swordian saga   作:佐谷莢

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 スノーフリアを出て、氷の大河へ到着。
 この場所では毛皮のマントを装備していないと、半歩歩いただけで最大HPの五パーセントダメージが進呈されます。(PS版)なんという理不尽。
 20歩も歩けばHPも尽き、死亡するというとんでもない場所です。
 ウッドロウ達がここを通りたくなかった理由も、お察しというところでしょうね。何せ、歩いただけで凍死する場所ですから。


第九十五夜——雪原の道中歌

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スノーフリアの街を出て、氷の大河とやらを目指し北上する。

 

「どこもかしこも、雪が積もっておりますのね。これが銀世界なのですか……」

「この国なら、オーロラとかも見れそうですね」

「オーロラ? 何それ」

「極寒世界のみ見られる大気の発光現象のことですわ」

 

 天高くに現われる、七色以上の色を宿したカーテン状の薄光。

 その地方の人間でもなければついぞ拝むことができないだろうその現象に、フィリアは思いを馳せていた。

 フィオレも、この世界のオーロラは見たことがない。

 東から昇り西に太陽が沈むこの世界なら同じようなものである可能性が高いが、それでも楽しみなのは言うまでもない。

 

「オーロラですか。そうですねぇ、いいお天気なら今夜辺り見れるかもしれませんよ」

「そうなのか。それなら見てみたいな」

「わたしも、こっちに来たことはそれほどないから断言はできないんですけど」

 

 少女たちの楽しげな会話が、雪の世界に吸い込まれていく。

 天候に恵まれたせいか現在は晴天で、周囲の見通しもよかった。

 至極和やかな道中ではあったが、ただ一人始終イライラしている人間がいる。

 

「まったく、能天気な連中だな……」

「平和でよろしいことではありませんか。あなたみたいにずぅっとイライラしているよりは、よっぽどマシです」

 

 これだけ積もっていると雪だるまがいくらでも作れそうだ、とはしゃぐルーティに呆れたリオンが、ぶつくさ呟いた。

 それを聞きつけて揶揄すれば、リオンはキッと視線を鋭くフィオレにつきつけてくる。

 

「あのハイデルベルグが落ちているんだぞ! これからグレバムを倒し、神の眼を奪い返すというのに呑気すぎる!」

「そうですね。これから嫌でも血塗れになるんです。自分と他人の血で……だから今くらいは、心穏やかでいさせてあげたくありませんか?」

 

 先導するウッドロウら、そしてスタンたちとも心なしか距離を置いて声を潜めた。

 少なくとも、聞いてほしいことではなかったからだ。

 

「……」

「私はもちろん、あなたにもそうしてほしいと思いますよ」

 

 僅かにでも一理あると思ったのだろう。リオンの反論はない。

 むすっ、と不機嫌な顔を隠さず黙りこくる少年の顔を、フィオレはひょいと覗き込んだ。

 

「そう独りで気負わないでください。何とかなる──いえ。必ず何とかしますから」

 

 ぷいっ、と顔を逸らしてしまったリオンだが、否定しないということは了承したということでいいだろう。

 安心したように再び行軍を始めたフィオレだが、ふと視線に気付いた。

 見やればウッドロウが、チェルシーがマリーとの料理談義に花を咲かせているのをいいことに、こちらへと近づいてくる。

 

「いかがなされましたか?」

「大変遅くなってしまい、至極恐縮だが……いつぞやの記念式典時は賊より護ってくれてありがとう。そして、フィオレ君にはティルソの森でもスノーフリアでも助けられたな」

 

 重ね重ね礼を言われて、フィオレは一度だけ、瞳を瞬かせた。

 しかし、それは一瞬のこと。普段の猫かぶりに更に猫を追加し、謙遜を口にする。

 今精神的に余裕のないリオンに喋らせたら、何を言い出すかわからない。

 

「記念式典の際は、我々に課せられた任務を遂行したまでです。むしろ、不埒者の侵入を見逃したセインガルドの警備の甘さを、どうか許してください。あなたが王都を追われたのも、グレバムの造反を、神の眼の持ち出しを看過したセインガルドにあります」

「でもさあ、ファンダリアの王子に恩を売るなんて、なかなかできることじゃないわよ」

 

 だからあなたが感謝の念を抱く必要はない、と締めにかかるも、ルーティが混ぜっかえしてくる。

 しかし、こちらにまったくの非がないわけではないのだ。

 

「それ以前に、私とスタンは彼らに保護されていますからね……あそこに民家がなければ、凍死していたと思います」

「例え私がいなくとも、アルバ先生なら間違いなく君たちを助けていてくれただろう」

「スノーフリアの一件に関しても、大変な失礼を働きました。少年を助けて兵士の注意を引くために、騙りなどという卑しいことを」

「王族の品位を貶めたわけでもなく、品行方正な演技だったと思います。しかし、どのようにしてあのような……」

 

