swordian saga   作:佐谷莢

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 トウケイ領の城下町はそこそこ、さくさく城へ潜入します。
 ここでは何故か、出歩いている町民も見張りをしている兵士もいません。その理由はゲーム中明らかにはならなかったので、考察してみました。作中のフィオレの台詞です。


第八十六夜——静けさの先にて待つもの~これから毎日城を焼こうぜ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モリュウ領を出て、半日を過ぎた頃。

 一同を乗せた黒十字艦隊の船は、トウケイ領へと到着した。

 ──あの後。船内へと降りたフィオレは、船員たちからの聞き込みを経て船室の一室にて話していたフェイト、並びにジョニーを見つけて事の次第を説明している。

 フェイトは納得してくれたものの、やはり態度はぎこちなくなった。

 

「気にすんな。お前さんのせいじゃないさ」

「……はい」

 

 ジョニーにそう言われ、愚痴ってしまいたい己を抑えておざなりな礼を言う。

 誰が悪いわけでもないが、理不尽な扱いにフィオレとて、これが精一杯だった。

 おそらくそれに気付いてだろう。ジョニーは小さく息をついて、フィオレの帽子を取り上げた。

 

「……ジョニー?」

「なんだなんだ、しおらしい顔しやがって。フェイトにつれなくされたのが、そんなに落ち込むことか?」

「いいえ。そういう問題ではありません」

 

 確かに、ここまで来たからには彼の機嫌を損ねるとか、そういったことは問題ない。

 ただ、フィオレ自身の感情の問題だった。

 

「じゃあどういう問題なんだよ」

「極めて個人的な問題です」

 

 とはいえ、それを彼に話す気もなければ義務もない。

 あなたには関係ない、と喉元まで出てきた言葉を殺して、取られた帽子を取り返す。

 

「ところでジョニーは、トウケイ領へ赴いた経験がおありですか?」

「あー……ガキの時分に何回か行ったくらいで、そこまで詳しかねえな。精々城へはどうやって行くか、程度か」

「それは残念です」

 

 などと、今後のことを話し合っている内に船はトウケイ港へと入っている。

 いきなりモリュウの船が、しかも黒十字艦隊なる物々しい海軍仕様の船が入港したというのに、トウケイ港は静かなものだった。

 それもそのはず。港は閑散としているどころか無人で、誰一人として人の姿を確認できなかったからだ。

 

「これは……」

「戒厳令か何か敷かれてるんだろうな。薄気味悪ぃったらありゃしねえぜ」

 

 桟橋に船を止め、一同が下船する。タラップの上から、モリュウ領主夫妻が見送りに来ていた。

 

「我々はモリュウへ引き返し、増援を率いて戻ってくる。それまで時間を稼いでいてくれ」

「だったら急いだ方がいいぜ。俺たちがあっという間に倒しちまうかもしれんからな」

 

 それに、と言葉を続けたジョニーが不意にフィオレの肩を抱き寄せようとする。

 身を翻して逃れたフィオレの頭を鷲掴みつつ、ジョニーはにこやかに言ってのけた。

 

「こいつだっているしな。バティスタの時みたく、あっさりばっさりやっちまうかもしれんぜ?」

「……今すぐばっさりやられたいようですね」

 

 未だに頭を掴むジョニーの手首を払い、首根っこを掴んでツボを圧迫する。

 予想外の痛みに悲鳴を上げて逃げる彼に小さく苦笑しつつも、フェイトは続けた。

 

「それならそれで構わんさ。では」

「皆さん、どうかご無事で……!」

 

 再びフェイトの指揮により、船がトウケイを離れていく。

 それを見送り、ジョニーは珍しく語気を荒くして一同を鼓舞した。

 

「おそらく奴らは街の中心にあるトウケイ城にいるはずだ。ここまで来たら、もう小細工はいらん。一気に突破して、奴らをぶっ潰すぜ!」

「はい!」

「そうね。サクッと片付けちゃいましょ!」

 

 ジョニーの先導によって、港から街へと入る。

 モリュウ領と同じく、水路が張り巡らされた街並みだがやはり人気がなく、さながらゴーストタウンじみた雰囲気をかもしだしていた。

 

