生まれ変わって突然記憶を取り戻した魔導具王は後悔する~世界中に散らばった前世の魔導具や古代遺物を取り戻すために冒険する~ 作:空雲ゆく
聞こえてきたのは何かが羽ばたくような音だった。
ヴァンが音の聞こえてきた方向に目を向けると、そこには緩慢な羽ばたきをする生物が存在していた。
「あれはドラゴン……いや、翼の形や大きさが違うな。ワイバーンか?」
「どうやら、そうみてーですね」
二人が見つけたのは、ワイバーンと呼ばれる中型の竜種。
小雨とはいえ、雨を切り裂いて飛んでいる様は、さすが竜種としかいえないほど堂々としたものだった。
上空をどこか優雅に飛ぶワイバーンを見てヴァンはなにか思いついたのか、一つ頷くとアリエスの方へと目を向ける。
「ん? 何か用ですかー?」
ヴァンの視線が自分へと向けられたことに気がついたアリエスは身体を上下に揺らしつつ問いかけた。
そんなアリエスを見たヴァンはにんまりと笑いながらワイバーンを指さした。
「よし、アリエス。アイツの視界を塞ぐとか、なんとかして、ここまで誘導してきてくれ」
「は?」
ヴァンの思ってもみなかった言葉にアリエスが目を丸くする。
いきなり囮になってこいと言われれば、驚くのも無理ないだろう。
「こっちに気付いていないワイバーンとわざわざ戦うってことですか?」
「そうだ。やっと出てきた魔獣だぞ? ここで狩らなきゃ次いつ狩れるかなんて分からないんだからいけるときにいかないとな!」
「ええー、いや、まあ囮ぐらいはしてもいーんですが……」
嫌そうな顔はするものの、アリエスとしては特に問題はない。ワイバーンごときには自分の結界は破られないと自負しているし、魔獣を狩りたいという考えにも納得がいく。
それよりもアリエスが気になっているのはヴァンそのものの方だ。
「でも、マスター、地上付近まで誘導したとして
そう、ヴァンがエヴァンジュと異なり、ろくな武器を持っていないのはアリエスもよく分かっていることだった。
「この剣ならワイバーン相手に十分戦える。固さだけなら下位の竜にも負けてないシェルクラブとも斬り合えた剣だからな」
「シェルクラブって……私と会う前にそんなことしてたのですか」
得意げに剣を見せつけるヴァンに対しアリエスは疲れたような声をだす。
エヴァンジュの頃との差異を確認していたのだろうということは理解出来るが、いきなり実戦で確認するというのはどこかイカレテはいないだろうか? とアリエスが思うのはごく自然なことだ。
呆れた目で見つめられたヴァンは誤魔化すように咳払いする。
「んんっ、それよりもワイバーンに逃げられる前に誘導を頼む」
「はあ、分かったのです。じゃあ、行ってくるのですよー」
「おう、一応気をつけてな!」
「誰にもの言っているですかー!」
そう言うとアリエスは一気にワイバーンの元へ飛び立っていく。
それを見たヴァンは身体をほぐすように動かすと、雨宿りしていた木を見上げた。
「さて、俺も準備をしておきましょうかね」
上空へと飛び立ったアリエスはワイバーンの眼前に飛び出すと、
「おーい、止まるですよー!」
並走したままベシベシとワイバーンの顔を叩く。
いきなり目の前に現れ、叩かれれば何かしらの反応はするものだと思っていたアリエスだったが、ワイバーンはアリエスのことなど気にもとめずに飛び続けていた。
「もっとしないとダメですかねー」
気付いていないのか、無視しているのかは不明だがただ叩いただけではダメということだろう。
そう理解したアリエスはワイバーンの視界に常に入るように飛び回りつつ、時折叩いてちょっかいをだす。
人で言えば自身の周りを素早くて小さな虫が飛び回っているようなものだ。
痛みは無いといえど、高頻度で何度も叩かれればウザいのは間違いないだろう。
「GUOOOOO!!!!」
事実、ワイバーンの瞳には怒気が宿り、アリエスを完全に敵と認識していた。
だが、そんな怒り狂ったワイバーンを見てもアリエスは至って普通――それどころか、
「こっちですよー、ほれほれー、捉えられるものならば捉えてみると良いのです」
完全に遊んでいた。
「GUAAAAA!!!!」
アリエスの言葉が通じたのかは定かではないが、ワイバーンは苛立つように咆哮しながらアリエスを牙で捉えよう首を巧みに動かしていた。
しかし、アリエスに牙がかすかにでも触れることはなかった。
ワイバーンの動きも決して遅くはないのだが、アリエスがそれ以上に速いということだろう。
アリエスは逃げながらも高度を徐々に落としていく。ワイバーンがどこまで追ってくるかは賭けだが、あれほど怒っているならばしばらく諦めることはないと思っていいはずだ。
