リオンとの約束は、第六十一夜で交わしたもの。
タイトルは、第九十夜に関連したジョニー宛のメッセージ。
ルーティはここでようやく、リオンは自分の弟であること、ヒューゴが自分の父親であることを明かされます。
アトワイトがルーティに事実を語っていたら、また何か違っていたのでしょうか。
とはいえこの時点で、アトワイトがどれだけ事の次第を知っていたのかは、彼女のみぞ知ることですが。
もしも、何かが違っていたとしたら。
彼らは、己の運命を、打破することができたのでしょうか。
そんな可能性も、彼の最期の言葉すらも、そして『swordian saga』も。
押し流されて、お仕舞いです。
遠距離攻撃──晶術対策か、フィオレの手当てをさせないためか、あるいは何の他意もないことなのか。
先へ続く階段脇に倒れたフィオレのすぐ傍に、リオンは立っている。
対峙する一同はすぐにでも仕掛けられるよう固まっているが、誰一人として晶術を使おうとはしない。
ウッドロウでさえも、流れ矢を恐れてか、弓は背中に背負ったままだ。
そこへ。
「待って、リオンさん。あなたこそヒューゴに利用されているのではなくて?」
「その通りだ」
どうにか話し合いで解決しようと口を挟んだフィリアの問いに対して、彼は揺るぎなき肯定を示した。
唖然とする一同を前に、彼はただ淡々と言葉を紡いでいく。
「ヒューゴにとっては僕でさえ、使い捨ての駒のひとつに過ぎない」
「そんな……」
「信じらんない。そこまでわかっていて、なんであんな奴の味方につく訳? 馬鹿じゃないの」
途端に黙り込むリオンに、わかっていてやっているわけではないだろうが、ルーティはいつもの調子で噛み付いている。
しかし、それはすぐに黙らせられることとなった。
「……捨てられたお前には、わかるまい。大切な人を守るために、あんな奴なんかに媚をへつらう人間の気持ちなどな!」
「なんですって!」
その表情に怒りを浮かべるルーティに、ウッドロウは何かの比喩だとでも思ったのだろうか。挑発に乗るなといさめている。
しかし、孤児であることを盛大にバラされたルーティは、つかつかとリオンへ歩み寄った。
「フィオレをこんな目に合わせて、大切な人を守るですって? そんなに守ってやりたきゃその人と手と手を取り合って、どっかに消えちゃいなさいよっ!」
「お前がヒスを起こす時は、図星をつかれて耳が痛い時……か。捨てられたことをバラされて、お姉さまは御立腹のようだな」
「……はぁ? 何のことよ」
奇妙な物言いに、ルーティの気勢はものの見事に殺がれている。
その隙を縫うように、リオンは彼の、知りうる限りの事実を告げた。
「当初ヒューゴに殺害を命じられたものの、母親に託されたアトワイトと共にクレスタの孤児院に預けられたのがお前なんだよ、ルーティ」
「!?」
おそらくは独力だろう、よくぞここまで調べ上げたものだ。
このような形で事実を伝えられ、ルーティは困惑を隠さず言葉を募った。
「何を勝手なこと、そんなことあんたが知ってるわけが……」
「僕はヒューゴの息子だ。母クリス・カトレットの間にできた最初の娘。それがお前なんだよ、ルーティ!」
「!?」
ルーティが、ヒューゴの娘であること。
リオンは、ルーティの弟であること。
判明した事実を前に、今度こそルーティは言葉をなくしている。
やがてその目は、弱々しくアトワイトに向けられた。
「あ、アトワイト……」
『でっ、でたらめを言わないで! ルーティ、耳を貸しちゃ駄目よ!』
「ルーティには話していなかったか。薄情だな」
アトワイトはどうにか否定しているものの、声音からしてそれが事実であることは、誰の耳にも明らかだった。
シャルティエを携えたままのリオンが、ルーティに歩み寄る。
気圧されたように一歩、後退ったルーティを見て、リオンはやはり淡々と言った。
「さて、優しいお姉さん……それでも僕を、殺せるかい?」
「…………」
蒼白になった顔色で、ただリオンを見据えるしかできないルーティを、リオンもまた見返す。
もはや戦うどころではないルーティをその背にかばったのは、すでにディムロスを抜いたスタンだった。
「やめろリオン! それ以上……それ以上、何も言うな!」
「騎士気取りか。格好いいね」
鼻で嘲笑い、スタンの怒りを煽り。
シャルティエを構えたリオンの気を引いたのは、口を挟むどころではなかったフィリアだった。
「リオンさん! その挑発、フィオレさんの手法を真似たものでしょう! これまでにもあなたに様々なものを授けたフィオレさんを傷つけて、お姉さまであるルーティさんさえも傷つけて! あなたは何を望むと言うのですか!」
「……よくわかっているじゃないか」
