swordian saga   作:佐谷莢

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 光と影の中、去り行くあなたに贈る言葉。
「さよならは言わないよ。また会う時まで、元気でね」
 ハイデルベルグ、詰め所内部、修羅場なう(?)
 原作ではここへたどり着くまでのスタンの行動によって、この後ダリスが生きるか死ぬか、自動的にストーリーが決まります。(PS版では)
 彼の生殺与奪はスタン、つまりプレイヤーの手の内ということになりますね。
 このお話の中では、ダリスは生存ルートです。これ以上マリーを泣かすわけにはいきませんからね。
 話数にして百番目にこの話がくるとは……狙ったわけではなかったので、ちょっと感慨。


第百夜——暮れなずむ街の~永久(とわ)の別れ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさかいきなりやられるなどと、想像もしていなかっただろう。

 兵士二人はダリスの昏倒を目にして、完全に固まっている。

 この隙につけ込まない手はない。

 

「烈破掌!」

 

 続く一撃で兵士らをまとめて吹き飛ばし、更に机を蹴倒して追撃、戦意を奪う。

 机の上に載っていた文鎮をまともに受けて呻く兵士らに対し、フィオレは未だ手に持つ短剣をダリスへと向けた。

 

「さあ、頼みの隊長殿はこの有様ですよ。これと己の命が惜しければ、速やかに降伏なさい。下手に騒いだら、これの命はないものと……」

 

 ──この兵士達は、ダリスが洗脳されている完全な傀儡であることを知っている。

 役に立たないと分かるや否や、ダリスのことなど気にもせず襲いかかってくるかもしれないが、すでに一同は臨戦態勢を整えているのだ。返り討ちにするだけである。

 それがわかっているのかいないのか。彼らが選んだのは、自らの保身であった。

 

「敵襲、敵襲だっ!」

「ウッドロウ・ケルヴィンが現われたぞっ!」

 

 机を押し退けるや否や、脱兎の勢いで室内を飛び出す。

 すでにダリスは倒されたものとして振る舞い騒ぐ彼らを見送ってから、フィオレは真下を見下ろした。

 

「──もうお気づきなのでしょう? 騒がないでくださいね」

 

 先程気付いたことだが、ダリスが気絶していたのはほんの一瞬である。

 起き上がるよう促され粛々と従った彼は、瞳を潤ませるマリーをバツが悪そうに見やった。

 

「マリー……何故戻ってきた」

「ダリス、思い出したのか!」

「御両人、積もる話は後にしてください」

 

 彼らとしては、交わさなければならないことが山のようにあるだろう。しかし、今は場合が場合だ。

 あの兵士の騒ぎ具合では、眠らせた兵士も続々起き出すだろう。

 ぐずぐずしていては袋の鼠にされてしまう。

 

「さて、ここから通常経路を用いず脱出する術はございませんか?」

「フィオレ! どうしてダリスに剣を向けるんだ!」

 

 尋ね方こそ丁重だが、フィオレは紫電を抜いてダリスへ向けていた。

 その態度にマリーが珍しく憤慨するも、態度は翻らない。

 

「あなたにとっては、やっと再会できた大切な旦那様かもしれません。でも、私にとっては、いつ暴れ出すかもわからない敵方の捕虜です」

 

 マリーの説得か、フィオレによる物理的衝撃によるものか。ともかく彼の洗脳は解けているように見える。

 だが、何が特殊なことをしたわけでもない兵士の一言によって、彼はあっさり再洗脳されているのだ。

 警戒はするに越したことはない。

 マリーの抗議を退けて早く答えろとせかせば、ダリスはちら、と部屋の隅を見やった。

 そちらには、ただ本棚が設置されているように見えるが。

 

「……本棚の裏に、屋上へ続く階段がある」

「ここですか?」

「スタン、動かないで。この人にやらせます」

 

 もしも罠があったら目にも当てられない。

 先程からダリスに隠すこともなく疑いの目を向けるフィオレに反対するわけでもないだろうが、それでもスタンは食い下がった。

 

「でも、こんなに重そうなのを一人でなんて……」

「馬鹿が。本当に脱出経路として存在するなら、一人だろうと子供だろうと作動させられないわけがないだろう」

 

 事実、ダリスは本棚の前に立つとその中の一冊に手をかけている。

 それを引き抜いて違う場所に挿した途端、本棚は自動的に道を空けた。

 罠を解除した様子もなければ、罠が作動したような形跡もない。

 

「大丈夫そうですね。では、男性陣諸君。そこの扉を塞ぎましょうか」

 

 もちろん、フィオレ一人が蹴倒せるような机だけでは足止めにならないだろう。

 机、椅子、その他備品を積み上げて即席のバリケードを築いた後、一同は速やかに移動を始めた。

 と、そこへ。

 