ワイバーンに追われては避けることを繰り返し、地上付近まで誘導したところでアリエスが目を見開く。
「どこいったですか、あのマスターは!?」
そう、ヴァンの姿がどこにもいなかったのだ。ぱっと見だが、木の陰にも道にもいる様子はない。
逃げたわけはないのだろうが、ここからどこに誘導すればいいのか分からなくなったアリエスの耳にガサッと木が揺れる音と、
「おりゃぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
気合いの入ったヴァンの声がほぼ同時に耳に届く。
「マスター!? 無茶なことしてんじゃねーですよ!?」
アリエスが驚くのも無理はない。気付いた時には飛べないはずのヴァンが自分よりも高い場所を飛んでいれば声をあげたくもなるだろう。
といっても、ヴァンがしたことは単純だ。
ヴァンは予め雨宿りに使っていた木に登っており、そこからワイバーン目掛けジャンプしただけ。
ここまでくればあとは簡単だ。無防備な背中をさらしているワイバーンに持っている剣を突き立てるだけで良い。
「GUAOOOOOO!?!?」
唐突に背中にはしる痛みと衝撃にワイバーンはたまらず体勢を崩し、地上へと墜落していく。
ドドン! と大きな音が鳴り響くが、大した高さではないためワイバーンに落下によるダメージはないと言っていいだろう。
その証拠に、地上に落下した数秒後にはしっかりとした足取りで立っていた。
「……刺さりが甘かったか?」
ワイバーンが落下するのと同時に地面に降り立ったヴァンは立ち上がったのを見て、再び剣を構えた。
「でもまあ、一度下ろしてしまえばそう簡単に飛べないだろ?」
「GURUUUUU!!」
ヴァンの言葉を理解しているとは思えないが、ワイバーンは苛立ったように喉を鳴らして牙を見せつける。
ワイバーンに限らず飛行可能な竜種全般にいえることだが、飛び上がるまでの動作はそこまで俊敏ではないのだ。その理由は身体の大きさにあると言われている。
しかし、ドラゴンの場合は全身が強靱な鱗に守られているうえ、その巨大な体躯ゆえ飛ぶときに発生する風圧で近づく事は困難だ。
ワイバーンもある程度の大きさはあるため発生する風圧は決して弱くないが、ドラゴンほどではないためこの距離で飛ぼうとしてもヴァンが吹き飛ばされることはないだろう。
むしろ、ワイバーンが飛んで逃げようとしたならば、それは明確な隙でしかない。
「で、これからどーすんですか? 地上に降ろしたのはいーですけど、完ッ全にキレてやがるですよ?」
「どうって……あとは普通に倒すだけだっての」
「ええー!? 全く考えてなかったのですか!?」
「うるさい、大丈夫だから大人しく見てろ」
そう言うとヴァンは剣を下段に構え突撃していく。
それを見たワイバーンはヴァンを迎撃すべく、尻尾を鞭のようにしならせて振るってきた。
ワイバーンの尻尾にはトゲがありその殺傷能力は決して低くないのだが、
「遅い!」
「GUO!?」
ヴァンは剣を跳ね上げるように振るうと尻尾を一振りで切断してしまった。胴体に比べると鱗の硬さが足りないのもあるだろうが、ヴァンがしっかりと見極めたことも大きいだろう。
尻尾を切られたワイバーンは一旦下がるような素振りを見せた。
まさか勝てないとふんで無理矢理にでも逃げる気なのだろうか?
そう考えたヴァンは再び突撃する。
しかし、ワイバーンは全身を縮めたかと思うと軽く跳ねて、勢いよく跳びだしてきた。
「なっ!?」
予想と違う動きをされたヴァンはすぐさま突撃を中止するも、気がついたときには眼前に牙が迫っていた。
下段に構えていた剣を頭の上まで急遽移動させることでなんとか防ぐことに成功したものの、咄嗟の防御だったため体勢があまりよくない。
今は拮抗しているもののいつ崩れてもおかしくない。
その姿を見たアリエスが思わず叫ぶ。
「マスター!?」
「大丈夫だって、言ってるだろうが!」
ヴァンはグローブをワイバーンに向けると、そこから小さな火球を発射した。そう、これはアリエスが保管していた魔導具だ。
本来は戦闘用として作った物ではないが、相手の意表をつくには十分な代物といえるだろう。
「GUOOOOO!?!?」
小さな火球とはいえ眼前に飛んで来た炎に驚いたのか、ワイバーンは怯んでしまい、一歩後ずさってしまう。
そして、その隙をヴァンが逃すはずもない。
「そこだ!」
ワイバーンの頭が上がったのを見たヴァンは喉元を綺麗に切り裂いた。
「GUAAAAAAAA!?!?」
一際、大きく叫んだワイバーンは大地を赤く染めながら倒れ伏すのだった。