「この分だと、本当に正面突破ができそうだな。試してみるか」

 

 きょろ、と周囲を見回し、記憶を思い起こすようにしながら進んでいく。

 しばらく彼について歩くと、やがて大通りの向こうにそびえるモリュウ城によく似た外観の城がそびえていた。

 

「しっかし、見事なまでに誰もいないわね」

「住人どころか、衛兵さえいないのですね。一体何のつもりなのでしょう」

「無理やり勘ぐるなら──戦争準備、かもしれません」

 

 寂れた街並みを見回しながらぽつりと呟いたフィオレの一言に、一同はぎょっとした様子で彼女を注視した。

 

「戦争準備って……」

「モリュウ港でティベリウスとかいうのが何を言っていたのか、覚えていますか? こうやって他国どころか自国の流通をも妨げているということは、物資を備蓄しているのかもしれません」

 

 商いとは需要と供給が平衡であって初めて成立するものだ。

 需要ばかりが先立ち、供給が滞れば勿論破綻する。

 

「でも、こんな風に他の領土との貿易まで差し止めちゃったら備蓄も何もないじゃない。定期的に仕入れなきゃいつかは……」

「それだけ早期に仕掛けるつもりなのだとしたら、説明はつきます それに、自国がこんな状態で貿易なぞ続けようものなら情報駄々漏れでしょう」

 

 最も、兵士がいないのはこちらにとって有利なことだ。

 少なくともモリュウ領で起こった茶番を繰り返さなくて済む。

 セインガルドとの戦争勃発を示唆したせいだろうか、リオンの表情はひどく厳しいものになりつつあった。

 

「あくまで私の想像ですがね」

「わざわざ付け足さなくてもいい。というか、それ以外に考えられる理由がないだろうが」

「まだありますよ。ティベリウスがグレバムにだまされて奇行に走ってる、とか」

「もう少し現実的な理由はないのか」

 

 残念ながら、フィオレの中でそのようなものはない。

 真面目に考えてそれしか思いつかないのだ。

 

「例え私の想像が当たっていたとしても、ここでグレバムもろともティベリウスを討てば阻止は可能ですよ」

「……わかっている。みすみす逃す手はない」

 

 そこで、話題は自動的にティベリウスという人間自体を検証するものへと変化した。

 こうなると、住民から情報収集できないというのが悲しくて仕方ない。

 

「……しまったな。幽閉されてたから、気を使いすぎたか」

「?」

 

 唐突にぽそりと呟いた、その真意をジョニーに迫る。

 彼は後ろ頭をかきながら、驚きの情報をもたらした。

 

「ああ見えて、フェイトは結構な使い手でな。アクアヴェイル公国武道大会、なんてーのでティベリウスを下したことがあるんだよ」

「なるほど」

「ん、驚かねえな。知ってたのか?」

「初耳です。体捌きが素人のものじゃなかったから、それなりだろうなとは思っていましたが」

 

 しかし、確かにこれは痛い。

 一国の領主と切り結ぶ機会など早々なかっただろうから、そこまで有益な情報でないだろう。それでも、やはり悔やまれた。

 

「過ぎたことは仕方ないです。精々、悪知恵働かせましょうか」

 

 そうこうしている間に、水路を用いないルート──おそらく兵士の演習用通路だろう。

 だだっ広い橋の先を抜けて、一同はトウケイ城手前までやってきた。

 そのまま正門に向かおうとする一同についていくことなく、立ち止まって城を見上げる。

 身体をそらさなければ天辺が見えないほど、高い。この城をこれから昇らなければならないのかと思うと、それだけでしんどくなる。

 

「フィオレさん? どうかしたんですか」

「ねえ、リオン……様。グレバムもティベリウスも、別に殺害は構いませんよね?」

「それは、まあ……」

 

 いきなり何を言い出すのか、と言わんばかりの一同に対し、フィオレはひとつの提案をした。

 

