swordian saga   作:佐谷莢

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 ダリルシェイド、セインガルド王城。
 シナリオ的には、ここから第二部スタートですね。
 しかしまあ、始まりません。そういうことです。


第二部は始まらない
第百九夜——孤独な追跡行~腹が減っては戦ができぬ


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、数日のこと。

 セインガルド王の名の下、神の眼が紛失した件にて召集されたソーディアンマスターたちは、ダリルシェイドの城下町を歩いていた。

 

「……そう。マリーは、元気だったのね。安心したわ」

「ダリスさんは寝込んでおられましたが、それでも回復の兆しが見えているそうで。マリーさんは甲斐甲斐しくお世話されていましたわ」

 

 ウッドロウの召集時、寄ったサイリルの街にてヴィンセント宅に訪問した際のことをフィリアより聞かされ。

 ルーティはそこはかとなく安心したような風情を見せた。

 ただ、その穏やかな表情は一瞬にして崩れ去っている。

 

「それにしても、神の眼がなくなっただなんて……城の兵士は何をやっていたのよ!」

「ルーティ君、声を抑えたまえ。そもそも神の眼がなくなったこと事体、この国では伏せられているだろう」

 

 憤慨するルーティをウッドロウがなだめるも、それで怒りが収まるなら誰も苦労はしない。

 一国の王である前に仲間という意識が強いからか、ルーティはそんなウッドロウにくってかかった。

 

「情けないったらありゃしないわ。あのクソガキはともかく、フィオレがいながら、みすみすまた盗られるなんて!」

「そういえば、フィリア。二人はどうしたんだ? 王様から言われて皆を集めたなら、ダリルシェイドへ行ったんだろ」

 

 スタンの最もな言い分に、フィリアはふるふると首を振っている。

 

「いえ……わたくしが神殿でお勤めをしてところ、使者の方が来られてディムロスを渡されたのです。セインガルドは神の眼を紛失した、至急ソーディアンマスターたちを招集していただきたいと」

「使者……?」

「はい。フィオレさんはまだ禁固中かもしれませんけど、陛下の命ならそのお役目はリオンさんに回ってくるものと思ったのです。リオンさんはいかがなされましたかと尋ねたのですが、使者の方はすぐさまお帰りになってしまって……」

 

 ともかくセインガルド王に尋ねればわかることだろうと、一同は一路王城へと目指した。

 しかし、王城へ一歩足を踏み入れて間もなく。

 

「ファンダリア国王陛下に、ソーディアンマスターの方々!? し、しばしお待ちあれ……」

 

 門番は戸惑い、急ぎ伝令を発する。

 王城手前にして待つこと僅か、すぐに一同は謁見の間へ通された。

 

「おかしい。陛下の招集であるなら、我々の訪問は彼らの耳にも入っているはずだが」

「単にあの兵士が新米だっただけじゃない? だって使者とやらは、ディムロスまで持ってきたんでしょ」

 

 ルーティの言葉に、フィリアははっきりと肯定を示している。

 しかし、ここでディムロス本人から気になる事実が取り出された。

 

『うむ……確かにそうだが、私を持ち出したのは兵士ではなかったかもしれん』

「え!?」

『宝物庫内が暗くてよくわからなかったが、鎧の音がまったく聞こえなかったのだ。明るいところに出たその時は、すでに外套を深く着込んでいた』

 

 私服姿にて極秘任務につく兵士がいないわけではないにつき、あまり深く考えていなかったのだという。

 王の命でないとするなら、フィリアの前に現われた使者は何者だというのか。

 一同がいぶかしむ間に、伝令の兵士の案内にて謁見の間へとたどり着く。

 玉座のセインガルド王はといえば、威風堂々たる雰囲気がどこか薄れ、何か焦っている風情も感じられた。

 

「陛下に置かれましては……」

「そなたらの訪問は……神の眼紛失の件についてか?」

 

 ウッドロウがまず挨拶をしようとして、まずセインガルド王が口を開く。

 招いた側であるはずの王の一言に、一同は色めき立った。

 

「陛下がわたくしのもとへ、使者を派遣されたのではないのですか!?」

「じゃあ、フィリアのところに来たのって誰なのよ?」

 

 事情の飲み込めないセインガルド王に、ウッドロウが今しがた聞いたばかりの顛末を話す。

 王は、まるで狐につままれたような面持ちを浮かべた。

 

「神の眼が紛失したことは、紛れもない事実だ。しかし私は、ストレイライズ神殿へ使者など派遣はしておらぬ」

「でも! 現にディムロスがここに……」

「なっ! それは、ソーディアン・ディムロス!?」

「守衛は何をしておったのだ! 王城の宝物庫に、盗人の侵入を許すなどと……!」

 

 スタンがディムロスを見せたことで、セインガルド王並びに側近たちは初めて宝物庫からディムロスが紛失していたことを知る。

 そのことで、ひと悶着が起ころうとしていた、その時のこと。

 にわかに廊下が騒がしくなったかと思うと、突如謁見の間が荒々しく開かれた。

 

「脱獄だ! 一同、召集せよ……うぐっ」

「……もう十日は経ったでしょう。脱獄じゃなくて刑期終了であるはずです」

 

 一人を追って飛び込んできた兵士が、当身であっけなくその場に伏す。

 当身をした人間は、小さく息をついて謁見の間へと視線をやった。

 

「驚かせてごめんなさい、皆。それは私が仕掛けたことです」

「フィ……フィオレさん!?」

 

 十日ぶりのフィオレは、なぜかひどく衰弱した様子だった。

 眼帯はそのままだが、その額には怪我でもしたかのように包帯が巻かれている。

 

