swordian saga   作:佐谷莢

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 アクアヴェイル編もいよいよ大詰め。
 この地の総大将・多分エレノアを殺した人、そしてグレバムのマリオネット。
 アクアヴェイル大王ことティベリウスとの開戦勃発です。


第八十八夜——頂上決戦~亀の甲より年の功? 寄る年波に勝てる奴なんていねえんだよおっ!(血涙)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そびえる階段を上り詰めた先の、天守閣。

 据えられた玉座に、モリュウ港で一度見えたティベリウスの姿があった。

 その傍に佇む、髪を後ろへと梳かしつけた法衣姿の男も。

 

「何者だ!」

 

 彼らを護る衛兵らが誰何の声を上げるも、こめられた気合は無残に破壊された。

 そう、さっきまで機嫌が悪かったはずのこの男に。

 

「へへーん。世直しジョニー、ここに見参!」

「シデンの三男坊かっ!」

 

 ジョニーの口上を聞いた直後、フィオレは敵ながら大王を尊敬しかけた。

 何故なら、あのふざけた文言を聞いても動揺しか見せなかったからである。

 フィオレはおろか一同など、ほとんど脱力しかかっているというのに。

 

「んもう、締まらないわね!」

「へへっ、悪ぃ悪ぃ……」

「グレバム、見つけましたわ!」

 

 ルーティの叱咤にジョニーが悪びれもせず答えるのも気にした様子もなく、フィリアがついにその名を叫ぶ。

 その視線が玉座の隣にあるということは。

 

「あれがグレバムですか……」

「フィリア、お前が何故!?」

「すべてはアタモニの思し召し……」

「ティベリウス大王、奴らを!」

 

 フィリアの説法などすでに聞いていないグレバムは、すぐさま玉座の大王にこちらの処理を申し出ている。

 

「分かっている。任せておけ」

 

 どうやら大王は協力者どころか、ほとんど傀儡扱いのようだ。

 どのような事情が通達されているのやら、彼は衛兵を召集するどころか自分が玉座から立ち上がったのである。

 そして、やおら野太刀を引き抜いたかと思うと吼えた。

 

「刀の錆にしてくれるわ!」

「話し合いの余地も、なさそうですね……」

 

 ともあれ、そっちがその気ならば遠慮することはない。

 左右に控えていた衛兵が大王の盾になろうとしてか、飛び出してきたところを一閃のもとに仕留める。

 刀の正体を見切るなり、ティベリウスは眦を吊り上げた。

 

「紫電だと……貴様、さてはモリュウ港での不届き者か!」

「ほう、覚えておいでですか。どうやら耄碌はしていないようですね」

 

 怒声は確かに耳に痛いが、それだけだ。

 恫喝がこちらに通じない以上、煽れる怒りは煽っておくことにする。

 

「無礼者が……!」

「私が無礼者ならあなたは好色漢ですか? そのナリで一回り以上下の女性を──しかも次期領主の女をモノにしようとなど、お盛んなことで」

 

 紫電の血糊を払い、小ばかにするように肩をすくめてみせた。

 二の句が告げられないことをいいことに、挑発を続ける。

 

「いくら無理やり相手を作ったところで、股間のものが役立たずでは意味がないでしょうに。挙句死なれているのですから、救いようがありませんね」

「……っ、女子供の分際で、この俺になんたる口を……!」

「無礼者ですもの、仕方がありません。それに、私の目的はあくまでグレバムの方なんです。三下は引っ込んでいてもらえません? お呼びでないんですよ」

「おのれ愚弄するか! 我が奥義、受けてみよ!」

 

 やおら羽織の袖から両腕を引き抜いたかと思うと、歳の割に筋骨隆々とした上半身があらわとなった。

 そのため、反射的にノイシュタットチャンピオンを思い出してしまった自分に嫌気が差しつつ、相手の出方を見る。

 

「斬崩剣!」

 