 やっぱりそう来たか。

 手品です、の一言で切り捨てて、ひょいとチェルシーを見やる。

 マリーとの料理談義に花を咲かせていた少女だったが、先程からこちらをちらちら……正確にはウッドロウを見ていたのは知っていた。

 

「マリーも言っていましたが、チェルシーの髪飾りって可愛いですよね。どこで求めたものなんですか?」

「えっ!? あ、これはですね……小さい頃両親がくれたものなんです。ハイデルベルグで買ってきた、って言ってたかな?」

 

 そこは、ウッドロウからの贈り物と言ってほしかった。冷やかせたかもしれないのに。

 

「フィリアさんの髪飾り、すごく素敵ですよね。やっぱりセインガルドの首都、ダリルシェイドで買ったんですか?」

「これはフィオレさんが、わたくしの誕生日に、とくださったものですわ」

「フィリアのは、ストレイライズ神殿の前にあるバザーで買ったんですよ。流れの商人が、アクアヴェイルで仕入れた一品だ、って言ってました」

 

 現在、セインガルドとアクアヴェイルは国交断絶状態にある。商売取引上は、カルバレイスを経由しての輸出・輸入が可能だ。

 しかしその商人が広げていた品々は装飾品だけではなく、熱帯地方であるカルバレイスを経由したとは思えない食品の類がいくつもあった。

 髪飾りにどうだ、と売りつけてきた商人相手にそれを尋ねると、しどろもどろと言葉に詰まったため、アクアヴェイルに通じている密輸業者ではないかと思われる。

 珊瑚製の髪飾り、それも滅多に手に入らないアクアヴェイルの品ともなると、当時のフィオレでは買えないほどの値段だった。

 もう少し安くならないかと交渉を試みたところ、商人は快く応じてくれたため、現在フィリアの髪飾りとして機能している。

 そこで、ルーティがふと思い出したような顔をしてフィオレに尋ねてきた。

 

「そーいえばフィオレ。あんた結局ジョニーとはどうなったわけ?」

「どう、とは?」

「とぼけちゃやーよ。あたしたちが行った後、なかなか戻ってこなかったじゃない。何かあったんでしょ?」

「紫電を返し損ねました。すべてが終わったら返しに来いと。私がいつ死ぬかもわからないのに、呑気な方でしたねえ。そこが彼の魅力なのでしょうが」

 

 どうしてそこでジョニーが出てくるのかさっぱりわからないが、多分アクアヴェイルで思い出したのだろう。

 質問には完璧に答えたというのに、妙に不自然な笑顔でルーティは「そ、そう……」などと返している。

 そこへ。

 

「あの、フィオレさん。ジョニーさんのことをどう思ってらっしゃるんですか?」

「やさしい人でしたね。あと、いい男だと思っていますよ。幸せになってほしい、とも。まあ、あの性格ならいい女の一人や二人、すぐものにできるでしょう」

 

 彼が口にした大言壮語、実行できるといいですねえ、と遥か海の先を見やる。

 ジョニーに劣らず飄々としたその態度に、ついにフィリアが声を荒げた。

 

「フィオレさん! こういった経験に疎いわたくしですら気付いたのに、あなたが気付かないとは思えませんわ。ジョニーさんのお気持ちを……」

「ええ、気づきましたよ。私の顔を見て以降、私を故人と重ねる忌まわしいあの目なら」

 

 突如として底冷えしたフィオレの声音に気付き、びくっ、とフィリアが肩を震わせる。

 表面上はにこやかでありながら、すでにフィオレの眼は一切笑っていなかった。

 

「前にも言いましたが、私はどうも誰かと間違われることを嫌う傾向にあるようです。それでも構わないなら、どうぞ続けてください」

 

 どれだけフィオレを不機嫌にしても、彼女が構わないわけがない。

 絶句してしまったフィリアを前にして、フィオレは小さく息を吐いた。

 

「あとね、フィリア。ジョニーの気持ちはジョニーにしかわからないと思っています。私達がどんな邪推をしようとね。だから、くだらない推察はやめませんか?」

「は、はい……」

 

 言外にこの話はおしまいだ、と告げられ、フィリアは頷くしかない。

 フィオレの怒気が緩んだのを知って、ルーティがふうっ、とため息をついた。

 

「フィオレー。ことある毎にマジギレするのやめない? そりゃからかったあたしたちも悪いけど……」

「私の怒りを脅威と感じなければそれでいい話でしょう」

「……実際脅威だろうが。ヒス女とは比べ物にもならん」

 

 珍しく余計な一言を呟いたリオンに軽くデコピンを差し上げ、フィオレは気を取り直したように前方を見やった。

 

「北にある洞窟から……とおっしゃっていましたね。あれがそうなのでしょうか」

 

 視界が良好だからこそ、それらしきものが見えたのだろう。遥か彼方先、山脈がそびえる胸壁にぽっかりと開いた洞穴らしいものが見える。

 

「明かりの準備は要らないよ。洞窟自体はそれほど大規模なものじゃない」

「わかりました」

 