「時間がないので手短に話しますが、神の眼を持ち出した実行犯はリオンです。裏でヒューゴが糸を引いています」

「ええっ!」

 

 まだ事情も知らされていない一同に、その言葉は絶大すぎるインパクトを与えた。

 謁見の間にいる誰もが沈黙する中、フィオレは淡々と言葉を紡いでいる。

 

「守護者の力を使い、ここ数日で彼らの潜伏先を掴みました。クレスタより北の孤島、表向きはすでに閉鎖された廃工場の深部に、彼らは潜伏しています……スタン、これを」

 

 尚も沈黙が漂う中、フィオレは携えていたあるものをスタンへと放り投げた。

 彼が受け取ったのは、神の眼の探索行において、散々彼らに電撃を見舞ったあの額冠操作盤である。

 操作盤に張りつけられたモニタには、ひとつの点だけが明滅していた。

 戸惑ったようにスタンがフィオレを見るも、彼は言葉もなく唖然としている。

 包帯を外したフィオレの額に、据えられた額冠(ティアラ)を見て。

 

「光っている赤い点が、これです。先行するので、早めに来てくださいね。事情の詳細は、陛下が教えてくださるはずです」

 

 再会の挨拶も何もなく。フィオレはそのままきびすを返し、謁見の間を飛び出した。

 再び廊下から騒乱の気配が伝わってくるも、謁見の間は水を打ったかのように静寂に包まれている。

 やがて口を開いたのは、人一倍早く冷静さを取り戻したウッドロウであった。

 

「……説明していただきましょう。一体何が、起こったのかを」

「う……うむ。事の起こりは、地下に安置してあった神の眼が何者かによって持ち出されたのだ」

「何者かって、わからなかったんですか!?」

 

 王城とはかくも堅固な警護が欠かされない場所というイメージによるものだろう。

 スタンの心底意外そうな質問に、王は頭が痛そうに答えた。

 

「確証こそないが、この騒動に前後して行方がわからなくなった者がいる。それが」

「リオンさんと、ヒューゴさんなのですね」

 

 フィオレの話した内容と、王の説明は一致する。

 二度と表舞台に出さないと明言しておきながら此度の失態に、ウッドロウが婉曲的表現を用いて王をなじるも、それでどうにかなる問題ではない。

 

「ヒューゴを過信しすぎていたようだ。それに対しての責苦はいくらでも受けよう。だが、今はそうも言っておれん状況にある」

「そうよウッドロウ。王様責めてる場合じゃないわ!」

「一刻も早く二人を発見してもらい、そして神の眼を取り戻してもらいたい」

 

 セインガルド王の依頼に対し、一同は一様に肯定を示している。

 これなら早々動くだろうと、フィオレは荷物整理の手を早めた。

 現在フィオレは、ジルクリスト邸の私室にて旅支度の真っ最中である。

 ジルクリスト邸には行方不明となった総帥の行方を探るべく、多くの従業員が訪れているものの、侵入そのものは容易だった。

 それまでの牢屋暮らしのせいで、衛生面を主とする様々な荷支度はまったく整っていない。

 あまりに先行してしまうのもどうかと考えたため、休憩を兼ねて私室に潜伏しているのだが……どうやらもう少し、休憩時間がもらえるらしい。

 シルフィスティアの視界ではなく、空蝉の蝶の視界から、謁見の間でのやりとりが再び伝わってきた。

 

「神の眼が奪われたとわかって、今の今まで何をしていらしたのですか」

「我々とて指をくわえて事態を看過していたわけではない。至急、フィオレシアの禁固を解き、そなたらの召集を命じようとしたのだが……」

 

 どうやらウッドロウが話を蒸し返したらしい。

 彼の追及に、セインガルド王は実に言い訳がましく言葉を続けた。

 

「飛行竜及び神の眼が紛失した直後、あやつは自殺未遂を起こしたのだ」

「自殺未遂!?」

「提供する食料摂取を一切放棄し、呼びかけてもまるで無視、死んだように眠っている、との報告が上がった。それ以前に、彼女の収監した牢に看守三名が入り込んだ、という事件が関係しているのかと思われたが……」

 

 自殺未遂云々よりも、ウッドロウがその事件について深く追求を始めてしまっている。

 これは長くなりそうだが、消費した日数の関係上、あまりのたのたしているわけにはいかないと、フィオレは立ち上がった。

 

「彼女を収監していた牢に、侵入……!?」

「囚人のいる檻の中に看守が入り込んで……まさか、囚人虐待!?」

「フィオレシアは、性格はともかくとして見目が良いのでな。狭い牢屋内にて身動きが取れぬことをいいことに、良からぬことを考えたのだろう」

 

 詳細を話されて、今度はフィリアが憤慨する。

 王はすぐに、フィオレが武器所持を許されていたため被害はなかった旨を伝えるも、神の眼といい監獄内といい警備が薄すぎるとウッドロウはやはり遠まわしな苦言を放っていた。

 神の眼は確かにそうかもしれないが、監獄は別に警護が薄くてもいい気がする。

 一同がやっと謁見の間を離れた頃、フィオレはすでにダリルシェイドから出ていた。

 ここから海中移動──アクアリムスに移動を頼むよりは、徒歩でクレスタを目指した方が消耗は少ない。

 ダリルシェイド城下町の屋台で手に入れた、焼きたてのイカ焼きとチーズのとろけるホットサンドという数日ぶりの食事を摂りつつ、フィオレはクレスタへと赴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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