すでに、道中を共にした一同を敵として認識しているのだろう。
冷徹な目でフィリアを見やり、そして彼はフィオレを見下ろした。
「だがカルバレイス神殿で、こいつも言っていただろう。自分を守るために相手を殺す。それは誰かを守るために誰かを殺すことと、一体何が違うんだ?」
「……!」
リオンがフィリアを絶句させている隙に、スタンは無理やりルーティを移動させている。
リオンが動いたことをいいことに、彼はフィオレのそばへとやってきた。
彼女はただされるがまま、リオンに目を張りつけたまま沈黙している。
「俺たちのことはいいから、フィオレさんを頼む」
『あ……』
何かを言いかけるアトワイトの言葉も聞かず、スタンは再び一同のもとへと戻った。
呆けていたルーティが、血塗れのフィオレを前に正気を取り戻す。
しかし、その後のアトワイトからの言葉を聞いて、再び硬直せざるをえなかった。
そんな中、話し合いで解決する余地はどんどんなくなっていく。
「僕は殺せる。大切な人を守るためなら、たとえ親でも兄弟でも、だ!」
「リオン! 俺が相手だ!」
一同の中で最も厄介だと思ったのが、クレメンテによる晶術だと考えたのだろう。
まずフィリアに対して剣を振るうも、それはスタンによって阻まれた。
「ス、スタンさん……」
「もしもの時は私がフォローに回ろう。君は二人のところへ」
ウッドロウに促され、フィリアもまた二人の下へ駆け寄る。
しかし、予想とは大分違うその状態に彼女は目をむいた。
「ルーティさん、どうして晶術をお使いにならないのです!? お気持ちは察しますが、早くフィオレさんの治療を「……ないのよ」
アトワイトを握りしめたまま、ルーティが掠れた声を発する。
尋ね返したフィリアが聞いたのは、これまで味わったこともない絶望だった。
「効かないの! 効果がないのよ! まだフィオレは生きてるのに、治癒晶術が反応しないくらい衰弱してる! もう、手遅れだって、アトワイトは……!」
「そ、そんな!」
『……納得してちょうだい。晶術は奇跡じゃない。人の体に働きかけて傷を癒す以上、その体が反応してくれないのでは手の施しようがないの……』
破れた袋に空気を詰め込めないように、穴が空いた花瓶に水を注げないように。
もはや二人にできることなど、氷のように冷たくなっていくその手を握るくらいだった。
フィリアが左手を取ろうとして、僅かに動いたそれに逃げられる。
「フィ、フィオレさん?」
「……その声、フィリアですか。今、何がどうなっています?」
目蓋が開くも、その瞳に光はない。
苦しげな息の下、しゃべるなと抑制されても同じ質問を繰り返すフィオレに、フィリアは剣戟を奏でる二人を見た。
「今は、スタンさんがリオンさんと……」
「交戦中、ですか。ところで、ルーティはいますか?」
「ちょっと、あたしならここに……」
伸ばされた手が、ルーティに目がけて伸びるもただひたすら空気を掴んでいる。
眼が見えているならありえないその仕草に、ルーティは自分に伸ばされた手を取った。
「……あたしなら、ここにいるわよ」
「それは失礼。この手を、アトワイトのコアクリスタルに触れさせてほしいんです」
その言葉に、ルーティは何故かと尋ね返すも、違う手がフィオレの手をアトワイトへと誘導させる。
ルーティが驚いたような、そんな気配が伝わってきた。
「フィリア?」
「晶術が駄目ならば、隻眼の歌姫が使う余韻の奇跡がありますわ! 守護者の力を借りての、あの歌なら──!」
「命よ、健やかであれ。心安らかな癒しを、あるべき姿を」
譜歌を使うには、最低でも喉が無事でなければいけない。
以前は腹式呼吸ができないから、と弱音を吐いたも、意識がはっきりしている今を逃して好機はない。
ハラワタに溜まっているであろう血液が、時折喉元までせり上がってくる。
それを幾度も飲み下し譜歌を奏でれば、徐々に遠のいていた意識に歯止めがかかった。
が。一度見えた死神は、獲物を逃す気などさらさらないらしい。
「フィオレさん! ああ、よかっ──「ごめんなさい、フィリア。先にお別れを告げておきます。ルーティも、元気で」
譜歌をもってしても、一度失われた機能は二度と回復しなかった。
痛覚こそ大分和らいでいるが、失血は止まらず視界も黒く塗りつぶされたまま。
多少だが、動くことはできる。ただし、僅かに死期が延びた程度だろう。
自分の体のこと、それくらいはわかっていた。
ただ、叶うなら彼に勝利を。
ふぅっと息をつき。フィオレは、可能な限りの銅鑼声を張り上げた。
「スタン! その馬鹿に、あなたの正義を示してください!」
「フィオレさん……! はい!」
歯を食いしばって起き上がり、剣戟の聞こえる方面へ顔を向ける。