「このお城、燃やしません?」

「「「はあ!?」」」

「ですから、彼らはおそらく城の中なのでしょう? 助け出さなければならない誰かがいるでもなし、ここで火を放てば城が全焼する頃すべて解決しますよ」

 

 土壁で燃えにくそうではあるが、木造だ。レンガ造りや石造りほど燃えないわけではない。

 そんなフィオレの提案に、一同はもちろん駄目出しをした。

 

「フィオレさん、放火は罪ですわ!」

「人殺しは罪じゃないんですか?」

 

 基本的な道徳を唱えるフィリアは、最も基本的な道徳をすでに破っていることを再認識させる。

 

「いくらなんでも、それは……」

「巡り巡って街に飛び火したらどうするんだ?」

「大丈夫ですよ。この城、堀に囲まれてるから延焼はしませんて」

 

 もちろん、フィオレは冗談交じりで……万が一賛同されたらラッキー、程度の意識で提案をしている。

 しかし、なかなか正論を取り出す人間がいない。

 ようやっとフィオレに提案を引っこめさせたのは、常識人の内に入るであろうスタンと、リオンだった。

 

「でもお城の中にも普通の人がいるかもしれないし、モリュウみたいに領主のやり方に反対して牢屋にいる人がいるかもしれません。やっぱり本人たちだけを懲らしめましょう」

「それに、グレバムの討伐はあくまで最終手段だ。もしも神の眼が見つからなかった場合、奴に居所を吐かせなければならん」

 

 それもそうだと、提案を取り下げて一同に続く。

 神の眼奪還に加え、何としてもセインガルド侵攻を阻止しなければと変な方向で意気込む少年の緊張を解せたならいいのだが。

 

『そんなに気負わないでください。私も可能な限り協力しますから』

 

 この一言で済んだ気遣いかもしれないが、こんなことを抜かすくらいならくだらない冗談でも考えたほうがましだった。

 そしてたやすく、トウケイ城への侵入を成功させる。が、すんなり進んだのはここまでだった。

 

「って、初っ端から何なのよコレ! ……きゃっ」

「餓狼弧月斬!」

 

 トウケイ城に、一歩足を踏み入れた途端。

 まるで示し合わせたかのように、種々多様な魔物が群れをなして襲い掛かってきたのだ。

 

「やっぱ、正面からってのは大胆すぎたか?」

「無駄口叩いてないで吟詠奏とやらを使え!」

 

 生意気にも武装した直立トカゲの吐き出す炎から逃れつつ棒手裏剣を放ち、中身が少なそうな脳天を穿つ。

 翼持つ小型の魔物を寸断し、中衛達の晶術が決め手となって魔物の一群は影も形もなくなった。

 

「いちいちこんなのに構っていたらキリがありません。これからはどうにかやり過ごしましょう」

 

 幸いレンズを呑んだ兵士自体は少ないらしく、ジョニーの吟詠奏が本来の意味で非常に有効だった。

 それからというもの、時折思い出したように襲いかかってくる兵士を捌くだけで事足りている。

 

「にしても、何でここに限って出てくるのが普通のモンスターなのかしらね?」

「好都合なんだ。気にすることでもないんでないかい?」

「……真面目に考えると、神の眼があるから、でしょうね。これまでオベロン社から奪ったレンズを使っているのでしょう」

 

 ここでジョニーが神の眼の詳細について尋ねてくるものの、それらはすべてフィリアが担当してくれている。

 それにしても、グレバム並びにティベリウス大王がどこにいるのか皆目検討がつかない。

 バティスタの時のように天守閣でふんぞり返っていてくれるとありがたいのだが、神の眼の傍にいるのだとしたら話は別だ。

 神の眼を探す手間が省けるのは嬉しいが、神の眼の全長は六メートルほど。

 相当の重量もあるだろうに、そんなものを天守閣に持ち込めるとは思えない。

 一応左手甲のレンズに気をかけておくものの、もし天守閣にて見つけたらどうやって持って帰ったものか。

 

「にしても、ここにも変な仕掛け満載なのね。なんでこんなもの仕掛けるのかしら?」

「……篭城用か、城内に放置した魔物が人の居住区域に侵入できないように、ではないかと」

 

