swordian saga   作:佐谷莢

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 ダリルシェイド往来にて、客員剣士様との攻防(ファーストコンタクト)。全国のリオンファンごめんね、刺さないでね。
 まだ原作始まってもいないからレベルは低いし、現時点で別作品のラスボスとタメ張れる女と同等に競るのは無理あるんだわきっと。


第十夜「あああっ! 私はこんな、いたいけな少年になんてことを!」

 

 

 

 

 

 

 

 いたいけな少年が、いきなり斬りかかってくるわけがない。

 もちろんフィオレは、そんなことは言わなかった。

 

「リオン様っ!」

 

 代わりに、少年からマリアンと呼ばれていた家政婦(メイド)が人垣を作っていた二人に駆け寄ってくる。

 しかし彼女は倒れ伏した少年に縋ることはなく、なぜかフィオレの元へ来た。

 

「何をしているんですか! 早く止血を……!」

「止血って、どこを?」

 

 え? と疑問符を浮かべるマリアンに対し、一見無造作ともとれる仕草で少年に歩み寄る。その実、不用意に間合いへは踏み込まない。

 彼は今現在失神している。それは断言できるが、いつ目を覚ますのかはわからないのだ。至近距離になればなるほど、先ほどの、譜術に酷似したモノを使われたら回避がしにくくなる。

 力の抜けている手から曲刀を引き剥がし、鞘を取り上げて収めた。一瞬見えた日車草色の球面はシャッターのようなものに覆われ、今は何の反応もない。

 それをマリアンに投げ渡してから、フィオレはようやく少年の体に触れた。

 首の後ろを掴んで起こし、ぐったりと脱力した体をフィオレ自身にもたれかかせる。

 マリアンは、つぶらな瞳を更に見張って独り言のような呟きを零した。

 

「刺されて、ない……?」

「刃物は使ってませんから」

 

 咄嗟のことでまったく加減はしていないが、あの時フィオレは懐刀の柄で少年の鳩尾に突きを入れている。他人の目からは、フィオレがリオンの腹を刺したように見えただろうが。

 主本人かあるいはその息子か、とにかく彼が無傷だったことに、ほっと息をつく彼女をほったらかし、フィオレは少年に覚醒を促した。

 

「大丈夫ですか? もしもーし!」

 

 頭を打った、あるいは頭皮に傷がないかを確認しつつも声をかける。

 しかしリオンは、それらしい反応を返さない。珍しいことに、きっちり当身が効いてしまったらしい。

 一般人ならともかくとして、戦闘を心得る人間ならば大概、外部から刺激を受ければ目を覚ますものだが……

 目覚める気配のない少年にうっすらとだがクマが浮かんでいるのに気付いて、寝不足だったのかもしれないと勝手に思い込んだ。

 

「起きませんね。水でも浴びせますか」

「ちょっと待ってください、それは……!」

「わかりました。では港が近くにありましたね。手っ取り早く海に投げ込みましょう」

「それはもっとダメです!」

『それダメ、却下! 可愛い顔して何エグいこと企んでんのさ!?』

 

 今度はダブルで駄目出しをくらう。

 マリアンが音ではない声に答えないのは、いつものことなのかあるいは聞こえていないのか。

 ……甲乙つけがたい。

 

「仕方がありませんね。いくら何でも素っ裸にすれば目覚めないわけが」

「ちょっとー!」

『うっひょー! 坊ちゃん早く起きて、見知らぬ女の子に往来で辱められちゃうよー♪』

 

 何故そこではしゃぐ、謎の声。

 冗談だとわかっているから、であってほしいところである。

 念話は無視して、フィオレは涙目で猛抗議するマリアンに向き直った。

 

「じゃあどうしろというのですか」

 

 代打案を促すフィオレに、マリアンは軽く目をこすって深々と頭を下げた。

 

「その前に、我が主人の非礼をお許しください。最近寝不足で、少し気が立っていたご様子で……」

「あなたに謝られても仕方がありません。それで?」

「ひいては、その……お屋敷までご同行願いたいのですが」

 

 そうやって丁寧に言われれば、彼の始末……もとい、身元預けも兼ねて、フィオレに断る理由はないわけで。華奢な少年を背に負い、人々のざわめきを尻目に、二人はこの場を後にした。

