生まれ変わって突然記憶を取り戻した魔導具王は後悔する~世界中に散らばった前世の魔導具や古代遺物を取り戻すために冒険する~ 作:空雲ゆく
魔導具王、目的地を決める
「で、だ……」
「はいです」
ドクロ岩から移動した二人は分かれ道で地図を広げて、どちらに行くべきかを話し合っていた。
「とりあえず道がある方に来たわけだが、ここでどっちに行くかでこの先のプランがだいぶ変わる」
「なるほど。わざわざマスターが聞いてくるということは、結構迷ってるってことですね?」
「そうだ。正直どっちがいいかわからん」
エヴァンジュ時代ならばこの程度のことで頭を悩ませてはいなかったと強く言えるのだが、装備も心許ない今のヴァンの状態ではこんな分かれ道一つでも大きな決断となる。
「この分かれ道の先はどうなってるですか?」
「見れば分かるが、左に行けば三日ほどで街に着く。右に行けば一週間以上かかるが、たぶんエルヴン大森林に着くな。ドクロ岩の位置から考えれば大丈夫だとは思うが……」
地図に描かれているのは左の街だけだが、ヴァンは右の道に覚えがあった。
厳密には、右の道が繋がっているだろうエルヴン大森林を知っているというのが正しい。
エルヴン大森林はエルフ達が暮らしている森でエルフの里とも呼ばれている場所だ。
そして、エルヴン大森林にはヴァンとアリエスも知っているエヴァンジュ時代の仲間がいるはず。
ヴァンの目的地がエルヴン大森林だということを聞いたアリエスは納得したように頷く。
「ああー、マスターはリブラに会いに行きたいわけですね」
「そうだ。でも問題は百年経ってるからな、森滅んでたりしないか?」
「……流石に森は滅んでねーと思うですけどね。転移できるなら様子を見てくるぐらいはしてもいーのですが、私はエルヴン大森林に行ったことないせいで転移も出来ねーですしね。リブラが座標軸となる通信魔導具でも持ってれば別ですけど、呼びかけても繋がんねーんですよね?」
「出発前にリブラだけじゃなく渡していた全員に一通り試してみたが全滅だな。お前以外は誰も出てくれないみたいだ」
薄情だな、と笑ってはいるが、どこか郷愁さを感じさせる笑みだった。
ヴァンとしても一度死んだと思われている以上仕方がないことだと割り切ってはいるのだろうが、まだ完全には慣れていないらしい。
そんなヴァンの感情を知ってか知らずか、アリエスは何処か勝ち誇ったような顔で羽根を揺らす。
「まあ、私が出来る妖精だってことなわけですね! マスターはもっと感謝するといいのですよ!」
「それはもう分かったから……で、どっちに行くのがいいと思う?」
適当な反応をするヴァンに対しアリエスは唇を尖らせながら答える。
「びみょーですねー。マスター的にはエルヴン大森林に行きたいのですよね?」
「ああ、使える魔導具をさっさと手に入れておきたい。この近くには魔導具を隠した場所もないはずだからな。リブラに渡してあった魔導具があれば戦力の底上げになるはずだ」
リブラにどんな種類の魔導具を渡したのかは欠片も覚えていないが、結構な数の魔導具を渡したことだけは覚えている。
エルヴン大森林の防衛用としても渡した魔導具や古代遺物があったことは確かなので、その一部でも渡してもらえればかなり有用といえるだろう。
「そうなると、やっぱりエルヴン大森林ですかねー……あれ?」
アリエスもヴァンの意見に賛成しようとしたところで、とあることが頭をよぎった。
「でも、マスター食料は大丈夫なのです?」
「だから街に行くか悩んでいたんだよ。といっても、金もないから着いたところですぐにどうにかなるってものでもないのが困りもんなんだが……」
ヴァンが旅を始めるときにあまり多くないとはいえ路銀は所持していたはずだったのだが、流された影響で全部落としてしまったようなのだ。
街に着いたところで、一文無しでは食事も宿もままならない。街に着くまでの間に魔獣を狩って素材や魔石を売るか、街で日雇いの仕事でもすればとりあえずは凌げるだろうが、自分の戦力を上げるというヴァンの目的からは遠ざかる。
「それに一応食料はあるからな」
そう言ってヴァンは鞄型収納庫からおかしを取りだした。
おかしを見ながらため息を吐いたアリエスはどこか投げやりな声をだす。
「食料っていても元は私のおやつだったんですけどねー」
「しょうがねーだろ、ここまで全く食える魔獣が出てこないんだから。とりあえず木の実は拾ったじゃねーか」
