って会心の笑みを浮かべたヴァンは残った魔導具を身につけていくのだった。
そんなヴァンの表情にアリエスはどこか毒気を抜かれたようにため息を吐く。
「仕方ねーですねー。そんな装備のマスターだけじゃ危なっかしーですからね。暇ですし私も一緒に行ってやるですよ!」
得意げな顔をしたアリエスに対し、ヴァンは信じられないものを見たかのような顔つきになった。
「え? お前もついてくんの? 前はついてこなかったじゃん」
ヴァンが言っているのはエヴァンジュ時代のことだ。アリエスの力を求めて契約したが、召喚獣のような扱いをするつもりは全くなかった。時折、自分が必要なときは容赦なく呼ぶこともあったが基本的に契約した相手の好きにさせていた。
その中でもアリエスは自分の住処やエヴァンジュが用意していたいくつかのセーフハウスを転々とする生活を送っていた。エヴァンジュが古代遺物を利用した通信装置の管理さえしていれば、保管庫の魔導具や食料、嗜好品の類いは好きにしていいと言っていたのが主な理由だろう。
たまに、旅の雰囲気を味わいたかったのかエヴァンジュに合流することはあったが、総時間で言えば一緒に行動した期間の方が短かったはずだ。
ちなみにエヴァンジュが処刑されたあの日もアリエスは住処でのんびりと過ごしていた。
エヴァンジュ時代の事について指摘されたアリエスはプクッと頬を膨らませると、足でヴァンの頭を数回蹴る。
「別にいーじゃねーですか。ついていったところで迷惑にはならねーですよ。それに、たまには旅をするってのも悪くねーのです。こちとらもう何年も外に出てねーでしたからね」
「そりゃ構わんが……お前、自分の身くらいはちゃんと守れよ? あと、最後のは威張って言うことじゃない」
「誰にもの言ってるのですか? 私の実力はマスターがよく分かっているはずなのですよ!」
意気揚々と腰に手を当てて上下に動いているアリエスを見ると少し不安に駆られなくもないが、一度言い出したことはてこでも動かないのがアリエスだ。
別についてくること自体には問題がないのでここで拒否するのもおかしな話だろう。
そう結論づけたヴァンは大きく頷くと、アリエスに向けて手のひらを見せる。
「よし、じゃあ行くか!」
「はい、です!」
パチン! と軽く手を合わせてヴァンとアリエスは揃って歩き始めたのだった。