 そしてたどり着いたのが王城だったら、流石のフィオレも肝を冷やしていたことだろう。客員剣士だけあって、少年の主が国王そのものであってもけして不思議ではないからだ。

 幸いなことにマリアンの先導で行き着いた先は、閑静な高級住宅地の中心であって、王城そのものではない。

 ただし、その規模は周囲と比較しても呆れるほどに広大だった。

 敷地面積そのものが半端でないらしく、周囲をぐるりと自然な目隠し──人工的な林が覆っている。

 その林がなくなったと思ったら今度は見上げるほどに高い壁、そして今、マリアンはやはり巨大な門を護る二人の警備員に話を通していた。

 当初、リオンを背負うフィオレはずいぶん奇異の目で見られているが、マリアンの話が通ったらしい。

 マリアンの招きに応じて、フィオレは入門が許された。そして中に足を踏み入れて、なぜか望郷の思いに駆られる。

 規模はどうだったか、よく覚えていない。

 しかしこの広大な庭、丹念に手入れされた芝生、庭師によって華やかに彩られた花壇、そして中央にでんと構える屋敷など、それらの光景は在りし日のガルディオス邸を彷彿とさせたのだ。

 

「あ、あの?」

『そういえば、名前聞いてないや。ねえねえお嬢さん、名前教えて~?』

 

 お嬢さんではないにつき、答えられない。そして名前を尋ねるときは先に名乗れ。

 

 立ち止まったのも束の間、声を無視してすぐに彼女の傍へと歩む。

 マリアンは正面玄関の扉を開き、フィオレの到着を待っていた。

 

「ところで、こちらはどこのどなたのお住まいですか?」

「ここはですね……」

「オベロン社総帥、ヒューゴ・ジルクリスト様のお屋敷じゃよ」

 

 中に入ろうとして立ち塞がっていたのは、ふさふさした白髪に同じ髪質の眉が特徴的な執事(バトラー)風の男性だった。

 見た目や口調と比例してその背筋はしゃんとしており、よくよく見れば老齢特有の皺の量も少ない。作り物か生まれつきか、柔和な面持ちには愛嬌がある、といえよう。

 フィオレのように見た目だけ若いのか、それとも老けて見えるだけか。

 

「オベロン社……って、レンズ製品の」

「その通りです。ようこそ、お客人。儂はこのお屋敷で執事たちの長をしております、シャイン・レンブラントと申します」

「……申し遅れました。フィオレです」

 

 進み出てきた警備員(ガードマン)にリオンの身柄を引き渡し、応接間に通され、待たされることしばし。

 ただし、出された茶がすっかり冷め切り、夕日が沈みきった現在に至るまでの時間がしばしか否か、判断に迷うところである。

 当初こそふかふかの長椅子に大人しく座っていたフィオレだったが、だんだんしびれを切らして今や長椅子にだらしなく寝転がっていた。

 謝罪とかもういいから、こっそり抜け出して宿を探したほうがいいかな、と検討し始めたそのとき。

 扉の外で足音がした。直後、規則正しいノックに引き続き、純銀製の取っ手が鳴る。

 そのときにはもう、フィオレは素早く起き上がってクッションの乱れも直していた。

 現れたのは、あのレンブラントとかいう執事長、マリアン、そして──

 

「お待たせした。彼女たちから事情を聞いていたのでな」

 

 藍鼠色を基調とした、折り目もぴしりとしたオーダーメイドのスーツをまとう壮年の男性だった。癖のある漆黒の髪を長めに伸ばし、細く切れ長の瞳が楕円の眼鏡の奥でフィオレを見ている。

 貫禄を漂わせる髭はともかくとして、その痩躯や特徴はどこぞの誰かを思い起こさせた。

 おそらく、彼は。

 

「オベロン社総帥を務める、ヒューゴ・ジルクリストだ」

 

 自己紹介を受けて、フィオレは自発的に長椅子から立ち上がった。

 

「フィオレです。フィオレンシア・ネビリム。ただの旅人」

「ふむ……? まあ、楽にしてくれ」

 

 促され、再び長椅子に腰を下ろす。

 その正面にヒューゴが座り、二人が傍に控えたところで彼が口を開いた。

 

「お待たせした上に申し訳ないが、何があったのかを君の立場から説明してほしい」

 

 このこと自体は、あまり不思議なことではない。物事というのは人物によって随分違ってくるものだ。

 しかし、フィオレはそれをあまり歓迎していない。

 

「あまり、お子さんの悪口を親御さんに言いたくないのですが」

「フィオレンシアさん。リオン様は、ヒューゴ様直属の部下で……」

「そうですか。じゃあ、そうなんでしょうね」

 

 マリアンの言葉を受けて、あっさりと前言を翻す。

 そう言い張るなら、別に事実を暴こうとは思わない。

 

「えーとですね……」

「待ってくれ」

 

 何があったのかを話そうとして、他ならぬヒューゴ氏自身に制止される。

 

「何故、リオンが私の息子だと思うのかね?」

「年齢的に辻褄は合い、特徴も親子関係を否定するほどでもなく、あと彼が若すぎるから、です」

 

 興味をひいてしまったのなら、殊更隠しておく理由はない。

 フィオレは端的に自分の推測を口にした。

 