「マリーさん、これ!」

 

 スタンの呼ぶ声に、ダリスと連れ添うように移動しようとしたマリーが振り返る。

 彼が手に持っていたのは、先程までフィオレが手にしていたあの短剣だった。

 

「すまないな、スタン。大事な剣をここに置いていくところだった。礼を言うぞ」

「ほら、早く早く!」

 

 ルーティの声にせかされて、屋上へと赴く。

 すでに建物の外には兵士らが結集しており、その集団をまとめる兵士長が鬨の声を張り上げていた。

 

「行くぞ! 奴らを生かして帰すな!」

「「おー!」」

「ウッドロウを討ち取った者には特別にボーナスも出るぞ!」

「「おぉー!」」

 

 彼らの給与明細を拝みたい一言である。

 俄然気合の入った彼らを鼓舞するかのように、兵士長は言葉を続けた。

 

「先程入った情報によれば、敵方には隻眼の歌姫と思しき輩がまぎれているようだ。生け捕りにするよう心がけよ! 手足は取れていてもかまわんが、首に──喉に傷はつけるんじゃないぞ!」

「……どうして王子は討ち取って、隻眼の歌姫は捕らえる必要があるんです?」

「あの兵士たちは、正規の軍人たちではなくグレバム軍に登用された即席の兵士だ。あまり品のない連中も多い。だからその……慰み者に」

「隊長と呼ばれていたあなたすらそう思うということは、グレバムは関係ないんですね」

「なあディムロス。なぐさみもの、ってなんだ?」

『!? い、いや、それはだな』

「一時の欲求を解消するためにもてあそばれる者、のことですね。『一時の欲求』は、ご想像にお任せします」

 

 てっきりファンダリアを完全に乗っ取った後、セインガルドに対する人質にでもするのかもしれないと考えたが、それには少々身分が足りないだろう。

 ではどんな理由があるのか、思いつかなかったために彼へ尋ねてみたのだが……まあ、そんな理由ならどうでもいい。

 ダリスの話す通り、兵士の中には表情をだらしなく緩める者が多数見られる。

 そんな中、兵士長は一同の気持ちがひとつになったことを確認して、拳を振り上げた。

 

「よしっ! 突撃ぃ!」

 

 あれよあれよという間に、詰め所内へ兵士がなだれ込んでいく。

 慰み者の解説あたりで血相を変えていたスタンが、やおらディムロスを引き抜いたかと思うと重々しく言った。

 

「──戦いましょう」

「駄目に決まってます」

「でも、このままじゃ」

 

 確かに戦う意志もないまま、立ち往生しているのでは危険だ。

 選択肢は戦うか、逃げるかであるが、なだれ込んでくる兵士群の相手をし続けるのは限界がある。

 逃げるにしても、ここは三階に相当する高さだ。地面までの距離はかなりある。

 しかし。

 

「まだ逃げる方法はある」

「え……ま、まさか」

 

 逃走方法はそれだと言わないばかりに下を見やるウッドロウの視線の先を見て、ルーティは素直にその方法を想像したのだろう。

 他一同もまったく気が進まない顔をしているが、ウッドロウやチェルシーはけろりとした顔をしていた。

 

「大丈夫だ。雪がクッションになってくれる」

「ご、ご冗談を……降ったばかりの雪ならともかく、積もった雪は一度凍っている危険性がありますわ」

「大丈夫ですって。ウッドロウ様の言うことに間違いはありません」

 

 チェルシーの根拠なきその発言はともかくとして、ウッドロウも覚悟を決めろ、と一同に告げている。

 雪に対してそこまでの親しみがないフィオレは、こっそりとシルフィスティアに語りかけた。

 

『シルフィスティア。私の着地点に、空気圧のクッション作ってください』

『全員分は要らないの?』

『……お願いします』

 

 こっそりおねだりを終わらせ、詰め所の裏通りを見やる。

 そこはすでに街の外で、ここから逃走すれば、そうそう気付かれはしないことが伺えた。

 

「そうと決まれば、お先に」

「フィオレさん!?」

 

 スタンに対して唇に人差し指を当てて見せ、柵のない屋上からひらりと身を投じる。

 雪に覆われた地面が間近に迫るも、シルフィスティアの根回しは完璧だった。

 雪の冷たさを感じることなく着地する。

 その場から離れて天を仰げば、他の面々がバラバラと飛び降りる最中だった。

 

「変だな。なんで冷たくないんだろう?」

「雪にしては、ちょっとおかしい感覚でしたね」

 