いくらなんでも戦闘中に余所見はしないだろうとの予想の元、声を張り上げれば、彼の力強い返事がたしかに聞こえた。
直後。
「隙あり! 獅子戦吼!」
「ぐはっ……!」
目論見通り、フィオレの声はリオンの集中力を乱したのだろう。
スタンによる、フィオレから「盗んだ」技に細い体が壁へと激突した。
今しがたの交戦による細かな負傷と、それまでフィオレと戦っていた疲労が噴出したのだろう。
リオンは即座に立ち上がるも、足元がふらついている。
無論、スタンもまた生傷だらけなのだが。
「まだだ……まだ、終わりじゃない」
シャルティエを振りかざしての牽制を続けながら、リオンは先へ進む唯一の道たる、階段を身体で塞いだ。
「もうよせ、リオン」
「後を追わせるわけには、いかないんだ……」
弱々しいリオンの声音に、スタンが戸惑っていることがはっきりと伝わってくる。
階段を一歩一歩昇る、その音を聞きながらフィオレはその場にうずくまった。
「フィオレさん!?」
スタンの声が終わるよりも早く。洞窟全体が、震えだす。
誰もが恐れおののく中で、リオンの嘲笑だけが小さく響いた。
「くっくっく、始まったな。僕の勝ちだ……」
「どういう意味だ」
「終末の時計は動き出した。もう誰にも止められない」
これはおそらく、ヒューゴの計画が本格的に始動した、という意味なのだろうか。
階段上でせせら笑うリオンをさておき、ソーディアン達がいち早くマスター達に危機を知らせる。
『いかん、崩れるぞ』
『逃げるんじゃ!』
「……スタン」
それまで右手と左手をごそごそ動かしていたフィオレが、やっと目当てのものを見つけてスタンを呼ぶ。
フィオレがほとんど手探りで行っていたこと。それは紫電の刀身を鞘に収め、鞘を剣帯から外すことだった。
それまで一切しなかったのに、水の気配が……海水の匂いが強く感じられる。
ここか崩れるより前に、他ならぬ彼へ頼みがあったのだ。
「どうしたんですか。立てないなら俺が背負って……」
「……ジョニーに渡してほしいんです。これだけは返すと、約束してしまいましたから」
スタンの鎧の一部に触れ、一方的に紫電を押し付ける。
このためだけに、フィオレは今の今までどうにか呼吸を続けてきたのだが。
当然のこと、彼は嫌がった。
「こんな時に何言ってるんですか! 嫌ですよ俺は、そんなの自分で……「──二人とも、元気で」
手探りでフィリアの肩を掴んだフィオレが、彼女もろとも思い切り二人を突き飛ばす。
直後。
大小様々な岩塊が彼女に降り注ぎ、あっという間にその姿がなくなった。
その存在の残滓は、スタンの手にある紫電のみ。
「え?」
フィオレが、岩礫に潰された。
それを彼が理解するより早く。
崩れた天井から、そして階段上から、ありとあらゆる場所から、濁流がなだれ込んだ。
海水は濁流として、ありとあらゆるものを押し流していく。
「ふふ……さよなら、マリアン……」
スタン「俺達の冒険は、これからだ!」
【D】END~リオンと一緒
はい。
何処からどう見ても立派なBadエンドです。
ルート「D」はdieの「D」
「A」「B」「C」ルートは存在しません。
この後スタン達は、二人の死を乗り越えて。無事ヒューゴ(ガワ部分)に制裁を下し、神の眼を破壊してくれます。
この後の物語は、原作同様進行されることでしょう。
そして、18年後へ……
そんなわけでして。
フィオレを主人公とする『swordian saga』主人公死亡により、これにて終了となります。
長きに渡るご愛読、ありがとうございました。
莢の次回作をよろしくお願いします。
※あとがき
なんだなんだこの不完全燃焼っぷり。
でもこうしないと、デスティニー2にうまく繋げられないのですよね。
デスティニー全編冒険してから、フィオレには18年程この世界で暮らしてもらって、それからデスティニー2に参戦……ってーのも考えましたよ。
でもね。
いや無理だろ。
フィオレ今27歳で、18年後は45歳なのに?
16~20代前半の若者達と冒険するには、きびしいお年頃。
歴代テイルズでもこのくらいの人達がいないわけではないけれど、それでも事情が違いすぎる。
そもそも、フィオレだったら神の眼が破壊される直前にこっそり「おうちかえして!(意訳)」で、この世界にはもうイナス。きっとイナス。
デスティニー2、フィオレ不在で始まってしまう……途中参加の展開も考えましたが、なんだかなあ。
そんなわけで、このような結末と相成りました。
賛否あるかもしれませんし、無いかもしれませんが、受け止めて前へ進みましょう。
来月より新シリーズ『swordian saga second』始まります!(宣伝)
よろしければ、お付き合いくださいませ!