 カンテラの準備をしようと思って、荷袋を漁ろうとするフィオレの目論見を察知したウッドロウに助言をされる。

 すぐさま手を止めて、その分足を速める。

 雑談をやめて意識的に速度を上げた一同は、それから間もなく洞穴前へとたどり着いた。

 

「本当だ。すぐ先は開けてる」

「ただ、あまり人の立ち寄らない場所だからな。モンスターの生息率が高い。気を引き締めていこう」

「僕に指図するな」

 

 とりあえず、水先案内人の指示には素直に従った方がいいと思う。

 洞窟を抜けた先は、山脈のふもとだった。しばらく道なりに進んでいくと。

 

「何よこれ、邪魔臭いわね……」

 

 一体何が原因で発生したのやら。狭まった道のど真ん中に氷塊がこんもりとそびえている。

 周囲の木々から滑り落ちた雪がそこにとどまり、やがてここまでの大きさに育てたというのがありがちだが……

 ルーティが幾度か足蹴にするも、氷塊は砕ける素振りも見せない。

 

「スタンさん、ディムロスの炎で溶かせませんか?」

「気にすることはない。ファンダリアではよくあることでな」

 

 そういって前へと出たのは、ウッドロウである。

 彼は一枚のレンズを取り出したかと思うと、不意に拳をかざして見せた。

 瞬間、一条の光線が放たれ氷塊が蒸発する。

 

「!?」

「なんですか、それ?」

「ソーサラーリングという。レンズを消費することで、熱線を放つことができるんだ」

 

 確かにそれは、雪かきなどで大変重宝しそうである。しかし、そんなものが普及したら放火が頻発しそうな威力だが。

 思ったことを正直に話すと、彼は苦笑いを浮かべた。

 

「ああ。家の雪かきをしようとして誤って火事を引き起こした、というケースが起こったせいか、すぐにオベロン社は回収してしまったよ。私は旅が多かったから、当時は回収されたことを知らなくてね」

 

 だから今も所持しているということか。

 オベロン社の不祥事についてはリオンも知識があったのか、そういえば、と呟いた。

 

「そういえば、ファンダリアでとあるレンズ製品の自主回収を敢行していたな。今は雪かき程度しかできないよう調整され、更にレンズ消費の必要がないものが配布されたが」

「そういえば、君たちはオベロン社総帥に雇われている身でもあったな」

 

 詳しいな、と言いかけてウッドロウは納得している。

 ここへ至るまで、当初イライラしているばかりだったリオンの心境に変化があったようだ。

 何があったのかは知らないが、冷静になってくれてよかった。

 比較的和やかな雰囲気の中、山脈に生息し縄張りに侵入された怒りでか襲いかかってくる魔物と交戦を重ねつつ、道を進む。

 そして、橋を渡り小規模な崖を降りた先。

 

「すごい……!」

「見事なまでに凍ってるわね」

 

 先程架かっていた吊り橋から垣間見えたが、通常は大河であろうそこは氷上の世界と化していた。

 雪ではなく氷が一面に広がっているせいか、それまでは厚着だけで平気だった体に悪寒が走る。

 

「ううー、寒っ……!」

「毛皮のマントを着ていても、こんなに寒いのですね」

「なかったら、もう凍死できるわね」

 

 かじかむ手で荷袋を漁り、この時のために購入しておいた防寒具を取り出し、速やかに着込む。

 隣ではリオンも、しきりに手を擦りながら手早く防寒具を身につけていた。

 

「ところで、ここは本当に河なんですか?」

「見ればわかるだろう、そんなこと」

「じゃあどうして、河のど真ん中に木が立っているのでしょうね……」

 

 フィオレが視線で指すその先には、確かに数本の樹木が大河のど真ん中にそびえている。

 通常、水が流れている河ならば水流に土を持って行かれ、下手をすれば根っこごと下流へ流されるだろう。

 チェルシーですら答えの出ないその疑問に頭を捻りつつ、防寒具の上から外套を着込む。これで大分マシになった。

 

「えーと、河を遡るってことは滑って移動するんですか?」

「ああ。滑り方だが、主に重心の移動が大切になる」

「わたし、スケートって久しぶりです♪」

 

 流石に国民にとっては、身近な遊戯であるらしい。

 チェルシーは自力で滑って感覚を思い出し、ウッドロウは優雅に手本を見せている。

 そんな中、特にチェルシーがすいすい滑っているのを見て好奇心が刺激されたのだろう。

 スタンがよいしょ、と天然のアイスバーンに挑戦した。

 しかし。

 

「よっ……って、うわ!? おわあっ!」

「スタンさん!?」

 

 彼は直立したまま滑って行ったかと思うと、河の真ん中に生えていた樹木にぶつかって、止まった。

 震動で、樹木に積もっていた雪が彼に降り注ぎ、見事なアイスマンが誕生する。

 

「冷たーっ!」

「あっはははは、何やってんのよ、鈍くさいわね」

 

 ルーティは大笑いしているものの、実際はどうなることやら。

 かくいうフィオレもあまり自信はなく、極寒の世界の冷や汗はやはり冷たかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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