 構えられた野太刀が、大きさを無視した素早さで振るわれる。瞬く間に襲いくる剣圧に対し、フィオレは紫電を冷静に操った。

 計六度の斬撃を凌ぎ、一息つく。

 

「奥義とか抜かした割には、全っ然大したことありませんね」

 

 干からびても、否腐っても刀の使い手ということか。

 繰り出される剣技はキレがあり、動体視力に見合った身体能力がなければ回避どころか防御も厳しい。

 つまりこの戦い、バティスタ戦と同じく普段の前衛二人を前へ出すわけにはいかなかった。

 一方、自分の奥義をけなされたティベリウス大王は何故か豪儀な笑みを浮かべている。

 

「でかいクチを叩くだけはある。小娘、名を覚えておいてやろう」

「あなたに名乗る名など持ち合わせておりません」

 

 ついでにそんな、上から目線で言われても腹が立つだけだ。

 奥義が完全に捌かれてもこんな余裕があるということは、残念なことにフィオレの挑発は効力がなかったのだろう。

 ジョニーの口上といい、フィオレの挑発といい。彼のスルースキルは敵ながら尊敬に値するのかもしれない。

 そんなことはさておき。

 

「言うではないか。小娘の分際で!」

「今の内に嘆きなさい、あなたはその小娘どもに敗北するのですから!」

 

 信じられない加速を見せて迫る野太刀を受け流し、一見隙のない体捌きの流れからどうにか綻びを見つけては攻勢に転ずる。

 どうやらその肉体美は見せかけではないらしく、一撃一撃がかなり重い。

 ルーティならばともかく、剣技に精通していないフィリアやジョニーに接敵されたら、命はないだろう。

 そして、前衛や遊撃手たちに任せようものなら守備の綻びに必ず目をつけられる……

 

「どうした、俺を倒すのではないのか?」

「獅子戦吼!」

 

 鍔競り合う最中、一瞬の隙を見つけて獅子の雄叫びにも似た放出型の闘気をぶつける。

 直撃こそしたものの、本来対象を吹き飛ばすその技は大王を三歩ほど後退させただけにとどまった。

 やはり、刀の使い手相手にはあまり通用しない。

 フィオレがそうであるように、刀の使い手は総じて闘気や剣気に属する力のことを知っている。扱い方も、それが己に向けられた際の対処法も。

 しかし、体勢が崩れたのは事実。それを好機と見たスタンが、一挙に走り出た。

 

「ちょっと待ったスタ……」

「虎牙破──!」

「小賢しい!」

 

 止める暇もあらばこそ。

 一気に勝負を決めようとしたらしいスタンだったが、あっという間に体勢を立て直したティベリウスの奥義、斬崩剣を受け損ねて負傷をしている。

 幸い、当たり所は悪くなかったようだが……

 

「ぐああっ!」

「控えよ下郎! この太刀筋すら見抜けぬ者と交わす刃など、持ち合わせて……」

「余所見とは、随分余裕ことで!」

 

 本来ならば声などかけず不意討ちするところ、相手の注意を引く意味を込めて紫電を振るう。

 目論見通り、ティベリウスは対象を即座に切り替えてフィオレの剣戟に対抗した。

 

「ぬるいわっ!」

「……っと」

 

 スタンがマリーによって回収され、ルーティの治癒が発動したのを確認する。

 直後、ティベリウスの猛攻がフィオレを襲った。

 冷静に捌いていたつもりが、先程の怒りをまだ引きずっているのか更に重くなった一撃に体勢が崩れる。

 好機とばかり、更なる奥義が繰り出された。

 

「斬光剣!」

 

 野太刀の一振りが肥大化した剣圧を発生させ、それがかまいたちの如く迫る。

 またも初見の奥義に対し、回避を徹するあまりティベリウス本人の剣戟対策がおろそかとなっていた。

 

「もらった!」

 