出発前にドクロ岩周辺で軽く集めた木の実を見せるヴァン。これだけでは全然足りないのでアリエスのおかしを貰うことにしたのだが、ヴァンと出会う前にアリエスが自分用に仕入れていたものなだけに少々抵抗があるらしい。
「金を手に入れて街に行ったときには仕入れるって言ったろ? 悪いとは思ってるから、そんなふてくされんなよ」
「……別にそこまで怒ってねーですし、それでいいのですよ。私の場合、栄養じゃなくて嗜好品って感じなので全部食われても最悪問題はねーのです」
妖精であるアリエスにとって食事は必要なものではないらしい。
とはいえ、味覚はあるようでマズいものはマズいと言うし、美味しいものを食べれば喜ぶというのはエヴァンジュの頃から分かっていた事だ。
とりあえずリブラに会って魔導具を手に入れたら早めにおかしを買ったほうがよさげだな、と判断したヴァンは右の道を選択することにした。
「なら、このままエルヴン大森林へ向かうとするか」
「マスターがおかしと木の実で我慢できるんならいーですけどね。あとでお腹減ったー! とか私に泣きつかねーでくださいよ?」
「泣きつかねーよ!?」
などと会話しながらエルヴン大森林目指し、しばらく歩き続ける二人だったが次第に雲行きが怪しくなってくる。
空を見れば鈍色の雲が太陽を覆い隠し始めており、一面が雲に覆われるのも時間の問題だろう。
元々、夕暮れに差し掛かろうという時間帯だ。
そのうえ、太陽が隠れれば気温が急速に低下していくのは当然のことだ。
ヴァンは涼しさ以上にヒヤリとする気温の低下を感じつつ、舌打ちをした。
「っち、一雨来そうな天気だな。雨用の装備なんか持ってないぞ……そもそも、野宿も出来るのか?」
野宿することは想定内だったのだが、雨に降られるのは予想外だ。
先ほどまでの天気ならばエルヴン大森林へ向かっても今日のうちは大丈夫だろうと安易に考えていたのがマズかったのか? と思考するものの、街に行く道を選んでいたとしても雨に降られていた可能性が高い。
とりあえず一時的でも構わないから雨を凌げる場所を探す。
すると、アリエスが機嫌が悪くなってきているヴァンに対してこんなことを言ってきた。
「私は結界張るから問題ねーですよ? 気休め程度ですが張った状態でマスターの上にでもいきますか?」
アリエスの結界は自分や固定されている物体にはかけられるものの、他人にかけることは不可能な代物だ。アリエスはその結界によって雨を防ぎ、ついでにヴァンの雨避けになると言っているわけなのだが……。
正直、アリエスの大きさではヴァンの頭の上に来たところで、降ってくる雨に対しての効果は薄いだろう。
「……気持ちだけ受け取っておく。それよりも――降ってきたぞ!」
まだ休めそうな所を見つけていないというのにポツポツと雨が降り始める。
「マスター! あそこはどうです?」
「悪くないな!」
小雨が降る中アリエスが見つけたのは少し先の街道沿いにある一本の木だ。大樹と呼べるほどのの大きさはないが雨宿りには使うには十分な大きさだろう。
若干濡れた髪や服を整えつつヴァンは一息つく。
「ふぅ……なんとかなったが、今日はこのままここで野宿かもな」
かも、と言ってはいるが高い確率でここでの野宿になるだろうと確信していた。
雨が止んだところで時刻は夜。明かりもない道を進むのは危険しかない。
エルヴン大森林へ早めに着きたいとはいっても現時点で無茶をする必要はないのだ。
むしろ、問題は別にある。
「夜に活動する魔獣対策しとかないと面倒そうだな。とはいえ、二人で交代して見張るのも疲れそうだ」
一部の魔獣は夜に活発になるものも存在する。そういった魔獣から身を守るには交代で不寝番をするのがいいのだろうが、二人で行うには一人一人の負担が大きくなる。
「マスターが前に旅してたときはどうしてたのです?」
アリエスも交代で不寝番はしたくないのか自分がついて行っていなかったときのことを問いかける。
「確か、前は野盗とかの対策に護衛用の簡易ゴーレムとかを並べて、魔獣対策には魔獣避けの魔導具を設置していたな」
「……全く参考にならねーですね」
「手頃な魔獣でもいれば、魔石を利用した魔獣避けは作れるとは思うんだが……」
「魔獣はいねーって言ってたじゃねーですか。ここに来るまでに一匹も見てねーですよ?」
「そこは分かってるっての、だから困ってるんじゃねーか――ん?」
「どうかしたのです?」
「いや、なにかが、近づいてくる?」
アリエスと二人で雨宿りしつつ、どうするのか話し合っていたヴァンの耳に雨とは違う音が聞こえてきていたのだった。