「成長期の男の子は著しく体格が変わるもの。どれだけの素質があろうと、幼い頃から訓練を叩き込んでも、体の変化に実力があろうとなかろうとついていけなくなります。従って、彼が客員剣士になったのはごく最近のことではないかと推測できるんです」

 

 かく言うフィオレも、成長期において体に訪れる変化で結構な苦労を背負った記憶がある。

 急に脂肪がつきやすくなるわ、月ごとのお客様に悩まされもしたし、変に情緒不安定にもなった。

 体験こそしていないが、少年の成長期による不安定期の事例を目にしたことがある。男性とて、成長期の変化がないわけではない。

 女性ほど目に見えて劇的なものはなかったが、それはフィオレがそう思わなかっただけなのかもしれないのだ。

 

「客員剣士は本来望まれてなるもので、募集するものじゃない。若ければ若いほど国王やその付近の方々たちに、実力を見せなければならないのでしょう。所縁……国王やその付近の方々とある程度の関係を持っていなければ、そんなことはできません。国内外唯一レンズを扱う大企業の総帥として、あなたはどれほどの人脈をお持ちなのでしょうね?」

 

 時折、ちらりとヒューゴ氏の表情を見やれば、特にこれといった感情は浮かべていない。

 興味津々といった様子で、フィオレの話に聞き入っている。

 取るに足らない推測を聞くだけ聞いて、あとで否定し倒す腹積もりか。それとも、面白い創作だと純粋に楽しんでいるのか。

 

「彼を客員剣士とするために、私はあなたがそのシナリオを組んだものと思っています。彼が幼少の頃から、今に至るまで。彼は限りなく宝石に近い原石のようですから、お披露目さえすれば問題はなさそうですし」

「その際……他の人間に紹介された彼を、私が雇っているだけかもしれないぞ」

「彼が違う人間に紹介されたのなら、何故その人間が彼を雇わないのですか? それなりの地位を持ち、おそらく国王の信頼を得るためにしたことでしょうに。貴重な戦力を、国王より総帥のあなたにコネを作るためにあえて流出したと? おかしな話ですね」

 

 否定要素を持ち出してきたため、遠慮なく論破させてもらう。

 異論はないらしく、反論はされなかったが、代わりにこんな質問が飛んできた。

 

「……まだ、息子だと思った理由を話してくれないのかな?」

「あなたほどの地位を持つ方が、家族でもない幼子を屋敷に住まわせれば、あなたの人格が疑われてしまうのでは? 見目麗しい少年ですし」

 

 少々下賎な話の内容に、免疫がないのか控える二人がかすかに表情を歪ませる。

 当の本人はといえば、わずかに沈黙を保ってどうにか質問をひねり出した。

 

「ふむ。それならば何故、マリアンは『リオンは私の部下』だと訂正したのかね? 君の推測と矛盾するが」

「人脈、裏取引、親の七光り……いわゆる贔屓ではないかという嫌疑から彼を護るためではないかと。そうなると、今の彼の名も本来のものとは違ったりするのかもですねー」

 

 そこで言葉を切るも、ヒューゴ氏に反応はない。

 そろそろ話をもとに戻そうと、フィオレは話のシメに入った。

 

「まあ、これらはすべて私の勝手な推測です。真実はどうあれ、お気に触ったことがあるなら、謝らせてください」

「いや……謝る必要はない。ほぼ事実だからね」

 

 これにはフィオレが拍子抜けしている。

 彼は思いのほか、あっさりと事実関係を認めた。

 

「……意外です。お偉い方であればあるほど、都合の悪いことはけして認めないもので、認めるべきではないものですが」

「そこまで理論立てて推測されてしまったら、もう見事だと脱帽するしかない。君の予想は概ね事実と変わらないのだよ。『リオンが客員剣士である』その情報だけでそこまで考えが及ぶとは」

「そんなことはありません。オベロン社がどんな大企業か、あなたがどこの誰なのかもわかっていましたし」

「話の流れとして、君がその情報を知るのは必然だったと思うよ」

 

 そして彼は何事もなかったかのように、当初の話の続きを促している。

 ……早まったかもしれない。

 フィオレから見た事起こった事の次第を説明しながら、内心で焦燥がじりじりと燻っていた。

 思わず素直に自分の思ったことを話してしまったが、もし彼らがこの事実の隠匿を重要視していたとしたら? 

 流れの旅人を人知れず消すなど、彼にとってそれほど造作もないことだろう。本当に人脈は豊富なようだし。

 とはいえ、別に後悔があるわけではない。喧嘩を売られたら、買ってやればいいのだ。

 護るものがない以上、好きなだけ暴れることはできる。

 僅かに、ほんの少しだけそれを寂しく思いながらも、フィオレの説明は続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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