 しきりに首を傾げる一部が本格的に騒ぐ前に、シルフィスティアへの礼を済ませて、ウッドロウへと話しかける。

 兵士の目を誤魔化したとはいえ、やはりこのままうろうろしているわけにはいかない。

 

「これからどうするのか、当てはありますか?」

「この先に、洞窟に扮した王城へ繋がる地下通路がある。そこから王城へ行こうと考えているが」

「……どうして初めからそちらを使わなかったのかは後でお尋ねするとして、わかりました」

 

 ウッドロウがそのつもりならばその前に、済ませるべきことは済ませなければならないだろう。

 例えば捕虜の、始末とか。

 

「マリー、お願いがあります」

「ん、なんだ?」

「これから先は、捕虜の監視に集中していただきたいのです」

「え?」

 

 ダリスを指しつつ要求を口にする。

 いまいち意味を理解していないマリーをさておいて、ルーティが口を挟んできた。

 

「ちょっとフィオレ。いきなり何を言い出すのよ」

「これからウッドロウの案内により、王城へ潜入します。洗脳されていただか、何だか理解できませんが、いつ寝返るかもわからない捕虜を連れて行くわけには行きません」

 

 もっと手っ取り早い方法があることはわかっている。

 だが、そんなことを実行すればマリーに斬りかかられても文句は言えない。

 そのため。

 

「始末が一番手早く済みますが、そんなのマリーが嫌でしょう」

「当たり前だ!」

「当たり前でしょ、何考えてるのよ!」

「非道にもほどがありますわ!」

「ひどすぎますぅ!」

 

 予想通り、主に女性陣からの反対が顕著だ。

 男性陣はその勢いに押されて、反対意見が聞こえない。

 予想通りだからまったく構わないが。

 

「だからといって、ただ放流するのも気が進みません。よもやグレバム軍に戻るとも思いませんが……あまり体調がよろしくないでしょう」

 

 どうやら図星らしく、ダリスは小さく息を呑んでいる。

 正当な手段を用いず洗脳を無理やり解いたからなのか、あるいは単純に物理的衝撃の代償か。

 彼は先程から、軽く頭を抑えるような仕草をしていたのだ。

 

「その辺に行き倒れて、そのまま埋もれてくれるならかまいませんが、グレバム軍に再び回収される危険性が非常に高いです。ですから、監視役をマリーに頼もうかと」

「ええと……私はここで、ダリスを見張っていればいいのか?」

「いいえ。監視するにあたって、ハイデルベルグから離れてほしいんです。見つかったらまず間違いなく連れ戻されるでしょうから、慎重に。自宅に閉じ込めるくらいの勢いで」

「……それって」

 

 フィオレの言葉は間違いなく、マリーの戦線離脱を指していた。

 ここで初めて、リオンが否を唱えにかかる。

 

「おい、勝手なことを抜かすな! 原因がなんであれ、そいつは今僕らが監督するべき立場の人間なんだぞ。勝手に釈放なんて、そんな……」

「心配せずとも、私が責任を取りますよ。でなければ適当に言いくるめます。どうせ彼女の発信機は失われている」

 

 神の眼さえ取り戻せれば、もう客員剣士見習いなどという立場に用事はないのだ。むしろ足枷でしかない。

 いずれ不祥事を起こして退任する気でいたが、このことで少しでもケチがつけば幸いである。

 

「それにね。人の恋路にケチをつけると、馬に蹴られてしまうんでしょう?」

「フィオレ……」

「これまで道中、お疲れ様でした。グレバムは必ず、私たちでどうにかします。マリーはどうか、幸せになってください」

 

 否があるか、と一同を見回すも、リオンを除いて反論をしでかす空気を読まない人間はいない。

 

「そうね。そいつの監視は、マリーにしかできないことよ。一生かけて監視してやんなさいな。もう二度と、馬鹿なこと口走らないようにね」

「ルーティ……」

「俺たちに任せてください。グレバムは、必ず倒してみせます」

「スタン……」

 

 仲間たちの激励を受けて、マリーが再び瞳を潤ませる。

 それを見て、ルーティは軽く彼女の肩を叩いた。

 

「ほら、泣かないの。何もかもが終わったら、遊びに行くからさ。それまで元気でね」

「そんなわけです。マリーを不幸にしたら、今度こそ命はないと思いなさい」

「……肝に銘じておこう」

 

 王族に代々伝わる秘密の地下通路の場所を他者に知られるわけにもいかないだろうと、彼らを先に旅立たせる。

 何度も何度も振り返ってはダリスに慰められるマリーを、一同はいつまでも見送っていた。

 

「さて、精々生き延びましょうか。もう一度、彼女たちと会うために」

「だからあんたは、なんでそう後ろ向きなのよ……当たり前でしょ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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