 ジョニーの吟詠奏が効果を発揮する中、種々様々な仕掛けをどうにか解いて先へと進む。

 いくつもの階段を昇った先、一同は大広間へと差し掛かった。

 モリュウ城にて一同に提供された広間より尚広く、一階と中二階のそこかしこに扉が設置されている。

 外観を考えるにそれだけ分岐があるのも奇妙な話だが、更に奇妙さを引き立てているのは扉の脇に描かれた種々の動物だった。

 

「俺たちを分断するつもりなのかな……」

「こんな見え見えの手に誰が引っかかるか」

「これも仕掛けの一種だと思います」

 

 試しに手近な扉を開けて中を覗きこむも、内部は暗黒がわだかまり先は見通せない。

 同じように手近な扉に手をかけたフィリアだったが、彼女はノブに手をかけた時点で固まった。

 

「フィリア?」

「開きませんわ、こちらの扉。他は全部鍵がかかっているかもしれません」

 

 自分が開いた扉をそのまま、隣の扉を開けにかかるも確かに開かない。

 だが、フィオレが開けた扉が正解だと考えるのは早計だ。

 開いた扉を閉め、先程は開かなかった扉に手をかける。

 それまでビクともしなかった扉は、あっさりと開いた。

 

「ど、どうなってるのこれ!?」

「見ればわかるだろうが」

「ひとつ扉が開いていたら、他は開かない仕掛けなんですね。つまり、闇雲に進んでも意味はない、と」

 

 あえて適当な扉をくぐるのも手だが、待っていたのが生死に関わる罠では眼にも当てられない。

 やはりきちんと、頭は使わなければならないようだ。

 

「となると、考えられるのは描かれた動物との関連性ですね。えーと……」

「兎、馬、羊、牛、犬、鼠、猪、蛇……」

「あれはニワトリでしょうか? それと古代種のドラゴン? それから虎に、猿ですね」

 

 何か共通点があるのだろうが、何も思い浮かばない。

 比べるなら凶暴性や大きさ、あるいは寿命の長さだが比べられるのはそれだけではない。果たしてその中に、正解があるのか。

 こういう場合、一人で考えていても思いつきには限度がある。

 せっかく複数の人間がいるのだから、ここの発想を生かさない手はない。

 

「何だと思います? 正解の扉」

「そんなの決まってるじゃない。この中の仲間外れなんて、これしかいないでしょ」

 

 すでにルーティは検討をつけているらしく、てくてくとその扉まで歩み寄った。

 彼女が示したのは。

 

「この、ヘンテコリンのドラゴン! 古代種とかフィリアは言ってたけど、そもそも動物じゃないでしょ」

「確かにその通りなのですが、その……」

「発想が単純すぎる。それにこの仕掛けが魔物避けなのだとしたら、十二分の一の確立で突破されるぞ」

 

 確かにそれは、真っ先に思いついた可能性だ。

 ただ、リオンの言う通りあまりにもまんま過ぎるかな、と無意識に却下したのである。

 自分でもそう思ったのか、ルーティはぷう、と頬を膨らませた。

 

「じゃ、あんたはどれだと思うのよ?」

「それがわからないから立ち往生してるんじゃないか」

「偉そうに言うことじゃないわよ!」

 

 またもじゃれあいが勃発してしまったわけだが、放置して広間をくるりと見渡す。

 ルーティの言うことも最もだが、リオンの意見がひっかかった。

 

 魔物避けなのだとしたら、十二分の一の確率で侵入を許す。

 

 確かに、それでは魔物対策の意味がない。ならばいかにして、この仕掛けで目的を果たすのか。

 

「大体あんた、フィオレに頼り過ぎよ! 少しは上司らしく振舞ったら!?」

「僕以上にこいつに頼る貴様に言われる筋合いはない!」

 

 後ろでぎゃあぎゃあ喚く二人に一撃見舞いたいのを抑えながら、フィオレはひたすら広間を見やっていた。

 

「ホントに仲がいいんだから……」

「「どこが」」「だ!」「よ!」

「ハモりなさんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

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