 もう気にしてなどいられない。身を沈め、前転するように連撃から逃れる。

 当然外れた帽子を、ティベリウスの動きに注意しつつ拾い上げた。

 その間の大王と言えば──実にマヌケな顔をしている。幽霊を見たような、といった形容がふさわしい。

 束の間ではなかったものの、彼の硬直はそこまで長くはなかった。

 やがて口元を蛇のようにうねらせ、ティベリウスが嘲笑う。

 

「その容姿……リンドウ家の縁者か。エレノアの敵討ちか?」

「違います無関係です。敵討ちなら多分ジョニーが」

「くっくっくっ、リンドウ家にこんな娘がいたとは知らなんだ。紫電をその身に携えるとは都合のいい。もろとも我が物にしてくれるわ!」

「近づくなこのヒヒジジイ!」

 

 そして、人の話を聞け。

 紫電を振りかざして牽制し、帽子を懐へ押し込む。

 そこへ、おそらく帽子が取れた辺りから詠唱していたのだろう。

 リオンの指示で後衛に徹していた一同の遠距離攻撃が一斉に飛んだ。

 

「アイシクル!」

「ファイアストーム!」

 

 無数の氷柱がティベリウス目がけて発生する中、火炎嵐が氷柱を溶かして霧を発生する。

 そこへ。

 

「剛・魔神剣!」

「プレス!」

 

 マリーの遠距離攻撃、更にリオンによる頭上からの巨石落下。

 煙幕のせいでティベリウスの状態すらもわからない中。

 とどめは彼女だった。

 

「フィオレ、下がっとけ!」

「行きます! ツインボム!」

 

 ジョニーの指示に従った傍から、フラスコがダブルで投げつけられ大爆発を引き起こす。

 こっそりシルフィスティアに頼んで、霧と爆発による土埃を払ってもらうと、そこにあったのは遠距離による総攻撃をその身に受けて倒れ伏したティベリウスの姿だった。

 虫の息ではあるものの、どうして五体満足でいられるのか。不思議でならない。

 

「フィオレさんをモノにするだなんて、万死に値しますわ!」

「確かにな。モノにしようとしてやつざきにされるのがオチだ」

 

 リオンの暴言にデコピンを見舞っている間に、ジョニーは敢然と玉座の前にて伏すティベリウスへ歩み寄った。

 

「おのれ……」

「お前に追われ、玉座を失った親父、そして傷心のままに死んでいったエレノア……己の悪事の代償を今、その身に受けるがいい!」

 

 彼としては至極真面目なことを言っていると思う。しかし、今しがたそれを受けきった気がするのは気のせいか。

 所詮他人事につき、元はジョニーの父が大王だったこと以外特に思うこともなかった。

 そこで、ふと気付く。

 もともとの目的に関連する人間が、どこにもいないことを。

 

「待て、グレバムはどこだ?」

「いなくなってる!」

 

 どうやら、戦闘中にとんずらされてしまったようだ。

 そこに、突如として轟音が響き渡った。

 この音は、まさか。

 

「なんでしょう、あの音は?」

「外よ!」

「待て、こっちだ」

 

 きびすを返して窓を捜そうとするルーティを制したのは、ジョニーである。

 彼の先導に従い、玉座後ろの扉を出た先は物見台となっていた。

 眼下に広がるはトウケイの街並みであり、誰一人として見受けられなかったはずの城下町は数十人単位の人間がいるように見える。

 だが、今はそんなことに気を取られている場合ではなかった。何故なら。

 

「逃げた!?」

「戻って来なさいよ、卑怯じゃないの!」

 

 そう。悠然と翼を広げた飛行竜が、トウケイの空を滑空している。

 そして間もなく、大空の彼方へと飛び去った。

 

「くそっ、せっかく追い詰めたっていうのに……」

「まだ手はある」

 

 スタンの悪態に、リオンがぽつりと呟いてきびすを返す。無論、ティベリウスから聞き出すつもりなのだろう。

 それに続いて、フィオレもまたきびすを返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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